ハルの部屋。
唐突に始まった今年の水着チェック。

参加者:ハル、アスカ
審査員:俺

 シュウ 「…いや、こういうのって女の子同士でやるもんじゃないのか…?」
 アスカ 「いやいや、ハルちゃん的にはシュウにどう見られるかが一番大事な訳で」
 ハル 「に、似合うかな…お兄ちゃん」

ハルの体は真夏の青空のように澄んだ青色の三角ビキニによって申し訳程度に包まれていた。
水着を着て俺の前に立つハルが恥ずかしそうにもじもじと脚をすり合わせると、ビキニの小さな布によってのみ支えられている大きな胸がゆさゆさと揺れた。

 シュウ 「お、おう、似合ってるぞ…」

思わず赤らめてしまった顔を隠すように背けて答える俺。

 ハル 「えへへ、よかった~」

そうやってハルが両手を頬に当て嬉しそうに体を揺すると胸が先ほど以上に大きく弾んで俺はまた目のやり場に困る。

 アスカ 「ほら言った通りっしょ。シュウならちゃんと褒めてくれるって」
 ハル 「でもでも、やっぱりドキドキしますよ」
 アスカ 「あーんもうハルちゃんてば乙女」

てれてれと顔を赤らめるハルをアスカがケラケラと笑う。

そんなアスカも水着を着ていた。
ハルと同じく三角ビキニ。しかしその色は真夏の太陽の熱さにも負けない真っ赤なもの。
それによってようやっと支えられている特大サイズの胸は、アスカの大きなアクションに振り回されゆっさゆっさと暴れていた。

 シュウ 「(くぅ…! わかっちゃいたが二人とも凄い破壊力だ…!)」

目の前でじゃれあうダイナマイトボディの女子二人を前に鼻を押さえてこみあげるものに耐える。でなくば忠誠心ではない何かが滝のようにあふれ出てしまうだろうから。

 シュウ 「ま、まぁとにかく水着は似合ってたからそろそろ服に着替えようか。さすがにまだ水着を着るには時期が早い…」
 アスカ 「へ? 何言ってんの、せっかく水着着たんだから遊びに行こうよ」

アスカが言った。

 シュウ 「は…? いや、遊びに行くってもまだ当然海開きはしてないしプールだってやってないだろ。どっか室内プールでも行くのか?」
 アスカ 「いやいやいや、そんな面倒くさいことしなくても、南国にでも行けばイッパツでしょ」

言って笑いながらアスカがスマホを取り出した。


   *


某南国の国は阿鼻叫喚に陥っていた。
突如、山のように巨大な二人の人間が現れたからだ。
巨人たちは都市の上に座り込んでいたが、座ってもなお、その頭頂部は都市上空の雲に届く高さにあった。
頭頂部の高さは1700mにもなり、頭頂部で雲を貫くその姿は、まるで雲の冠をかぶっているかのようである。

 ハル 「ん、やっぱり南の国は温かいですねー」

都市の上にペタンと座るハルは上に向かって腕を伸ばした。
その動きでハルの頭にかぶっていた雲は散らされて無くなった。

 アスカ 「大きさ2000倍。本当ならあたしたちの顔くらいの高さになると氷点下くらいになったりするんだけど、ま、今更だよね」
 ハル 「あはは、そうですね。……あれ? そういえばお兄ちゃんはどこに?」

ハルはキョロキョロと辺りを見渡した。
しかし見えるは極小の地平線と水平線と空と雲とアスカのみ。シュウの姿は無い。

 アスカ 「んー? そこにいない?」

横に座るアスカがスマホを見ながらテキトーに答える。
ハルがもう一度周囲を見渡してみるもやはりシュウの姿は無い。
てか目の前を小さな雲がチラチラと横切って結構鬱陶しい。
ハルは目の前を漂う雲を手をひらひら振って散らした。

と、目の前の雲を散らすとその合間に小さな黒いのが飛んでいるのが見えた。

 ハル 「やだ、虫?」

ハルはその黒いのを手で叩き落とした。

が、いざ手のひらがその黒い虫に触れるだろうというところでアスカの手が割り込んできた。

 アスカ 「おっとと、あぶないあぶない。ハルちゃんハルちゃん、それがシュウだから」
 ハル 「へ?」

きょとんとするハルは自分の手とアスカの手が引っ込められたあと、その陰から出てきた黒い小さな虫を注視した。
その小さな小さな黒い虫は、よくよく見てみればヘリコプターの形をしているのがわかった。

 ハル 「え…まさか、これに…?」
 アスカ 「そ。シュウが乗ってるの。ちょっと待ってね、今声 聞こえるようにするから」

言いながらアスカがスマホをポチポチいじる。

 アスカ 「これでいいかな。あー、あー、シュウ、聞こえるー?」
 シュウ 「き、聞こえるよ…。てかお前らの声は聞こえすぎるくらいだよ…」
 アスカ 「それもそっか。まぁシュウの声があたしたちに聞こえるようになったってことで」
 ハル 「ほ、本当にお兄ちゃんが…?」
 アスカ 「そだよー。ねーシュウ、どうだった今?」
 シュウ 「し、死ぬかと思った……」

俺が高高度でのヘリの操縦に四苦八苦していると突然目の前の雲が巨大な手によって散らされ、目の前にハルの巨体が現れた。
と思った瞬間には、あのとんでもなく巨大な手がとんでもない速度で襲い掛かってきたのだ。走馬燈を見る暇すらなかった。

 ハル 「あぅ、ごめん…」
 アスカ 「まー今のハルちゃんの手は東京ドーム乗っけられるくらい大きいからね。長さ大体360m幅大体150mの手が迫ってきたら流石のシュウもビビるよねー」
 シュウ 「はたき落されるハエの気持ちがわかったよ……」
 ハル 「はぅぅ……」

ハルは顔を赤くして身を縮こまらせた。
縮こまらせても、依然として山のように巨大なままであった。


  *


 ハル 「で、でもお兄ちゃん、ヘリコプターの操縦なんてできたの?」

目の前を、プーンと飛ぶ小さな虫に話しかけるハル。

 シュウ 「ああ。ちょっと前からアスカに教えてもらっててな」
 アスカ 「ちょっとヘリ作ってみたからシュウに試運転してもらってたのよね。結構乗り心地いいでしょ?」
 シュウ 「ヘリの操縦なんてしたことなかったから乗り心地はよくわからんが、なんで操縦桿がゲムパなんだ?」
 アスカ 「その方がやりやすいっしょ。キーはTHE大美人と同じ仕様にしてあるから」
 シュウ 「…ゲームのヘリとしてはかなり操作性悪いような…」
 アスカ 「にゃはは、気にしない気にしない」

アスカが笑う。

 ハル 「でもなんでヘリコプターに?」
 アスカ 「まぁ外に出るついでの調整だーね。データは多いに越したことはないし。それにヘリに乗って見てるとまた違う感じがするでしょ」
 シュウ 「確かにな」

二人と大きさの差がとんでもないことになるのはもういつものことだ。
ただ、生身ではなく乗り物に乗って、となるといつもと感じ方が違う。
生身で、肉眼で二人を直に見れば遮るものもなくありのままの二人を視界に捉えることができる。
しかしこうやって乗り物に乗って見てみると、どうしても、キャノピーやらコックピットの計器やらが視界に入ってくるのだが、そうやって何か、自分と同じサイズのものに包まれながら二人を見ると、二人の大きさをより一層実感できるというか。
生身から見るよりも、自分サイズの乗り物の中から見る方がよほど二人との大きさの違いを体感できる。

今俺はヘリに乗って空を飛んでいる。高度計は1600mくらいの位置を刺しているが、それでも、目の前のハルとは丁度目線の合う高さだ。前方の視界を埋め尽くすほど巨大なハルの顔がそこにある。パチクリと瞬きをする目ですら、このヘリの全長よりも大きい。その巨大な頭がしきりに動くのは、俺の乗るヘリのあまりの小ささに首をかしげているのだろう。それだけで、山が変形するような威圧感があった。

 ハル 「ふーん、乗り物の中から見た方が大きさを実感できるんだー」
 アスカ 「自分の普段の環境により近づく分、普段とは違う存在である巨大娘の存在が際立ってはっきりと感じ取れるって感じ? 何にもないところに立ってる巨大娘より、街の上に立ってる巨大娘の方が巨大感があるでしょ?」
 ハル 「あーなんとなくわかります。でもということは、お兄ちゃんから見る今のわたしはいつもよりはっきりと巨大さを感じ取れてるってことですよね? えへへ~、どうかなーお兄ちゃん」

ハルは顔の前を飛ぶ小さな小さなヘリに向かって手を振って笑って見せた。
するとシュウが悲鳴を上げる。

 シュウ 「わわっ! やめろ、ハル!」

コックピットの視界を埋め尽くすハルのきょとんとした顔を見ながらややボーっとしてた俺は、その巨大なハルの顔が笑って、更にその顔の横で巨大な手が俺に向かって振られたことに対する反応が遅れた。

ハルにそのつもりはなかっただろう。何気なく手を振っただけに過ぎないはずだ。
しかし俺の乗るヘリは、雲さえ散らしてしまえるあの超巨大な手が振られたことで巻き起こったすさまじい乱気流に巻かれ吹っ飛ばされてしまった。
上下もわからないほどクルクルと回転しながら落ちていく俺のヘリ。地上までまだ1000m以上もの距離がある。どうあがいたところで無事で済む高さではない。

 ハル 「ああっ! 大変!」

俺のヘリが墜落していくことに気づいたハルが慌てて落下の方向の先に両手をお椀のようにして差し出した。
が、いくらハルのやわらかな手のひらと言えど今は2000倍の大きさ。そしてその手のひらの差し出された位置も、今の位置から数百mは下の位置。
地上まで落ちる距離に比べれば遥かに近い距離ではあるが、それでも俺にとっては超高高度からの落下であることには変わらず、結果もさして変わらないだろう。
このまま行けば、俺と俺の乗るヘリはハルの手のひらに落下して粉々に砕け散るだろう。ハルの手のひらは、落ちてきた小さなゴミを受け止めるに過ぎない。

