「いくぞおおおおおおおおおお!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

男達の鬨の声である。


  *


真っ白いベッドの上に横になる女生徒。体操服ブルマ素足。

「横になってるだけでいいんですか?」
「ええ。眠たくなったら寝ちゃってもいいから」
「はーい」


  *


「では改めて、ゆくぞ!」

男達、つまり男子生徒達は白い平原を突き進む。前方に見えるは肌色の壁。横になった女生徒の足の裏である。足の重さで大地であるベッドはずっしりと沈み込み、それでも頂点である足の指ははるか彼方である。長さ2000mを超える足のサイズだ。つまり今その高さは2000mということになる。今、男達は10000分の1のサイズに縮小している。身長0.2㎜弱である。そんな彼等から見れば小学生の足でも山よりも高くなる。ある山脈があったとしてその向こうにひょこっと足の指が見えるようなものだ。それほどの大きさが彼女にはある。

生徒達の準備は万端。何故なら今日は待ちに待った遠足だからである。

さてこの高さ2000mの肌色の絶壁を素手で登る事など出来ない。なので何十ものヘリが用意され、その壁面を登ってゆく。この巨大な彼女から見たら1㎜ほどの小さなヘリだ。乗り込んだ男達は、上っても上っても肌色の壁に終わりが見えないことに戦慄していた。

数分後、丸みのある肉部分を通過してヘリたちはそこへと降り立った。少女の足の指の間である。ヘリがいくつでも着陸できるだけの空間があった。四つある指の間のいたるところにヘリが着陸して行く。そこに降りた男達はまた驚愕した、指の間にいるわけだが、彼等を挟みこむ指はビルのように大きかったのだ。空に向かって肌色の柱が突き出しているようなものだ。一部のヘリはこの巨大な指の上に着陸した。きっと今頃、その丸みのある指先から世界を見渡していることだろう。足の指の間はほんのりの薄暗い。巨大な指の作り出す影に入っているのだ。指の間という事もあり若干臭わないこともないが、そんな事を口にして彼女の機嫌をそこね、このつま先をちょっとでも動かそうものならここにいる数百人がはるか2000mを落下させられるだろう。

彼等は足の指の間を出発した。傾斜のきつい足の甲の斜面を下ってゆくのだ。様々な道具を使い。前方には超巨大女生徒の雄大な身体が横たわっているのが見えた。あのブルマの元まででも何十㎞もの距離があるが、必ず到達して見せよう。数百人の男達が、少女の足の甲を下っていった。


  *


別の隊は彼女のもう片方の足の前に来ていた。そちらの足は膝が曲げられており、足の裏がベッドに着いている状態だ。彼等の前には巨大な足の指が鎮座していた。本当ならこじんまりとしてまるっこいかわいらしい指だが、今そこにあるのは高さ100mを超えるビルよりも大きい指だ。目の前にいる彼等はその指を見上げるだけでも空を仰がなければならない。当然、上れるはずも無いのでこちらもヘリを使う。そして彼等は、女生徒の足の指の爪の上に降ろされた。薄い桜色の綺麗な爪である。しかしその幅は100m近くあり、隣の指の上にいるグループはここからでは点のようにしか見えない。今の自分達が、少女にとってこの程度の大きさでしかないと言うことを客観的にみることができた。この広い爪の上でなら50m走でもできそうだ。50m走りきって、一人の少女の片足の指の爪一枚から出る事が出来ない。すばらしい大きさだ。

さて、これから彼等はこの少女の胴部を目指して進まねば成らないわけだがそのためにはまずこの長い指の上を歩かねばならない。そしてその先には広大な足の甲の山があり、その先には巨大な脚があるのだ。膝が立てられ傾斜は凄まじい。高さにして3000mを楽に越えるそれは富士山よりも高いのだ。これを上るとなるとかなりしんどいだろう。だがこの女生徒の身体の雄大さを体感することこそが今回の遠足の目的である脚の1本ぐらい、超えて見せよう。男達は歩き出した。そのときである。

