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 〜 魔王クラナ 〜


  『いつか』

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透き通る様な青い空に白い雲がぷかぷかと浮かぶ。
その下に広がる豊かな自然に恵まれた平野。
そしてその上を駆ける一人の少女。

 はっ…はぁっ…!

息を切らしながらひたすらに走る。
その顔は輝かんばかりの笑顔だった。
年の頃は4〜5歳程か。赤く長い髪を靡かせ赤いワンピースに身を包んでいる。煌く瞳は澄んだ青色をしていた。
途中の平野をトテテテ…と走り抜け、川をぴょんと飛び越え、山をよじよじと登って超えてゆく。
当然、その少女は、山程に大きいのだから。

眼前に見えてくる一際大きな山。
少女は、その頂にて禅を組み背を向ける小さな人影を見つけ、更に笑顔を輝かせてその名を呼んだ。

 パパーーーーーーッ!

少女の声に周辺の木々がざわざわと揺れる。
その声に、禅を組んでいた人影がゆっくりと振り返った。
男の様だった。その顔に映る表情、貫禄を見ても、その若く生気に溢れる身体が、見た目以上に年齢を重ねていることを表している。
振り向いたとき、ダークグレイの髪がさらさらと揺れ、そしてその青い瞳で声をかけてきた巨大な少女を見返した。
山の方が少女の身長よりも高いので、男はその少女を見下ろす格好になり、少女は山のふもとから男を見上げていた。

 おかえり、ダイナ。いい子にしてたか?

ダイナと呼んだ少女を見下ろしながら男、ダインは言った。
少女は笑顔で答える。

 ダイナ うん! とってもいい子だったよ!
 ダイン そっか。よしよし
 ダイナ えへへ〜

ダインはダイナの頭の上に飛び降り、その大きな頭を小さな手で撫でた。
途端にダイナの顔がとろけんばかりに微笑む。

ダイナはダインを手に乗せると顔の前へと持ってきた。

 ダイナ パーパ、ほら、おかえりのチュー

手を自分の頬にあてがうダイナ。
いきなり目の前に現れたリンゴの様に赤くふっくらとしたダイナのほっぺに、ダインは苦笑してしまった。

 ダイン おいおい、そんなのどこで覚えてきたんだよ
 ダイナ シャルおばちゃんが教えてくれたの。帰ってきたら、男の人はチューしてくれるって
 ダイン シャルか…懐かしいな
 ダイナ ほ〜ら、チューして
 ダイン はいはい

ダインはダイナのほっぺに近寄るとそこに手を着き、そして唇をそっと押し付けた。
瞬間、目に見えてにんまりとするダイナ。

 ダイナ えへへ〜、パパ大好き♪

あてがっていた手をそのまま頬に当て頬ずりをする。
巨大な幼い手と頬の間に挟まれるダインだった。
するとダイナの後ろから鈴の音の様に透き通りつつも威厳のある声が轟いた。

 こらダイナ、パパにあまり無茶させるなよ
 ダイナ あ、ママ!

頬から手を離したダイナがくるりと振り返ると、山の向こうからダイナと同じ赤く長い髪を靡かせ同じ赤いワンピースを着た、されどこちらは太陽の様に爛々と輝く赤い瞳の巨人が見下ろしていた。
身体つきこそ少女のそれだが、目に満ちる自信、身体より漲るオーラ、その威厳は見る者を跪かせる。
絶対たる覇者。魔王クラナである。

ダイナはダインを手に乗せたままクラナのもとに駆け寄り、クラナはダイナをそっと抱き上げた。
クラナの手に抱かれたダイナ。その手のひらの上に座るダイン。

 ダイン 無茶ねぇ。お前も昔は散々やったじゃないか
 クラナ 私はちゃんと加減をしていた。ダイナはまだ子どもだからな
 ダイナ ママー、おやつ食べたーい
 クラナ そうだな、早く城に帰ろう。そう言えば今日はエリーゼとマウが来るらしいぞ
 ダイン そうなのか。久しぶりだな

言ってる間にダインはダイナの手からクラナの肩へと移動していた。
それを見届けたクラナはフッと笑うと城に向かって歩き出した。


  *
  *
  *


城、玉座の間。
玉座に座るクラナと横のテーブルに座るダイン。
ダイナは床の絨毯の上にペタンと座りアイスを食べていた。
そして暫くすると静かだった城の中に明るい声が響き渡った。

 エリーゼ やっほー! 遊びに来たよー!
 マウ お邪魔します

玉座の間入口から現れたのはエリーゼとマウ。
二人ともいつもの踊り子のような衣装と女中の服。
クラナとダインも軽く挨拶を返した。
すると座ってアイスを食べていたダイナがぴょんと飛び上がって叫んだ。

