※破壊系。



 「 未熟な魔法少女2 」



「いってきまーす!」

朝、学校へ行くため制服姿の少女が玄関へとやってきて足を靴に滑り込ませる。

  くしゃ

すると足の裏に違和感を感じ、脱いで足の裏を見ていると、洗ったばかりの白い靴下のその足の裏は一面が砂で灰色に汚れていた。

「えぇぇぇ~!? またなの~!?」

少女はげんなりした。
最近よくあるのだ。
家でも学校でも、靴を履こうとすると砂が入っている事が。
もちろん自分で入れたわけではない。学校であったときは誰かのイタズラかとも思ったが、自分の家でそんなイタズラするような人はいない。

少女は玄関から出ると庭先で靴をひっくり返し中の砂を取り除き、足の裏の砂を落として靴を履き直した。

「もう、いったいなんなのよ~…」

少女はとぼとぼと学校に向かって歩き出した。



そしてこれらも少女の無意識の魔法のせい。
少女の足から汗と共ににじみ出た魔力がそれらの溜まる靴の中などで魔法となって発動し、どこかの国の街を10万分の1の大きさにして転移させてしまっているのだ。
10万分の1ともなれば200mの超高層ビルディングですら2mmというゴマ粒サイズになってしまう。
普通の家など0.1mm。車は全長0.05mm。人間の身長は0.017mmだ。
それら街並みが、この少女の24cmの足の入る靴底にびっしりと広がっていた。
彼らにとってここは長さ24km幅9kmのもの空間だ。
街の一区画、下手したら丸ごと入ってしまうような広大さがある。

彼らは何が起きたのかわからない。
突然、空の景色が変わったと思ったらもうそこに来ていたのだ。
世界の四方を囲う壁。空を覆う物体とそこにわずかに空いた穴から見える異彩の空。
薄暗くじめじめした場所に来ていた。
あの美しい空の青はどこにも見えない。すべてが暗い色だった。

同時にこの地面、特に暗くなる方に行くほどに強くなる、この異様な臭い。
思わず鼻をつまみたくなる臭いが、この囲いの中に充満していた。
妙にツンとする、酸味の強い臭いだ。
なんだこれは!? 何が起きているのだ!?
一部の人間はこの街を囲うあの恐ろしく高い壁を上ろうとし始めた。
靴のかかとの部分をだ。
しかしそれは彼らにとって高さ4000mにもなろうかという絶壁だ。下手をすれば、雲にも届く。
こんな高さを、文明の利器無くして登れるものか。

しかしそんなこんなしている間に着替えを終えた少女がやってきて靴に足を入れてしまった。
全長24km幅9kmの白いソックスに包まれた足。
当然、足に合う靴を使っているのだから、この靴の中に逃げ場はない。
少女はそこにあった一つの街と、そこにいた十数万の人々の存在に全く気付かず、すべてを踏み潰した。
無数のコンクリート製のビルが潰れる微かなくしゃという感触に足を引き抜いたときには、もう街は完全に踏み尽くされ、その靴底と、少女のソックスの足の裏を汚すだけの存在となっていた。
僅かなビルとその中にいた人々だけが、奇跡的にソックスの生地の穴にハマって助かるという離れ業をやってのけたが、そんなもの少女が足の指をくいと動かすだけで捻り潰されてしまう。
結局、この靴の中に飛ばされた人々は誰一人助からなかった。



学校に着いた少女が上履きを覗き込んでみるとそこにはやはり砂がたまっていた。

「まただ~…」

自分の両足分の上履きの中にはやはりそれがあった。
あまりにも細かすぎて、それが街だと気づけないのだ。

少女は下駄箱から上履きを取り出すと外でひっくり返し中の砂を捨てた。
当然、片足だけで数万の人々も高さ数十kmの高さから放り出され地面に落ちて行った。

今度こそ少女は上履きを履いて廊下の奥へ進んで行った。
上履きから出てきた砂が小さな砂山を作っていて、それらは無数のビルの瓦礫の山などとは当然気づかなかった。



お風呂から上がり着替え終えた少女。
下着とパジャマを着こみ、今は素足である。

そして脱衣所から出ていくためにスリッパに足を入れたとき、

  くしゃ

足の裏にあの靴の中の砂を踏んだ時と同じ感触を感じた。

「ええ~! ここもなの~!?」

スリッパから足を抜いてその裏を見てみると、土踏まず以外の一面にあの砂がくっついていた。
風呂上り、湿った肌には砂がよくくっつく。
一瞬でも体重がかけられれば、街などそれこそ砂粒ほどにまで磨り潰されるだろう。
少女の足の裏にくっつくそれらは、すでにビルなどの形を保っていなかった。
少女には小さすぎてゴミと変わらなかったが、車などはペチャンコに潰れ足の裏に張り付いていた。
足の指の間にはビルがいくつも原形を残したまま挟み込まれたが、それらは少女が無意識に脚の指を動かしたときにみなぐしゃぐしゃに捻り潰された。所詮3mmも無いようなビルである。

「もー! また洗わなくちゃ…」

スリッパの中の砂をゴミ箱に捨て、少女は今度は足だけを洗うために再び風呂場に入っていった。