※十六夜的には「ぼの系」なんだよ? みんな無事なんだよ?


 『 巨大惑星接近 』


それは突然の事である。
世界に降り注いでいた眩しいほどの陽光が、まるで電気のスイッチを切ったようにパタリと消えてしまったのだ。
一瞬にして夜になった。
星も、月も、夜の明るささえ見えぬ完全な闇が訪れていた。
一体何が起きているのか…。世界中の人々が黒く塗りつぶされた空を見上げ首をかしげる。

その時である。

 ふわり ふわり

人々の体が浮かび始めた。まるで引っ張られるように、吸い込まれるように、あの黒い夜の空に向かって飛び上がってゆく。
異変に気付いた人々は手足をパタパタ動かして何とか地に戻ろうとしたが、それらは空を切るばかりで体を呼び戻せるものにはならなかった。
ある者は車につかまった。すると車まで浮かび始めた。
ある者は家に逃げ込んだ。すると家まで持ち上がった。
世界中で次々と物が浮かび上がって空に吸い込まれていった。
やがてそれは海の水さえ引き上げ始め、森の木々が根こそぎ引き抜かれ、そしてそしてなんと、小さな島までが宙に持ち上がり始めてしまった。
恐ろしい超常現象だ。
70億もの人間が空に吸い込まれていってしまったのだ。


   *
   *
   *



時は少し遡り…。

「あ、あったあった。これじゃないの?」
「どれどれ?」

暗黒の宇宙空間に漂う二人の少女。
一糸纏わぬ姿であるが、羞恥心が見られないのはそれが常だからであろうか。
降り注ぐ宇宙線をものともせず、二人は目の前に浮かぶ小さな小さな青い星を見つめる。

「ホントだ! ようやく見つけたよ、『地球』!」
「こんな辺境まで見に来た甲斐があったね。でもまさかこんなに小さいとは思わなかった」

少女たちはそこに浮かぶ地球を挟み込むようにして立ち浮かんでいる。
二人の少女の身長は160万㎞。地球人の10億倍の値である。
相対して地球は少女たちにとっておよそ1cmの大きさの球だった。
惑星よりも巨大な少女たちに挟まれたことで地球は陽光を完全に遮られ一切の光を遮断されてしまった。

 ずい

片方の少女が地球に向かって胸を突き出してきた。

「見てみて、あたしのおっぱいの方が大きいよ!」
「もう、そんな星いくらでもあるでしょ」

友人のいつもの戯れをいつものように返す少女。
実際、少女の乳房は地球などよりはるかに大きい。
少女の丸っこく大きな乳房は、同じ太陽系にある木星という星より大きかった。

そしてここからが、少女たちですら気づかなかったこと。
少女は胸を突き出したとき、乳首が地球を指すような位置で胸を反らした。
対面から見ていたもうひとりの少女からは、地球が、友人の乳首の乳頭よりもちょっと大きい大きさであることがわかった。
惑星サイズの乳房は無重力空間でゆっさゆっさと弾んだあと、地球にギリギリまで近づけられた。その距離、彼女たちの感覚で1cm。
この時に、地球で異変が起きた。少女の超巨大な乳房はその凄まじい質量で重力が発生していたのだ。それは地球の重力よりも強く、そんな重力を放つ巨大な乳房が近づけられたことで、地球上のさまざまなものが乳房の重力に引きあげられ、乳房の上に吸い寄せられてしまった。
大気と共に吸い上げられた全70億の地球人はみなそこに着地していた。少女の、片方の乳房の上にだ。乳首の周辺にまばらに展開していた。
地球人にとっては少女の乳頭だけでも地球に近い大きさであり、乳首の総面積では地球よりも広大な範囲がある。70億の人間が移住するには十分すぎる広さだった。気づけば人々は、肌色とピンク色の無限の地平線の上に立っていた。

「じゃあ帰りましょ。みんな待ってるわよ」
「えぇ~、もうちょっと見てたかったな~」
「場所はわかったんだからまた来れるわよ」

しぶる友人を宥める少女。
二人は宇宙の彼方へと飛び去っていった。
その内のひとりは、まさか自分の胸の片方に70億もの知的生命体を乗せている事には気づいていなかった。