※季節ネタを思いついたので。



  『 鳳家とコタツ 』



 タカ 「あー…ぬくい」

冬。
寒い季節、今年もついに我が鳳家にもコタツが現れた。
しかも掘り炬燵式。これで足も疲れない。
しかしやはりこのコタツも妹達サイズが基準の2倍設定であり、コタツのテーブルは俺がもたれかかるにはちょっと高く、そして掘り炬燵の堀は深くて俺の足は底にとどかない。ぶらぶらさせられる。

といってもコタツはコタツ。布団の中は温かい。
今は妹達も出かけているのでこのデカイコタツは俺が独り占めしている形だ。まぁ、やはり俺一人で使うにはデカ過ぎて持て余すわけだが。

はぁ、それにしてもコタツのぬくもりってのはどうしてこうも心が落ち着くんだろうか。
そうか、きっとこれは母のぬくもりに似ているに違いない。
温かいものに包まれることに人間は至福を感じるんだ。

そんなどうでもいいことをぼけーっと考えるほど、コタツのぬくもりは心地いい。


「ただいまー!」


その心地よさを一発で破壊する声が聞こえてきた。
この声は…ヒバリ。
あいつが来るとロクなことにならないんだよなー…。
まぁ流石にこのコタツの心地よさを前にしたらあの問題児もおとなしくなるだろ。

そしてすぐにヒバリがドスドスと床を踏み鳴らしながらこのコタツのある部屋へとやってきた。

 タカ 「おーおかえりー」
 ヒバリ 「あ、おにい ただいまー」

友達と遊んでいたヒバリが帰ってきた。
上こそ長袖だが下は半ズボンと靴下すらはかぬ素足。
この季節、見てるだけで凍えるような格好でよくもまぁ外を走り回れるものだと感心する。
子どもは風の子って奴か。

 ヒバリ 「うーさむっ! コタツ点いてる?」

結局寒いのかよ。

 タカ 「ああついてるぞ」
 ヒバリ 「あーよかった」

言いながらヒバリはコタツに入ってきた。
俺の後ろから。

 タカ 「…」

俺の体はヒバリの体の前でコタツとの間に挟まれている。
俺の体の右側にはヒバリの右脚が、左側には左脚が、つまりヒバリは脚を開いて座っているわけだ。その脚の間に俺を挟んでいる。

 ヒバリ 「はーあったかい」

俺を抱えるような格好でコタツに入るヒバリが、俺の頭にあごをドンと乗せながらしみじみと言った。

 タカ 「なんでわざわざ俺のいるところから入るんだよ…」
 ヒバリ 「こーすればおにいはもっとあったまれるでしょ。ほらほら、もっとあっためてあげる」

言うとヒバリはその大きな両腕で俺の体を抱きしめ始めた。
太い腕が俺の体をガッチリホールドする。拘束具に捕らえられたような圧迫感がある。

 タカ 「苦しいからやめてくれ。俺はまったりしたいの」
 ヒバリ 「ブー」

唇をとんがらせたヒバリは俺を抱きしめていた腕をほどくとテーブルの上のみかんに手を伸ばした。
ちなみに流石にみかんの大きさは普通だ。
2倍サイズのヒバリの大きな手に摘まれたみかんは相対的にピンポン玉のような大きさに見える。

そんな小さなみかんの皮を大きな指で器用に剥いていき、剥き終わったみかんはその大きな口にそのままポイと放り込まれた。
丸ごとである。
あいかわらず豪快な食べ方である。が、実際 妹達のほとんどがそういう食べ方だ。
妹にとってはその程度の大きさということだろう。俺には無理だ。

そんなことを考えていたときだ。

 ヒバリ 「ねーおにい、なんか温度低くない?」
 タカ 「んー? いや、丁度いいくらいじゃないか」
 ヒバリ 「そっかなー。ねぇおにい、ちょっと見てきてよ」

何言ってるんだお前は。と俺を抱いているヒバリを見上げたらその顔はいたずらっぽく笑っていた。
まさか…と思って逃げ出そうとしたときにはもう遅かった。

俺の頭をヒバリの手が押さえつけ、そのまま俺をコタツの中にぐいと押し込んだ。
ヒバリから見れば小さな俺の体は、妹達サイズのコタツの中に簡単に入ってしまった。
勢い良く押し込まれ、コタツの底にゴロンと転がる俺。ちなみにコタツは電気式で赤外線や炭をしているわけでは無いので火傷などの心配は無い。ついでに真っ暗なわけではなく、ちょっと明るい。

