※【嬲り】



 『 奴隷の小人 』



「ほらもっとしっかり磨いてよ~」

ソファに深く腰掛け雑誌を読みながらお菓子を食べる少女は、床に下した自分の足の足指に乗ってその爪を布巾で磨く小人に言う。
小人の大きさは100分の1。小人がその上に乗って必死に磨いている爪のある足の指よりもずっと小さい大きさだ。
縮小病。段々と体が縮んでゆく病気で、最初は背が少し低くなった程度の症状だった小人も、遂に身長1.7cmという大きさにまで小さくなってしまった。指先サイズである。
こうなるともう着られる服もなくなり、小人は今全裸だった。
全裸のまま、少女の足の指の上に四つん這いになり渡された極小の布きれを使ってその幅1m近い大きさの爪を息を吹きかけながらゴシゴシと拭いている。
その扱いは人のそれではない。

「ったくとろいんだから。私がこれ読み終るまでに終わらなかったらお仕置きだからね」

小人にとっては空気をビリビリと震わせるほど巨大な少女の声を聞いて、小人は今以上に必死になって爪を磨いた。
布が千切れるくらい力を込め、滝の様な汗を流し息を切らしながら。
これは見た目以上に重労働なのだ。爪はその一枚一枚が窓ガラスのように大きい。垢などがついていることもある。その垢は小人が全力で長い時間かけて擦り続けてようやく落とせるほどに強力で、それが爪一つにいくつもある。更に少女はそれに目ざとく、そういった垢がひとかけらでも残っている事を許さなかった。
汚れだけではない。
少女は学校から帰ってきたばかりで、帰ってきてすぐ靴下を脱ぎ捨て、小人をそこに乗せて掃除をやらせていた。
長時間上履きと靴と靴下に包まれていたつま先は強烈な臭いがする。つま先周辺は鼻が痛くなり涙が出るほど強い刺激臭に包まれているのだ。あまりに強力すぎて呼吸もままならない。だが今日はまだマシな方で、これが体育のあった日とかだと、臭いは気を失ってしまうほど強大になる。かつて小人は、そうやって体育のあった日も爪を磨かされ気絶したことがあった。そうではない今ですら、頭がくらくらしてきているのだ。
更に地面でもある少女の足と足の指は人の体温の地面であり、靴や靴下の中でじっとりと蒸したそれは臭いと共に湿度温度も強烈だった。まるで南国のジャングルにいるかのように汗がダラダラ流れる。このままでは脱水症状になってしまうのではないか。
そんな恐れを抱くほどに、小人にとって少女のつま先の上とは危険な場所なのだ。一刻も早くこの場を離れたいが爪に着く汚れは簡単には落ちてくれず小人の足を止める。右足の小指から始めて、まだ3本目の中指だというのに。これからまだ、この巨大な足の指が7本も残っているかと思うとそれこそ目眩がしてくる。
小人は、そんな強烈な臭い・湿度・温度に包まれた少女のつま先の上で、意識を朦朧とさせながら必死に爪を磨いていた。

とその時、小人の乗っていた足の指が動き、小人はつま先から床に転がり落ちてしまった。
太さ1m以上もある少女の足の指の上から落ちその痛みで朦朧としていた意識がやや回復する。歯を食いしばって痛みに耐える。
今の指の動きは恐らく無意識のものだろう。指に乗った小人の細かい動きをくすぐったがって指をもじもじと動かしたのだ。当の少女は雑誌を読むのに夢中で、自分が小人をつま先の上から放り出したことなど気づいてもいない。
小人は痛む体を起こし、もう一度つま先の上に上るべく、少女の足の指に手をかけた。
太さ1.2mもある巨大な足の指である。登るのは容易ではないが、これに上らねばつま先の上にはいけない。
体全体を使ってなんとかその上に上った小人はふらふらと歩きながら四つん這いになり再び爪を磨き始めた。
臭いや体温だけではない。少女のちょっとした動きが、小さな小人を簡単に翻弄するのである。少女の無意識の妨害。無論 少女はそんなこと看過してはくれない。再び足場でもある巨大な足の指がもぞもぞ動き始めたが、小人は今度はその指にしがみ付くことで揺れに耐えた。


