−−−−−−−−−−−

 〜 魔王クラナ 〜


第12話 「性と死の狭間」

−−−−−−−−−−−


------------------------------------------------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------------------------------------------------



 クラナ 「じゃあそろそろ風呂に入るか」
 ダイン 「そうだな」

部屋を出てゆく二人。
その二人の後ろからエリーゼが声をかける。

 エリーゼ 「あ。今日はあたしも一緒に入る〜」
 ダイン 「何っ!?」
 クラナ 「ああ、いいぞ」
 エリーゼ 「わ〜い!」
 ダイン 「く、クラナ!」
 クラナ 「別に初めてではないだろう。いくぞ」

ダインのささやかな抗議も空しく、3人は風呂へと向かった。


  *
  *
  *


大浴場。
ダインから見れば海ほどの広さがある。
対岸が見えないのだ。
ここで生活するようになってかなりになるが、未だ一度も対岸を拝んだことは無い。

 カポーン

そんな風呂場の床の上。
タオルを腰に巻いたダインが立っていた。

 ダイン 「はぁ…」

ため息。
するとダインの背後の扉がガラリと開いた。

 クラナ 「待たせたな」
 エリーゼ 「やっほー、ダイン」

二人が入ってきた。
だがダインは二人の方を見ようとはしなかった。
どうせ全裸に決まってるからだ。
見慣れた、とはいえやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
何で見ている方の自分がこんなに恥ずかしい思いをしているのに、見られている方の二人がああも平然としていられるのかまったく分からない。

  ズズン!

そんなダインの横に巨大な足が踏み降ろされた。
クラナのものだ。

 クラナ 「ほら、いつまでもそんなところにつっ立ってると踏んでしまうぞ」

言いながらクラナは手を差し出してきた。
ダインがその上に飛び乗ったのを確認するとクラナは手を持ち上げ歩き出した。

  ズズン!

    ズズン!

手の上のダインはクラナの一歩一歩の振動を感じる。
同時に、正面を見ているダインから見て背後、そこで膨大な質量を持った何かが弾んでいるのも感じていた。
決まってる。
クラナの乳房だ。
見ていなくともその動きを感じてしまうので、ダインの顔は真っ赤になっていた。

 クラナ 「今更恥ずかしがることもないだろう」
 ダイン 「ば、バカ! そう言うんならせめてタオルくらい巻いてこいよ!」
 クラナ 「必要無い。お前がとっとと慣れてしまえばいいんだ」
 ダイン 「む、無理だよ…」

頭を抱えたダインを見てクラナは小さく笑った。
やがて壁際に身体を洗う場所が見えてくる。
そこにある椅子の上に腰を降ろしたクラナは自分の脚の上にダインを降ろした。

 クラナ 「待ってろ」

前かがみになって足元の先にある石鹸とタオルに手を伸ばすクラナ。
その際、前かがみになりその胸と脚の間にダインを挟んでしまったのは偶然だった。

 ダイン 「むぐ…」
 クラナ 「おっと、すまん」

石鹸とタオルを手にすぐ上体を起こす。
ふぅ。一瞬とはいえ乳首に挟まれたダインはすでにのぼせそうだった。
クラナはタオルを水で濡らし石鹸を馴染ませてダインへと近づける。

 クラナ 「ほら、背中を向けろ」
 ダイン 「いい加減自分で洗わしてくれよ」
 クラナ 「私が洗ってやりたいのだ。さぁ」
 ダイン 「はいはい…」

おとなしく背中を向けるダイン。
その背中にタオルを持ったクラナの手か近づいてゆく。
だが。

 エリーゼ 「あ。待ってクラナちゃん、あたしが洗う」

横からエリーゼが手を差し出してきた。
クラナの横に座ったエリーゼは巨大なシャンプーハットを被っていた。
よくあんなのあったなぁ…。ダインは思う。

 クラナ 「構わないが、ちゃんと洗えるか?」
 エリーゼ 「大丈夫だよ。任せて」
 クラナ 「ふむ。ダイン?」
 ダイン 「まぁ…大丈夫でしょ」

やや心配そうにアイコンタクト。
まぁただ洗ってもらうだけなら大した危険もないだろう。
二人はそう判断してクラナはエリーゼにダインを手渡した。

 クラナ 「ほら、落とすなよ」
 エリーゼ 「大丈夫大丈夫」
 ダイン 「…不安だ」

エリーゼの手の上に置かれたダイン。
そこにエリーゼの手が迫る。

 エリーゼ 「はい、洗うよ〜」
 ダイン 「ああ、頼むよ」

エリーゼはタオルを使わない。
あのザラザラ感が嫌いなのだそうだ。
なのでタオルを持っておらず、そのエリーゼが洗おうと言うのだからタオルを使うはずも無い。
ダインは石鹸のついた指先で擦られた。

 ゴシゴシ

ダインの背中よりも大きいエリーゼの指先が背中を擦る。
とは言っても石鹸がついた人肌にそれほど激しい摩擦は生じず、実際はヌルヌルと言ったほうが正しい。
広大な面積の指先が背中を上から下まで一気に撫で上げる。
何度も何度も。
ときおり、爪の先でコリコリとくすぐってきたり。
ゾワゾワゾワ。
ダインは身震いをした。

 ダイン 「え、エリーゼ、タオルを使ってくれると嬉しいんだけど…」
 エリーゼ 「え〜タオル嫌い。ザラザラするもん」
 ダイン 「いや、やっぱりタオルがないとちゃんと洗えないじゃん…」
 エリーゼ 「む〜、タオルがなくてもちゃんと洗えるよ!」

言うとエリーゼはダインの背中を洗う指の速度を速めた。

 コシコシコシコシ

凄い速度だ。
だが結局は摩擦が無いので撫でている程度であることにかわりはない。
指紋がブラシのようにダインの背中をくすぐる。

 ダイン 「あ、あはははははは! エリーゼやめろ! くすぐったい!」
 エリーゼ 「むー!」

さらに速度を上げるエリーゼ。
それでもダインのくすぐったさは増すばかり。
エリーゼは指先にさらに力を込めた。
するとダインは掌と指の間に挟まれ押し付けられるような格好になった。
だが石鹸で摩擦はなくなっており、ダインの身体は掌と指の間から、まるで枝豆の中身を飛ばしたようにすぽーんと飛び出てしまった。

 エリーゼ 「あ」
 ダイン 「うぉっ!?」

幸いにもエリーゼの身体の方に向かって飛んだので床に叩きつけられるという事はなかった。
そのまま一度エリーゼの腹にぶつかってそこに落ちた。

 ダイン 「いたた……た!?」

そこに落ちたときの衝撃は表現するならば『フサッ』である。
ダインはエリーゼの腹、へそよりも少し高い位置にぶつかってそのまま真下に落ちたのだ。
その時エリーゼの脚は閉じられていたので、脚の間を通って地面に落ちる事もなかった。
今ダインがいるのは脚の間、その付け根である。
つまり…。

