「うわあああああああああ!」
「きゃあああああああああ!」

それまで平凡な日常の中にあった町に突如異変が起きた。
誰もが空を仰ぎ悲鳴を上げる。
見上げる先には巨大な手があった。

ぬぅっと現れた巨大な手がマンションのひとつを鷲づかみにし地面から持ち去ったところで街はパニックになった。
泣き叫ぶ人々が右も左もわからず走り回る。

そんな人々の阿鼻叫喚などまるで気にもした風も無く、手は上空に持ち去ったマンションをクシャリと握り潰していた。
指の間から、握り潰されたマンションの瓦礫が直下の街に降り注ぐ。

高層建築物をあっさりと握り潰した巨大な手が再び地表に近づいてきたのを見て、人々の混乱は更に激しいものになった。


  *


「ん~…全然見つからない~…」

椅子に座ったポニテの女子がテーブルの上に置かれたミニチュア都市を覗き込みながら呟いた。

「やはり小さすぎたんじゃないですか?」

そう答えたのはポニテの女子とはミニチュア都市を挟んで反対側に座るロングの女子。

「いやいや、そんなの最初からわかってたよ…」

ロングにツっこんだのはロングの右手、ポニテの左手側に座るショートの女子。

3人の女子がミニチュア都市を三方向から囲んでわいわいと騒いでいる。

ミニチュア都市の縮尺は1/1000。都市の10mがこちらの1cmになる値である。
手の中でミニチュアのマンションを握り潰したポニテは再びミニチュア都市の中に手を伸ばす。
小さな建築物が並べられたそれはまるで箱を散りばめたようにボコボコしていて、手を差し入れるには少々狭い。
青い目をキョロキョロと動かしてはミニチュア都市の上に目線を走らせる。指が二本並べられるかどうかという幅の道路の上を動き回るアリンコのように小さな人々の群れを睨みつける。
ゴマ粒程度の大きさも無い人々の群れは絶えずウゴウゴと動いていてせわしない。女生徒の目的がそんな小人達の判別にあるのだから、そうも動き回られてはこんな小さな小人の違いなど見分けられるはずも無かった。
オマケに乱立された建物は視線を遮り、また小人たちはそんな建物の中に逃げ込んでしまうので判別は更に面倒になっていく。
だからポニテは目的の小人がいないであろうと判断したビルの一つに手を伸ばすとそのビルを地面から引っこ抜いて取り除いた。
ミニチュアビルはただそこにポンと置かれているだけのように設置感がほとんどなく、指先で軽く摘んで上に動かすだけでひょいと持ち上がってしまう。
その町の小人達からは、肌色の恐ろしく巨大な指が襲来したかと思うと建築物を左右から挟みこんであっさりと持ち去ってしまう様が見えただろう。桜色に美しく輝くその爪ですら、その上に家を建築できるほどに広大だったのが、指がビルに触れたときによく分かった。
そうやって持ち上げたビルもさきほどのマンションと同じように握り潰す。そうすることで視界を遮る邪魔な建築物を減らし、小人の隠れる場所を減らし、小人の数も減らすことができる。
ポニテの目の前の町の剪定と小人の判別はどんどん進められていった。
しかしそれでも1000分の1の大きさの人間を判別するのは容易ではない。

「あーもう、ウジャウジャと。少しはジッとできないの?」

イライラが溜まったポニテ女子は大勢の人々で溢れかえる大通りに右手の人差し指をズンと突き刺すと、それを手前にズズーと引っ張った。指を引っ張った後には、アスファルトも削り取られ地面がむき出しになった空間が出来上がっていた。
片道3射線の道路は幅20mほどもあったがポニテ女子の指先は15mほどもあった。群集の波に突き立てられた指は指先の下にそこにいた人々を押し潰し、更には手前に向かって引っ張られたことで、そちらにいた人々を指と地面との間で悉くすり潰した。道路に深々と突き刺さり、アスファルトさえも砕きながら高速で動く指先に巻き込まれて無事でいられる人間などいるはずもない。
ポニテ女子が指を引っ張っただけで100人弱の人々が犠牲になった。

ポニテ女子が指を引き抜くと群衆の中には一本のスジができていた。指が動いた部分だけが空白地帯となっていた。
ポニテ女子の指が引き抜かれて一瞬間を置いてから大通りの人々が更に激しく動き始め、今しがたポニテ女子が残した「スジ」から離れていく。

