※ぼの。元ネタとかないんだよ? ほんとだよ?



 『 道中護衛します 』



「ねね、おじさんたち。わたしなんかどうですか? しっかりお守りしますよ」
「いや私だ。こいつよりも安全かつ優雅な旅をお届けしよう」
「なによ!?」
「なんだ!?」

顔を突き合わせてにらみ合う金髪と黒髪の少女たち。
その足元で怯える馬車を伴った行商人のおじさん方。

次の街までのこの街道。途中モンスターや山賊が出る事もあり、行商人は道中の護衛を依頼しようとしたのだが…。

彼らが震える理由は、護衛を依頼しようとしたその少女たちが、身長1600m近い巨人だったからだ。
山のように巨大な少女たちが、自分たちを間に挟んでにらみ合っている。
少女たちの履くサンダルが彼らを前後から挟み込み進路と退路を遮る。
サンダルの底の厚みだけでも10m以上あり、その上に並ぶ巨大な足の指は、彼らの視界を埋め尽くさん大きさだ。
サンダルの厚みと足の指の太さを合わせれば高さは30mにも届くだろう。これは街でも匹敵する建物は滅多にない高さである。
サンダルから覗く足の指だけでも、遙か見上げる高さなのだ。
問題はやはり、そんな巨大な足が4つと前後から彼らを包囲していること。
行商人の一団は、その足の指が一つでも乗せられればまとめてプチリと潰されてしまうだろう。
そして少女たちがいがみ合い足に力を入れているのか、巨大なサンダルが地面に亀裂を入れながら僅かに沈み、大地がゴゴゴゴと鳴動している。
人間が地面をジャリ…と踏みしめる動作。少女たちのそれは全長240m幅90mもの範囲で岩を砕き地面を草一本残らない荒野に変えながら行われる。
巻き込まれれば命は無い。だがそれらの危険は、前後に確実に存在しているのだ。

「わたしがこの人たちを守るわ。引っ込んでなさいよ!」
「お前にそんな繊細なことができるものか! うっかり途中で踏み潰すのが目に見えている!」

ガルルルと額を突き合わせる雲にも届かん巨大な少女たち。
二人の足元でその影にすっぽりと覆われている行商人たちは、このまま少女たちが取っ組み合いを始めれば即座に動き出すであろう巨大な足に恐怖していた。

「いや、御迷惑おかけして済みません」

と、行商人の横から銀髪の若者が申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。

「あいつらああなると長いんで他の護衛を雇ってください」

ペコリと頭を下げる青年。
だが頭を下げられるまでも無く、こんな恐ろしい護衛はゴメンであった。
行商人たちは砂煙を巻き上げる勢いで走り去っていった。


   *


「あ~あ、また失敗しちゃった…」

はぁ…。二人の少女は崖に腰掛け膝の上に肘を立て両掌を頬に当てながらため息をついた。
ちなみに二人の腰掛けている崖は高さ400mにもなるがそこから降ろされている足は地面にピッタリと着いている。

「お前ら何度同じこと繰り返せば気が済むんだよ」

そういうのは銀髪の青年。
崖に並んで腰掛ける二人の少女の間で同じように腰掛けている。

「すべてはキララが悪い。私だけならこうはならん」
「何よ! レイヴがわたしの邪魔するんでしょ!」

また二人は顔を突き合わせてにらみ合う。
それを見てため息をついた銀髪の青年ギンはその場から離れた。

 ドゴン!

