※普段はこんな生活を送ってるんですよーということを簡潔に描写するためちょっと駆け足になってます。


*** スペック ***

 長男:タカ  身長:172cm
 長女・カモメ 身長:330cm 特徴:ロングヘアーにぱっつんぱっつんボディ
 次女・ツバメ 身長:320cm 特徴:セミロングヘアーのしっかり者
 三女・チドリ 身長:322cm 特徴:ツインテールの優等生 ツン
 四女・カラス 身長:312cm 特徴:黒髪ショート 無口
 五女・ヒバリ 身長:296cm 特徴:お団子ショート トラブルメーカー
 六女・スズメ 身長:296cm 特徴:リボンショート ドジッ娘

************



  『 鳳家の妹達2 』



「ふわぁ~…おはよーさん」


どデカい階段を下りた後、俺・タカヒトはアクビをしながらダイニングだかリビングだかへと入る。


「あ。おはよう、お兄ちゃん」

と、テーブルに朝食を並べるツバメ。

「顔ぐらい洗ってきなさいよ」

と、席についてトーストをかじるチドリ。

「おはよ…(ボソッ)」

と、カラス。

「おはよー、あんちゃん」

と、スズメ。

「おはようございます。お兄さん」

と、最後にカモメ。

計5人の妹から返事があった。



「おう。…あれ? ヒバリは?」

ひとつ足りない返事に俺は部屋の中を見渡してみる。が、どこにもその大きな姿はなかった。

「まだ寝てるよ。ヒバリちゃん起こしてもちっとも起きないんだもん」

困ったような顔をして、まだパジャマを着ているスズメが言う。俺も他人の事は言えんが。

「やれやれ、しょーがない奴だな…」

と頭を掻きながら自分の椅子に向かう俺を、チドリの一言が止まらせる。

「ちょっとアニキ、行って起こしてきてよ」

は? 何を言ってるんだこいつは。
俺にまたあの殺人的な(俺限定)階段を上(登)れと言うのか。
妹達にとって普通サイズの階段は俺にとって1段飛ばし相当の高さ。
大したこと無いように聞こえるかもしれないが、これが毎日だと結構キツイのだ。
やっとこさ下におりてきたというのにそれを上れと?

俺はあからさまに嫌な顔になった。
だが文句を言うべく口を開きかけたところで、別の方向から同意の言葉が飛んできた。

「あら、それはいいですね。寝ている妹を起こしに行く兄というのはラッキースケベの王道ですから」

パンと手を合わせて朗らかに言う長女カモメ。
幾分同意とは違うかも知れないが、やはり俺に行かせるつもりらしい。
というか兄妹でラッキースケベも何も無いもんだ。
特に相手はあのヒバリ。言っちゃなんだが、妹の中で一番色気が無い。

俺は更に嫌な顔をした。

そしてカモメのこの意見には、チドリも俺と似たような顔をしていた。

「いや、姉さん…。私は別にそんなつもりで言ったわけじゃ…」
「ええもちろんわかってます。むしろお兄さんに起こされてヒバリちゃんの心がときめくパターンを期待しているんですね」
「違うわ。私はただ普通にアニキに起こさせに行こうと…」
「そうですよね。お兄さんに目覚めのキスなんてされたらヒバリちゃんもお兄さんも一線を越えてしまいますもんね」
「違うっての! 私はまだ席についてないアニキが起こしに行けばいいと思って…」
「まぁ。朝から妹に兄をけしかけるなんて、鬼畜なお姉さん」
「こんのバカ姉……!!」