 ダイン 「わ、わわわわ!!」

慌ててその茂みから飛び上がって離れるダイン。

 エリーゼ 「大丈夫? ダイン」
 ダイン 「だだだだだ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だから!!」
 エリーゼ 「どうしたの?」

ダインの真上、二つの巨大な乳房の間からエリーゼが見下ろす。
流石にダインの同様ぶりに違和感を覚えたようだ。

 エリーゼ 「本当に大丈夫?」
 ダイン 「大丈夫だって! それより早く持ち上げてくれよ!」
 エリーゼ 「なんで?」
 ダイン 「なんでって……こんな……こんなとこで…」

見上げていた視線を戻したときに先ほどダインが落ちた茂みが視界に入ってしまう。
慌てて背を向ける。

 ダイン 「わわっ!」

ダインの一連の様子を伺っていたエリーゼは、ダインが自分の股間を気にしていることに気付いた。

 エリーゼ 「あたしのここがどうかしたの?」
 ダイン 「なんでもないってば! だから早く…」
 クラナ 「お前等、風邪ひくぞ」

横でわしゃわしゃと髪を洗うクラナ。

 ダイン 「そうだよ! とっとと身体洗って湯船に浸かるぞ!」

その言葉に乗って話題の転換を図るダイン。
だがエリーゼは聞いていない。

 エリーゼ 「何か変かな?」

脚を開いて見下ろしてみる。
太ももの上にいるダインからは、脚の間の秘所が丸見えだった。

 ダイン 「う…っ」

思わず鼻を押さえる。
臭いからではなく、鼻血が噴きでそうだったからである。
日々のクラナとの入浴のお陰で見慣れつつはあるものの、こうも目の前で見せ付けられたことは無い。
ザワリ。自分の中に何かが湧き上がるのを感じた。
その感情がなんであるか理解したダインは背中を向けきつく目を閉じた。
これ以上は、まずいことになる。
そんなダインに構わず、エリーゼはそこを指で触ったりしていた。

 エリーゼ 「別に変じゃないよ。…あ、そういえば、ダインに読んでもらった絵本の中に、男の人と女の人がエッチする内容の本があったよね。一生懸命子どもをつくろうとするの」
 ダイン 「え、えええええええええええええええええええええええ!? そ、そんな内容の絵本なんかあったか!?」
 クラナ 「…ッ!」

ピクン。
クラナの眉が跳ね上がった。
だがエリーゼは気付かずに続ける。

 エリーゼ 「男の人の棒を女の人の穴につっこむの。それってとっても気持ち良いんでしょ?」
 ダイン 「な、な……な…」
 クラナ 「エリーゼ、やめろ」

普段より強い語調のクラナ。
しかし話に夢中のエリーゼは続けた。

 エリーゼ 「あたしは女だしダインも男だから、ダイン、あたしとエッチしてみない?」
 ダイン 「ば、バカなこと…!」
 エリーゼ 「大丈夫、きっと気持ちよくなれ-------」
 クラナ 「エリーゼ!!」


  パァン!


クラナに呼ばれ振り向いたエリーゼの頬をクラナの平手が打った。
そのあまりの威力にエリーゼは床へと投げ出され、ももの上に乗っていたダインは宙へと放り出された。そのダインはクラナによってキャッチされたが。
シャンプーハットは、はるか遠くへ飛んでいった。

 ズズウウウウウウウウウウウウウン!!

エリーゼの巨体が倒れ大地が揺れる。
手の上からその様子を見ていたダインは唖然としていた。
何が起きているのか分からなかった。
ただ見上げたクラナの瞳は怒りに染まっていた。

何が起きのか分からなかったのはエリーゼも同じだった。
身体を起き上がらせると今しがた打たれ赤くなった頬を押さえてクラナの顔を見つめた。
その瞳に涙はなく、ただ動揺と呆然の入り混じる複雑な揺らぎのみが浮かんでいた。

座るエリーゼの前に立つクラナが口を開く。

 クラナ 「…お前、今自分が何をしようとしていたのか分かっているのか…?」
 エリーゼ 「…え……?」
 ダイン 「なに…?」

静かな口調。
しかしそこには確かな怒りがあった。
エリーゼは、ただ呆然とクラナを見上げる。
そしてクラナは、拳を握り、振り絞るような声で怒鳴った。

 クラナ 「お前は…、お前はダインを殺そうとしたんだぞ!」
 エリーゼ 「…ッ!!」
 ダイン 「何だと!?」

クラナは片膝を着いて座りエリーゼのアゴを掴んでぐいと引き寄せる。

 クラナ 「私達が人間と契りを交わしたらどうなるか忘れたのか!? 肉体をすり潰し、その魂を搾り出して吸収してしまう! すなわち死だ!」
 エリーゼ 「あ……あぁ……」
 クラナ 「少量の霊素で構成された人間が私達の性を受け止められるはずも無い! ダインとて同じ。お前は、ダインを原形も分からないぐちゃぐちゃの肉塊に変えようとしたんだ! わかっているのか!!」

クラナの天をも裂かんばかりの怒声。
エリーゼの瞳の動揺の色が濃くなり、身体はガタガタと震え始めた。

 エリーゼ 「ち、違うの…あたし…そんなつもりじゃ…」
 クラナ 「つもりでなくとも! …ダインが死ぬことにかわりはなかった」

ポロポロ…。
見開かれたままのエリーゼの瞳から大粒の涙がこぼれ始める。
それが頬を伝ったとき、クラナはエリーゼを放した。
その瞬間、エリーゼは泣き出してしまった。

 エリーゼ 「あーーん! あーーん!」
 クラナ 「…」

立ち上がりそれを見下ろすクラナの瞳にもう怒りはなく、ただ同時に覇気もなくなっていた。
そんなクラナの手の上からダインが話しかける。

 ダイン 「クラナ…」
 クラナ 「すまなかった…。もう少し気をつけていればこうはならなかっただろう…」
 ダイン 「……今言ってた事は…」
 クラナ 「…本当だ。人間が私達と性交に及ぶと死ぬ。童貞のお前とて女の性器に関する多少の情報は持っているだろう。人間と同じだ。男の性器の入った女の性器は絶頂時にソレをきつく締め上げ内部のものを搾り取ろうとする。…では、お前とエリーゼならどうなった?」
 ダイン 「…」
 クラナ 「お前のソレではエリーゼの内部までは届くまい。エリーゼの穴は、お前から見れば洞窟のようなものだからな。そうなるとお前は、エリーゼだけでも気持ちよくさせてやろうと、中に入っていたんじゃないのか? その状態でエリーゼが絶頂を迎えたとき、きつく締まる内部でお前がどうなるかは火を見るより明らかだ。恐らくは加減など出来ないだろう。牛も楽に捻り潰すような膣圧だ。魔力を持っているとはいえ、人間の抗えるものではない」
 ダイン 「う……」

