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 〜 魔王クラナ 〜


第11話 「洗濯」

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城の屋上(?)。
洗濯物を干すダイン達。
ちなみに手洗い。
物干し竿に並ぶたくさんの洗濯物がパタパタと風になびく。

 クラナ 「ふぅ…終わったな」
 ダイン 「俺は人生も終わるかと思った…」

クラナの肩の上。
疲れ切った顔のダインが呟いた。


 *

 *

 *


洗濯。
タライの中に洗濯物を放り込みゴシゴシと洗う。
クラナの使うタライはダインから見ると湖の様に大きかった。
その横で自分サイズのタライを使うダイン。
ダインとクラナはそれぞれ自分の服を洗っていたが、手際の良いダインはすぐに終わりパタパタと片づけを始めた。

 クラナ 「お前だけ終わって…。ずるいぞ」
 ダイン 「ずるくなんかないよ。ちゃんとした洗い方をすればすぐに終わるんだから」
 クラナ 「む…。ならせっかく早く終わったのだ。私のも手伝え」
 ダイン 「え?」

ダインに伸びてきたクラナの指。
それはダインを摘み上げるとタライの中に放り込んだ。
ポチャン。

 ダイン 「…ぷはぁ! なにするんだよ!」
 クラナ 「終わったのなら手伝ってもいいだろう」
 ダイン 「俺がお前の服を洗えるはずないだろ! どんな大きさだと思ってるんだ!」
 クラナ 「くく、さぁしっかり頼むぞ」

言うとクラナは手を動かしだした。
ジャブジャブ。ゴシゴシ。
服を手に取り揉み洗い。
だがダインは、その動きの生み出す石鹸水と洗い物の嵐に翻弄されていた。

 ダイン 「うわ…! …うぷ…!」

押し寄せる波に溺れまいと泳ぐダインだが、クラナはと言えばタライの中で波や自分の衣服から逃げるその小さな姿を見て笑っていた。
ダインの近くにあった服を洗おうとして引っ張るとダインはその所為で巻き起こった渦に巻き込まれた。
服を擦るだけで発生した複雑な波にあぷあぷと溺れる。

 ダイン 「ぷはぁ! お、溺れさせる気か…!?」
 クラナ 「手伝わせているだけだ。そら、お前はこれでも洗ってろ」

言いながらクラナは洗濯物のひとつを手にとってダインに投げつけた。
ダインは覆いかぶさってきた洗濯物の重量に水中に引きずり込まれそうになる。
なんとか脱出してそこに島の様に浮かぶのしかかってきた洗濯物を見上げると…—。

 ダイン 「……ブッ!」

それはブラジャーだった。
ダインはふき出した。
自分の下着を前にあたふたするダインを見てクラナは笑った。

 クラナ 「くくく、私のブラひとつ持ち上げられんとはな」 
 ダイン 「こらぁ!」
 クラナ 「とにかくそれは任せたぞ。私は他を洗う」

クラナは作業に戻ってしまった。
嵐の中ひとり残されてしまったダインは、とりあえず、クラナに何か言われる前にと目の前の島の様なブラを洗うことにした。
泳いでたどり着いたはいいものの、こんなものをどうやって洗えばいいのか。
掴んで揉み洗いしようにも、自分が力いっぱい込めても全然動かせない。
洗えないのだ。出来ることといえば石鹸水をかけるくらい。
凄い無力感だった。

 ダイン 「…」

見上げるそれは丸く盛り上がった島だ。
だがそれでもブラのカップの片方分だけ。
そしてこれはクラナの胸を覆うものなのだ。
いったどれだけでかいのかと…。
赤くなるダイン。

クシュン! くしゃみ一発。
水に浸かっていたら冷えてしまった様だ。
かといって水から上がれる場所なんて…。
見渡してみるも昇れそうなのは目の前のブラのみ。
きっとクラナに何か言われるだろう。でも、ここにいたら凍える…。

ダインは島に手をかけ上に上った。
そして頂点まで上ると身体をさすって温め始めた。
案の定、クラナが笑った。

 クラナ 「はははは、ダイン、お前 私のブラの上で何やってるんだ」
 ダイン 「う、うるさいな! 身体が冷えたんだよ!」
 クラナ 「くくく、しかしブラのカップに乗れるか。今度私の胸に直に乗せてやろうか?」
 ダイン 「ば、バカ言ってんじゃ…!」