二人が額を突き合わせた音で周囲に衝撃波が走る。

「客のあの怯えた顔を見たか? あれはお前のその無駄にデカい胸を恐れていたのだ。山のような大きさのそれが揺れる様をな」
「あんたのその大きなお尻が原因じゃないの? きっと潰されると思ったのよ。事実、小さな村を丸ごと押し潰したことあるもんね!」
「廃村を処理するよう頼まれて仕事でやったことだ。お前みたいに、寝てるとき寝返りを打って村を胸の下で押し潰したのとはワケが違う」
「でも誰も巻き込まれていないもの! あんたは山に腰掛けたときそこにあった小さな村を潰して何十人も巻き込んだでしょ!」
「あれは山賊のアジトだったし皆生きていた。いわば善行だ。お前は地面に寝そべったときその胸で街の用水路を破壊したのを忘れたのか?」
「でもでも! あのあと街の人に、『おかげで大きな湖が二つもできた』って喜んでもらえたわ!」

お互いが相手の所業を掘り返し、それを弁解する。を繰り返す二人。

スペックとしては二人とも見事なものである。
ボン! キュ! ボン! と魅惑的なライン。
流れるような黒髪は言うなれば「和」の象徴。
陽光に煌めく金髪は言うなれば「洋」の象徴。
二人が二人異なれど、ある種究極の美を具えている。
そして二人が指摘する通り、金髪の少女キララは黒髪の少女レイヴよりも胸がちょっとだけ大きく、レイヴはキララよりもお尻がちょっとだけ大きかった。
実際、大した違いは無い。

「大体ね! 本当はわたしとギンだけで旅に出るつもりだったのになんであんたまで着いてきたのよ!」
「何を言う! 私とギンの門出にお前が勝手に着いてきたんだろう!」
「…俺は一人で旅に出たかったんだけどな」

やれやれ、と言った感じでかぶりを振るギン。
その後、二人の言い合いは小一時間も続いた。


   *


「とにかくこうも仕事が捕まらないようじゃ干上がる。俺はもう一度護衛の仕事を探してくるよ」

ギンは立ち上がり街に向かって歩き始めた。
この二人は巨大さに見合うだけの凄まじい怪力を持っており、それを考えれば本来なら力仕事をさせるのが一番なのだろうが、大きすぎて逆に余計なことを引き起こしかねないので、二人を見れば誰も襲ってこないだろうと考えたギンは、ただ一緒にいるだけでいい道中の護衛が一番安心だと判断したのだ。
もっとも、二人が常に衝突するおかげで、それすらもうまくいっていないが。

そうやってギンが歩き始めるとキララが巨大な手を差し出してきた。

「あ、街まで行くなら送るわ。わたしが歩いたほうが早いもの」

確かに、1000倍の体躯を持つ彼女の方がギンがその足で歩くよりははるかに早いだろう。具体的には1000倍くらい。

だがキララが手を差し出すとレイヴも手を出してきた。

「待て待て、私が送ろう。こいつを街に近づけるとうっかり足を踏み入れかねないからな」

 ドゴン!

再び二人が額を突き合わせいがみ合い始めた。

そう、確かに彼女たちに送ってもらえばギンが歩くより早く着く。
が、どちらが送るかの悶着でその時間は相殺されてしまうのである。
結局、ギンが自分で歩いても変わらないのだ。
だから、

「いや、一人で行くから」

ギンは一人で歩き始めた。
その背中を二人の巨人は残念そうに見送った。


   *


取り残された二人。

「まったくお前が…」
「なによ! …ってもうやめましょ。不毛だわ…」
「…そうだな…」

はぁ…。二人はため息をついた。
その片方のため息だけでも、小さな村を吹き飛ばしてしまえる威力があったが。

「あ~あ、折角村の外に出ても、これじゃ何もかわらないわ」

言いながらキララは上半身を後ろに向かってゴロンと倒した。
そのせいで後ろにあった小さな森がキララの広大な背中の下で押し潰された。
ただの木などキララにとっては1cm程度。敷き詰められていても枯葉の上に寝転んだも同じ程度の感触でしかない。

「私たちは、どこに行っても厄介者ということか…」

レイヴは、眼下に広がる極小の大地を見下ろしながら呟いた。

  *

二人は赤ん坊の頃、山奥の洞窟で眠っていたところをたまたま通りかかった村人に拾われ育てられたのだ。
「なぜこんなところに赤ん坊が」と村人は首をかしげたそうだが、赤ん坊を放っておくこともできず連れ帰ったとのこと。
その後、二人はすくすくと成長し、丁度同い年くらいであったギンと共に村の子供として育てられていった。
しかしある時から二人の体がむくむくと大きくなり始め、齢16を迎えるころには今の山の様な巨人になってしまっていた。