そしてついに機体が肌色の大地に墜落するという直前でヘリは突然機体を立て直し、勝手に浮上し始めた。

 アスカ 「ふー、あぶないあぶない」

見ればアスカがスマホをいじっていた。
スマホによる遠隔操作で機体をコントロールしたのだろうか。

再び二人の目線の高さまで上昇したヘリの中、機体がくるくると回転したせいで操縦席から投げ出され体をしこたま打ち付けていた俺はヘリの床に倒れ込んでいた。

 アスカ 「いやー、こんなこともあろうかと遠隔操縦できるようにしといてよかったわ」
 ハル 「ごめんね、お兄ちゃん…」

ケラケラと笑うアスカの横からハルが心配そうに顔を寄せ小さな小さなヘリの中を覗き込んできた。
俺は何とか体を起こしコックピットに顔を出すと、目の前を埋め尽くすとてつもなく巨大な目に向かって手を振って見せた。


  *


 アスカ 「で、今更なんだけど、シュウの乗ってるヘリは全長10mくらいで、ヘリの中では平均よりちょっと小さいくらいの大きさかな。性能はやや上。武装はしてない」
 シュウ 「いらねーよ」
 アスカ 「まぁ全長10mなんだけど、今のあたしたちは2000倍だから、あたしたちから見たら5mmね」
 ハル 「あ、そういえば2000倍でしたね。なんか大きさが合わないなーと思ってたんですよ」
 アスカ 「ほんで、そろそろ操縦には慣れてきたかね?」
 シュウ 「な、なんとなくだな…。むしろ操縦よりもこの高度に慣れてないというか…」
 アスカ 「今のシュウは普段みたくあたしたちに持ち上げられてこの高さに居るわけじゃなくて自分で操縦して居るわけだからねー。体感の恐怖とか全然違うかもね」
 ハル 「すごーい、ホントに自分で操縦してるんだ…。ねぇ、ここに着陸できる?」

言うとハルは右手の人差し指をさし出してきた。
俺の目の前に、超巨大な人差し指がすっと現れる。全長120m幅30mの指だ。先端に輝く巨大な爪も、長さは20mを超える。
爪だけでもこのヘリより大きいのは明らかだった。

 シュウ 「や、やってみる…」

緊張するヘリの操縦。
俺は少し声がこわばっていた。

ハルが差し出した指。その指先の爪に、俺はそっと機体を寄せていく。
ヘリを爪の上空に移動させたら機体の向きを指の向きと同じ方に向ける。
機体の位置を調節しながらゆっくりと降下させていく。慎重にだ。
まだ練習中だが、着陸の時が一番緊張する。

そうやってなんとかかんとかヘリを爪の上に着陸させる。
機体が確かに安定したのを確認すると、俺はヘリのローターの回転を落とし、機体の外に降りた。
薄紅色の、硬い地面。ハルの爪だ。やや丸みを帯びたつるりとした地面が広がっている。面積は体育館くらいありそうだ。

不意に、そんな地面がグラりと揺れ、動き出した。
なんのことはない。ハルが指を動かしたのだ。
数百mの移動ののちにたどり着いたのは、ハルの顔の前だった。
右手の人差し指の上に乗せた俺とヘリを、真横から覗き込んできている。

 ハル 「うわぁ、指先にすっごくちっちゃなヘリコプターと、その横にもっとちっちゃなお兄ちゃんが乗ってるー。お兄ちゃん砂粒みたいに小さい…黒い点みたいだよ…」

右手の指先に俺たちを乗せたハルは左手を頬に当て、頬を赤く染め、眉をハの字にし、目を輝かせ、息を荒くし、口元からよだれを垂らしながら見下ろしてきた。
淑女にあるまじき表情。

 シュウ 「まぁ…お前から見たら俺は1mmもないからな…」

荒い吐息は突風となって俺たちに襲い掛かったがなんとか落下は免れていた。
そしてその吐息は冷やされ雲になってハルの顔の周囲を漂い始める。

 ハル 「はぁ…ちっちゃいかわいいちっちゃいかわいいちっちゃいかわいい…❤」
 シュウ 「興奮し過ぎだろ…」
 ハル 「だってだって、こんなに小さなお兄ちゃんとヘリコプターが指先にちょこんって乗ってたらしょうがないよ」

次々と雲を生産しながらハルが言う。
まったく…。と、俺はため息をつきながらかぶりを振った。

ところで、ふと気づく。
俺を乗せた指が、ゆっくりと移動し始めていることに。
それまではハルの巨大な顔の、一応は全体像を視界に収められるほどの位置だったのに、今は、それは不可能になっていた。
指がハルの顔に近づいている。
そして視界からは目が消え、耳が消え、もう鼻と口くらいしか残っていない。

指は口元に寄って行っている…?

そんな風に俺が思ったところで、

 ハル 「あーん…」

ハルの巨大な、それまでよだれの滝をダラダラと流していた口がより大きく開かれた。
指は、指先は、その口に向かって進んでいく。
まさか! と思って見上げた先で、はるかはるか上空では、ハルのふたつの巨大な目はそっと伏せられ、これから口の中に入ってくるものを味わう気まんまんだった。

薄紅色の唇が縁取る巨大な口。そのぷるんとした唇の厚さだけでも30mほどはありそうだ。
その唇のすぐ奥には真白い巨大な歯がずらりと並んでいる。一つ一つが20m近い大きさがあるだろう。白いビルが並んでいるようなものだ。
大洞窟のような口腔の上あごと舌の間には唾液が糸を引き、まるで天井を支える柱のようである。

指は指先を前として口の中に進入していこうとする。
俺は慌ててヘリに戻りエンジンを全開にした。すぐにこの指先から飛び立たねばならない。
このままここに残って、そして口が閉じられてしまえば、俺はこの生きた巨大洞窟の中に放り出されてしまう。
そうなれば俺を味わおうとするハルが動かす口や舌の動きでここはとんでもない天変地異となってしまうだあろう。うねり暴れ狂う舌によって上下もわからぬほどに転がり回され、頬裏に押し付けられ、上あごに押し付けられ、前歯の裏に押し付けられ、奥歯で甘噛みされてしまうだろう。
どれも簡単だ。ハルから見るこのヘリは5mm程度の大きさしかないのだから。しかも全長で5mmということは本体幅はもっと小さいということだ。ハルにとって俺の乗るヘリは米粒ほどの大きさもない小さな存在なのだ。
そしてそんなヘリさえも壊れてしまえば、あと残るは俺の体ひとつだ。2000倍のハルから見れば俺の体は1mmも無い。身長0.8mmちょっとの砂粒のような大きさだ。肩幅なんかはもっと小さい。
そんな俺にとってハルの口の中は最早ひとつの地形だ。ビル群のような歯が並び、丘のような大きさの舌が暴れる回る地獄のような場所だ。唾液の海は大荒れで、渦だか津波だかもわからない激流となって襲い掛かってくるだろう。
多分、それらは元凶であるハルが満足するまで続く。長ければ数分はかかる。
それまでの間、俺が命を繋いでいられるとは到底思えなかった。

だから急がねばならないのだ。
しかしこういう時の機械のエンジンの出力の上がるまでの時間はとてつもなく長い。
ローターもまだ浮力を得られるほどの回転に達していなかった。
くそ! 俺は恨むような眼で上空のハルの目を睨もうとしたが、すでにあの二つの巨大な目は見えなくなり、かわりに二つの巨大な鼻の穴がそこにあった。
このヘリなどやすやすと吸い込んでしまえそうな巨大な穴だ。このまま指先から浮上できたとしても、あの鼻の穴に吸い込まれてしまうだけなのかもしれない。そうなればヘリはハルの巨大で強靭な無数の鼻毛に叩かれて粉々になってしまうだろう。そして俺は、そんなヘリの破片とともに一瞬で鼻の奥に吸い込まれて行ってしまうはずだ。ハルの呼吸という乱気流の中では大木のように太い鼻毛にしがみつくことはできないだろう。むしろそれら無数の鼻毛に激突してズタズタにされてしまうかもしれない。吸い込まれる途中、鼻の粘膜や鼻水に飛び込んで身動きが取れなくなってしまうかもしれない。岩のように巨大な鼻クソに激突して飛び散ってしまうかもしれない。
いずれにせよ、あの鼻の穴の中は目の前の巨大な口の中よりも危険な場所なのだ。目の前の口から逃げられたとしても今度は更に危険な鼻が待っている。
逃げ場所などないのかもしれない。

なかば諦め、それでもヘリのエンジンは吹かし続けた。
そしてようやく機体が浮力を得始めたが、その時にはもう俺たちの乗る爪はあの巨大な唇の下を通り抜け口腔の中に入っていた。
天空からの陽の光がなくなり、あるのは背後の口の入り口から入ってくる後光のような光だけ。
その光も小さくなり始める。
ハルが口を閉じ始めたのだ。
もうダメか、と思ったとき、そんな口の入り口から二つの巨大なものがこの口の中に飛び込んできた。

 ハル 「ふはっ!?」
 アスカ 「ほらほらハルちゃん、現実に戻っておいで~」

アスカはハルの口に右手と左手の人差し指を突っ込んで左右にぐにーと引っ張っていた。
ハルの口が横に広がる。そうして開かれたハルの口の隙間から、小さなヘリがプーンと飛び出てきた。