 ダイナ あ! エリーゼおばちゃん! マウおばちゃん!
 エリーゼ ダイナちゃんひさしぶり〜!
 マウ こんにちは、ダイナちゃん

駆け寄りあったダイナとエリーゼが抱き合ったままくるくると回る。
それを微笑ましく見守りながらマウはクラナたちのところへと来た。

 マウ お久しぶりです、おかわり無い様で何よりです
 クラナ ああ、そっちも息災のようだな
 ダイン 久しぶり。元気そうで良かったよ

数年ぶりの再会を喜び合う3人。
そんな3人の横でダイナとエリーゼはお互いの身体をペタペタと触りあっていた。

 ダイナ エリーゼおばちゃんおっぱい大きいよね〜。いいな〜
 エリーゼ 大丈夫、クラナちゃんおっぱい大きいからダイナちゃんも大きくなるよ。ダインはおっぱい好きだから頑張って大きくならないと
 ダイン 何変な事教えてんだお前は!
 エリーゼ えー昔はあんなにたくさん触ってくれたじゃない。でも最近また触ってもらいたくなっちゃったんだー

言うとエリーゼはダインのいるテーブルへと近づいてきた。
ダインの目の前に、エリーゼが聳え立つ。
テーブルの上から見えるのは腰ほどから上だけだが、それでもダインのいるテーブルを影に覆うには十分な大きさだった。
降りてきたエリーゼの指がダインを摘み上げ、胸の前へと連れて行った。
目の前には小山ほどの大きさがあるエリーゼの巨大な乳房が現れていた。
呼吸に合わせてゆっくり上下する動く山である。
抗議しようとしたダインだが目の前に現れた胸を見て思わず顔を赤らめ言葉を飲み込んでしまった。
その胸を覆っていた布がどけられ、白くて丸くて大きな乳房がぷるんと飛び出てきた。
ピンク色の乳首がダインの目の前で上下に動く。
乳首の揺れが収まると、指はダインをその上に置き去りにした。
エリーゼの乳首にへばりつく格好になったダイン。

 ダイン こ…こらーーーーーーーーーーーー!!
 エリーゼ えへへ、この感触久しぶり〜。くすぐったくて気持ちいい

頬に手を当てて身体を捻るエリーゼ。
その間ダインはゆっさゆっさと良く弾む乳房に全力でしがみつかねばならなかった。
そんな父親の姿を横からじっと見ていたダイナである。
クラナが苦笑しながら言った。

 クラナ おいおいエリーゼ、久しぶりに会って嬉しいのはわかるが、もうそういう事はやめてやれ。ダインだって父親なんだ。自分の娘に女の乳房にへばり付いている姿を見られたら卒倒ものだぞ
 エリーゼ あ、そっかー
 ダイン わ、わかってんならもっと早くとめろよ!
 クラナ くくく。いや久しぶりに見て面白かったんでな
 エリーゼ ごめんねダイナちゃん、ダインで遊んじゃった

言いながらエリーゼはダイナの顔を覗きこんだ。
両手を膝に当て上体を屈めるようにしてである。
結果、胸板からぶら下がる形になった乳房に、ダインはガッシリとしがみつき落とされまいと指を肉に食い込ませなければならなくなった。
ダイナの目の前には、女の乳首にしがみつく父親の姿があった。
きょとんとした表情で見つめている。

 ダイナ パパー、楽しい?
 ダイン 楽しいわけあるか! いいから助けてくれ!
 ダイナ はーい

ダイナはエリーゼの乳房の下に手のひらを差し出した。
ダインの丁度真下である。
手を離したダインはダイナの手のひらの上に落下した。
大の字になるダイン。

 ダイン 助かった…
 ダイナ 

ダイナの視線はまだ目の前のエリーゼの胸に注がれていた。
そしてダインを乗せていない方の手を伸ばすとその胸をツンツンとつつき始めた。

 エリーゼ どうしたのダイナちゃん?
 ダイナ 

エリーゼの問いかけにも応えず、ひたすらにエリーゼの胸を触るダイナ。
ダイナの細く小さな指がエリーゼの胸をぷにぷにとへこませる。

 ダイナ やっぱりエリーゼおばちゃんおっぱい大きいねー
 エリーゼ そうかなー。でもマウちゃんはもっと大きいんだよ
 ダイナ そうなの?