二人は、遙か昔その地に暮らしていた巨人族の末裔だったのだ。
何かしらの事情で生まれて間もなく地中に埋まり、消費するエネルギーを抑えるため自身を縮め、数千年の時を地中で過ごし、やがて地震か地殻変動で地上に出てきたところを村人に拾われた。
最初は普通の人間と同じ大きさだったが、エネルギーを蓄えるに連れ本来の大きさへと戻っていったのだ。

村人たちは二人を恐れた。
二人が齢10になるころには大の大人よりも大きくなり、13になるころには家を踏み潰せるほどに大きくなり、そして16になるころには山さえその巨大な脚の長さには届かない大きさになってしまった。
かつて二人を拾った村は、今の二人の片足で踏み潰せてしまう大きさなのである。

もちろん、二人にそんなつもりは毛頭ない。
自分たちが巨人族とわかっても、そこが自分たちの育てられた村に変わりは無いのだから。
村人たちが十数人がかりで数時間かかる畑仕事も、二人は片手だけで数分で終わらせられる。
山を削り切り拓くも、川をせき止めダムをつくるも、二人は鼻歌交じりに片付けられる。
自分たちを育ててくれた村の為に、二人は尽くすつもりだった。

だが村人たちはだんだんと疎遠になり、二人の存在を恐怖し疎ましがった。
山さえも簡単に平野に変えてしまう恐ろしい巨人達。いずれ自分たちに牙を剥くのではないかと。
皆が彼女たちをバケモノ呼ばわりした。

そんな中でただ一人、幼少のころから共に過ごしてきたギンだけは二人が大きくなったあとも変わらず接し続けていた。
そのギンが成人の男子として村を出ることになり、二人はたまらず追っかけて出たのだ。

  *

そんなこんなで今に至る。

「はぁ…」

二人はまたため息をついていた。

「結局わたしたち、ギンにとっても迷惑でしかないのかしら…」
「しかしそんなことを言ってももう村には戻れないぞ。私たちがいても邪魔なだけだからな…」

村人たちは決して悪くない。彼らが自分たちを恐れるのも当然のことだ。
自分たちは、こんなにも大きな巨人になってしまったのだから。
二人は今断崖に腰掛けている状態だが、それでも二人の視線を遮る大きさのものは無い。
この辺りに山は無く、すべてが見下ろせる高さなのだ。
これまでこの大きさになって見上げたものは空か、雲か、高い山だけだ。他はみんな見下ろせてしまった。というよりほとんどのものが足首の高さにも満たなかった。

しばし、沈黙に身を包んでいた二人だが、やがてキララがガバッと体を起こした。

「あぁもう! じっとしてたら落ち込んじゃってしょうがないわ! ちょっと湖で水浴びでもしてくる」
「いいのか? ここを動いたらギンが困るんじゃないか?」
「この辺りには山も無いし、わたしたちの大きさならすぐ見つけられるでしょ」
「ふっ、それもそうか」

自嘲気味に言ったキララにレイヴは笑って返し立ち上がった。

二人は何もない平野をズシンズシンと地響きを立てながら歩き始めた。
巨大な足に履かれたサンダルはそこに大きな跡を穿ち、それは雨が降ればそこに池を作れる大きさである。
もちろん二人は歩くときは足元に細心の注意を払っている。うっかりと村や町を踏んでしまったことなど一度も無い。
ただ寝返りやら山の上やら、ちょっと注意が行き届かないときはたまにあるが。


   *


数分も歩けばすぐに湖は見つかった。
直径は10km以上あり、二人にとっても手ごろな大きさだった。
深さは大したことないだろうが、寝そべればそれも問題ない。
周囲に村などが無いか確認し、自分たちが湖に入っても大丈夫か確かめる。