 タカ 「イテテテ…。なにすんだ…」

薄暗いコタツの中に仰向けに転がされた俺はやや打ちつけた頭をさすりながら体を起こす。
コタツの中ということで当然四方は布団と土台しかない。その一方から、ヒバリのものであろう2本の長い脚が入ってきている。

 ヒバリ 「ど~お~おにい? やっぱりちょっと寒くない?」

くぐもったヒバリの声がコタツの中に響いた。

 タカ 「この…! 俺は出るぞ!」
 ヒバリ 「んーしょうがないなー。じゃああたしが自分で確かめるね」

という声が聞こえると同時、コタツの中で床を踏みしめていたヒバリの片足が持ち上がり、起き上がろうとしていた俺の体をズシンと踏みつけた。
がふっ。それだけで俺は床に押さえつけられてしまう。

 ヒバリ 「あ、ここはちょっとだけあったかいねー」

ヒバリのくすくす笑う声が聞こえる。
ヒバリの足は全長44cm幅14cmにもなる。長さに至っては俺の腕の肘から先ほどの長さがあり、そんな大きなものに押さえつけられては身動きが取れない。
俺はヒバリの足を持ち上げようとしたが、その巨大な足は俺の腹から胸にかけてをずっしりと踏みしめてビクともしない。
ただ乗せられているだけでも動かすのは大変なのに、特に今はヒバリが意図的に押さえつけるようにして乗せているから俺の力ではどうしようもなかった。

 タカ 「このやろ…!」

力尽くで動かせないなら搦め手だ。
このデカイ足をくすぐってやる。

と、俺を押さえつける足に手伸ばしたときだった。


「ただいまー」


別の妹が帰ってきた声がした。
誰だ?
と、思っているとその帰ってきた人物がコタツに近づいてくる重々しい足音が聞こえてきた。

 チドリ 「あれ? ヒバリ、あんた一人なの? アニキは?」

チドリかよ。また面倒な奴が帰ってきた。
この状況を見られたらまたブツブツと文句を言われるに違いない。
とっとと脱出しなければ…。

 ヒバリ 「知らな~い。自分の部屋じゃないかな?」

この野郎。

 チドリ 「ふーん。ま、どうでもいいけどね。あー寒かった」

そんなチドリの声が聞こえた直後、このコタツの四辺を覆う布団のひとつがめくられ、そこから新たな脚が侵入してきた。
当然チドリのものだろう。黒いニーソックスをはいた大きな脚がズイとこのコタツの中の世界に投げ出され、そして、


  ズム


俺の顔面の上に踏み下ろされた。

 タカ 「んむむ……!」

黒いソックスに包まれた全長48cm幅16cmの足裏が、俺の顔のほぼすべてを埋め尽くす。
全長は当然、その幅でさえ俺の顔の大きさに匹敵する。長さに至っては下手したら俺の頭の倍近い大きさがあるんじゃないか。
ていうか、意図せずして俺の顔面を踏みつけてくるとはさすがチドリだ。無意識においても俺をいたぶるか。

 チドリ 「あれ? なんか変な感触が…」

感触を確かめるように何度も足を踏み下ろすチドリ。
そのたびに俺の顔がかわいそうな目に遭う。

 ヒバリ 「あ。ちょっとクッション入れてみたんだ。踏み心地いいでしょ」

この野郎。

 チドリ 「そうね。悪くは無いわ」

言うとチドリの足は俺の顔を踏みつけたまま動かなくなった。
そこに安住の地を見出したらしい。何で俺の顔の上なんだよ。

つか腹をヒバリに押さえつけられ顔をチドリに踏みつけられて…ってどんだけ悲しい状況なんだ。
一秒でも早く脱出したいところだが、ここで下手に動いてチドリにバレると何を言われるかわかったもんじゃない。
今はチドリが俺の上から足を動かすのを待って、動かした瞬間に脱出してコタツの隅に寄ろう。
そしたらタイミングを計って外に…。


「ただいまー」
 タカ 「!?」


他の妹も帰ってきたよ! これ以上増えるのは不味いって! いったい誰が帰ってきたんだ!?

