** 注意事項 **
18禁です…が、あまり過激な表現は無いかも。
でもやさしいエロがあります。ちゅーい。
** 備考 **
1.前半はややおざなりです。
後半を書きたくて作ったような回なので。
2.試験的にキャラクターの台詞を
「セリフ」
から
名前:セリフ。
に変えています。故に会話メイン。
これだと誰が喋ってるか一発でわかる。
慣れない方には読みにくいと思いますが、その辺の感想も頂けたら幸いです。
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〜 魔王クラナ 〜
第2話 「魔王との生活」
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*****
朝
*****
ダイン:ふん…! ふん…!
アークシード王国が滅び、ダインが魔王クラナの下に来てから今日で三日。
ダインは玉座の横のテーブルの上でストレッチをしていた。
その様子を呆れた様に見下ろすクラナ。
クラナ:あれほどの重傷をたった3日で完治させるとは…。お前、本当に人間か?
ダイン:俺もッ…わかんないよッ…ふんッ…なんか…お前にッ…拾ってッ……ふぅ。
そう、お前に拾ってもらったときからさ傷の治りが凄い早い気がするんだ。
スクワットを止めて額の汗を拭うダインにクラナは顎に手を当てながら言う。
クラナ:ふむ…。もしかするとあれか…。お前が寝ていたとき定期的にエリクサに漬けていたのが効いているのかも知れんな。
ダイン:エリクサ?
クラナ:魔族に伝わる薬だ。お前が目を覚ましたとき横に置いてあっただろう。
あれは高密度の魔力を圧縮して作る霊薬で、どんな傷も癒す万能の薬なのだ。
ダイン:へぇ、そんな凄いものがあるのか。
ほー、と感心するダインにクラナはかぶりを振る。
クラナ:しかし…、どんな傷を癒すといってもその治癒速度は別の方法を使ったときと同程度。
つまり、これ一つあればとりあえずどんな傷でも大丈夫。ただし、早く治したいのなら専用の薬を使った方がよいというものだ。
ダイン:万能だけど万能じゃないのか…。…ん? でも俺はその薬を使ったんだろ? もの凄い回復力だぜ。
クラナ:エリクサは体内に魔力を入れることで治療する薬だ。
おそらく、魔族はもともと高い魔力を持っているから、エリクサを使って魔力を取り込んでも高い効果は得られないのだろう。
だが人間は持っている魔力が少ないからエリクサの効力を大きく受けるのではないか。
ダイン:なるほど…。ってことは人間にとっては本当の万能の薬になるんじゃないか!?
歓声を上げるダイン。
そのダインを諌めるように、クラナはニヤリと笑った。
クラナ:確かにそうかも知れんな。エリクサを使用した人間がその膨大な魔力に取り込まれて、魔物に変わらなければ、な。
ダイン:げっ…! そんな事があるのか!?
クラナ:当然だ。魔力とは負の力。その力に抗えないものは取り込まれ自我を失うのみ。
それは魔族だけが扱うことを許された力なのだからな。
ダイン:そうか…。せっかくの万能の薬なのに…。
…………ん? 待て。お前、俺を治療するときにそれを使ったんだろ? 俺が魔物化したらどうするんだ!!
クラナ:その時は叩き潰すだけだ。虫けらの一匹、片手で事足りる。
ダイン:この…! …あれ? でも俺、魔物化してないぞ?
クラナ:魔力に取り込まれないだけの精神力を持っていたという事だ。
それにしても長時間漬けていたのに一部分も魔物化していないとは…流石だな。私が見込んだだけの事はある。
ダイン:ありがと。うーん…! ずっと動けなかったからな。身体がなまってるよ。
伸びをしたダインは剣を抜くと素振りを始めた。
それを見たクラナが不思議そうに問う。
クラナ:? 何故、剣を振る?
ダイン:へ?
クラナ:もうお前は王国の騎士ではない。剣を振る理由など無いだろう?
頬杖を付きながらきょとんとした顔で見下ろすクラナ。
その問いに、ダインは頭を掻き苦笑いをしながら答えた。
ダイン:まぁそうだけど…。でも俺、ずっと騎士だったからさ、剣を振ることしか出来ないんだ。
クラナ:生まれたときからずっと騎士だったのか?
ダイン:ハハ、流石にそれはないよ。でも子どもの頃から騎士に憧れて修行してきたから同じ様なもんかな。
強くなりたかったんだ。皆を守れるくらいに。父さんと母さんが夜盗に襲われて死んでから、もっと強くそう思ったよ。
クラナ:親を亡くしていたのか…。
ダイン:ずっと昔だけどね。だから俺は剣を振るんだ。守りたいから。…結局、守れなかったけど…。
ハァ… ダインはため息を漏らした。
そんなダインにクラナは優しく声をかけた。
クラナ:そんな顔をするな。辛いだろうが、人間の敵わない存在など無数に存在する。
お前が剣を振るうのが無駄とは言わんがそればかりはどうしようもないのだ。
ダイン:わかってるさ…。でも…それでも俺は強くなりたいんだ。
クラナ:ダイン…。…そうか。そうまで強くなりたいと願うなら私も一肌脱いでやるとするか。
ダイン:え?
首を傾げるダインの前に巨大な人差し指が差し出されてきた。
クラナ:さぁ、好きなだけ斬りつけるがいい。
ダイン:ええ!? ち、ちょっとそれは…。
クラナ:どうした?
ダイン:…俺はもうお前に刃を向けたくないよ…。
クラナ:くくく…気持ちは嬉しいがそんな言葉は私に一筋でも傷を付けてから言うんだな。
ダイン:ぐ…。
クラナ:さぁ構えろ、ダイン。
暫く躊躇していたダインだが、やがてその巨大な指を見据えると柄を握りなおしそれに斬りかかって行った。
ダイン:ハアアアアアッ!
振り下ろされる剣。
ギィン!
だが剣は指に触れるとかつてと同じ様に跳ね返された。
ダイン:ぐぅ…!
反動で体勢を崩すダイン。
そしてその巨大な指が動きダインを突き飛ばす。
ダイン:うわッ!
クラナ:誰が反撃せんと言った。そうでなければ修行にはならんだろう。
突き飛ばされうずくまるダインに再び指が迫る。
後ろはテーブルの断崖。食らえば転落だ。
ダイン:なるほど…そういう修行か。
ダインは跳ねる様に身体を起こし指の突進を避ける。
構えなおした剣でもう一度指を斬り付けた。
ガィン!
