※原点に立ち返り巨大破壊。


  『 横断 』



「ねぇ、やっぱり悪い気が…」
「大丈夫よ、ちょっと通るだけなんだから」

軽快なステップで笑いながら歩く赤いビキニのショートヘアーの少女と、その少女の後ろを恐る恐る着いて歩く青いビキニのロングヘアー少女。

彼女達の足元には、小人の町が広がっている。


  *


海で泳いでいて流されてしまった二人は小人の国にたどり着いていた。
ただ携帯のGPSは健在なので陸に上がってしまえば戻るのは容易と、二人は小人の国に上陸した。


  *


そんなこんなで今に至る。
二人は小人の国を横断していた。

ただ小人の国といっても、この国は10万分の1サイズの小人が住む超極小国。
二人にとっては彼らの100m級の超高層ビルも1mmの大きさでしかない。
逆に小人国の彼らにとっては彼女達の約1.5cmほどの太さの足の指も、およそ1500mという山にも匹敵する太さになってしまう。

二人の少女の上陸は、この国に壊滅的危機をもたらしていた。

ショートヘアーの少女は足元などまるで気にした様子も無くテクテクと歩いている。
しかしそれは、無数の小人が暮らす国の上を、全長24km幅8kmという超巨大な足で遠慮なく踏みつけているということだ。
下手な町の面積よりも大きな足。それが、逃げ惑う人々の上になんの躊躇も無く踏み下ろされている。

  ズズゥン!

彼女が足を下ろすと彼女から見たら砂粒のような大きさのビルたちが砂粒のように吹き飛ぶ。
凄まじい振動と衝撃で一瞬で粉々にされてしまうビル。または完全に原型を止めたまま何千mも上空に跳ね飛ばされてしまうビル。
あらゆる耐震装備を備えたビルがあっさりと崩れ落ちる。如何に耐震とはいえ、地面から跳ね飛ばされることなど想定していないし、そもそも『身長160kmの少女の歩行に耐える』などというケースは考案にすら上っていない。
彼らの防災システムはただ歩いているだけの少女を前に何の意味もなさなかった。
町よりも巨大な足が当たり前のように町を踏みつけ持ち上がると、そこには巨大な足跡が残された。
そこにあった町は完全に消え、代わりに町よりも大きな足跡が残されたのだ。
数万人の住民がいたはずである。
しかし最早町の原型など残さず、地下1000mほども沈み込み超圧縮された荒野に、彼らの生存を望むのは絶望的だった。


携帯をいじりながら悠々を歩くショートヘアーの少女の後ろを、足を下ろす場所を選びながら慎重に着いて行くロングヘアーの少女。
そおっとそおっと。なるべく、町であろう部分を踏まないように足を下ろす少女。
しかし結局のところ被害は甚大だ。全長24km幅8kmの足だ。
どこにおろそうと確実に、そこに人はいる。
山岳地帯におろそうが、その超広大な足の面積の範囲に、人が一人もいないというのは有り得ない。

少女は恐る恐る慎重に爪先立ちで足を下ろした。
少しでも踏みつける面積を減らそうとしての考えだ。
確かに下敷きになる面積は減るが、だからって被害者は0では済まない。
幅8kmの足が、一本の太さ1500m超の超巨大な足の指々を連ねて、途中の雲を散らしながら地面へと降ろされる。
つま先だけが地面に触れる。
しかしそれでも広大すぎる足はひとつの町をあっさり壊滅させていた。
巨大な足の指たちが、彼女から見れば町と認識できないくらい小さな町に襲い掛かった。
高層ビルも無い小さな町など彼女にとってはただの地面と同じだった。
住宅街の上から、その一本の面積でも町よりも巨大な足の指たちが落下してくる。
普通の家屋など10mも無い。それは彼女からすれば0.1mmすらも無いと言う事だ。
数百の家々が、彼女にそこに家があったと認識されること無く、その超巨大な足の指たちによって押し潰されていった。
彼女の分厚い足の皮膚は、数百の家を踏み潰したことなど到底感じていない。
結局のところ、慎重な足運びをしている彼女も、ショートヘアーの少女と同じように無数の人々を足の下敷きにしていた。



小人の国は、この二人の巨人族の少女達の行為を侵略と断定し対策に打って出た。
数百機もの戦闘機がミサイルを搭載して飛びたった。
しかし彼らはそのミサイルを一つも発射することなく全滅した。

少しでも巨人の急所に近い部分を狙うべく急上昇する戦闘機たち。
高度はとっくに1万mを超えていた。このまま、前方に迫る巨人に向かって上昇し続けるつもりだった。

しかし巨人は、想定していたよりも遥かに凄まじい速度で近づいてきた。
時速40万kmの歩行速度である。巨人はあっという間に目の前にやってきた。

そして彼らは、高度1万mという上空にいながらにして、自分達に向かって踏みおろされる巨大な足の裏を見たのだった。



戦闘機は巨人の一歩で全滅した。大半がその足に直接踏み潰され、僅かに直撃を避けたものもその超巨大な足が動くさいに巻き起こされる突風に撒かれ墜落した。
携帯をいじるショートヘアーの少女が、全く気がつかない間に、彼女は数百機からなる戦闘機群を全滅させていた。