目の前にチラついた死の予感。
先ほどまでのダインはただ羞恥心から抵抗していたに過ぎなかったのだが、まさか生死の境目だったとは。
今になって身体がぶるりと震えた。
だが、クラナの手の上から見下ろしてみると、今意識せずして自分を殺してしまいそうだったエリーゼが泣きじゃくっている。
これまでの様に無意識のうちにそうなってしまったのではない。
自分からそうしようと話を持っていったのだ。
そこに芽生える罪悪感は比べようもない。

 ダイン 「エリーゼ…」
 クラナ 「仮に私達が縮小化して行為に及んだとしても結果は変わらない。お前は果てると同時に一緒に魂も放出し、私達の身体はそれを吸収する。…そういう風にできているのだ。私達の身体は、人間の魂さえも欲している」
 ダイン 「…」

ダインは思い出した。
これまでクラナたちにからかわれていて、ダインの理性が飛びかけ雄としての本能が疼くと、クラナはすぐにからかうのをやめてしまっていたことを。
かつて、縮小化したクラナと食後の談笑をしていたときなどがまさにそうだった。
自分からからかってきたにも関わらずあっさりと引く。
それはクラナの中の、悪戯と俺の死の、境にあったということだ。
思えば、性的な悪戯はほとんど受けていない。
クラナもエリーゼも、胸で弄ぶことはあるが、性器…で遊ぼうとすることは今日まで無かった。
胸にしても、淫らな遊びではなく、単純に俺の反応を楽しむものばかりで、それ以上を強要されたことはない。
クラナは、ずっとそれを気にかけていてくれたのだ。

 ダイン 「クラナ、ありがとうな…」
 クラナ 「ふん。わかったかエリーゼ。お前がどれだけ取り返しのつかないことをしようとしていたか」
 エリーゼ 「ぐす………うん…」

目を擦るエリーゼ。
その頬は赤く腫れていた。
再び膝を着いたクラナはその頬に手を伸ばし優しく撫ぜた。

 クラナ 「わかってくれればいい。…わるかったな」

クラナは笑顔だった。
それを見ていたダインはとても暖かい気持ちになった。
二人とも自分を好いてくれていて、とても気にかけてくれている。
ありがたい。
でもその気持ちが、今エリーゼを泣かせてしまった。
俺を好いてくれているからこそ、クラナは怒り、エリーゼはあんなにも泣いてしまったのだ。
もっと、しっかりしないと。
突き詰めれば俺の意思の弱さがエリーゼを泣かせた。
もっとちゃんと否定の意志を表明できていれば、エリーゼも無理に押し通しはしなかったかも知れない。
これからは本能に負けて理性を失わないようにしよう。
そうすれば二人にこんな思いはさせないのだから。

 ダイン 「…俺、もっと強くなるよ。自分に負けないように」
 クラナ 「ああ、期待しているぞ。…それはそれとして、だ」
 ダイン 「え?」

ダインはクラナに摘み上げられ咽ぶエリーゼの乳首に乗せられた。

 ダイン 「えええええええええええええええ!? なにやってんだよ!!」
 クラナ 「泣いたエリーゼを慰めるにはお前で遊ばせるのが一番だからな」
 ダイン 「バカ野郎! それじゃここまでのくだりはなんだったんだ!!」
 クラナ 「くくく、もう見慣れた光景だが、なかなか良い格好だぞ」
 ダイン 「クラナ!」

エリーゼの乳首に掴まりながらクラナの顔を見上げ怒鳴るダイン。
だがクラナは笑ったままエリーゼの胸を揺らした。
当然、そこの乳首に乗っているダインも大揺れに見舞われる。
ましてダインの身体は石鹸で泡立っているので非常に滑り易いのだ。

 ダイン 「わわ、落ちる、落ちる!!」
 クラナ 「そら、ちゃんと掴まっていろ」

ニヤリと笑い見下ろすクラナ。
いつの間にかエリーゼも泣き止んでそれを見下ろしていた。
まだ目に覇気は無く、顔は涙でくしゃくしゃになってしまっていたが大分落ち着いたようだ。

 クラナ 「エリーゼの乳首の居心地はよさそうだな。お前の身体全体よりも、エリーゼの乳首の方がはるかに大きい」
 ダイン 「く、クラナァァァァァアアアアアッ!!」
 クラナ 「ハハハハ! 欲情したら言え。何度でもヌいてやるぞ」

顔を真っ赤にして歯を食いしばりながら見上げるダインと、それをフフンと勝気な笑みで見下すクラナ。
そんなダインは突然摘み上げられた。
それはエリーゼの指。
指はダインを掌の上に降ろした。
まだ笑顔とは言えないエリーゼの顔がダインの目の前に現れた。

 エリーゼ 「ダイン…ごめんね…」
 ダイン 「…まぁ気にすんなよ。この通り俺は生きてるし、どこも問題ない。そ、それに…、エッチしてもいいって言われるほどに好いてもらってて嬉しいよ」
 エリーゼ 「ダイン…」
 クラナ 「ほほう、死ぬと分かっていてもやはりエリーゼとヤりたかったのか」
 ダイン 「うるさい! お前は口挟んでくるな!!」
 クラナ 「ふふ、いい度胸だ。こんどお前を股間にぶら下げて散歩でもしてやろうか」
 ダイン 「なんでお前はそうやって人をからかうことしかできないんだよ! 本当にそんなことしてみろ? お前の飯は緑黄色野菜だけにしてやる!!」
 クラナ 「それは怖いな。では遊びはやめてとっとと身体を洗うとしよう」

言うと椅子へと戻ったクラナ。
エリーゼも乳首にダインを乗せたままゆっくり立ち上がると、椅子へと戻っていった。
 

  *
  *
  *


 カポーン

身体を洗う一同。
しばらくしてやっとエリーゼももとの元気を取り戻し、ダインも一安心だった。
ダインはまたエリーゼの腿の上に降ろされて身体を洗っていた。
あそこは見ようとしない。
もっとも、今は見ても欲情はしなかった。
あんな話を聞いて、二人の苦労が分かるというもの。
それにきっと、エリーゼはただ遊びたいだけだったんだ。
ならばこっちも、そう気負う必要はないだろう。
言い換えれば今までと同じ。なんの問題も無い。