 スズメ 「ただいまー」
 カモメ 「遅くなってすみません」
 ツバメ 「みんなで夕飯の買出ししてたの」
 カラス 「…」

全員かよ!
いやカラスは声も足音も聞こえないけど他の3人が居ればきっといるだろう。
てかこれ以上コタツに入られたら四辺全部埋められて脱出路が無くなる。こうなったらチドリに文句言われるとか言ってる場合じゃない。とにかくすぐに脱出しないと。

 ツバメ 「じゃあ私は夕飯の支度しちゃうからみんなはコタツにでも入ってて」

ツバメ…。お前のその優しさが今は恨めしいよ…。

 カモメ 「ではお言葉に甘えまして」
 スズメ 「ヒバリちゃん、隣入れてー」
 カラス 「…」

俺が脱出を図る間もなく、新たに6本の巨大な脚が侵入してきた。
そして例の如く、俺の体を踏みつける。

 スズメ 「あれ?」
 カモメ 「何か入ってます?」
 ヒバリ 「あ。ちょっとクッション(ry」

この野(ry

 ズズン

スズメのものと思わしき足が俺の右腕を踏みつけ床に押さえつけた。これでもう右腕は使えない。
更にもう一つカモメのものであろう足が俺の股間を踏みつけた。妹に股間を押さえつけられるって…。
今 俺の体は4人の妹の足で踏みつけられコタツの底に押さえつけられている。
一応みんな片足だけ俺に乗せている形だが、それでも俺の体は脱出できないほどの重量で拘束されていた。
それぞれの位置としては、まずコタツの底に仰向けで大の字になる俺。
次に俺の足方向の辺からコタツに足を入れ、俺の胴体を左足で押さえつけるヒバリ。
その左隣に座り、右足で俺の右腕を踏んでいるスズメ。
俺の頭方向から足を入れ俺の顔面を踏みつけるチドリ。
俺の左手方向から足を入れ、さきほどから左足で俺の股間をぐりぐりと踏みにじっているカモメ。
そしてその右隣に座り、コタツの壁際に両足をちょこんと揃え、唯一俺を踏んでいないのがカラスだろう。お前はどこまでも控えめだな。

ていうか妹4人に足蹴以下の処遇に処されてる状況はどうすればよいのかと。

 スズメ 「ん~でもなんか変な感触だね」

ぐりぐりと足を動かすスズメ。やめて。俺の腕が悲鳴上げてる。

 チドリ 「そう? なんか足ツボを刺激できて気持ちいいじゃない」

さっきから俺の顔を何度も踏みつけてたのはそういうことか。
俺の鼻はお前の足ツボを刺激するためにあるんじゃないぞ。

 カモメ 「そうですね~。そのうち気持ちよくなって大きくなるかもしれませんよ」

いや流石に妹に股間を踏みつけられて覚醒してたらヤバイだろ。確かに気持ちいいけど。

………。

カモメ!! お前分かっててやってたのか!

くっそあの腹黒妹め。お前の腹黒さの前にはバーローの犯人も白く見えるよ。

てかカモメがその調子って事は他の妹が俺に気づきかけても誤魔化すくらいやりそうだ。
下手すると、今日はもうずっとこのままってことも…。

あまりに暗い未来に血の涙が出そうだった。



 ツバメ 「夕飯の支度 終わったよ。あれ? お兄ちゃんはまだ?」
 チドリ 「まだみたいよ。部屋で寝てるんじゃない?」
 ツバメ 「ふーん、そっかー…」

エプロンを外して部屋にやってきたツバメはコタツに入っている面子を見渡すが兄を確認できず、仕方なし、他に誰も入っていない辺からコタツに足を入れた。
そしてその足先が、コタツの中にあった他の姉妹の足ではない何かに触れてビクンと体を震わせる。

