※【ぼの】【破壊】  (大丈夫です。何故大丈夫なのかと言ったら大丈夫だからです。



 『 いたずら姫の暇つぶし 』



「あーあ、つまらないわ」

椅子に腰かけ足をぶらぶらと動かしながらぶーぶー文句を言うお姫様。
しかし足元の城下町の住民にとってはたまったものではない。
直径にして4kmにもなる広大な王都の上空を、全長23km幅8kmにもなる姫の超巨大な素足がうねりを上げながら超高速で動いているのである。
姫の大きさは城下の民の10万倍。姫の体躯に合うものは、姫の座っている椅子だけだ。
本来姫の住まいであるはずの城など姫からすれば高さ1mm程度の大きさしかなくその足の小指を突っ込むだけでも丸ごと押し潰してしまう。
その城の城下町も直径4kmと広大だが姫にとっては4cmと片足の中にすっぽりと納まってしまう。
姫は城を含む城下町の横に置かれた超巨大な椅子に腰かけているのだ。
何故こんなにも巨大なのか。姫だからである。

巨大すぎる姫のできる事などたかが知れている。せいぜい足元の城下町をからかうくらいだ。
片足を城下町の上に翳してみる。それだけで城下町よりも遙かに広大な範囲が巨大な影に包まれ一瞬で夜になってしまう。
だが城下の人々は誰一人として驚かなかった。こんな姫の悪戯など日常茶飯事だからだ。
そして慣れてしまったみんなの無反応が余計に姫をつまらなくさせる。

次に姫は右足の親指を使って足元の城下町を輪郭をなぞるように線で囲ってみた。
直径2kmほどもある超巨大な足の親指が大地をゴリゴリと削りながら城下町をあっという間に囲ってしまった。溝は深さ数百m幅千数百mと途方も無く巨大なものだった。簡単な地平線が見えてしまうほど巨大な溝だ。これにより城下町は世界から完全に寸断されてしまった。姫がちょっと足の指を動かしただけで城下町は巨大な溝によって孤立してしまったのだ。
しかし城下の人々は誰一人として困らなかった。こんな姫の悪戯など日常茶飯事だからだ。
姫の巨大な足の指によってできた溝を、人々は慣れた様子で上り下りし越えてゆく。
みんなの無反応にため息をつく姫。

「ちょっと遊びに行ってくるわ」

言って姫は椅子からぴょんと飛び降りた。
足元の城下町の左右にその6倍近い巨大な足が踏み下された。
姫はそのままズシンズシンと歩きだしあっという間に地平線の彼方へ去っていった。
城下町の左右には超巨大な二つの足跡が穿たれたが、それもいつもの事なので誰の気にしていなかった。


  *


ズシン! ズシン!
全長23kmの足で歩幅60kmほどの距離を飛ぶような速度で進みながら姫は歩いていた。
高い山も精々高度1万m。姫のくるぶし程度の高さである。雲も似たような高さだ。姫の視線の高さに敵うものなどありはしない。
そして姫が歩く過程で無数の村や畑が踏み潰されたが近隣諸国の人々にとってはいつもの事なのでやはり誰も気にしなかった。

「ちぇっ、少しくらい驚いてくれてもいいのに」

姫は不満そうに足元にあった小山を蹴った。
付近で最も高かった山だが姫の超巨大な足による蹴りを食らい粉々に吹っ飛んでしまった。
景色が変わった。
ふん。姫は鼻を鳴らして歩き出した。

そうやって歩いているとあっという間に海に着いてしまった。
国のある島は小さく姫にとっては散歩もできないような広さだ。
それでも全長2千kmとかあるはずなのだが、姫にとってはたったの20mである。

姫は目の前の大海原を見つめた。
この海の向こうは外国だ。姫の知らない世界。姫を知らない世界が広がっている。
勝手に外国に行くことは禁止されているのでいつもここから海を眺めているだけだが、今日の姫は退屈で死にそうだった。