より大パニックになった小人達を見てポニテ女子は口元をヒクつかせた。

「ぐぬぬ…このゴマ粒ども…!」

などと怨嗟の言葉を紡いだときだった。

「あ。見つけました」

呟かれるその声に、思わず顔を挙げそちらを見るポニテとショート。

「えーもう見つけたの?」
「わぁ、流石だよヒメちゃん」

二人が見つめた先ではヒメと呼ばれたロングの女子がニコニコと笑っていた。

ポニテ = コノハ
ロング = ヒメ
ショート = ミナミ

 ヒメ 「はい。ちゃんとこちらに証拠を用意してありますよ」

そう言ってヒメが指さした場所には○が描いてあった。
ヒメが指先で描いたものだ。丸の中には何十人かの小人が入っていた。

目的の小人を見つけたヒメはその小人の周囲を○で囲んだ。
ただの○、と言ってもそれは小人たちにとっては脱出の難しい檻のようなものだった。
小人たちから見れば1000倍の大巨人であるヒメの指先は太さが10m以上もある。そんな巨大な指先がアスファルトをズドンと貫いて地面に突き刺さり、そのまま高速で動いて周囲をグルリと一周したのだ。
それだけでも凄まじい光景であった。地面にやすやすと突き刺さった巨大な指が、今度はアスファルトを粉砕しながら自分たちの周囲を超高速で動いたのだ。その指の動きに巻き込まれた小人たちは一瞬ですり潰されてしまった。
ゆっくりと指が引き抜かれ去って行った後も、囲まれた小人たちは動くことができなかった。
たった今 目の前で見せつけられた巨大な指の凄まじい破壊力を前に腰が抜けてしまったというのもあるが、指が描いた○の線が、彼らには巨大すぎるのだ。指の直径が10mを超えるということはその○の線である溝の幅も10mを超えるということだ。助走をつけても、飛べる小人は少ないだろう。
さらに溝の深さも10mを超え、落下すれば転落死の恐れがある。
○の大きさは小人の縮尺で言うと30mほど。その直径30mの○の中には数十名の小人が取り残された。逃げることも助けに行くこともできない、まさに陸の孤島だった。

ふいに、その陸の孤島が暗くなり小人たちは頭上を見上げ、そして悲鳴を上げた。
自分たちの頭上を、超高層ビルの屋上よりもはるかに高い場所から、超巨大な3人の少女の顔が見下ろしてきていたからだ。

 ミナミ 「どれどれ? あーいた!」
 コノハ 「うわーホントに見つけてるし、どんな視力してるのよ」
 ヒメ 「いえ、流石に小さすぎて見分けがつかないのでコレを使いました」

言ってヒメがすっと取り出したのは、虫眼鏡だった。

 コノハ 「って、えー! 道具使うとかずるい!」
 ヒメ 「別に禁止されてないですし。それに世の中には勝てば官軍という言葉がありまして」
 ミナミ 「あわわ! コノハちゃん落ち着いて!」

ムキー! と湯気を立てるコノハにニヤーリと悪く笑って見せるヒメと二人をなだめるミナミ。


  *


 コノハ 「うぅ…。ていうかちょっと難しすぎない? このゲーム」

コノハはテーブルの上のミニチュア都市を見下ろしながら言った。
ミニチュア都市は縦横50cmのパネルの上に作られている。縮尺1/1000の大きさのミニチュアの中では、人は2mm弱、車は5mmほど、家は1cm弱、ビルは、設定にもよるが10cm程度の大きさとなる。
パネルの手前についているキーでミニチュアの作成ができる。自由に出現させて自由に消すことができる。

で、これは何か。

 コノハ 「それにこの『魚売りを探せ。3D』って名前とか」

パネルの端っこのほうに書かれている、このゲームの名前。


 『魚売りを探せ。3D』
・1/1000サイズのミニチュア都市の中から『魚売り』を探すボードゲームである。
 町のシチュエーションはある程度自由に設定できるが大きさは1/1000固定。
 目的となる『魚売り』は常に赤と白のストライプの服を着ているのでそれを目印に探すのだが……


