『 姫 』



★『8:魔法』  10万倍
★『9:軽罪への刑』  100倍 
★『10:隣国』  1万倍
★『11:海賊退治』  1万倍 
★『12:外遊中の搾乳』  100万倍 
★『13:足裏登り』  1000倍 



    *

    *

    *



 『8:魔法』 10万倍


姫は魔法を使える。

 姫 「それそれ」
 近衛 「うわあああ!」

今も自室にて近衛の体を宙に浮かび上がらせ遊んでいた。

 姫 「ふふふ、飛行機みたいに飛ぶのって楽しいでしょ?」
 近衛 「は………速すぎです…………姫……様……」

姫が立てる右手の人差し指の回りをギュンギュンと回転する近衛。
ちなみに姫の人差し指の直径は1.5km。近衛はその指の周囲を直径3kmの円を描くように飛行している。その円周9.42km。秒間およそ10周。
つまり一秒間に94.2kmもの距離を飛行していることになる。それはイコール時速34万kmもの速さで飛行しているということだ。
生身の近衛が耐えられているのは姫が魔法で守っているからかなんなのか。

キキィッとブレーキがかかって止められる近衛。次に飛行させられた先は姫の顔の前だった。

 姫 「ふふ、さぁ次は何して遊ぶ?」

10万倍サイズの巨大な顔が楽しそうに笑う。
くりくりと動く青い瞳だけでも直径1km以上の大きさがある。まるで湖のようだ。

 近衛 「も、もう勘弁してください…」

音速の300倍近い速さで飛行していた近衛が虫の息になりながら言った。

と、そこで部屋の扉がノックされる。

 大臣 「姫様、よろしいですか?」
 姫 「どうしたの?」
 大臣 「本日は天気もいいので各地の閉鎖された古い都市の処分をお願いしたく思いまして」
 姫 「そう言えばそんな話もあったね。うん、行ってくるよ」
 大臣 「ありがとうございます。リストはこちらに用意してありますので」
 姫 「わかった。行こ、近衛君」

二人は城を出発した。


  *


姫はずんずん歩いていく。
全長24km幅9kmの足をサンダルに乗せて。
もう雲ですら姫のくるぶしの高さを漂う大きさ。山などサンダルで踏みつけても気づくこともできない。
直径1kmの町は姫にとっては1cm。気にせず歩いていたら見つけることも困難な大きさだ。
もちろん姫は周辺の町などすべて見えているのだろうが。

 姫 「それで、最初の都市はどこなの?」
 近衛 「えーと、北の大山脈の向こうですね。かつては大盛栄を誇ったそうですが、時代の流れとともに国の人口が南下して廃れてしまったそうです」
 姫 「そうなんだ。北の大山脈ってことは結構遠いよね」

とは言っても、姫の大きさなら数分とかからない距離であろう。
逆に言えば超巨大な姫でも数分かかる距離ということだが。

 姫 「よいしょっと」

  ズシン ズシン

大山脈を跨いで地面を踏みしめる。
そして足元を見てみれば、確かにそこに都市だったであろう廃墟を見つけられた。

 姫 「これかな? へー、結構 大きかったんだね」

しゃがみこんで都市を見下ろす姫。
姫の足元には城壁で円形にぐるりと囲まれた町があった。町の直径は10km。姫から見れば10cm程度である。

 姫 「んー折角ここまで大きな町なのに、処分するのはもったいないよね。まだあまり壊れてないみたいだし」
 近衛 「しかしこの都市は設備が古く今の技術は満足に機能しないようで。流石に民を住まわせるには…」
 姫 「そうだよねー。……あれ? 処分するっていうことはもういらないってことだよね?」
 近衛 「はい、そうです」
 姫 「なら、わたしがもらってもいいのかな?」
 近衛 「へ? ああ、はい。それはもちろんですが…」
 姫 「やった! じゃあ持って帰ろ」

言って姫は都市に手を伸ばした。
ただし直接 触れはしない。10万倍の大きさの姫の力は途方もなく、うっかり壊してしまうということは十分にあり得るからだ。

姫は都市に手を向けた。

 姫 「えい」

ボゴォ! 都市が地面ごと宙に浮かび上がる。姫の魔法で空に浮かび上がったのだ。

 姫 「ふふ、どこも壊れてないね」

姫が立ち上がると、浮かび上がった都市もスーーッと姫の顔の高さにまで上昇してくる。

 姫 「それじゃあ次の町も拾いに行こ」
 近衛 「…はい、かしこまりました」

姫たちは次の町を目指して歩き始めた。


  *


城の自室。
戻ってきた姫は例のテーブルの上に持って帰ってきた都市を並べていた。
大きさはさまざまだが、いずれも普通の町よりはるかに大きい。最低でも直径5kmの円形だった。

 姫 「ふふーん、これ全部わたしのものなんだ」

椅子に座って都市たちを見下ろしにんまりと笑う姫。

ちなみに都市の土台となる土砂は切り落とされている。
今の都市たちは、城壁で囲われていることもあって、まるでシャーレに入れられたミニチュアのようだ。
もちろん、近衛から見ればどれも等身大の大都市で、城壁に囲われたそれらがこうも密集しているのはなかなか異様であった。

 近衛 「しかし…古い都市など集めてどうするんですか?」
 姫 「え? それはもちろん」

バン! 姫の右手がテーブルの上に叩きつけられた。そこには都市がひとつあったハズだった。

 姫 「壊すんだよ?」

姫が手を持ち上げる。するとテーブルと姫の手のひらには粉々になった都市の残骸がくっついていた。
近衛に向けられた巨大な手のひらには都市一つ分の瓦礫がついていた。

 近衛 「…」
 姫 「えへへ、一度やってみたかったんだー。こうやって町をめちゃくちゃにするの」
 近衛 「………。いやいや。いけません、姫様」
 姫 「なんで? だってもういらない町なんでしょ?」
 近衛 「だからといって国を統べる姫様が町を破壊して楽しむなどと…!」
 姫 「別に人が住んでるわけじゃないし、使わないんだったらゴミみたいなものじゃない」

近衛の言葉を無視して姫は都市を次々と破壊していく。
城壁の中に指をおろしてぐるりと円を描けばそれだけで都市は壊滅だ。直径1500mの指が、姫から見て1mmもないような建物たちをすり潰していく。
図書館も、議会も、学校も、すべてが姫の指先の下で潰されていく。

姫からすれば10万分の1サイズのちっぽけなおもちゃだが、近衛にとってはまさしく本物の町だ。
ちゃんとした建物と道があり、かつては大勢の人々が暮らしていた都市なのだ。
それら歴史を感じられる町並みが、姫の指先の下で次々と押し潰されてゆく様は、まるで自分たちの積み重ねてきた歴史を潰されているような感覚だった。
近衛はしょっぱい顔になった。

そうこうしている間に集められた五つ都市はすべて壊されてしまった。
姫の軽いいたずらで壊滅してしまったのだ。
最早 原形を保っている建物を見つけることすら難しい。

 姫 「あは、全滅~。ホントのゴミになっちゃった」

ふっ。指先に息を吹き付ける姫。小さな町まるごと一個分の建物の瓦礫が凄まじい吐息の中で粉々に粉砕されて消し飛んだ。

 姫 「まぁでも魔法で何度でも元通りにできるんだけど」

言うとすぐにテーブルの上の都市だった瓦礫たちはまるで巻き戻されるように動き出し、すぐに都市の形へと戻った。

その光景を見ていた近衛。
破壊も再生も自由自在。気まぐれになんでもできる、姫の途方もない魔力。

不意に、テーブルの端にいた近衛の体がギュンと飛び上がった。
向かった先は姫の顔の前だった。
近衛の体は、すでにそこに用意してあった姫の右人差し指の指先の上に降り立った。
陶器のように光沢を放つ広大な爪の平原の上である。
そこから見上げれば、視界を埋め尽くしてなお余りある巨大な顔。

 姫 「もー近衛君たら。そんなに気になるの?」
 近衛 「……まぁ、やはり、先人たちが積み重ねてきた歴史の上に我々はあるわけですから、それを蔑ろにしてしまうのは…」
 姫 「近衛君は真面目だなー。ちょっとだけ。ちょっとだけだから」

お願い。と姫は直径1km以上ある目でパチンとウインクした。

 近衛 「………はぁ…わかりました…。ちょっとだけですよ」
 姫 「へへ、近衛君大好き」

溜息をつく近衛の前で、姫の巨大な顔が笑った。


  *


それから姫は町をおもちゃにして壊しては直し、壊しては直しを繰り返した。
吹けば消し飛ぶような都市を相手に、実に楽し気に。

巻き込まれないように宙に浮かされている近衛。

 近衛 「そんなに楽しいもんなんですか…?」
 姫 「あれ、わからない? 自分の指の下でさー、たくさんの建物が潰れてるかと思うと「んん…?」って」
 近衛 「さっぱりわかりません」
 姫 「そっかー。…あ、そうだ」

姫はドレスの胸元に手をかけると、ずるりと引き下ろした。
半分ほどしか覆われていなかった胸がぶるんと飛び出てくる。

 近衛 「なにやってるんですか…」
 姫 「ふふん、見ててね」

姫はテーブルの上の都市のひとつを指でつまんで持ち上げた。
魔法で何かしらのコーティングをしたのだろう。姫の指が触れても崩れず、また、傾けても零れ落ちることはなかった。
城壁に囲われた円形の町は、まるでコインか何かのように持ち上げられたのだ。

 姫 「ほら、魔法で覆ってるからどこも壊れたりしてないでしょ?」

姫が持ち上げた都市を見せつけてきた。
近衛は、垂直になった都市を見るのは初めての事だった。

 近衛 「す、すごいですね…。でも、それがどういう…」
 姫 「これを、こうするー」

姫は、垂直にした都市を、左の乳首の前にあてがった。
都市は、乳首とほとんど同じ大きさだった。あの都市の直径は4kmほどあるはずだが…。

 姫 「いい? 見ててね」

近衛は言われた通り都市を見ていた。
乳首にあてがわれた都市は、その底面を乳首の方に向けている。つまり正面にいる近衛の方に都市の上があるわけだ。
近衛からは、真上から見下ろしているように都市を見ることができていた。

姫は、そうやって乳首の前にあてがっていた都市を、乳首の方に引き下げた。
すると、

  ズボォッ!