もちろん弾かれる。
だがそれでいい。今はそれしか出来ない。
転進してきた指の攻撃を避け三度斬り付ける。
何度も何度も避けては斬り、斬っては避ける。
例え傷一つ付けられなくとも…剣腕は上がる。
これは修行だ。
惨めな気持ちになんかなるんじゃない。
当たり前の差。圧倒的な差。
指先ひとつに立ち向かう自分はとても小さい。
もしもこの光景を見ている者がいたら、魔王に挑むなんて愚かだと思うだろう。
でも…そうだな、その通りだ。
こんな小さな自分があんなに大きな魔王に挑むなんて正気の沙汰じゃない。
クラナがその気になれば、俺なんてあっという間に地面に押し付けられてペシャンコだ。
ちらり。戦いの隙間にクラナの顔を覗き見れば、クラナは頬杖を付いて笑いながら俺の相手をしている。
あいつめ、遊んでるな。
思わず苦笑いをするダイン。
そう、魔王にとっては人間を指先ひとつに必死に抗わせるのもほんのお遊び。
俺が真剣に命を懸けたとしてもそれはかわらない。
埋まる事は無い差なのか。
でも、俺は強くなりたい。
クラナを、守るためにも…。
その時だった。
クラナ:隙が出来たぞ。それ。
ゴスッ!
深く思考しすぎたのが仇になったのか、ダインは指の突進の直撃を受けた。
ダイン:う…!
テーブルの上を滑るダイン。
その端が迫る。
このままでは…落ちる。
クラナが空いてる方の手をテーブルの下に持ってきてくれたが、それでは意味が無い。
この程度の事を自分で解決出来ないのでは修行の意味が無いのだ。
ダインは滑りながらも体勢を立て直す。
そして身体がテーブルから飛び出す直前、テーブルの淵に剣を突きたてた。
ザクッ!
クラナ:!?
その剣を支点に身体を回転させテーブルの上に舞い戻るダイン。
それはバンジージャンプのゴムが伸びきったあと元に戻るよう、
紐の付いた玉が遠心力をうけながらもぐるりと勢い良く戻ってくるようであった。
遠心力に負けた剣がテーブルから抜き放たれると、くるりと身体を1回転させてなんとかその淵に着地する。
ダイン:ふぅ…危なかった。
ダインは額の汗を拭った。
そんなダインにクラナは珍しく驚愕した表情で話しかける。
クラナ:ダイン…今の動きは…。
ダイン:ん? ああ、俺も出来るとは思わなかったけど予想よりもずっと身体が軽くてさ。
どうしたんだろ、鈍ってると思ったんだけどな。
不思議そうに身体を見回すダイン。
そんなダインをクラナはじっと見据えながら考える。
クラナ:(もともと腕のいいダインだが今の動きは予想外だ。
剣が抜けテーブルの外に投げ出されてから戻ってくるまでのあの動き…。
吹っ飛ばされながらも空中でそれとは逆方向に飛ぶなどと、常人の域ではないぞ。いったい何が…)
ダイン:…ラナ…クラナってば。
ハッ と顔を上げるクラナ。
見ればダインが首をかしげながら自分を見上げていた。
ダイン:どうしたクラナ?
クラナ:…いや、素晴らしい動きだと思ってな。
ダイン:ああ、俺も驚いてるよ。なんか力が沸いてくるような気がするし。
なんなんだろうなー。
再び身体を見回すダインをクラナは冷静に観察していた。
クラナ:(力が沸きあがってくる…? もしや…)
と、クラナはダインの身体を注視した。
すると本来なら人間には在りえないはずの力が見えた。
それは…。
ダイン:く、クラナ? どうしたそんな怖い顔して…。
クラナ:ダイン。お前の中に魔力が見える。
ダイン:へ…?
クラナ:恐らくはエリクサの副作用か。膨大な魔力がお前の身体を変化させているようだ。先程の動きも、それの所為なのだろう。
ダイン:な、なにぃい!? じゃあ俺は魔物化しちまうのか!?
クラナ:そうではないと思うが…。とにかく今のお前は内に取り込んだ魔力の所為で常人離れした身体能力を得ている。
ダイン:そ、そうなのか…。…よし。
グッと脚に力をこめたダインは思い切りジャンプした。
ダインの身体はなんと2メートル程も飛び上がった。
ダイン:す、すごい! …ってこれだけ?
きょとんとした顔で尋ねるダインに、クラナは笑うのを堪えながら答えた。
クラナ:くくく…、まぁ常人離れと言っても所詮は人間だからな。そんなものだろう。
ダイン:なんだよ…。期待したのに…。
がっくりと肩を落とし落ち込むダイン。
それを見てますます笑いがこみ上げるクラナだった。
クラナ:ハハハ! そこまで期待されてもな。
ダイン:な、なんだよ! 笑うこと無いだろ!
クラナ:くく…! まるで買ってもらったおもちゃが期待したものと違った子どもみたいだぞ、ダイン。
ダイン:そ、そんな風に言うな! 泣きたくなるだろ!
クラナ:ハハハハ! アーッハッハッハッハ!
薄暗い部屋に響き渡る魔王の声は、とても楽しそうだった。
*****
昼
*****
ダインはテーブルの上で剣を振り、クラナはそれを頬杖を付いて見つめる。
剣の修行を始めたのは今日からだが、クラナが俺を見下ろすのはこの3日間毎日の事だった。
ダインは剣を振る手を止め、クラナに問う。
ダイン:なぁクラナ、ずっと俺を見てて楽しいのか?
クラナ:ああ、お前の一挙一動を見るだけで十分楽しめる。
ダイン:そっか。そうならいいんだけど、自分のやりたいことやっていいんだぞ?
そりゃお前がいなくなったら俺はここから動けないけどさ。
クラナ:私が見たくて見ているのだ。気を回す必要はない。それとも私がいては邪魔か?
ダイン:そんなことはないよ。でも自分の趣味とか…やりたいこととかないのかと思ってさ。
クラナ:特に趣味は無いな。やりたいことも、お前を見ている以外はこれと言って別に無い。
ダイン:趣味も無いって…今までいったいどうやって過ごしてきたんだ?
クラナ:大半は昼寝だな。起きていてもやることは無いから飯を食べたら寝る。それだけだ。
ダイン:い、今までずっとか!?
