※【破壊】【蹂躙】



 『巨大少女たちが…』



突如として都市に現れた全長数十kmにもなる超巨大な飛行物体。
テレビもラジオも不明瞭なことを叫ぶばかりでそれに対する具体的な回答を述べているチャンネルは無い。
世界各国が軍を出動させ見守る中、ふと飛行物体の一か所が裂け、中から何かがゆっくりと突き出てきて地上に繋がった。
それは超巨大なタラップのようにも見えた。
タラップの接地した周囲はその衝撃によって大揺れに見舞われ、またその超巨大な金属の直撃を受けたビルは一瞬で粉々にされてしまった。
しかしタラップそのものには傷一つついていなかった。
展開していた軍は即座にその飛行物体に対し攻撃を開始した。
無数のミサイル銃撃砲撃がその滑らかな金属の表面に直撃してゆくが、飛行物体は微動だにしない。
数機の戦闘機が開いた部分から飛行物体内部へと侵入していったが、直後に連絡が取れなくなった。

 ずぅうん… ずぅうん…

重々しい音と共に、大地がグラグラと揺れ始めた。
電信柱や信号機が揺れ、送電線が震えるほどだ。
いったい何が起こっているのか。
グラングランと揺れる地面の上でゆっさゆっさと左右に揺れる戦車隊は隊列を乱されながらも飛行物体に狙いを定めていた。

そして例の開いた部分から何かが現れた。
それは、足。
白いサンダルを履いた足が、あの地面にまで伸びてきたタラップの様なものを降りてくる。
その巨大すぎるタラップに、違和感を覚えない大きさで。

その足がタラップを一歩下りるたびに地面がずぅうん…と重々しい音と共に揺れ動く。
この揺れと音はあの巨大な足が原因なのか…。
展開していた軍隊は、現れたその足のあまりの巨大さに唖然とし、攻撃の手が止まってしまっていた。

足がタラップを一歩下りるほどに見える部分が増える。
足首から膝が、膝から太腿が。
次々と全容があらわになってゆき、そうなるほどに全軍の指揮はみるみる落ちて行った。
あり得ない巨大さである。
この街の上空を覆うほどに巨大な飛行物体から、その巨大さに違和感を感じさせない人間が降りてきたのだ。
しかも、あらわになった全容の正体は、女の子の様だ。
栗色の長い髪。白いブラウス。そしてミニスカートにサンダルと、あまりにも普通の女の子だ。
だがその大きさだけが、地球人とはケタ違いだった。
周囲を飛んでいた戦闘機たちは、タラップを降りてくるその巨大な少女と目線が同じ高さである事に恐怖を覚えた。
彼らは地上数千mを飛んでいた。つまりタラップを降りてくる過程のこの巨大少女は身長は1000mを超えているということだ。
しかし、巨大少女自身がそんな高高度にいるわけではなく、巨人のその巨大なサンダルを履いた足は、タラップの最後の一段を降りるところだった。

 ずしぃぃぃいいいいいいいいいいん!!

巨大な白いサンダルを履いた足が地面に降りた瞬間、周囲を凄まじい揺れが襲った。
直下にあった街並みはその巨大なサンダルの下に消え、周囲の建築物なども着地の衝撃でぐしゃぐしゃに倒壊してしまった。
その一歩の衝撃は半径数百m内の建物のほとんどを倒壊させ全てのガラスを吹き飛ばし地面を大きく波打たせた。
車などは道路から跳ね飛ばされ周囲のビルなどに突っ込んで爆発し、足の落下点の近くにいた人々は衝撃により消し飛んだ。
更にもう片方の足も同じように大地に下され、その下に無数の家やビル、車と人々を踏み潰した。
巨人はかわいらしい顔をしている。美少女と言ってもいい。
だが、その巨人の少女が降り立ったことで、周囲の街は壊滅状態に陥ってしまった。

呆けていた軍も巨人の起こした大災害を見てすぐに攻撃を再開した。
巨大な足の着地の衝撃で体勢を崩していた戦車も徐々に巨人への侵攻を開始していった。
あの巨人がどんな理由でこの地球にやってきたかは定かではないが、この行動を見るに友好的な目的ではないだろう。
相手が若い女の子であるという良心の呵責は残るものの、それでも、この理不尽な侵略者の蛮行を許すわけにはいかない。
全軍が、巨人に対して攻撃を開始した。


  *


「ん~! やっと着いたー」

アミスは長い宇宙航行から解放された喜びにうーんと体を伸ばしていた。
そして辺りを見渡せば視線を遮るものはほとんどなく、足元では無数の極小の建築物が地面を埋め尽くしている。
ここには、話に聞いていた極小のヒューマノイドが住んでいるはずだ。
あまり信じてなかったけど、こうやって実在するものを見てみると凄い胸が躍る。

「これが小人さんの街なのかな。ほんと、すっごいちっちゃい」

白いサンダルを履いた自分の足の周囲にも、小さな小さな建築物が所狭しと生えている。
大きいのもあるけど、小さいのはサンダルの上の足の指ほどの高さしかないや。
…でも、建物っぽいのはあるけど肝心の小人さんは見えないな。どこかに隠れてるのかな。
アミスは少し歩いて周囲を観察しだした。


  *


今までただ立っているだけだった巨人が歩き始めた。
その瞬間から、街は破滅的な速度で壊滅していった。
巨大なサンダルと足が持ち上がり、一気に500mも離れた場所に下された。
直後、最初に足が接地したときと同じようにそこにあった街並みが踏みつけられ、その衝撃で周囲の建築物が倒壊した。
足を中心に放射状に崩れてゆくのだ。
更にその足を支えにしてもう片方の足も前へと飛び出していった。
凄まじい重量感で地面に沈み込みながら下されていた巨大な足がまるでその重さを感じさせないほど当然のように軽やかに持ち上がり前方の街の上に降ろされる。
その度にまた大地が上下に大きく揺れ周囲の街並みをぐしゃぐしゃに粉砕する。
ただ街が壊れているのではなく、そこにいた何百何千人がその足の下に踏み潰され、更に衝撃波に呑まれズタズタに引き裂かれていた。

そうやって巨人が街を破壊しながら侵攻しているのを上空の戦闘機から見ていたパイロットがいた。

「くそ! エイリアンめ!!」

突如として侵攻を開始した巨人。
巨人が一歩歩くごとに足元の街並みが大きく破壊し尽されるのが、上空からはよく見えた。
壮大な街並みが巨人の巨大な足が踏み下ろされるほどに酷く歪み、巨人の通った後の街はまるで戦争でもあったかのように凄惨な光景が広がっている。
住民の避難が完了したとの報告も受けていない。
この巨人は人間を蹂躙しているのだ。