立ち上がり眉を吊り上げて睨むチドリと、そんな視線をにっこり笑顔で受け流すカモメ。
この家でカモメに振り回されて苦労する人、第2位 チドリ。
第1位 俺。


スズメはそんな二人を見てオロオロし、カラスは影のようにジッとしている。

「お兄ちゃん、私が行ってくるよ」

チドリとカモメの様子を見たツバメがキッチンから出てきて二階に向かおうとした。
そんなツバメを引き止める。

「あーいいからいいから。俺が行くから」
「え、でも…」
「いいって。そんかわりあの二人のなだめておいてくれ」

俺は背後でテーブルを挟んで火花を散らす二人を親指でクイッと指した。


  *


結局2階。朝から運動してしまった。
廊下を歩いてヒバリの部屋へと向かう。

そしてドアの前。
見上げるほど大きなドアには『ヒバリ&スズメ』と書かれた札が下がっている。ここが双子の妹達の部屋である証だった。

とりあえずドアをノックする。

「おーい、朝だぞ」

  ドンドンドン

それなりに力を込めてドアを叩く。そうでもなければこの巨大で頑丈なドアは揺るぎもしないのだ。

…。

返事がない。まだ寝ている様だ。
ゴンゴン! もう一度ドアをノックする。

「ヒバリ! 起きろー!!」

朝からはキツイ大声。ノックした拳が痛い。
しかしやはりドアの向こうからは返事がない。

もうこれでやる事はやったと戻りたい気分だが、そうするとまたチドリあたりにブツブツと文句を言われそうだ。
俺はもう一度返事がないのを確認して俺の身長よりも高い位置にあるドアノブに手をかけ、ガチャリとひねる。

ドアを開いて見えた部屋の中はすでにカーテンの開け放たれた窓から差し込む光でとても明るかった。
内装に至っては今更描写する必要も無いがそれなりに女の子っぽい感じが出ている。
ただこの部屋はヒバリとスズメの二人で使用しているので内装の雰囲気は若干チグハグしている感があった。

まぁそれは置いといて、大きな部屋の中の大きなベッドの上で女の子のしおらしさなど微塵も感じさせず大の字になる大きな妹を見た。
布団ははだけ、パジャマもはだけ、むき出しのお腹をポリポリ掻きながら口からを涎を垂らして眠っている。
流石に寝ているときはシニヨンは外している。

俺はヒバリの寝ているベッドに近寄った。
ベッドの高さは80cm強と俺の腰ほどの値だ。登るとなると結構キツイ。

「ヒバリ、朝だぞ!」

ベッドの真横から声を掛けてみる。
が、

「ぐー」

寝息が返るだけである。

「起きろ! おーい!!」

めげずに声を掛けてみるも結果は同じだった。
もうこうなったら体を直接揺らしてみるか。

俺はベッドによじ登り、その上に横たわる巨大な眠り姫である妹の肩を掴みグラグラ揺らしてみた。

「ほらいい加減起きろ!! 遅刻するぞ!!」

俺はヒバリの体がガクガクと揺れるほど(は無理だったけど)動かした。
するとヒバリからようやく反応があった。

「んー……まだねむい~…」
「うぉっ!?」

ヒバリが寝返りを打とうとした。
と、思ったときには、ヒバリの横に立っている俺とは、ヒバリの体を挟んで反対側からヒバリの大きな腕がグンと勢い良く迫ってきた。
俺が回避も防御もする間もなく、腕は俺の体をガシッと抱くとそのまま胴体へと抱き寄せた。
つまりはヒバリが寝返りを打つついでに、俺を抱き枕のように抱きしめたのだ。
ヒバリの二本の腕が俺の体をガッチリとホールドする。俺は両腕も一緒に抱き込まれてしまったので完全に身動きが取れなくなった。

「こ、コラ! 放せ…!」

と身をよじろうとすると、俺の動きをわずらわしく思ったのか、ヒバリは更に腕に力を込めて俺を抱き始めた。
しかも今度はその長い脚も俺に絡め始める。
ヒバリは俺を両腕両脚で抱きしめている形だ。
更にその檻はより強く締め付け始める。

「ぐ……や……やめ…ろ…」

メリメリメリ…!
寝ぼけて加減の利かない妹の、本当の力で抱きしめられている。
プロレスラーですら2秒で落ちるであろう恐ろしい圧力に俺は晒されていた。

「んん~…」

なのにヒバリは更に俺を締め上げる両腕と両脚の力を増し、最後にはダメ押しといわんばかりに抱きついてきた。


  ギュゥゥゥゥゥウウウ!!