とマウを振り向くダイナ。
マウは胸を抱くようにして隠し顔を赤らめてしまった。
ダイナはマウのもとに歩いていくとマウの胸をじーっと見上げた。

 マウ あ、あの、ダイナちゃん…(赤面)
 ダイナ …(じーっ)

真下からつぶらな瞳に見上げられてあうあうと困るマウ。
その瞳はダインと同じ色でありそれが余計にマウの心をざわつかせた。
暫くマウを見上げていたダイナは空いている手で自分の胸をぺたぺたと触る。

 ダイナ ダイナの胸も大きくならないかな〜。そしたらパパを乗せてあげるの
 ダイン エリーゼー! お前の影響受けてるぞ!!
 クラナ いやそうしろと言ったのは私だ
 ダイン お前かぁぁぁあああッ!!
 ダイナ 大きくなったら乗せてあげるから待っててねパパ!
 ダイン やめなさい。やめときなさい

我が子の夢を、やんわりと壊すダインだった。


  *
  *
  *


食堂にて昼食。
昔と同様、テーブルの上の小さなテーブルに着く一同。
調理場に立つのはマウと、クラナ。

 エリーゼ クラナちゃんはお料理上手になったよね〜
 クラナ まぁ私が本気を出せばこの程度の事はな
 ダイン ダイナのために必死で覚えてな。でなきゃ俺が作り続ける事になってただろ…

そしてみなの前に並ぶ数々の料理。
皆が自分の席へと着席。
クラナとダインの間にはダイナの子ども椅子が置かれていた。

 クラナ では食べるか
 エリーゼ いただきまーす!
 ダイナ いただきまーす!

料理を皿に取り分けていく。
自分の分を取ってもらったダイナもスプーンを手にそれを食べようとする。
が、

  ポロ

落としてしまった。
落としたおかずを見てボーっとしているダイナを見てダインは苦笑した。

 ダイン はは。ほら、食べさせてやるから

途端にパッと輝くダイナの顔。
ダインは自分の箸でおかずを挟むとそれをダイナの口元に持っていく。
するとダイナは、まるで雛鳥の様にパクンとそれに飛びついた。
もぐもぐ。
頬を押さえ幸せそうな顔で食べている。
それを見ていた一同全員が同じく笑顔になった。
和む。確かな平和がここにあった。
ただひとり、指を咥え羨ましそうに見つめる姿も。

 エリーゼ いいなぁ…
 ダイン お前なぁ…
 エリーゼ ほらほら、あ〜ん(口を開ける)
 ダイン マウ、お願い
 マウ はい(おかずをエリーゼの口に入れる)
 エリーゼ パク。うぅ〜ダインの意地悪
 ダイン ダイナの面倒見てるのにこの上なんでお前の面倒も見なきゃならないんだ!
 エリーゼ うぅ〜…
 クラナ くく、大好きな父親を妹に取られた姉のような顔をしているぞ

そんなやりとりを見て笑うクラナは手をカチャカチャと動かしていた。

 ダイン お前も野菜をどけるな!
 クラナ うぐ…っ。だ、だってまだマウの様においしくは作れないから…

皿の隅に野菜を取り分けていたのを咎められシュンとするクラナ。

 ダイン 親子両方とエリーゼの面倒も見なきゃならんのか…。頼りになるのはマウだけだよ…
 マウ あはは…

ダインはため息をつき、マウは苦笑した。


  *
  *
  *


食後。
玉座の間。

 ダイナ パパーご本読んでー

ダイナが絵本を持って走りこんできた。
サイズはダイナサイズ。描いたのはシャルである。

 ダイン あいよ。じゃあそこに座って
 エリーゼ ダインーあたしもー
 ダイン お前も!? あーわかったわかった。で、どうやって読めばいい?
 エリーゼ じゃああたしがあの箱に寄りかかって座るからー…

とエリーゼの指差した先には何故か箱がおいてあった。縦横奥行きそれぞれ100m。
その箱に寄りかかり脚を開いて座るエリーゼ。

 エリーゼ ここにダイナちゃんが座って、ダイナちゃんの手の上にダインが乗ればいいよ
 ダイン そだな。それでいっか

エリーゼの脚の間に座ったダイナはエリーゼに身体をもたれかからせ両手を重ねその上にダインを乗せる。
絵本はエリーゼが持っていた。
エリーゼがページめくり、ダインが読むのである。

 エリーゼ じゃあめくるよー
 ダイン ああいいぞ
 ダイナ わーい!

ぺらり。
めくられる表紙。
そしてダインはそこに書いてある文字を読み始めた。

 ダイン 昔々あるところに…
 エリーゼ・ダイナ 「ぐー…zzZ
 ダイン 早いよ!