都市の中央から、巨大な乳頭が突き出てきた。

 近衛 「うわ!」

近衛からは都市の細かな街並みが見えていた。しかし突如、その町並みを突き破って巨大な乳頭が現れたのだ。
都市は灰色や茶色の建物が多く色合いも地味な感じであったが、そこに突然、ピンク色の乳頭が飛び出てきたのである。
高さ、直径共に1kmほどもある乳頭が、そこにあった無数の建物たちを突き砕き、押しのけ、吹っ飛ばしながら地面から生えてきた。

姫の魔法で重力が町にとっての下方向、つまり姫の乳首の方に向けられているのか、崩れ落ちた瓦礫などはテーブルではなく町の地面の方向に向かって落ちていく。
乳頭は一瞬で町で最も大きな存在になってしまった。それまでの都市のどんな高い建築物でも乳頭の3分の1の高さにも満たなかった。
乳頭の麓に、町が広がっているのである。
乳頭の上には都市を突き破った時にその場所にあった建物たちが瓦礫になりながらも乗っかっている。いくつかはまだ原形を保っていた。
だが原形を保っているせいで、乳頭との大きさの差が顕著になった。
どんな立派な建物も、まるで乳頭に乗っかるゴミのようだ。すでにいくつかの建物は、あの噴火口のように深い乳管口に転がり落ちてしまっている。
ミルクを出すための穴が、町の一角を丸ごと呑み込んでしまえるほどに巨大である。

 姫 「ほら見た? 町の真ん中から乳首が飛び出てきたよ」

クスクスと笑う姫。
姫はすでに手を離しているが都市が落下する様子はない。どうやら魔法で町を乳首に接着させたらしい。姫が乳房をゆすっても、町が落下することは無かった。

 姫 「でも思ったより柔らかくてびっくりしちゃった。これじゃあニプレスにもならないね」

言いながら左手で胸を持ち上げタプタプ上下させる姫。
姫の乳首はほとんど都市に隠れてしまって見えない。乳頭だけが見える。姫の左の乳首の乳輪は最早 都市がそうだ。

 姫 「わたしの乳首が町で一番大きいね。あ、そうだ。近衛君、これからはこの町で暮らす?」
 近衛 「い、いえ、結構です…」

姫が乳首の都市を指さしたので慌てて首を振った近衛。
確かに生活することは容易だろう。むしろ広すぎるくらいだ。直径4kmの都市。大きな町だ。十分すぎる規模だ。
そんな都市に一人。たった一人住むくらいなんてことないだろう。

しかしそこは姫の乳首の上。そこで生活するなどと、近衛にはとんでもないことだった。

その後、姫が魔法をやめたのか、乳首を覆っていた都市は突然 本来の重力を取り戻しテーブルに向かって崩れ落ちた。
ガラガラと崩れ落ちて粉々になっていく無数の建物たち。
テーブルの上には、都市一つ分の瓦礫が小さな山となり、姫の乳首には、町がそこにあったことの痕跡がわずかに残るばかりだった。
乳輪にいくつかくっついて取り残されている建物の一部と、町がテーブルに落下していく際に引っかかって取り残された、乳頭の上につもる瓦礫。
何十の建物から成る瓦礫が乳頭の上に乗っている。
ただそれも、姫が乳房をぶるんと震わせれば、たまらず振り落とされていった。

 姫 「さて、次はどうしようかな」
 近衛 「まだやるんですか」
 姫 「ふふ、まだまだ遊ぶんだから」

再び都市を再生させ始めた姫を近衛が生暖かい目で見つめていたときだった。

  コンコン

 大臣 「失礼いたします」
 姫 「どうしたの?」
 大臣 「は。少々問題が…」
 近衛 「何があったのですか?」
 大臣 「国の南の商業を束ねるいくつかの都市が結託し、物価を不当に操作していることがわかりました。どうやら彼らは海外の商人たちと通じている様子。早急な対応が必要と思われますが…」
 姫 「わかった。なんとかするね」
 大臣 「では失礼します」

大臣が部屋から出ていったのち近衛は姫に話かけた。

 近衛 「では早速準備を…」
 姫 「あ。ううん、大丈夫だよ」
 近衛 「え? 出発なさるのならお召し物を…」
 姫 「ふふふ、大丈夫大丈夫。どうせなら彼らの方から来てもらおうよ」
 近衛 「へ…?」

と、近衛が首を傾げた瞬間、テーブルの上に3つの都市が現れた。
いずれも立派な造りだ。一目見て、栄えている都市だとわかる。

 近衛 「これは…」
 姫 「瞬間移動、かな。さてと、話を聞かせてもらえるかな? 君たち」

姫はテーブルの上の3つの都市を見下ろした。

都市は混乱していた。
たった今まで青空の下にいたはずなのに、今は部屋の中だ。
そして空の彼方から姫が見下ろしてきている。
彼らにとってのそれは、計画が暴露されていることを理解するには十分な出来事だった。

大勢が逃亡を図った。
都市を取り囲む城壁にいくつかある出入り口に人が殺到していた。
しかし彼らは、出入り口に張られた見えない壁に遮られ、一人も町の外には出られなかった。

 姫 「残念でした。魔法でコーティングしてあるから逃げられないよ。でも、逃げるってことは後ろめたいことがあるんだよね?」
 近衛 「まずは証拠を押さえましょう。尋問するにも、都市3つ分の人間を尋問するとなると…」
 姫 「尋問? あはは、そんなのいらないよ。彼らの知ってることを、直接読み取ればいいんだから」
 近衛 「読み取る?」
 姫 「彼らの考えてることや記憶とかぜーんぶね。ふんふん、やっぱり悪いこと考えてたみたい」
 近衛 「……」

クスクスと楽し気に都市を見下ろす姫を見上げ、近衛は唾をのんだ。
思考を読み取る。それはどういうことか。
姫には、嘘も偽りも通用しない。秘密も内緒もありはしない。すべてが筒抜けだった。
知っていることが、考えていることが、内に秘めている感情も何もかもが、手に取るようにわかる。
自分という存在を全くの抵抗もできず暴露されてしまう。
すべてを丸裸にされてしまう。
おのれの頭の中を覗き見られるようなもの。
防ぎようもなく強引に一方的に一瞬で、すべてをさらされてしまう。

不意に、姫が近衛を見た。

 姫 「ふふ、びっくりした? もしかして近衛君も何かいけないこと考えたのかな?」
 近衛 「え…あ……」
 姫 「覗いちゃおうかなー? どうしようかなー?」
 近衛 「ど、どうかご勘弁を…」

宙に浮いたまま土下座する近衛を見てふふっと笑う姫。

 姫 「さて…君たちはどうしようか」

テーブルの上の都市へと向き直った姫が頬杖をつきながら言う。

脱出の出来ない町の中、人々は逃げ場の無い城壁の中で右往左往するばかりだった。
建物に隠れようとする者。ひたすらに逃げ惑う者。恐怖に顔を引きつら、ただ茫然と空の彼方の姫の顔を見上げる者。
ひとつの都市の人口はおよそ10万。3つで30万。30万の人間が、閉じた囲いの中で様々な様相を見せる。
それらすべてが、姫にとっては一瞥して見下ろせるものだった。

 姫 「当然 罰は必要だよね。でないと同じ事する町が出てくるし、悪事は罰せられるものじゃないと国民が安心できないから」

姫の言葉に、すべての人間が震え上がった。

 姫 「じゃあ今から君たちを処刑するね」

言って、姫は頬杖をついていた右手を都市のひとつに伸ばした。

都市の上空に姫の人差し指が迫る。
幅1.5kmの指の腹が人々の頭上を遮る。
町の大半を、巨大な影が覆った。

トス。
姫は指先を都市の上におろした。
なんのことのない感触は、先ほどまで遊んでいた古い都市と同じだった。
しかし今度の町には人が住んでいる。逃げ場の囲いの中にみっちりと。

姫は指先の下に砂粒以下の建物たちが潰れるのを感じながら指をすーっと動かし始めた。
指の通った後はテーブルの表面が顔を出す。都市の町並みの痕跡はどこにもない。
そのまま、都市の中を一周して円を描いた。町を取り囲む外壁周辺と、都市の中央を残し、ドーナツ状に空白が生まれる。
空白地帯は、すべて姫の指先によってすり潰された証拠だった。0.05mmにも満たない小さな建物が無数に消滅したことだろう。そこにいたはずの、住民とともに。
そして指はもう一周したときに外壁を、次に都市中央を呑み込んだ。
これで都市一つが消滅した。

そのまま指は次の都市の上空へと移動して同じように町並みを押し潰し始める。
その都市が終われば最後の町だ。

あっという間に3つの都市が消滅した。20秒と経たぬ短い間の出来事である。
30万もの人間が、20秒のうちに全滅したのである。
テーブルの上に残るのは砂粒にも劣る大きさの、建物の瓦礫程度。人間は一人も生き残ってはいないだろう。


しかしすぐに、巻き戻しが始まった。
粉々になった筈の都市が見る見るうちに再生していく。
そこにいた人々と共に。

住民たちは呆然としていた。たった今、姫に処刑された筈なのに。
夢ではない。脳裏にはあの迫りくる超巨大な指先の恐ろしい姿が焼き付いている。家々を押し潰し、逃げる人々をすり潰しながら迫る巨大な指先を、脳ははっきりと覚えている。
思い出すだけでも体が震える。死の恐怖。
自分たちもその指先に巻き込まれて、そこからの記憶が無い。つまりはすり潰されたはずなのに、今、確かに生きている。

いったい何が…と見上げれば、そこには先ほどと同じ巨大な姫の顔があった。

  *

3つの都市は完全に再生された。
無数にある建物の壁のレンガのヒビのひとつに至るまで、すべてが完全に元通りである。
完璧な再生を果たした都市を見下ろしてクスッと笑った姫は、

 姫 「ふぅー」

息を吹き付けて都市を吹き飛ばした。

軽くすぼめられた唇の間から吐き出された息は、3つの都市をサー…ッと砂でも散らすように吹き飛ばした。
姫の吐息は山に吹きつけられれば山を消し飛ばし、海に吹き付けられれば云万トンの海水を吹き飛ばして海底を露出させるだけの威力がある。
たかが人口の都市などどれだけ頑強に作られていようとその威力の前には塵も同然だろう。
吐息に触れた瞬間、レンガ造りの大きな建物がまるで砂細工だったかのようにサンッと粉々に散るのだ。より脆弱な人間の体はまさに消えるように砕け散った。

薄紅色の唇は、未だ息を吐き出し続けている。
人間は直接吐息をぶつけられなくても、姫が息を吐き出すその行為だけで急激に変化した気圧に耐えきれず炸裂していった。

住民が全滅した後、都市の瓦礫の一粒まで消し飛ばすまで、姫の吐息は止まらなかった。

  *

再び都市は再生された。
住民たちもまた、2度目の死から蘇っていた。
死によって途絶えた意識から、復活していた。

そんな彼らを待っていたのは、町の上空を覆い尽くす巨大な手のひらだった。

バン! 姫は手のひらを都市に叩きつける。
姫から見る都市は直径10cmの円。手に収めるには少々大きいが、手のひらを叩きつけるその衝撃だけで十分に壊滅的な破壊力だった。
持ち上げられた手のひらには都市の瓦礫が付いていた。その状態のまま、次の都市の上に叩きつけられる。
3つの都市すべて、手のひらで叩き潰された。