「……ふふん」

姫はにやりと笑った。
海の向こうの人々はもっと驚いたりしてくれるかもしれない。
ちゃぷっ。片足を海に踏み入れていた。


  *


とある国は大混乱に陥っていた。
海の彼方からとんでもなく巨大な少女が歩いてきたからだ。

姫は外国の大陸の前まで歩いて来ていた。
海はどんなに深くても姫の膝まで届く事は無い。
気付けばもう足の指を濡らす程度の深さだった。

姫は人々が自分を見て大いに慌てふためいている様に満足したようにうなずいた。

「うんうん、これこれ。やっぱりこれくらい驚いてくれないとね」

更に大陸へと近づいてゆく姫。
姫の超巨大な足が跳ね除けた海水が津波となって沿岸の都市に押し寄せていた。
そんな沿岸の町々など一歩で跨ぎ、内陸に何十kmも行ったところに足を下ろした。
ズシン!! ズシン!! 巨大な素足が広大な範囲を踏みしめる。

「これが外国の地面の感触かー」

感触を確かめるように姫は足を何度も踏み下したりぐりぐりと踏みにじったりしていた。
これにより近隣の町は大災害を被る事になる。
更に姫は小さな町や村を踏み潰しながら大陸の上を歩き回り目を引く者を探して回る。

ふと、大きな街が目に入った。国の城下町くらいの大きさだ。
姫はその街に近づくと街の前にしゃがみこんで真上から見下ろした。

「初めまして外国のみなさん。隣の国の姫です」

姫はにっこりと笑いかけた。
だがその街の何百万という住民はみなが悲鳴を上げて逃げ惑っている。
山よりも巨大な巨人が現れ街を跨ぎ真上から見下ろしているのだ。街の左右に踏み下されている超巨大な素足はこの街よりも何倍も大きい。この街をいくつも踏み潰せてしまえる。街全体が超巨大な少女の作り出す影になり薄暗くなってしまった。

そんな大慌ての人々をくすくすと笑いながら見下ろす姫。
そして右手の人差し指を街に近づけると城下町にしたように輪郭をなぞってぐるりと線を引いた。
直径1kmを超える超巨大な指先で穿たれた幅1km超深さ1km超の超巨大な溝だ。街は完全に閉鎖されてしまった。
街の外に一瞬で作られた超巨大な溝を見て人々は絶望に包まれた。幅1kmなど飛び越えられるわけがない。深さ1kmなど降りられるはずがない。人々は崖の上に孤立した街の上に取り残されてしまった。

足の間の4cmほどの街に閉じ込められた数百万の人々の悲鳴を聞いて姫は大いに満足した。
やっと自分のいたずらに驚いてもらえた。やっぱり驚いてもらえないとやりがいが無い。
さぁ次は何をしよう。
立ち上がった姫は次の目標を探して歩き出した。
街は崖の上に孤立したままだ。


姫は歩くのが楽しかった。
自分がただ歩くだけで足元の外国の人々が滅茶苦茶に慌て叫んでるのがわかる。
一歩の下に何十もの小さな村が踏み潰されてる。叫んでるのは目の前で自分の村を踏み潰されちゃった人たちだろうか。

ふと姫は丁度足を下ろした手前の地面にたくさんの人が集まって自分に向かって叫んでるのが見えた。
彼らは自分が人々を踏み潰している事に抗議しているようだ。
ふふん、姫は笑った。

「なに? あんたたちも仲間に入りたいの?」

言いながら足指だけを持ち上げ、そこに居た人々の上にゆっくりと下してゆく。
そこにいた人々は、突然山脈の様に巨大な足の指々ががばっと持ち上がり自分達の頭上に翳されるのを悲鳴を上げながら見上げていた。
土に汚れた素足。指の一本一本が太さ1km長さ3kmを超える山よりも大きなものだ。
頭上に翳された指の裏から土がパラパラと零れ落ちてくる。
そしてその巨大な指がおりてきた。自分達の上にだ。とても逃げられるものじゃない。頭上を埋め尽くすほどに巨大な指なのだ。視界が、土に汚れた指の裏で埋め尽くされ人々は悲鳴を上げた。