クラナ:そうだ。
なんとも無さ気に答えるクラナ。
何千年と言う時間をただ寝て過ごす。
それは、怠惰とかそういう問題では無く、恐ろしく孤独な生活だ。
クラナ:ああそう、ここに城を構える前はエリーゼが来て一緒に茶を飲んだりしたな。
あとも、数百年おきに他の魔王に会ったり、…そんなところか。
ダイン:そ、それは、凄く寂しいな…。
クラナ:くくく…まったくだ。今まで何かした記憶などほとんど無いな。だからこの城に思い出など無い。お前が来たのが一番の珍事だ。
ダイン:この城って…確か建てて300年って言ってたよな。
クラナは笑っているがダインは笑うことが出来なかった。
300年。人間には生きることの出来ない長い年月だ。
つまり人が生まれてから死ぬまでの間、ずっとひとりで過ごさねばならないに等しい。
普通の人間は、いったいどの程度孤独で過ごせるのだろう。
一週間ですら長すぎる。
自分以外の声も聞くことが出来ず。顔も身体も手も見ることが出来ない。
普段、人と積極的に接していた人間をいきなり孤独の空間に放り込めばその地獄にあっという間に発狂してしまうのではないか。
ダインは、昔、王宮の独房に入れられた人間が発狂した後自害したのを思い出した。
人間は孤独に耐えられない。ましてや300年などと…。
ダインの気持ちはどんどん落ち込んでいった。
その時クラナに声をかけられた。
クラナ:どうしたダイン。
ダイン:…いや、孤独って辛いよなって思って…。
クラナ:しょうがない奴め。お前が落ち込んでどうする。
ダイン:でも…。
と、ダインの目の前に差し出されたのは巨大な指だった。
その指先はダインの頭を優しく撫でる。
クラナ:別に辛くなどはないさ。一人とは言え、望めばいくらでも他人に接する事は出来た。
それをしなかったのは私が一人でも良いと思っていたからだ。一人であれば、誰にも昼寝の邪魔をされないだろう?
ニヤリと笑うクラナ。
その理由は冗談だったのかそれとも本気だったのか。
クラナ:それに今はお前がいる。お前を見ているのは楽しいぞ。これまでの無駄な時間を差し引いてつりが来るほどにな。
ダイン:そうなのか…。
クラナ:だから落ち込むな。それ、落ち込んでる暇があるのならさっさと剣を振れ。そして私を楽しませろ。
コツンとダインを小突くクラナの指。
ダインは盛大に尻餅を着いた。
ダイン:あいた! ハハ…まったく、俺の剣は見世物じゃないんだけどな。
頭を掻きながら立ち上がったダインは修行を再開した。
それをクラナは笑顔でジッと見つめていた。
*******
夜
*******
もういい夜分なのだろう。
玉座の間には窓が無いのでそれを確認することは出来ないが、肌に感じる空気とかすかに聞こえる動物の鳴き声がそうであると伝えてくる。
夕食を食べ終えたダイン達は食後の談笑をしていた。
と、クラナが立ち上がった。
クラナ:さて、もういい時分だな。風呂にでも入ろうか。
ダイン:お風呂? そうだな、じゃあお前が出たら教えてくれ。俺は後に入るよ。
クラナ:何を言っている。一緒に入るぞ。
ダイン:え!?
驚愕。そして赤面するダイン。
ダイン:い、いいい、一緒にって…。
クラナ:だから一緒に入るのだ。お前一人では桶に水を溜めることも湯船から出ることも出来んだろう。
ダイン:で、でも! 俺は男でお前は女なわけで…。
クラナ:なら私は魔王でお前は人間なわけだが?
あたふたと手を振り回すダインに笑いながら言い返すクラナ。
ダイン:い、いや…じ、じゃあいいよ! 俺は入らないから!
クラナ:お前、自分がどれだけ風呂に入っていないかわかっているか?
ダイン:え…?
うーん、と首をひねるダイン。
王宮を出てここにくるまで20日と少し。
気を失った俺が目を覚ますまでも20日。
そこから1日たって処刑されそうになって、傷を癒すために3日…。
ダイン:げっ…!
この世界、風呂は毎日入るものではないが、それでも1月半入らないのは流石にやばい。
ダインは無性に身体が洗いたくなった。
クラナ:自分がいかに汚れているかわかったか? わかったらおとなしく入ることだ。
ダイン:…ああ。いや、でも…。
クラナ:往生際が悪いぞ。
ひょいとつままれたダイン。
暴れるダインはそのままクラナに連れて行かれた。
*****
カポーン
とりあえず風呂場ならどこでも鳴る音。
諦めたダインは渋々風呂に入ることにした。
今は服を脱いでタオルを腰に巻いている。
クラナは服を脱いでくるというので先に風呂場に入れられたわけだが…。
ダイン:なんだ…これ…。
目の前に広がるは湯気と言う霧に包まれた浴槽と言う海。
部屋の中のはずなのに湯船の向こうの壁は見えない。
水平線と湯気に遮られてしまっている。
超・特大の風呂場であった。
クラナの大きさを考えても大きすぎる。
何故こんなにも広大な風呂場を—…。
磨きぬかれた石の床の上で俺は開いた口が塞がらないでいた。
その時だった。
クラナ:ダイン、入るぞ。
ガラリ
後ろの巨大な扉の開いた音がした。
ダインはため息をついた。
ダイン:(まぁタオルだって巻いてるし、たかがお風呂に入るだけ…。そう気に病むこともないか…)
そしてダインは振り返り、風呂場に入ってきたクラナを見上げた。
ダイン:…え?
そこに聳え立つはクラナ。
塔よりも巨大な二本の脚が床を踏みしめ、笑みを浮かべたままこちらを見下ろしているのだが…。
ダイン:…。
小山の様に巨大な胸は何かに覆われることもなく壮大に晒されその肢体の美しさを物語っている。
そしてそれより下に視線を向けると———…って!
ダイン:な、な、な、な……!!
クラナ:どうした? 言いたいことがあるなら言ってみろ。
ダイン:なんで何も巻いてないんだーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
クラナは全裸だった。
文字通り一糸纏わぬ姿。
ボンと顔を真っ赤にしたダインはすぐ顔を背けた。
クックと笑うクラナ。
クラナ:何故もなにも、風呂はそういうものだろう。
ダイン:お、お、お、お前な! さっきも言ったけど俺は男でお前は女! もっと、こう…あるだろ! 色々!!