背中は先ほどエリーゼに洗ってもらったので今は前面を洗っている。
それと局所も。さすがにこれは他人に洗わせられないし、何より恥ずかしい。
タオルを着けたままこそこそ洗う。
そうしていると影に覆われた。

 エリーゼ 「どうしたの?」

エリーゼがやや前屈みになり見下ろしてきていたのだ。
二つの山のような乳房がぶるんと揺れながらぶら下がっている。
その山の間から見えるエリーゼ顔。

 ダイン 「何って身体洗ってるだけだよ」
 エリーゼ 「あたしが洗ってあげるよ。ダインは仰向けになって」

言うとエリーゼの泡にまみれた人差し指が迫ってきた。

 ダイン 「い、いや! 前は自分で洗えるよ! 大丈夫」
 エリーゼ 「遠慮しなくてもいいよ」

ズイと迫る指先。
ダインの汗はダラダラだった。
仮にこのまま仰向けに横になったあと指で撫でられたとしたら局所はどうなる。
さきほど自分に言い聞かせた、自分に負けないよう強くなる、はどうなる。
ただ今回のエリーゼには悪戯心は微塵もなく、完全な親切からだ。
となると、どうにも断りにくい。
だが考えている間にも指先は目の前に---。

 ひょい

ダインは摘み上げられた。

 クラナ 「エリーゼ、借りるぞ」

摘み上げたのはクラナだった。

 エリーゼ 「あれ? あたしが洗ってあげるよ?」
 クラナ 「いや、こいつには私の胸を洗ってもらう。そうすればこいつを洗うことにもなるからな」
 エリーゼ 「?」
 クラナ 「というわけだ。いいな、ダイン」
 ダイン 「む、胸くらい…洗ってやるけどさ、それがなんで俺を洗うことに繋がるんだ?」
 クラナ 「くくく、こうするんだ」

言うとクラナはおもむろにダインを石鹸へと擦りつけた。

 ダイン 「うわ!」

ダインの全身を泡が覆う。
何度か指がダインを持ち直しベストな持ち方を探す。
そしてクラナは、指先に摘まんだダインを自分の乳首に擦り付けた。

 ダイン 「うぇええええええええええええええええ!? ゲホゲホッ」

思わず大口を開けて叫んだダインの口の中に泡が入りむせる。

 クラナ 「ほら、口を開けるからそうなるんだ。目も口も閉じていろ」

言われなくともそうせざるを得ないダイン。
目を閉じたことで、感触がよりはっきりと感じられる。
泡で摩擦は少ないが、ぷにぷにで柔らかい。
クラナの胸だ。
ダインの身体は今、親指、人差し指、中指の三本でつままれている。
身体の両脇を親指と中指で挟まれ、背中には人差し指が添えられている感じだ。
つまりダインは、身体の前半面を胸に押し付けられていることになる。
図らずしも両手で抱きかかえるような格好。
しかしクラナの乳房は、とてもじゃないが抱えられるような大きさではない。
身体の前半面にクラナの温もりを感じる。
同時にツヤツヤな肌の感触と張りのある胸の感触。
そして押し付けられたときに感じる弾力と、圧倒的な重量感。
すべてがクラナの片方の乳房に過ぎない。

 ダイン 「ぷはぁ! クラナ…お前…ッ! ゲホッ」
 クラナ 「開けるなと言うに。ほら次は下だ」

ダインは、クラナの乳房の下から持ち上げるように押し付けられる。
ダイン一人の力ではびくともしないだろう。
だが今はクラナの手の力をあるのでやや押し上げる事はできた。
とは言ってもそれはダインが乳房にめり込んだだけでもあるが。
クラナはそのままダインを使って乳房の外周に円を描いた。
ダインの儚い抵抗を感じる。
だからこそ、やっているわけだが。

やがてダインは自身の押し付けられている場所の感触が変わったことに気付いた。
その後なにか突起物のようなものが現れた。
一応両手両足は自由なのでその突起物の形状を知ろうとすることはできる。
それは四肢すべてをつかってやっと抱え込めるような大きさのものだった。
何だろう? と考えようとしてピタッと思考が止まった。
考えるまでも無い。
乳房にある突起物なんて決まってる。
浮かび上がる想像を振り払おうとしたそのとき、クラナが止めとばかりに言った。

 クラナ 「くくく、どうだ? 私の乳首の感触は」
 ダイン 「こ、こらああああああああああああ!! ゲホゲホッ」
 クラナ 「ああ、そうあまり手に力を入れてくれるな。感じてしまうではないか」
 ダイン 「ゲホッ! 入れてない、断じて入れてない!!」
 クラナ 「まぁ構わんさ。続きだ」

クラナはダインを使って乳首を洗い始める。
乳首の外輪に円を描いたかと思えば乳頭の付け根にゴシゴシとする。
一抱えもある乳頭が身体中に押し付けられた。

 ダイン 「や、やめろぉ!!」

耐え切れずにダインはドン!と拳を振り下ろした。
瞬間、乳房がビクンと振るえ、乳頭の上部に押し付けられていたダインは突然持ち上がってきた乳頭にぶつかられ打ちのめされた。

 ダイン 「いだッ!」
 クラナ 「おっと。フフ、ダイン、あまり感じさせてくれるなよ。お前の愛撫は素晴らしい快感が突き抜けるのだからな」

クラナは笑っているが、実際今ダインは上昇してきた乳頭が顔面にぶつかり鼻を押さえて悶えていた。
そして、そんな一連のやり取りを見ていたエリーゼが首を突っ込んでくる。

 エリーゼ 「クラナちゃんばっかりずるーい! あたしもダインで気持ちよくなりたい!」
 クラナ 「お前にはまだ早いだろう。子どもだからな」
 エリーゼ 「むー! あたしだってオトナだよ!」

駄々をこねるエリーゼの胸がぶるんと揺れる。
た、確かに…、あれはオトナかな…。
そんなことを考えてしまうダインだった。
そんなダインを摘んだ手がエリーゼに向かって伸ばされる。

 クラナ 「本当か? どれ」

ダインは、さきほどクラナの乳首に押し付けられたようにエリーゼのそれに押し付けられる。

 クラナ 「どうだ?」
 エリーゼ 「え? どうって?」
 クラナ 「それが分からんから子どもだと言うんだ」

フフンと笑ってダインをエリーゼの乳首から引き離し、再び自分の乳首にあてがった。

 ダイン 「ってお前等さっきから何やってんだ!!」
 クラナ 「感じての通りだ。そうだ、次は乳首にかじりついてみてくれないか?」
 ダイン 「ふざけ…----」

と、ダインが叫ぼうとした瞬間だった。

 エリーゼ 「あたしもやりたいー!!」

突然、椅子から立ち上がったエリーゼがクラナに掴みかかってきた。
だが、バランスを崩したか石鹸水で足元をすくわれたか、とにかく掴みかかろうとして足を滑らせてしまったのだ。

 クラナ 「む…!」
 エリーゼ 「あ、あーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

エリーゼはまるで飛び掛るようにクラナへと倒れ掛かり、そのまま押し倒してしまった。
二つの巨体が重なったまま床へと投げ出される。

 ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウン……!!