二人は眠ってしまった。
はぁ…。
ダイナの手から飛び降りたダインはダイナとエリーゼの脚を飛び越えて玉座に向かって歩き出した。
その先ではマウが手を差し出してくれていた。
手に乗ったダインはテーブルの上へと降り立つ。

 ダイン なんなんだっての…
 クラナ くくく、ご苦労だったな
 ダイン 苦労できてない…

テーブルの上からそこに寄りかかりあって眠るエリーゼとダイナを見下ろした。

 ダイン ったく、お前ら姉妹か…
 クラナ 確かにこいつ等は行動が似てるな。まぁ子どもだと言えばそれまでだが
 マウ くす。本当、そっくりですね

ぐー…と眠る二人を見下ろして三人は笑った。


  *
  *
  *


 クラナ そろそろ風呂に入るか
 ダイン そうだな
 ダイナ わ〜いお風呂お風呂〜
 エリーゼ ダイナちゃん一緒に入ろー
 マウ じゃあお着替え用意してきますね

一同もろもろの準備を済ませて風呂場へと向かう。

  カポーン

風呂場。
例によって例の如くそこにひとり立つダイン。
広さこそ昔と変わらず天壌無窮だがところどころに昔は無かったおもちゃが転がっているのが見える。
湯船に浮かぶアヒルや小さなボール。水鉄砲のようなものまで。
だが横に転がっているアヒルですらダインから見れば家よりも大きな巨大物である。
すべてがダイナの大きさに合わせて作られていた。作ったのはシャルである。
腰にタオル一枚巻くのみのダインはそれを見上げ『ふむ』と肯いた。

 ダイン そろそろアヒルで遊ぶ歳でもないか。ま、もう暫くはおいといてもいいだろ

と、そんな事を呟いたとき、後ろの戸がガラリと開いた。

 ダイナ パパーお待たせー!
 クラナ 悪いな。ダイナとマウの服を脱がせるのに手間取った
 マウ わ、私は自分で脱げます!
 エリーゼ あれ? どうしたのダイン?

尋ねるエリーゼの先でダインは苦笑している。
そのダインはエリーゼたちを見上げていた。
風呂に入るので当然 服は脱ぐわけだが、その肌を隠そうともしないクラナ・エリーゼ・ダイナ。
その後ろでマウはタオルを巻いている。
4人の巨人が眼前に居並ぶ。
彼女達の身体は湯煙の中に霞み幻想的でとても美しかった。
が、ダインが苦笑したのはもちろん美しかったからではなく、全員の様が昔とまるで変わっていなかったからだ。

 ダイン くくく。お前ら、10年経っても同じことやってんのか
 クラナ まったくだ。いい加減慣れろと言うのに
 マウ 恥ずかしいものは恥ずかしいです…
 エリーゼ それよりダイン、タオル巻いてるの?
 ダイン ま、一応な
 ダイナ でもいつもダイナとママと入るときはしてないよ?
 ダイン エリーゼとマウの前だからな。裸になるのは家族の前だけ
 エリーゼ 見たーい
 ダイン お前とマウに見られるのはやっぱりまだ恥ずかしいよ。じゃあとっとと身体洗って湯に浸かろうぜ
 クラナ だな。ダイナ、ダインを連れて来い
 ダイナ はーいママ

クラナたちが地響きを立てながらシャワーへと向かう中、ダイナが近寄ってきた。
見た目は幼子だが人間の城よりも大きいのだ。
ズン! ズズン! ズズゥン! 床が激しく揺れ動く。大した事では無いが。
当然何も身に纏っていないので身を隠すものは何も無い。
上から下まで全開である。
子どもらしい幼児体形だった。
それがクラナたちを見上げたときの様に気持ちがざわつかないのは、まぁ人として当然とも言うが、それ以前にダイナが自分の娘であるからだろう。
愛おしさとは、欲望にイコールではないのだ。
ズズゥン! ダインの目の前にダイナの巨大な足が踏み降ろされた。
クラナたちと比べれば小さな足だが、それでもダインと比べればはるかに大きい。
ダインはいいとこ親指とどっこいというところだろうか。家をくしゃりと踏み潰せる足である。
ダインの前に立ったダイナは身をかがめると、まずあのアヒルを手に取った。
家よりも大きなアヒルは巨大な手でガシッと掴まれひょいと持ち上げられていく。
そのついでにしゃがみこんだダイナはダインの前に手を差し出してきた。
手の上に飛び乗るダイン。
それを確認したダイナは立ち上がるとトテテテ…と軽く走り始めが、

 ダイン 走るな。転ぶぞ
 ダイナ はーい

すぐに歩き直した。
ふと、ダインの身体がつまみ上げられ、ダイナの胸にあてがわれた。
ツルッツルのペッタペタで掴まりようの無い胸の乳首の上にくいくいとこすりつけられる。
見上げてみたダイナの顔は困ったような表情をしていた。

 ダイン …なにしてるんだ?
 ダイナ エリーゼおばちゃんみたいにパパをおっぱいに乗せたかったのにできないの…
 ダイン できなくていいんだよ
 ダイナ でもママだってできるのに…
 ダイン クラナ…エリーゼ…ほんと余計な事を…。…。…ダイナだって大きくなればできるようになるさ
 ダイナ …そうかな?
 ダイン そうだよ。だから落ち込むな
 ダイナ うん!
 ダイン …機嫌取るのも楽じゃないんだから…

