※嬲り。



 『 魔王のおもちゃ 』



部屋には明かりが灯されている。
だがそこに暗い印象を覚えるのは部屋が黒と暗い赤を基調とした色で彩られているからだろう。

その部屋の中に置かれた椅子には一人の少女が座っている。
緑色の長い髪。猫のように切れた金色の目。蛇のように縦に割れた瞳。
その豊満な肉体をビキニのような小さな面積の布で覆い、脚を組み、頬杖を着くその様は妖艶なまでの美しさを醸し出していた。
だが少女が人間では無いことは、その背に畳まれた漆黒の翼が物語っている。
少女は魔王。世界を混沌に陥らせんとする暗黒の権化である。

「くすくす…」

そんな少女は楽しげに笑っていた。
何が楽しいのか、頬杖を着いた頭を軽く揺らしている。

「ぎゃああああああ!」
「いやああああああ!」

悲鳴が聞こえた。
周囲には少女のほかに誰もいないのに。

声は、少女の耳の少し大きめなイアリングから発せられていた。
しかし、実際にはそれはイヤリングではないのだ。
少女のピアスから吊るされた糸の先に、人間が逆さ釣りになっているのだ。

「ふふ…いい鳴き声…。ゾクゾクしちゃうわ…」

少女は笑いながら頬杖を着いていない左手の指を使って、左耳からぶら下がる人間を軽くはじいて揺らした。
するとその人間は巨大な指に弾かれた痛みと揺れの恐怖でまた叫び始めた。
それを聞くと、また少女はくすくすと笑った。

魔王である少女は人間よりも100倍も大きな体を持っていた。
そんな巨大な少女の耳に吊るされているのは本物の人間だ。少女の手に堕ち、こうしてイヤリングにされているのだ。
イヤリングだけではない。
首にかけられその豊満な乳房に向かってたれるネックレスの先にはまるでペンダントのように吊るされた人間が。
手には何人もの人間を糸で縛ってブレスレットのように。足首にも同じようなものがあった。
少女の体には、何十人もの人間がアクセサリーとして繋がれていた。
少女がちょっと体を動かすだけで彼らは泣き叫び、それが少女の心をくすぐる。
心地いい。圧倒的な優越感が胸を躍らせる。

「次は何を作ろうかしら…。リングは…難しいわね…。ふふ…、ねぇ勇者…あなたは何がいいと思う…?」

ゆるりと紡がれる言葉は優しげながら妖艶さと悍ましさを兼ね備えていた。聞く者の鳥肌を立たせる、本能的な恐怖を刺激する声だ。
そして言いながら少女が見下ろしたのは、自分の豊かな胸だ。ビキニと見紛うような小さな小さな黒い布でのみその魅惑的な肉体を覆っている。
そのほとんどを曝け出された肉体は美しく、完成された美と完全な絶望を併せ持っている。
少女は、そんな自分の左の乳房の、小さなビキニに覆われている部分を見下ろしていた。よく見れば、その小さな布は、人の形に盛り上がっているように見える。

彼はかつてこの地の魔王を打倒そうとやってきた勇者である。
だがその魔王は、勇者の、人間の敵うような相手ではなかった。
結果勇者は魔王に捕えられ、そして今はその巨大な胸に囚われの身となっていた。
小さなビキニと、巨大な乳首の間にだ。勇者は今、背後から漆黒の布に押さえつけられ、前を直径1mはあろうかという巨大な乳首に押されていた。
1mは勇者の体の半分以上もある。勇者はそれに胴体を押さえつけられるような形でそこに囚われているのだ。両手両足を投げ出して、その乳頭の先端に抱きついているような格好だ。
乳房が恐ろしく巨大である事と、ビキニはそれを支えようとしていることで、その間の圧力は途方も無いものになっている。

「あら…答えてくれないの…? 残念ね…」

ふふっと笑う少女。その顔に残念そうな色は全く見えない。

「じゃあ、あなたのお友達に訊いちゃおうかしら…」

言うと少女は頬杖を着いていた右手を右の乳房に向かって伸ばした。このとき、右腕のブレスレットにされている人々が悲鳴を上げたが、誰もそれをどうにかすることは出来なかった。
少女の手は自分の右の乳房に近づけられた。よく見れば、その右の乳房を覆うビキニも、左胸の勇者のそれと同じように人の形に盛り上がっている。
そして少女は、人差し指で、その右胸の盛り上がりをくいと乳房の中に押し込んだ。