と、勢いで立ち上がろうとしたら揺れるブラの上でバランスを崩し、水の中に落ちてしまった。

 クラナ 「あははははは!」

クラナの笑い声が響く中ぷはぁと水面に顔を出すダイン。

 ダイン 「く、クラナぁ!!」
 クラナ 「ははは…くく、そう興奮するな、鼻血が出るぞ。…まぁお前に風邪を惹かれても困るし、洗濯も面倒になってきたし、さっさと終わらせるか」

クラナの言葉の意味を探る。
洗濯を終わらせるのだからもう俺は出してもらえるのではないか。
はぁ。安堵の息が漏れる。
ふとダインは影に包まれた。
うん? 顔を上げてみると何故かクラナが立ち上がっていたのだ。
そしてゆっくりとブーツを脱いでいく。

 ダイン 「え? え?」

ダインはわけがわからずただ見守ることしか出来なかった。
両脚のブーツを脱いで穿いていたストッキングも脱いで裸足になったクラナ。
そして混乱しているダインを見下ろすとにやりと笑った。

 クラナ 「ふふふ、ちゃんと避けろよ」
 ダイン 「???」

ますます意味がわからない。
ちゃんと避けろ? 何を?
ダインが首をひねっていると、クラナはスカートの少し捲くる様に持ってタライの中に足を踏み入れてきた。

 ダイン 「うぇっ!?」

上から迫るクラナの巨大な足。
それはダインの横にあったブラの小島を踏み潰し、タライの底へと沈めてしまった。
もう片方の足も別の衣服を沈めながらタライに踏み入ってきた。
ダインから見てクラナはこのタライの海に立つ巨人だった。

 ダイン 「な…な……」
 クラナ 「手で洗うのは飽きたから足で揉み洗うことにする。巻き込まれるなよ」

クラナは片足を上げた。
巻き込まれるなと言ったのに足はダインを捉えている。巻き込む気満々だった。
慌てて泳いで離れるダイン。
直後、そこに着水した足の起こした波に飛ばされ遠方へと飛ばされた。
だがすぐにもう片方の足が近くへと踏み降ろされる。
また飛ばされた。
タライの海は大嵐に見舞われていた。

 ダイン 「ぷぁ…! く…クラナ…!」
 クラナ 「そらそら、まだまだいくぞ」

  ドバァアアアアアアアアアン!

  ドバァアアアアアアアアアン!

次々と振り下ろされるクラナの足。
ダインは、満足に息継ぎも出来ないでいた。
ダインから見るクラナの足は20mを優に超え、それほどの大きさを持つ足が水に突っ込まれれば押しのけられた水は激しい波と渦を巻き起こす。
目まぐるしく海が荒れる。
だがクラナとてダインばかりを狙っているわけではなく、ちゃんとダインから離れたところにある洗濯物も洗っている様だ。
しかしダインにとっては湖ほどもあるこのタライもクラナにとってみればただの水溜りだ。
多少離れたと言っても一歩の距離も無い。
更に淵で跳ね返された波が内側に向かって戻ることもあり、タライの中はどこも変わらず大嵐だった。
クラナが水中で足をすり動かそうものならその動きに伴って大量の水が動く。
そこに浮かぶ小さな人間など簡単に溺れてしまう。

 ダイン 「ごぼ…げほ…!」

必死に泳ぐダイン。
安全な場所など無い。
島である洗濯物も、クラナが足を乗せれば一気に海底だ。
波で揺れるし、とても近づけない。
ふとダインのすぐ横に足が踏み降ろされた。
ダインは何メートルも水中へと引きずり込まれ、慌てて水面へと顔を出す。
むせ込む。石鹸水を飲んでしまった。
ただでさえ目に入って痛いというのに。

痛みを堪えて目を開いてみるとそこはまだ影に包まれていた。
睨み上げると、今いる場所はスカートの真下だった。
水面からクラナの巨大な脚が捲くられたスカートの中へと伸びていた。
その頂点、太ももの先には…。
壮大な光景だった。

 クラナ 「どうした? 私の下着を見上げて固まってるぞ」
 ダイン 「い!? ち、ちが…!」

挑戦的な笑みを浮かべるクラナの言葉にあせるダイン。
ザバザバと慌ててスカートの下から逃げる。

 クラナ 「何故逃げる? なんだったらこれも脱いでそこに入れてやろうか?」
 ダイン 「……そんな事したら本当に怒るからな」
 クラナ 「それは怖い。ならこっちはいいか?」