俺たちの隊はすでに攻撃許可が下りているがもし狙いを外せばミサイルは眼下に広がる街に落ちてしまう可能性があるので無闇に撃つわけにはいかない。
的であるエイリアンは途方も無く巨大で本来なら狙いの外しようがないのだが巨人は超高速で歩行しているのでミサイルの追尾を回避される可能性がある。
簡単な計算でも巨人は時速4000km以上の速度で歩行しており、仮に背後から巨人を狙った場合、ミサイル(速度マッハ3(時速3672km))が追いつけないのだ。
そして戦闘機はミサイルの追尾を飛行速度で振り切ることはできないので、戦闘機も巨人に追いつけないということである。
巨人の背後側面に展開していた戦闘機軍はみな巨人の圧倒的な歩行速度の前にあっという間に距離を開けられ放されてしまい、また逆に巨人の前方に展開していた戦闘機たちは超高速で接近してくる巨人の超巨大な体を回避することができず、そのブラウスに包まれた巨人の上半身に激突して砕け散った。
戦闘機の爆発が一瞬の閃光となるが、巨人の歩行速度はそれらの爆発さえも一瞬でかき消してしまった。
東京ドームですら全体を覆う事のできないそのブラウスの胸元の盛り上がりが、巨人の歩行に合わせてゆっさゆっさと重々しく揺れる。
またそれらが前方を逃げる戦闘機に簡単に追いつき、その乳房の丸っこい表面で一瞬で粉砕してゆく様が、非常に異様だった。
巨人からすれば、彼らの乗る戦闘機は全長1cmちょっとくらいの大きさでしかなく、紙よりも脆いそれは巨人の体に触れただけで小さく爆発し粉々になってハラハラと地表に降り注ぐのだ。


  *


中央自然公園。
ビル群の中にぽっかりと開いた人口の自然公園である。
現在ここには何十という戦車が集まり巨人の侵攻に対しての防衛ラインを敷いている。

「し、しかしよう、あんな馬鹿でかい巨人に対して戦車なんかで勝ち目あるのか?」
「だがやるしかないだろう。お前はこのまま地球があの巨人に侵略されてしまってもいいってのか?」

ある戦車のハッチから顔を出していた男とその戦車の横に立っていた男との会話である。
二人のような会話はこの集結した戦車たちの間のいたるところで聞こえてきている。
その大半が「あんな巨人に勝てるわけがない」と諦めた感じのものだった。
今そこに展開している彼らからは巨人の姿は高層ビルに阻まれ見えないが、足元の地面が絶えず一定の感覚で「ずぅうん!」と重々しく突き上げるように揺れているのがそこに巨人が存在し歩いている証拠だった。
人間が歩いたくらいで地面は揺れない。それが周辺のビルがガラガラと倒壊してしまうような揺れを起こすとは、あの巨人の恐ろしい巨大さを物語っている。
防衛ラインとは言っているが大都市の中の狭いスペースに多数の戦車を展開できる土地を確保するのは難しく実際はただこの公園に戦車を集めただけで巨人がこちらにやってきたら攻撃を開始するという作戦になっていたため、展開している戦車隊の誰もが巨人が来ないようにと願っていた。

だが直後、足元の揺れと轟音が段々と大きくなってきた。
巨人がこちらに近づいてきているという事実に、全員が緊張し絶望した。
戦車に登場していた隊員は砲身を音のしてくる方に向け、その周囲の歩兵は震えながら手に持った銃を構えた。
そしてすぐに、公園の周囲を囲む高層ビルの向こうに巨人の姿が見え始めた。
周囲のビルは決して低くないが、最初は頭しか見えなかった巨人も、次の一歩では上半身が見えるようになった。
加速度的に大きく見えてゆく巨人の姿。同時にそこにいた隊員たちは、自分たちが加速度的に小さく、もしくは奈落に落下してゆくような感覚を覚えていた。
巨人の姿は、地球人の普通の女の子と変わらなかった。だからこそ彼女を自分たちの常識の大きさで測り、結果自分たちが縮んでゆくような錯覚に陥ったのだ。
大地がこれまで以上に大きく揺れる。巨人の接近に伴いその揺れもより強力になってゆく。そのせいで戦車や兵隊は地面の上を転がる結果になり巨人に狙いを定める事が出来なかった。
次の瞬間、戦車隊の正面にある高層ビルの向こうからその高層ビルたちを跨いで超巨大な足が現れた。真白いサンダルの裏が彼らの目の前に展開された。サンダルの裏は土や砂で軽く汚れている。普通のサンダルの光景だった。
そしてその巨大な足は戦車隊の展開する公園の上へと踏み下ろされた。

  ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!

公園中央に長さ240m幅90mの足を乗せた巨大なサンダルが踏み下ろされた。
公園は巨人の進行方向に対して横幅が550m縦幅が300mほどで、巨人の足はその中心に下されたのだ。
展開していた戦車十数輌が足の下敷きになって踏み潰された。戦車の周囲に展開していた歩兵たちも同時にだ。
更に直撃を免れた戦車たちも至近距離に足を下されたその衝撃で吹っ飛ばされひっくり返ったり潰れたりしていた。歩兵に至っては今の一歩で全滅してしまった。
そのまま巨人は足を止める事無く公園を跨いで通過し前に向かって進行を続けていった。
展開していた戦車隊は見向きもされず、その存在に気付かれることもなく全滅した。
巨人にとっては、これらの行為は歩いている過程のただの一歩の結果に過ぎなかったのだ。
そのまま地響きを立てながら巨人はボロボロになった公園を後にした。


  *


突然の超巨大飛行物体の出現。超巨大宇宙人の出現。
軍隊の交戦は意味をなさず、巨人は街を破壊し続けている。
人々はビルの間を悲鳴を上げて逃げていた。
道は逃げる人で溢れかえっており車などはまるで役に立たない。
恐怖のあまり理性を失った運転の結果事故を起こしそれが二次災害や道の渋滞封鎖に繋がってしまうのだ。
人波に車が突っ込むこともあった。酷いものは人を撥ねながらでも突き進んでいた。誰しもが死にたくない一心で必死に逃げているのだ。他人の事を構っている余裕など無かった。
だが巨人が歩くと地面がグラグラと揺れ、逃げる人々の大半が足を取られその場に転んでしまう。下手な耐震強度のビルはそれだけで崩れ落ち、まだ中にいた人やビルの周囲を巻き込みながら瓦礫になってゆく。

  ずどおおおおおおおおおおおおおおおん!!

    ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!