  *

次に都市を再生したとき、姫は手のひらをテーブルの上に立て、都市の方に動かした。
まるで細かいものを集めるときの動作のようだ。
その手の動きに巻き込まれ、都市がすり潰されてゆく。
姫の手は、雲にまで届く肉の津波だった。たかだか20mや30mの城壁で防げるものではない。
姫が一度手を動かしただけで、すべての都市が呑み込まれた。

  *

次に都市が復活した場所はテーブルの上ではなくテーブルの下の床だった。
彼らの都市の目の前には、椅子に座った姫の履く巨大なサンダルとその上に居並ぶ巨大な足の指たちがあった。
テーブルの下で薄暗い世界。姫にとってのサンダルの厚みは1cm程度だが、彼らにとっては1km。サンダルの厚みだけで、天へと続く絶壁のように高い。
その上に居並ぶ足の指たちは一つ一つが1.5kmにもなり、その指だけでも山脈のように巨大なものを、巨大なサンダルの上に覗くせいでなお巨大に見える。
姫の足のサイズは長さ24km幅9km。その面積は都市3つ分くらいありそうだ。

その巨大な足の履く巨大サンダルがぐわっと浮かび上がった。
都市のひとつの上に、サンダルのつま先部分の靴底が現れる。
薄暗い世界がさらに暗くなった。サンダルの底からパラパラと落ちる砂だけでも、人々にとっては家よりも巨大な岩石となろう。

そんな、普段から姫の巨体を支えるサンダルの靴底が、都市の上に踏み下ろされた。
一瞬で、その9割が潰された。途方もない体重を乗せた固い靴底の一撃は、都市のあらゆる建築物に抵抗を許さず、またその厚い靴底は姫の足に都市を踏みつけた感触すら伝えなかった。
ほんのわずかな踏み残し。サンダルからはみ出た都市の一部。僅かに生き残った人々は、自分たちの都市の大半を踏み潰した足のあまりの大きさに恐怖した。
しかしそれも、姫がつま先をグリグリと動かした時に終わった。都市は床と靴底の間で何度も踏みにじられ、なくなった。
残りの都市も同様である。

  *

次に復活した都市の上空からは、白く巨大なものが降下してきた。
3つ集まった都市がすべて納まってしまうほど巨大なものだ。
それがなんであるか、彼らは答えを得る間もなくその下敷きになった。

椅子へと腰を下ろした姫はドレスに包まれた尻には椅子の感触しか感じなかった。
3つの都市があったのは確実。しかしそれを実感することはできなかった。
それでもおろした尻を動かして潰し残しのないようにする。
30万人を尻に敷いたが、姫の尻は物足りなそうだった。

  *

再び都市はテーブルの上に再生された。
そして30万人が見ている前で、姫が服を脱ぎ始める。
もともと零れ落ちてしまいそうだった胸が、惜しげもなく解き放たれた。
ぶるんと揺れ弾む姫の巨大な乳房。

そして姫はそれぞれの乳房の下に手を添えて、両胸を持ち上げる。
そのままテーブルに体を寄せる。テーブルの上の二つの都市からは、頭上に、巨大な手で支えられる超巨大な乳房を見上げることができた。
都市は姫の胸の下にあった。

その状態から姫は乳房を支えていた両手をパッとどけた。
ドスゥゥゥン!! 支えを失った乳房がテーブルへと落下した。二つの都市の上に。
テーブルの上にずっしりと乗せられた乳房。もうどこにも都市は見えなかった。

残りの一つの都市も壊滅していた。
小惑星サイズの乳房が二つ都市のすぐ近くに落下してきたのだ。その衝撃だけで町が消し飛ぶ威力だった。
凄まじい揺れと、凄まじい衝撃で、都市は粉砕されていた。

  *

また都市はテーブルの上に復活した。
しかしその直後、宙に浮かぶ上がることになる。
3つの都市はみな垂直に向きを変え、そしてそのうちの2つは、姫の乳首へとかぶさっていった。
先の古い都市の時と同じである。その時と違うのは、今度は住民がいるという事だ。

二つの都市が、姫の左右の乳首にゆっくりとかぶさっていく。
町の裏側から姫の乳首が都市に触れる。
都市の住民たちは、突然 町の中央が盛り上がったかと思うと、そこからとてつもなく巨大な乳頭が飛び出てきたことに気づいた。
そこにあった建物たちが、乳頭によって持ち上げられ、その過程で乳頭の上から転がり落ちていく。そこにいた人々も一緒だ。
都市に、裏側から巨大な乳首が突き刺さった。都市の中央にはその町の中枢である重要な建物が密集していたが、それらはみな姫の乳頭が地面を突き破って現れた時に粉砕されたか、乳頭によって遥か高みに連れ去られてしまったか、崩壊し、中にいた住民たちと共に乳管口に落下していったかした。
都市の中央に巨大な乳頭が現れたことで住民は大恐慌に陥っていた。どちらの乳首も同じような状態である。

姫は、その状態から胸を掴み、揉み始めた。
両胸を両手でぐにぐにと揉み解す。都市を貫いている乳首も指でこね回した。
そのせいで都市は一気に壊滅していった。巨大な手に乳房ごと揉まれて。巨大な指に乳首ごとこね回されて。
姫の手が姫の乳房を愛撫するさなかに、都市が犠牲になっていく。

二つの都市がそれでほぼ壊滅したころ、もう一つ残っていた都市が浮いたまま姫の方に移動してきた。
未だ垂直の都市は縦になったコインのように見える。

そうして都市がやってくる都市を、姫は掴んでいる乳房を左右に広げて迎え入れた。胸の谷間に、小さな都市が縦になったまま浮いている。
都市の位置を確認した姫は、広げていた胸を寄せ合った。
ズン! 勢いよく寄せられた乳房の間に、最後の都市が消えた。
その状態のまま乳房をすり合わせ、開いてみる。
谷間に、砂のようなものが付いていた。
すべての都市が揉み潰された。

  *

次のときは、都市はテーブルの上に乗ったままだった。
その都市たちの横から、テーブルに乗せられている乳房が迫ってくる。

乳房をテーブルの上に乗せた姫は、その状態のまま体を横に向かせていく。
体を動かすと乳房もそれに伴って動き、体の動きに引きずられテーブルの上をすべる。
その最中に、都市はあった。
乳房はは姫の体の動きに引きずられ都市たちの方にズズズズ…引きずられてくる。
ずっしりと重たい乳房はテーブルの上にたっぷんと乗っておりどこにも隙間など無い。

人々は迫り来る超巨大乳房という肉と脂肪の津波を前に悲鳴を上げたが、それら都市の上を乳房が通過すると静かになった。
乳房が通過した後には、都市はどこにもいなくなっていた。

  *

これらのことを、姫は何度も繰り返した。
復活させては潰し、復活させては潰し、何度も何度も、彼らを処刑した。
最早それが何回だったのか、その場の誰にも分らないほどに。

再び都市が再生させられた。
テーブルの上の3つの都市。それを見下ろした姫は、小さく息を吐き出した。

 姫 「うん、もういいかな」

  *

何度目かもわからない復活を遂げた住民たちは、憔悴し切っていた。
立ち尽くす者すら少ない。みなが、地面や床に力無く頽れていた。

彼らは何度も死を味わった。
何度も何度も、数えきれないほどに。決して、慣れることはできなかった。
死の瞬間、その元凶たる存在を前に、心臓が握りつぶされそうなほどの恐怖を感じた。血液が逆流するような気持ち悪さを覚えた。
心が闇に覆い潰されそうになるような恐怖。
死。
人生の終わり。
生物としての終焉。
自分という存在の最期。
それを本能に叩きつけられた。
何度も何度も、数えきれないほどに。
何度も何度も、自分の終末を体感した。

走馬燈も何度も見た。死ぬたびに見た。
あまりにも見過ぎて、人生すべてを振り返っても足りないほどの長さになっていた。

死ぬ 死ぬ! 死ぬ!!

あまりにも重いその事実を、何度も何度も味わったがゆえに、彼らの心身は魂の一片を残してすり減ってしまっていた。

 姫 「さぁ、これで反省したかな?」

巨大な声が大気を揺るがした。

 姫 「君たちがもうこんなことしないって約束できるなら、今回は許してあげる。でも…」

不意に姫の右手が都市たちの上空に現れ、そして都市に叩きつけられる。
30万人全員が、頭を抱えてうずくまった。
手は、都市のすぐ上で止まっていた。

ゆっくりと手がどけられ、再び姫の顔が見えるようになる。

 姫 「今度やったらもう生き返らせてあげないからね」

姫は言った。
住民たちは何度も何度も姫に頭を下げて謝罪した。
そのときには、住民全員の毛髪が抜け落ちるか白髪になってしまっていた。体に深いシワが刻まれてしまった。
あまりの恐怖に、肉体と魂が消耗してしまったのだ。

そんな彼らの体が元通りになっていく。抜けた毛髪も白髪になってしまった髪も体も元通りになる。
姫の魔法だった。

 姫 「それじゃ元の場所に戻してあげる。しっかりね」

言うと、テーブルの上の3つの都市はシュンと消え去った。
あとには、姫と近衛だけが残される。

都市がなくなった後、姫が「ん~!」と体を伸ばした。

 姫 「あー、疲れたー…」
 近衛 「お疲れ様です、姫様」

まだ宙に浮かんだままの近衛。

 姫 「これであの町の人たちもちゃんとしてくれるといいけど…」
 近衛 「彼らも身に染みてわかったはず。もう道を踏み外すこともないでしょう」
 姫 「……うん、そうだよね。はーー、なんか胸がムズムズするよぉ。近衛君、揉んで」
 近衛 「え゙…。…いやいや、それは色々な意味で無理です」
 姫 「えー揉んでよー」

ずい。
宙に浮いている近衛の前に姫の乳房が突き出される。
胸板から2万m以上も飛び出している胸だ。天然の山ですら姫の乳房には敵わないだろう。
それほどの巨大なものが、ずいと二つも突き出される。