クラナは屈みこんでタライの中から洗濯ものの一つの引っ張り出すとそっとダインの上に置いた。
ダインは自分を覆って余りあるその巨大な布に覆いかぶさられた。

 ダイン 「うわぁ!」

そんな大きなものを避けられるはずもない。
そうこうしているうちに布はどんどん水の中に沈んでいく。
それに気付いたダインが周りを見渡したとき、そこはもう沈んだ布によって遮られていた。
布の作る沈んでゆく檻だ。

 ダイン 「う、嘘だろ…! おい! クラナ!!」

布を持ち上げようと踏ん張るも足の着かない水中で被さる布の重みに抗うことは出来ない。
沈む布の中に閉じ込められたままダインは石鹸水の中に沈んでいった。

  ザバアアアアアアアアアア!!

だがすぐに救い出された。
ダインはその布の中に転がっていた。
袋のような形をしている布だった。
横に空いた大きな穴から笑うクラナの顔が見えた。

 クラナ 「くくく、ご苦労だったな」
 ダイン 「げほっ! …はぁはぁ、クラナぁ、お前ぇぇ…」

倒れこんだまま睨みつける。
しかしクラナは笑ったままだ。

 クラナ 「寝転がったままか。よほど気に入ったらしいな」
 ダイン 「何がだよ…。溺れかけたんだぞ…。服は濡れて重いし…少し休ませろ…」
 クラナ 「休むのは一向に構わんが、そこがどこか分かっているのか?」
 ダイン 「なんだと…?」

首をめぐらせ周囲を見る。
両脇には大きな穴、というか空間に自分が乗っている部分が橋をかけた様な割合で布の方が少ない。
だが、それだけだ。これが何かは分からない。中から見てはそれが何か分からなかった。

ちなみにクラナからは自分のパンティの底で横になるダインが見えていた。

 ダイン 「なぁにぃいッ!?」
 クラナ 「あははは、かわいいなダイン」
 ダイン 「クラナ…! おま…おまえ…ッ!」

真っ赤になったダインはぷるぷる震えていた。
その動揺っぷりはパンティを持っているクラナに伝わりそうなほどだった。
ニヤリと笑う。

 クラナ 「そんなに私の下着が欲しかったのか。ならそんな洗い物ではなく今私が穿いているのを渡しても良かったのに」
 ダイン 「お前ぇぇぇえええッ!!」

ダン! と地面を蹴りクラナに飛び掛ったダイン。
柔らかい布であるにも関わらず十数mの一足飛びだった。
そしてクラナの胸の上に着地する。

 クラナ 「ほう…やるな」
 ダイン 「クラナッ!! 今度と言う今度は許さない!!」
 クラナ 「胸の上で怒鳴っても威厳の欠片も無いぞ」
 ダイン 「う、うるさい! 今度と言う今度は…今度と言う今度は…!!」

ダインの手がぷるぷる震えている。

 クラナ 「ふん、ひっぱたくか? 私を」
 ダイン 「…!!」
 クラナ 「いいぞ。やってみろ」

クラナは横を向いた。
胸の上にいるダインからはその広大な頬を見ることが出来た。
今いる位置からでもかなりの高所だが今のダインの身体能力を持ってすれば届く高さだ。
十分にその頬に平手を打てる。

 ダイン 「…」

クラナは目を閉じ横を向いていた。
まるでダインの平手を待っているかの様だ。

 ダイン 「…」

暫くその頬を睨み上げていたダインだがやがてヘナヘナと座り込んでしまった。

 ダイン 「はぁ…もう…」

顔を正面に戻しダインを見下ろすクラナ。

 クラナ 「女の頬は殴れないか?」
 ダイン 「当たり前だバカ野郎!! お前はもっと、もっとなぁぁぁあああ!!」

  はむ

ダインの叫び声は遮られた。
それはダインの上半身をピンク色の唇が咥えたからだった。
咥えられたままダインは胸から持ち上げられた。
脚がぱたぱた空を蹴る。
柔らかい唇に挟まれて息も出来ないがそれもすぐに掌の上で開放された。