クラナ:くくく…初心(うぶ)な坊やには刺激が強すぎたか。それよりもどうだ? 私の身体は。
ダイン:ど、どうって……て見てない! 見てないから!! いいからタオルとか巻けよ!
クラナ:フフ、女が自分から己の肌を晒しているのに、それから目を背けるのは男としてあるまじきことではないか?
元騎士のダインよ。
ダイン:だ、騙されない! 騙されないぞ!! ああもう、頼むから何か巻いてくれよ!
クラナ:真面目な奴め。さて、身体を洗ってしまおうか。
ズン
ズン!
床が揺れる。
それがクラナが近付いて来ているということだとはわかっていたがダインは目を開ける事ができなかった。
ズン!
ズン!
ズズン!!
暫くその振動が続いたが、一際大きな振動を最後にそれは収まった。
なんだ? 歩くのをやめたのか?
そうーっと振り返り目を開けるダイン。
そこには片膝を着いてしゃがみ、こちらを見下ろしているクラナの姿があった。
そしてしゃがんでいるという事はその足の付け根の間の大事なところがより近付いたわけで…。
ダイン:うわ…。
若いダインには刺激が強すぎた。
目の前に広がるその壮大なパノラマを思わず凝視してしまう。
視界はクラナの下半身で埋め尽くされていた。
呆けていたダインは横から現れたクラナの指によってつまみ上げられた。
ズン!
ズン!
ダインを片手に歩き出すクラナ。
ダインは、今度は揺れる指の間から更に激しく揺れる巨大な胸を凝視することとなった。
ゆっさゆっさと大きく弾む胸。
先程からダインの目の前を、ダインの身体よりも大きな乳首が上へ行ったり下へ行ったりしている。
巨大な乳首の動きで巻き起こされた風がダインの髪を揺らす。
その動きは激しい。
自分の身体など、ピンク色のそれにぶつかれば軽く弾き飛ばされてしまうだろう。
顔がR:255・G:000・B:000の配分で赤くなっているダインだが、先程までの様に叫んだりはしなかった。
感じていた気持ちが羞恥でも背徳でもなく、美しさであったから。
目の前で揺れ動く小山の美しさに見とれていたのだ。
湯気と言う霞の中に聳える二つの山。それは淡い光によって幻想的な雰囲気を纏っていた。
そしてその動きで周囲の湯気と言う霞、雲を簡単に散らしている。
故にその姿が霞む事は無かった。
やがて歩を進めるクラナの前に壁が現れた。
ただの部屋の壁。その前の置かれた手桶と椅子。
クラナはゆっくりと椅子の上の腰を下ろした。
ズズウウゥン…!!
ゆっくりと座ってくれたのでダインが激しい揺れを感じる事は無かった。
だがクラナがしゃがむために前に屈んだのでその動きに伴って降りてくる胸に触れてしまいそうになり、ダインは慌てていた。
その様子を見てクラナは笑みを浮かべる。
クラナはその長い髪を縛ってはいなかったので、屈んだときに前に来た髪をバサリとかきあげた。
そしてダインに話しかける。その笑みを消さずに。
クラナ:少し手を使うのでな。暫くそこにいてくれ。
ダイン:…え……?
摘まれていたダインが降ろされたのはピンク色の突起の上だった。
ダイン:…。
ダインは乳頭にまたがり、自分よりも大きな乳首にへばりつくような格好になっていた。
両の手を広げているが乳輪のふちにさえ届かない。
ダイン:な…! …(ぷしゅう…(更にRに+255くらいで赤面))…! ななな…なにやってんだーーーッ!!
その格好のままクラナの顔を見上げるダイン。
若干胸が邪魔していたがその顔を見る事はできた。
顔は笑みを浮かべている。
クラナ:言っただろう。お前を持っていては手を使うことが出来ないのだ。だからそこに置いただけだ。
ダイン:お、お、お、お前な! だからってこんなとこに…!
クラナ:他の場所ではうっかり潰してしまうかも知れんし、水で流してしまうかもわからんだろう。それともなんだ、嫌だったか?
ダイン:え? いや、そんなことは…………って違う違う違う違う! 嫌に決まってるだろ!!
自分の乳首の上で真っ赤になって肯定と否定をするダイン。
フフン…素直になってきたな。
クラナはそんなダインを見て笑った。
ところがクラナが笑ったときその所為で乳房が少し揺れた。
ダインにとってはへばり付いている大地が地震に見舞われたのと同意だった。
ダイン:わ、わ! 揺らすな!
クラナ:ああ済まない、ついな。くく…その程度に揺れにも抵抗できんのか。女の胸の偉大さがわかったか? 坊や。
ダイン:なんだと!?
ドン と拳を叩きつけるダイン。
その瞬間ダインの乗っている乳首がブルンと震えた。
ダイン:わ、うわぁ!! な、なに!?
クラナ:くくく、流石はダイン。つぼを良く心得ている。
そういえば前に私の胸に触れたときのお前の手の動きもなかなかのものだったな。
経験も知識も無くそういうことがわかってるのは天性のものか。
ダイン:な、なんだったんだよ!?
クラナ:なにを言っている。お前が私の胸に愛撫をしたんだろう。私も思わず感じてしまった。
ダイン:え!? 嘘! そ、そんなつもりは……! …………………おとなしくしてるよ………。
クラナ:私としては大歓迎だったのだが…残念だ。まぁその所為でそこから落ちてしまっては実もふたも無いからな。
ダイン:落ちる…?
ダインはへばりついたままそーっと下を覗いてみた。
すると遙か霞の向こうに先程凝視してしまったクラナの下半身があった。
あそこからここまでの高さは何十メートルだ?
身震いのする高さ。落ちれば真っ逆さまにあの世行きだろう。
いやもしかしたらあの茂みに落ちて助か……ハッ!