「大丈夫そうね。じゃ、入りましょ」

二人は服を脱ぎ始めた。
身に着けていた軽装鎧を脱ぎ湖の横に重ねて置く。
恐ろしく巨大な鎧だが、それでも覆えるのは僅かな範囲である。動きやすさを重視した鎧なのだ。身に纏っていても、二人の魅惑的な肢体の大半は露出していた。
腰にはいていたミニスカートも脱ぎ捨て二人は湖に足を踏み入れる。
鎧は脱いだが裸ではない。キララは青の、レイヴは赤のビキニを身に着けていた。
巨大なそれだが、やはり二人の巨大な体を覆うには小さい。二人の山の様な乳房やお尻が、今にもこぼれてしまいそうである。

二人はザブザブと波立たせながら湖の中に進んで行った。
中心部は思ったよりもずっと深く、二人の膝下ほどの深さがある。これなら全身に十分に水を浴びられるだろう。

「ふぅ…この冷たさは心地いいな。憎らしい太陽の熱も、十分に緩和できる」
「わたしたちが入れる日陰なんてないもんね」

自らの体の上を流れる水の感触を楽しむ。
身長1600mにもなる二人の超巨大美少女達の水浴びだった。
二人がその手のひらに救い上げる水の一杯の上には漁船が何隻も浮かべるだけの広さがある。
体を流れ落ちる水は滝のような勢いがあった。
それらはただ、二人の少女が笑いながら水を浴びているだけの為に引き起こされている。

「はぁ~気持ちいい~。こうやって足を伸ばして入れる湖なんて滅多にないもの」
「まったくだ。その上こうも深さが確保されている湖はな」

二人は湖の中に寝そべっていた。
キララは仰向けで、レイヴはうつ伏せになり。
すると二人の体は半分以上が水に浸かることになるのだが、キララの胸とレイヴのお尻は水面から出ていた。
キララの大きな胸はまるで水面に二つの肌色の小島が顔を出しているようであった。湖の波がその乳房に当たって飛沫となる。
レイヴの赤いビキニを纏ったお尻も水面から出て大きな島の様である。引き締まりながらもぷるんとしたそのお尻は、船が間違えて停泊できるだけの大きさがあった。
彼女たちの体の一部は、人々にとっては島も同然なのだ。

二人は暫く、湖に自らの体を揺蕩わせていた。

ふと、湖の淵に俯せていたレイヴが体を起こし、周囲を見渡し始めた。
それに気づいたキララも上体を起こす。

「どうしたの?」
「……見られているな」

えっ!? ガバッと両手で胸を隠すキララ。
その間もレイヴは周囲に視線を走らせ続け、やがて一方を見て止まる。

「あそこか…」

レイヴの視線の先には小さな山々があった。
山、というのは普通の人間にとってであって、標高約400mほどのそれは、立った二人にとっては膝にも届かない砂山である。
レイヴは立ち上がり、その山々に向かって歩き始めた。キララもその後を追う。

その山々が足もとに来る位置まで近づくと、そこにいるたくさんの人間がよく見えた。

「山肌にいくつかの建築物が見える。木々の陰に相当数の人間がいるな。どいつもこいつも悪そうな顔だ。この山を根城とする山賊の一派と言ったところか」
「山賊…ってことは悪い連中よね。ちょっと懲らしめちゃおうかしら」

ふふんと笑ったキララは山の前にしゃがみこんだ。


   *


自分の部屋で酒をかっくらい眠りこけていた山賊の頭は慌てて部屋に飛び込んできた部下の馬鹿みたいにデカい声でたたき起こされていた。
何事かと尋ねればまるで寝ぼけたのかと言いたくなるようなアホみたいな事を言い出した。ちぃ! 舌を鳴らして起き上った頭はアジトから外へ出て、山の上の物見に立った。