巨人のとんでもなく巨大な足音と地震のような揺れが近づいてくるのを、遠くにいた人だけが気づいた。近くにいた人間にはそれぞれの足音の違いを聞き分ける事が出来なかった。
巨人はたった一歩進んだだけで500mもの距離を進んでしまうのだ。至近距離に逃げていた数千という人々はその一歩で跨いで追い越されてしまった。
しかしそれは助かったわけではない。
巨人の超巨大な足が背後に落ちその凄まじい衝撃は足のすぐ前を逃げていた人々を軽く吹っ飛ばしてしまった。
超巨大な白いサンダルが背後のビルや道、車、そこを逃げていた人々を一瞬にして踏み潰し、その広大な足裏が地面に着くまでの間に圧縮され放出された空気が、前を逃げていた人々に襲い掛かったのだ。
放出された衝撃波と突風は人々をほこりか砂粒のように宙へと巻き上げ、超至近距離では時速数百kmから数千kmもの速度で飛行させた。
足が起こした衝撃波に触れた瞬間バラバラになってしまう者や数百mを飛行した後ビルの壁面で砕け散ったり道路に墜落して飛び散ったりと足の目の前を逃げていた人々は悲惨な目に遭いほとんどが死亡していた。
背後を見ながら逃げていた者は巨大なサンダルが高層ビルや家などを当たり前のように踏み潰すのが見えていたはずだ。
そこにあったビルが、次の瞬間には巨大な足に占領され見えなくなる。ビルには崩れ落ちる時間すら与えられず足の下に消されたのだ。
サンダルの底は熱さが10mほどはあろうが、それらはビルや道路などを簡単に踏み砕き地面へと埋没する。一本一本がビルのように巨大な肌色の足の指が逃げてゆく人々の視界に入った。
太さは12mはあるだろう。4階建てのビルに相当する太さだ。
巨大なサンダルはヒールが僅かに高いらしく、前方の人々からでも足の指、足の甲を目視することができた。
誰もが、こんな巨大な肌色の物体を見たことが無かった。しかもそれが、巨人の足という全体のほんの一部であるという。
足の直撃を免れ、突風を受けぬところにいたとしても、足が地面に着地した瞬間に発生する大揺れは周囲数百mの地盤を大きく揺るがし、その衝撃波もあって周辺のビルを根こそぎ粉砕倒壊させ吹っ飛ばした。車が錐揉み回転しながら吹っ飛んでゆくこともあった。
巨大な足の下に1000を超える人々が踏み潰されただろう。足はそのまま人々の街を踏み砕き地面へとやや埋没しながら自身を安定させると、片割れであるもう片方の足を前方へと進ませた。
持ち上がった足が次なる着地点までの間、地表の上空数十mから数百mを時速数千kmで移動するのだが、全長240幅90mという超巨大そして途方も無い質量をもつそれがそんな凄まじい速度で移動すれば周辺の大気はうねりを上げて荒れ狂い地表に襲い掛かる。
足が移動した直下の街では荒れ狂った空気が竜巻のような突風になり地表から人々や車、下手をすれば家さえも宙へと巻き上げその大気の渦の中でバラバラに粉砕した。
五体が無事で風から抜けられた者も、その後に待っているのは数十mもの自由落下であり、足が移動する際の突風で廃墟と化した街並みの上に落下するのみであった。
その突風すらも免れることができた幸運な人々も、その移動した足が地面に着地するときに再び絶望に襲われることになる。
ハイヒールではないサンダルはヒールの部分が太いのだが、それは人々からすればデパートほどもある巨大さだった。
それが、その上に乗るとんでもなく巨大なかかとにかけられた体重を乗せて地面へと遠慮なく落下するのだ。
幸運な人々は前の足の一歩から一際遠い前方にいた。だがそれは巨人にとっての一歩分の距離にも満たず、次の一歩は彼らの目の前に落下したのである。
足に移動しながら掛かる体重は本来の重量よりも重い。
それらが最初に乗るかかとの破壊力は、足の前方にいて突風を食らうのとはわけが違う。
巨大なヒールが落下した瞬間、そこを中心に凄まじい衝撃波と地震が起き、その足のすぐ後ろにいた人々は前方から襲い掛かる衝撃波に呑み込まれズタズタに引き裂かれてしまった。
巨人の一歩と一歩の間に1000もの、最悪数千もの人々が死に絶えてしまったのだ。
巨人はなおも、その白いサンダルを履いた巨大な足で街の上をずしんずしんと歩いてゆく。
その一歩一歩の間には、同じように無数の人々が犠牲になっている事だろう。
巨人が歩き去った部分はまともに建っている建物が無い廃墟となり、その瓦礫の街には幸運にも五体を保ったままの無数の死体が転がっていた。


  *


巨人の侵略を止めることができないままパイロットは燃料の尽きかけている自身の機体の悪態をついた。
だが俺は巨人に一発を打ち込むまで戻るつもりは無かった。
無論、これまで仲間の撃ったミサイルが巨人に幾発も命中し爆ぜたが巨人にダメージを与えることができなかったことはこの目で見てきた。
それでも俺は奴に自分のミサイルを叩き込まなければ気が済まなかった。
奴に落とされた仲間の機体は数十に上る。あいつらの悲鳴と無念の声が無線越しにいくつも聞こえてきた。
なのにあの巨人は、仲間の機体を落としても気にもしない。
たった今仲間の悲鳴が途切れ、視界の端で一機の戦闘機が巨人の体にぶつかり爆発したが、奴は何事も無いように平然と歩いてやがる。そう、平然と。
まだ街には無数の住民たちがいるはずだ。こんな急に、非難が終わるはずがないんだ。そしてこの巨人は、そんな人々のいる街の上に平然と足を下し歩いている。
上空からでは街の住民までは見えないが、小奇麗な街並みが、巨人の足が踏み下ろされてぐしゃりと歪み崩れるのが非常に腹が立つ。
俺たちの街を、人間をなんだと思ってやがる!
この機体の推進力では巨人には追いつけないが巨人はあちらこちらと進む方向を変えるのでその向き次第では横に回り込んだり追いついたりできる。
巨人は見た目こそ若い娘だが、奴がやっていることは大量破壊と大量虐殺だ。異星人の明らかな侵略行為だった。

ふと、その巨人の横顔が視界に入ってきた。巨人が横を向いたときの偶然である。
なんと奴は、足元の街を見てくすくすと笑ってやがった。
街を踏み潰すのが、人間を踏み潰すのがそんなにも楽しいのか。
俺はすでに限界に達しているエンジンに更に無理をさせ、その巨人の横顔目掛けて飛んで行った。
巨人は今足元をぐるりと見渡し足を止めている。今なら接近しミサイルを当てることができる。
俺は狙いを定め巨人の頬にミサイルを一発叩き込んだ。
住宅街ほどの面積のある頬だ。止まっていれば外しはしない。
ミサイルはまるで吸い込まれるようにその肌色の平原である巨人の頬に直撃した。
直後オレンジ色の炎が激しく爆発し黒煙を巻き上げる。
俺は鬨の声を上げていた。