 近衛 「しかしどう考えましても無理が…」
 姫 「むー。揉んでくれないと近衛君の恥ずかしい記憶を読み取って国中のみんなに転送しちゃうよ」
 
い…ッ!?
近衛は固まった。

 姫 「ほらほら、わたしの胸を揉むのと、恥ずかしい記憶をバラされるのとどっちがいい?」

姫がクスクスと笑いながら胸をグイグイと近づけてくる。

山よりも巨大な胸を揉むか、国民全員に恥ずかしい記憶を知られるか。
究極の選択だった。



  *
  *  ******************************************************
  *



 『9:軽罪への刑』 100倍


姫の部屋。
テーブルの上には5人集まっている。

 姫 「この人たちが罪人…なの?」
 大臣 「はい。いずれも軽い罪の者なので、刑の判断を姫様に仰ぎたく。ではよろしくお願いいたします」

先刻、大臣が連れてきた罪人たちを見下ろす姫。

姫はこの国のあらゆる物事の最終決定権を持つ。
罪人への刑の決定もそう。重罪人への刑の執行もそうだが、軽罪への情状酌量を判断するのも姫の仕事である。

ただ、重罪はともかく軽罪への酌量のはかり方は、姫はまだ把握しきれていなかった。

 姫 (んー…こういうときに近衛君がいてくれたらなー…)

近衛は数日前から用で城を出ていた。
近衛の判断を仰ぐことはできない。
自分でやるしかないのだ。

 姫 「え、えーっと…、君たちはどうして罪を犯したのかな?」

とりあえず、罪を犯した理由を訊くことにした。

が、5人は震えあがって姫の質問が頭に入ってきていなかった。
眼前におわすのは国のトップの姫。自分たちは罪を犯した罪人。生殺与奪を握る人物が目の前にいるのだから。
さらにその人物が自分たちの100倍も大きいとなればその存在感と威圧感はとてつもない。見下ろしてくるその視線だけで潰されそうなほどのプレッシャーを感じた。

そんな罪人たちからなんとか理由を聞きだした姫。

 姫 「ふーん、つい魔がさして、なんだ。それなら重い罰はかわいそうだよね」

んー、と頬に指を当て考える。

 姫 「じゃあ奉仕活動したら許してあげる」

言うと姫はドレスの胸元に手をかけ、グイと引きずり下ろした。
爆乳が、ぶるんと飛び出てくる。
そしてテーブルに体を寄せ、乳房を乗せた。

 ずずうううううううううううううん!!

テーブルの上が激しく揺れ、罪人たちはたまらず転倒した。
家よりも巨大な乳房が落下してきたのだ。レンガ造りの頑丈な家であっても、あの乳房を乗せられてしまっては一瞬で押し潰されてしまうだろう。

 姫 「わたしの胸を揉んでくれるかな」

巨大な人差し指が現れ、巨大な乳首を指さした。
尻もちを着いて呆然としていた罪人たちだったが、それで許してもらえるならと、立ち上がって姫の乳首に群がる。
彼らから見る姫の乳首は直径4m。乳頭も1mほどある。彼らはそんな巨大な乳首を思い思いの方法で刺激した。

自身の右胸の乳首に群がる罪人たちを見下ろす姫。

 姫 (ふふ、みんなかわいいなぁ。5人もいると流石に気持ちいいかも。最近ご無沙汰だったし)

などと思っているうちに姫の乳首はムクムク勃起し始めた。
ただでさえ巨大だった乳頭が目の前で更に巨大になり始める様に驚きながらも、5人は手を止めず姫の乳首をマッサージし続けた。

 姫 (ちっちゃな手が乳首をぺたぺた触ってる…ッ。あ、そこはミルクの出る穴だよ、そんなところに手を入れられたら…!)

 プシャアアアア!!

案の定、ミルクが噴き出してしまった。
あふれ出たミルクは5人を吹っ飛ばし、テーブルの中ほどにまで押し流してしまった。

 姫 「あらら、ごめんね。みんなのマッサージが気持ちよくて」

姫は苦笑した。

5人はミルクの濁流の中でアップアップしていた。
深いわけではないが、突然のことで押し倒され、パニックになっていたのだ。
ミルクの川の水深は20cmと言ったところか。

 姫 「あちゃー…、みんな汚れちゃったね」

たしかに全員ミルクでずぶ濡れだった。

 姫 「ちょっとだけ綺麗にしてあげる」

言って5人を摘まみ上げた姫は、彼らを口に放り込んだ。

はむ。
閉じた口の中に5つの小さな存在を感じる。
それを確認した姫は口をもむもむと動かし始めた。彼らについているミルクを舐め取ろうと思ったのだ。

 姫 「もむもむ」(彼らから自分のミルクの味がするって不思議な感じ。それになんかみんなすごい動いてる。もしかして暴れてるのかな? やっぱり怖かったかな)

舌の上に乗る小さな彼らの動きを口の中に感じた。
舌の上で動き回る者。前歯の裏を叩く者。歯の外に回り頬壁との間に挟まれる者。
5人が、口の中に散らばっている。彼らの悲鳴みたいなものも、口の中から直接 頭に聞こえてくる。

しかしそんな彼らも、姫が舌をくるりと動かせばみんな口の中央に集められてしまう。
彼らを舐め取るなんて簡単な話だった。
そうやって舌の上に集めた彼らを舌や上あごを使って舐めまわし、体に付いたミルクを舐め取っていく。

 姫 (くす、そんなに怖がらなくても大丈夫、すぐに出してあげるから。でも彼らにしみ込んだミルクを舐め取るのって結構楽しいかも。今度 近衛君でまたやろうかな)

姫はクスクス笑いながら口の中で逃げ回る彼らの味を楽しんでいた。

  ドア ガチャ

 近衛 「ただいま戻りました」
 姫 「ん゙…っ!?」

近衛 突然の帰還。
思わず口の中のものを呑み込んでしまう姫。

 姫 「あ…っ!」
 近衛 「? どうかなさいました?」

首をかしげる近衛。

 姫 「う、ううん! なんでもないから!」

姫は両手をパタパタ振って笑った。

 近衛 「はぁ…そうですか」

首を傾げたまま、帰還の後片付けを始める近衛。

そんな近衛を見届けた後、姫は自分のおなかを見下ろした。

 姫 「ど、どうしよ…」(汗)



  *
  *  ******************************************************
  *



 『10:隣国』 1万倍 


 近衛 「…というわけで、このあたりの山は処理してしまった方がよいかと」
 姫 「そっかー。じゃああとで潰しておくね」

国内の視察に出ている姫と近衛は地方の抱える問題のあぶり出しと解決を行っていた。
とそのとき、

 ずううううううん!  ずうううううううううん!!

遠くから重々しい音が近づいてきた。
二人がそちらを見れば、そこには自然風景には絶対にありえない、真っ赤な存在があった。さらによく見れば、それは人の形をしている。
真っ赤なドレスに身を包み、金髪の縦ロールを風に揺らし、巨足で大地を揺るがしながら歩いてくる存在。

それは姫と近衛の前まで来ると、足を止めた。

 「ごきげんよう、お姫様」

挑発的な笑みを浮かべ見つめてくるのはこの国の隣国であるリンゴクの姫、隣(りん)。

 姫 「あ、隣。久しぶり」
 隣 「相変わらず雑な事をなさっていますのね。そう言うことは下々にやらせればよいのではありませんの?」
 姫 「んー、でもわたしの国だし」
 近衛 「り、隣姫様、足元に町がありますのでご注意を…!」
 隣 「あら、これ町でしたの? 全然気が付きませんでしたわ」(ぐりぐり)

真っ赤に彩られた爪の見えるつま先の乗せられたサンダルが地面を踏みにじる。
隣姫も姫と同じ1万倍サイズである。

 隣 「まぁそんなことは置いといて、今日はあなたを誘いに来たのですわ」
 姫 「わたしを?」
 隣 「ええ。さぁいらっしゃって」
 姫 「わわ、引っ張らないで!」

姫の手を引いて歩き出す隣姫。
もつれた姫の足が地面をズシンズシンと踏みしめた。


  *


ついた先は隣国のリンゴク。
国のあちこちに点在する町の合間を縫って、全長2400mの足を乗せたサンダルたちが踏み下ろされていた。

 姫 「うわー、すごい発展してるねー」
 隣 「当然ですわ。わたくしの国ですのよ」
 姫 「うん。で、でも、ちょっと足の踏み場が無いかも…」

地面を埋め尽くすほどに広がる町々の隙間におっかなびっくり足をおろしていく姫。
姫の国は町と町の間に間隔があり足をおろす場所に困ったことは無かった。
が、ここではそうもいかない。
どこに足をおろしても町の近所だ。足を踏み下ろすたびに地響きが起き、周辺の町を壊滅させてしまう。
姫の一歩は隕石の衝突と同じだった。巨大なサンダルが地面を踏みつけた瞬間、周囲の町が消し飛ぶ。

 姫 「ご、ごめん、隣…」
 隣 「構いませんわ、どうせすぐに復興しますもの。それよりも さっさといらっしゃいな」
 姫 「う、うん」

少し先で呼ぶ隣の元へ向かう姫の次の一歩は、また周辺の町を壊滅させた。

  *

そうやってやっとこたどり着いた隣の城。
通された隣姫の部屋は、国一番の姫の部屋すらも比べ物にならない豪奢な造りだった。

テーブルへと着いた姫に差し出されたのは煌びやかなカップに注がれた琥珀色の紅茶。

 姫 「あ! おいしー!」
 隣 「ふふ、そうでしょう? 我が国の選りすぐりの茶師たちが手掛けた最高傑作ですわ。今後はこれを輸出の目玉にしようかと考えていますの」
 姫 「あ、いいなーそれ。わたしも何か考えようかな」

と再びカップに口をつけたとき、

 姫 「…? なんかくすぐったい?」

足にくすぐったさを感じてテーブルの下を覗き込む。

 隣 「ああ、気にしないでいいですわ」
 姫 「へ?」
 隣 「足のケアを美容部隊にやらせてますの。今 彼らが汚れや疲れを取ってますわ」

見れば確かに、サンダルを履いている自分の足の周辺に、無数に人影があった。

 姫 「ホントだ。なんか悪いなぁ」
 隣 「それが彼らの仕事ですもの、気にすることじゃありませんわ。なんならサンダルも脱いでしまいなさい。その方が彼らもやりやすいですわ」
 姫 「わかった」

姫はサンダルを脱ぐと床に置き、その横に足を並べて置いた。
するとすぐに、再び無数の人間が足に群がった。

 姫 「お願いしますね」

自分の足に群がる人々を見下ろして姫は言った。

実際に数万の人が姫の足の周囲に集まっていた。
姫の足は全長2400m。それは、歩くだけでも30分近くかかる距離。
そして幅も900m。高さも最低でも百m超。
そんな巨大な足をケアしようというのだから人数が必要なのは当然だった。
実際には、片足に5万人ずつ集まっていた。