すると底から見える遠くの湖に、その湖がまるで風呂か何かと錯覚するように二人の女が水浴びをしていた。
錯覚した原因は大きさだ。何度か足を運んだことのある湖は船を乗り出さねばならないほど大きく、対岸はまるで小さな海を渡るように遙か向こうに感じたほどだ。
だがその女たちはその湖の大きさにピッタリだ。何がどうなっていやがる。まさか俺の方が寝ぼけているのか。

山賊一同唖然として山肌からその二人の巨人の女たちを見ていると、その一方、黒髪の巨人がハッとしてこちらに顔を向けた。
山肌からそれを見ていた全員がビクンと体を震わせた。まるで覗きを見つかったときみたいだ。実際、あんなデカい女たちが遮るものも無い湖で泳いでいるのを遠くの山の上から見ているのも、覗きと言えば覗きだろう。

そうしているとなんと大女たちは湖から上がりこちらに向かって歩いてきた。
ズシンズシン! 女たちが一歩歩くたびに地面がグラグラと揺れる。遠くに見えていた女たちの姿はあっという間に近く、そして見上げるほどに大きくなっていった。
大女たちはものの数歩で山の前まで歩いてきた。そして俺たちのいる山を腰に手を当てて見下ろしてきている。
恐ろしいのは、頭はほぼ山頂に近いところにいて巨人たちを見上げているのだが、その高さですら、巨人の膝にも届いていない事だ。
山の上に立っているのに見上げなければならないとは、この女たちはどんだけデカいんだ。
頭は顔が青くなった。


   *


「懲らしめる…って、いったい何をするつもりだ?」
「そうね…」

しゃがみこんだキララは考える。しゃがんでも、山はキララの目線よりも低かった。
そしてしゃがみこむということはある種膝を抱え込むような体勢になるわけだ。キララの大きな胸が膝に押し当てられむにゅっと変形した。それは、その光景を目の前で見せつけられている山賊たちにとっては、山が変形するかのような現象だった。山賊たちにとってキララの山は小高い山に等しいのだ。そんな大きなものがあっさりと、そして柔らかく変形する様は、目の前で見ると人知の及ばぬ現象のように思え震えが走った。
それに目ざとく気づいたレイヴはニヤリと笑いながらキララに言う。

「フフ、なるほど。キララ、お前の胸を押し付けてやったらどうだ?」
「はぁ?」

しゃがみこんだキララが「何言ってんの?」という顔で隣に立っているレイヴを見上げた。

「どうやらこいつらはお前の胸にご執心のようだ。その無駄にデカく大して役にも立たない乳で相手をしてやるがいい」
「ふーん、言ってくれるじゃない。あんたの大きいだけで魅力の無いお尻よりはずっと役に立つわよ」

キララは不敵な笑みを浮かべてレイブを見た。

「ほほう、面白い。ならばどちらのものがより役に立つか、仕留めたこいつらの数で決めるとしよう」

レイヴも挑戦的な笑みをキララに向ける。

「望むところよ」

二人は目の前の小さな山を見下ろした。


   *


何が起きているのかわからないが、それが良いことでないことだけはわかった。
山賊たちは慌てて山を下り始めた。

だが突如、その山のふもとに、巨大なものが押し付けられた。
キララの乳房である。

「下に逃げるしかないんだからこうやって下から攻めていけば逃げ道はないのよね」

キララは地面に寝そべるような格好になり、そして胸を山肌に押し付けながらぐりぐりと斜面を登っていった。
そこに生えていた木やアジトの小さな小屋などが、巨大な乳房と言う肉の波に呑み込まれバキバキと砕かれ磨り潰されていた。
それに気づいた山賊たちも、駆け下りていた斜面を慌てて上り戻っていったが、何人かは乳房に追いつかれその肉と斜面の間に消えていった。

山の前方の斜面から巨大な胸が山肌を呑み込み押し潰しながら迫ってくるのを見て山賊たちは山頂を超えて反対側の斜面へと逃げて行った。
だが今度は、上空から今自分たちがいる山ほどに大きな巨大な尻が迫ってきていた。