 ツバメ 「な、なに!?」

ツバメは布団をめくって中を見た。

 ヒバリ 「あ」
 カモメ 「あら」

二人が小さく呟いた。

ツバメが布団をめくって覗き見たコタツの中では、自分の兄が他の4人の妹に足蹴にされていた。

 ツバメ 「お、お兄ちゃん!?」
 チドリ 「はぁ!?」
 スズメ 「えぇッ!?」

チドリとスズメも布団をめくり、コタツの中を確認する。
そのあと、二人に続いてカラスもゆっくりと布団をめくって中を見た。

 チドリ 「ちょ…! そんなとこでなにやってんのよバカアニキ!」
 スズメ 「あんちゃん大丈夫!?」

二人は慌てて兄の上から足をどけた。
それを見て残るヒバリとカモメも足をどける。

コタツの中に手を入れたツバメはグッタリする兄の体を中から抱え出した。

 ツバメ 「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
 タカ 「おす…ツバメ…助かったよ…」

妹のツバメの腕の中、赤ん坊のように抱かれる兄タカヒト。

そんな兄とツバメを見ながら、

 ヒバリ 「あー残念、もうちょっと遊びたかったな~」
 カモメ 「そうですね。あと少しでお兄さんも素敵なM属性に目覚めたでしょうに」

二人は言った。
その二人の背後に、ゆらりと立つ影。

 チドリ 「あんたたち…覚悟は出来てるんでしょうね…」

ボキボキと指を鳴らすチドリが居た。

 ヒバリ 「げ…チドリ姉…」
 カモメ 「あらあら」

ヒバリは真っ青な顔で、カモメは柔和は笑みを浮かべたまま、その脳天に特級の拳骨を受けた。

 ツバメ 「本当に大丈夫!? どこか痛いところとかない?」
 スズメ 「ごめんね! ごめんねあんちゃん!」

ツバメに抱えられたまま兄こと俺は二人の妹に見下ろされていた。

 タカ 「まぁなんとか…。とりあえず滅茶苦茶疲れた以外には問題ないかな…」

戦場から帰還した戦士のように疲れきった有様のまま俺は親指をグッと立てた。
そこに、制裁を終えたチドリもやってくる。

 チドリ 「ったくあの二人は…」

ズンズンと近づいてきたチドリはツバメに抱えられた俺を覗き込んできた。

 チドリ 「で、本当に大丈夫なんでしょうね?」
 タカ 「お蔭様でなんとかな」
 チドリ 「う…悪かったわよ。ていうかなんでさっさと出てこないのよ!」
 タカ 「そりゃ誰かさんに足で踏みつけられてて身動きが取れなかったからな」
 チドリ 「ぐぐ……!」

チドリが拳を震わせている。
まぁ何一つ間違っていないからな。

 チドリ 「そ、それはそれとして!」

グイっとチドリが顔を近づけてきた。
ほとんど、俺の鼻とチドリの鼻が当たるくらいの距離だ。
そして、蚊の羽音のような小さな声で言った。

 チドリ 「(そ、その…におわなかった……?)」
 タカ 「はぁ?」
 チドリ 「(あ……足の…においとか…」

超至近距離で見るチドリは目をそらしながら顔を赤くして呟いた。
俺の体より自分の足の臭いの心配かよ! と思わんでもないが、まぁ年頃の女の子が身だしなみやらを気にするのは当然か。

 タカ 「…その辺は心配しなくていい」
 チドリ 「ほ、ホント…?」
 タカ 「ああ、石鹸のいい香りがしたぞ。しっかり洗ってるんだな」
 チドリ 「ッ…! そ、そういうことは思っても言わなくていいのよ!」

真っ赤な顔を離したチドリはフン! と顔を背けてリビングの方に向かって行った。
そして顔を離したチドリの変わりにツバメとスズメが顔を寄せてきた。

 スズメ 「ごめんねあんちゃん! ごべんなざい…」

スズメはすでに涙目だ。お前は何も悪くないんだぞ。

 ツバメ 「私がもっと早く気づいてれば…」
 タカ 「お前達は何も悪く無いさ。それより夕飯にしよう。今日はもう疲れたわ…」

泣きじゃくるスズメの頭を撫でながら俺は言う。
ツバメは笑顔でうなずき、スズメも泣き顔を頑張って笑わせてうなずいた。

そして俺と俺を抱くツバメとスズメの三人はリビングへと向かった。


返事の無いただの屍のように横たわるヒバリとカモメ以外に誰も居なくなった部屋の中、未だコタツに入っていたカラスは、先ほどまで兄が転がっていた部分に足を置くと、ポッと顔を赤らめた。