ため息をつくダインを乗せたまま、ダイナはシャワーの前へと到着した。
そこにはすでに他の三人がシャワーの前で身体を洗っていた。
ダイナも空いている椅子へペタンと座り、すると横のクラナが立ち上がってダイナの後ろへと回った。

 クラナ 髪を洗うぞ

ダイナの赤い髪の合間にクラナの指が滑り込む。
そしてわしゃわしゃと動かされるとそこに白い泡が立った。
もくもくとまるで雲の様に。
キュッと瞑られたダイナの目。
手に乗せられたダインも自分の頭を洗い始める。
クラナに髪を洗ってもらうダイナの手の上でダインが自分の頭を洗う。
亀の子状態だった。
ちなみに横ではエリーゼがマウに髪を洗ってもらっていたりした。

  バシャアッ!

頭から水を被せられぷるぷると頭を振るダイナ。
揺れる手の上で転がるダイン。

 ダイナ パパー背中洗ってあげるー

石鹸の着いたダイナの指がダインの背中に伸ばされこしこしと撫でる。
小さな背中は小さなダイナの指でも十分に洗うことができた。

 ダイナ お客さんー痒いところはありますかー?
 ダイン どこで覚えた…。あとそれ頭だから

その後、ダインは全身泡塗れになっていたがそれはダイナが片手にすくった一杯の水で洗い流された。


  *
  
  
湯に浸かる一同。
ダインはダイナの手に平の上に溜められた湯の中にいた。
その前でクラナが淵に身体をあずけたままふぅーと息を吐き出した。

 クラナ やはり大勢で入る風呂はいいな。いつもの3人だとこの風呂は広すぎる
 ダイン 5人になったくらいでそんな変わるか
 エリーゼ そういえば初めてマウちゃんと一緒にお風呂入ったとき、マウちゃんてダインをお尻に挟んじゃったんだよね〜
 マウ え、エリーゼちゃん! 変な事思い出さないで!
 ダイン ああ…あったな…
 クラナ くくく。あったあった。マウの尻の間からダインの足がピョンと飛び出てるのを見たときはどうしようかと思ったわ
 マウ く、クラナさん!
 ダイナ そんなことがあったんだー。ねぇパパー、ダイナのお尻にも挟まれたい?

言いながらダイナはダインを湯面に浮かせ立ち上がりお尻を向けた。
ダインの目の前には巨大なお尻が潰さんばかりに自分の視界と上空を埋め尽くしていた。

 ダイン やめなさい…。女の子が男にお尻を見せるもんじゃありません
 ダイナ パパもダメなの?
 ダイン ダメです
 ダイナ はーい

そしてその巨大なお尻はゴゴゴゴと湯の中に沈んでいった。
波立つ海面に浮かぶダインは小山の様なお尻が沈んでいく様をため息をつきながら見守っていた。

 ダイン お前も止めるなりなんなりしろよ
 クラナ お前の仕事だ。私は放任主義だからな
 ダイン さんざん構ってるくせに
 クラナ ふふ、当然だ。我が子がかわいくない親がいようか
 エリーゼ てい!
 マウ きゃあ!

語るクラナを横に、エリーゼがマウのタオルを剥ぎ取った。

 マウ え、エリーゼちゃん!?
 エリーゼ 思い出したの! あの時は見れなかったけど今日こそマウちゃんのおっぱい見る!
 クラナ お前等、人がせっかくいい事を言ってる横でだなぁ
 ダイナ わぁ! マウおばちゃんもおっぱい大きいね!
 マウ 恥ずかしい…

マウは胸を隠し肩まで湯に浸かってしまった。

 マウ あ…! ダインさんは…
 ダイン 見てないから。大丈夫、背中向けてるから

実際、ダインは背を向けていた。
ダイナがざぶざぶとマウに近づいてゆく。
そしてマウの手の上から自分の手を重ねてマウの胸に触る。

 マウ あ、あの…ダイナちゃん?
 ダイナ おっきい…

マウの手越しでもその弾力は感じることができた。
仮にダイナが直に鷲づかみにしても大きなそれはまるで収まり切らないだろう。

 ダイナ ママもエリーゼおばちゃんもマウおばちゃんもみんなおっぱいおっきいねー。誰が一番大きいの?
 クラナ さぁな、比べた事も測った事も無いからな。エリーゼじゃないのか?
 エリーゼ あたしはマウちゃんが一番だと思うな
 マウ わ、…私はクラナさんだと思います。ダイナちゃんが生まれてから一段と大きくなりましたし…、…それに、ダイナちゃんを産んでも身体が凄い綺麗ですよ
 クラナ そうか? 自分ではわからんな。ダイン、ちょっと調べてくれ
 ダイン どーゆー流れでそーなった! 俺関係ないだろ! てか、いづらいわ! 俺出るから!

