※いちおー【ぼの】。>>119:Dr.Flaさんからいただいたネタで書いてみました。ノリで書いてますので発電所のシステムや設定にツッコミ入れちゃダメなのよ。
『 風力発電と1000倍少女 』
二人の1000倍巨大少女が散歩をしていたとき、たまたま通りかかった小人の国にあるものを見つけた。
「ねぇねぇ、アレなんだろう?」
ロングヘアーの少女が横を歩いていたショートヘアーの少女を呼びとめ、そこにあるものを指差した。
そこには、地面からいくつものプロペラが生えていた。
「ああ。あれは風力発電機よ」
「風力発電機?」
「そ。この国はまだ無限エネルギー生成機を所持できるほどの技術力は無いから、ああいう色々な発電機を使って電気を起こしてるの。あれはその中の一つの、風の力で電気を起こす機械ね。風の力であのプロペラを回して電気を起こしてるのよ」
「へーそうなんだー」
ロングは地面からたくさん生えているプロペラたちを見下ろして「ほー」と息を吐き出していた。
「でも風の力で電気を起こすなんて随分原始的な方法だね」
「まぁ無限エネルギー生成機に比べたらね。実際発電量も微々たる物だから、ああやってたくさん作って発電量を補ってるのよ」
ショートの説明を聞きながらロングは少し離れた草原にたくさん並ぶ小さなプロペラを見ていた。
ひとつひとつはとてもゆっくり回っている。その動きはとても弱弱しくて、ロングにはしっかりとした発電が出来ているようには見えなかった。
「なんかかわいそう…。ちょっと手伝ってあげようかな」
「やめときなさい、小人たちにはそれで十分なんだから」
「うん、でもちょっとだけ」
言うとロングはプロペラたちに近づいていった。
友人の背中を、ため息をつきながら見送るショート。
ズシン ズシン
全長240mの足を乗せたサンダルで草原を歩いてゆくロング。
近寄ってみた発電機は、遠くから見ていたときよりもずっと小さかった。
風力発電機の高さは、羽根まで合わせてもおよそ100m。それはロングから見ればおよそ10cm。サンダルを履いたロングの足の、足首ほどの高さしかない。
それが周囲に何十個も並びくるくると回っている。ちょっとかわいかった。思わず顔もほころぶ。
「ふふ、今 手伝ってあげるからね」
しゃがみこんだロングは、その小さな発電機に手を伸ばし、更に人差し指を伸ばした。
指を使ってくるくると回してやろうと考えたのだ。
そしてロングは指でその小さなプロペラに触れ、スッと回し始めた。
その瞬間、
ベギィ!
プロペラは鈍い音を立て、その中心である回転部が破損し落下してしまった。
プロペラが取れてしまった。
「え? え?」
何が起きたのか分からず慌てるロング。
自分としてはほんのちょっと指でプロペラを回しただけなのだがそれだけでこのプロペラは外れてしまった。
しかしロングにとってはちょっとの動きも、プロペラにとってはとんでもない負荷のかかる行為だった。
風の力で回転することを前提に作られたプロペラの回転部分はデリケートだ。
それを、1000倍の巨人のとてつもない指の力で無理やり回転させれば耐えられないのは当然である。
もとより巨人が指で回すことなど想定していない。
「ほーら、だから言ったのに」
やってきていたショートが後ろから言う。
「小人の国の建物は脆いんだから、うかつに触ったらすぐ壊れちゃうのよ」
「え? え? どうしよう…」
ロングは慌てた。
「どうしようって謝るしかないでしょ。それにこれは風力発電機なんだから、風の力で回さないと意味が無いでしょ」
「そ、そっか。じゃ、じゃあ他のプロペラをいっぱい回転させて電気をたくさん発生させられれば許してもらえるよね」
言うとロングは四つんばいになり、顔を地面付近までおろして、小さなプロペラたちに高さを合わせた。
そして、
「ふぅ~!」
息を吹きつけた。
ロングの息を受けてプロペラたちが高速で回転し始める。
が、
バキィ! ベキィ! ボゴォ!
