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 ~ 魔王クラナ ~


  『マウに』

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玉座の間。

 クラナ 「マウ、ちょっと来てくれ」
 マウ 「はい」

玉座の前。

 クラナ 「玉座に座ってくれ」
 マウ 「? わかりました」

言われた通り玉座に座るマウ。
すると玉座の背後から現れた影がサササッと玉座の周囲を走り、気づけばマウは玉座にロープで縛り付けられていた。

 マウ 「えぇー!?」
 エリーゼ 「ふー。これでいいかな?」
 クラナ 「うむ」

満足そうにうなずくクラナと影の正体のエリーゼが笑う。
少し離れたところに置かれていた小さなテーブルの上。

 ダイン 「何やってんだ…?」

目の上に縦線を引いたダインがいた。

 ダイン 「なんで縛ってるんだよ。放してやれ」
 クラナ 「くくく、まぁ見ていろ」

クラナは上半身を玉座に縛り付けられ動けなくなったマウの足を手に取ると履いていた靴を脱ぎ取った。
次いでその脚に纏っているストッキングを引っ張り脱がす。

 クラナ 「ちなみにマウはガーターベルトだ。覚えておけ」
 ダイン 「いや、だから何で脱がす…」

スカートの中に腕を突っ込みベルトを外すクラナ。
顔を真っ赤にしてマウが抵抗するも、足をエリーゼに押さえつけられてしまって何も出来ない。
マウはあっという間に素足に剥かれていた。

 マウ 「か、返して下さい~!」
 クラナ 「断る! ふふ、というわけでダイン。ここに一本の木があるわけだが」

見ればクラナの手には確かに木が握られていた。
細い棒の様に見えなくも無いが、それはクラナが手にしているからそう見えるのであって、実際は見上げるほどに大きいいたって普通の木である。

 ダイン 「…で?」
 クラナ 「これを、こうする」

クラナはマウの片足を手に取ると、その親指と人差し指の間に木を挟みこんだ。
クラナが手を放しても落ちない。指は完全に木をそこに捕らえていた。

 マウ 「と、取って下さいよ~!」

指の間に何かが挟まる不快な感触に半泣きのマウが足を動かすと、木もその動きを追従して動く。
何十年と時をかけて成長した木が 少女のマウが足を動かすことで 幹が折れんばかりに振り回される。
無数の葉をつける枝がバッサバッサと音を立てて振られた。

 クラナ 「いい感じに安定した。そして仕上げに…」

クラナが目配せをするとエリーゼは にぱっ と笑って頷いた。
で、マウの、木を挟んでいない方の足を手に取ると、その足の裏を別に用意した木でくすぐり始めた。

 マウ 「え? あ、あは、あはははははは!」

笑い出すマウ。
あまりのくすぐったさ。それから逃れたく体を動かそうとするが上半身は固定され、動くのは脚くらいのものである。
片足はエリーゼが押さえ込んでいるので、残るはあの木を挟んでいる足のみ。
エリーゼは木に生い茂る葉々でマウの足の裏をくすぐり続けた。

 マウ 「あははは! や、やめてください~! あははは!」

泣きながら笑い、笑いながら泣くマウ。
そのとき、

  メキィッ!

鈍くながらも甲高い音。
それと共に宙に放り出され、ひとつは床に。もうひとつはテーブルの上にいたダインの真横に墜落した。
床に落ちたのは たくましい根を携えた木の下半分。
ダインの横に落ちたのは、無数の青い葉を茂らせた木の上半分。

 ダイン 「…。…は? え?」

さっきまでそれらがあったそこには何もなく、ただ固く握られたマウの足があるだけだった。

 クラナ 「うむ。実験成功」
 ダイン 「いや、成功…じゃなくて何やらせてんだクラナ!」
 マウ 「ああダインさんすみません!」
 エリーゼ 「わーい真っ二つー!」
 クラナ 「見たか? 今のはくすぐらせて無理矢理 力を込めさせたわけだが、マウは足の指の力で木をへし折ったわけだ」
 マウ 「は、はぅ…」(赤面)
 ダイン 「なんでそんなことさせる必要があった! かわいそうだろ!」
 クラナ 「くくく。お前にマウの力を見せ付けておきたかったのだ。…で、だ。ここからが本番なわけだが…」