顔を真っ赤にして淵に向かって泳ぎだしたダインをクラナが摘み上げる。
そして自分の乳首の上に降ろした。

 クラナ とりあえずこうしてダインを乳首に乗せ、揺さぶったときのダインの悲鳴の大きさで判断するのはどうだろう?
 エリーゼ さんせー! あたしもやるー!
 マウ そ、そんな…!
 ダイン できるかボケー!
 クラナ 私はいつも乗せているからな。まずは他の二人にやってもらおうか

と、クラナはダインをエリーゼに向かって放り投げた。
はっしとキャッチするエリーゼ。
そして自分の乳首の上に降ろした。

 エリーゼ ダイン〜しっかり掴まっててね〜

視界いっぱいのエリーゼの笑顔がダインの額から汗を流させた。
エリーゼは身体を軽く上下に動かした。
するとダインの乗っている乳房も上下にゆっさゆっさと弾む。
すべすべぷにぷにの肌に掴まるところなど無い。
全力で、全身でエリーゼの乳首にしがみつく以外身体を固定する方法は無いのだ。
手足を乳首に食い込むほどにまで押し付ける。

 エリーゼ あはは! ダインくすぐったいよ〜

言いながら今度は身体を左右に回転させた。
結果ダインは横方向に凄まじい勢いで振り回された。
ギュウン! ギュウン! エリーゼの乳房が湯気を吹き飛ばしながら振りぬかれる。
ダインは身体が半ば振り飛ばされ、今は両手で乳頭にしがみついている状態だった。
エリーゼの身体を起点とした回転の遠心力。
それに一歩遅れて動く柔らかく巨大な乳房は遠心力と元の形に戻ろうとする力が相乗し、その乳房の先端である乳首はその強まった力を最大に集めていた。
そんなところに掴まるのは竜の尾に掴まることよりも難しく、いくらダインといえど、魔王の巨大な乳房の前にはかなわないのである。
痺れた手が、乳首を離してしまっていた。
高速で吹っ飛ばされるダイン。

  スポン

 マウ はぅ!?

ダインは、隠すために抱きかかえられていたためにできていた乳房の谷間に飛び込んでいた。
いきおいもあり、その身体はすっかり胸の間に埋まってしまった。

 マウ えぇぇえええ!? だ、ダインさん!?

マウは顔を真っ赤にして慌てることしかできなかった。
片手を伸ばし自分の胸の谷間からダインをつまみ出すことはできるだろう。
だがそうすると、ほぼ裸のダインを目の前で見ることができてしまう。
指先ほどの大きさだがしっかりと鍛えられた男らしい肉体を。
それは、見ている自分が恥ずかしくなってしまう。
そんな妄想をして、マウはさらに胸を強く抱き寄せてしまった。
その結果、胸はより強く寄せられ谷間は深まるばかりだった。
そこにエリーゼがざぶざぶと歩いてくる。

 エリーゼ あはは、ごめんねマウちゃん

エリーゼは笑いながらマウの胸元に手を突っ込むと、そこから小さなダインを摘み上げた。
エリーゼの指先に下半身を摘まれぶらんと吊るされたダイン。

 ダイン お前な…
 エリーゼ 大丈夫だった?
 ダイン 勘弁してくれ。俺だって若く無いんだ…
 エリーゼ マウちゃんのおっぱいはやわらかいから大丈夫だったでしょ
 マウ あぅ…

今度は口まで湯に浸かりぶくぶくと泡を立てる。

そんな光景を横で笑いながら見ていたクラナときょとんとして見ていたダイナ。

と、不意にクラナが笑うのを止め、エリーゼもそれに気づいた。
お互いの視線が数秒重なる。
するとエリーゼがにんまりと笑い、クラナもにやりと笑った。
エリーゼがダインをもう一度自分の乳首に降ろす。
全員の視線がそれに集まっている間に、クラナは少し魔力を遣った。

 マウ ひゃう!

突然、マウが立ち上がった。
理由はお尻の間を撫でられるような感覚を覚えたから。
クラナが水を操ったせいである。
立ち上がり、思わず胸を開放してしまったマウの乳房がぶるんと揺れた。
それを見計らったエリーゼはマウに抱きついた。

 マウ え、エリーゼちゃん!?
 エリーゼ そーれマウちゃん、ぎゅ〜!