美容部隊の彼らは直径150m長さ400mほどもある巨大な足の指などの下に潜り込み、指紋やシワなどの溝の中まで手を入れていく。
彼らから見る姫の指紋は深さ1mほどもある。それら深い溝に詰まった、彼らから見ても砂粒のような大きさの汚れを残さず取る。

ヘリなどを使って空へと飛び上がった美容部隊は足の指や甲の上に降りてそれぞれのケアを開始する。
指一本ごとに1000人もの隊員が振り分けられ、皮膚や毛穴のケア、そして爪の手入れに向かっていく。
特に爪は100平方mもの広範囲 且つ非常に頑強で、それを磨くためには重機を用意しなければならなかった。

広大な足の甲の斜面は山肌ににも似た雄大さであり、その上には1万人以上の隊員が割り振られていた。
彼らは毛穴や幹線などに溜まった毒素や皮脂などを吸い出していくのが主な任務だが、それらは無数に存在するので相応の人数が必要なのである。
毛穴は直径20cmほど。しかし深さは2mを超える。それらを最速 且つ適切に処理していかなくてはならない。

角質を取るときは爆薬を用意しなければならなかった。
姫や隣の角質は非常に強固で通常の道具では役に立たない。岩盤に穴をあける以上の量のダイナマイトが必要だった。

また 二人が無意識のうちに足の指を動かすなどすればつま先周辺で動いているおよそ1万人が撥ね飛ばされる。
指に乗っている1000人は当然振り落とされる。ロープなどを使って指の側面を手入れしていた隊員たちも、ロープが引き千切られ指から転落していく。
二人にとっては足の指をピクリと動かした程度の感覚でも、その指の周辺で働いている隊員たちにとっては天変地異のような凄まじい衝撃が起きる。
姫たちの1mmは隊員たちの10mに相当する。足の指が1mm横に動くだけで、瞬時に10mも動くということ。とても立っていられる状況ではない。

特に姫はケアされ慣れていないので彼らの動きをくすぐったがり、指をもじもじと動かしていた。
それは隊員たちにとって横たわった高層ビルのような巨大な指が暴れ狂うという事。
直径150m全長400mの指たちがその上に乗る人々を振り落としながら互いに体をぶつけ合い、床の上の人々を巻き込みながら地面をむさぼり、周囲の隊員に襲い掛かる。

まるで5匹の巨大な怪獣が暴れているようだった。
指の周囲を飛んでいたヘリや飛竜が暴れる指に激突されて次々と墜落していく。
しかし隊員たちは何度となく振り落とされ、下敷きにされようとも、果敢に指に向かっていった。

クスクスと楽し気に笑いながらにティータイムを満喫する姫と隣の足の周囲には戦争のような光景が広がっていたのである。

そこへ、

 隣の大臣 「失礼します。隣姫さま、西の物見より敵の進軍を確認したと報告が入りました」
 隣 「あら、またですの? 何度追い払っても懲りないですわね」
 姫 「どうしたの?」
 隣 「最近西の国がちょっかいかけて来ますの。別に大したことはないのですけれど、ティータイムまで邪魔されると鬱陶しいですわね。いい加減、反撃させてもらいますわ」

席を立つ、隣姫。

 隣 「せっかくですわ、あなたもいらっしゃいな」


  *


西の国とは険しい山脈によって遮られている。
その山の麓に広がる平野には西の国の兵士が云十万と並び進撃のための隊列を整えていた。

そんな彼らは、国境である山脈の向こうに立つ、その山脈よりも遥かに巨大な赤と白の二人の巨人を見上げた。

 隣 「さ、行きますわよ」

サンダルを履いた足のくるぶし程度の高さの山脈を跨いで、隣姫は西の国に踏み込んだ。

  ずずううううううううううううううううううううううううん!

全長2400mの足を乗せたサンダルの靴跡が、他国の領土に刻み込まれる。

展開していた西の国の兵隊たちは巨足が踏み下ろされたときのすさまじい衝撃で地面から100m以上も跳ね飛ばされ、同時に巻き起こされた突風によって1000m以上も吹っ飛ばされた。
侵入を果たした隣姫はそのまま内陸へと向かって突き進んでいき、そのために足が踏み下ろされるたびに地面が波打ち、国が揺れた。

 隣 「さぁ何をしてますの?」
 姫 「で、でもほら、わたしは関係ないわけだし、この国の人に悪いかなーって…」
 隣 「いいえ、これは わたくしの国とあなたの国の結束を示すいい機会ですわ。彼らにはわたくしたちの国に戦争(ケンカ)を売ればどうなるか、身を以って味わってもらいますわよ」
 姫 「んー…じゃあ少しだけよ」

姫も山脈を跨ぎ、西の国へと足を踏み入れた。

  ずずううううううううううううううううううううううううん!

再び、山脈の麓に広がる平野が激しく揺さぶられた。
隣姫の衝撃ですでに隊列が崩れ統率の崩壊していた兵士たちは、また地面の上を転がることになる。
そんな彼らは、突如影に覆われた。

 姫 「えっと…ゴメンね」

困った風に笑いながら片足を振り上げる姫。
足の作る影の中にいる数千の兵士たちからは、広大なサンダルの底を見上げることができた。
その意味を理解し、悲鳴を上げて逃げ惑う兵士たち。
しかしサンダルの底は、すでに目の前に来ていた。

踏み下ろしたサンダルが軽く地面に沈み込む感触がした。
もう片方の足も平野の別のところにおろす。そしたらもう片方の足を持ち上げ別のところに下ろす。
しばし姫は展開した兵士たちの相手をするため平野で足踏みした。


あらゆる反撃は、実行できなかった。
地面が激しく揺さぶられる中では投擲兵器などまともに使用することは不可能だったし、サンダルだけでも100mほどの厚みがあり、その上に乗る足まで攻撃が届かなかった。
とくに隣姫は時速2万km以上もので速さで歩いているので、攻撃するどころか近づくこともできなかった。


そうやって途中 山や町を踏み潰しながら進撃を続けた隣姫はあるところでその巨足をピタっと止めた。
見下す先には大きな町。その中心部には立派な城が聳え立っている。

 隣 「ここが国の王都で間違いないですわね」

ニヤリと笑う隣姫。
その間、王都から出てきた精鋭の兵士たちが王都の前に踏み下ろされている隣姫の足を取り囲んでいく。

 隣 「あら、健気ですのね。では王都を護らんとするあなたたちに敬意を表して…」

足を持ち上げた隣姫はサンダルを脱ぎ捨てた。

 隣 「サンダルを脱いで差し上げますわ。さ、これであなたたちの手も届くでしょう。好きに攻撃してわたくしを退かせてみなさいな」

足の周囲に広がる数万人の兵士たちを見下ろしてクスクス笑う隣姫。

サンダルを履いていようといなかろうとその巨大さに大した違いは無かったが、兵士たちは鬨の声を上げ、隣姫の足に向かって突進していく。
そして手にした剣や槍で足を攻撃した。
切り付け、突き刺し、叩きつけた。
が、

 隣 「ふふ。くすぐったくすらありませんわね」

隣姫の笑い声が国を震わせた。
隣からすれば兵士など0.2mm程度の大きさ。そんな彼らが云万人集まろうと物の数ではない。
砂粒のような大きさの兵士たちがさらに小さな武器で攻撃してきたところで何も感じられなかった。
彼ら全力の攻撃は隣姫の分厚い皮膚に遮られ威力をほとんど神経にまで伝えられなかったのだった。

 隣 「わたくしのケア部隊の方がまだやりますわ」

言いながら姫は左足を横にスライドさせた。
それだけで、左足にとりついていた兵士はほとんど全滅した。
右足も同じように動かせば、隣姫を討ち倒さんと出撃した兵士のほとんどがいなくなった。
わずかに残った兵士たちも、隣姫が片足で周囲を軽くペタペタ踏み固めれば全滅である。

 隣 「さて、もう兵も残っていないみたいですし、どうしてしまいましょう?」

王都を見下ろして笑う隣姫。
王都の直径は5km。隣姫から見れば50cm。他の町と比べれば大きいが、大した違いはない。

 隣 「このまま踏んでしまっても、お尻で潰してしまっても構わないのですが」

どちらにせよ簡単なこと。町の上で足踏みをすれば数回で、尻の下敷きにすれば1回で町を消滅させられる。
未だ町に残る十数万の国民は、見下ろしてくる巨大な隣姫を見上げて震えあがっていた。

 隣 「国民に罪はありませんものね。なので王室を罰することといたしますわ」

隣姫はゆっくりしゃがみ込むと地面の王都に向かって右手を伸ばした。
そして王都の中央にある城を親指と人差し指でつまむとヒョイと持ち上げ地面から抜き取り、立ち上がる。
幅200m高さ120mと巨大な城も、隣姫から見れば幅2cm高さ1cmちょっと。指先でチョイと摘まめてしまえる大きさである。
土台である岩盤ごと持ち上げられてしまった城には国王を含む国の偉い人間が未だ数百人は取り残されていたが、彼らを守るべき兵や城壁は最早10km以上もの彼方の地面に取り残されていた。
雲より高く飛び上り天空の城となってしまった城の窓の外から、城と同じくらいに大きい巨大な碧い瞳が覗いてきた。

 隣 「この中にこの国の王がいるのですわね。ふふ、あなた方の権威なんて、わたくしの指で摘まめてしまえる程度のものだとわかっていて?」

指の間のちっぽけな城に目を寄せて覗き込んで見てみるも中の様子はうかがえない。
が、この国の中枢でもある人間たちが奥底でガタガタと震えている様は予想できた。

 隣 「このまま指で潰してしまうのも面白くありませんわね」

言うと隣姫は首に下げていたネックレスの宝石を引き千切った。



 姫 「おわった?」

ズシンズシンと地面を踏み鳴らしながら近づいてくる姫。

 隣 「ふふ、どうかしら?」

姫の方を振り返る隣姫。
するとその首元には、ネックレスのチェーンに繋がれた小さな城が吊るされていた。

 姫 「うわ、どうするのソレ」
 隣 「もちろんアクセサリーにしますわ。彼らの権威も、わたくしを飾る数多の宝石の一つに過ぎないということを身を以って理解していただきますの」

隣姫が楽しそうに笑うとその首元に下がる小さな城がカラカラと揺れた。

 姫 「大丈夫? 潰れちゃわない?」
 隣 「魔法でコーティングしてあるから平気ですわ。まぁ、もしかしたらうっかりと胸の間で潰してしまうかもしれませんが、それならその程度の存在だったというわけですわ」

チェーンに繋がれる城は隣姫の寄せられた胸の谷間の上に乗っかるようにしてそこにある。
うっかりは、すぐにでもやってくるかもしれない。

 隣 「では帰ってお茶会をやり直しましょう。ああ、サンダルを取りにいかないと…」

と、踏み出した隣の足はそこにあった 城の無くなった王都を平然と踏みつけていった。
城壁で囲まれた直径5kmの円形の王都。その中央に全長2400m幅900mの巨大な足跡が残された。