「きゃあああああああああああ!」

甲高い悲鳴が響いた。右胸に勇者と同じように磔にされている女舞踏家の声だった。
少女の乳房の弾力は、脆い人間の肉体など簡単に押し潰してしまえるほどだ。背後の布越しに少女の指で押し込まれてしまった舞踏家は、その乳頭との間で今にも潰れんばかりの圧力にさらされていた。

「ほらほら、お友達が悲鳴を上げてるわよ」

くすくすと笑う少女の目は残酷な光を放っていた。人間を嬲る事に愉悦を感じている光だ。それが実力ある勇者一行となればなおさらである。
だが勇者も、答えられないのだ。この乳首の圧力は恐ろしいほどのもので、声を発する余裕が彼にはないのだ。
魔王の少女の乳房は片方で数千tもの重さがあり、それを支えようとするビキニとの間には相応の圧力が発生する。
むしろ、勇者や舞踏家のように、未だ耐えていられる方が凄いのだ。

「次はこっちの子に訊いてみようかしら…」

組んでいた足を解き、今度は左手を自身の股間に伸ばした。
そこも胸と同じく小さな小さなビキニのボトムで覆われ、そしてその前の部分が小さな人の形に盛り上がっていた。
少女はその人型を指で押し、内側にある女性の突起へと押し付けた。

「んん…気持ちいい…。あなたのお友達はなかなか役に立つわよ…。何か叫んでるみたいだけど…わたしのアソコに顔を押し付けちゃってるから聞こえないわね…」

ぐりぐりと動く少女の左手。押し付けられる人型がバタバタ暴れるのがビキニの外からでも見えた。
そこに囚われているのは女戦士だ。力自慢の彼女立ったからこそ今そこで耐えていられるのだ。
今、彼女や勇者たちが囚われている場所は、普通の人間ならあっという間に圧力に負けて潰れてしまう場所なのである。
少女の豊満な肉体は、それだけで恐ろしい破壊力なのだ。

「お、お待たせいたしました…」

そうやって少女が勇者たちを嬲って遊んでいると、椅子の右手にある小さなテーブルの上に二人の人間がやってきた。
白い服と黒い服を着た少女たちだ。勇者のパーティの神官と魔法使いである。
そして二人の間には、小さな家ほどもある大きさの巨大なティーカップが置かれていた。
中には池程の量の液体が満たされている。

「あら、ありがとう…」

二人ににっこりとほほ笑んだ少女はそのカップに手を伸ばし軽々と持ち上げると自分の口に運んだ。
この時、神官と魔法使いは密かにほくそ笑んだ。

「あら美味しいわ」

だが少女は満足げに笑い、それを見て神官と魔法使いは愕然とした。

「もしかして毒でも入ってるのかしら…。とっても滑らかな舌触りよ」

そのまま少女はカップに注がれていた液体をすべて飲み乾してしまった。
神官と魔法使いの二人はその場に立ち尽くしていた。
あれには今用意できる限りの毒と魔法を混ぜ込んだ。ほんの一口口に含んだだけで死んでしまうほどの猛毒だったはずだ。
なのに…。

そんな二人の前に、空になったティーカップが置かれた。

「ふふ、ご馳走様。とてもおいしかったわ」

魔王である少女がにっこりとほほ笑んできて、二人はその場にペタンと座り込んでしまった。
少女は二人を摘まみ上げると手のひらに乗せて顔の前へと持ってきた。

「頭のいい子は好きよ…。本当なら今ここでキスをしてあげたいんだけど…ふふ…そんなことをしたらあなたたちが毒で死んでしまうものね」

巨大な指が二人の頭を撫でた。

「さてと、どうしようかしら…」

少女は部屋の中を見渡した。
自分の座っている椅子の周り以外薄暗い部屋の中は、目を引くようなものは何もなかった。
退屈だからこそ、こうやって遊んでいるのだ。

「…特にいい案も浮かばないわね…仕方ないわ。みんなでお風呂に入りましょう」

少女は二人を手に乗せたまま立ち上がると風呂に向かって歩き始めた。
その巨体がズシンズシンと歩くたびに、両手足と両耳とペンダントの人間が悲鳴を上げた。
そしてゆっさゆっさと弾む乳房では勇者と舞踏家が圧力に必死に耐えていた。

すべては魔王の暇つぶし。
彼女が何か楽しい事を見つけるまで、彼らは永遠に彼女のおもちゃである。