椅子も何も吹っ飛ばして重なり合う二人。

 エリーゼ 「いたた…。…ごめんねクラナちゃん」
 クラナ 「やれやれ…。まったくお前は…」
 エリーゼ 「あれ? ダインは?」

見えたクラナの手にダインの姿は無い。
どこに行ったのか探そうとエリーゼが立ち上がろうとしたときだった。

 クラナ 「ああ、いたな」
 エリーゼ 「え? どこ?」

クラナの顔を見るエリーゼ。
クラナの視線は自分の胸元を見下ろしている。
今ならそれはエリーゼ自身の胸元でもある。
エリーゼはクラナの視線の先を追った。
するとそこにはクラナの乳房と自分の乳房の間に挟まれているダインの姿があった。

 エリーゼ 「いた! ダイン!」

エリーゼは身体を起こした。
次いでクラナも身体を起こす。
クラナの胸の谷間にいたダインはつるつると腹の方に滑っていった。
そのダインをエリーゼが摘み上げる。

 エリーゼ 「ごめんねダイン。大丈夫?」

心配そうに覗き込むエリーゼの青い瞳。
だがダインの反応はなかった。

 クラナ 「気を失ったか。まぁ女の胸に挟まれて死ぬなら本望だろう」
 エリーゼ 「えぇ!? ダイン死んじゃったらやだよぅ…」
 クラナ 「くく、冗談だ。さて…」

クラナはエリーゼの髪を一房持って、摘まれたダインの鼻元をくすぐり始めた。
すると…。

 ダイン 「ふぁ…はっくしょん!」

ダインの蘇生が完了した。

 エリーゼ 「ダイン…よかった…」
 ダイン 「いたたた…! あれ? 俺どうなったんだっけ?」
 クラナ 「私とエリーゼの胸にサンドイッチにされたのだ。望むならもう一度やってやるぞ」

言うとクラナは自分の両胸を手で持ち上げた。
つまりはクラナの二つの乳房とエリーゼの二つの乳房。
計四つの胸で挟もうと言うのだ。
座ったままでも、クラナとエリーゼが抱き合うような格好になれば、そのお互いの胸の間にしっかりとダインを挟むことができる。

 ダイン 「い、いらんから! いらないから!! …ああくそぅ、俺に抗える力があれば…」
 クラナ 「なんなら小さくなろうか? それならお前の自由にできるし、性交はさせられないが胸を揉むのなら…」
 ダイン 「やらないよ!!」


一際大きなダインの怒声が、この広大な浴場に響き渡った。


  *
  *
  *


 カポーン!

3人は湯船に浸かっていた。

 クラナ 「ふぅ、良い湯だな…」
 エリーゼ 「はぅ…気持ちいい…」
 ダイン 「まったくどうしてこいつ等は…ブツブツ…」

両腕を湯船の淵に掛けて座っているクラナと、ほとんど肩まで浸かって湯船の中に身体を投げ出しているエリーゼ。
ダインは例の如くクラナの胸元にいた。
淵いっぱいまで湯が満たされているからダインでも腰掛けることができるとはいえ、巨体の二人が少しでも動けば波に攫われるか床の方のに投げ出されてしまうだろう。
怖いのは波に攫われた後その淵に叩きつけられることだった。
クラナたちが脚1本湯船に入れるだけでそうなるのだ。
エリーゼのようにバシャバシャバタ足されては湯船は嵐の海の如くダインを翻弄するだろう。
脚の起こす渦に巻き込まれ深い深い水底に引きずり込まれるか、波に呑まれて淵から遠く沖合いまで連れて行かれるか。
実際何度かそういう経験もしているので仕方なし、クラナの目が届き、巨大な胸に挟まれ大波から守られるそこが一番安全なのだ。
クラナの胸板にもたれかかるようにして湯に浸かっていた。
すべすべの肌を背中に感じる。
同時にそのぬくもりも。
湯船に浸かっているからか、いつもよりも暖かかった。

 ダイン 「ふぅ〜…。とにかく、風呂ってのは気持ちのいいもんだ…」
 クラナ 「だな…」

見上げればクラナが自分を見下ろしていた。
お互い目が合って笑う。
すると横からエリーゼが声をかけてきた。

 エリーゼ 「見て見てクラナちゃん、浮いてる〜」

エリーゼが仰向けになって浮いてた。

 クラナ 「またそんなことを。そんなむき出しにしたらダインが困るというに…」
 ダイン 「いや、お前が言うなよ…」

と言いつつも、クラナの手の上に乗せられたダインはその光景に唖然としていた。
仰向けに浮いているエリーゼ。
とは言ってもほとんどの部分は水面下に沈んで、出ているのは顔など一部だけだ。
そのひとつである乳房。
それはまるで島のようだった。
二つの小島がならんでいるようだ。
その麓では波が乳房に当たって飛沫を上げている。
さらに全体に湯気による霞がかかり、まるで靄の中にある小島のような光景。
あまりにも自然的な光景に、ダインは一瞬、それがエリーゼの乳房であることを忘れてしまった。
それほどまでに雄大な光景だったのだ。

ダインが羞恥を忘れて見とれているのに気付いたクラナは、ダインをエリーゼの腹の方に下ろした。

 ダイン 「な、なんだよ」
 クラナ 「いいから。そこから顔の方を見てみろ」

言われるがままにダインはエリーゼの顔の方を見た。
すると二つの小島の向こうにエリーゼのあごが見えた。
いや、そうじゃない。
この小島に見えるものはエリーゼの乳房だ。
今、ダインは湯に浮いているのでそれがより一層島に見えてくる。
そしてこの位置からだと、それを見上げる形になるのだ。
本物の島がふたつそこに存在するように感じてしまう。

 ダイン 「う…」

ダインは、乳房が島に見えてしまったことにすごい衝撃を受けた。
なんて雄大な存在なんだろう。
抱いているのは、大自然に対する畏怖だったのだ。

あまりの衝撃に呆けてしまったダインを見てクラナはにやりと笑った。
そのクラナにエリーゼが話しかける。

 エリーゼ 「どうしたの?」

浮いて天井を見上げているエリーゼからは今自分の胸元で起こっていることなど見えない。

 クラナ 「今ダインがお前の胸の下にいるんだ。だから動くなよ」
 エリーゼ 「え、ダインが!?」

ガバッと身体を起こしたエリーゼ。
浮いている状態で身体を起こそうとすることは、体勢を直すために顔以外の水から出ていた部分が水中へと引き込まれるということ。
二つの乳房は突然水中へ勢い良く沈み、その近くにいたダインは、乳房が沈んだときに巻き起こされた渦に巻き込まれ水中へと引きずり込まれた。