マウの身体を思い切り抱き寄せる。
裸の二人が密着する。
この時のマウは何でエリーゼが抱きついてきたのかわからずただおろおろするばかりであった。
だが今すでに、ダインは窮地へと追い込まれていた。
エリーゼの乳房に乗っていたダインはエリーゼがマウに抱きついた瞬間、しがみついている胸とは逆方向から高速で迫ってきた乳房に押し潰され、今はその二つの乳房の間に捕らわれている状態となっていた。
巨大で、やわらかく、かつ弾力があり、例えるならそれはゴム鞠が水風船。
お互い負けじと押し合う乳房の間でぎゅうぎゅうと挟まれている。
どれだけやわらかくとも、これほど巨大な乳房に挟まれては、身動きなどよれよう筈も無い。
ダインは今エリーゼの乳首に張り付くような格好で、その背中からはマウの乳首がぐいぐいと押し込んできている。
お互いの乳首がお互いの乳首にダインを押し付けあっているのだ。
さらにマウのそれは乳首の頂点乳頭で一段と圧力が掛かる。
それぞれの乳首に埋められるようにしてめりこみ沈み込むダインだが、マウの方が乳頭である分、エリーゼの乳首へめりこむ方が強かった。
ピンク色の壁面に押し付けられ呼吸もできないダインは、久々に、自分の身体がメキメキと音を立てるのを聞いた。
抱き合ったまま湯船に倒れこむ二人。
マウを下にして倒れた二人は大きな水柱を立て大波を起こした。
その中からザバァアと大量の湯を滴らせて身を起こすエリーゼ。

 エリーゼ あは、倒れちゃった

その下から同じ様に湯を押しのけて上体を起こしたマウ。

 マウ けほっけほっ。ビックリした…

そんなマウを見た後でエリーゼは自分の胸にダインが乗っていない事に気付く。
どこにいるかと探してみるとダインは…。

 エリーゼ あ、ダイン
 マウ え!?

エリーゼが見下ろしていた先に視線を合わせるマウ。
ダインは、自分の乳首に抱きつくようにして横たわっていた。

 マウ だ、ダインさん!?

マウは慌てて上体を起こし、そのせいでダインは乳首から放り出され湯面にぽちゃんと落ちた。
慌てたままそれをすくい上げるマウだった。

 マウ 大丈夫ですか!?
 ダイン 久々に、死ぬかと思った…

ハハ…渇いた笑いを漏らすダイン。
マウは自分が胸を晒していることなど忘れてしまっていた。

そんなダインを、ダイナがひょいと摘み上げた。
そして湯面をさぶざぶとかき混ぜながらクラナの元へと持ってゆく。

 ダイナ はいママ
 クラナ よし、いい子だ。キツかったか、ダイン?
 ダイン お前とエリーゼがアイコンタクトしたとき、嫌ぁな予感がしたんだ…
 クラナ くく、ご苦労。しばらくそこで休んでろ

ダインは、今度はクラナの乳首の上に降ろされた。
淵に身体を預けるクラナはやや斜めの体勢になっており、ダインをそこに乗せても落ちることは無い。
うつぶせるような格好でそこに乗っているダインは安堵の息を漏らしていた。
やはりクラナは、他の誰よりも安心できる。
例えそこが乳首の上でも、ダインはそう思った。
ダインの安らかな表情を見てクラナも穏やかに笑った。
そんな様を指を咥えて見ていたエリーゼとマウ。
はぁ…。ダインは全身の緊張を解いて、身体をクラナの乳房に預けた。

ふと、ダインの周囲が陰る。
何かと思って上を見たダインの視線の先ではダイナが自分を見下ろしていた。
どうした?と聴こうとした瞬間、ダイナが顔を下ろしてきた。
その口がゆっくりと開かれてゆく。影になって良く見えないが舌が動いたのがわかった。
何を…と、思っている間に、ダインの見上げる視界は、ダイナの口だけになっていた。
周囲が更に暗くなる。

 ダイン え…?

ダインがポカンとした表情で呟いた。

  はむ

ダイナは、ダインごとクラナの乳房に吸い付いた。
クラナもお?と苦笑するばかり。
そんなダイナは両手でクラナの乳房を押さえ、んくんくとミルクを吸いだそうとした。

 クラナ おいおい、お前はもうそんな歳じゃないだろ。それにそんなことをされるとダインが私のミルクで溺れる上にお前に呑み込まれるかもしれん

クラナはダイナの顔を押し戻した。
ダイナの口とクラナの乳首の間にツッ—…と糸が引く。
だがそこにダインの姿は無かった。

 クラナ おや?