 コノハ 「2mmもない粒の着てる服を見分けるなんてできるわけないじゃんー」
 ヒメ 「わたしはできましたよ?」(ニッコリ)
 ミナミ 「ヒメちゃんは虫眼鏡使ったでしょ」

わいわい。
三人はミニチュア都市を囲んで騒ぐ。



はてさて、ところでなぜこんなものが存在し二人がこれを使って遊んでいるのかと言えば、ここが『GTS研究部』で二人がその部員だからである。
GTS研究部とは名前こそ研究部を謳っているが、実際はただGTS的に遊ぶだけのお気楽なサークルだ。マッドサイエンティストである部長の作り出す数々のGTS的なアイテムを使ってキャッキャウフフするだけだ。



と、そうやって3人が騒いでいると、
ガチャッ! 突如、部屋のドアが開いた。

「あ・な・た・た・ち……!」

露わになる怒気が黄金のオーラになって立ち昇っているが、逆立つ毛が黄金色に輝いているのはもともとである。

「やかましいですわ! こっちは次の会合の資料を作ってますの! もう少し静かにしてください!」

部屋に飛び込んできた金髪ツインテの女子の怒号が部屋を震わせる。

 コノハ 「あーヤマトっち。めんごめんごー」
 ヒメ 「これは失礼しました。あまりにも静かだったものでてっきり存在しないものかと…」
 ミナミ 「ご、ごめんなさいヤマトさん!」

コノハはケラケラ笑いながら、ヒメはニヤーリと笑いながら、ミナミは頭を下げながら謝った。
ヤマトと呼ばれた金髪ツインテ女子はゼーハーと息を整えている。

 ヤマト 「まったくあなたたちは…。…ていうかヒメ、今さりげなくわたくしの存在を消しませんでした?」
 ヒメ 「おやそこに気づくとは。やはりヤマトは血が上っていてもよく回るいい頭をお持ちですね」
 ヤマト 「………バ・カ・に・し・て・ま・す・の~!?」

再び金色のオーラを纏い始めるヤマト。
慌ててヒメの口をふさぐミナミだった。

 コノハ 「あはは。ヒメっちは今日も平常運転だー。ところでヤマト、部長はまだこないの?」
 ヤマト 「ハァ…ハァ……、部長は別の実験をしたいから遅れると仰ってました。まだしばらく時間がかかるものと思います」
 コノハ 「そっかー。ヒメー、ミナミー、このあとどうしよっか?」

コノハは二人を振り返った。

 ヒメ 「わたしは何をしてもいいですよ。今日は予定も無いですし」
 ミナミ 「わたしも大丈夫かな」
 コノハ 「ヤマトはどうする?」
 ヤマト 「わたくしはまだ資料が作り終わってないので遠慮させていただきます」
 コノハ 「えー? いいじゃんちょっとくらいー。少しは息抜きしたほうが資料作るのも捗るよー」
 ヤマト 「わ、わかりました! わかりましたから抱き着かないでください!」

抱き着いてくるコノハをぐいぐいと押しのけようとするヤマト。
そんな二人の間では、制服に包まれた四つの大きなふくらみが押し合いへし合いしていた。

 ヒメ 「そんな二人の大きな胸を見てモンモンとするミナミであった」
 ミナミ 「も、モンモンなんてしてないよ!」
 ヒメ 「大丈夫ですよミナミ。ある世界では貧乳はステータスだそうですから」
 ミナミ 「だから気にしてないってばー! うわーん!」

涙目で腕をぐるぐる回すミナミとやはりニヤーリと笑うヒメ。


  *


 コノハ 「では準備もできましたー!」

4人はテーブルの四辺に着いた。
雀卓を囲うような形で席に着いた4人が見下ろすのは、先の『魚売りを探せ』。

 ヒメ 「魚売りは数を増やしてあります。そうですね、一番たくさん見つけた人が勝ちということで」
 ミナミ 「うぅ、わたし見つけられるかな…」
 ヤマト 「はぁ…好きになさって…」
 コノハ 「でわでわ~…よ~い…スタート!」

コノハが「(>∀<)/」と拳を振り上げてゲームは開始された。
1000分の1ミニチュア都市。その中にいる魚売りたちを探し出すゲーム。
当然 魚売り以外の小人も無数に配置されているしミニチュアの建物が乱立していて、数が増えたからと言ってすぐに見つかるものではない。