 アスカ 「おかえり、シュウ」
 シュウ 「……助かった…」

にっこりと笑う巨大なアスカの顔に、シュウはげんなりした顔で手を振った。


  *


 ハル 「あはは……ごめんごめん」

てれてれと苦笑しながら謝るハル。

 シュウ 「まったく…」
 アスカ 「ふふ、ハルちゃんてばシュウのことになるとすぐ正気を失っちゃうんだから」

ため息をつく俺と、くすくすと笑うアスカ。

 アスカ 「んじゃ、折角南国に来てるわけだしちょっと泳いでいきましょっか」
 ハル 「そ、そうですね! せっかく水着来てるわけですしねっ!」

アスカの言葉に自身の失態をとっとと取り繕いたいハルが前のめりに便乗する。

ふと思う俺。

 シュウ 「水着…」

少々命の危機にさらされて忘れていたが、二人は今、水着姿だ。 
部屋の中の時のままのハルが青のビキニでアスカが赤のビキニ。
妹と幼馴染が、とんでもないダイナマイトボディをとんでもないマウンテンサイズで露出している。
今だって水着の狭い面積で申し訳程度に隠された二人の尻の下では都市の一部が下敷きになっている。アスカが笑い、ハルが身もだえするたびにグリグリと動かされる尻は下敷きにしている都市を町並みをさらに完膚なきにすり潰す。
尻だけではない。今は二人の顔の高さ辺りを飛んでいるわけだが、少し下を覗けば、そこには4つの肌色の小山が横向きに突き出しているのを見下ろすことができる。
三角ビキニの小さな面積では覆い隠しきれない豊かな小山たちが、二人の小さな所作によってゆさゆさと揺れ動いている。
山が震えている。あんなにも巨大な乳房が、あんなにも重々しく、あんなにもやわらかそうに。
今となれば二人の胸囲はともに1800mを超える。直線距離で歩いたとしても十数分かかる距離。二人の胸の周囲を一周するだけで十数分もかかってしまう。
一個一個が十分に小山サイズ。そしてそんな巨大で重いものを二人はそれぞれ二つずつぶら下げている。
その巨大さが、その重さが、圧倒的な威圧感となっている。
上空を飛ぶ俺からは二人の胸の谷間を真上から見下ろすことができた。
深い深い谷間はまさにクレバスだ。転落すれば命の危険すらあるだろう。大自然にも負けない脅威の胸囲。

そのとき、

 アスカ 「んん? あれあれ? もしかして今度はシュウがその気になっちゃった?」

突然、ぬぅっと巨大なアスカの顔が現れ視界を占領した。
巨大な目が、至近距離からキャノピー越しにコックピットの俺を覗き込んでくる。
その巨大な目の威圧感は、それだけで心の中を見透かされてしまいそうだった。

 アスカ 「あ、わかった。あたしたちのおっぱい見てたんでしょー」
 ハル 「ふぇっ!? やだぁ…!」
 シュウ 「ちょ…! ちが…!」

アスカがニヤーっと笑いながら言うとハルが慌てて胸を手で隠した。
それで隠しきれる大きさではないが。

 アスカ 「隠すな隠すな。ほれほれ、なんならもっと近くで見てもいいんだぞー?」

シュウの方に向き直ったアスカが左胸を下からタプタプと持ち上げた。
色々な意味で圧倒的な存在が、あまりにも官能的に動く様に、俺は思わず生唾を呑み込んでいた。

 シュウ 「…ゴクリ……! ……って違う! 違うから!」
 アスカ 「無理しちゃってー。ならこっちで操作して無理やり近づけちゃおっかなー」

言ってアスカは俺にスマホをチラつかせる。

 シュウ 「ば、バカ! やめろ!」
 アスカ 「ふふ、ホントシュウって強情だよねー。別にハルちゃんだって嫌がってるわけじゃないよね?」
 ハル 「えぇぇ!? …う……でもまぁ……お兄ちゃんが見たいって言うなら………どうぞ?」

やや顔を赤らめながら、ハルが胸を隠していた腕をどけた。
再び、4つの巨大な乳房が無防備にさらされる。

 シュウ 「……」
 アスカ 「ほらほら、素直になっていいんだよー?」

にっこりと笑う巨大なアスカ。

 シュウ 「……」

俺は操縦桿(ゲムパ)を手に取った。

  *

ヘリのローターは驚くほど静かに回っている。
もしくは音はしていたのかもしれないが、俺の耳には入ってこなかったかのかもしれない。

今俺はヘリの高度をゆっくりと下げ、二人の胸の上を飛んでいた。
近づいてみると乳房の巨大感が増す。
二人の胸は胸板からドドンと飛び出ているので、場所を選べばそのまま着陸できてしまいそうだ。

アスカの胸の上を飛び、ハルの胸の上を飛び、またアスカの胸の上を飛ぶ。
照りつけてくる南国の太陽によってヘリの真下の乳房の表面にヘリの影が落ちる。
桃のように白い肌の上をポツンと黒い影がヘリの動きに合わせて走っているのが見下ろせた。あの影が、つまりこのヘリの大きさだ。乳房と比べてあまりにも小さなあの黒い影が、このヘリと乳房の大きさの差を表している。

しかしその影も、すぐにもっと大きな影の中に入ってしまって見えなくなる。
その影は、胸の上を飛び回る俺を覗き込むために下を向く、アスカとハルの巨大な頭の作り出しているものだ。
はるか頭上のアスカの巨大な顔はニコニコと笑いながら、ハルの巨大な顔は頬を赤らめつつも喜色をにじませている。

この高度になると音の種類はほとんど限られる。
高度による風の音と、ヘリのローターの音と、二人の呼吸の音と、二人の心臓の音。
あまりにも巨大すぎる二人の心臓の音は、この距離でも聞こえてくる。
トクントクンという小気味良い音が乳房を揺るがし、大気を震わす。

二人は、なんというか、最初に俺がいた位置から0度と90度の位置に座っていた。時計で言うところの俺が針の支点の位置にいるなら、12時にアスカ、9時の位置にハルがいる。
アスカの胸の上を飛んだらとなりのハルの胸の上を飛び、そこでUターンしてまたアスカの胸の上に戻る。
何度もそれを繰り返す。大した理屈なんかない。ただただ俺が、二人の胸を余すところなく観察したかったからに過ぎない。
最初は胸を上から見下ろして、だんだんと高度を下げ、今度は乳房を真横から、正面から観察するように動いていく。

見下ろすのとはまた違う、こんなにも巨大で飛び出ているものを真横から、同じ高さから見てみると、威圧感もまたすごい。
上には丸っこい乳房の作り出すゲレンデが延々と続き、下にはとんでもない規模の下乳がたっぷりと水着に納まっている。
二人の乳房は二人の巨大さ乳房の大きさを考慮すれば小さな布地には納まりきらず、水着の端の部分などでは布やひもなどがやや乳房に食い込むような形になりはみ出た部分がむにっと変形している。
乳房の秘所はその布で守られていたが、乳房全体を守るのは、俺から見れば街の一区画を覆うことの出来るほどに巨大な三角の布でも不可能なのだ。
アスカのビキニのトップ、乳房のトップの前を通過する。
左の乳房の前を通り過ぎ、右の乳房の前を通り過ぎ、ハルの乳房の前を通過する。

そのとき俺は気づいてしまった。
ハルの乳房を覆う三角の布の中心部が盛り上がり突き出ていることに。
内側から力強く押し上げられたことでビキニの布はピンと引っ張られ、テントが張られたようになっている。

 アスカ 「あれ? もしかして、ハルちゃん起っちゃってる?」

頭上から、俺の様子を見下ろしていたであろうアスカがそれに気づいて発した言葉が降ってきた。

 ハル 「だ、だってしょうがないじゃないですか…! こんなにもちっちゃいお兄ちゃんが、わたしの胸の前を、チマチマと飛んでるなんて……」

というハルのボソボソっという呟きが頭上から聞こえてくると同時、俺の目の前で、あの青いビキニのピラミッドがさらに大きく盛り上がった。
内側のものは見えていないのに、そのムクムクと大きくなっていくピラミッドが意味することを察してしまった俺は自分の股間も同じように膨らませていた。

 アスカ 「てかその水着、パット入ってないの?」
 ハル 「は、入ってないです…」
 アスカ 「入れてこなかった?」
 ハル 「ま、まさかこういうことになっちゃうとは…」

顔を赤らめて苦笑するハルだが、起ってしまったものは簡単には収まらない。
俺だって、目の前の大スクリーンで乳首を勃起させられてしまったら、反応は抑えられない。
気まずい空気が流れる。

 アスカ 「……ふぅ、まぁしょうがないか。ハルちゃんだし」
 ハル 「そ、そこで諦められちゃうのもちょっと……」
 アスカ 「とにかくこれを収まらせないと気まずいままなんだからー」

言うと膝立ちになったアスカがズシンズシンと地響きを立てながらハルの背後に移動し、

 アスカ 「えい!」

ガバッと胸を掴んだ。

 ハル 「ひゃぁ! な、なにするんですかアスカさん!」

背後からにゅっと伸びてきた腕に突然胸を掴まれビクンと体を震わせるハル。

 アスカ 「ほれほれ、あたしがイジってあげるから早くイっちゃいな」

ハルの背中越しにハルの胸をもむアスカ。
左手は水着の上から乳首を摘まみ、右手は水着と乳房の間に滑り込ませて乳房をぐにぐにと揉みしだく。

 アスカ 「ん~あいかわらずいい感触。あ、シュウ、もうちょっと離れてた方がいいよ。ハルちゃんが暴れたら巻き込んじゃいそうだし」
 ハル 「だ、誰のせいで…! あぅ…!」

アスカの指が乳首を捏ね上げると、ハルの体が再びビクンとなった。

しかしアスカの忠告があったにもかかわらず、俺はその場から動かなかった。
目の前の、防弾ガラスのスクリーンの向こういっぱいに広がる、ハルの超巨大おっぱいの巨大乳首を水着越しにこねくり回すアスカの巨大な指。
巨大ということはまるで自分のすぐ目の前で行われているかのように拡大されてみているのとかわらない。
俺は、今自分のすぐ目の前で視界を埋め尽くすほどの至近距離でアスカがハルの胸を愛撫する様を見て、もう押さえられなかった。