  ひょい ぐい

摘まれて押し込まれたダイン。
そこは、マウの足の指の間。
さきほどまで、あの木が挟まっていた場所である。

 ダイン 「なにぃぃぃいいいい!?」
 マウ 「えぇぇぇえええええ!?」
 クラナ 「ではエリーゼ、くすぐりスターt…」
 ダイン 「ま、待て待て! 本気か!?」
 マウ 「やめてください! だって、だって…」

全員の視線が、折れた木に集まる。

 クラナ 「ま、ダインなら大丈夫だろ」
 ダイン 「いやいやいや! なんでこんなことするんだ! ……って、訊いても無駄だよな…」
 クラナ 「うむ。私が暇だからだ」

胸を張るクラナをマウの足の指の間から見上げ ダインはため息をついた。

 クラナ 「それに、あえてそこにマウを添えることで、本来そんなことをしたくないマウにそれを強制させダインを弄ぶという」
 ダイン 「このドS…」
 クラナ 「ではスタート」
 ダイン 「にぃ…ッ!?」
 エリーゼ 「はーい」

エリーゼは再び持っていた木でマウの足の裏をくすぐり始めた。

 マウ 「あははははは! ま、待って! やめてーーー!!」

泣き笑うマウ。
先ほどと同じ。
当然、足にも力が込められるわけで…。

  メリメリメリ…

巨大な足の指が左右からダインを挟みこむ。

 ダイン 「…!!」

全身に力を込めて抗うが、マウの力はそれ以上である。
すでに指はピッチリと閉じられ、ダインはその間に挟まって潰されないように力んでいるに過ぎない。
身動きも呼吸も危ういほどの圧迫感。
これでもマウは全力ではない。
ダインの身を案じて、ギリギリのところで加減している。
でなければダインはあっという間にあの木の二の舞になっているだろう。
それでもダインにとっては骨身の軋む凄まじい圧力だった。

親指と人差し指の間。
わずかに酸味のある空気が漂うが、それを感じる余裕は無い。
大木をへし折る圧力もそうだが、マウがくすぐったさのために足を動かしその動きにも耐えなくてはならないからである。
上半身を玉座に縛り付けられ動かせるのは脚のみときているので、マウのくすぐったさを紛らわすための動きは、すべて足に集中する。
さらに片足はエリーゼがくすぐるために固定しているので、動くのはダインの挟まれた方の足だけとなる。
笑いながら、抗いたくても抗えないその感触に足をばたばたと動かすマウ。
だがダインにとってその動きは考えられないほどに高速の反復運動だった。
巨大な指の間に挟まれたままガックンガックン。
血液さえも逆流しそうな揺れ。
体にかかる負担は相当のものである。
ダインとて全身に力を込めているこの状況でなければ気を失っていたかもしれない。
もっとも、常人であればすでにこのマウの指の間で捻り潰され、そうでなくともこの揺れの中では骨が潰れ肉が裂けていたことだろう。
これはすでに奇跡の域の出来事である。

そのとき突然、ダインを挟み込んでいた大木のように巨大な指の檻がバッと解かれた。
それはダインの身を案じたマウがこれ以上締め付けないように意を決して足の指を開いたからである。
が、この大揺れの中で突然開放されれば、その身は遥か彼方に放り出されてしまう。
マウのつま先から蹴りだされたダインは数百mも高く遠くへ飛んでゆくだろう。
しかし今回は、ダインの刹那の対応によってなんとかそれを免れていた。

指が離れた瞬間、圧力がなくなったのを感じたダインは同時にこの後 振り落とされる危険を予知。即座に横の人差し指にしがみついたのである。
今はマウの人差し指の裏に両手を回してへばりついていた。
当然その巨大な指は腕を回せる太さではないが 柔らかな肉球に手を食い込ませて何とか耐えていた。
先ほどまでのように挟まれるのとは違う、指にくっつく状態。
両腕両足を使ってしがみついているが、先ほどよりも振り落とされる危険は大きい。
自分の身長の倍近い大きさのこのマウの足の指の一本が、ダインの命綱なのである。

バタバタと動かされる足。
もしもそこに山があったら、つま先で蹴ろうと踵で蹴ろうと難なく砕ける威力である。
それでもこの足には傷ひとつ付くまい。それが魔王というものである。
高速で動く足のつま先の指の裏にダインらしい影があるのを辛うじて動体視力で捕らえながらクラナはそれを観察していた。