 ミナミ 「全然見つからないよ~…」
 ヒメ 「まだ始まったばかりですよ。ではわたしはコレを使いまして…」
 コノハ 「あぁ! ヒメ、また虫眼鏡使うの!?」
 ヒメ 「道具は使うためにあるのです(ニヤリ)」
 ヤマト 「はいはい、仲がよろしいことで…」

席は北にコノハ、東にヤマト、西にヒメ、南にミナミとなっている。
各々、まずは自分の目の前のエリアから探し始めた。

街の中はビルや駅、マンション的な建物など様々な建築物が配置されている。
街の発展レベルを高めにしているので高層建築物が多く視線が通りにくい。
バスのロータリーや駐車場、大通りなど、少しでも開けた場所から探索していく。

まずは目で。そして視線を遮るものがあるなら手を差し入れて指でどかす。
パニックを起こした小人たちが横転させてしまった車などがその対象だ。
ヤマトは小人が中から出てきたのを確認してからその車を指でつまんで街の中から持ち去った。
1000分の1サイズの車などヤマトの感覚で5mmほどでしかない。指でつまむにも小さすぎるくらいの存在だった。
逆に小人からすれば自分たちの乗り物を簡単に持ち去ってしまったヤマトの指は恐ろしく巨大な存在である。指の太さは15mほどもあり、長さは60mを超えていた。まるで塔のような巨大さ。車をつまんだ指先に輝く爪だけでその上にコンビニを建設できるほどの面積があった。

ヤマトがミニチュア都市からつまみだした車は、次にヤマトが指を開いた時にはぺちゃんこに潰れていた。
潰すつもりはなかったのだが、あまりにも柔らかすぎる車体は少女の華奢な指の力にも耐えることができないのだ。
しかしそんなことに興味のないヤマトは指先のゴミを擦り落とすと再び都市に視線をおとす。

 ヤマト 「んー…結構ウジャウジャいますわね…」
 ヒメ 「どうやら魚売りと一緒に普通の小人も増やしてしまったみたいですね」
 コノハ 「むむむ…わたしの第六感が訴えてくる………そこだ!」

ズン! コノハがミニチュア都市に手を突っ込んだ。コノハの伸ばした人差し指の先がバスのロータリーに突き刺さっている。その一撃でロータリーは滅茶苦茶になっていた。アスファルトは吹っ飛び、周辺にいた小人もその衝撃で吹っ飛ばされ倒れたまま動かなくなった。
瞬間、「ピコン!」という音が鳴り、パネル横のカウンターのコノハの項に「1」と言う数字が表示された。

 コノハ 「へっへー。まずは一匹~」

ロータリーから引き抜いた人差し指を立て「チッチッチ」という風に動かすコノハ。その指先は薄く汚れていた。

 ミナミ 「わ~コノハちゃんはやい」
 ヒメ 「むぅ、野生の感とは恐れ入りました。これはわたしも本気を出さなければなりませんね」

他の3人も気を引き締めてミニチュア都市に視線を投じる。

小人たちにとっては恐ろしい光景であっただろう。
四方500mほどの隔離された空間で、その四方から恐ろしく巨大な少女たちが見下ろしてくるのだ。
そして明らかな意図をもって破壊を行っている。あの町の一区画を覆うこともできそうな超巨大な手が飛来したかと思うとビルを掴んで持ち上げたりその巨大な指で道路を逃げていた人々を追い立てたりしている。
超常的な大きさだ。建物の中に逃げようとも、その建物ごと持ち上げてしまうような巨人が相手では意味がない。
小人たちはとにかく逃げ惑うしかなかった。この閉鎖された空間の、巨人の少女たちの手の届く範囲を、すべてが終わるまで。