   *


「ほんっと使えないわね~」

ソファに腰掛けた少女は腕と脚を組みながら、床に下された足の前に正座をする小人を見下ろしていた。

「読み終るまでに終わらせろって言ったわよね? なのになんで半分も出来てないのよ」

少女のイラつきを表すように、組まれた脚の、宙に浮いた方の足がぶらぶらと動く。
小人はそんな少女の足の前で震えながら正座していた。
同じ高さに鎮座する足の指。それら5本だけで、圧倒的な威圧感を放っている。更に上空でぶらぶらと揺らされる足も、小人にとっては恐怖でしかない。少女というたった一人の存在が、小人にとっては天変地異であり天災ほどに恐ろしい存在なのだ。

ふと、小人の目の前に少女の足が突き出されてきた。
そして同時に、少女の声が轟く。

「舐めなさい」

空気が震えるほどに巨大で力強い言葉の内容は底冷えするような屈辱的な内容。
だが小人は、震える体で立ち上がると目の前にある巨大な中指に近づき顔を寄せて舌を這わせた。
あまりにも屈辱的なことを、迷う事無く実行する。
そんな小人を見下ろして少女はせせら笑った。

「そうそう、わかってるじゃない。あんたは私の奴隷なの。私の言うことには従わなくちゃいけないのよ」

少女の笑い声が床の上に響き渡るが、小人はひたすら少女の足の指先を舐め続ける。

「知ってる? 縮小病にかかった人って、家族や身内に殺されちゃうことが多いんだって。自宅で療養してるときに事故やうっかりで。廊下を歩いていた母親に踏み潰されちゃったり、カーペットに座ろうとした姉のお尻の下敷きになっちゃったりしてね。あ、妹の連れてきた友達に遊び殺されちゃった人もいるらしいよ」

少女のくすくすという笑い声が小人の体を揺さぶった。

「そ。死にたくなかったら、私に助けてもらうしかない。助けてもらうんだから、服従するのは当然よね」

不意に小人の舐めていた足の指が動き、突然持ち上がった足の指は今度は小人の上にのしかかった。
小人は仰向けに倒され、その上に、小人よりも大きな巨大な足の指が覆いかぶさる。
その苦しさから逃れようと小人はもがくが、のしかかってくる足の指の重量は、小人の細腕ではどけられなかった。

「もちろん奴隷がいやだって言うならいつでもやめていいのよ? でもそしたらあんたをうっかり殺しちゃうかも」

小人に乗せられた指に僅かに体重が乗せられた。
それだけで小人は暴れることすらできないほどに圧迫されピクピクと痙攣し始める。
指の腹は小人のお腹の上に下され、指先の先には小人の胸から上、というより肩から上しか出ていない。

今 少女は組んでいた脚を解き、両足を床に下し、膝の上に肘を立て、両手で頬を抑えるような格好で、右足の中指の下敷きになった小人を見下ろしている。

「私の足の指より小さいのよね。ほんと虫みたい。旦那さんを虫と間違えてスリッパで潰しちゃった奥さんの気持ちがわかるわ」

言いながら小人を押し潰している右足のつま先をうりうりと動かす。
その小さな体の痙攣がぴくっ…ぴくっ…と感覚の長いものに変わってきた。

「そろそろほんとに死んじゃいそうね」

少女は足をどかし小人を解放した。
小人はとても呼吸とは思えぬ音を立てながら息を吸い込んでいた。
そんな小人の前に再び足が突き出される。

「さ、どうするの? 奴隷がいい? それとも虫けらがいい?」

最早体を動かすのも難しいほど疲労してしまった小人。
小人はゆっくりと立ち上がると今にも倒れそうな足取りで目の前の巨大な中指にたどり着き、その指先に舌を走らせた。

「そう、奴隷でいいのね」

くすっと笑った少女は片手を伸ばすと足の指を舐めている小人を摘まみ上げ、顔の前まで持ち上げた。

「だったらもっと役に立って欲しいわ。でないとうっかり殺しちゃうかも。……こんな風にね」

言うと少女はにやりと笑い、そして小人を摘まんでいた指を離した。
支えを失った小人は自由落下を始め、床に向かって高速で落下をしていった。
が、すぐに少女の手のひらによって受け止められた。

「冗談よ。驚いたかしら?」

少女は手のひらの上の小人を見下ろして言ったが、小人はすでに気を失っていた。
度重なる心身への負担と恐怖は精神を極限まで酷使していたのだ。

そんな気絶した小人を見下ろして少女はくすくす笑った。

「ふふ、気絶しちゃったか。……心配しなくてもあんたを殺したりはしないわ。奴隷だって本当に嫌だったらやめてもいい。でも、いじめるのはやめられないの。ごめんね、お兄ちゃん」

そして少女はソファから立ち上がり兄を手に乗せたまま部屋を出て行った。