手はゲムパではなくちんぽを握っていた。
大パノラマ大スクリーンで展開される愛撫をオカズに、やらずにはいられなかった。
アスカの直径30mある巨大な指が、ハルの直径20mほどもある巨大乳首を水着ごとこねくり回す様の、その優しくも刺激的な動きに胸が高鳴った。

いつまでもハルの乳房の目の前から離れないヘリをハルの肩越しに見下ろしたアスカは、シュウの状態に気づいた。

 アスカ 「あらら、シュウも始めちゃったの? しょーがない兄妹だ、こりゃ」

やれやれと笑ったアスカは、シュウの目の前である、ハルの左胸の乳首をこねる指の動きを、ハルだけでなくシュウも気持ちよくなれるようにゆっくりと丁寧なものにした。


  *


ふぅ…。
賢者タイムに突入したハルと俺。

 アスカ 「二人とも落ち着いた?」
 シュウハル 「……はい…」

ハルは正座して。俺はそんなハルの顔の横を飛ぶヘリの中で小さく答えた。
ヘリの操縦席の中はすっかり汚れてしまった。ハルのビキニのボトムがぐっしょり濡れているのも決して海水ではない。股間の下の瓦礫の町並みが大量の水に押し流されているのも決して洪水ではない。

 アスカ 「まったくお盛んなんだから。兄妹そっくり」
 シュウ 「何も言い返せない…」
 ハル 「うん……」

縮こまるハルと俺。

 アスカ 「んじゃあそろそろ海に入ろっか。そすればとりあえずハルちゃんの水着の濡れは気にならなくなるし」
 ハル 「う……すみません…」
 アスカ 「いーからいーから。そいじゃ軽く準備運動でもー…」

とアスカが立ち上がろうとしたところで、

  ピロリロリン

 アスカ 「およ?」

アスカのスマホが鳴る。

 シュウ 「どうした?」
 アスカ 「なんか面白いことがあったっぽい。あたしのスマホ、世界のどこかで面白いことがあったら情報が入ってくるようになってるから」

どんだけだ…。
俺が呆れる先でアスカがスマホを操作する。

 アスカ 「どれどれー……………ん? んん?」

スマホを見ていたアスカが妙な反応をした。
俺とハルは顔を見合わせる。

そしてスマホから目を離したアスカはキョロキョロと辺りを見渡し始め…、

 アスカ 「あ。いた!」

そこを指さした。
俺とハルの視線もそこに注がれる。
そこはさっきまで俺が飛んでいたハルの胸の前あたり。そして今は、アスカの指がさすその先には、白くて小さいものが飛んでいた。

 ハル 「へ? なんですかコレ」
 アスカ 「どうやら報道関係のヘリっぽいね」
 シュウ 「……は?」

俺とハルは固まった。
そんな俺たちに、アスカがスマホの画面を向けて見せてきた。

 アスカ 「ほら、そのヘリが撮影してるっぽい映像がLIVEで流されてるよ。全世界に」

アスカが向けてきたスマホの画面には、先ほどまで俺が見ていたものと同じ、ハルの巨大おっぱいの超至近距離からの映像が映し出されていた。
丸みを帯びた広大な面積を持つ乳上部から乳首を覆い隠すビキニの生地の繊維まで。高性能なカメラのおかげでハルの乳房の細かいところまでドアップで撮影されている。

これが全世界に……?

 ハル 「………い、いやぁぁぁぁぁぁああああ!!」

一瞬で顔を真っ赤にしたハルは胸の前を飛んでいた報道ヘリを右手で叩き落した。
最初、俺の乗るヘリにやろうとした時よりもはるかにすさまじい威力だった。
あのヘリは俺の乗るそれよりも大きかったと思うが、この威力の前には何の意味もなかっただろう。

ハルが悲鳴とともに腕を振り抜くと同時に、アスカのスマホに映し出されていた映像がノイズに変わった。

 シュウ 「うわマジか……全世界とか…」
 アスカ 「まぁそのくらいのことはしてるからね、実際」
 ハル 「うぅ……はずかしい……」

ハルは赤く染まった顔を両手で隠していた。

 シュウ 「ま、まぁヘリは落ちたわけだし、とりあえずは大丈夫―――」
 アスカ 「いや、無駄でしょ」

俺がなんとかハルをなだめようとしたよこから、アスカが切り込んできた。

 シュウ 「無駄?」
 アスカ 「うん。ほれ」

再びアスカがスマホの画面を見せてきた。
するとそこにはいくつものチャンネルの映像が映し出されているが、そのいずれもが、巨大なハルとアスカのLIVE映像だった。
慌ててスマホから目を外してヘリの窓から周囲を見渡してみてみると、俺たちを取り囲むようにいたるところにヘリが飛んでいるのが見えた。
これ全部俺たちを撮影してるのか…?

 シュウ 「な……」
 ハル 「い、いや…」

普段、こういうときドSな方向に動いて暴れまわるハルも、自身の水着姿を、至近距離から、あらゆる方向から、それこそ舐めるようにジロジロと撮影されていたという事実に自分の体を抱きしめながら体を震わせている。
しかもその映像が世界中に放送されていたというのだからもう。

 アスカ 「にゃはは、みんな頑張るねぇ。あ、ほら、このチャンネル。儚げに自分の体を抱きしめるハルちゃんの姿を横から見上げるヤツ、このハルちゃんの腰のくびれ結構セクシーでない?」
 ハル 「ひいいいいい!」

ハルは震えあがった。

 シュウ 「おま…! これ以上追い詰めるな!」
 アスカ 「いやーめんごめんご。お、このチャンネルのはもしかしてあたしのおっぱいを真下から撮影してるのかな? いやー自分の下乳を真下から見れるなんて新鮮だねー」

アスカがケラケラと笑う。
そんな呑気に言ってる場合かよ…。

 シュウ 「ていうかなんとかしてくれ!」
 アスカ 「まーそだね。じゃあとりあえずジャミングして撮影できないようにしよっか」

言ってアスカがスマホをいじり始めると同時だった。

  ドン!

俺の真横。ハルのほっぺで爆発が起きた。

 シュウ 「ハルっ!」
 ハル 「え、なに…?」

ハルの巨大な顔がこちらを向いた。
ハル自身は余裕がなさ過ぎて気づかなかったらしい。

しかし今のは確かに、ミサイルだった。


と思っていると、座っているハルとアスカの体のいたるところで無数に爆発が起き始める。

 アスカ 「あらら、本格的に攻撃してき始めちゃったね」

全身にミサイル攻撃を浴びながらアスカが呑気に言った。
ハルも同じくミサイルの雨に晒されているがそれを痛がるようなそぶりは見せない。二人には通用しないようだ。

どうやら取り囲んでいたのは報道ヘリだけではなく、軍の戦闘機もいたようだ。
いくつもの戦闘機が隊をなし、二人に全方向から攻撃を仕掛けてきている。
だが二人はそれを払おうともしていなかった。ハルに至ってはむしろそんなミサイル攻撃よりも先ほどの自分の水着姿の全世界生放送の方がダメージが大きかったらしい。
その報道ヘリたちは、戦闘機たちによる攻撃が始まって俺たちから距離を取っていたが。

とそのとき、俺のヘリがけたたましいアラート音を発した。
ミサイル警報だ。
見ればレーダーにミサイルの反応。まっすぐにこのヘリに向かってきている。

二人には確かにミサイルはきかない。
しかし俺は別だ。
こんな小型のヘリなどミサイル一発でも食らえばあっという間に撃墜され破壊されてしまうだろう。
だがアラートを聞いてミサイルの回避運動を取り始めるには、あまりにも遅すぎた。

一直線に突き進んでくるミサイル。とてもじゃないが回避する余裕はない。
だが、

 ハル 「お兄ちゃん!」

突き進んでくるミサイルと俺の乗るヘリとの間に、ぬぅっと超巨大な手が現れた。
ハルの手だ。
俺の乗るヘリに向かってきていたミサイルたちは次々とハルの手に激突して爆発した。
俺ならば一発で撃墜されてしまうミサイルを無数に受けてもハルの手はビクともしない。
無敵の盾だ。

 ハル 「お兄ちゃん! ここに来て!」

右手を俺の盾にしているハルは左手の指で自分の胸の谷間を指さした。
そこに来いという事か。
俺はゲムパを操作してヘリをそちらに向かわせる。その背後から、ハルの右手がついてくる。背後から迫るミサイル群から俺を守ってくれているのだ。

そして俺はハルの胸の谷間の上に到着した。
別にここに着陸しろということではないらしい。
俺が胸の谷間の上まで来ると、ハルはその上から両手をかぶせフタをした。これでもう、俺にミサイルが当たることは無い。

 ハル 「動かないでね、ジッとしててよ」

ハルは胸元にかばった兄を見下ろしながら言った。自身に降り注ぐ無数のミサイルのことよりも、今は砂粒のように小さい一人の兄のことのほうが大事なのだ。

 アスカ 「ん。これでシュウは大丈夫だね。じゃあハルちゃんもそのままシュウを護ってジッとしててよ。こいつらはあたしがなんとかするから」

よいしょ、と立ち上がっていくアスカ。

 ハル 「大丈夫ですか?」
 アスカ 「へーきへーき」

そして二本の脚ですっくと立つ。
この南国に来て初めて、アスカは両脚でしっかりと立った。
2000倍の巨体。身長3200mの体で。
飛び交う戦闘機も、報道ヘリも、その国の山も町も人も何もかも見下ろせた。