 ヤマト 「なかなか難しいですわ…」

掴んで持ち上げたビルを握り潰しながらヤマトがごちる。

 ヒメ 「少しずつ間引いて探しやすくするべきでしょうか」

虫眼鏡で街を覗き込みながら人差し指で小人たちをすり潰していくヒメ。

 ミナミ 「えーっと、やっぱりこの中にいたりするのかな」

そう言って街の中に手を差し入れたミナミが目指したのは駅だった。
巨人たちから逃げようと小人であふれかえる駅に停車していた電車をその一両目を指先でつまんでそっと持ち上げる。
後続もずるずると引きずられながら持ち上げられ、全6両の電車はミナミの指の下にヒモのようにブラブラとぶら下がった。そんな電車のまだ開いている扉からは小人がポロポロこぼれていた。
縦にぶら下げられた電車の車両の中では小人たちが車両の下のほうにすし詰めのように重り圧迫され大変なことになっていた。下のほうに位置してしまった小人は、満員だった電車の乗客全員がのしかかる重量を受け潰れてしまっていた。
グラングランと振り子のように揺れる電車。その車内で身が潰れるほどの圧力にさらされながら小人たちが窓の外に見たのは、申し訳なさそうにこちらを見つめる巨大な少女の顔だった。

つまみ上げた電車を観察していたミナミだったがミニチュア電車の窓は小さすぎて満員電車の中の小人を見分けることはできない。
そこでミナミは右手につまんでいた電車を左手の手のひらの上におろした。中の小人に出てきてもらおうと思ってのことだった。
しかし小人はなかなか出て来ない。というのも中の小人のほとんどは人同士が折り重なったことによる重圧で重症を負っていたからだ。

ミナミはしばらく待った。しかしやはり小人は、その手のひらの上のちょっと太いミミズみたいな電車からは出てこない。
そうこうしている間にも他の3人は街の探索を進めている。
焦るミナミは決断した。

 ミナミ 「えーと、えーと……ご、ごめんなさい!」

そう言ったミナミは電車を乗せた左手をギュッと握った。
クチャ。手の中で小さなものが潰れる感触がした。
手を開いてみると電車は完全にひしゃげ潰れていた。この様子ではもう中の小人は生きてはいないだろう。
潰れた電車を街の隅に捨てたミナミは再び街の中に手を伸ばした。

 ヒメ 「あ。見つけました」

ミニチュアの都市からつまみだしたものを見ながらヒメが呟いた。

 コノハ 「え、どれどれ?」
 ヒメ 「はい。この中に一匹いますよ」

つまんだものをコノハの目の前に差し出すヒメ。その指先には、一台のバスがつままれていた。ヒメの細い指先の間で今にも潰れてしまいそうなバスの中にはたくさんの小人が詰まっていたが、その中に確かに赤と白のストライプの服を着た小人がいる。

 ミナミ 「うわー、すごい~ヒメちゃん」
 ヤマト 「そんな小さなバスに乗ってる魚売りをよく見つけられましたね」
 ヒメ 「まぁ偶然ですね。虫眼鏡を使ってロータリーを見てたらたまたまバスに乗り込むところを見かけました。さて、記念すべき一匹目ですが…」

言いながら指先を動かすヒメ。ヒメの指の間でバスがくるくる丸められていく。

 ヒメ 「この小人はミナミにあげますね」

丸めたバスを指でピンと弾き飛ばした。
ペチッ。弾かれたバスはミナミのほっぺにぶつかって潰れた。
ピコン。パネルのミナミのところに「1」と表示される。

 ミナミ 「ひゃう! もーヒメちゃん、なんでぶつけるの…?」
 ヒメ 「ミナミのほっぺがあまりに愛らしかったのでつい。小人を探すのが下手なミナミへのささやかなプレゼントですよ」
 ミナミ 「ぜ、全然喜べない~…」

バスのぶつかったほっぺを撫でながらミナミが文句を言う。


 ヤマト 「わたくしの側にはいないようですね…。ということは誰かの側に…」

ヤマトがほかの3人のそばのエリアに視線を走らせる。
粒のような大きさの小人は少し離れるほとんど見えなくなってしまうが、睨むように街を見渡したヤマトの目は対面のヒメの手元にいる魚売りを捉えた。

 ヤマト 「見つけましたわ!」

椅子から立ち上がり身を乗り出して手を伸ばしたヤマトは、その魚売りの真上に指を突き立てることに成功する。
ピコン。ヤマトの項に「1」と表示された。

 ヒメ 「おや、こんな近くにいたんですね」
 コノハ 「ヤマトやる~」

二人が褒める。
だが直後、

 ブブー

ブザーが鳴ってヤマトのポイントは「0」になった。

 コノハ 「あれ?」
 ヤマト 「な、なんでですの!?」

身を乗り出した体勢のまま、ヤマトが抗議する。

 ヒメ 「あ。ヤマト、それのせいじゃないですか?」

ヒメが自分の体の下のほうを指さしたので、下を向き自分の体の下に目を向けるヤマト。
すると身を乗り出している自分の体の下で、いくつかのビルがガラガラと崩れ落ちていっているのが見えた。