 クラナ 「うむうむ、楽しそうでなにより。それにしても思ったより粘るな。今度 私も自分でやらせてみるか」

クラナのそんな呟きは、高速で動きかつ全身の全神経を両手足に集中しているダインには届かなかった。
そんなダインのしがみついている指が、足の動きとは別に動き出した。
マウが指を開いているのに耐えられなくなってきていたのだ。
指が徐々に握りこまれてゆく。
そこにいるダインは、折り曲がる指の動きに合わせてその内側へと握られていった。
薄暗くなりつつある指の中で、それでも手を離すわけには行かないダインである。

  メキメキメキ…

筋肉の収縮する音が、へばりついている指の腹の皮の向こうで聞こえた気がした。
挟まれることに対して力で抗いにくい体勢で握りこまれたダインは指の中ですり潰されそうになっていた。
力が込められ固くなった筋肉が裏にある上体では、あの柔らかい肉球も固い肌に変わりは無い。
指紋がまるで鑢の用にダインの顔に当たられる。
揺れも圧力も、すべてがダインに敵対していた。
敵対意識の無いマウの無意識がダインの命を削る。

  パッ

突如、指が開かれた。
指の間に何かの感触を感じたマウが それがダインであると悟り圧苦から救おうと指を開いたのである。
だがそれは、奇しくもその圧力によって放り飛ばされるのを免れていたダインの小さな体を開放することになってしまう。
万力のような指の力の間で悲鳴していたダインは突然の開放に対応できず宙へと投げ出されてしまった。
それもマウが足を下に動かすのと同時だったため、ダインは玉座の前、足の真下の絨毯に叩きつけられる。
凄まじい速度で叩きつけられたダインは、そこが絨毯であることなど微塵も喜べないほどのダメージを受けていた。
間違いなく、死線を横切った。

 ダイン 「げふ。…し、死ぬ……。マウも魔王なんだから当然なんだけどさ…」

絨毯の上、大の字で仰向けになりながら血反吐吐きそうなダインだった。


   *


ダインが落ちたのを確認したクラナ。

 クラナ 「ふむ、まぁこんなところか。エリーゼ、くすぐり止め」
 エリーゼ 「は~い」

パッ。
マウの足から手を離すエリーゼ。

 マウ 「……はぁ……苦しかった…」

ようやく責め苦から開放されたマウ。
縛られていることなど置いといて、まずは全身の力を抜きたかった。


   *


絨毯の上であまりのダメージに動けずにいたダイン。
突如、周囲が暗くなったのに気づく。
ぼやける視点を合わせてみると、上空から巨大な足が下りてきていた。
方向からしてマウのもの。
先ほどまで、しがみついていたものである。
その巨大な足の裏が下りてくるのである。
自分に向かって。

 ダイン 「……うそ………え、…ちょっと待って!」

動けないダイン目掛けて、真っ直ぐに下りてくる足。
それはすでに目の前でダインの周辺は濃い影に覆われていた。
視界はつま先部分に占められている。
ダインの目の前にはマウの足の拇指球(指の付け根と土踏まずの間のプニッとした部分)が迫っていた。
周囲が、闇に包まれる。


  ズズゥゥゥウウウウン!!


   *


  すとん


 マウ 「ふぅ……疲れました…」

ぐったりとしたマウはため息をついた。
力無く置いた足がそこにいたダインの上に下ろされたことなど気づいていない。
だがクラナは、置かれるマウの足の下にダインが消えていくのを見ていた。

 クラナ 「…マウ、ちょっと足を持ち上げてくれるか?」
 マウ 「…はい?」

疲労したマウはもう抵抗する気力も残っていない。
クラナの意図はわからないが、もうこれ以上のことをされることもないだろうとおとなしく従った。
玉座の前に跪いていたクラナの前にマウの足が持ち上げられる。
その足を手に取り、足の裏を見るクラナ。
そこには、拇指球に大の字ののしいかになって張り付くダインの後ろ姿があった。
巨大なマウの足の裏と見比べても、なんとも小さな体である。

 クラナ 「ご苦労だったな。まぁ今はゆっくり休んでくれ」

クラナはマウの足の裏に張り付くダインに労いの言葉をかけた。



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 ~ 魔王クラナ ~


『マウに』 END

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