「バカめ。上に逃げて来るなら上から攻めてやればいいだけだ」

しゃがみこんだレイヴの真っ赤なビキニをはいた超巨大なお尻が山頂へと脱出を果たしていた山賊たちの上にのしかかった。
山はレイヴのお尻の重みで半分ほどの高さにまで沈み込み、山頂にいた山賊たちは一人残らずレイヴのむっちりとした尻の下敷きになった。

「ふ、これは私の勝ちだな」

山の上に座ったまま腕を組んでキララを見下ろすレイヴ。

「何よ! まだ終わっていないわ!」

寝そべる形から四つん這いへと体勢を変えたキララはきょろきょろとあたりの地面を見渡した。
すると山の側面にいて、自分の乳房もレイヴの尻も免れた山賊たちが平野に逃げて言っているのが見えた。

「ふふ、逃がさないんだから」

キララは四つん這いのまま彼らを追いかけた。
青いビキニに包まれた巨大な乳房が歩行に合わせてゆっさゆっさと揺れ動く。
今は胸板から直接ぶら下がる形なのでその揺れはなおさらだ。

山賊たちにとっては怪獣が追いかけてくるようなものだ。
だが逃げようにも、大女が進むのに合わせて地面がぐらぐらと揺れ満足に走る事も出来ない。

と、そうしていると不意に周囲が暗くなった。
見上げてみればなんとそこにはあの巨大な乳房がぶら下がってきていた。
山賊たちは簡単に追いつかれ、四つん這いになったキララの胸の下にいたのだ。

キララはそのまま上半身を伏せた。
大きな乳房は地面に押し付けられ、体重を乗せ垂れたことでむにゅうとハミチチになって周囲に広がっていった。
ここを逃げていた一団は一人残らず下敷きになっただろう。

だがこのときレイヴも別の山賊を下敷きにして数を稼いでいた。
レイヴの巨大なお尻のほっぺは、逃げる山賊たちにとっては大きすぎるのだ。
ドスンと彼らの上に座り込めば、お尻は大きく地面に沈み込む。
お尻を持ち上げて見ればそこにはくっきりとお尻型に沈み込み穴ができていた。

あっという間に山賊は壊滅。
そしてなんと二人の退治した山賊の数は全くの同値であった。

「く…これじゃ引き分けじゃない!」
「何か…どこかに一人くらい残っていないか……ん?」

と、そこで二人が同時に気付いた。
平野の中に、ぽつんと立っている山賊の姿に。この山賊の頭だった。

「「もらったーーー!!」」

二人は同時に飛び出し、キララは胸を、レイヴは尻を突き出して、その山賊の頭に飛び掛かった。

「なにやってんだお前ら?」

ピタッ!
今まさに二人の胸と尻が同時に山賊に直撃しようとしたとき、横からかけられた声でそれは止められた。
見ればそこには馬に乗ったギンが来ていた。

「ぎ、ギン!?」
「い、いつからそこにいたのだ!!」
「ん? たった今着いたところだけど…。ていうか勝手に動くなよ。お前らを追いかけるのは大変なんだぞ」
「ご、ごめんなさい…」
「す、すまん…」

二人は居住まいを直してその場に正座した。

「何その恰好?」
「え、えと、ちょっと水浴びしてて…」
「何で妙なキャットファイトしてたの?」
「な、なに、ちょっと競争しててな…」
「? まぁいいや。とにかく新しい仕事もらってきたぞ。どうやらこの辺りに大規模な山賊の一味がアジトを作ってるらしくてな、それを退治してきてくれって内容だ」
「山賊…?」
「アジト…」

二人がぽつりと呟き、その仕草にギンは首をかしげた。

「どうした?」
「え、えーっと…それってもしかして…」
「これのことか…?」

二人が顔を見合わせ、恐る恐ると言った感じで両手をお椀の形にして差し出してきた。
二人の手の上には、気を失った山賊たちが山と積み上げられていた。


  *


「諸君らの働き、まことに見事なり! 諸君らには王家直々に勲章を授ける!」

二人の前で白いお髭の兵隊長が台の上に立って書状を声高らかに読んでいる。
二人はその場にしゃがみこんで話を聞いているのだが、兵隊長の立っている台は高々1mなので、ふたりにとっては台座などあっても無くても大差ない高さの違いだった。
キララもレイヴもとても嬉しそうだった。それもそう、自分たちのことを認めてもらえるなど、今まで無かったことなのだから。
ギンの兵隊長の立っている台の横でうんうんと頷いている。