 ヒメ 「どうやらヤマトが身を乗り出した時、そのでっかい胸がビルにぶつかって倒壊させてしまったようですね。で、その崩壊に巻き込まれた魚売りがいたけれど、見つけて潰したわけではないのでペナルティ、と」
 ヤマト 「な…!」
 ヒメ 「ふぅ…自分の体の形状も把握できていないとは…。無頓着というのは恐ろしいものですね」

やれやれ、といった風に手をあげ首を振るヒメ。

 ヤマト 「じ、事故です! 不可抗力ですわ!」
 ヒメ 「それはそうと早く体を引っ込めてください。頭上でヤマトの巨大なおっぱいが揺れているせいで小人たちがパニックを起こしてますよ」
 ヤマト 「う、うるさいですわ!」

席に着いたヤマトは制服に包まれている胸を両腕で抱いて隠した。

 ミナミ 「む、胸でビルを潰しちゃえるんだ」(赤面)
 ヒメ 「安心してください。ミナミには一生縁のないことです」
 ミナミ 「うわーん!」 

ミナミは涙目になった。


  *


ゲームは終盤を迎えていた。
ミニチュア都市の建物のほとんどは瓦礫になり、いたるところから黒煙が巻き上がっている。
滅茶苦茶に破壊しつくされた街の中で動く小人も残り少なくなっていた。

 コノハ 「んーこんなもんかなー」(4点)
 ヒメ 「しかしまだゲームが終わらないということはまだ魚売りが残っているということですね」(3点)
 ミナミ 「で、でももう小人さんほとんど残ってないよ」(2点)
 ヤマト 「どこかに隠れてるのでしょうか…」(3点)

4人が瓦礫都市を囲んで首をひねる。
黒煙を散らそうとヤマトが「ふぅ~」と息を吹きつければ黒煙と一緒に小人たちも吹き飛ばされた。
崩れつつもまだ原型を保っていたビルをどかそうとミナミが手を伸ばせばそのビルはミナミの手の中であっさりと潰された。
ヒメは自分の手元でまだ生き残っている普通の小人たちを潰して小人の数を減らし、コノハは街に顔を寄せてにらみつける。

 コノハ 「魚売りや~い、どこにいるんだ~」

間近から放たれるコノハの声はミニチュアの瓦礫都市に衝撃波となって襲い掛かる。
崩れかけていたビルはガラガラと倒壊し、口の近くにいた小人たちは声の衝撃だけで吹っ飛ばされた。

 ヒメ 「瓦礫の下に生き埋めになっていたら見つけるのは難しそうですね」
 ヤマト 「それならもうゲームは終わりでよろしいのでは?」
 コノハ 「むむむ……でもわたしの野生が訴えてくる…近くに魚売りがいる、と!」

スンスン。顔をさらに街に寄せて鼻を鳴らすコノハ。
二つの鼻の穴に大量の空気が吸い込まれる。そのせいで周辺の瓦礫の陰に隠れていた数人の小人たちが引きずり出された。

「うわあああああああああああああ」

小人たちは悲鳴を上げながら、一瞬で巨大な鼻の穴の中に吸い込まれていった。悲鳴は一瞬で聞こえなくなった。
二つの暗黒の洞窟はスンスンと空気を吸い込み周辺の小人たちを次々と吸い込んでいく。

 コノハ 「ふごっ!? なんか鼻に入った! ふぁ…ふぁ…」

だんだんと頭を下げたコノハは、

 コノハ 「ぶぁぁぁぁぁぁっくしょんッッッ!!!」

盛大にくしゃみを放った。


  ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

コノハの凄まじいくしゃみは街の中心部を直撃した。
すでに大半の建物が瓦礫と化していたその部分に直撃したくしゃみはそれらを一瞬で吹き飛ばしてしまった。
ビルの瓦礫も、車も、そして生き残っていた小人たちもすべてが吹き飛ばされた。
一瞬で更地にされてしまった都市中心部。
そして吹き飛ばされた瓦礫や小人たちは、対面に座るミナミに向かって吹き付けられた。