 アスカ 「海に入る前の準備運動にもならないしねー」

アスカは笑った。


  *


 ハル 「そ~れ!」
 アスカ 「あ! やったなー!」

ハルがアスカに水をかけ、アスカがハルに反撃する。
水をかけあってキャッキャと遊ぶ二人の女子。

 ハル 「あははは。あー水が気持ちいい」
 アスカ 「うんうん、来てよかったねー。ほらシュウ、見てないで一緒に遊ばない?」

アスカは背後を振り返って手を振った。

 シュウ 「……いや無理だろ…」
 アスカ 「なんでー?」
 シュウ 「2000倍のお前らと1倍の俺が一緒に遊べるはずないだろ!」

パタパタと飛ぶヘリのコクピットから、前一面を埋め尽くすほど巨大なアスカの顔に文句を言う俺。

 シュウ 「つかもうお前らも1倍になっていいんじゃないのか!?」
 アスカ 「でもまた攻めてこられたら面倒だしー」
 シュウ 「……」

来るわけないだろ…。と俺は思った。
背後の陸地を振り返ると、そのいたるところから黒煙が立ち昇っている。大きな都市などは滅茶苦茶に踏み荒らされ、小さな村は家一軒残さず踏み固められていた。
さっきまで俺たちを取り囲んでいた無数の戦闘機とヘリは一機も残っていない。というより、このアスカの目線の高さから見渡せる限りの陸地に、生き残っている人間はいないだろう。自身の発明で超視力となったアスカは2000分の1サイズ、身長0.8mm強の俺の表情すら見分けることができるのだ。逃げ惑う人々はただの一人も見逃さない。砂粒のような大きさの人間が一人で逃げてても、そんな人間が建物や物陰に隠れても、必ず見つけ出しては丁寧に踏みつけていく。
今のアスカの足は全長480mにもなる。長さは東京ドーム二個分くらいだ。そんな巨大な足が正確に狙いを定めて頭上から迫ってきたら、どんな人間も逃げることはできない。
いったい何百万人がアスカの足の犠牲になったのか、想像もできなかった。

そんなアスカの足も、今は海中に没していて見えないわけだが。

 シュウ 「じゃ、じゃあ俺も2000倍になるとか…」
 アスカ 「シュウ、水着持ってきてる?」
 シュウ 「……」

ない。
シラフで全裸巨大化は、色々なものをかなぐり捨てなければならない。

 アスカ 「あ、別に水着じゃなくて今の普段着でもいいのか」
 シュウ 「いや、もういい…。お前ら二人で遊んでてくれ…」
 アスカ 「ああんもう腐るな腐るな♪ じゃあ砂浜でお城でも作るとか?」

砂浜なんてとっくの昔に消滅していた。
2000倍サイズの二人が沖で暴れまわっているのだから沿岸には大津波がザブザブと押し寄せるのだ。
その水の勢いはすでに壊滅している内陸部にまで届いている。

 シュウ 「いやいい…。向こうで見てるから終わったら呼んでくれ」
 アスカ 「あははゴメンね。今度埋め合わせするから」

言ってアスカはハルの方へと駆け出していった。
水深は500mくらいあるはずだが、まだ二人の膝下にも届かない。

埋め合わせ…。
水着姿の二人がはしゃぐ様を見物できるだけで十分な気もするが。
実際ハルの方に駆け寄っていくアスカの胸などはたっぷんたっぷんと弾んでビキニからこぼれてしまわないかと心配になるほどだ。

 アスカ 「えーい!」

  バフッ

ハルの方に駆けていったアスカが腕を広げて入道雲に突っ込んだ。
雲が勢いよくはじけ飛ぶ。

 ハル 「あははは! アスカさん雲に埋まっちゃってますよ」
 アスカ 「ぷはっ。ぶつかった瞬間は布団みたいな感触があるんだけどね、すぐに何にも感じなくなっちゃう」

雲から顔を出したアスカが感想を述べる。
雲の中でアスカが手を振ると、雲は溶けるようにスー…と引き伸ばされた。

入道雲は低いところでは高度600mくらい、高いところでは1500mくらいの高さから発生し、その雲全体の高さは16000mほどにまでなるらしい。
最大の高さは別にして、雲の発生する高度600~1500mは今の2000倍身長3200mの二人なら海に立っていても十分に手が届く。

 アスカ 「なーんかものすごくおっきい綿アメみたいだよねー」
 ハル 「あ、それいいですねー。でも曇って味なんてするんでしょうか?」

そう言ったハルは「あーん」と口を開け入道雲の一部にパクついた。

 ハル 「んー…なんの味もしないですね」
 アスカ 「まぁ雲なんてただの塵と水分のあつまりだからね」

ハルが顔を離すと、かじった部分だけ歯型のように半月状になくなっていた。
雲 食うなよ…。

 ハル 「でも雲と同じ高さっていうのは何か新鮮ですね。1000倍以下なら見上げちゃうし、1万倍以上なら見下ろしちゃうし」
 アスカ 「そだね。入道雲は雲底が低くて雲頂が高いから遊ぶなら丁度いいかも。他の雲は雨雲とかでないと触ったら消えちゃうしね」
 ハル 「おー、やっぱり曇ってある程度決まった高さからできるんですねー」

海上にしゃがみ込んだハルの目線は、ちょうど周囲の入道雲の雲底付近だった。
大きな入道雲は大巨人である二人の視線を遮るほどに巨大だ。そんなものがいたるところに浮いている海上は二人にとってかなり視界が悪い場所だろう。
しかしそんな雲も発生する最低高度は決まっており、それ以下の高度では普通発生しない。
立っていた時はそれこそもくもくと湧き上がる雲の迷路の中にいるのではないかというほどに視界を遮られていたが、しゃがんで雲の下に目線がくると、そこは地平線の果てまで見渡せるほど何もなかった。
目線の高さのちょっと上を雲の底が漂っている。不思議な感覚だった。

 アスカ 「条件によるけど、まあ平均すると今の大きさのあたしたちが海底に足をついて立ったときの股下くらいの高さが入道雲の発生ラインかね」
 ハル 「あ、確かに、雲たちの隙間からアスカさんの脚だけが見えてますよ」

しゃがみこんだハルの視界には、足は海中に没し、腰から上は漂う入道雲の陰に隠れてしまって、赤いビキニのボトムとそれから続く二本の肌色の脚しか見えなかった。
空と海の間を脚だけで繋いでしまう。
まったくとんでもない大きさだと改めて思う俺。


その後は、二人はその入道雲たちの合間を追いかけっこして遊び始めた。
もくもくと大きく高い入道雲の迷路の中を右へ左へ走って相手をタッチする。

俺のところにもそんな入道雲の向こうから二人の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
二人の上半身は雲の隙間にたまに見ることしかできなかったが、脚は雲の下に出ていることもあり隠れることもなかった。
あっちへ、こっちへ、4本の肌色の脚が海の上をザブザブと波立てながら動き回っている。


俺は、そんな風に二人が水平線の向こうで遊んでいる様を、すでに無人となった国にヘリをおろし、そっと見守っていた。


  おわり









































後日。


  ずしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!


全長480m幅180mにもなる超巨大な素足が、住宅街をまるごと押し潰した。

 ハル 「ふふん、この前はよくもやってくれましたねー」

ニヤリと不敵に笑ったハルがたった今踏み潰した住宅街をさらにぐりぐりと踏みにじる。
身長3200m。大きさ2000倍の水着ハルが南国の地に仁王立ちしていた。



そんなハルの姿を、後ろの方から見つめる水着アスカとその顔の横をヘリで飛ぶシュウ。

 シュウ 「…え? どういうことだ…?」
 アスカ 「前半で水着姿を接写されたのがすごーく嫌だったらしいよ。絶対仕返ししてやるって言ってた」
 シュウ 「…」

アスカの顔の横をパタパタと飛ぶちーーさなヘリの中、シュウはため息をついた。


  *


  ずしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!


     ずしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!


国の中に向かって無造作に進んでいくハル。
その足は下に町があろうとビルがあろうとお構いなしに踏み下ろされていく。
今のハルからすれば普通の家屋など5mmもない。高さ100mのビルも5cmほどだ。
ハルのあの巨大な足の下で、一度に何十件の家が犠牲になるのか。ハルが通り過ぎたあとには、あまりにもくっきりと足跡が残されている。
ふわふわと漂うわたあめのような雲をときに迂回し、ときに突き破り、あらゆる障害をその巨体で突破していく。
足元を逃げ惑う砂粒のような大きさの人々など眼中に無い。
一度に千もの人がこの巨大な足の下敷きとなって踏み潰されたが、ハルの足裏は彼らの最期をまったく感じていなかった。

人々には興味ないが、人がいそうなところは念入りに踏みつけていく。
住宅地には大きな足跡を残し、密集したビル群は蹴とばしてまとめて吹っ飛ばした。
ぴょんと飛び跳ねるとその大きな胸がブルンと弾み、着地の衝撃は半径5km以内のすべての家屋を倒壊させた。
目についたものは片っ端から踏みつけて足跡へと変えていく。

そんなことをしていると、あっという間にハルの周囲は瓦礫と土砂が散乱し至る所から黒煙の立ち昇る地獄と化す。
都市だった瓦礫を踏みにじり、黒煙の向こうに聳え立つのが、水着姿の巨大な女の子というのは、あまりにもシュールだった。

 アスカ 「おー、ハルちゃん絶好調だね」
 シュウ 「いや、おい…」

すでに半ば見慣れた状況だが、自分の妹が天変地異にも似た大破壊の中心にいるというのは心持ちの悪いことだった。

などと俺が思っていると、突如 ピロリロリンという音が大気を揺るがした。

 アスカ 「お、ニュースだ」

言ってアスカはビキニのボトムからスマホを取り出した。
そんなとこにしまってたのか…。

スマホをポチポチと操作し始めたアスカは「ふむふむ…」と画面を見つめたのち、

 アスカ 「おーい! ハルちゃーん!」

向こうにいるハルに声をかけた。
ただその声が物理的な衝撃となって俺の乗るヘリを吹っ飛ばしたりした。
ハルが振り返る。

 ハル 「どうしましたー?」
 アスカ 「来たよー」

アスカがスマホを持った手を掲げて振った。

 ハル 「あはっ、やりましたね。どこにいます?」
 アスカ 「んー、口で説明すると面倒だから、映像をハルちゃんの頭に飛ばしてあげるね」

言って再びスマホをポチポチといじるアスカ。
なんとか機体を立て直してヨロヨロと戻ってきた俺がアスカの手元を覗き込むと、そこには前半よろしくハルの巨大な姿がLIVEで放送されていた。