  もぞ

彼等の乗っている足の指が動いた。それだけでそちらの足を担当していた男達は全滅してしまった。


  *


「あらら、全員落ちちゃったわね」

その様子を観察していた保険医は少女のつま先にいた男子生徒たちが一人残らずいなくなったのを確認した。

「あぅ、ごめんなさい…」
「いいわ。もうそっちの足には誰もいないから伸ばしていいわよ」

少女は長さ数十㎞の足を伸ばした。

「それじゃあ次のグループをスタートさせるわね」
「はーい」


  *


次のグループ。男達はヘリでその超巨大な手のひらの上を飛んでいた。正確には手の中、と言ってもいいかもしれない。軽く握られ曲げられた指はこのヘリの上にあるのだ。つまり女生徒が手を握ればそこを飛ぶヘリたちは皆握り締められてしまうのである。やがてヘリは手のひらに降り立った。広大な、湾曲のある肌色の平野。手のひらという広原。上空には巨大な指が折り曲げられ、手のひらに影を落としている。指の1本1本が太さ100m、長さ400m以上はある。10000倍とはそれほどまでに大きいのだ。東京タワーがある。それもこの指でひょいと摘み上げられてしまうし、上下から挟まれてピッタリと潰されてしまうこともあり得る。東京ドームもそうだ。幅300m無いそれは、彼女達の足で簡単に踏み潰されてしまう。足跡にドーム何個分の面積があるだろう。親指だけでも潰すことが出来る。手の指で、摘み上げることも可能だ。大き目のボタンみたいなものだから。手のひらに乗せられる。指を突き立てればドームの観客席を残しグラウンドだけを潰すことも。すべては少女の気分次第である。

そんな彼等は手のひらの上を歩いていた。やがえ手首を越え、腕を越え、体操服の袖から内部に侵入するのが目的である。長い道のりであった。


  *


あるヘリの一団は少女の頭の横を飛んでいた。彼等の目的が、彼女の耳にあるからである。やがてヘリは耳の穴の前まで来てその中に入り彼等を降ろした。穴は数十mの広さがありヘリが飛ぶこともできるのだ。降ろされた彼等からみるそこは大洞窟。奥は暗黒に包まれた少女の耳の穴だった。きれいに掃除されていて耳垢もそんなにない。それでも少々は残っていてそれは彼等から見て10mほどの大きさがあった。男達が力を合わせてもとても動かせそうにない。そんな大洞窟を進んで行った。


  *


次の一団は顔の上を飛んでいた。丁度、鼻の辺りだろうか、これ以上後方に下がると口と鼻の呼吸に巻き込まれて飛べなくなるのだ。彼等の増したにある鼻はまさに山のようだった。高さ数百m。ヘリはその上に降り立った。そこからは顔全体が見えた。鼻と言う山。頬という平原。目という湖。ここで一部の男達を降ろし、ヘリはまた飛び立った。そこに残された男達は次々と少女の鼻を降りてゆく。その内の数人は鼻の山を降りたあと口の方に向かって歩いていったのだがその凄まじい呼吸で吹き飛ばされるか吸い込まれるかしてしまった。数人の男達が、少女の鼻の穴の中に消えて行った。

飛び立った数機のヘリは目の上を飛んでいた。眼下には小さな湖ほどもある女生徒の目が合った。その目がキョロリと動いてヘリを捉えた。気付いたのだ。そのあともくりくりと動いて、しきりに焦点を合わせようとしていたが、近すぎて無理だったのかやがて動かなくなった。これ以上降下するとまばたきした際の睫毛に当たる危険性があるので降りられない。すると数人の生徒がパラシュートを背負って飛び降りた。女生徒の目に向かってダイブしたのだ。数千mの高さを落ちてゆく。例え彼等が彼女の目に落ちたところで彼女は気にはすまい。0.2㎜の彼等が今自分の目に向かって降りているなど気付いてもいないだろう。彼等はいったい何がしたいのか。少女の目の中で泳ぐつもりだろうか。どれだけ派手に泳いでも彼女は気付かないとは思うが。彼等はそんな彼女の曇りの無い綺麗な瞳に向かって落ちてゆく。瞳は彼等を迎えるかのように真っ直ぐに彼等を見据えていた。もう目は文字通り目の前だ。そろそろパラシュートを開こうか。そう、彼等が考えたときだった。