ブンブンブンブンと顔を振るダイン。
そして振るい落とされぬよう、渋々ながらそのピンク色の壁に抱きついた。
笑いながらその様を見届けたクラナは身体を洗う準備を始めた。
手桶にお湯を汲み、石鹸を用意し、タオルを泡立てる。
それだけの動作だったが、ダインにとっては苦難の連続だった。
クラナが手桶にお湯を入れるために横にある大桶から湯を汲もうと手を伸ばしたとき、
その上体は伸ばされダインの乗っている胸は大きく傾いた。
それだけにとどまらずその動きに合わせてブルンと揺れた。
必死にしがみつくダイン。
後ろ(下)は奈落だ。
石鹸を用意する動作はそれほど危険ではなかった。
ただ足元の容器に入った石鹸を取り出すだけ。
ふぅ ダインは安堵の息をもらした。
だが問題は最後、その石鹸でタオルを泡立てるときだった。
ゴシゴシとタオルと石鹸を擦り合わせるわけだが、その手の動きに合わせて胸がぷるぷる揺れる。
ダインにとってそれは非常に長い間地震に晒されているということだった。
ただでさえ掴まりにくいものなのにこうも揺れては満足に身体を支えることも出来ない。
もしも落ちればあのタオルと石鹸の間ですり潰されてしまうだろう。
落ちるわけにはいかない。
だがこんな激しく揺れられたら……。
ブルンッ!
ダイン:あ!
揺れる乳首から放り出されたダインは真っ逆さまにあのミンチ製造地獄に落ちてく事はなかったんだなこれが。
その直前で泡だらけのクラナの手に拾われた。
まるで雲のようだ。
ダイン:助かった…。
クラナ:待たせたな。では洗うとするか。
言いながらクラナがタオルを持った手を差し出してくる。
ダイン:いいよ。自分の身体くらい自分で洗えるさ。
クラナ:お前が洗うより私が洗ったほうが遙かに早い。さぁ、その腰に巻いている小さな布切れを取れ。
ダイン:え゛!?
ガバッと自分のタオルを抑えるダイン。
クラナ:どうした? そんなものを巻いていては洗えんだろう。
ダイン:だ、だからいいって! 自分で洗うから!
クラナ:じれったいな…私が剥がしてやる。
タオルを置いたクラナの巨大な指が迫ってくる。
逃げようと思ったがここはクラナの手の上だ。さらに泡でつるつる滑って上手く逃げられない。
すでに指は目の前だった。
ダインはその指を押し返そうとしたが敵うはずなどない。
器用な巨大な指はあっという間にその布切れの端を摘んだ。
ダイン:やめろ! お前…こんな事…!
クラナ:それ。
バッ!
ダインの腰を覆っていた布はさらわれた。
間一髪、両手で隠したお陰でそれが晒されることはなかったが。
クラナ:これで洗えるな。だがタオルでは少々痛いか…。
クラナは人差し指をダインに差し向ける。
ダインは股間を押さえたまま泡の海を後ずさった。その顔は先程までとは別の意味で赤く染まっていた。
他人の羞恥ではない己の羞恥。それは、それはとてつもなく耐え難い。
ダイン:や、やめろ…。やめてくれ…。
クラナ:手をどけろダイン。邪魔だ。
ズイと迫る指。
それはダインの身体に触れるとぐりぐりと動き、器用にもダインの手をそこから剥がしていく。
身体全体がクラナの指先の下だ。
抗うことなど出来ない。
相手は魔王なんだ。
自分はちっぽけな人間なんだ。
どんなに嫌なことでも、それを強要されれば何もしても無駄なんだ。
もうすぐ自分の手もどけられてしまう。
そうすればそこも簡単に蹂躙されてしまうだろう。
それでも、どうすることも出来ないんだ。
…。
ところがその直前というところで指はダインを解放した。
その向こうから眉をハの字にしたクラナの顔が現れ、言った。
クラナ:泣かせてしまったか……。
ダイン:え…? 俺、泣いてた……?
ダインの目元。
泡で濡れてしまってわかりにくいが確かにそこに涙が溜まっている。
慌ててごしごしとそれを拭うダイン。
ダイン:な、泣くわけないだろ! 俺は男だぞ! そんな簡単に…。
クラナ:言うなダイン。私が悪かった…。やりすぎたと、思っている…。
言いながらダインを床に降ろすクラナ。
そして差し出された指にはダインのタオルが摘まれていた。
クラナ:済まなかったな…。
ダインがタオルを受け取ると指はすぐに去って行った。
まるで逃げるように。
タオルを巻いた後ダインはクラナを見上げたが、クラナは顔をそらしたままだった。
こちらを見ようとしない。
その顔には後悔の色が浮かんでいる。
ダイン:クラナ…。
クラナ:調子に乗りすぎていた…。お前がかなわないのをいいことに…私は…。
ダイン:…。
落ち込むクラナ。
調子に乗る…。それは気持ちがエスカレートしてしまうということ。
そしてダインはそれに抗うことが出来ないので、クラナはその気持ちに歯止めがかからないのだ。
更に掌の上の人間を自由に嬲るという快感がそれに拍車をかける。魔王故の感情。
小さな人間の抵抗をまるで無視して圧倒的な自分の力で蹂躙する。
人間は何も出来ない。ただ弄ばれるだけ。
気持ちが高揚した。
そして気付いたときにはダインは手の中で泣いていた。
自分がそうさせたのだ。
嫌がる事を、拒絶する事を強要させた。
ダインは必死に抵抗していた。
なのに私はそれを無視し己の欲望のままにあいつを…。
ため息すら出ない。
ただ悔恨の念が胸を締め付ける。
と、その時…。
ダイン:クラナ。
ダインに呼ばれた。
だがクラナはすぐには振り向けなかった。
もしもダインの顔に怒りが見えたら…。
冗談のやり取りの上での軽い怒りではなく、ほんとのほんとに怒っていたら…。
無敵たる魔王は恐れた。
自分が気を許した唯一の人間が自分の元から去っていくことを。
今、顔を向けたらその事を切り出されるのではないか。
そう思うとダインの顔を見ることが出来なかった。
ダイン:おーい、どした?
クラナ:…ダイン……。
ダインの方を見ないままクラナは喋りだした。
クラナ:さっきの事は済まなかった…許してくれ。もう二度とあんな事はしないと誓おう。
だから…、だから私の元からいなくならないでくれ…。
クラナの身体は震えていた。
だがダインはそのクラナの言葉にきょとんとしてしまった。
ダイン:? え…? 何のこと?
クラナ:ダイン…?
ゆっくりと振り向き覗き見たダインの顔には笑顔が浮かんでいた。
こちらに向かって手を振っている。
ダイン:あのさ…、身体洗ってくれないかな?
クラナ:…なに?
ダイン:いやー…、さすがにあそこはダメだけど、背中くらいなら。ほら、手も届かないしさ。
ダインは頬をポリポリ掻きながら言った。
気恥ずかしそうに目をそらしている。
クラナ:…いいのか?