直後、足元を見ていた巨人の巨大な目がギョロリとこちらを向いた。
そして巨大な手が現れたった今ミサイルの命中した頬を撫でている。
手がどけられればそこには傷など無く、ほんの少し黒くすすけたくらいだが、ダメージが無いのは承知の上、巨人に一発を叩き込んでやれたことに意味がある。
横を向いていた巨人がこちらに向き直った。今の俺からは巨人を正面に捕えることができていた。
その巨大な顔はむっとしていた。どうやら俺の一発に機嫌を悪くしたらしい。いい気分だった。
今まで無視され続けてきた地球人の存在を思い知らせてやれた。
俺は残っているミサイルもすべて撃ち放ち、それはあの馬鹿でかい顔の至る所に命中し爆発。驚いた巨人は大慌てで自分の顔を覆った。そのせいで後ずさった巨人がまた街並みを踏み潰したのは失敗だったが。
もうすでにミサイルも燃料も無い。俺のやれることはやった。
俺は機体を反転させこの空域から離脱した。


 どぱぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああん!!!


  *


「もう、なにこれー」

私はちょっとムッとしながらも、目の前を飛んでいた虫をパチンと捕まえたところだ。
合わせた手のひらを開いてみると手のひらの中央に何やら黒いものが粉々になっていた。虫じゃなかったのかな?

「?」

首を傾げきょとんとするアミス。
粉々になってしまったそれはなんか砂のようで粒々なものだ。てっきり蚊かなんかだと思ったんだけど。
あ、もしかしてこれって『ヒコーキ』とか言う小人さんの空を飛ぶための乗り物かも。そうだったらなんだか悪いことしちゃった。
もしもあのちっちゃな乗り物に小人さんが乗ってたのならきっと一緒に潰れてしまっただろう。
私は手のひらの粉々の黒い砂粒を見てちょっとしょんぼりした。
よく見ればまだ周囲には同じような小さく黒い虫がいくつも飛んでいる。
手の届くところには飛んではいないがふわふわゆっくり飛んでいるので追いかけるのは簡単そうだ。

「ふふ、かわいいな。ねぇねぇ小人さん、一緒に遊ばない?」

と、笑いながら小人さんに話しかけてみた。
するとその小さいヒコーキの何匹かはこっちに寄ってきた。
ところがある一定以上の距離には近づかず、気づくと体のあちこちでポツポツと光った。
もしかして、攻撃されてるのかな。
痛くはない。蚊がぶつかった程度の感触だし服が燃える事も無いだろう。

「あーひどーい。女の子を撃つなんて最低だよ」

私は腰に手を当て頬を膨らませて周囲のヒコーキを見渡した。
とは言っても実際は全く怒っていなかったけど。
きっと何かを撃ったんだろうけど、ぶつかってもくすぐったいくらいだし、熱くも無いから怒る理由も無いしね。
それに小人さんたちはきっと突然やってきた私にビックリしてるんだろうなぁ。
そりゃ自分たちよりずっと大きな女の子が突然現れたらビックリするよね。
んー、どうしたら小人さんと一緒に遊べるかな?

「んー…」

私は左腕を組み右ひじを左手の上に乗せ右手の人差し指を頬に当てながら考える。
この間も、体中で小さな小さな爆発が起こるけど、あんまり気にならない。
また左のほっぺに当たったけど、ぽりぽり掻けばすぐに治まっちゃう程度の痒みだし。
肌に当たったなら感じられるけど、服とかに当たるとまったくわかんないんだよね。小人さんも全力で攻撃してるんだろうけど、もっと頑張らないとわからないよ。
でもなんかこうやって必死に攻撃してきてるのを見ると、まるで構ってほしいようにも思えるかな。うん、それじゃあそうしてみよう。
私は当りを見渡した。
まだ周囲には十数匹のヒコーキが飛んでいる。これだけいればすぐには終わらないよね。

「それじゃあ小人さん、鬼ごっこしようか。私が鬼ね」

私は周囲のヒコーキに言った。
すると先ほどまで私の体の周囲を飛んでちまちま攻撃していたヒコーキたちは慌てて私から離れて行った。
かわいいなぁ。

さて、10秒くらいなら待ってあげてもよかったけど、そうするとみんな結構遠くに行っちゃいそう。特にちっちゃくてちょっと離れるだけで見つけにくくなるな。
もう追っかけ始めてもいいよね。
まず私は一番近くにいた正面のヒコーキを追いかけ始めた。
逃げてゆくヒコーキは、わざわざ走らなくても歩いて追いかけるだけで簡単に追いつけた。
さっきまで数mくらい離れたところを飛んでたのに、今はもう目の前だ。
私の胸くらいの高さの30cmくらい先を飛んでいる。

「あはは。ほらほら、もっと速く逃げないと追いついちゃうぞ~」

胸の前を飛んで逃げているヒコーキを私は歩く速度を少し落として追いかけている。そうでなくては簡単に追いついて胸が戦闘機に当たってしまう。
小人さんは必死に逃げてるのかな。ふふ、私はゆっくり追いかけてるのに。
ヒコーキは右に旋回したり左に旋回したり頑張ってるけど、私からは逃げられなかった。

「それじゃあ君は捕まえちゃおうか」

私は右手を伸ばし、そこを飛んでいるヒコーキを指でちょいと摘まんで捕まえた。

「はい捕まえた」

捕まえたヒコーキはほんとにちいちゃくて私の指の間で今にも潰れてしまいそうだった。
中には小人さんが乗っているのかな。ちょっと見えないや。
ヒコーキは左の手のひらの上に乗せ、残りのヒコーキを追いかけ始める私。

「さぁ次は誰かな」


  *


突如巨人が我々に聞き取れる言語で口にした言葉。

『鬼ごっこしようか』

それは巨人が、我々を追いかけまわすと宣言したということだ。
展開していた戦闘機たちは即座に機体を反転させ巨人から距離を取ろうとしたが、巨人が歩き始めるとその差は縮まるばかりだった。
なんとあの巨人はただ歩いているだけで戦闘機の飛行速度を超えるのか。我々が必死に風を切りGに耐える中、巨人は笑顔のまま悠然と追いかけてくる。
背後に確認できる巨人の姿がどんどん大きく見えてくる。差が詰められているのだ。
我々を追いかける巨人は自身の足の下に街並みを踏みにじっている事になんの興味も無いようだ。
あの白いサンダルを履いた足が街の上に降ろされるたびに整然とした街の風景が一気にぐしゃりと歪むのが上空からはよくわかった。
その一歩に数百もの人間が踏み潰されていると思うと気が狂いそうだった。巨人は一歩一歩歩くたびに恐ろしい大量虐殺を行っているのだ。
そしてその巨人は、自身が夥しい数の人間を踏み潰していることなど気づいた様子も無く、にこにこと楽しそうに我々を追いかけまわしている。
巨人にとって我ら地球人は数百と潰しても気に留めるほどの存在でもないのだ。なんの躊躇も無く、まだ街並み綺麗で非難の終わっていない住民たちが無数にいるであろう場所に足を踏み下ろしていた。
だが戦闘機に乗るパイロットたちにそれを気にする余裕は無かった。今、巨人のターゲットは我々の戦闘機なのだから。
このGが体に圧力をかけ苦痛を強いる状況に無ければ今頃発狂し叫んでいただろう。
戦闘機は自身の持てる最大の推力で巨人から逃げていた。