  ぱち

女生徒が瞬きをした。その時動いた彼女の睫毛は、そこにいた彼等を一人残らずなぎ払った。再び目が開かれたとき、そこには誰も居なかった。少女の綺麗な目は、彼等で穢れる事は無かったのだ。


  *


ある一団は、ちょっと出てしまっていた少女のおなかの上に着陸した。まさひ肌色の平原。地平線まで全てが女生徒の身体である。容易に寝転がることが出来た。男達は横になる女生徒のおなかの上で寝転がった。

一部のヘリは、そのめくれた体操服の中へと進入していった。体操服の中は薄暗くそれでいてやや暖かい。下には少女のへそ。東京ドームを逆さにしたようだ。このヘリが楽に着陸できるだけの空間がある。少し降下してその中に入ってみた。よく洗われていて不潔な感じは無い。そしてこの神秘さは大陸のキャニオンを見ているかのようでパワーを感じる。数万人が、この女生徒のへその中に入ることが出来るのだ。そして再び上昇を開始したヘリ。彼等の目的はこの更に先にある。今回はNGとされていた場所。だが今は誰も見ていない。彼等は少女の身体を前進した。その時、突然の轟音と振動が彼等を襲った。バランスを失ったヘリは女生徒のへその中に墜落した。腹部で転がっていた男達はどこかへと吹っ飛ばされてしまっていた。


  *


  ぐぅ〜

女生徒のおなかが鳴った。

「あぅ…おなかが空すきました…」
「そろそろ給食だものね。もう少ししたら休憩するから。あ、先生ちょっと職員室に行ってくるから。おとなしく待っててね」
「は〜い」

そして保険医が部屋を出て行った。
暫くひとり、ぼーっとしていた女生徒。
その女生徒の耳に、教室の前を通った生徒の声が聞こえてきた。

「今日の給食なんだっけ?」
「カレーだよカレー。早く行かないと取り分少なくなるよ」


「カレー!?」


女生徒はガバッと身体を起こすとベッドを飛び降り上履きを履いて慌てて部屋を出て行った。
自分が今、その身体の上に数百人の男子生徒を乗せていたことなど、もう頭の中には無かった。

しばらくして戻ってきた保険医はその現状を見て苦笑した。

「あらら…」


  *


その後、10000分の1に縮んで女生徒の身体の上を遠足していたが、女生徒が走り回ってしまったために学校中に散らばされてしまった男子生徒たちを探すために大捜索が行われた。
数百人の男子生徒たちは、見つかるまでの間、10000倍の女生徒達が闊歩するその足元でガタガタと震えていた。








  カチャリ

校長室の扉が開かれる。

 保険医 「いかがでしたか?」
 校長 「うむ、若い者はいいのう」
 保険医 「はい。幸いケガ人も無く無事に終了いたしました」
 校長 「よかったよかった。そう言えば前に女生徒達と遠足に行ったとき君は何をしていたのだったかな?」
 保険医 「東京周辺を散歩していました。あの日の東京は生徒達のものでしたから」
 校長 「なるほどの。何か不都合は無かったか?」
 保険医 「はい、ございませんでした。日々の疲れを癒しのびのびと過ごさせていただきました。あ、ただ、飛んできたジャンボジェット機が胸の間に挟まったのには苦笑してしまいましたね」
 校長 「ははは、君はいつも大胆な格好をしているからな。そのジャンボ機に乗っていた人々も、さぞかしびっくりしたことだろう」
 保険医 「7㎜ほどの小さなジャンボ機ですから、潰さないように取り出すのが大変でした」
 校長 「彼等から見たら君の乳房はまさに山の様に見えるだろう。おっとすまない、セクハラだったな」
 保険医 「くす、校長も好きですね」
 校長 「そのためにこの学校の校長になったくらいさ」

二人は笑いあった。

今日も学校は平和である。