  *
  *  ******************************************************
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 『11:海賊退治』 1万倍


 姫 「海だー!」

ザバァ! と水をすくい上げる姫。
を、たしなめる近衛。

 近衛 「姫様、あそびじゃないんですから」
 姫 「えー、ちょっとくらいいいじゃない」

姫が唇を少し尖らせる。

ちなみにすでにかなりの沖合。
姫の巨大な乳房が動くたびに、周囲に波が発生する。

つまり姫は全裸。

 近衛 「なんで水着 着てないんですか…」
 姫 「今日はパーッと解放されたかったの。どうせ誰も見てないし」
 近衛 「これから海賊の存在を確認しにいくんですよ?」

今回の仕事は海賊の調査。
港町より沖合に海賊船が見えるとの報告を受け、その調査にやってきたのだった。
ただ、姫は、文字通り少々浮かれ気味だ。

全裸ではあるが体のほとんどは海中に没していて見ることはできない。
見えるのはせいぜい胸から上。頭にはティアラを乗せていて、その長い黒髪は姫の背後に巨大なワカメのように広がっている。

そしてすぐに、目的の海賊と思わしき船団を発見した。

 姫 「え? これ?」
 近衛 「そのようですね」

姫は海賊船を指さしながら近衛に訊いた。
それぞれが全長100mにもなる巨大な帆船であり、それらが50も集まって成る海賊の大船団。
も、姫から見れば全長1cmのちっぽけな船が集まって浮いているという程度の感覚。
1万倍サイズの姫にとっては、なんとも期待外れと言った感じだ。

 姫 「もっとすごい迫力を期待してたんだけど…」
 近衛 「いえ…姫様だからそうであって、私からしたらとても恐ろしいですよ…」
 姫 「そうなの? こんな小さな船が~?」

言いながら姫は海賊船の一つを指でつついた。
船は潰れ藻屑となってしまった。

 姫 「うわ、よわっ」

ほんの少し触っただけで潰れてしまった船に驚く姫。


しかし本当に驚いているのは海賊たちである。
海から、裸の女の胸から上の上半身が飛び出しているのだから。
しかもそれが、島くらいに大きな巨人だというのだから。

そして突如 巨大な指が伸びてきて仲間の船に近づいてきた。
その指の太さだけでも船の全長よりも大きい。長さは700mにもなるだろうか。

そんな巨大な指に横っ腹からぶつかられた船はあっさりと潰れ藻屑になってしまった。
例えば別の船が横から衝突してきても、ああは潰れない。船は横に潰れていた。上から見れば船は本来ふっくらしているが、それが「 ( 」になってしまっていた。
直後、バラバラに崩れて藻屑になった。
指が触れただけで。恐ろしいことだ。

呆けていた海賊たちは慌てて反撃を開始した。


海賊たちからの反撃が始まった。
そのすべては姫の乳房に命中した。
というのも姫の前面に展開する海賊たちには、その胸板からバインと飛び出た乳房以外に攻撃する場所が無いのである。
山のように巨大な乳房であっても脂肪の塊であることにかわりはなく、海に浮く。
まるで島のように揺蕩う巨大乳房が姫と海賊たちの間にあるので、海賊たちはそこを攻撃するしかなかったのだ。

大砲が火を噴く。砲弾が次々と飛んでくる。
それらは姫の乳房の表面に着弾すると炎を巻いて爆発した。

 近衛 「大丈夫ですか、姫様」
 姫 「うん、少しくすぐったいくらい」

当の姫は涼しい顔であったが。
数発も撃ち込まれれば大型船ですら沈没の可能性が出てくる大砲だが、姫にとっては毛先でくすぐられる程度の感触だった。

 姫 「まぁとにかく、こっちも反撃しないと」

言うと姫は上半身を軽く揺すった。
すると二つの乳房が左右に大きく動き、その動きで発生した渦と波に巻かれ10隻以上の海賊船が沈んでいった。

 姫 「ふふ、これってオッパイだけで勝てるんじゃないかな」

姫が彼らに向かって進むと二つの乳房は船首のように海を割りながら前進した。
すると谷間は二つの乳房が割った波で激しい渦ができ、そこに巻き込まれた3隻の船はズタズタに引き裂かれながら波間に消えていった。


 姫 「えい」

ぐい、と右胸を突きだす姫。
右胸の前にいた船の横っ腹に乳頭が激突した。
自身の全長と同じくらいの直径の乳首にぶつかられぺちゃんこになりながら崩れる海賊船。


左胸の前にいた一隻は乳頭を上から乗せた。
船は乳頭を一瞬も支えることもなく一緒に水中に沈んでいった。


 姫 「挟んであげる」

波を立てないようにゆっくりと近づいた姫は2隻を谷間に迎え入れると胸をギュッと寄せた。
ズムっと寄せられた胸は大量の海水を谷間から押し出したが、船は間に取り残されて潰されてしまった。


 姫 「くす、ほらみて近衛君、乳首に船が乗ってるよ」

姫が指さす右の乳頭の上に海賊船がちょこんと乗っている。
乳頭の上に座礁してしまった船はもう自力では移動できない。
その指で乳首をピンとはじくと、上に乗っていた海賊船もボッと粉砕された。


 姫 「こすりつけてあげようか」

左手の人差し指の腹の上に海賊船を救い上げた姫。
指先の上に巨大な海賊船がちょんと乗っている。
その海賊船を左の乳首に押し付けた。
指と乳輪との間に挟まれた海賊船は一瞬で押し潰され、更にはぐりぐりとこすりつけられたことで完全にすり潰されてしまった。


 姫 「どうかな、わたしのオッパイの上からの眺め」

何隻かの海賊船を右の乳房の上に摘まんで乗せた。
たっぷりと浮く巨大な乳房の上はほとんど平面のように勾配がゆるく、乗った船は地面の上かのように安定して乳房に乗っていた。
乳房の上とは言え、水面からの高さは1000kmを超える。大型船が、こんなにも高い場所に来ることがあるのだろうか。
肌色の平原から遠い大海原を呆然と見下ろしていた海賊たちであった。
そんな海賊船は、姫が軽く胸をゆすった時にその肌色の斜面を転がり落ちていってその過程でグシャグシャになりながら海に落下した。


左胸をぐいと持ち上げた姫。
山ほどに巨大な乳房が大量の水を滴らせながら海面から浮かび上がる様は恐ろしいものであった。
そうやって持ち上げた乳房を、3隻ほど集まる場所の上に持ってくると

 姫 「それ」

乳房を支えていた左手をどけた。

 どっぱあああああああああああああああああああああん!!

落下してきた乳房は大量の水を撥ね退けながら着水した。
周囲が大荒れになる。
乳房はそのまま半分ほど身を鎮めると元のように揺蕩い始めた。
乳房の下敷きになった3隻の海賊船は、藻屑すら浮かんでこなかった。


右胸の前にいた3隻の海賊船は姫に向かっての砲撃を続けていた。
砲弾は姫の乳首に次々と命中して爆発する。

 姫 「ん…、ちょっと気持ちいいかも」

砲撃の刺激に、乳首がムクムクと大きくなる。

敵の巨大化にひるむも、海賊船たちは攻撃の手を止めず、的の大きくなった乳頭に次々と攻撃した。
ときに砲弾が乳管口の中に吸い込まれるように入っていき、中で爆発したりした。

 姫 「あぅ、そんなに気持ちよくされちゃうと…」

ビグンビグンと脈動する姫の乳首。
そして、

 どぷううう!

母乳が飛び出た。

鉄砲水のような勢いで飛び出た母乳は乳頭の正面方向にいた一隻を消し飛ばした。
乳管口から放たれたミルクの水流は直径50mを超え5km以上もの距離を一直線に飛んでいた。
山さえも粉砕する威力である。1隻の船を粉砕するなどどうということはないだろう。

ほかの海賊船も乳頭から拡散して放たれた母乳の直撃によって沈没していった。
細いミルク流の直撃を受けた海賊船は船体に大穴を開けられた。別の船はウォーターカッターのように切断されてしまった。

さらにどぷどぷとあふれ出る母乳はミルクの津波となって他の船も呑み込み始める。
姫の正面周辺の海は乳白色に染まってしまった。

 姫 「あらら、おっぱい出ちゃった」

照れくさそうに頬をポリポリと掻く姫の目線の先で、海賊船たちがミルクの海を航海していた。

 姫 「まぁどうせあと半分くらいだし、さっさと沈めて…」

と言いながら姫が生き残っている海賊船たちに手を伸ばしかけた時だった。

 隣 「あら? 姫ではありませんの」
 姫 「え?」

声がかけられそちらを見てみればそこには隣姫がいた。
姫と同じように全裸で海に浸かっている。

 姫 「えー、こんなところでなにやってるの?」
 隣 「ただの休暇ですわ。あなたこそ何やってますの?」
 
ザブザブと巨大な乳房で海を割りながら近づいてくる隣姫に、自分の胸の前を指さして見せる姫。

 姫 「海賊退治。港町の人に頼まれたんだ」
 隣 「はぁ…そんなものは海軍にやらせればいいでしょうに」
 姫 「あはは。でもわたしの国だし」
 隣 「まったくあなたは…。それにしても…」

目の前までやってきた隣姫は、目の前の姫の胸元を見下ろした。

 隣 「……サイズはいくつですの?」
 姫 「ええ!? ひゃ、115だけど…」
 隣 「む…。わたくしは112ですのに」

隣姫の右手が、姫の左胸をわしづかみにした。

 隣 「憎たらしい物体ですわね。指が沈んで行きますわ」
 姫 「り、隣だってかわらないじゃない!」

姫も隣姫の胸を揉み返した。

 姫 「と、とにかく今わたしは仕事中なんだから!」
 隣 「そんなものすぐ終わらせてあげますわ」
 姫 「え…」

二人は自分たちの胸元を見下ろした。
そこには残りの海賊船たちがいた。前後を巨大な姫たちに挟まれ、身動きが取れなくなってしまったのだ。

今 姫と隣姫は互いの乳房が触れ合うほどに近づいている。海賊船たちは、そんな乳房の作る囲いの中に閉じ込められてしまっているのだ。
4つの乳房が、海賊船たちを包囲し取り囲んでいた。もう逃げることはできない。