そのうちの一機が巨人のターゲットとなり追いかけられていた。
開いていた差はあっという間に詰められ、今はなんと背後の視界を巨人の巨大な体が支配すると言う恐ろしい状況にあった。
全面は上半分を青い空が、下半分を街並みや地面が埋め尽くしているのだが、背後にあるのは、巨大な白いブラウスの壁だった。壁が追いかけてきているのだ。
しかもそこではその真白いブラウスに包まれた山のように巨大な乳房が巨人の歩行に合わせてゆっさゆっさと弾んでいた。
背後で巨大な乳房が揺れている。確認するとそれは恐ろしい威圧感を放っていた。
山ほどもあるそれがああも雄大にそして女性的に動くものなのか。
だが若い少女の胸が魅惑的に弾むと言ってもパイロットに興奮するような余裕は無かった。
相手は地球を侵略しに来たエイリアンであり、地球人の1000倍もの大きさなのだから。
機体の後方300mほどのところにまで接近してきている。
音速の数倍の速度で飛行しているというのに、巨人はそれに着いてこれる速度で歩いているのだ。
すでに燃料はセーフラインを突破しいつ枯渇してもおかしくないが、機体を気遣い燃料の消費を押さえようと速度を落とせばたちまち巨人に追いつかれ背後に迫る巨体に追突されてしまうだろう。
巨人の軽快に弾む巨大な胸に弾かれ粉々になりながら吹っ飛ぶ自分を想像し、パイロットは自身の気が狂っている事を理解した。

不意に背後から何かが迫るような気配を感じパイロットは後方を再度確認した。
戦場、戦いの場に身を置く者としての直観が、パイロットにそれを悟らせたのだろう。
背後から巨大な手が自分の乗っている機体目掛けて迫ってきていた。
恐ろしい。近づくほどに巨大になってゆくかのような錯覚を覚えた。
指の一本一本が60~70mほどもあり、手全体の大きさは百数十mはある。
それぞれの指がビルか塔のようだ。そしてその巨大な手はビルさえも握りしめることができそうだ。
住宅街をその手のひらの上に建設できそうなほどに巨大な手が、手前を行く自分の機体に迫ってきているのだ。
すでに推力は限界を大きく超えているのに、巨人の手は、まるで機体が止まっていると錯覚するほど当たり前のように接近してくる。
更に巨大な指が伸ばされ、機体の上下へとやってきた。巨大な指の作る影に入り暗くなった気がした。

直後、指が機体を上下から挟み込んだ。
巨人としては軽く捕まえたつもりだったのかもしれないが巨大な指の恐ろしい力は戦闘機の機体を捕まえた瞬間、その機体を半分ほどの厚さにまで潰していた。
尾翼は折れ、翼は粉々になっていた。
その後、巨人が捕まえた機体をその巨大な目の前に持ってきて観察したときには、すでにパイロットは死亡していた。
マッハ3もの速度から一気に停止にまで至った機体の中でパイロットは炸裂してしまっていた。
彼の体はその凄まじい速度の変化に耐えられるほど頑丈ではなかったのだ。
仮にその時点で生きていたとしてもすでにコックピットは巨大な指によって潰されており、直後彼がコックピットごと押し潰され死亡するという結果は変わらなかっただろう。


  *


  ずどおおおおおおおおおおおおおおおん!!

    ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!

巨人が戦闘機を追いかけまわし始めると足元の街の破壊は加速度的に進んでいった。
戦闘機が巨人から逃げるために右に左にと旋回し、巨人もそれを追いかけるために右に左にとぐるぐる動き回ったためだ。
これまで巨人の蹂躙を免れ多くの人々が避難していた地帯に、あの巨大な足が振り下ろされ始めたのだ。
ビル群のある大きな都市から外れた街へと踏み入っていた。
無数の住宅や小さなスーパー、学校などがある住宅地だった。
しかし巨人は、そんなことお構いなしに足を住宅地の上に踏み下ろした。
たった一歩で何十もの家が足の下敷きになり、足が持ち上がった後にはそこにくっきりとサンダルの跡が残され、家の瓦礫などは完全に踏み砕かれ足跡の底の土に紛れてわからなくなっていた。
巨人の履くサンダルは底の厚さが10mほどもあり、高さ8mほどしかない普通の家は巨人のサンダルの底に厚さにも届かないのだ。
更にその巨大なサンダルの上に覗く巨大な足の指はそれぞれが高さ12mもあり、こちらにはもっと届かない。
足の指の一本一本が横たわった小さなビルのような巨大さである。
この巨人を前にすると、地球人はまさに足元にも及ばないのだ。
そんな地球人が次々と家から現れ逃げ惑う住宅地の上を巨人は普通に歩いていた。
足が下されるたびに逃げる何十と言う人々と家が凄まじい重量の下で原型も残らないほどに押し潰される。
車などはアルミ箔のように薄くなりサンダルの裏にぴったりと張り付いていた。
学校の校庭など広い場所もあったがそれでも巨人の足は収まらなかった。巨人の足は学校の敷地を丸ごと踏み潰しただの足跡へと変えて通過していった。
巨大な足が地面に接地した瞬間発生した衝撃波と地震は足の周囲の家と人々を吹っ飛ばすのに十分すぎる破壊力を持っていた。
足が下されるたびにそこは小さなクレーターのような跡が僅かに残るのだ。
更に足が持ち上がり次の一歩の為に街の上空を移動した際の破壊は、都市のそれよりも甚大だった。
普通の家は都市のそれほど丈夫ではなく、持ち上げられた足がそんな住宅地の上を移動し次の一歩を踏み下ろす時、足が上空を超高速で通過すると直下にある家が一瞬でズタズタにされながら宙に巻き上げられそして地表にぱらぱらと振り注いだ。
一本の線が残るようだった。
それら家や人々はバラバラになりながらも上空100mほどの高さにまで引き上げられ、超音速で移動する足の後を少し追いかけ、その後落下して更に粉々になる。
巨人の歩行により凄まじい振動は周囲の家々を一瞬で粉々にし倒壊させ、同時に人々が逃げようと走るのを妨害した。
地面が上下に数mから十数mも揺れれば人間など立ってはいられない。その揺れだけで死んでしまう者も無数にいた。
近くまで来ると最早巨人の全容を視界に収めるのは困難だった。
巨人の顔は空を仰ぐようにしてようやく確認できる高さな上、それが時速4000km超という超高速で移動しているのだからその顔を判別する暇すらない。
人々にとっては、地面に降ろされるこ肌色の塔のような超巨大な脚だけで十分に脅威なのである。
その脚はサンダルの高さ数十mを抜きにしても高さ800mほどもあり、日本にこれに届く建築物は存在しない。
この超巨人はこの国のすべての建築物を跨いで通過する事が出来るのだ。
高さ100mの超高層ビルでもサンダルを履いたこの巨大な足のくるぶしにも届かない。例え屋上に上って巨人を見上げても、それでも足元に過ぎないのだ。
人々が逃げ惑い発する悲鳴も、巨人の凄まじい足跡の前には簡単にかき消されてしまう。そんな人々の上にあのサンダルが掲げられたのは偶然のこと。足が下されるまでのほんの刹那の間の事だった。
人々はサンダルの裏を見る機会が与えられた。サンダルの裏は自分たちの靴の裏のように軽く汚れていたが、それ以外に目立つものは無かった。一部車がペチャンコに潰れていたりしたがそれが車だと人々にはわからなかった。
無数の家も、人も、巨人にとってはサンダルを少し汚す程度の存在でしかない。
巨人にとって地球人の文明はただの地面に等しいのだ。
そんな彼らも当たり前のように踏み潰し、足は次なる一歩の為に持ち上がっていった。
やはりサンダルは土でちょっと汚れている程度で、そこにたった今踏み潰した人々の痕跡を見つけることは出来なかった。