自分の乳房を見て首をかしげたクラナは次にダイナの顔を見た。
頬をリスの様に膨らませている自分の娘。
クラナは苦笑しながらダイナに口を開けるよう指示した。

 クラナ まったく…。ほら、口を開けろ
 ダイナ あーん

言われたとおり口を開けるダイナ。
ぽっかりと開けられたダイナの小さな口の向こうには、舌の上に転がるダインの姿があった。

 クラナ 大丈夫か? …と、訊いても無駄だな
 ダイン …死ぬ…。自分の娘に殺される…

舌の上にうつ伏せるダインは最後の力を振り絞るようにして震える手をクラナの方に伸ばすが、

  ぱく

ダイナが口を閉じた事により手は闇を掴むばかりだった。


  *
  *
  *


風呂から上がった後、暫くわいわいと昔話に花を咲かせていた一堂だが、やがてダイナがこっくりこっくり船をこぎ始めたことでお開きとなった。
ダインを手に握ったまま眠りかけているダイナを抱き上げクラナは寝室へと入る。
ベッドの中へと入る二人。
が、横になろうとした時、ダイナが手を開いて言った。

 ダイナ パーパぁ…おやすみのチュー…

頬にダインを乗せた手があてがわれる。
やれやれ。自分の頬をぽりぽりとかいた後、ダインは娘の頬にキスをした。
にこーっと笑ったダイナは今度はその手を顔の前に持ってきて言う。

 ダイナ 今度はダイナの番ー…

軽く『う』の時になった巨大な唇がダインへと近づいてくる。
上下の唇の幅を合わせれば、身長よりも広い唇である。
唇はダインを押し倒し手のひらとの間に挟んだ。
数秒間の押し付けを済ませ唇は離れてゆく。

 ダイン おやすみ…パパ、ママ

笑顔でそう言ったのち、

  パタン

ダイナは力尽きるように倒れ寝息を立て始めた。
倒れる寸前、脱出していたダインは横たわる巨大な娘の寝顔を見つめてふぅと息を吐いた。

 ダイン やーれやれ、まったく。かわいいもんだ
 クラナ フフ、だな。お前の娘だ
 ダイン ああ。自慢の…な

月明かりのみが照らす室内。
照らされるその寝顔を見て二人は笑顔になった。

 ダイン さて、じゃあ俺達も寝るか
 クラナ 待てダイン
 ダイン ん?

寝る準備をしようとしたダインはクラナを振り返り見上げた。
クラナは上着のボタンを外していっていた。

 クラナ ダイン…二人目が欲しいとは思わないか?
 ダイン くく、おいおい、ダイナの目の前だぞ
 クラナ ははは、冗談だ。ちょっと星を見に行こうか

言うとクラナはダインを手に乗せて寝室を出た。
肌蹴られた胸元はそのままであったが。

城。屋上。
そこからは満天の星空を見上げることができた。
大輪の月とちりばめられた星々。
まるで降るような光景。
屋上の淵に座りそれを見上げるダインと屋上の淵に持たれかかりそれを見上げるガウンを羽織ったクラナ。

 クラナ いい月夜だな
 ダイン ああ
 クラナ 初めてお前と星空を見上げたのは、アークシードからの帰り道だったか
 ダイン 懐かしいな。まったく無茶したよなあの時は
 クラナ くく。国のためにたった一人身を投げ打って戦ったのだからな

二人の会話はこの星空にとけるように消えてゆく。
あの時とかわらぬ星空だった。

 クラナ あの時お前に出会えてよかった
 ダイン それは俺も同じさ

いつの間にか二人は星空ではなく互いを見つめていた。
静かに差し出されるクラナの手に乗るダイン。
お互いの距離が近くなる。

 クラナ 愛している、ダイン
 ダイン 俺もだよ、クラナ

壮大な星空を背景に月明かりの中シルエットになる二人は優しく唇を重ねあった。
ひとすじの流れ星が天に煌いた。


















 ダイン …ん?

顔に差し込んできた陽の光を受け、ダインは目をうっすらと明けた。
欠伸をし目を擦り、身体を起こす。
寝室。広大なベッドの上である。
横を見ても、そこに自分の娘の姿は無い。

 ダイン …夢か

脳裏にまだ鮮明に残るその笑顔を思い出す。
平和な未来の図だった。
皆、幸せに暮らしていた。
いつか…いつかはあの夢にたどり着くのだろうか。
幸せな未来を思い描いて、ダインは笑顔になる。
そして反対の横を振り返ればクラナの巨大な寝顔があった。
すやすやと安らかな寝顔。
その寝顔は、ダイナの寝顔にそっくりだった。

 ダイン ま、親子だもんな

立ち上がったダインはクラナの枕に飛び乗るとその耳元で声をかけてクラナを起こした


  *
  *
  *


朝食。
トーストをかじるクラナとコーヒーを飲むダイン。

 クラナ なぁダイン
 ダイン んん?(ずず…(←コーヒーを飲む))
 クラナ こどもができたらダイナという名前にしようと思うのだが
 ダイン ブフッ!!(←噴き出した)



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 〜 魔王クラナ 〜


  『いつか』 おわり

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