 隣 「このまま胸を寄せ合えば…」

言って隣姫が体を姫に近づける。
すると触れ合っていた乳房たちがさらに強く押し付けられ合う。
それは、海賊船たちの残り少ない行動範囲を、更に縮めることを意味する。
全方向から押し寄せてくる巨大な乳房という壁。押し付けられあってたぷたぷと変形しながら海賊船たちに迫る。
寄せ集められた海賊船たちは、すでに互いの船がぶつかり合うほどに包囲を縮められてしまっていた。
見上げるほどに高く押し寄せてくる乳房たちの壁の中で、海賊たちは頭を抱えて悲鳴を上げた。

 隣 「それ」

隣姫は両腕で姫に抱き着いた。
互いの体は密着し、胸のところでプチプチプチと何かが潰れる感触がした。

 隣 「ほーら、これで全滅ですわ」
 姫 「も、もう、隣ったら…! 離れてよー!」
 隣 「あら? なに顔を赤らめてますの?」
 姫 「だ、だって、隣の乳首との間で潰れた海賊船がこすれて…」
 隣 「そう言えばあなたは乳首を攻められるのが苦手でしたわね。なら胸を小さくするためにもたっぷりと出してしまいなさい」

姫と隣姫の乳首がこすれあい、その間で海賊船がより細かくすり潰されていく。
乳首同士がこすれる刺激に姫はまた母乳があふれてしまった。
二人の体の間から噴水のように飛び散るミルク。
自身の顔に付いたミルクをすくいペロリと舐め取る隣姫。

 隣 「ふふ、甘くておいしいですわ。さぁ、どんどん出しなさい」(ぐりぐり)
 姫 「んん…、そんなに刺激されたらますますあふれちゃうよぉ…! 近衛君、助けて!」
 近衛 「えーと、私は先に帰ってますんで。では」
 姫 「ああ! おいてかないでー!」

シュタっと手を上げて去る近衛に手を伸ばして追いすがる姫。

その後、取り残された姫は隣姫に延々と乳を搾られ続け、隣姫の気が済んだときには、海は乳白色になっていたという。



  *
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  *



 『12:外遊中の搾乳』 100万倍


それは外遊の途中だった。

 姫 (う…、なんか胸が張ってきちゃったかも…)

海の上、立ち止まり、ドレスの上から胸を押さえる姫。

周辺には大陸や島がいくつもあり、それらは大小さまざまな海で囲まれているが、100万倍サイズの姫にとっては海など水たまりに等しかった。
そうやって次に訪問する国に向かう途中の出来事である。

 姫 「こ、これは一度搾っちゃわないとダメな奴かな…」

姫は定期的に乳を搾らないとダメな体質であった。
しかし何も今来なくても。と思う。

 姫 「でも…」

周囲を見渡した。
今、姫がいる海は日本海程度の広さ。100万倍サイズの姫にとっては直径1mもない小さな水たまり。
その中心に、立ち尽くしているのである。

 姫 「ここで搾るしかないのかなぁ…。とても帰るまでもちそうにないし…」

そわそわもじもじと脚をすり合わせる姫。
全長800km近い肌色の柱が擦り合わされた。
一応、自分の大きさを理解はしている姫だった。ここで搾った場合の周辺国への影響を考える。

 姫 「………で、でも しかたないよね。少しだけ、少しだけだから…!」

もう我慢できないことを察した姫は早々に諦め我慢できる程度にまで搾ってしまうことにした。
ドレスをずり下げ乳房をあらわにするとその場にしゃがみ込む。

海の中心にいるわけだが、姫の体はほとんど海上に出ている。
サンダルの厚みだけで10kmほどもあり、それだけで海底についてしまうからだ。
海底から海面まで届く厚みのあるサンダルの上に、直径1.5kmほどの足の指たちが居並んでいる。
その指の半分ほどの高さを、入道雲が浮かんでいた。

しゃがみこんだ姫は両手で乳房を掴み、乳首を、真下の海に向けた。
そして、手を動かし乳を搾る。
今か今かとその時を待っていたミルクは、姫の乳首から勢いよく飛び出した。

 ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

乳頭の先端、乳管口から飛び出したミルクはまるでレーザーのように真っ直ぐに真下の海面へと突き刺さった。

上空500kmほどの高さから放たれる直径5kmほどのミルクの束である。
まるで衛星からのレーザー砲のようにも見えるミルクはその凄まじい威力で青い海面を吹き飛ばし一瞬で海底へと到着するとそれを30kmほども掘り返した。
海底へとぶつかって跳ね返ってきたミルクが海面を爆発するように吹き飛ばし高さ100kmほどの津波を引き起こす。

海面へと突き刺さる2本のミルクの太い柱。それ以外にも細い柱が乳首から海面へと続いている。
太いミルクの束はそれぞれ乳頭の先端にある乳管口から。それ以外は乳頭や乳首の表面から。
しかしどんな細い束でも直径2kmはあった。それぞれの乳首から、太い束を入れて最低5本は伸びている。
つまりは最低10本以上のミルクのレーザーが、海面に向けて放たれているのだ。
いずれも海底を掘り返す威力と量。ミルクが注がれている姫の足元の海は、すでに乳白色に染まりつつあった。

 姫 「あわわわ、ちょっと絞っただけなのに! でもまだまだ全然収まらないし…」

なおも、姫の手の動きに合わせて乳房からはミルクがぴゅーと放たれる。
そのたびに海面は大荒れとなり、ミルクの範囲が拡大していく。

気付けば周辺に漂っていた雲がいない。
注がれるミルクに直撃されて消し飛ばされたか、ミルクが着弾した際の衝撃波で吹き飛ばされてしまったのだろう。
放射状に広域に放たれるミルクのレーザーは空をも貫いて海面へと突き刺さっていた。

などとしているうちに姫がいる海はそのほとんどがミルクにかわりつつあった。
直径1000km弱ある海だがすでにその海は青ではなくほとんど乳白色だった。
海水はすべて他の海に押しのけられ、かわりにミルクがその海を支配していた。

そしてなおも注がれる膨大な量の母乳はその海からあふれ出し別の海にまで侵食を始めていた。
この海に面する陸地の沿岸には母乳の津波が押し寄せている。小さな島などはすでに水没してしまった。
姫の乳しぼりによって海面上昇が起きているのだ。

 姫 「こ、このままじゃ周囲の国がわたしのミルクで沈んじゃうよ!」

慌てて立ち上がった姫はその海を形作る半島の上を跨いで隣の海へと移動した。

 姫 「う…でもまだ搾り足りない…」

その海で再びしゃがみ込み乳を絞り出す姫。
母乳と一緒にため息が出た。

 姫 「はぁ……もうどうしよう…」

地上から700km地点くらいで溜息をつく姫。
ちなみに宇宙ステーションは400kmくらいを飛ぶっぽい。

などと海に向かって放乳をしていると、サンダルを履いている足に小さな感触があった。

 姫 「?」

覗き込んで見てみると、姫の超視力には、自分の足の表面で無数の爆発が起きているのが見えた。
姫の感覚では0.1mmにも満たない大きさの爆発であるが。

 姫 「あ…、もしかして攻撃されちゃってる…?」

ミサイルと思わしきそれら爆発の原因は、どうやら先ほど姫が跨いだ半島から飛んできているようだった。
姫は今 南を向いてしゃがんでいる。半島は姫から見て右手にあり、それらミサイルは、姫の右足の右側面に集中して命中していた。

攻撃を受ける。それはイコール、敵として認識されてしまったということ。
先の乳搾りを、敵対行動の攻撃として解釈されてしまったということ。

 姫 「ええええ! 違うの! 別にそんな攻撃とかのつもりは全然無いの! ただちょっと胸が張っちゃったからお乳を搾っただけで…」

顔だけ半島の方を向けて慌てて弁明する姫。
なおもミサイルは命中し続ける。

 姫 「お願い! あと少し絞ったらすぐ移動するから、もうちょっとだけ待って!」

なおもミサイルは命中し続ける。
一部は上空数百kmに位置する姫の顔にまで届いた。

 姫 「ね! お願いだから!」

なおもミサイルは命中し続ける。
この時にはもうほとんどのミサイルが顔を狙い始めていた。
が、0.1mmにも満たないミサイルが唇や頬や目に命中したところで大したことではなかった。

 姫 「…」

なおもミサイルは命中し続ける。
姫の中でボルテージが上がる。

 姫 「あっそ。じゃあもーいいよ、頼まないから」

プイと顔を振った姫は半島からの攻撃を無視して乳搾りを再開した。
乳首からレーザーのような破壊力の母乳が海面に叩きつけられる。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ! 自分のミルクが海面に注ぎ込まれる音だけが姫の耳に届いた。

 姫 「~♪」

鼻歌を歌う姫。ミルクに限った話ではないが、何かを放出するのは爽快感があった。

ただその間も、姫の右頬や右足にはミサイルが命中し続けていた。
都市に大打撃を与えられる破壊力のミサイルも、姫にとっては意識しなければ感じられないほどか弱い威力。
ただ、一度 意識してしまえば気にしないわけにはいかない。
ぽつぽつと体にぶつかり続けるそれらが、気にならないわけがない。

 姫 「あーもう鬱陶しいなぁ!」

右手で顔の右辺りをブンブン払った。
もちろんそれですべてのミサイルを払い落とせるわけもないが。

 姫 「忙しいんだから邪魔しないでくれるかなー。っていうかさっきからポンポンポンポン攻撃してくれてるけど、姫のわたしに攻撃する意味わかってやってるの?」

国のトップである姫に攻撃を仕掛けるのだからそれはもう全面戦争を意味する。
が、それでもミサイルは放たれ続け、姫に命中し続けた。

 姫 「ふーん、やるんだ。じゃあこっちも攻撃するけど、文句ないよね?」

姫は体を右に90度回転させ、半島の方に向き直った。
しゃがみこんでいる姫の足元に、北海道ほどの大きさの半島が大陸から飛び出ている。

 姫 「どうせだし、オッパイ搾るついでに攻撃してあげる」

ぶるん。胸囲1150kmの小惑星サイズの乳房が揺れ、その切っ先たる乳首を半島に向ける。
半島に向けられた二つの乳房に無数のミサイルが着弾したが、最早それはかゆみにすらならなかった。

 姫 「じゃあいくよ~」

姫が乳を搾った。
ぴゅー。乳頭の先からミルクが迸り、半島の端に命中した。

ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

衛星軌道上から放たれた直径5kmにもなるミルクの束が着弾した瞬間、半島の4分の1が消滅していた。
着弾の衝撃は着弾点から100km以内のものを消し飛ばし、さらに飛び散ったミルクは200km以内のものを呑み込んだ。
ミルクは着弾からコンマ数秒で地下30kmほどまでを掘り返し、半島の一角を地下から爆発させる。
飛び散ったミルクは雲さえ飲み込む大津波となって半島に広がっていった。飛び散るしぶきの一滴ですら直径3kmほどもあり、その一滴で町一つを押し流すことができた。
また、拡散した細いミルクの束もいくつかの場所に突き刺さり周辺を壊滅させていた。

