※まぁ【ぼの】。兄が酷い目に遭うけど。



  『 2倍妹と行く2 』



夜。
兄は妹と共にリビングでホラー映画を見る事となった。
有名な奴だ。何度と無くテレビで放映された。
ネタも知り尽くされ、飽きるほど繰り返されたホラーシーンは、最早子供だましにさえ見えてしまう。
しかし面白いからこそ繰り返されるわけで、当時『最恐』と言われたそれは、今は夏の定番として放映されている。
ホラーを見るならまずはこれ。これを見なければ夏は始まらない。
定番にまでなったそれは定番ならではの安定感を持って、今日も視聴者に一抹の涼を届けている。

そんなホラー映画を、兄は何という風も無く見ていた。
何度も見たホラーシーン。使い尽くされたネタ。
しかしそれでも飽きが来ないのが良作というもの。
最早何度見たかも分からないその映画を、兄は久しぶりの友人に会うかのような気持ちで見ていた。


しかしそれは、ホラー映画を見慣れている兄だからこその反応。
そんな兄は今、ソファに座り、兄を自分の上に座らせ、ガタガタと震える妹のその逞しい両腕によってギュウギュウと抱きしめられていた。
兄の太ももほどの太さもある両腕が、兄の小さな体をガッチリと抱きしめ、そのまま抱き潰さんばかりにどんどん絞まる。
妹の腕の中で、メリメリと音を立てる兄の体。

妹はホラーが大の苦手だった。
テレビや映画はおろかゲームや漫画もダメだ。
お化け屋敷なんか死んでも入らないだろう。幼少期、一度だけ入ったお化け屋敷で大泣きしたのだ。
当時の兄は妹の腕の中で失神していた。

そんな妹は兄を枕かぬいぐるみのように抱きしめ泣きそうになりながら映画を見ていた。
ホラーは大の苦手だが、見始めたものは最後まで見る主義でもあった。気になるからだ。
だから妹はホラーシーンが来るたびに悲鳴を上げ、足をジタバタさせ床をズンズン踏み鳴らし、兄を抱く腕に力を込める。
兄はホラー以外の要素で悲鳴を上げそうだった。

今の妹はまるで遊園地のアトラクションか何かのようなのだ。
両腕で兄をジェットコースターのホールドのようにがっちりと押さえつけ、そのままホラーシーンが来るたびに体をビクビクと動かし脚を暴れさせ抱いている兄をがっくんがっくんと翻弄する。
そして自身の腕の中の兄をむぎゅう…と音が出るほど締め上げる。
兄の背中には爆弾のようなおっぱいが凄まじい力で押し付けられ、前面からは腕が締め付けてくる。
妹と比較して小さい兄の体は妹の腕の中で今にも潰されてしまいそうだ。
兄にとっては、妹は別の意味での絶叫マシーンになる。

テレビが終わるのが先か、兄が気を失うのが先か、チキンレースだった。


  *


ようやくテレビが終わっても、兄はまだ、震える妹の腕の中から開放されてはいなかった。
テレビの内容など、後半に関してはほとんど覚えてはいなかった。そんなこと気にしていられないほど切羽詰った状況にあったからだ。

ともかく、ようやくそのテレビも終わった。
兄を締め上げる拷問機械と化していた妹も、兄を抱く腕に込める力は随分と大人しいものになっていた。
それでもまだ、恐怖の余韻が抜けきらず、兄を放す事はできないようだが。


  *


そんなこんなしていると、寝る時間になった。
腕を解いてくれるよう妹に頼んだが、それは拒否された。

その代わり、

「きょ、今日は一緒に寝て!」

見上げた先の妹は目を潤ませてそう言った。


  *


ベッド。
兄は妹に抱かれたまま布団に入っていた。
先ほどまでの背中から抱きしめる形ではなく、お互い向かい合ってだ。
向かい合うと言っても顔の位置は違うので互いの顔を見ることは出来なかったが。

兄は妹の両腕に抱きしめられていた。
しかも、その顔を妹の胸の間に埋めてである。
上半身はワイシャツ一枚、下半身はパンツ一枚の格好の妹は、ボタンひとつも留めておらずほとんどむき出しになった胸の間に押し付けていた。

「怖くない…怖くない…」

と呪文のように繰り返している。
妹からすればソフトボールくらいの大きさの兄の頭部をその大きな右手でガッシリと掴み、兄の頭よりも大きな乳房の間にギュ~と押し付けているのだ。
左腕は兄の上半身を両腕ごとガッチリとホールドし、兄の自由を完全に奪っている。
更にその長い両脚を兄の小さな体に絡みつかせている。
妹は両腕と両脚で兄の小さな体にしがみついているのだった。

未だ映画の恐怖におびえる妹は兄を抱く腕と脚に遠慮なく力を込めている。
兄は顔面を、夏の気温に汗をかく胸の谷間に埋められていた。呼吸が出来ないほどに押し付けられていた。
更に抱きしめるような両腕でぐいと寄せられる大きな胸は兄の頭を左右からズムッと挟み込んでいる。
兄の頭は、妹の大きな右手とその大きな乳房の間に埋まり、外からはほとんど見えなかった。

兄はあまりの苦しさと窮屈さから抵抗していたが、そんなものは恐怖におびえ全力で抱きついてくる妹の前にはまったくの無力だった。
妹の体という牢獄に囚われた、哀れな囚人だ。
兄の胴体ほどの太さもある太ももが兄の下半身を左右からメリメリと挟みこみ、膝から先、ふくらはぎなども兄の脚に絡み付いてくる。

「怖くない…! 怖くない…!」

妹の締め付けが更にキツクなる。
小さな上半身が妹の腕の中で悲鳴をあげる。
小さな下半身が妹の脚の間で悲鳴を上げる。
小さな頭は、その大きな乳房の間にぎゅうぎゅうと挟まれメリメリと音を立てていた。
兄の小さな体は、妹の体の中で今にも抱き潰されてしまいそうだった。


妹がようやく眠りに着いたときには、兄はとっくに気絶していた。