 ハル 「あ。頭の中に映像が来ました。この角度からするとー…」

ハルがゆっくりと体を動かして振り返ると、俺が見下ろす巨大スマホの画面のハルも同じように動いた。
映像を飛ばした、ということはこれと同じものがハルにも見えているのだろう。

 ハル 「こっちのー…この辺かな? あ、見つけた」

周囲を見渡していたハルが動きを止めた。
映像の中のハルは、まっすぐにこちらを見ていた。つまり、そこにカメラがあるということだろう。

ハルが歩き出す。
すると映像の中のハルは凄まじい速度で近づいてくる。カメラに向かって歩いているのだ。
直後カメラの映像がしっちゃかめっちゃかに振り回され、同時に悲鳴や怒号のような声が聞こえてきた。

察するところハルの接近に気づいた報道ヘリが撮影を放り出し慌てて逃げ出したようだ。
最早スマホの画面に映し出される映像はヘリの機内だけだった。カメラが放り出されたのだろう。
映像はもう役に立たなかったが、肉眼で見るハルが歩き続けているということが、彼ら報道クルーに迫って行っているということを語っていた。
それは、こんなスマホ越しのLIVE映像なんかよりも、ずっとずっとリアルだった。

不意にしゃがみ込んだハルがそっと手を伸ばす。
そして軽く開いていた手をきゅっと握ると、あの ヘリの機内しか映していなかった映像がノイズにかわった。
つまりこの報道ヘリは、ハルの手で握り潰されたのだろう。

 ハル 「ふふ、まずは一匹~」

手を開いてその中でくしゃくしゃに潰れているものを確認したハルが立ち上がりながら言った。
スマホの画面にはまだいくつものライブ映像が映し出され、いずれも異なる角度からハルのこと(ついでにアスカのこと)を撮っている。
それは、その数だけ報道クルーがいるということだ。
この映像の数が、ハルにとってのブラックリストだった。

 シュウ 「…」

再び歩き始めたハルはまたすぐに手を伸ばした。
スマホのライブ映像のひとつは、不敵に笑いながら手を伸ばしてくるハルの姿が映し出されていた。
そのハルの手はあっという間に画面の向こうを埋め尽くし、周囲を夜のように暗く染めたかと思うと、映像がノイズに変わった。

そのまた次のヘリも、ハルに握り潰された。
今のハルの歩行速度は時速8000kmだ。とても、逃げられる速度ではない。
しかも伸ばされてくる手は東京ドームを乗せることができるほどに巨大で、とっさの回避も不可能だろう。
彼らの乗るヘリは全長15mほどの大きさだが、それは今のハルからすれば7mm強という大きさ。
1cmに満たないのだ。俺の乗るヘリよりは大きいとは言え、ハルにとって指先に乗せてしまえる程度の大きさであることにかわりはない。
彼らは自分たちの乗るヘリの全長よりも太い巨大な指がうねりをあげながら迫ってくる様を命がけで体感しているのだろう。
全長100mを超える超巨大な指たちが自分たちの乗るヘリを包み込むようにグバッと広がりながら迫る。巨大な指と手のひらに覆われると周囲が一気に暗くなる。
その不自然な暗さに彼らの恐怖が最高潮になったところで巨大な手はぎゅっと握られ、彼らを彼らの乗るヘリごと握り潰す。
ハルにとっては砂の塊を潰したようなクシャっという儚い感触だろう。しかしその儚い感触の中には、数人の報道クルーの命が含まれていた。

 ハル 「あはは! ホント、虫みたいに貧弱ですね~」

手のひらに着いたヘリの残骸を、手をパンパンと叩いて落とすハル。

 ハル 「あ、でも虫はもっと頑丈ですし、みなさんは虫以下ですね」

ハルが顔の前で軽く手を振った。
するとスマホの中の映像が二つほどノイズにかわる。

次々と報道ヘリを落としていくハル。
すでにハルが自分たち報道ヘリを狙って動いていることに気づいた一部のヘリたちは逃亡を開始していたが、ハルは目ざとくそういったヘリから優先して狙っていった。

 ハル 「あれー? どこにいくんですか?」


  ズシン

    ズシン


逃げる一機のヘリを追いかけるハル。
割と遠くを全速力で逃げていたヘリだが、ハルはものの数歩で追いついてしまった。
例えば今このヘリが時速400kmもの速度で逃げていたとしても、それを追いかけるハルは時速8000kmで歩いているのだ。実に20倍もの速度差だ。エンジンに限りなく無理をさせてたたき出している速度に、ハルはただ歩くだけで追いつけてしまう。
時速8000km。音速の7倍近い速さ。音よりも7倍速いのだ。
例えばの話、こうしてハルが歩くたびに響くズシンという足音は、ハルが歩いている限りハルの耳に届くことは無いのだろうか。自分の足音を置き去りにして歩いているのだ。
ただ歩くだけでこれだ。
小走りにでもなろうものなら軽く時速1万kmを超えてしまうだろう。本気で走れば時速十数万kmにもなる。とんでもないことだ。

そしてこんなにも巨大な体がそんな速度で動けば、その分だけ大気も激しく動く。
足を一歩進めるだけでとてつもない体積の大気が動き、ハルの脚が通過すると、その巨大な脚によって押しのけられた空気が、脚が通過した部分に勢いよく戻る。
つまりハルが脚を動かすと、その足を追いかけるように大気が凄まじく渦を巻く。押しのけられた空気の分だけ、周囲から空気が戻ろうとする。

その戻ろうとする空気の勢いは、周囲の地面から様々なものを巻き上げる。
ビルの瓦礫、家、車、ハルの足の乱舞という天変地異から辛くも生き残っていたほんの一握りの人々。それらはみな音速よりも速く渦巻く空気の波に巻かれ遥か数百m上空まで連れ去られた。
その瞬間に、ハルの周囲の生存者は0になる。巻き上げられた人々はその瞬間にはその激しい空気の渦の中でズタズタに引き裂かれバラバラになってしまうからだ。
別に踏みつける間でもなく、踏み下ろした際の衝撃波を食らうこともなく、ただ側をハルの脚が通過するだけで人々は粉々になってしまうのだ。

しかもこれはハルの脚だけでの話。
ハルの脚の上にはさらに巨大な胴体があり、足が動けば当然胴体も動く。
ハルが一歩進めばその巨体もグンと前に出る。そしてその分だけ空気が動く。
ハルの巨体の背後にはとてつもない空気の渦ができていた。ハルの周囲を漂う雲も、ハルが通過するとその後ろに吸い込まれるように引き寄せられてかき消されてしまう。
それほどの空気が動くのだから、ハルが動けば、ハルが狙うヘリ以外も、その渦に巻き込まれて次々と墜落してしまう。風に巻かれた瞬間ヘリの機体は粉々になり、クルーたちはその風に触れた瞬間にはバラバラになっていた。

ただ歩くだけで大地も空も滅茶苦茶にしてしまうハル。
そんなハルの被害を受けず無事でいられるのは、ハルの正面方向だけだ。
ハルに狙われなければ、無事ではいられないのだ。


そして、自分の周囲の人々を全滅させながら歩くハルは、目的のヘリをことさらゆっくりと追いかけていた。
追いつけるのに、追いつかない。逃げるヘリの後ろにぴったりとくっついて後を追う。
ヘリはハルのおなかくらいの高さを飛んでいる。距離はハルからすれば20cmほど。実際には400mも離れているが、追いかけられているヘリのクルーにとっても、追いかけるハルにとっても、その距離は無いようなものだった。

 ハル 「ほらほら、もっと速く飛ばないと追いついちゃいますよー」

ハルの嘲笑が世界をビリビリと揺るがした。
ヘリのクルーには、背後から肌色の壁のような巨大なお腹が迫ってくるのが見えていた。滑らかなラインのおなかには、このヘリなどすっぽりと収まってしまうほど大きなヘソが見える。
右に逃げても、左逃げても、あの絶壁のような巨大な腹は離れず着いてくる。
絶対に、絶対に逃げられなかった。

 ハル 「あーあ、ホントに遅すぎ。もっと速く飛んでくれないと疲れちゃうんですけどね」

ハルのうんざりしたような声が小さなヘリを揺らす。
ハルの声は、それだけで小さなヘリを墜落させてしまいそうだった。
中のクルーたちは耳をふさいで悲鳴を上げている。

 ハル 「つまんないの」

そう呟いたハルはたった一歩、普通に歩いた。
それだけでハルの体はクンと前に飛び出し、腹の前を飛んでいたヘリに簡単に追いつき、追突した。
ハルの腹に激突されたヘリはクシャと潰れ、腹にへばりついた。丁度ヘソの横だった。
ヘリの残骸は凄まじい速度で進むハルの腹に押し付けられていたが、その一歩を最後に、ハルが歩みを止めると、腹へ押し付けられる力も弱まり、やがてポロポロと地面に落下していった。
わずかに腹に残ったヘリの残骸をぺシぺシと叩き落としたハルはすぐさま次のヘリへと向かう。


次に狙われたヘリは指の間で捻り潰された。
ハルの手は逃げるヘリにあっさりと追いつき、伸ばされた右手の親指と人差し指の間に、その小さな機体ぷちっと潰して見せたのだ。
ヘリを潰した指をすり合わせ、残骸をさらに粉々にする。


次のヘリはデコピンされた。
ヘリの背後に迫った巨大な手から放たれた、直径30mにもなる巨大な指の直撃を受けて、ヘリは一瞬で粉々になった。
その指の速度は超超音速で歩くハルの歩行速度よりも速かった。瞬間的な速度は時速3万kmを超えただろう。
そんなものに背後から激突されては、どんなに頑強なヘリであっても耐えられるはずがない。
瞬きする間に、ヘリは塵になっていた。乗っていたクルーたちは、自分たちの死に気づくこともできなかったのではないだろうか。