  メキメキメキメキメキ!!  


「ぎゃああああああああああ!!」


朝の鳳家に兄の悲鳴が響き渡った。


  *


「おっはよー♪」

さわやかな顔でリビングに現れたヒバリと、その脇に抱えられるぐったりとした俺。

「あ、あんちゃん!?」
「あんたねー…もう少し大人しく起きられないの?」

仰天するスズメと呆れるチドリ。

「ふふ、これも強大な力を持った妹とその兄の王道ですね」
「…」

メタいカモメと沈黙のカラス。

「え、えーっと……と、とりあえず朝ごはんにしよっか」

苦笑し、頬をぽりぽり掻きながら言うツバメ。

我が鳳家のいつもの風景である。


  *
  *
  *


朝食を済ませた一同は登校の準備を始める。
と言っても俺は制服を着てカバンを用意するくらいのものだが。
しかし妹達は一応年頃の乙女、身だしなみにも気を使うし準備にも時間を要する。
しかも我が家にはトイレがひとつしか無いので、うっかり重なったりすると大変なのだ。

「ちょっとヒバリ! 早く出なさいよ!」
「ヒバリちゃん早くして…漏っちゃう…」
「ん~…あと15分…」

トイレの前でけたたましくドアを叩くチドリと、泣きそうな顔で脚をもじもじとすり合わせるスズメ。
これらの光景も、いつものことだ。

「おにいちゃん、ちゃんとハンカチ持った?」

とツバメ。

「お前は俺を小学生とかだと思ってるのか…」
「あはは、でもお兄ちゃん忘れっぽいところあるし」

制服姿に着替えたツバメが小さく笑う。
ちなみにウチの学校は全学年共通の制服で学年ごとの差異は無いという設定だったりする。流石に男女は分かれるが。
なのでキャラの見分け方は髪型だったり靴下の種類だったりするが、ぶっちゃけ文章だとよくわからん。
ちなみにツバメは白のハイソックス。

「そうですよ。もっとしっかりしてください」

と言いながらやってきたのは同じく制服に着替えたカモメだった。
当然同じ制服。ただし胸元の膨らみ等 一部のボリュームは他を圧倒する存在感を放っている。
靴下は白系。普通。

「はい。忘れ物ですよ」

カモメは指先に小さなものを摘んでよこした。

「ん? なんだコレ」
「『あかるい家族計か(ry』」
「いらねぇよ!!」

俺は渡されたものを全力で投げ返した。
横ではツバメがトマトに転職したかのように真っ赤になっている。

「しかし男性たるものいつなんとき行為に及んでもいいように10個くらい携帯しておいた方が…」
「しねぇよ! てか10個て、お前は俺を何だと思ってるんだ!」

「うっさいわねー。何騒いでんのよ」

ニコニコと笑うカモメに文句を言っていると、どうやらトイレ戦争に勝利したらしいチドリがやってきた。
もちろん同じ制服。カモメほどではないが制服の要所要所が膨らんでいる。
黒ニーソ。

「もう、ヒバリちゃん トイレ長すぎだよー…」
「にゃーははは、ごめんごめん」

その後ろから着替え終えたヒバリとスズメが続いてくる。
同じ制服。備考無し。


これで7人中6人は揃った。
残りはカラスひとりだが、探すまでも無く、振り返ってみればそこにス…ッと立っていた。
当然着替えは終え、カバンを両手で持ってジッとそこに佇んでいる。

視界内にいないときは、振り返ってみれば大抵そこにいる。正直ビビるときもあるが、当人がそうしたいのならまぁそれでいい。

「とにかくみんなそろったし、出発するか」

こうして鳳家7人は家を出発するのだった。


  *
  *
  *



閑静な住宅街の間の道を歩いて学校に向かう鳳家一同。
その間、テキトーにおしゃべりをしたり 今日の予定を確認していたりする。

俺達は一つのグループになっている。
俺の歩く速度にあわせてぞろぞろと連なっている。
本当ならこいつらの歩く速度は俺の倍くらいの速度なのにみんな俺に合わせてくれているのだ。
誰かが言い出したりやりだしたりしたことじゃなく、昔からずっとそうだった。