 ダイン 「うぇ!? がぼがぼぼぼぼ…」

目の回るような渦の中を流されて、渦が止んだときには十数m以上も海中に引き込まれていた。
目の前にはエリーゼの巨大な腹部。へそが見える。
視点を上に向ければ巨大な乳房があり、キラキラと光る水面も見える。
突然の事だったので満足に空気も吸っていない。
早く水面まで上らないと、と泳ぎだそうとしたときだった。
エリーゼの身体が動き出したのだ。
凄まじい海流が発生した。上下も分からないほどに。
巨大な身体が移動し、海流はそこに流れ込もうとうねりを上げる。
垣間見たからだの動き方を見るに、恐らく立ち上がったのだろう。
エリーゼのお尻が上がっていくのを見たのだ。
予想できなかったことが続き、さらに今のうねりに巻き込まれたせいで余計に空気を消費した。
今ダインは巨大な柱の間にいる。
エリーゼの脚だろう。
風呂の深さは数十mあるがエリーゼの脚は水面を突き出てしまっている。
それほどの脚の長さがあるのか。
幸いにも、さきほどよりは水面が近くなった。
ダインは口から漏れ出そうとする空気を必死に抑えながら泳いだ。

 ダイン「(早く、早く空気を…!)」

だが再びあの凄まじいうねりが発生したのだ。
それも今までとは違う。
複雑なうねりがいくつもぶつかり絡み合っている。
とてもじゃないが、泳ぐどころではない。
とてつもない力で横に引っ張られていたと思えば、急に旋回し逆方向に引っ張られる。
いったい何が起こっている。
激流の中、微かに目を開いてみると、あの二本の柱が動き回っているのを見た。
立ち上がったエリーゼが歩き回っているのだ。
恐らくは自分を探しているのだろう。
その脚が、なんとこちらに向かってきた。

 グォォオオオオオオオオオオオオオ!!

脚はダインのすぐ横を通り過ぎていった。
その時に発生した凄まじい水のうねりは、ダインの身体から残りの酸素を搾り出すのに十分なものだった。
ゴボゴボ…!
空気を吐き出してしまった。
エリーゼの脚はどんどん遠くに行ってしまう。
うねりはなくなるが、それでは見つけてもらえない。
どうすれば…と思うが、どうにも身体が動かない。
ダインの身体はゆっくり底へと沈んでいった。
身体が底に触れる。
水面があんなに遠い。
溺れてもすぐに死ぬわけでは無いから、それまでに見つけてもらえれば…。
ダインの意識が薄れてゆく。
その中、ダインは自分が何かの影に包まれてゆくのが分かった。
酸素不足でぼやける視線の先には巨大な足が迫ってきていた。
底に横たわっていたダインは、その足の親指と人差し指の間に挟まれ、そして急激に上昇した。

 ザバァァアアアアアアアアアア!!

大量の水飛沫を上げて水面から現れた巨大な足。
その指の間にはダインの身体がしっかりと挟まれていた。

 ダイン 「ゲホッゲホ…!!」

思い切り空気を吸うダイン。
間一髪だった。
まだぼやける目で足の先をたどって行くとそこにはクラナがいた。

 クラナ 「大丈夫か?」

クラナは湯船の淵に肘を立て頬杖をつきながら言った。
なんともリラックススタイル。

 ダイン 「ゲホッ…ゲホ…! はぁ…はぁ……助かったよ」

ダインは指の間でグッタリとしていた。

 クラナ 「こうなる恐れがあるから動くなと言ったのだが、失言だったな。あいつの性格を考えれば分かることだった」
 ダイン 「はぁ…まぁ助かったからいいよ…。でもなんで手じゃなくて足なんだ?」
 クラナ 「足の届く距離にいたからな。手を伸ばすのが面倒だった」
 ダイン 「くぅ…思いっきりくつろぎやがって……」

と二人が話しているとエリーゼが戻ってきた。

 エリーゼ 「ダイン! よかった、無事だったんだね!」
 ダイン 「ギリギリだったけどなんとかな…」
 エリーゼ 「あぁ良かったー」

エリーゼはクラナの足を掴むとその足裏ごとダインに頬ずりをした。

 クラナ 「…エリーゼ、私の足を巻き込まないでくれ」
 エリーゼ 「だってダインがここにいるんだもん」
 クラナ 「やれやれ…」

苦笑したクラナはダインを挟んでいた指をぱっと開いた。
解放されたダインはそのまま十数m下の水面へと落ちた。
パシャン。

 ダイン 「ぷはぁ! …いきなり放すなよな」
 クラナ 「フン…、まぁとりあえずエリーゼ、もう一度浮いてみろ」
 エリーゼ 「へ?」

エリーゼは言われたとおり浮いてみる。
その後、ダインに被害が出ないようゆっくりと足を湯の中に戻したクラナは、ダインを摘み上げるとエリーゼの乳首の上に置いた。

 エリーゼ 「あ」
 ダイン 「え!? な、なにすんだよ!」
 クラナ 「そう言わずにそこにいろ」

くっく、と笑いながら言うクラナ。
当然だ。
今のダインはエリーゼの乳首の上にちょこんと座り、乳頭に抱きつくような形で自分を睨み上げているのだから。
ダインの細い腕はエリーゼの乳頭に腕を回すこともできていない。
乳頭はそれだけの大きさがあるのだ。
実際ダインは、山の頂上にいる感覚だった。
山の周囲は海。見えるのは隣にあるもうひとつの山とエリーゼの顔。
普段、掌に乗せられている感覚とは違う、より圧倒的な巨大感を感じた。
自分がふるい落とされないようにしがみついているのは乳首なのだ。
そして海の向こうからはエリーゼの大きな瞳がこちらを見ている。

 エリーゼ 「わぁかわいい〜♪」
 ダイン 「クラナ!」
 クラナ 「そうしていると、いつもとはまた違うだろう。お前から見たら海に浮いた小さな山みたいな感じなんじゃないか? それすべてがエリーゼの乳房だぞ」
 ダイン 「ぐぅ…!(赤面)」