次のヘリは息を吹き付けられて墜落した。
胸の高さを飛んでいたヘリに顔を寄せ、まるで一本のロウソクの火を消すように「ふっ」と小さく息を吹き付けただけだ。
それだけでヘリは凄い勢いで吹っ飛ばされ地面へ真っ逆さまに落ちていった。
落下した先で小さな小さな爆発が起きたのが、ハルの目にも見えていた。


次のヘリは脇の下で押し潰された。
上昇し、ハルの手の届かないところに逃げようと考えたのだろうが、すでにそれに気づいていたハルが脇を開いて待っていた。

 ハル 「ふふ、いらっしゃい」

そう言われて初めてヘリのクルーたちは自分たちの頭上に巨大な脇の下が天井のようにかぶさっているのに気付いた。
慌ててその場から離脱しようとしたが、それよりも早くハルが脇を閉じ、彼らの姿は腕と体の間に消えてしまった。
が、

 ハル 「はうっ、くすぐったい」

ハルはすぐに脇を開いた。
どうやら脇の下で押し潰したヘリが爆発し、それがハルの脇の下を刺激したらしい。
開かれた脇の下にはヘリの残骸らしきものと、爆発のススしきものが着いていた。


次のヘリは乳房に激突された。
胸の高さを逃げるヘリの横を並走するようにして並んで歩いていたハルはクイッとヘリの方を向く。
するとハルの巨大な乳房がぶぅんと振り回され、横を飛んでいたヘリに勢いよくぶつかった。
ヘリはたまらず跳ね飛ばされ、バラバラになりながら落下していく。
ハルとしては横乳に何かが当たったぺちっという感触があったかどうかと程度の出来事だったが、ヘリにとっては山のように巨大な乳房の激突を受けたのだ。
落下していくヘリの残骸を見ながら、ハルは乳房のヘリが当たった部分をポリポリと掻いた。


次のヘリはシンプルに手のひらの間で潰された。
目の前を飛ぶヘリを、まるで蚊でも叩くように両手でパチンと叩いたのだ。
叩いた瞬間は手を打ち合わせた感触が強く、ヘリの感触はほとんどなかった。
しかし手を開いてみればそこにはたしかに粉々になったゴミが着いている。一匹の虫のようなヘリを、確実に仕留めた証拠だ。


次のヘリは食われた。
胸くらいの高さを飛んでいたヘリを、上からパクリと食べてしまったのだ。
高速回転するローターも、ハルの口内を傷つけることはできない。むしろローターが歯や上あごに当たった瞬間ヘリの方がコントロールを失って滅茶苦茶になってしまった。
何もしないうちから勝手に壊れてしまったヘリを、中に乗っていたクルーともどもよく租借したハルは、唾液とともに彼らを呑み込んだ。
瞬間、ハルはげんなりした顔をした。

 ハル 「…おいしくない…」

いくら小さいとはいえヘリは鉄やオイルの塊である。人間の口に合うはずがない。


次のヘリは蹴とばされた。
ハルの腰よりもやや下あたりを飛んでいたのが災いしたのだろう。手ではなく脚を使うという選択肢を与えてしまった。
目標と自分の脚の長さを計算に入れ、まず左足でズンと地面を踏みしめ、そして右足を思い切り振り抜いた。
ひゅん! 勢いよく振り抜かれた足はその甲で目標のヘリを見事に打った。幅180mにもなる広大な足の甲が、目にも留まらぬ速さで、まったく遠慮なくヘリに激突していた。
ヘリは一瞬で原形を失い、粉々になって空に消えてしまった。ハルも、狙い違わずヘリに命中したことに満足していた。

しかしその恐るべき蹴りの威力の被害は、ヘリだけでは済まなかった。
脚が動けばその分だけ凄まじい突風が巻き起こるのはすでに証明されていること。しかし今度のはただの歩行とは比べ物にならない速度の本気の蹴りだ。左足を軸にしてやや斜めに思い切り蹴り上げられた足は空気をぶち破り入道雲に穴を空けた。
蹴りの過程で広大な足の甲はその部分に大量の空気を乗せ、それを蹴りとともに放っていたのだ。手で扇げば風になるように、足の甲に乗せた空気で風を作った。その威力が桁違いなのだ。

そして足が動いた際の突風は歩行のときよりも遥かに凄まじいものだった。その突風はハルの周囲の町の家々をすべてバラバラの塵に変え、それらを空高く舞い上げた。ゴミは雲にさえ届いた。
そうしてハルが蹴りを放った瞬間、その凄まじい突風と衝撃波によってハルの周囲に生き残っていた人々はみな一瞬にして炸裂してしまった。ハルの蹴りの引き起こした衝撃波は、人体には耐えられない異色だったのだ。

 ハル 「あはは。命中~♪」

ハルの呑気な声が、今の蹴りによってゴゴゴゴと鳴動する大気をさらにビリビリと震わせた。
自分がなんとなく放った蹴りが周囲数kmの人間を一人残らず消し飛ばしてしまったことなど、まったく眼中に無い。
しかも蹴りの過程 足が振り抜かれる際に通過した部分の真下にあった地面はまるで地割れか何かのようにズバッと裂け目ができている。


  *


次々と駆逐されている報道ヘリたち。
覗き込んでいるアスカのスマホに映し出されている映像も、ハルが動くたびにひとつ、またひとつとノイズに変わる。

 アスカ 「うーんハルちゃん絶好調だねー。よーっぽど腹に据えかねてたんだね」

アスカの声が頭上から聞こえてくる。ケラケラと笑って楽しそうなものだが、実際ハルの周囲は地獄絵図だ。
ちなみに何故頭上からかと言えば、俺がアスカの顎の下あたりにヘリを位置させているからだ。ここだとアスカがスマホを見るのを邪魔しないし、俺もスマホがよく見える。

と、思いながらスマホを見下ろしていると、突如画面に『ALERT』の文字。

 シュウ 「うぉ! な、なんだ!?」
 アスカ 「あら、軍隊のお出ましだね」

言ったアスカが周囲をキョロキョロと見回してみると、ある方向から粒のようなものがたくさん飛んでくるのを見つけられた。

 アスカ 「まーハルちゃんなら大丈夫でしょ。シュウはあたしから離れちゃダメだよ」

放たれたミサイルが次々とアスカの体に命中し、アスカの体の至る所で小さな爆発が起きる。
アスカ自身はそれを払う素振りも見せないが、俺の乗るヘリに向かってくるミサイルだけは、その巨大な手でしっかりと防いでくれた。


同じく、報道ヘリを追いかけまわしていたハルの体にも幾つものミサイルが命中する。
お尻や背中にポツポツという感触がしてハルは後ろを振り返り、背後に迫る戦闘機たちに気づいた。

 ハル 「む、今はあなたたちに用はないんですけど」

指先に捕まえていたヘリを捻り潰しながらハルが言う。

 ハル 「…あ、でも前半でお兄ちゃんを狙ったりしてたっけ。じゃあちゃんと仕返ししないと」

手をパンパンと叩き、その手を腰に当てて周囲を見渡したハルは、自分の周囲をぐるぐると飛ぶ戦闘機たちに嗜虐的な笑みを浮かべて見せた。

そこからの戦闘はあまりにも一方的なものだった。
向かってきていた数機からなるグループを平手一発で全滅させ、また同じように別の編隊をもう片方の手で叩き潰す。
手をバチンと合わせて3機を同時に叩き潰し、顔の前を横切った編隊を虫を払うような仕草で払い落とす。
ペシッ ペシッ 単独・編隊にかかわらず、目についた戦闘機から落としていった。
開戦から数秒で20機以上の戦闘機が落とされていた。

ハルは先ほどのヘリたちには仕返しをすると決めていた。
だから敢えてヘリ一機一機に時間をかけ、嬲り、弄んで、心の底から恐怖させてから落としてた。
しかしこの戦闘機たちはメインではない。時間をかけて嬲ってやるほどの執着もない。
だが兄に手を出したのだから一機たりとも逃げすつもりはない。

 ハル 「てい! せい! とりゃ!」

ハルの巨大な手が、足が、体が、周囲を飛ぶ虫のように小さな戦闘機たちを次々と落としていく。
すでにその数は半分以下になっていた。
戦闘機たちは果敢にミサイルを発射し続けたが、動き回るハルの周囲は凄まじい突風に巻かれており、ミサイルのほとんどはハルに命中する前に爆発するか、コントロールを失ってあらぬ方向に飛んで行ってしまった。

戦闘機の飛行速度をマッハ3とした場合、時速にしておよそ3600km。しかしそれは、今のハルの歩行速度の半分以下の速度。戦闘機たちはただ歩き回るだけのハルに追いつくことができない。
もとよりハルに近づきすぎれば、あの突風に巻かれてあっという間に墜落してしまうのだが。
ハルはもう小さな台風のようなものだ。ハルを中心に凄まじい乱気流が巻き起こり、周囲の戦闘機を粉砕するだけでなく雲さえも巻き込んで散り散りにしてしまう。
さらにそうやって突風を巻き起こすために動けば足が地面を踏みしめ大地震を引き起こす。
ハルが動くだけで地面も空も壊滅的な被害を被る。天災のような人災。天変地異の塊みたいな存在だった。

  *

さすがに敵わないことを悟った一部の戦闘機は隊を乱して逃走を図った。
のちに命令違反と敵前逃亡の罪に問われることよりも、今 目の前の、無敵の大巨人に潰されることの方が遥かに恐ろしかったからだ。
機体を反転させ、大巨人に背を向けて速度を上げた。
すると、