 ダイン 「う…はぁ…はぁ…何を…」
 クラナ 「可愛い奴だ、本当に。ついいじめたくなる」
 ダイン 「はぁ…はぁ……く、クラナぁ…」

再び叫ぼうとしたダインはまた遮られた。
クラナの指がダインの口を塞いだのだ。

 クラナ 「なぁダイン、お前は嫌だったか?」
 ダイン 「……ぷは。…はぁ…嫌っていうか恥ずかしいっていうか…むしろなんでお前はこんなことできるんだよ…普通恥ずかしくて死にそうになるぞ」
 クラナ 「そうか。ふむ、私もな、お前も欲求不満になってるんじゃないかと心配して…」
 ダイン 「な、なってないよ! てかお前100%自分のためにやってただろうが!!」
 クラナ 「くく、まぁな。さぁ揉み洗いも終わったし、濯いで干すとしよう」
 ダイン 「ま、待てクラナ! まだ話は終わってな…」

  はむ 

  もごもご

  ぺっ

 ダイン 「うわ!」

再び咥えられ、もぐもぐされ、吐き出された。

 ダイン 「いたた…もう! なんなんださっきから!」

掌の上からクラナを睨みつける。
だがクラナは笑いながらまだ口をもぐもぐさせていた。

ダインは首を捻った。
するとクラナはペロッと舌を出した。
その先には小さな布が付いていた。
その布に思い当たったダインは思わず自分のズボンに触れた。
濡れているので内部の感触がよく分かる。
そこには本来ズボンの下に在るべきもう一枚の布の感触が無かった。

 ダイン 「ない…」
 
赤くなってゆくダイン。
自分の下着がクラナの舌先に付いていた。

 ダイン 「か、返せ!」

舌に向かって駆け寄るダイン。
だがクラナは舌を動かしてダインの手から逃れる。
ひょいひょいと動く舌にダインは翻弄された。
その舌はやがてクラナの口の中に仕舞われてしまった。

 ダイン 「ああ! 出せ! 出せーーーっ!!」

掌の上でぴょんぴょん跳ねるダインにクラナは笑ってしまった。
その風圧でダインは後方へ吹き飛ばされた。

 クラナ 「ははは、どうした? 取り返してみろ」
 ダイン 「くそぅ…! そんなもん口に入れるなよ! 大体どうやって下着だけ剥ぎ取ったんだ!」
 クラナ 「ふふ、こんなこと造作もない。ほら、どうした?」

チロチロと舌先を出す。
起き上がったダインは先程の様に一足飛びで舌先に飛び掛った。
しかし舌はすぐに仕舞われ、ダインはクラナの唇にぶつかって跳ね飛ばされた。

 ダイン 「あぐ…! ちくしょう…!」
 クラナ 「大切な下着なんだろ? それともいらないのか?」
 ダイン 「…!」

クラナが口を開くたびにその舌先に小さな布切れが見える。
それが逆に恨めしい。望めば届く距離なのに、まるで届かない。
ダインはいかにして下着を取り戻すか思考していた。
するとクラナはうむと肯いてダインを見た。

 クラナ 「そうか、いらないか。ならコレは私が貰おう」
 ダイン 「…え?」

口を閉じたクラナはもぐもぐと口を動かし始めた。
え? え?
何をする気だ?

 クラナ 「ん……んん…」
 ダイン 「…ま、まさか……」

ダインはクラナが若干上を向くのが分かった。
それはその後の行為を少々楽にするため。
クラナが何をしようとしているのか感づいたダインは慌てて駆け寄った。

 ダイン 「や、やめろー!」

だが…。

  ごくん

クラナは口に入っていたものを呑み込んだ。

 クラナ 「…っはぁ」

ほぅ、と息を漏らすクラナ。
その時垣間見えた舌先に、小さな下着は付いていなかった。

 ダイン 「…」

その場にへたり込むダイン。
そんなダインの目の前の口がニヤリと笑った。

 クラナ 「さすがに味はわからんな。ただ舌に感じた小さな感触は楽しめたぞ」
 ダイン 「おま……はぁ」

もう、怒る気力も無い。
パタリと倒れこむ。
服が濡れていることもあって非常に疲れた。寝たい。

 クラナ 「だが私だけが貰うというのも不公平だな。私のもお前にやろう」
 ダイン 「…へ……?」

パサリ。
ダインにのしかかってきたのは先程ダインが捕らわれていたクラナの下着だった。
濡れていて重い。が、なんかもうどうでもいい。

 クラナ 「さぁこれでそれはお前のものだ。そこで寝るなり臭いを嗅ぐなり好きにしろ」
 ダイン 「…そんなことしないよ……」
 クラナ 「疲労困憊といった感じだな。私もそろそろ足が冷たくなってきた」