  *


1、2、3、4、5。
全部で5匹。
手のひらの上に乗せたヒコーキを数える私。
もっといっぱい捕まえたかったけど、みんな私の手の届かない高いところに逃げちゃったし、しょうがないか。

あれから4匹のヒコーキを捕まえたけど残りはみんな高いところに逃げてしまった。
まぁ捕まりたくないならそうするよね。ふふ、小人さんの勝ち。
さて、手のひらに乗せたヒコーキたちだけど、さっきから話しかけてるのに全然小人が降りてこない。乗ってるはずなんだけどなー。

「小人さん小人さん、こんなちっちゃい乗り物から出てきて私と遊ばない?」

やはり反応は無い。
もしかして小人は乗っていなかったのだろうか。小人と遊びたくて折角捕まえたのに。

と、手の上のヒコーキをつんつんつついていたら足にポツポツと何かが当たる感触がした。

「?」

何かと思って見てみると足の表面で小さな小さな光がいくつも爆ぜ、そこに煙を巻き上げていた。
なんだろうと思って見てみると足から少し離れた地面の上にたくさんのてんとう虫がいてそれが私の足に向かって光るものを撃っていた。

「なにこれ?」

私はそちらを向いてそれに一歩近づいてみた。
するとそのてんとう虫たちがみんな後ろに下がり始める。
なんだろう? これも小人さんの乗り物なのかな?
私は更に一歩進んでそのてんとう虫たちが足元に来るようにするとしゃがみこんでそれを一匹手に取ってみた。
この時 私はそのてんとう虫に意識がいっていて、すでに興味を失いかけていた左手のヒコーキたちは無意識のうちに放り出していた。
そんなヒコーキたちが地面にばらばらと落ちて砕け散っているなんて全く気付かなかった。
そして摘まんだてんとう虫をよく観察してみる。大きさは1cmくらい。てんとう虫っていうより小さなカナブンかな。
私の指先ほどの大きさも無くそこにちんまりと摘まむことができた。これがさっきの小さな光を出してたんだよね。きっと私を攻撃していたはずだ。手に摘まんだもの以外は今もしゃがみこんだ私を攻撃してきているけど、痛くは無いからとりあえず放っといてこの一匹を観察する。
目の前まで持ってきたそれをじーっと穴が開くほどに見つめてみる。
よーくよーく見ると細かい模様のようなものがたくさん見える。これはきっと細かい細かーい構造上の突起か何かなのだろう。こんなに小さくても小人には立派な乗り物に違いない。

「へぇーよくできてるなー」

私は感心してそれを見つめていた。
だが、とても小さく摘まむのに手ごろな大きさだったので無意識のうちに指先の間でコロコロ転がし、気づいたときにはそれを指の間で丸めてしまっていた。

「あ!」

私は「しまった」と思ったがもう遅い。それは直径5mmほどの球になっていた。
中に乗っていたはずの小人は大丈夫だろうか。

「う…ごめんね」

私は丸めてしまった小人の乗り物を地面に降ろした。だがいくら待っても球になってしまったそれに変化はない。完全に丸めてしまったのだ。
中に小人が乗っていたとしたらかわいそうなことをしてしまった。

だがその大きなてんとう虫はまだたくさんいるのでそこまで気に病む必要は無いだろう。
私は残りのてんとう虫たちに目を移した。
てんとう虫たちはまだその先っぽの細い部分からポツポツと光を放って私を攻撃してきている。
しかも、私はしゃがみこんでいるのでてんとう虫たちの攻撃は丸見えになっている私の股間に命中していた。
私もうっかりしていた。
しゃがみこめば当然脚によってスカートがめくられるため、地面にいるてんとう虫たちからは私のスカートの中が丸見えだったのだ。
小さな爆発が、私の太腿の内側や白いパンティの表面でポツポツと小さく爆ぜるのが見える。
でもあまり恥ずかしくない。相手が小人だからかな。
彼らの攻撃は私の大事なところに当たっているけれど全然痛くない。パンティの表面でも爆発してるけど、それはぶつかったと感じる事も出来なかった。彼らの攻撃の私のパンティを浸透するほどの威力もないようだ。
ただやっぱり肌に直接当たるとその感触がわかる。パンティの横の太腿の付け根の内側、ここに当たるとさすがにむず痒かった。私は股間に手を伸ばし、攻撃の当たっている太腿の付け根をポリポリと掻いた。
そう言えばみんなここ狙ってくるなぁ。もしかしてエッチな小人なのかも。そう考えると小人さんもちゃんと男の子がいるんだなー。私は、私のパンティを見てドキドキしてる小人さん達を想像してくすっと笑った。