ちなみに、最後の一人である山賊の頭はギンが現れたときのどさくさで逃亡したのだが、二人が本気になって探せば簡単に見つかってしまった。
二人はたった一歩で500m。2歩で1km進んでしまう大巨人である。走って逃げるなど無理な話だった。

二人は勲章をもらった。二人にとってはとっても小さなものだが、それを得られたこと事体がとても大きなものだった。

お髭の兵隊長は続ける。

「更に! 諸君ら実力! 武勇! 他に比類するものなく偉大なり! よって! 両名を、王国騎士団長に任命する!」

それを聞いて一瞬唖然とする二人。
そして恐る恐るお互いの顔を見つめ合ってから暫くして、

「「やったー!」」

二人は互いの体を抱きしめあった。
その瞬間、周囲には膨大な質量同士がぶつかったことで衝撃波の様なものが発生したが、二人はそんなこと気にしていられなかった。
嬉しかった。嬉しくて嬉しくて嬉しすぎるくらいだ。
認めて貰えた。
自分たちを必要としてくれる。
ずっと願っていたものだ。
自分たちは、存在していていいのだという証明だ!
望んでくれる人たちがいる! 求めてくれる人たちがいる!
ようやく手に入れることができた!

気づけば二人の目からはポロポロと涙がこぼれていた。
十数年間待ち望んだものを、遂に手に入れた喜びが、熱い涙となってあふれ出てきたのだ。

「おめでとう二人とも」
「ぐす…ありがとう…。これもみんなギンのおかげだよ」
「ずず…ああ、お前がいなければ私たちはここまでこれなかった」
「そんなことないさ、お前たちが頑張った結果だよ。これからは二人で協力してこの国を支えていくんだぞ」
「うん! ……………………………………………………二人?」

抱き合って喜んでいたキララとレイヴがピタリと止まった。
そしてギンを見下ろす。

「ギン…。二人とはどういうことだ…?」
「へ? だって騎士団に任命されたのはお前達だけだもの。そうですよね隊長さん?」
「ふむ…(ぺらりと書状をめくって確認する)……確かに書状にはキララとレイヴの両名を、と書いてあるが」
「だろ。そういうことだ。俺はまだまだ諸国を旅して回るから。5年か10年か…いつになるかわからないけど、必ずまたここに来るからそれまでしっかりと国を守れよ」
「…」
「…」

ギンの言葉を聞いた後、二人はギンを見下ろしたまま動かなくなった。
? ギンは首をかしげた。

「どした?」

首をかしげながら見上げる先で、二人の視線がギンのそれと絡み合う。
そして、

「やっぱりわたし、辞退するわ」
「そうだな。私もだ」

そう言った二人は受け取った勲章を台座の前に返した。

「へ?」
「わたし、まだまだ旅を続けたいのよね」
「うむ。まだ見知らぬ土地や見知らぬものは山ほどあるからな。見分は広めておきたい」
「え、でも…」
「第一こんなに小さい国じゃ守るのなんて逆に大変よね」
「寝返りを打って王都を押し潰してしまってはたまらん」

二人は明後日を見ながら言った。
それを台の上からポカンとして見ていたお髭の兵隊長。

「で、では、こ、この国王直々の任命書は…」
「あーパス。適当に謝っといて」
「では行くかギン。今日中に次の国を目指すとしよう」

レイヴがギンを手のひらに乗せると二人は立ち上がり、地響きを立てながら王都を後にした。
あとには、ちょっと高い台の上で王からの書状を持ったまま固まりお髭を風に揺らす兵隊長と、その台の前に置かれた二つの勲章だけが残された。