さて当然 俺達と同じように学校に向かう別の生徒達もいるわけだが、そんな彼らの様子は4段階に分けることが出来る。

・滅茶苦茶驚いているパターン。
・結構驚いているパターン。
・少し驚いているパターン。
・驚いていないパターン。

学年が上がるほど下のパターンになる傾向が強い。
まぁつまり、学年が上がるほど、このドデカい妹達を見ても驚かなくなっていくのだ。
見慣れている。
3年前に俺とカモメが入学したとき カモメのデカさに驚いて、次の年にツバメとチドリが入学して驚いて、また次の年にカラスが入学して驚いて、で 今年ヒバリとスズメが入学して驚いて。
学年が上がるほど驚かないのがそういうことだ。
もう慣れっこなのだ。

「またお前んちか」

これも何度言われたかわからない。

そんなこんなで我が鳳家はいつもどおり生徒達の注目を集めながら学校へと向かう。


  *


なんやかんやで学校へ到着する。
そして校門の前に立ってみれば、そこには通常の2倍サイズの校舎が建っていた。建物だけではない、校庭の広さも、敷地の広さ全部が倍だった。
まさに2倍サイズの妹達にうってつけの大きさなわけだが、無論 最初からこうだったわけではない。
俺とカモメの入学式の時には普通の大きさの学校だった。
しかし次の日 来てみるとこの大きさになっていたのだ。

「ふふ、これなら妹達も不自由なく過ごせますね」

横に立つカモメが笑いながら言ったのを俺は覚えている。

何はともあれ、妹達が不自由しなくなったのは確かだ。
普通サイズではまず校舎に入ることすらできないからな。

俺達は昇降口へと向かい、それぞれ靴を上履きに履き替える。
校舎の天井は妹達にとって普通の高さ、つまり通常の2倍の高さ。
他にも机だったり椅子だったり、果てはトイレまで妹サイズのものが適用されている。
もちろん全校生徒の99.9%は普通サイズなので普通の机や椅子、トイレが大半だ。

上履きに履き替えた俺達はそれぞれの学年のクラスに向かうため昇降口で別れる。

「じゃあね お兄ちゃん」
「行って来るね あんちゃん」
「おにいー またあとでね~」
「おう、しっかりやれよ」

他の学年の妹達と別れ、カモメと共に4年の階層に向かう。
そしてそこまで来たらそれぞれのクラスに分かれる。

「ではお兄さん。また」
「おう」
「明るい家族計画は…」
「いらん!」

にっこりと笑いながらそれを取り出そうとしたカモメを一喝で止める。


  *


自分の教室へとやってきた俺は席に着いて盛大に息を吐き出した。
ちなみにこの教室は妹達は利用しないが天井などはきっちり2倍である。

そうやって俺が椅子にもたれかかると先に来ていた生徒が近づいてきた。

「よっ、お疲れだな、タカ」
「なんだよエイジ、からかいに来たのか?」

俺が見上げた先では割とイケメンだと思われる顔がにぃっと笑っていた。
エイジ。物心つくくらいからの悪友。妹たちの事も昔から知っている、所謂 幼馴染と言う奴である。

「そうかみつくなよ。今日はお前に労いの品を持ってきたんだぜ」

言いながらカバンの中に手を入れたエイジはそこからそれをスッと取り出した。
エロDVDである。

「あほか。はよしまえ」
「くっ…冷静に切り返された。俺はもっとキレのあるツッコミを期待してたんだぞ!」
「こっちは朝からツッコミ疲れてんだよ。これ以上ボケを回してこないでくれ」