プロペラたちは先と同じように次々と壊れていった。中には土台である塔ごと倒れてしまったものまである。
「え!? え!? な、なんで!?」
またロングは慌てた。
その後ろから、顔に手を当て「あー…」と言った感じのショートが言う。
「だから脆いって言ったでしょ。あんたの息が強すぎたのよ。小人の国の風は弱いんだからそんな突風に耐えられるような設計にはなってないの。どーすんのよコレ…」
ショートが言うように、ロングの顔の前にあった風力発電機は全滅してしまっている。
「う、うぅ…。じゃ、じゃあ今度こそそっと息を吹きつけてプロペラをいっぱい回そう! そうすれば許してくれるはず!」
意を決し、ロングは残っている別のプロペラたちに、今度はそっと息を吹きつけた。
「ふぅ~」
ロングの唇の間から放たれた吐息が風となり発電機に吹き付けられる。
するとプロペラはくるくる回転しだした。ブンブンと凄い勢いで回り始めた。
若干、駆動部がギギギ…と悲鳴を上げていたが、なんとか耐えていた。
「あ、このくらいなら大丈夫かも」
ようやく思い通りに事が運びホッと笑うロング。
そして他の発電機たちにも息を吹きつけた。
「ふぅ~」
顔を左右に動かしてたくさんの発電機に息を吹きつける。
発電機たちのプロペラはギュンギュンと回りだした。
まるで今にもそのまま飛んでいってしまいそうなくらいにだ。
でもこれだけ回転すれば電気もいっぱい作れるはず。
小人さんたちも喜んでくれるよね。
ロングは笑顔で息を吹きつけ続けた。
そのときである。
ドカァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
ちょっと離れたところにあった小人の建物が爆発した。
「え!? え!? な、何が起こったの!?」
伏せていた体を起こしキョロキョロと辺りを見渡すロング。
その後ろで、やはりショートが大きくため息をついた。
「バカ…。あんたがプロペラを回しすぎたから発電所が爆発したのよ…」
「え!? で、でも私は電気をいっぱい作ってあげて…」
「やりすぎなの。風力発電は発電量が少ないからそれを管理する施設もそれなりの規模に抑えて造られるわけ。なのにあんたがプロペラを無理矢理回して大量に発電させたから許容量を超えちゃったのよ」
「そ、そんな…」
唖然として爆発し炎上する発電所を見つめるロング。
やがて小人の消防隊がやってきて消火活動が始まった。
「わ、私も手伝わなきゃ!」
ズズン! と立ち上がり駆け出そうとしたロングをショートが止める。
「やめなさいって。あんたはこれ以上動かないほうがいいわ」
「でも私のせいだし…」
「……足元を見なさい」
ショートが諦めたような口調で言い、ロングは言われたとおり足元を見下ろしてみる。
すると今しがた駆けつけようと数歩進んだ自分の足の下で、無事だった風力発電機たちとその他の施設が蹴散らされていた。
発電機たちは蹴飛ばされ粉々になり、施設はサンダルの下で踏み潰されていた。
また、足の周囲では、炎上する発電所に駆けつける途中だったのであろう消防車たちが横転していた。
ひっくり返る小人の消防隊員たちの姿も見える。
自分が足を下ろした衝撃でみんな地面から跳ね飛ばされてしまったのだ。
「あ、あぅ…」
「だからあんたはジッとしてなさい。これ以上何もしないことが、彼らのためよ」
「う…」
ロングは転倒していた消防車たちを摘んで元の姿勢に戻すと、その場から離れた。
それから小人の消防車たちが燃え上がる発電所に水をかけ消化してゆく様を、草原に体育座りになって見つめ続けた。
「小人さんたちに酷いことしちゃった…」
「だからやめろって言ったのに…」
「小人さんたち、大変だよね…?」
「そりゃ小さいとは言え発電所をダメにしちゃったんだから生活は苦しくなるわよね。きっと何万世帯に被害が出てるわよ」
「……助けてあげられないかな?」
「…これ以上あんたが何かやったこの小人の国が滅ぶわよ」
「でもでも、私がやったんだから私がなんとかしないと…」
「…はぁ……そうねー…」
泣きそうな顔で見上げてくるロングに、ショートは腕を組んで考える。
*
「こんにちわー」
ズシン! ズシン!
地響きを起こしながら小人の国にやってきたロング。
着いたのはかつての発電所跡。
火事で消失した建物や風力発電機はすっかり取り払われ、逆にそこにはあるものが設置されていた。
それは、自転車である。
ロングの跨がれる1000倍サイズの自転車。
その後部車輪の触れる部分にはとある機械がついており、それは横にある箱型の建築物へと繋がっていた。
担当の小人たちの少し談笑したあと、ロングは自転車にまたがった。
「それじゃあいきますね」
言うとロングは自転車を漕ぎ始めた。
巨大な自転車の車輪がギュンギュン回転し始める。
するとその車輪に触れる部分にある機械が反応し始めた。
つまりこれは、人力発電機である。
ロングが自転車をこいで発生した電気が、この横の建物に逐電されるのだ。
昔からある、簡単な発電方法である。
もちろん、簡単である分 発電量は少ない。
しかも人力と言うことで安定した大量発電は不可能である。
しかしそれは小人が小人の国の発電を行った場合だ。
1000倍の巨人のロングが発電すれば、それはとんでもない量になる。
その値は、小人が自転車をこいで発電した場合の、およそ10億倍。
ロングは、一人で10億人分の発電を行うことができた。
更に巨人の国から持ち込まれた技術のお陰で、そうやって自転車をこいで発電した電気を何倍にも増幅することが出来ていた。
ロングが数分自転車をこぐだけで数ヶ月分の電気を生産し逐電しておくことが出来るのである。
それは、先の風力発電など目では無い値だった。
更に、その巨人用の超巨大自転車や、その巨大自転車をこぐ大巨人というのが話題になり、街に観光客が来るようになった。
今ではロングが自転車をこぐ姿を見るための観光ツアーまで組まれている。
中にはヘリコプターを使い間近でロングの姿を見ようと言う企画まで立ち上がっていた。
顔の近くを飛んでくる豆粒サイズの小さな小さなヘリコプターに、ロングは笑顔で手を振っていた。
そんなこんなで、小人の国はかつて以上に復興し、今やロングは小人の国の人気者になっていた。