※なーんか計算を間違っている気がする…。



  『 メガミルク 』



「え…えっと、こうして、ああして」

少女は真白い部屋の中、目の前の小さな機械を相手に四苦八苦していた。
機械から伸びるホースの先にあるカップ。
それを、自分のボインにキュッと装着する。
…カップは自分の胸にはサイズが小さく窮屈だった。遠慮しないでもうちょっと大きいのにしてもらえばよかった。

そうやってその機械、つまり搾乳機と格闘する少女は先日就任したばかりの新米『女神』である。
『女神』は別次元にある神界から宇宙にアクセスし、星々にエネルギーを供給して生命を育ませている。
エネルギーは草木を育てたり土を耕したり水を巻いたりするために使われる。
つまり、エネルギーが無ければ星は何もできないのだ。
自転することも、草木や動物などが生活することも、なにもできないのだ。
まさに星の命に直結する。
新米女神である少女は、その星にエネルギーを供給するための機械と格闘していた。
エネルギーとは、少女の母乳である。

  *

少女は先輩女神の見せてくれたデモンストレーションを思い出していた。
カップを付けた乳房から母乳が絞られそれが機械に送られるとエネルギーに変換され別次元の宇宙にある彼女の担当する星へと送られていった。
その光景は、空間に展開された3D映像で見ることができた。
まるでその先輩女神の周囲に、本当に星が浮いているようだった。先輩女神はいくつもの小さな星々に囲まれ微笑んでいる。
まさに『女神』だった。
新米女神の少女は顔を赤らめさせてその慈愛溢れる光景を見つめていた。

エネルギーが供給されるとその星々が輝き出したような気がした。
生命に満ち溢れていく。そんなイメージだった。
先輩女神の周囲を漂う立体映像の星たちはまるで喜びを表すように輝きを増してゆく。

先輩女神はそんな星たちのひとつを手に取り、そっと胸元に抱き寄せた。
触れることはできるが、あくまでこれは映像。別次元にある星に直接触れているわけではない。
でなければきっとその星は今、大変なことになってしまっているはずだ。
星は、自身を挟み込み抱きしめる、先輩女神の乳房よりも小さいのだから。
その星の生物は、彼女たち女神から見れば1億分の1の大きさである。
生物たちの暮らす星は、彼女たちの手のひらに乗る、10cm程度の大きさである。
先輩女神は、自身の胸の谷間の星の立体映像を、愛おしそうに抱きしめた。
星の映像が、大きな乳房に挟まれ、その谷間に埋まってしまう。
母が子を抱きしめるような偉大な母性に溢れていた。

  *

あの時の光景には感銘を受けた。
少女は自分も、あんな慈しみのある女神になりたいと心から思った。
だからこそ気合が入る。
やっとこさカップに乳房をハメ終えた。窮屈で中々入らなかった。
少女は自分が担当する星系の星々を機械とリンクさせた。
これで母乳がエネルギーに変換され星々へと届けられる。

「準備良し。じゃあスイッチを入れて…」

少女は機械のいくつかあるスイッチの一つをポチっと押した。
するとカップが軽く振動し始めた。

「ん…っ! あ…気持ちいい…ッ! こ、こうやってミルクを搾るんだ…」

初めて感じる快感。神経が、おっぱいの先端の乳首に集中していく。
そして、乳首からミルクが飛び出した。
それはカップに繋がるホースから機械に流れ込み、やがて別次元の星々に届けられるのだ。

自分のミルクが星のエネルギーになる。
そんな充実感と、カップの振動の起こす快感に少女は笑顔になりながら軽く体を弛緩させていた。
小さなカップに窮屈に押し込められたおっぱいからはミルクがドバドバ流れ出していた。

その快感にやられてしまった少女は失念していた。
少女が押したボタンはミルクを搾るためカップを振動させるためのもの。
まだ、絞ったミルクをエネルギーへと変換するボタンを押していないのだ。

  *

 ズドドドドドドド!!!

とある星系の星は、突如虚空より現れた、夥しい量の乳白色の液体によってあっという間に壊滅してしまった。
人々にはそれを認知する時間すら与えられなかった。気付いたときにはその温かい液体の中に呑み込まれ溺れていた。
青い星が乳白色に染まるまで1秒とかからなかった。

それが、一人の女神の乳房より絞られた母乳だと理解できた人間はいなかった。
衛星軌道上の人工衛星内で作業していた人間も、地球が白く染まったのを見てから数秒後には、水かさを増した母乳に呑み込まれていた。

本来エネルギーへと変換されるはずだった母乳が、そのまま星へと送り届けられてしまったのだ。
それは星にとって本来の恩恵ではなく、壊滅をもたらした。
女神の乳房から遠慮なく迸る母乳は、星を包み込むには十分すぎる量である。
星の海の面積は星の総面積のおよそ70%。海水の総量は約14億立方㎞にもなる。
が、それは女神にとって1.4cc程度の量でしかない。女神のおへその穴の底にちょっと溜まる程度の量だ。
では逆に、女神の乳房からリットル単位で絞られている母乳は、その星の人にとってはどれくらいの量になるのか。
乳首の先端からぴちょんと滴る一滴のミルクですら海水の総量に匹敵するのだ。なら、それがリットル単位なら…。

星は女神の母乳によって一瞬で包み込まれ呑み込まれた。
すべての陸地は深海1000km近い海中に沈み込み、すべての人々がおぼれた。
星が乳白色に染まった。
更に供給され続けるミルクによって星は更に包み込まれ、まるで星自身が大きくなってゆくような錯覚さえ覚える。
かつて直径1万3千kmほどであった星は、今や2万kmを超えるほどにまで巨大化していた。
すべての地点で海底は深さ3000kmの位置にまで没している。
星の周囲を漂っていた無数の衛星もそのすべてが母乳に呑み込まれた。
更に供給され続ける母乳は、やがて星の重力圏を完全に突破し、球体になり宇宙の中をふよふよと漂い始めた。そのひとつひとつが小惑星サイズの母乳の塊である。それらはやがて別の星に漂着し、巨大隕石衝突をも超える破壊力で星を破壊しつくすだろう。衝撃ではなく、星を一瞬で母乳中に包み込むのだ。

そして、そうなっているのはその星だけではない。
星系中の至る所に母乳の供給は行われ同じように星を乳白色に染めている。
無数の星が乳白色に染まってゆく。
更に、重力圏を突破し破綻したミルクたちが周囲に飛び散り流れていく。
星系がミルクに呑み込まれ始めた。
たったひとりの女神の母乳にだ。

その女神は、未だカップの振動に快感を感じ、小さく喘ぎながら母乳を供給し続けていた。
自身の絞り出したミルクが、星系を飲み込み押し流そうとしていることなどつゆ知らず。
少女がそれに気づくのが先か、若く大きな乳房から迸り続ける母乳が宇宙を飲み込むのが先か。
ミルキーウェイと最初に言ったのは誰だったのか。


※やっぱり計算を間違っている気がする…。でももういいや…。