ガッデム!! と オーバーアクションで顔を覆い天を仰ぐエイジ。朝から元気だな。
そこに、更に別の生徒がやってくる。

「おはよ。何がガッデムなの?」
「おす、モモ」

モモ。小学校からの親友。妹たちの事も昔から知っている、所謂 幼馴染と言う奴である。

「気にしないでくれ。いつものバカだ」
「なんだ、いつものバカかー」
「待て待てお二人さん、バカはいいがいつものは酷いだろう! 俺だって冷静になるときくらいある!」
「いつ?」
「夜の賢者タイムとかな!」
「だめだ、年中無休でバカだった」

再び ガッデム!! と天を仰ぐエイジを俺とモモは冷めた目で見る。
こんなやりとりも、いつものことだった。

「まぁまぁとにかくタカよ、こいつがお前への労いの品だってのは本当だぜ。今日は裏ルートで入手した極レア物だからな、見てすぐ「うっ…! ふぅ…」になること間違いなしだ」
「いらんって。妹に見つかってみろ、本当の意味で昇天するぞ」
「んー、チドリちゃんあたりにバレたら本当にそうなりそうだよねー」

モモはしみじみと言った。
しかしエイジは肩を震わせて笑い出す。

「ふっふっふ、安心してくれ。コイツはその辺の対策もバッチリよ!」

無駄に尊大なポーズを決める。
イケメンなのにモテないのはこの辺が原因なんじゃないかというのが、俺とモモの見解だ。

「まずは基本中の基本、パッケージのカモフラージュ! どこから見ても旅番組風! しかもどうでもいい風景の写真のテキトーな感じは手に取っても興味をそそられることは全く無い!」

指を一本ビシッと立てるエイジ。

「次にディスクのラベル! こちらもどうでもいい写真を切り抜いてハっつけたようなやっつけ仕様! しかもタイトルはマジックでの手書きときている!」

2本目の指が立てられた。

「そして最後はディスクの中身! 最初の15分間は知らないおっさんが田んぼ道を延々と歩き続ける映像がノーカット等倍速で流れ続けるから万一再生されたとしてもまずごまかせる! 次にチャプターシステム! 普通にチャプターをイジっても本編へ飛ぶことは出来ず、本編を見るためには最初のどうでもいい映像を15分見るか、チャプター選択の『おまけ』の項目の『特典4』を一度選択してからチャプター選択をしなければならない! まさに絶対防御の鉄壁よ!!」

熱弁を振るうエイジ。
たった今 その鉄壁の攻略法を自分でバラした気がするが。

「だから俺はいらないって………ん?」
「あ」
「まぁそう言わずに見てみろって。この鉄壁の防御はいくらお前んとこの巨神兵でも絶対にくずせないからな、今夜にでも溜まりに溜まった男の性を存分にぶちまけるがいい!! ふはははははははは!!」

俺とモモが固まったのにも気づかず 魔王か何かの様に高笑いするエイジ。
直後、そのエイジの体が宙に浮かび上がった。

「誰が巨神兵よ。誰が」

エイジの首根っこをむんずと掴んで立つチドリ。その横に並ぶツバメ。

「どーした、二人とも?」
「おはよう、ツバメちゃん」
「おはようございますモモさん」

ツバメは大きな体でモモにペコリと頭を下げた。
その横で、

「エイジ先輩? ウチのアニキにヘンなもの貸さないでって、いつも言ってますよね?」

持ち上げたエイジの顔を覗き込み「ん?」と問いかけるチドリのそのオーラは最早 大魔王の域に達していた。

「こ、これはこれはチドリ様…おはようございます……」

ぶら下げられたエイジは全身から汗をダラダラ流して震えている。
チドリと目線の合う高さまで持ち上げられれば、当然 足など着かない。

「先輩、私 そろそろ本気で先輩にヤキを入れたいと思うんですが…」
「い、いやいやチドリ様、ほんの冗談でございます。わたくしめ、まさか本気でそのように大それたことをするつもりは…」

チドリの眼光にエイジはキャラを忘れるくらいに恐怖していた。

で、まさに今 後輩の2倍女子にクラスメイトがぶら下げられガン付けられているわけだが、他のクラスメイトは見向きもしない。
もう何度と無く繰り返された出来事は予定表に書き込めるぐらいに日常茶飯事だった。