ザバァとタライの海から出るクラナ。
そして洗い終わった洗濯物を流水で洗い流し(ダインも一緒に)籠に詰めて屋上(?)へと上がっていった。


 *

 *

 *


全長数百mの物干し竿に吊るされてゆく数々の洗濯物。
見てて気持ちの良いものだ。

 クラナ 「ふぅ…終わったな」
 ダイン 「俺は人生も終わるかと思った…」

疲れ切ったダインはクラナの鎖骨の窪みの中で横になっていた。
緩やかな風とクラナの体温が心地良い。
このままここで眠れそうだ。

ダインは自分の意識が眠りに落ちて行くのを感じた。

  ひょい

それもすぐに邪魔された。
クラナに摘み上げられたのだ。

 クラナ 「寝るな。まだ終わってないぞ」
 ダイン 「これ以上俺に何しようってんだ……」
 クラナ 「服を脱げ」
 ダイン 「はぁ…?」
 クラナ 「いつまで濡れた服を着ているつもりだ。一緒に干すから脱げと言ってるんだ」
 ダイン 「でもこれ脱いだら俺なにも着てないんだぞ…」
 クラナ 「それもそうだな」

クラナはダインを掌に降ろしその身体を包み込む様にゆっくりと拳を握った。
何をするのか分からなかったが抗える気力は無い。

暫くダインはクラナの拳に握られたままだった。
何をしているんだろう。
そう考えたときだった。
一瞬、ダインは熱気に包まれた気がした。
熱が身体を通り抜けていった様な感覚だった。
なんだったんだろう…。
拳が解かれダインの目に再び青空が飛び込んできた。

 クラナ 「苦しくなかったか?」
 ダイン 「…今、何したんだ…?」
 クラナ 「お前の服を乾かすために一瞬だけ拳の中の気温を急上昇させた。火傷させないよう気をつけたつもりだが、どこか痛いか?」
 ダイン 「……いや、大丈夫だ…」
 クラナ 「そうか…」

クラナはニッコリと笑った。
どうやら本当に安堵しているようだ。

 ダイン 「とにかく、これで全部終わったな…? 俺は寝るよ…」
 クラナ 「ああ、ちゃんとお前の寝床も乾かしておいたぞ」
 ダイン 「へ…?」

再び摘み上げられたダインはそこに降ろされた。
クラナの、下着の中。

 ダイン 「な、なにぃ…!?」
 クラナ 「くくく、風に揺られ太陽に照らされて、ハンモック…だったか? そんな感じだろう」
 ダイン 「お、お前なぁ…!!」

立ち上がろうとしたダインだが、すぐにガクリと膝を折ってしまう。
限界なのだ。
身体が休眠を求めている。

 クラナ 「無理をするな。おとなしく寝ておけ」
 ダイン 「お、降ろせ…クラナ……降ろしてくれ…」

クラナに向かって手を伸ばすが、その視線の先の姿は既にかすんでいた。
否応無く、瞼が閉じてくる。
重い。
こんな、こんなところで眠るわけには……。
気力を振り絞る、が、手はパタリと地に落ち、ダインはそのままうつ伏せてしまった。

 くー…。

小さな寝息がクラナに聞こえた。

 クラナ 「ふふ、最後までよくがんばったが、お疲れだな。ま、その努力に免じて女の下着の中で眠らせるのはやめてやるか」

クラナはそっとダインを摘まみ上げると胸の谷間に挟み込んだ。
頭だけがちょこんと胸元から出ている。

 クラナ 「さて、お前は目が覚めたらどんな風に怒鳴るんだろうな。そのとき私はお前をどんな風に弄ぶんだろうか。くくく、今から楽しみだ」

笑いながら城の中へと戻ってゆくクラナ。
クラナが歩く際に揺れるその胸の間でダインは起きたときに来る災厄など知りもせず、ぐっすりと眠っていた。



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 〜 魔王クラナ 〜


第11話 「洗濯」 終

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