「あははは。冗談よ。ほら、よく見なさい」

姫は人々の真上で指の降下をぴたりと止めた。
人々の頭上数十m地点に、あの薄汚れた超巨大な指の腹がある。
視界が、空がその巨大な指で埋め尽くされていた。

そして人々は見た。先ほど村を踏み潰した指の裏に、その村の住人と思わしき人々がくっついているのを。土の中に半ば埋まるような形で気絶している。

「ね? 別に潰してるわけじゃないのよ?」

姫はくすくすと笑いながら足の指の下にいる人々に話しかけた。
人々は目を疑ったが、確かに、その指の裏にへばりついた人々は誰一人として死んでいないようだ。
驚愕、だが安堵感の方が大きかった。
人々は胸をなでおろした。

「だからあんたたちも仲間に入りなさい」

ズズン。指は下された。再び持ち上がった指の裏には、先ほどまでその指を見上げていた人々が張り付いていた。
自分の足の裏に無数の人々がくっついている様を想像してくすくす笑った姫は立ち上がりまた歩き始めた。
一歩ごとに、また無数の人々を足の裏にくっつけながら。


  *


そうやって大陸の上を歩いていたとき、ふと気づくとなにやら足元の地面が騒がしかった。
色の違う二つの点が入り混じった地面の模様。これは兵隊だ。そしてここは戦場の様だ。
今まで姫が歩いてきた大陸の国とその隣国との戦争か。
全体的に見て姫が歩いてきた大陸の国の方が劣勢にあるようだ。今は両軍のすべての兵士が姫を呆然と見上げ立ち尽くしているが。

「ふーん、戦争中かー。そうね、本当は他国の問題に手を出すべきじゃないんだけど、ここまで楽しませてもらったし、こっちの国に加勢してあげるわ」

言うと姫は片足を持ち上げ、隣国の兵士が集まる部分につま先だけを下した。
ズシン。敵兵は全滅した。

「はい、終わったわよ」

姫は加勢した国の軍隊の上に今しがた敵兵を踏みつけた足を翳して見せた。
超巨大な足のつま先の裏に隣国の兵士が何十万人と張り付いている。
戦争は終わった。


  *


その後、自国に戻った姫は規則を破り勝手に外国に行ったとして厳重処分に処されそうになったが、それはその姫の行った国が姫の国に同盟を申し出た事により白紙となった。
隣国との戦争に劣勢に立たされていた窮地を瞬く間に救ってくれた姫を救国の英雄として讃えての同盟だった。
同盟となればその国は自国も同然。出歩いたところでお咎めなどあるはずも無い。

そしてその同盟以降、姫が勝手に出歩く事も少なくなった。
というのも新しい暇つぶしを見つけたからだ。

「ほら、しっかりとしがみ付いてなさい。でないと放り出しちゃうわよ」

椅子に座った姫は笑いながら自分の足をぷらぷらと動かした。
するとそのつま先から無数の悲鳴が聞こえてくる。
見れば、姫の足のつま先の上には、あの戦争で捕まえた隣国の兵士数十万人が乗っていた。
彼らは名目上は捕虜という扱いだが、実際は姫のおもちゃも同然である。
姫の超巨大な足の指の上に乗せられた彼らは姫が足の指を少し動かすたびに悲鳴を上げ泣き叫んでいた。
巨大すぎる姫の足の指は数十万人程度では収まり切らない広さがある。片足の親指の爪だけでも数万人を許容できる。

自国に戻った姫は建築家たちに自分の足の指の爪の上に小さな街を作らせた。捕まえた捕虜たち用の街だ。今では捕まえた捕虜たちの全員が姫の足の指の爪の上に建築された街で生活させられている。両足の足の指の爪を使えば数十万人くらい余裕で生活できるのだ。
牢屋に繋いでおく必要など無かった。姫は足を地面に下しても、指の爪は地上1000m以上上空にある。そこから逃げられるはずも無かった。

こうして、姫の足の指の虜となった隣国の兵士たちは毎日を姫の遊び相手として過ごしている。
姫も、自分の悪戯に心底驚いてくれる捕虜たちを存分にかわいがった。
姫が笑顔で足の指をくにくに動かすとそこから何十万の悲鳴が上がる。
姫が散歩で国内を歩き回れば一歩ごとに彼らの悲鳴が湧き上がる。

そんな彼らと遊ぶのが楽しくて、姫は退屈する事がなくなった。