「で、どうしたんだ? なんか用か?」
「あ、うん。実はお兄ちゃんのお弁当 渡し忘れちゃって」

言いながらツバメは手に持っていた包みを俺に手渡してきた。

「お、サンキュー。でもなんでチドリまで?」
「やっぱり上級生の階は一人だと心細いし」

その上級生の一人は今 お前の姉妹に殺されそうになってるけどな。

「お弁当を作ってくれるなんて、相変わらずお兄ちゃん想いのいい妹だね~」
「も、モモさん…」

モモの言葉にツバメが顔を赤くした。

「ったくアニキもちゃんと断りなさいよ」
「最初から断ってたよ。てかお前達、そろそろ自分のクラスに戻った方がいいんじゃないか?」
「あ、ホントだ、もう時間になっちゃう。それじゃあお兄ちゃん、また後でね。行こ、チドリちゃん」
「あっ! ちょっとツバメ、置いてかないでよ。じゃあねアニキ。変なモノ借りないでよ」

教室を出ていったツバメを足早に追いかけるチドリ。
その過程で、エイジは開放されていた。

「ハァァァァ~…殺されるかと思った…」
「むしろ一回殺されてみるのもいいと思うよ」
「モモぉぉぉぉおおおおおおお!! お前まで俺をのけ者扱いするのか!!」

本日3回目のガッデムを叫ぶエイジを無視し、モモは俺に別れを告げ自分の席へと戻っていった。


  *
  *
  *


昼休み。
弁当を食べ終えた俺だがまだ足りなかったので購買へと買いに来た。
階段を下りてきて購買所の前に来て見れば、そこにはまるでラクーンのゾンビのように大量の生徒達がひしめいていた。
すでに昼休みに入って結構 時間が立つが、腹を空かせた生徒達の数は減る気配を見せない。
まさに昼の戦場、昼飯争奪戦である。

「まいったな、こりゃパン一つ買うのもしんどそうだ…」

アイドルのライブ会場のような満員御礼状態。目的のパンを買うどころか、購買所までたどり着くこともできなそうだ。
さてどうしたものか…。

「…お」

案がひとつ浮かぶ。
利用するみたいで少し気が引けるが…。

「……おーいカラス~…」

小さくその名前を呼んでみた。

「……なに…?」

不意に背後で気配がし声が返ってきた。
振り返ればそこには確かにカラスが佇んでいた。

「スマン、ちょっとパンを一つ買ってきてくれるか? 自分の食べたいものがあったら買ってきてもいいから」
「……わかった…」

お金を受け取り コクンとうなずくカラス。
ふと、カラスの姿が消えた。ように見えた。
気配を消したのだ。

そしてすぐに、パンを二つ持って現れた。

「……おまたせ…」

カラスがパンを差し出してきた。俺の好きなコッペパンだ。
残されたもうひとつのパンはメロンパン。こちらはカラスの好きなパンである。

「サンキュ。こんなことさせて悪かったな。お釣りはお駄賃ってことでお前にやるよ」
「……ありがと…」

カラスは僅かに頬を染め、そしてフッと消えた。

「…忍者みたいな奴だな」

俺はもらったパンをかじりながら呟いた。


  *


まだ時間の残っている昼休み。
エイジや友人達と連れ立って体育館にバスケをしにきた。
すでに昼休みの半ばとあって、すでに大勢の先客がいた。
そしてその中に、明らかに抜きん出た大きさの生徒の姿があった。
見紛うはずも無い、妹である。

「ふはは! ヒバリはこっちがいただいた!」
「なにを! こっちもスズメで対抗だ!」
「よーしいくぞスズメー!」
「はぅ! ヒバリちゃんこわい!」

そこにいたのはヒバリとスズメだった。
ということは周りの生徒は一年生なのだろう。
友人達とバスケをしにきているようだ。
確かに、ことバスケとなれば、うちの妹達はその身長だけで最終兵器扱いだからな。ゴール前にいられるだけでシュートは出来なくなるし、ボールをキープされたら取り返すのは困難だ。