 ミナミ 「きゃあ! ………も~コノハちゃんひどいよ~…」

飛んできた瓦礫で顔やら上半身やらがゴミだらけになるミナミ。
ほっぺがぶつかってきた瓦礫のせいで汚れていた。飛んできた小人が激突したせいで何か所には赤いシミもできていた。

 ヒメ 「やはりコノハの正面に座らなくて正解でしたね」
 ヤマト 「あなたはもう少し女性としてのマナーを学ぶべきですわ…」
 コノハ 「やぁ~ごめんごめん」

横の二人があきれ顔でため息をついて、コノハは手のひらひらと振って謝った。
直後、

  ブブー

ブザーが鳴った。

 コノハ 「およ?」
 ヤマト 「どうやら今のコノハのくしゃみに巻き込まれた魚売りがいたみたいですわね」
 ヒメ 「ということはわたしとコノハとヤマトが3点になって同着ですね」

皆がパネルの得点板に目を向ける。
しかしそこには、コノハの項は「4」と変わっていない数が表示されていた。

 コノハ 「あら?」

そのかわりに、ミナミの項が「1」と1点減らされていた。

 ミナミ 「えぇぇええ!? なんで!?」
 ヒメ 「これは…コノハのくしゃみで飛ばされた魚売りがミナミにぶつかって潰れたからミナミを減点、ということでしょうか」
 ミナミ 「そ、そんなー…」
 ヤマト 「まぁ…災難でしたわね…いろいろと」

苦笑するヤマトがミナミの肩をポンと叩いた。


と、そこへ、

 部長 「へーい! 楽しんでるかい野郎どもー!」

部室のドアをガラッと開けて女生徒が飛び込んできた。

 コノハ 「あ、部長ー遅いですよー。待ちくたびれちゃいましたよ」
 部長 「やーちょいと実験で失敗しちゃってさー。後始末で手間取ってたんだよねー」
 ヤマト 「何かあったのですか?」

と、ヤマトが部長に尋ねると、部長の後ろからさらに別の女生徒が現れた。

 ハル 「あのアスカさん、そろそろお兄ちゃんを元に戻してほしいんですけど…」
 部長 「あはは、ごめんごめん。でもシュウも小さくなるのにはもう慣れたでしょ?」

ハルの差し出している手に顔を寄せて話しかける部長。その手の上には20分の1サイズに縮んだシュウがいた。

 シュウ 「確かにな。でもいちいち違う方法で俺を縮めてその都度解除方法が無いってのはどうなんだ…」

ハルの手のひらの上、あぐらをかいて座るシュウはため息をつきながら文句を言った。

などとアスカたちがやり取りをしていると、

 コノハ 「お。シュウ先輩こんちわー。また小さくされたんですか」
 ヒメ 「まぁ、これはとてもイジメ甲斐のありそうなサイズですね」
 ミナミ 「こ、こんにちは! 先輩」
 シュウ 「お、おう…」

3人が寄ってきてハルの手の上のシュウに挨拶をした。
20倍の巨人たちがズシンズシンと歩み寄ってきて周囲を取り囲むという状況にシュウは顔が引きつった。

 ヤマト 「シュウ先輩、相変わらず災難に見舞われてますのね…。ハルも一言わたくしに言った下さればよかったのに」
 ハル 「あはは…、なんかアスカさん張り切っちゃってたから…」

シュウを乗せていないほうの手で、ほっぺをポリポリと掻くハルだった。

 部長 → アスカ 「じゃあそういうわけで。そうそうヤマト、こないだ作った薬持ってきてくれる? たぶんあれで元に戻るはずだから」
 ヤマト 「はぁ……部長、ちゃんと解除の薬も用意しておきませんと、先輩が不憫でなりませんわ…」

ヤマトはため息をつきながら部屋の奥の棚に向かっていった。

 コノハ 「それにしても先輩かわいい大きさになりましたねー。ツンツーンってしちゃってもいいですか?」
 シュウ 「や、やめろ! 今のお前の指なんて大木みたいな大きさなんだぞ!」
 ヒメ 「今の先輩をキュッて握ったら、きっといい音がなると思いますよ」
 シュウ 「潰れる! それ俺の命が潰れる音だから!」
 ミナミ 「先輩、この前わたしテストで90点とったんですよ!」
 シュウ 「お、おう、頑張ったな…」