 ハル 「あれ? 逃げていいなんて言ってませんよ?」

背後からズンと響くような凄まじい声が聞こえてきた。
言語は理解できないが、明らかに俺の方を見て声を発している。俺を狙っている。
パイロットは悲鳴を上げ、エンジンをふかした。限界以上に。壊れてもいいと思った。とにかく逃げられるなら、と。

しかし直後、背後からあの大巨人の巨大な手が追いかけてきた。こちらはマッハ3の超音速で飛ばしているのに、そんな速度を感じさせないほど当たり前のように近づいてくる。まるで俺は止まっているのではないかと錯覚するほどの速度差。
巨大な指をグバッと開いて、凄まじい速度で近づいてくる。追いかけてくる過程で他の機体が次々とあの巨大な手に巻き込まれ爆発している。しかしそれでも、手は俺を追いかけるのをやめない。

俺は前だけを見て必死に機体を急がせた。
不意に陽が陰り、コックピットが暗くなった。見上げてみれば、恐ろしく巨大な指が陽を遮っていた。手が追いついてきたのだ。俺の頭上、つまり機体の上には中指。右に見えるのは小指。左には親指。全方向に指が、指の腹が見えていた。
つまりこの機体は、完全に巨人の手の中におさまっていたのだ。

 「う、うわあああああああああ!!」

俺は叫んでいた。しかしその間にも、全方向に見える指はどんどん前に行く。つまり俺はどんどん手の中に落ちていく。
最早理性を失っていた。俺はただただ叫び続けた。

そしてその全方向に見える指たちが動いたかと思った瞬間、俺の意識はブツンと途切れた。

  *

右手をぎゅっと握ったハルは手の中にぷちっという感触を感じる。
それがすべてだった。それで今の戦闘機に関するコトは幕を閉じた。

逃亡を開始した戦闘機は他にもいる。そちらも片付けないと。
そうして周囲を見ればまだ自分の周囲で攻撃を続けている戦闘機の他に、自分から離れていこうとする戦闘機たちを見ることができた。
ただ、あまりに遅い。
歩くだけで追いつける。むしろ追い越して前に回ることだって容易だ。
彼らの必死の逃亡は、ハルから見ればとてもお粗末なものだった。本当に逃げるつもりがあるのかと。
もちろんハルもそれが彼らの全力であることはわかっている。それがいい。彼ら全力が自分にとって取るに足らないものであると。

ゆっくりゆっくり逃げていく一部の戦闘機たちを見渡して、ハルは舌なめずりをした。
その表情は、まるで猫がネズミを狙う時のように、愉しそうだった。

  *

次々と仲間が落とされていくのを見て、ある編隊の2機は逃亡を決意した。

 「あの化け物…、俺たちを虫みたいに叩き落していきやがる…」
 「とにかく逃げるしかない。逃げないと殺される」
 「で、でもどうやってだよ。さっきから逃げようとした奴から真っ先に落とされてるぞ」

そう言ってパイロットが見たコックピットのガラスの向こうで、また一機 仲間の戦闘機が落とされた。

 「落ち着け。あの巨人も見た目はただの人間だ。なら背中に目はついてないはずだ。あいつの背後に回って、そのまま雲の陰に回るんだ」
 「そ、そうか! 雲を盾にして逃げるんだな!」

2機は機体をハルの背後に向けた。

幸いにも巨人は逃げる機体は優先的に狙っているが、自分を攻撃している機体に関しては放置している。もちろん、逃げる機体を狙う過程で巻き込まれて潰されてしまう機体も多いが。
ならば今は逃げずに攻撃する振りをしながら巨人の背後に回ればいい。背後に回り、気を見て雲間に飛び込めば巨人も自分たちを見つけられない。

この間にも仲間たちは次々と落とさていくが、二人はもう彼らは囮なのだと割り切っていた。
仲間の機体が全滅すれば次は自分たちの番だ。今はまだ攻撃を続けている機体は狙われていないが、逃げ出そうとする機体がいなくなればすぐにそれらの機体も狙われ始めるだろう。いや、そもそも次の瞬間にも狙いを切り替えない保証もないのだ。
焦ってはダメだ。しかし時間もない。残っている戦闘機はもう何機もない。機体が少なくなるほどに、自分たちが狙われる確率が高くなるのだ。

そしてチャンスは来た。
巨人の背後に回ったあと、積乱雲の陰に回ることができたのだ。本来なら断固避けるべき存在である積乱雲だが、今はありがたい。なんであろうと、あの巨人よりはマシだった。

 「や、やったぞ!」
 「まだだ。あの巨人が完全に雲の向こうに見えなくなるまで油断するな」

二機は雲の陰に回り、巨人の死角に入るべく雲の表面にそって旋回した。
あの大巨人の姿も、すぐに雲たちの向こうに見えなくなった。
巨人は最後まで背中を向けていた。

 「よし! 今度こそ…!」
 「ああ、あとは今のうちに巨人の手の届かない高さまで上昇しよう。そうすればあの巨人ももう追ってこれないだろう」

二人は山のように大きな入道雲のすぐ横を飛行していた。少しでもその陰に身を隠すためだ。
もう少し進めば雲と離れる。そしたらすぐに機体を上昇させよう。

が、間もなく入道雲から離れるというところだった。

  ボッ!!

盾にしていたその入道雲の壁面が突如爆発し、そこからあの恐ろしく巨大な手が飛び出してきた。

 「!?」

パイロットたちは目を見開いた。
雲を突き破って出てきた手はそのまま雲を引きながら伸びてきて、逃げていた2機に襲い掛かってくる。

 「う、うわああああああ!」

そのうちの一人は無意識のうちに機体を思い切り反対方向に旋回させていた。
直後、手はその空間を握りしめ、もうひとつの機体をグシャリと握り潰した。
そして、

 「まさか本当に気づいてないとでも思ってたんですか?」

あの恐ろしく巨大な声が轟き、今まで二人が盾にしていた巨大な入道雲の陰から、巨大な頭がぬぅっと現れた。

雲の陰から、人間の首が飛び出している。雲より高い位置に頭がある。全部、最初からバレていたのか。
一人残されたパイロットは自分たちの計画を見抜かれていたこと、逃亡の失敗とその意味を考え、絶叫した。
機体を巨人の顔とは反対の方向に走らせた。もう自分が何をしているかもわからなかった。
ただただ叫びながら、本能のままに、巨人から遠ざかろうとした。

 「残念でした♪」

背後から巨人の楽しそうな声が轟いて機体を大きく揺さぶり、戦闘機はコントロールを失ってくるくると回転しながら落下していった。
しかし地面に到着する前に、前の一機同様、その手で握り潰された。

  *
 
その後、残った数機をぺチンと潰せば、周囲の戦闘機は全滅した。
その間、5分も経っていない。

 ハル 「さ、これでおしまいですね」

ハルが手に着いた無数の機体の残骸をパンパンはたき落しながら言う。

 アスカ 「おつかれーハルちゃん」
 シュウ 「お前なぁ…」

二人もハルのところにやってくる。

 シュウ 「流石にやりすぎだろ…」
 ハル 「そんなことないよー。ホント、恥ずかしかったんだから」
 アスカ 「そうだよーシュウ。こんなにかわいいハルちゃんを近くで見ていいのはシュウだけなんだよ?」
 シュウ 「は?」

シュウの乗るヘリの背後上空のアスカの巨大な顔を振り返り怪訝な顔をするシュウ。

 アスカ 「だってほら見てみなよ。ヘリや戦闘機を追いかけるのはハルちゃんにとっては大した運動じゃなかっただろうけど、この南国の暖かい気候で動き回れば汗も掻くし、するとほら、汗ばんだハルちゃんの体が日光でキラキラ光ってなんか艶めかしい感じ。おっきな胸の谷間を汗が流れ落ちていくのとかセクシーだよね」
 シュウ 「なんの話だ!」
 ハル 「はぅ…っ!」

ヘリの中からシュウが抗議し、赤面したハルは体を隠すように両手で抱いた。

 アスカ 「大丈夫だよ隠さなくても。だってもここにはあたしたち以外誰もいないし」

アスカが手を広げて周囲を見渡して見せた。
見渡す限りの広大な大地。しかしそのほとんどはぐちゃぐちゃに踏みにじられ、町はおろか、山さえも踏み潰されている有様だった。
ハルがヘリや戦闘機を追いかけまわす過程でなったものだ。ハルの巨足に踏み潰された国民、衝撃波や突風に巻かれ消し飛んだ国民は数えきれない。
ハルは自分で意図せずして、知らないうちにこの国の人々を全滅させていた。

 ハル 「あらら…」
 シュウ 「……」

ポリポリと頬を掻くハル。本当に意識してなかったらしい。

前回のアスカの時と今回のハルの時。
この国はこの二人のせいで2度滅んだことになる。

 アスカ 「ま、なくなっちゃったものはしょーがないし、今日も遊んで行こ。今日はビーチボール持ってきたんだ」
 ハル 「そ、そうですよね! 悩んでも仕方ないですよね!」

二人は海に向かってズシンズシンと歩き始めた。

 シュウ 「まったくお前らはホントになぁ…」
 アスカ 「気にしない気にしない。シュウもやる?」

アスカが手に持ったビーチボールを見せてきた。

 シュウ 「無理に決まってんだろ…」

2000倍のアスカの手にあって普通サイズに見えるのだからそのビーチボールは2000倍サイズだ。直径600mくらいあるだろう。

俺があきれ顔のまま二人で遊ぶように言うと二人は沖に向かってザブザブと波立てながら走って行った。
山くらいの大きさのあるビーチボールが、山より大きな二人の手によって、雲より高い位置まで飛び上がる。
隕石のように落下してくるビーチボールを跳ね上げてキャッキャと騒ぐ二人の大巨人。

前半では水平線の向こうに見えてた二人の無邪気な大巨人の姿は、今回は水平線の向こうに沈む真っ赤な夕日によって、夕焼けをスクリーンにした巨大なシルエットとなって浮かび上がっていた。