ダイン:うん。でもあそこは絶対にダメだからな。ここは自分で洗うから。
慌てて自分のタオルの前を隠すダイン。
そんなダインにクラナはくすりと笑みをこぼす。
クラナ:フフ…わかった。お前の大事なところは、お前に任せるとしよう。
ダイン:そ、その言い方は恥ずかしいな…。
そしてダインはクラナの掌に乗せられた。
クラナ:じゃあいくぞ。
ダイン:ああ、よろしく頼むよ。
タオルを巻いたクラナの巨大な指がダインの背中を擦る。
指先だけでもダインより大きいのだ。
ほんの数回も擦ればあっという間に洗い終わってしまう。
ダイン:お、やっぱり早いな。
クラナ:そうだな。私としては指先しか動かしていないから物足りないのだが。
ダイン:そこは我慢してくれ。じゃあ今度は俺がクラナの背中を流すよ。
クラナ:それは非常にありがたいのだが…わかっているのか?
ダイン:え…?
床に降ろされたダインはクラナの言った言葉の意味を探るためその姿を見上げた。
そこには巨大な巨大な…肌色の山が聳えていた。
きめ細かくツヤツヤなクラナの背中。それは数百メートルの絶壁。
キラキラと輝くワインレッドの長髪。それは頂から落ちる赤い大瀑布。
霞がかった全容。それは朝靄の中の霊峰。
座っている椅子の高さを抜きにしても、山の様に巨大なクラナの背中。
その頂点。
雲の向こうからクラナの目が見下ろしていた。
ダイン:……ごめん…無理……。
クラナ:そう落胆するな。洗うと言ってくれただけでも嬉しかった。
ダイン:でも、俺は洗ってもらったのに…。
クラナ:ふぅ、なら足でも洗ってくれないか? その間に私は他の場所を洗おう。
ダイン:…そうだな、そこなら手も届く。
と、クラナの前面まで回ったのはよかったのだが…。
ダイン:…。
そこにはダインの予想を遙かに超える大きさの足が鎮座していた。
足の指だけでもダインと同じくらいの大きさだ。
それが5つ…。
それを見下ろしながらクラナが言う。
クラナ:くっく…やはり大きすぎたか。無理はしなくてもいいぞ。
ダイン:…いや、やるよ。
ダインは自分サイズのタオルを手にクラナの足に近付いていった。
まずは親指。寄ってみると自分よりも大きかった。
とりあえず側面から洗おう。
ゴシゴシ…
とその時、巨大な指が動きダインは跳ね飛ばされた。
ダイン:うわっ!
クラナ:くく…。すまん、くすぐったかったのでな。
ダイン:いたた…大丈夫だよ。これからは気をつけるから。
起き上がったダインは再び指を洗い始めた。
今度は慎重に。
ゴシゴシ…
まるで壁を洗っているようだ。
肌色の壁。やわらかなぬくもりを感じる。
手で撫でてみるダイン。
ダイン:俺からこうやってクラナの肌に触るのは初めてだけど、すべすべだな。人間と変わらないや。
魔王でも、女の子なんだよな…。
ダインは先程の落ち込んでいたクラナの表情を思い出す。
自分の行いを心の底から後悔する。それは息が止まるほどに苦しい事だ。
魔王が人間を弄ぶのはある意味当然の事。仕方の無い事なのだ。そう言うものなのだ。
でもクラナはそれを後悔してくれた。魔王なのに人間を弄んでしまったことに後悔してくれた。
落ち込んで欲しくないと思う。
だって、笑っている方が素敵に決まってるじゃないか。
クラナも立ち直ってくれたようだし、よかった。
と、指を洗い続けていた手が止まる。
今親指を足の内側方向から洗ってきたのだが、親指と人差し指の間を洗おうと思ったら指の間が狭すぎてそこに入る事が出来なかった。
押し広げてみようとしたがびくともしなかった。
ダイン:ダメだ…。クラナに頼むか…。
とクラナを見上げる。
クラナは自分の身体を洗っていた。
ここで声をかけて指を開いてもらうくらいほんと造作も無い事だろう。
でもわざわざ頼る事は無い。自分の力でなんとかしよう。
ダイン:そういえば俺は身体能力があがってるんだった。なら指の上に飛び上がってそこから間に…。
が、やめた。
指を見上げる。
その高さは2メートル以上ある。
今の跳躍力なら不可能な高さでは無いはずだ。が、ギリギリのラインだった。
飛び上がってしがみついたとしよう。しかし石鹸に濡れたそれは恐ろしく滑るはず。落下の危険性が大きすぎる。
なら…とダインは横に走り出した。
小指の前まで来たダイン。
小指はダインよりも小さかった。これなら簡単に登れる。
それに飛び乗ったダインは足の上を通って親指の上へ。
爪の上から指の間を覗いてみた。というか爪も大きいな。まぁいいや。
ダインはタオルを持ったままその穴にダイブした。
ダイン:よっと! …さて。
周りを見わたすダイン。
指の間の空間は薄暗かったし閉塞感も感じる。
窮屈だった。
あまり長居はしたくないかもな。
ダインは作業を再開した。
そのときだった。
ダイン:う…!?
突然動き出した指にダインは挟まれてしまった。
ぎゅうぅ…!
強烈な締め付けだった。
治ったばかりの骨がミシミシと音を立てる。
あまりの圧力に呼吸さえ出来なかった。
顔面を肉の壁で埋め尽くされているのだから。
ダイン:(な、なにが…)
考えようとしたが、苦痛がそれの邪魔をする。
酸素が脳まで届かない。
指の一つさえ動かせない完全な束縛。
意識が、遠のく…。
…。
ドサッ!
…直前でダインは解放された。
ダイン:ゲホッ…! ゲホッ…! ゴホ………ハァ…ハァ…、し、死ぬかと思った……。
むせ込むダイン。
クラナ:大丈夫か!? ダイン!
そのダインをクラナが顔を近づけて覗き込んできた。
ダイン:だ、大丈夫だよ…なんとか…。
クラナ:す、すまない! あまりにもくすぐったかったものだから…。
ダイン:いや、いいよ。気をつけるって言ったのに注意しなかった俺が悪いんだから…。そ、それよりも続きを…。
とクラナを見上げたダインだが、すでにクラナの全身は泡に包まれていた。
ダイン:…もしかして、身体洗い終わってる?