わいわいと話しかけてくる20倍巨大娘たち。
その圧倒的な威圧感の前に俺は尻ごみをしていた。

バフッ。突如、そんな俺の上から何かが覆いかぶさってきて、俺はハルの手のひらに押し付けられた。

 ハル 「えっと、お、お兄ちゃんはおもちゃじゃないから…」

兄の乗る左手に右手をかぶせ、苦笑しながら言うハル。

 コノハ 「あ~ハルちんずるいー。わたしだって先輩と遊びたいのに」
 ヒメ 「そうですよ。わたしたちにもお兄さんを共有する権利があるような気がしますよ」
 ミナミ 「きょ、共有!? あ、でも、先輩のようなお兄さんなら欲しいかも…」
 ハル 「あ、あはは…」

ハルに群がる3人。
その3人から隠すように、ハルは両手でシュウを制服に包まれた胸元に押し付けながら後ろを向いて隠した。

 アスカ 「まぁまぁみんな、今度シュウのクローンを作れる機械を作っておくから」
 コノハ 「ホントっすか部長!」
 ヒメ 「それはそれは、いろいろと捗りそうですね」(ニヤーリ)
 ミナミ 「も、もしお兄さんができたら、あ、あんなことやこんなことも…」(赤面)

三者が三様の反応を見せる中、シュウはアスカにツッコミを入れようとしたが、胸に埋まるほどにギュウギュウ押し付けられて何も言えなかった。

 ハル 「わ、わたしも欲しいかも…」

ハルが顔を赤くしながら言うのを、シュウはハルの体越しに聞いた。

 ヤマト 「みんな、アホですわ…」

薬を手に戻ってきたヤマトがあきれ顔で言う。

 アスカ 「サンキューヤマト。ハルちゃんハルちゃん、シュウ出して」

薬を受け取ったアスカが促すと、ハルはシュウの乗った手のひらを差し出した。手の上のシュウはぐったりとしていた。
薬の入った瓶を手の上のシュウに近づけると、中から薬を一滴たらした。
その薬がシュウに落下していく。

 コノハ 「ぶぁああっくしょん!」

コノハがくしゃみをした。
そのせいでシュウに向かって落下していた薬が吹っ飛ばされ、

 ピチャッ

ハルのほっぺに当たった。

 アスカ 「あ」
 コノハ 「お?」
 ヒメ 「あら」
 ミナミ 「あれ」
 ヤマト 「はぁ…」(呆れ)
 シュウ 「い…っ!」

 ハル 「…え?」

一瞬、時間が止まる。


  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


直後、校舎の側面から巨大な手足が飛び出した。
上履きに包まれた右足は体育館に突き刺さりバスケ部などを吹っ飛ばし、右足はグラウンドにまで伸びてサッカー部たちを蹴散らした。
両手は教室を貫通しまだ残っていた生徒たちを校舎の外に放り出し、屋上を突き破った頭はそこにあった給水塔を粉砕した。
両手両足を頭を校舎から飛び出させるハル。生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
ハルの巨大化に伴い、校舎のいたるところで崩落が始まっていた。 

 アスカ 「いやーハルちゃんあいかわらずいい巨大化っぷりだ」
 コノハ 「ハルちんやる~」
 ヒメ 「やはり巨大化はリスクが大きいですね。対象を縮小化するほうが効率がよさそうです」
 ミナミ 「は、ハルちゃん大丈夫!?」

ガラガラと瓦礫が崩れ落ちてくる校舎の中で、巨大化し校舎を貫通するハルの巨体を見上げてのほほんとするGTS研究部員一同。

 シュウ 「……いや、笑ってないでとっととなんとかしろよ…」
 ヤマト 「まったくですわ…」

いつの間にかヤマトの手のひらの上に乗せられていたシュウとシュウを手のひらに乗せるヤマトはそろってため息をついた。


  おわり





 アスカ 「なお今回登場した新キャラたちは今後ほとんど出番がなかったりする」
 シュウ 「ないんかい!」