「あは、エッチ。ここは女の子の大事なところなんだぞー」

私は僅かに脚を開いてしゃがんでいるので足元の小人さん達からは私のスカートの中は丸見えだし、その小人さん達のてんとう虫も私が僅かに開いた脚の間の向こうに見えている。
丁度目の前にある私の足のつま先と見比べてみると、てんとう虫は小指の爪の広さにすら納まってしまうような小ささだ。こんな小さな乗り物に乗っている小人さんはもっと小さいのだろう。
でもそんな小さな小人さんもしっかりと男の子で、私のパンティを見て興奮したりしていると思うとなんだかくすぐったいような感じがした。
ふふ、ちょっとだけサービスしちゃおうかな。

私は足元のてんとう虫のひとつをそっと摘まみ上げた。
今度は先ほどのように丸めたりしてしまわないように慎重に。
そして摘まみ上げたてんとう虫をパンティにそっと押し付ける。
指先に摘まんだてんとう虫の黒いボディが私の白いパンティを僅かにへこませるのがわかった。

「ほら、こんなに近くで女の子のパンティ見たことあるかな? 男の子の使ってる下着とは結構違うでしょ」

言いながら私は押し付けたてんとう虫をゆっくり動かした。
今このてんとう虫に乗っている小人の男の子はとっても驚いているのかも。
くすくす。女の子のパンティがこんなに近づいて驚いちゃう?
普通の男の人には恥ずかしくてさせられないよ。小人さんだからしてあげるんだよ。

私はくすくす笑いながら手を動かした。
するとその手に他のてんとう虫からの攻撃が集中してきた。
もちろん痛くなど無いのだが、くすぐったくててんとう虫を摘まむ手の力加減を誤ってしまいそうだ。
やっぱり女の子のパンティにくっつけられるなんてイヤかな。
それはそうかも。男の子のプライドだってあるもんね。

あ。それにもしかしたらこの小人さん、彼女とかいるのかも。
だとしたら悪いことしちゃった。
ごめんね小人さん。でも大丈夫、これはお遊びだから、気にしなくていいんだよ。
私は心の中で小人さんに謝った。

が、謝罪の意を抱く心の裏側に、妙な感情がむくむくと大きくなってきているのを感じた。
実際に小人さんが乗っている、小人さんにとってはとっても強力な乗り物を、私は軽々と摘まみ上げあまつさえパンティにこすり付け弄んでいる。
もしかしたら小人さんはすごく嫌がっているかもしれないのに。
必死に抵抗しているかもしれないのに。
私はそれを全く感じず彼らの乗る乗り物を彼らごとこすり付けている。

「な…なんだろう…変な感じ…」

だが悪くない。
ちょっとくすぐったいような、妙な心地よさだ。
小さすぎる小人さんの抵抗を完全に抑え込んで悠々とパンティにこすり付ける自分の圧倒的な力強さに陶酔してしまう。
優越感…なのかな。

なんか…気持ちいいや。

気付けば私は頬を僅かに染め、興奮し息を少し荒げ、指に摘まんだ小人さんの乗り物をこれまでよりも強くパンティにこすり付けていた。
パンティの中に隠れる大事な部分をなぞるようにくるりと円を描く。
しかしその小さな小さなてんとう虫は円を一周する前にパンティと指との間でくしゃりと磨り潰れてしまった。
だけどやや興奮しぼんやりとした意識の中にあった私はてんとう虫が潰れても先の丸めたてんとう虫のときのような謝意を抱くことは無く、てんとう虫が潰れた瞬間、すぐに次のてんとう虫に手を伸ばしていた。
別のてんとう虫を摘まみ上げた私は再びパンティにこすり付け始めた。
こりこりと。パンティの向こうにあるそれにこすり付けるように。
他のてんとう虫がこれまでよりも激しく攻撃してきてるけど、そんなの眼中になかった。
ただ小人の乗り物をこすり付けるほどに膨れ上がるこの快感にとにかく身を委ねたかった。

そのてんとう虫が潰れたら次のてんとう虫を手に取り。
そのてんとう虫も潰れたら更に次のてんとう虫を手に取り。
潰れたら取り潰れたら取りを繰り返し、とっかえひっかえパンティにこすり付けていた。

そしてもう何度目とも知れぬてんとう虫が潰れ、次のてんとう虫を捕まえるべく手を伸ばしたとき、手の届く範囲にてんとう虫が残っていないことを受け、ようやく我に返る私。

「は…私…」

我に返って慌ててしゃがみこんでいる足元を見下ろしてみるも時すでに遅く、あんなにたくさんいたてんとう虫はほとんどがぐしゃぐしゃに潰れた状態で私の股間の下に山と積み上げられ、残った数匹は私の手の届かないところまで一目散に逃げて行ってしまっていた。
スカートの中も覗いてみると、白地のパンティの表面には、小人さんたちのてんとう虫の黒い残骸がちらほらとくっついていた。

「うぅ、酷いことしちゃったかな」

私はパンティに付いた残骸を払い落とす。
パンティからパラパラと落ちてゆくのは小人さんの乗り物だ。
乗り物と言うことは当然小人が中にいるはずだったが、残骸となってしまったそれからは小人の姿など見つけられなかった。
私はしょんぼりとして立ち尽くしていた。

すると上空に宇宙船が現れる。

その宇宙船は私の宇宙船の横に降りてくるとタラップを下し、中から一人の少女が降りてきた。

「なーに突っ立ってんのよ」
「イーナ…」

降りてきた私の友人だった。
赤毛のショートヘアーで、さばさばしてて明るい子。

「うん、ちょっと小人さんに酷い事しちゃったかも」
「はぁ? 小人?」

怪訝そうな顔をしたイーナは自分の足元を見下ろした。
素足にはいた赤いスニーカーの周囲の建物はイーナが歩いてきたときの衝撃で倒壊していたが、そんな建物の周囲にゴマ粒程度の大きさのものが動き回っているのが見える。

イーナは片足を上げると、まだ無事だったビルの上にズシンと踏み下ろした。
そこに建っていたビルは、一瞬で消えてなくなってしまった。
まだ小人がたくさんいたであろうビルだ。

「こんなのちょっとどうしたからってなんなのよ。それより課題の分は集め終ったの? 終わったらピクニックしていくんでしょ」
「そ、そうだったね。すぐ終わらせるから」

私は気を取り直して歩き始めた。
足の下で小人さんの小さなビルが潰れる感触がするが、気を取り直してみるとそんなに気にならなかった。
くしゃくしゃという感触がくすぐったい。
ちょっと気持ちいいかも。

そうしてあちこち歩き回った私は丁度目の前に小人の建物など何もない小さなスペースを見つけた。
と言っても私が足を下せるほどのスペースもないけど。
でもそこにはたくさんの小人が集まっているのが見えた。
丁度いい。
私はそのスペースに近寄っていった。


  *


近くの学校のグラウンドに避難していた人々だったが、巨人が自分たちのいるグラウンドに向かって歩いてくるのを見て悲鳴を上げたまた散り散りに逃げ始めた。
いったいどうなっているのか。
あの暴力的で破壊的な巨人によって町が壊滅してゆくのをただただ見せつけられていた人々は、その巨人と同じほどに巨大な巨人がもう一人現れた事で大混乱に陥っていた。
先の巨人一人のときですら軍隊は役に立たず瞬く間に全滅させられてしまったのに、二人も現れたらこの星はいったいどうなってしまうのか。

だが人々がグラウンドから出る前に、その巨人は笑顔のまま凄い速度で迫ってきた。
サンダルを履いた巨大な足がそこにあった家々や車、ビルや人々をさらりと踏み潰し、更にはその凄まじい振動で逃げようとしていた人々は全員地面に投げ出され歩くことができなくなっていた。

  ズシィィイイイイイイイイイイイイイイン!!

    ズシィィイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

そしてその超巨大な足がグラウンドを挟むようにして下され、そしてその巨大な足が支える体がしゃがみこんできた。
山が下りてくるような錯覚さえ覚えた。
人々の転がるグラウンドは完全に巨人の作る巨大な影に入ってしまっていた。
最早、太陽を拝む事は出来なかった。
かわりに、巨大な笑顔が彼らを見下ろしてきていた。
しゃがみこんだことでスカートは翻り、グラウンドの人々からは少女の真白いパンティが凄まじい巨大さで間近に見る事が出来ていた。
その前部分は僅かに黒いゴミが着いていたが、それが戦車のなれの果てと気づく余裕のある者はいなかった。

巨人がスカートのポケットから何かを取り出した。
巨人にとっては小指ほどの大きさも無い円筒形の物体。
だが人々にとっては高層ビルほどの巨大な物体だ。だが巨人の手にある限り、それは鉛筆のキャップか何かにしか見えない。
巨人はその円筒形の物体を人々の這いつくばるグラウンドに近づけてきた。
そして巨大な指でスイッチのようなものを押した。

ピカッ!

一瞬、閃光の様なものが彼らを照らしたかと思うと、次の瞬間、彼らの姿が消えていた。
そこには何千人という人が避難してきていたはずだが、あの円筒形の物体から出た光に照らされた瞬間、一人残らず消えてしまったのだ。

その様子に満足したかのように微笑んだ巨人は立ち上がり再び歩き始めた。


  *


私は手にカプセルを持って小人さんの集まっているところを探しながら町の中を歩いていた。
このカプセルはサンプルの採取などに使われるもので見た目よりも大量にものを入れることができる。
吸い込んだものはその状態を維持したままで保存されるので小人もきっと入れても大丈夫なはずだ。
基本的に小人はちょっと広い何もないところか大きな建物の中に隠れる性質のようだ。
だから私はさっきのところのようなちょっと広いところ探したり大きめの建物を探すようにしていた。
と言っても小人さんにとっての広いとか大きいは私にとっては小さいので、いったいどのくらいから小人にとっての大きいに当たるのかはわからない。
だから結局のところは適当になってしまう。
足元にもまだ建物らしきものや小人はたくさんいるみたいだけど、どうせ捕まえるなら一度にたくさんのほうが気持ちがいい。
私はあまり足元には注意しなくなっていた。

暫くして、私は手に持ったカプセルを満足そうに見つめていた。
最初の小人達のようにちょっと広いところからは10回、建物の中からは4回採取できた。
特にあの20cmくらいの大きさのすり鉢状の建物からは数万匹も採取する事が出来た。
今このカプセルには10万匹以上の小人が入っているはずだ。
これだけいれば足りるだろう。
私はイーナのところに戻った。


「終わった?」

戻るとイーナはつまらなそうに足元の小人の建築物を蹴り飛ばしていた。

「ったく足も踏み場がないわね。別に気にしないけど。宇宙船のレーザー砲で全部吹き飛ばしてやりたくなるわ」
「もうだめだよイーナ。小人さん達だって生きてるんだから」
「こんなゴマ粒、生きてたってなんの価値も無いわよ。それで、ちゃんと捕まえられたの?」

赤いスニーカーを履いた足で足元の建物や逃げ惑う人々を踏み潰しながらイーナが近寄ってくる。

「うん。多分10万匹くらいは捕まえたと思うよ」

私は手に持ったカプセルを差し出して見せた。
だがイーナは怪訝そうな顔をした。

「は? 10万匹? それっぽっちで足りるの?」
「え? た、足りないかな?」
「実験に使うんだから一度に数千匹とか使うだろうし、下手したら3日持たないんじゃない?」
「う、そ、そうかな…。イーナは何匹くらい捕まえたの?」
「わかんない。私は宇宙船をオートで動かして採取させてたから。あんたもこんなちっぽけな島じゃなくてもっと大きな大陸に行けばよかったのよ。具体的な数はわからないけど、その大陸の小人は吸い尽くしたから結構な数はいると思うよ」

言いながらイーナは自分の宇宙船を親指でくいっと指さした。
たしかに宇宙船の力を使えばこんな小さなカプセルでいちいち小人を探して歩き回る必要も無い。

「やっぱり私もそれくらい集めた方がいいかな…?」
「まぁ少しくらいならわけてあげてもいいけど、せめてこの小さな島の小人くらいは吸い尽くしておきなさいよ」
「そ、そうだね」

イーナに言われて私は宇宙船を遠隔操縦した。
そして宇宙船はオートモードで動きだし、宇宙船からは周囲の字面に向かって光が照射された。
あのカプセルと同じ光だ。
その光に照らされたところからは小人が消滅していた。
みんな宇宙船の中のタンクの中に貯蔵されているはずだ。カプセルと同じ仕様なので長時間保存しても大丈夫だろう。
建物の陰に隠れても意味は無い。
光は建造物を透過して照射され、下水に隠れている小人すら逃しはしなかった。
そして宇宙船は周囲の字面を照らしながら移動し始めた。
あとは宇宙船が勝手にやってくれるだろう。

そしてイーナはんーと伸びをした。
手を上に伸ばしたとき、小さな雲を消し飛ばしていたがイーナは気づいていないようだ。

「さて、これであとはあんたの宇宙船が小人を集め終るのを待つだけね。それまでどっかでピクニックでもしながら時間を潰しましょ」

イーナは自分の宇宙船のタラップを上り始めた。

「うん。どこでお昼にしようか」

私もそれに続いてゆく。

「まだ小人のいる他の大陸にいきましょ。その方が面白そうだし」

そして二人を乗せた宇宙船は海の向こうにある大陸目指して消え去った。
あとには人っ子一人いない全くの無人の、瓦礫となった町だけが残された。
町には、いくつもの巨大な足跡が残されていた。