クラナ:とっくにな。
ダイン:…。
へなへなと座り込んでしまったダイン。
ダイン:はぁ…ごめん、役に立てなくて。
クラナ:そんな落ち込むことも無いだろう。
ダイン:でも俺、まだ指の1本も洗い終わってないんだけど…。
クラナ:この大きさなら仕方あるまい。それよりお前も自分の身体を洗え。これ以上時間をかけては風邪をひいてしまうぞ。
ふう…。
ダインはため息をひとつ。立ち上がって自分の身体を洗った。
その後、クラナが手で掬ってくれた水で泡を洗い流した。その水はダインも一緒に押し流すのに十分な量だった。
*
*
*
救助されたダイン。
クラナは自分の身体を洗い流した後言った。
クラナ:私は髪を洗う。お前は先に湯船に浸かっていろ。
言われるがままダインは湯船の淵まで来ていた。
床と湯の枠には大きな段差はなくダインでもすんなり上ることができた。温泉のようなものか。
湯船に手を入れてみる。丁度いい温度だった。
ゆっくりと湯船に身を沈めるダイン。
当然の事だが足など届かない。水深は何十メートルだろうか。
ダイン:はぁ…気持ちいいなぁ…。
淵から離れ、ちゃぷちゃぷと沖へと泳いでいった。
どこまでも広がるお湯の海。立ち上る湯気は水面を漂う霞。
幻想的な雰囲気だ。
それらがより一層、心を安らげてくれる。
ザバァーッ!
大量の水が落ちる音がした。
見ればクラナが髪を洗い終えたところだった。
立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
その全貌が丸見えなのだが、ダインは目をそらしたりはしなかった。
霞を切り裂いて歩いてくるその様があまりにも美しかったから。
確かに恥ずかしい、というかむず痒さは感じるが、いつまでも目をそらしていてはクラナに失礼だ。
やがて湯船の目の前まで来たクラナはしゃがみこむとゆっくりと足を湯船に入れた。
確かにゆっくりはゆっくりだったのだが、その巨大な足が湯船に入ればその質量の分だけ水が動くわけで。
ダインは生じた波に呑みこまれた。
ダイン:げっ! (サバーン!)…ゴボゴボゴボ…。
深く深く沈んでいくダイン。
だがすぐにすくい上げられた。
クラナ:大丈夫か?
ダイン:なんとか……。
クラナ:しかし、この程度でいちいち溺れていたらゆっくり湯船に浸かることもできないではないか。
ダイン:だったら俺は桶の中でも…。
クラナ:それはダメだ。一緒に風呂に入る意味がなくなる。
ダイン:そうなの…? はぁ…じゃあどうしよ…。
クラナ:ふむ…、…ならこうするか。
ダイン:何か思いついた?
クラナ:ああ。
5秒後。
ダインはクラナの案であるその湯船に浸かっていた。
ダイン:…。
その頬が染まっているのは湯船に浸かって温まっているからかそれとも恥ずかしさからなのか。
クラナ:どうした?
ダイン:こ、これは流石に恥ずかしい…。
ダインは、クラナの寄せられた胸、その間に出来た水溜りに浸かっていた。
クラナ:くくく…だがここなら安全だろう。
ダイン:そ、そうだけどさ…。
クラナ:なんだ、もしかして股の間に作った方が良かったか?
ダイン:そ、それはないから。それはないから!
はぁ…と息をついて淵に寄りかかるダイン。
それがクラナの胸だと思うと恥ずかしかったが、それはしょうがない。
この温泉の淵はみんなクラナの胸なのだから。
クラナの呼吸のお陰で視界が湯気に遮られることは無かった。
火照った身体もその風にさらされて丁度良い。
はぁ…もう一度大きく息を吐いた。
その時、温泉の底が抜けた。
ダイン:えぅ!?
ザブン!
ダインの身体は少し低いところにあった本来の温泉へと落ちた。
プハァと顔を出すとクラナから声をかけられた。
クラナ:ああ、すまん。胸を寄せていた腕が疲れたのでな。
ダイン:ケホッ。いや、いいよ。
再びクラナの胸によりかかるダイン。
先程と違うのは両脇の大きな乳房が真横に来たことだけだった。
ダイン:…やっぱ、恥ずかしいよな…。
自分が今、女の子の胸の間にいると思うといたたまれない。
なんでクラナは平気なんだろう。でも、訊いても笑い飛ばすだけなんだろうな。
ダインはくすりと笑った。
ダイン:しかし…。
と見たのは水平線の彼方。
この湯船はどれくらいに広いのだろう。
単純な好奇心がダインの心の中に生まれた。
なにを考えるまでも無く、とりあえず向かってみることにした。
クラナ:何処へ行く?
ダイン:ちょっと湯船の端まで。どれくらいあるのかと思ってさ。
クラナ:くくく…やめておけ。途中でのぼせて動けなくなるだけだ。遭難しても知らんぞ。
ダイン:大丈夫だよ。これでも体力に自信はあるんだ。
ダインは沖に向かって泳ぎだした。
透き通った水面が視界に広がる。
ダイン:(それにしても綺麗なお湯だよな。底まで見えそうだ)
とダインは下に目を向けた。
すると遙か深海にはクラナの大事なところが沈んでいた。
ダイン:(う…、やっぱりあそこを凝視するのは気が引けるよ)
顔を戻し前へと進む。
チャプチャプ
綺麗な波が水しぶきを上げた。
チャプチャプ
やっぱお湯の中を泳ぐのは疲れるなぁ…。
チャプチャプ
うん、対岸まで行くのは無理そうだし、ある程度泳いだら戻ろう。
チャプチャプ
しかし広いお風呂だな。街の何区画分あるんだ?
チャプチャプ
ふぅ、もう結構泳いでると思うんだけど…。水の上は距離感がわからないや。
チャプチャプ
結局対岸は微塵も見えず、か。そろそろ戻ろ。
とダインが泳ぐのをやめたときだった。
水中から何かが急上昇してきた。
ダイン:!?
ザバァーッ!!
素早い動きのとれない水中で逃げ遅れたダインは水飛沫を上げ飛び出てきたそれに乗っかる形になってしまった。
ダイン:いったい…!
大量の水が落ちていく。
やがてその姿を見せ始めたその物体は…足の指だった。
ダイン:…へ?
ダインが乗っていたのは足の親指だった。
高く高く突き上げられた脚。
ダインは落ちないようそれにしがみついた。
遙か遠方の下界ではクラナがニヤニヤ笑っていた。
てかあれだけ泳いだのにクラナの脚の長さしか進んでなかったのか。
クラナ:どうだダイン? 高いところは平気だろう?