  *


夕焼けに染まりつつある大地。
そこをズシンズシンと横断する巨大な人間の姿があった。
巨大な体は夕日に照らされ、背後に更に巨大な影を伸ばしていた。

そんな風に大地を進むキララとレイブ。
そしてレイヴの肩の上に乗せられていたギンは二人の顔を見上げながら言った。

「…本当によかったのか? せっかくお前たちを認めてくれた国だったのに…」
「いいのよ。そういう国もあそこひとつじゃないだろうし。それに今はこうやって旅を続けてたいの」
「そういうことだ。まだひとところに腰を落ち着けるには、私たちは若すぎるからな」
「それならいいんだが…」

ギンは笑う二人の顔を見上げた。二人がずっと苦労してきたのは知っている。だからこそ、二人には自分の居場所を早く見つけてほしいと思っていたのだが。
しかし見上げた先の笑顔にはそういう憂いは見られず、とりあえず、今の言葉な嘘ではないのだろう。
せっかく見つけた、二人を認めてくれる国なのに、それを蹴ってまで自分の旅につきあわせてしまっている。
申し訳なく思う。

「ちょっとちょっと、なんでギンがため息つくのよ」
「いや、俺のせいでお前達まで旅につきあわせちゃってさ…」
「何を言っている。私たちの方が好きでつきあっているのだ」
「そうそう。そういう意味ではわたしたちの方がギンに迷惑かけてるわよ」
「とにかく、このままでは文無しだな。どこかで商隊でも見つけて護衛を申し出てみるか」
「じゃあギンとわたしで依頼とってくるからあんたはここで大人しくしてなさいよ」
「何を言う。私とギンで行った方が確実だ。お前が行ったら今朝みたいに怯えさせるに決まってる」
「そう言って! もしも気に入らない相手だったらあの山賊のアジトみたいにその大きなお尻で押し潰しちゃうんじゃないの?」
「お前はそのけしからん肉の塊が揺れてバランスを崩し、そのまま商隊の上に転んでしまいそうだな。商人たちがぺちゃんこになってお前の胸にへばりつく様が容易に浮かぶ」
「なによ!」
「なんだ!」

 ドゴン!

二人は額を合わせてにらみ合う。いつもの光景。今までの光景。これまで何万回と繰り返してきた光景だ。
いつもいがみ合っているが、仲が悪いわけではない。結局のところ、この世に二人っきりの巨人族なのだ。
そうやって額を突き合わせてにらみ合う二人の様があまりにも当たり前すぎて、ギンはくすっと笑った。
それに気づいた二人がギンの方を見る。

「な、なによ。突然笑ったりして…」
「そ、そうだぞ。私たちの顔に何か付いてるのか?」

二人は顔を見合わせてお互いの顔が何か変か探っている。
そうゆうことを当たり前にやる辺り二人は本当に仲がいい。
ギンは苦笑しながら首を振った。

「ちがうちがう。やっぱお前らかわいいなって思ってさ」

へ?
その言葉を聞いてきょとんとした二人は一拍の後にボッ! と顔を赤らめて慌てた。

「な、なななな、何言いだすのよ! いきなり!」
「ま、まままま、まったくだ! こちらにも心の準備というものが…!」
「いやすまん。でも、そんなお前達と一緒に旅で来て、俺はうれしいよ」
「そ、それはお互い様よ」
「わ、私たちだってもちろん嬉しいさ。この三人がまとまっていなければどうにも落ち着かん」
「そうそう。ギンとレイヴとわたしがいて丁度いいんだって」

二人はすーはーすーはー息を整えながら言う。
焦っているせいか、普段は口にしないようなことを口走っているが。
そんな二人が大切だった。
巨人族というだけで様々な苦難が二人の前に立ちはだかるだろう。
守ってあげたい。
ギンはそう思うのだった。

「それじゃ近くの街に商隊探しに行くか。もちろん交渉は3人で行くぞ」
「うん!」
「ああ!」

3人は夕日に向かって駆け出した。