改めて言われると恥ずかしい。
胸の上に乗っているなんて。
というか、こいつは俺に欲情させたくないはずなのになんでこんなことするんだ。

 クラナ 「慣れればいいんだ。そうすればもう私も気にせず遊べるだろう?」
 ダイン 「十分遊んでるように見えるけど…」
 クラナ 「まぁな。ほれ」

クラナはダインの乗っているエリーゼの乳房に手を添え、そっと揺らした。

 ダイン 「わわっ!」

プルンと揺れた乳房の上から落とされないように必死にしがみつく。

 ダイン 「や、やめろよ!」
 エリーゼ 「やぁん、ダインくすぐった〜い」
 ダイン 「う…っ」

またプルンと乳房が揺れた。
くすぐったい。
通常、微動だにせず抗うのは難しい。
これ以上くすぐったがられては落とされてしまう。
胸の外に落ちるならまだいいが、谷間の方に落ちたら、その二つの巨大な乳房の生み出す複雑な波でまた溺れてしまうかもしれない。
ダインはこれ以上、腕に力を入れないよう必死に加減した。

 クラナ 「くく、大変そうだなダイン」

言いながらクラナは、ダインの乗っている乳首の周りを指でツーっとなぞった。

 ダイン 「や、やめろーっ!!」
 エリーゼ 「きゃーーーーーーーーーーっ!」

ダインの恐怖の悲鳴とエリーゼの楽しそうな悲鳴がハモった。
あまりのくすぐったさに、エリーゼは脚と腕をばたつかせ身をよじった。
当然、乳房も身体を軸にぶるんぶるんと左右に振るわれる。
ダインはふるい落とされないよう、必死になってしがみついていた。
力の加減など言ってる場合ではない。
凄まじい力だった。
エリーゼが身をよじるたびに乳房もそれにひっぱられてぐいんと横に動く。
かと思うとすぐに逆方向によじられ、乳房もそれに追従して逆方向へと動く。
振り子の運動だ。
ダインは、乳頭を掴んでいる両腕以外は、遠心力で外へ、この場合天井に向かって投げ出されていた。
それほどの遠心力が発生していたのだ。
エリーゼの身体がよじられ、乳房はそれを追従するが、柔らかい乳房は、それが一歩遅れる。
なので追いかけるときは身体に引っ張られる力と、よじりに一歩遅れて変形した乳房が元の形に戻ろうとする動きが加わるのだ。
その遠心力でダインの身体は投げ出されている。
両腕だけで必死に乳頭に掴まっている。
もしもこの手を離してしまえば、はるか遠くに吹っ飛ばされてしまうだろう。
しかもクラナが今度はエリーゼの足の裏をくすぐりだしているので、この悪夢はしばらく続く。
もう、ぶるんぶるんと惜しみなく左右に振り回される乳房の、その先端でさらに振り回されるダイン。
さらにだ。
乳房が横に振るわれた後、逆方向に振られようと戻るとき、その力で振り回されているダインは、エリーゼの乳房に思い切り叩きつけられているのだ。
その衝撃は地面に叩きつけられるのと等しい。
エリーゼとしては、ダインの身体がペチペチとぶつかっている程度の認識だったが、ダインとしては、一回一回が気を失いそうなほどの衝撃なのだ。

 ダイン 「ぐはぁ…!」

張りのある肌はダインの身体を大きく跳ね飛ばす。
まるでトランポリンのようでもあった。

 エリーゼ 「やぁもうクラナちゃん!」

笑いながらエリーゼは身体を思い切り捻った。
そのときの乳房の動きは今までよりも少しだけ激しく、それだけの差でも、すでに限界に達していたダインは遂に手を放してしまった。
手を放したダインは、そのあまりの遠心力の強さに何百mも飛んでいってしまった。

 エリーゼ 「あっ!」
 クラナ 「お」

乳首の感触がなくなり、エリーゼはダインが手を放してしまったことに気付いた。
クラナも、手を放したダインが飛んで行くのを捉えた。

数百mの飛行のあと、ダインはその水面にドボンと突っ込んだ。
小さな水柱が上がる。
そのあと、ぷはぁと顔を出した。

 ダイン 「つぅ……! あんにゃろうども…」

乳房に叩きつけられ続けた身体がひりひり痛む。
ザザァ。
その時、水面が大きく荒れ始めた。
同時にダインは影に包まれる。
決まっている。あいつらが来たのだ。
ため息をついて振り返るとそこにはクラナとエリーゼが立っていた。
この辺りは淵に近いので、あまり深くは無い。が、ダインにとって深さ数十mあることにかわりはない。
だが、ダインにとっては深い海も、二人にとっては太腿程度の深さでしかないのだ。
四本の巨大な脚が水面から生えている。
水中を見下ろせば、きっとはるか海底を踏みしめる巨大な足があることだろう。
その巨大な脚は巨大な下半身へと繋がり、巨大な下半身は巨大な腹部へと繋がり、その上には巨大な胸部、頭と続く。
エリーゼは心配そうに、クラナは笑いながらダインを見下ろしていた。

 エリーゼ 「ダイン、大丈夫?」

エリーゼが上半身を倒し前かがみになって顔を近づけてきた。
両手が水中へと潜った。おそらく膝を支えにしに行ったのだろう。
そのせいでエリーゼの両腕は乳房を挟み込むことになり、胸がぎゅっと寄せられた。
ダインはその光景に真っ赤になって、視線をそらしながら答えた。
怒るどころではなくなってしまった。

 ダイン 「だ、大丈夫だよ…」
 エリーゼ 「そう? ならいいけど…」
 クラナ 「まぁこの程度で死なれても困るがな」
 ダイン 「…って全部お前が悪いんだろ! 俺はホント今生きてるのが不思議だよ! これじゃ俺をエッチで殺さないようにしても意味ないじゃないか!」
 クラナ 「あるさ。こういうのは事故だからな。心を痛めないで済む」
 ダイン 「アホかぁ!」
 クラナ 「くく、それに性交をしないようにと言ったのはエリーゼやお前だけの為ではない。私の為でもあるのだ」
 ダイン 「え…」
 クラナ 「…ときおり、本当にお前を奪ってしまいたくなるからな…」
 ダイン 「うぇっ…!?」

ダインの見上げたクラナの瞳には暗い光が宿っていた。
不敵な笑みがかもす雰囲気がより一層その光を暗く見せる。
そのクラナが、ダインに向かって手を伸ばしてきた。
ゆっくりと迫ってくる手。
次第に指が開かれ、それぞれが有機的な動きをしながら近づいてくる。
普段見慣れているはずなのに、ダインはその手に恐怖を抱いていた。
掌が影になり暗くなっているのも怖い。
ダインは、後ずさるように後ろに向かって泳ぐが、そんなことで逃げられるはずもなく、その手の中にガッシリとつかまれてしまった。
拳の中に閉じ込められた。
少量の水も一緒に握られていてチャプチャプと音がする。
拳はすぐに上昇し始め、指も開かれた。
そこはクラナの顔の前だった。
開かれた手の指と指の間から水が流れ落ちる。
掌の上のダインは怯えていた。
だが視界を埋め尽くすクラナの顔はいつもの悪戯っぽい笑みだった。