パン! ヒバリにボールが回った。

「いっくぞー!」

走り出すヒバリ。狭いコート内を電光石火の如く走り抜け、迫るディフェンスを華麗なドリブルでかわしてゆく。
運動神経のよさはウチの妹の中でもダントツだ。おそらく、2倍の大きさじゃなかったとしても、誰もヒバリを止めることはできなかっただろう。

「へへーん! スズメ覚悟ー!!」
「はぅ!」

ゴール前でオロオロするスズメに正面から突進するヒバリ。
迫るヒバリの剣幕に負けて、スズメはその場に頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
そしてがら空きになったゴールにヒバリの手がボールを叩き込む。

「イェーイ!」

ヒバリがチームの仲間にVサインを出した。チームから歓声があがる。


「はぅう…みんなごめんね…」
「気にすんな。相手がヒバリじゃ仕方ない」
「そうそう、それにまだ2点よ。取り返してやろうじゃない!」

スズメのチームも士気は高い。すぐに攻勢へと転じた。

確かにスポーツの勝負でヒバリとスズメではスズメの方が圧倒的に分が悪い。
運動神経ダントツトップのヒバリとダントツビリのスズメなのだから。
しかしそんなスズメでも、通常の2倍の大きさであることはかわりなく、ヒバリ以外の生徒からのシュートは軒並みブロックしている。。
ゴールの高さは305cmでスズメの身長は296cm、ほとんど同じだ。ゴールの前に立っているだけでも相手のシュートを妨害することが出来るし、手を上げてゴールを防げば相手はもうシュート不可能になってしまう。
ヒバリもスズメも、バスケにおいてはジョーカーのような存在なのだ。

「おーいタカ、何やってんだ。俺達もやろうぜ」

友達たちとわいわい遊ぶ妹達を見ていた俺をエイジの声が引き戻す。

「ああ、今行くよ」

なんだかんだ、妹達は友達たちと仲良くやっている。
それを見られると安心できた。


  *
  *
  *


帰りのHRが終わった。

「さーて帰るかー」

俺はカバンを手に立ち上がる。
するとそこにエイジがやってきた。

「おーすタカ、今日このあとどっか遊びいかねーか?」
「んーそうだなー…」

そんなことを言いながら教室を出ると廊下の向こうに見知った身長を見つけた。
カモメだった。
同じ学年なのだから同じ階にいるのは当たり前だ。
友人達と楽しそうにお喋りしているが、妙に盛り上がってるな。

「ねぇねぇ鳳さん! そ、それでそれで、どうしたの!?」
「もちろん受け入れました。兄が求めるなら受け入れるのが妹の務めです」
「え!? じゃ、じゃあ、さ…最後まで…?」(赤面)
「はい。お兄さんの分身は、確かに私のここに」(言いながらお腹をなでる)
「「キャー♪」」

話を聞いていた女子二人が黄色い悲鳴をあげる。

「そ、そそそれで、さ、最後は…」
「最後は……」
「最後はもちろんナカに(ry」

  ゴン!

高速で飛来した消しゴムがカモメの横っ面に直撃した。

「なに根も葉も無い嘘 撒き散らしてんだお前はぁぁぁああ!!!」
「あ お兄さん♪」

消しゴムの直撃を受けながらも全く怯まずカモメは全速力で駆け寄ってきた俺に笑顔で応えた。

「俺が、いつ! どこで!! お前と何をした!!! アホな嘘をつくんじゃない!!」
「あん、お兄さん忘れてしまったんですか? それは3日ほど前…」
「ねーよ!! そんな事実は生まれてこのかた一度もねーしこの先も一生ねーよ!! 空前絶後にねーよ!!」
「ダメですよお兄さん 嘘をついては。ホラ、その証拠にお兄さんがいつでも出来るようにいつも私に持たせているこれが…」