ダイン:どうだじゃない! いきなりなにするんだよ!
クラナ:忠告を聞かない愚か者に少し罰を与えてやろうと思ってな。それ。
クラナはダインがしがみついている足の指をクイクイと動かした。
ダイン:ば、ば、ば、馬鹿! 落ちる! 落ちるよ!
クラナ:どうせ水の上だ。大したケガはするまい。それ、それ。
言いながら脚を曲げたり横に動かしたり。
その度にダインの悲鳴が響く。
ダイン:わ、悪かった。言うことを聞かなかった俺が悪かった!
クラナ:本当にそう思っているのか? ええ? ダイン。
もう片方の脚の指でダインを小突くクラナ。
指の間に挟まれたり、握られたり、それでもダインはしがみついている手を放さなかった。
ダイン:ハァ…ハァ…。
クラナ:割りとがんばったな。が、もう限界か…。
言うとクラナはダインの乗っている脚を折り曲げた。
ダイン:ハァ…ハァ…。こ、今度は…何を…するつもりだ…?
曲げられていく脚の上でダインは呼吸を整えながら呟いた。
やがて脚の動きも止まる。
そして…。
ブン!!
脚が思い切り伸ばされた。
ものを蹴り飛ばすような動作だ。
空気を、湯気を、霞を切り裂いた。
巨岩さえも蹴り砕くその脚が振りぬかれたのだ。
当然、疲労しているダインが掴まっていられるような速度ではない。
手を放されたダインは遙か上空へ蹴り飛ばされてしまった。
ダイン:うわあああああああああああああ!!
凄い速度だ。
息も出来ない。
空気を貫いているのを感じる。
雲の向こうに天井が見えてきた。
いったい何百メートル打ち上げられたのだろうか。
徐々に近付いてくる天井。
このままでは激突する。
この速度でぶつかれば原型なんて微塵もとどめないだろう。
だがどうすることも出来ない。
しかし段々とその速度も緩やかになってきた。
どんどんその速度を落とし、遂には天井の目と鼻の先で停止する。
ふぅ…息を付くダイン。
だが、止まったという事はこれから落ちるというわけで。
ふとダインは眼下を見た。
見えるのは湯気のみ。
水面は見えない。
どれだけ高高度だというのか。
ゆるり。身体が落下し始めた。
来たときと同じ距離を落ちるのだ。
同じ様な速度で。
ダイン:うわあああああああああああああ!!
雲も湯気も霞も貫いて一直線に落下するダイン。
何百メートルものフリーフォール。
水面が未だ見えない。
というよりこの速度で着水したら、それは先程想像した天井に激突するのと大差ない結果が待っている。
が、やはりどうすることも出来ない。
その時、視界が開けた。
水面を臨む事ができた。
しかし、それはあっという間だった。
見えたと思った瞬間にはもう水面は目の前にあった。
ダイン:(ぶつかる!)
ガシッ!
突然暗闇に包まれ落下が止まった。
あの落下の運動エネルギーが一気に0になった。
頭がフラフラする。
光が差し込んできた。
そこから見えるは笑みを浮かべたクラナの顔。
クラナ:どうだ? これで少しは反省したか?
ダイン:…ああ……………パタン。
ダインはクラナの掌の上に倒れこんだ。
その様子を見てクラナは鼻を鳴らし笑った。
クラナ:さて、もうあがるとするか。誰かみたいに湯あたりで倒れてしまってはかなわないからな。
ザバァーッ!
大量の水を滴らせて湯船からあがるクラナ。
そして二人は風呂場を後にした。
*****
就寝
*****
クラナの寝室。
ダイン:はぁあ…。疲れた…。
別の服に着替え、ぱたりとベッドの上に横になるダイン。
そんなダインをネグリジェ姿のクラナが見下ろす。
クラナ:フフ…私の言うことを聞かなかったからだな。
ダイン:いいじゃないか、ちょっと泳ぐくらい。
クラナ:お前が三日三晩泳いでも対岸など見えん。その前に疲れて沈むだけだ。
ダイン:ちぇっ。
火照ったから身体が気持ちいい。
ベッドに横になっていると自然とまぶたが落ちてくる。
ダイン:気持ちいい…このままここで寝ちゃおうかな。
クラナ:それは私と添い寝をするということか?
ダイン:い、いや、そういう意味じゃなくて…。俺は自分の布団で寝るよ。
クラナ:そう照れるな。もう私とお前はお互いの肌を見せ合った関係では無いか。
ダイン:だから違うって!
クラナ:フン、ならこれでどうだ。
ダイン:ん?
立ち上がったクラナはテーブルの上のダインの布団を摘むとそれを自分の枕の横に置いた。
クラナ:これでお前は自分の布団で寝るだけ。私はお前と寝ることが出来る。
ダイン:う…!?
クラナ:さて、では寝るとするか。
ダイン:ま、待ってくれよ!
クラナ:まだ不満があるのか?
ダイン:だってやっぱり一緒に寝るのは…。寝返りをうったお前に潰されかねないしな。ほら危険じゃん。
クラナ:私の言うとおりにそこで寝るのと私の寝巻きに押し込められて寝るの、どっちがいい…?
ダイン:………。…布団で寝るのがいいです…。
はぁ…。
ため息をつきながら布団に入るダイン。
その横でクラナがベッドに入る。
ダイン:…。…あの、あんまり見つめられると眠れないんだけど…。
枕の上から横になったクラナが見下ろしていた。
クラナ:眠ってしまえば気にならんだろう。数でも数えてとっとと眠れ。
ダイン:いや、でも…。
クラナ:やかましい奴め。ふっ!
ダインに向かって息を吹きかけた。
ダインの掛け布団は飛ばされてしまった。
ダイン:ああ! 何するんだよ!
クラナ:身体も飛ばされたくなかったら、おとなしく寝ることだな。
クラナは飛んだ布団を拾ってダインにかける。
そしてその上から優しく手を添えた。
ダイン:…わかったよ。おやすみ…。
クラナ:ああ、いい夢を見ろよ。
目を瞑ったダイン。
そして暫く、小さな寝息が聞こえ始めた。
ダインが眠った後も、クラナはその顔を見つめていた。
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〜 魔王クラナ 〜
第2話 「魔王との生活」 おわり
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