 クラナ 「なにを怯えている?」
 ダイン 「え…あ…」
 クラナ 「くくく、どうやら本当に怖かったらしいな」
 ダイン 「だってお前…」
 クラナ 「ふぅ…まぁ、奪いたくなるのは事実だ。身体が求めているんだよ。…だが、そうはしたくない。絶対にな」
 ダイン 「クラナ…」
 クラナ 「……だから、その欲求不満を解消するためにお前で遊んでいるんだ」
 ダイン 「…は?」

満面の悪戯っぽい笑顔。
一瞬呆けたダインだが、先ほどとは違う意味の冷や汗が流れた。
直後、掌に乗せられていたダインはポイっと放り投げられパシっと指でキャッチされた。

 ダイン 「うぐ……! …な、なにすんだ」
 クラナ 「別に。ただ持ち替えただけさ。さぁお前はそこにいろ」

言うとクラナは、またダインをエリーゼの乳首の上に降ろした。

 エリーゼ 「あぅ」
 ダイン 「…これも遊びか」
 クラナ 「そう言うことだ。じゃあエリーゼ、風呂場から出るまでダインを乗せてろ」
 エリーゼ 「は〜い」

エリーゼは元気の良い返事と共に大きく片手を上げた。
こどものやる挙手だ。
その動作だけでも胸は揺れ、ダインは翻弄される。

 ダイン 「うわっ! …あいつ」

真っ赤になってエリーゼの乳首に抱きついたまま恨み言を言うダイン。
だが、先ほどの話を聞くとどうに怒る気になれない。
クラナはこみ上げる欲望を無理やり押さえ込んでいるのだから。
それは人間が異性に求めるものと同じ。
見もふたもない事を言えば、子孫を残そうとする生物としても本能。
しかし、魔王であるクラナは同じ魔王の相手がいないし、かといって俺を使って慰めることもできない。
本能を押さえ込むのはつらい。
だからこそ、こういった遊びでなんとか欲望を誤魔化そうとしているのだろう。
必死で耐えているのだ。
そう思うと、こういうことをさせられても文句は言えない。
ダインは、複雑な気持ちで湯船の淵に向かって歩いて行くクラナの背中を見つめた。
だが、同じ様にクラナの背中を見つめていたエリーゼはけらけらと笑った。

 エリーゼ 「クラナちゃん、楽しそうだね〜」
 ダイン 「…楽しそう?」
 エリーゼ 「うん」
 ダイン 「でも、それって無理やり笑ってるだけなんじゃ…。きっと辛いはずだよ」
 エリーゼ 「そうかな? だってクラナちゃん笑いこらえてるよ」
 ダイン 「…何?」

ダインはエリーゼの顔から視線を外し、もう一度クラナの背中を見た。
するとその肩が小刻みに震えているのが分かった。

 ダイン 「………クラナ」
 クラナ 「プッ…くくく、はははは! やっぱり騙されてたか」

振り返ったクラナは満面の笑顔だった。
そこに苦痛など微塵も見られない。

 ダイン 「…おい」
 クラナ 「フフフ、お前があまりにも悲痛な顔をしていたのでな、少しからかってやろうと思っただけだったのだが」
 ダイン 「こ、この野郎ーー!」
 クラナ 「フン、まぁお前とやりたいと思うのは事実だ。好きな男なのだしな。それが出来ないで欲求不満を感じているのも事実。だが、苦痛というほどのものではない。お前を弄ぶのも欲求不満解消のためなんかじゃなく、単純に楽しいからさ」
 ダイン 「うがー! こいつ! 人がせっかく心配してやったのに」
 クラナ 「ああ、心配してくれるのは嬉しいよ。だが、エリーゼの乳首にちょんと乗ってる男に心配されても全く安心できんな」
 ダイン 「ぐぬぅ…」

ダインの拳がぷるぷると震える。
本当ならそこに思い切り拳をたたきつけたいところだが、それはエリーゼの乳首なのだ。
今までの経験上、ここでそういうことをすると大抵災難な目に遭うのでここは自粛しておく。

そうこうしている間にクラナは湯船から上がってしまっていた。

 クラナ 「そら、お前達も早く上がれ。のぼせるぞ」
 エリーゼ 「あ。待って!」

背を向けて歩き去るクラナの後を追うように、エリーゼは湯船の中を少し急いで進んでいった。
そのせいで胸はぐらんぐらんと揺れた。
どうせ抗うことなんかできない。今までと同じ様に、ただ必死に掴まるだけ。
巨大な乳房の揺れに耐えながら。
やがてエリーゼも湯船の淵にたどり着いた。
淵に膝を置き、両手と膝を使って上半身を持ち上げる。
その時、上半身はかがんで下を向くので、ダインはほぼ真っ逆さまになりながら掴まっているようなものだった。
重力に引っ張られた乳房は良く揺れる。

 エリーゼ 「よいしょっと」

ズンと両足を湯船から上げ、身体を起こす。
そして風呂場の入口を目指して小走りを始めた。
胸はさきほどの揺れなど比べ物にならないくらいにぷるんぷるんと揺れた。
上下だけでも、左右だけでも無い。
上下左右、果ては前後まで同時に揺れるのだ。
エリーゼの走りにあわせて規則的に揺れる。
そんな揺れの中、乳頭の上に乗っていられるはずもなく、すべり落ちそうになったダインは、さきほど吹っ飛ばされたときのように両手で乳頭につがみつき、身体はぶらんぶらんと翻弄される形になっていた。
一刻も早く、この地獄から開放されたい。
ダインは心底そう思っていた。

同時に、クラナとエリーゼのことも思う。
クラナはああ言ってくれているが、やはり我慢していることにかわりは無い。
なんとかしてあげられないものか…。

ダインは悩む。
二人のためになにかと悩む。

そのとき、エリーゼの、次の一歩のために力の込められた後ろ足が湯で濡れた床をつるりと滑った。

 エリーゼ 「あ!」

バランスを崩したエリーゼは前に向かって盛大に転んだ。

 ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


 エリーゼ 「いたた…」

むくりと身体を起き上がらせたところで、胸の上にダインを乗せていたことに気付く。

 エリーゼ 「あ、ダイン!」

慌てて見下ろした自分の胸には、その乳首のところに押し花の様に張り付いているダインを見ることができた。
立ち上がったエリーゼは服も着ずに、大慌てでクラナのところへ走っていった。



二人のために何かと悩むダイン。
だがその前に、どうしたら蘇られるかを悩んだ方がよさそうだ。



------------------------------------------------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------------------------------------------------

−−−−−−−−−−−

 〜 魔王クラナ 〜


第12話 「性と死の狭間」 おわり

−−−−−−−−−−−