結局、姫が一度 乳を搾っただけで半島の3分の1以上がミルクに呑み込まれてしまったのである。

そんな、ミルクに半ば染まった半島を見下ろす姫。

 姫 「あらら、一回搾っただけでそんなに沈んじゃうんだ。言っとくけどまだまだこれからだからね」

そう言って姫は今度は左の乳房を絞った。
乳頭はミルクを放ちながら向きを変え、レーザーのようなミルクは半島を縦に分断した。

すでにミサイルは飛んでこなくなっていた。
たった2回の搾乳で、半島のほとんどがミルクに沈んでしまっていたからだ。
しかし姫が言った通り、本番はこれからだった。

次々と着弾する、レーザーのような破壊力のミルク。
それらが着弾するたびに周辺では大地震が発生し、ミルクは乳白色の津波となって周囲を呑み込み広がっていく。
姫の両胸から降り注ぐ母乳は雨と呼ぶにはあまりにも破壊的で、海をひっくり返したかのような途方も無い量は最早 天変地異すら超えた現象だった。

半島はあっという間にミルクの海に沈んだ。
しかしなおも母乳はその半島があった場所に降り注ぎ突き刺さる。
まるでミルクの海の海底に沈んだ後にも、その名残を残すことを許さぬと言うように。
ミルクの海に突き刺さった母乳は今では海底である半島を粉砕した。ギリギリで原形を残しながら沈んでいた町が、さらなる追い打ちを受けて消滅した。

 姫 「~♪」

すでにミルクの海となった半島に向けて乳を搾りながら鼻歌を歌う姫。
核兵器にすら匹敵するすさまじい母乳を放ちながら、実に楽し気に笑っている。

 姫 「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの? もっと攻撃してきていいんだよ?」

面影すらなくなった半島を見下ろしてクスクスと笑う姫。
半島は水深10000mを超える海底に沈んでおり、彼らからの攻撃などあるはずがなかった。

 姫 「ふふーん、抵抗しないんだ。じゃあ勝手にやるね」

半島だったもののすべてが沈んだ後も、搾乳を続ける姫。
やがてミルクの海が半島だけでなく大陸すらも呑み込み始めても、乳を搾る手は止まらなかった。
ミルクの津波は高さ10kmを超え、大陸のどんな大きな山すらもその津波に見下ろされる形だった。
あらゆるものを呑み込みながら、乳白色の海は広がっていく。

数分後、姫がようやく一心地ついたときには、一帯は大陸も海もすべてがミルクの海に呑み込まれていた。
見渡す限りが乳白色に染まっている。

 姫 「ふぅ…すっきりした」

ホッと息を吐き出した姫は胸をドレスの中にしまうと立ち上がって大きく伸びをした。

 姫 「んー…! ずっとしゃがんでたから脚が痛くなっちゃった」

立ち上がった姫の身長は1600kmに達する。伸びのために振り上げられた手は2000kmを超えていた。
同時に、海さえ呑み込むほどの膨大な量の母乳を放出したにも関わらず巨大なままの乳房が、姫が体を伸ばすのにつられてグググ…と果てしなく盛り上がり、止めるとズズンと弾んだ。

 姫 「それにしても…」

言いながら周囲を見渡す姫。

 姫 「みんな沈んじゃったなー。他の国も結構巻き込んじゃったみたい」

一面あらゆるものが水没し、すべてが乳白色に染まりあがり、それらが陽光で光って幻想的な雰囲気である。
乳白色の平原。そんな感じだ。

 姫 「まぁこのあたりの国は同盟国じゃないし、最初に攻撃してきたのはあっちだし、仕方ないよね。さ、外遊の続き続き。あ、帰ったら今度は近衛君に絞ってもらおうかな~ふふ♪」

慌てる近衛を想像しクスクスと笑いながら、姫は自分が作り出したミルクの海をちゃぷちゃぷ歩いて去っていた。
あとには、人肌に温かい乳白色の海だけが残された。



その後 城に戻った姫は、近衛に滅茶苦茶 怒られた。



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 『13:足裏登り』 1000倍


国民的レクリエーション:『姫登り』。
我こそは登りの達人と自負する者たちが姫の体の一部を登るのである。
今回の場所は『足の裏』。姫が前に伸ばした脚のその先の足の裏を登ることとなった。
スタート地点の踵からゴールの指先までの距離240m。ほとんど垂直の絶壁を、ロープなどの自分を吊り上げるものは無しで登っていくのだ。
すでに参加者たちは姫の足の裏の前に募っている。
彼らは聳え立つ絶壁のような巨大な足の裏を見上げゴクリと唾をのむ。

 姫 「えーと、それじゃあ位置について」

姫が言うと、参加者たちは顔を引き締めて身構えた。

 姫 「いくよー、よーい……ドン!」

姫の声と同時に、ワッと走り出す参加者たち。
総勢100人ほど。50人ずつに別れ、左右の足に散っていく。
そして踵にとりついた者から、道具やらなにやらを使って姫の足の裏を登り始めた。

スタート地点であり早速の難所が、踵の丸みである。
大きくオーバーハングした踵は登るというよりぶら下がる感覚に近い急勾配だ。それを身一つで登るには相当な技術を要する。
歴戦の登り屋たちと言えど、ここで2割が脱落する。100人中20人が、姫の足を5mも登らぬうちにリタイアするのだ。
それほどまでに姫の足裏を登るというのは難しい。姫にとっては5mmにも満たない高さであるが、挑戦者たちにとっては難攻不落の関門だった。

そのオーバーハングを突破できる実力者たちは、そこを突破しさえしてしまえば、あとは比較的凹凸の緩やかなただただ高い絶壁が続くので登ることは苦労しない。
指紋やシワに手を滑り込ませ、足裏の強靭な皮膚を頼りに体を支える。
中にはザイルなどを姫の足裏に穿つ者もいるが、もちろんルールで許可されている。どんな道具を使おうと、自分の力で登れば良いのである。

地面に着いている踵というのは割と丸くなる。
挑戦者たちほどの実力者なら、その上に立てるほどの勾配的余裕がある。
踵の丸みの上にたった挑戦者たちは、まだまだ上へと続く絶壁を見上げた。
巨大な足の、広大な足の裏だ。踵の上に立って見上げると、母指球に遮られ足の指さえ見えづらい。
踵からすぐには緩くカーブを描いでオーバーハングする土踏まずがある。足の内側、つまり土踏まずの中を通って登っていくか、足の外側を通って登っていくかをここで選ぶわけだ。

姫はヒールの高い靴を愛用しているが足のカタチは綺麗なもので、それは挑戦者たちにもありがたいことであった。
踵の丸みの上は地上からおよそ40~50m。すでにお城を除いた大抵の建物を見下ろすことができるほどの高さだが、残りはまだ200m近くある。
多くの建物を見下ろせる高さにありながら、まだ全体の5分の1程度にしか達していないということだ。
本番はこれからである。
挑戦者たちは気を引き締めた。

なお、彼らが登っているのはただの崖ではなく姫の体の一部なのであって、当然動く。

 姫 「ふふ、みんな頑張ってるなー」

足の裏を挑戦者たちが登ってくるのを感じる姫がほとんど無意識のうちに足を動かすせいで転落する挑戦者も多かった。
姫にとっては5mmも動かしていないのだが、挑戦者にとっては5mである。組み付いている絶壁が突然5mも動けばそりゃ振り落とされる。
姫の足元から聳え立つ足の裏を見上げている観客たちからは、ときおり足の裏からポロポロ零れ落ちる挑戦者を見ることができた。

すでに先頭グループは足の裏を半分以上登っていた。
急激な起伏も少なく、突然の揺れに耐えることさえできれば、あとは指の根元までそこそこ平坦な道のりだ。
左右の足の裏を登る挑戦者たちは左足の方がややリードしている。
間もなく母指球に差し掛かるだろう。
が、

 姫 「ん…くすぐったい…!」

これまで足の裏に感じていたくすぐったさを我慢してきた姫だったがついに限界が来た。
右足を動かし、右足の親指で左足の足の裏をゴリゴリと掻いた。
結果、右足を登っていた挑戦者たちのほとんどがその動きで振り落とされ脱落。左足を登っていた先頭の挑戦者たちも、姫の巨大な親指と足の裏に挟まれすり潰された。
巨大な親指が広大な足の裏を掻く過程で彼らの体は丸め込まれ、姫が親指を離した時に間からポロポロ落ちていった。
後にその挑戦者たちはあれはなかなかやばかったと語っている。
なお、くすぐったくなった足を掻くことは、もちろんルールで許可されている。

そうして右足に残るは数名。左足に残るは十数名となってしまった。
彼らは姫の足をあまり刺激しないよう慎重に登っていき、そして皆が指の付け根にまで到達した。
残るは姫の足の指だけ。ただし指と言ってもその長さだけで30~40mはある。ほとんどウルトラマンと同じ大きさである。姫は足の指だけでウルトラマンと同じ大きさだった。
どの足を登るかは自由。だがほとんどの挑戦者が、人差し指か、中指を選んだ。最も高い位置に到達できるからだ。

最後の踏ん張りどころ。挑戦者たちはそれぞれ、姫の足の指に登っていく。
しかし指は足の裏に比べて頻繁に動くので組み付いた挑戦者たちもすぐに振り落とされ、指の根元まで落ちるか、足そのものから落下してリタイアとなってしまった。
ときに姫が指を登る彼らの動きをくすぐたがって指をすり合わせ、その動きに巻き込まれ丸められてしまう者も続出した。最後の難関は、やはり手厳しい。
ここまでなんとか耐え登ってきた屈強な挑戦者たちも、巨大な足の指たちに振り落とされたり丸くこね回されたりしてしまって次々と脱落していき、とうとう左右の足に残るのは一人ずつとなってしまった。
彼らはそれぞれ人差し指を登っていた。挑戦者がほとんどいなくなってくすぐったくなくなったからだろうか、巨大な指は未だにくにくに動いてはいるが先ほどまでのように彼らを振り落とすような激しい動きはしなくなっていた。
違う足を登る二人は指紋に指をかけシワを足掛かりにし慎重にラストスパートをかける。

そしてほぼ同時に指を登り切り、その上に立った。
二人は指の先に立って姫と、真下の観客たちに手を振った。
観客たちから歓声が上がる。
姫も手を叩いて褒めたたえた。

 姫 「おめでとー! 頑張ったね!」

自分の足の指の上にチョコンと乗る屈強な挑戦者を笑顔で迎え入れる。
ただあまりに嬉しくて思わず足の指を動かしてしまい、二人は指先から落下して足の向こうに消えていってしまった。