言いながらカモメは自分のカバンの中から 今朝、俺に渡そうとしたものを取り出した。

「お前が勝手に持ち歩いてるものだろ! ってかこんな廊下の真ん中でそんなもの出すんじゃねー!!」
「さ、さすが鳳さんのお兄さん…妹にそんなもの持たせてるなんて…」
「ちげーよ! 全部コイツの嘘だ!」
「こんなに大きな鳳さんを服従させてるなんて、いったいどんな鬼畜の所業を…」
「なんにもしてねーよ! 俺は一切関係無いッ!」
「てめぇタカ! お前、いつからカモメちゃんとそんな関係にっ…!」
「お前も乗っかってくんじゃねーッツ!!!!!」

鷹の咆哮が、放課後の校舎に響き渡った。


  *


「あー……疲れた……」

昇降口を出た後、トボトボと校庭を横断する俺。
その横を、ニコニコ笑いながら歩いているカモメ。

ちなみにエイジはバスケ部の助っ人に呼ばれていった。

「もう、お兄さんたら廊下の真ん中であんな大声を出して…。恥ずかしかったですよ」
「……俺は今、どうやったらお前との兄妹の縁を切れるか本気で考えてるよ…」
「まぁ♪ そうしたら本当に合体できるようになりますね♪」

掌をパンと合わせたカモメがにっこりと笑いながら言った。
俺はそのまま地面に倒れ付し、眠ってしまいたかった。
こいつはまったく…! 妹達の中でも最強最悪の問題児だ。

そんな風にのろのろ歩いて校門へと向かっていると その校門の近くに集まっている大きな人影たちに気づく。
妹達である。

「お疲れ様。お兄ちゃん、カモメお姉ちゃん」

と、ツバメ。

「あと少し遅かったら先に帰ってたわよ」

と、チドリ。

「…」

と、カラス。

「あんちゃん、お疲れ様ー」

と、スズメ。

4人の妹達が待っていた。

「みなさんもお疲れ様でした」

と、俺と一緒にいるカモメが言った。

「おー…お疲れ…」

と、俺。

「お、お兄ちゃん、ホントにお疲れだね…」
「もうクタクタだよ…」
「なっさけないわねー。部活をやってるわけでもないのに」
「うるせー…」

チドリの悪態に言い返す元気も無い。
ん? そう言えば一人足りないな。

「あれ? ヒバリは?」
「ヒバリちゃんはおトイレだって。帰りのHRの間、ずっと我慢してたみたい」
「…アホだな…」

なんて言ってると 昇降口の方から猛烈な勢いで走ってくる巨大な姿が見えた。

「とう! ヒバリちゃん! 参上!!」

ズザーッと走りこんできたヒバリがビシッとポーズを決めた。

「おう、待ってたぞ」
「いやー、実はお昼に購買のパン食べ過ぎちゃったみたいでさー。中々トイレから出られなかったよ」
「んな報告しなくていいわよ! ほら、とっとと帰りましょ」

チドリがフン! といった感じで踵を返し家への道を歩き始めた。

「そうだな、帰るか」

俺が言うと他の妹達もそれぞれ返事をしたりうなずいたりしてゾロゾロと歩き始める。


家までの帰る道、妹達は今日あったことをお互いに報告しあっていた。
やれ、調理実習があっただの、やれ、小テストで満点を取っただの、やれ、体育の短距離走で世界新記録が出ただの、やれ、兄を悩殺する48の方法を考えただの様々だ。
……後半の2つは学校で起きた出来事としてはおかしい気もするが。

まぁとにかく今日も無事に終わったと言うことだ。
見上げてみればもう空は紅く染まり、夕日は住宅街の家々の向こうに沈もうとしていた。
大きな妹達の大きな影が更に大きく伸びる。俺の影は、妹達の半分ほどの長さしかなかった。
妹よりもずっと小さな俺だが、それでも俺はこいつらの兄としてこいつらを守っていきたいと思う。



妹達の顔を見ようと上を見上げたところで、夜になりつつある空に1番星を見つけた。