同時に戦車隊も防衛ラインを敷き、数百輌と並んで侵攻してくる巨人を迎え撃つ準備をしていた。
しかしやはり彼らも、あっという間に全滅した。

ロングヘアーの少女が慎重に足を下ろしたところに、丁度彼らの防衛ラインがあったのだ。
戦車隊の小人たちは、頭上から、空を埋め尽くすほどに巨大なつま先が下りてくるのを見上げることができた。
少女が慎重に足を下ろそうとゆっくりとした動作をしていたために、彼らは、自分達の運命を決定付けるその巨大な足が落下してくるところをじっくりと観察することが出来てしまった。
恐ろしく巨大な足の指たちが頭上にあった。空が、その足の指たちだけで埋め尽くされてしまった。
足の指々は土で汚れていた。ここに来るまでに踏みつけた土地の成れの果てだ。良く見れば、原型と止めたビルが土と一緒に足の裏のシワに埋まっているのまで見えた。

超巨大なつま先は、途中にあった雲を突き破り、その下に展開する戦車隊に迫っていった。
空が落下してくるような恐怖。強靭な小人の軍隊たちも、周囲の民間人と同じように逃げ出した。
少女の足の指は、そんな彼らを平等に踏み潰した。当然、彼らの存在を足の裏に感じるのは不可能であった。


「ホラ早く来なさいよ」
「そんなこと言っても、あんまり踏んじゃうのも可哀想じゃない」
「彼らが小さいんだから仕方ないでしょ。それにホラ、見なさい、このあたり一帯全部小人の国なのよ。ちょっとくらい踏んでも大丈夫よ」
「それはそうかも知れないけど…」

軽く言うショートヘアーの少女の言葉に、ロングヘアーの少女は困ったような顔をしながら足元を見下ろした。
地面には、まるで模様のような地形が広がっている。緑色のところ。茶色のところ。そしてこの城っぽいところが小人の町なのだろう。
なるべく踏まないように歩いているが、こうも密集し点在されていては正直足の踏み場も無い。
ショートヘアーのように気にしないで歩けたらどんなに楽なことか。
せめて足を下ろせる場所くらい用意してくれてたらいいのに。
二人からすれば平原に近い小人の国の上で、ロングヘアーの少女は足元の街を睨みながら言った。

そうやって少女が小人の町たちを見下ろしているように、小人たちも少女達を見上げていた。
雲よりも遥かに高い場所まで続く巨大な体。彼女達の体は膝くらいの高さから青く霞んでしまっている。
あまりにも巨大であまりにも遠すぎるからだ。
唯一彼らがはっきりと目に出来るのは、町の上に下ろされた超巨大な足。
その巨大すぎる足が山脈の向こうからでも見える。
巨大すぎる足の指々がビル群の向こうに居並んでいるのが見える。そこに見える超高層ビルたちよりも10倍くらい大きな足の指だ。
ビル群の向こうに、肌色の山脈か壁があるかのようなものだった。

足元の街の人々が自分の足の指を見て恐怖している様など知りもしないロングヘアーの少女はまたそっと足を持ち上げて歩き始めた。
足を持ち上げたとき、その衝撃で足元にあったビル群は消し飛び、彼女の足の指を見て恐怖していた人々も巻き起こった突風で吹っ飛ばされた。

ロングヘアーの少女はしぶしぶ普通に歩き始めた。
こうやって自分が歩くだけで多くの小人が犠牲になっているかと思うと申し訳なく思う。

「あんたは気にしすぎなのよ」
「でも…」
「じゃあこうしましょ。あんたは今、この国のたくさんの男達に水着姿を見られてるわ」
「えぇ!?」

思わず自分の体を両手で抱くロングヘアーの少女。
青いビキニに包まれた大きな胸がむにゅっと寄せられる。

「小さいけども彼らからしたら大きな国よね。きっと何百万何千万という男達があんたの水着姿を見ておかずにしてるのよ。そのおっきい胸とかむっちりしたお尻とかね」
「や、やだぁ…」

ロングヘアーの少女は顔を赤くして体をもじもじさせた。
この国のあらゆるものよりも巨大な少女の肢体を隠せるものは、何も存在しない。
もちろん大勢の男が彼女を見上げていたが、それに対して欲情しているものは皆無だった。

「さぁさぁどうする?」
「や、や、やめてよぉ!!」

ニヤニヤと笑いながら顔を寄せるショートヘアーの少女に、ロングヘアーの少女は顔を真っ赤にして走り出した。
先ほどとは打って変わって足元に全く注意していない走り方だった。
全力で走る少女の全体重を乗せた一歩の衝撃はまるで隕石のように小人の国に襲い掛かり周囲の町を幾つも吹き飛ばし大きなクレーターを穿った。

  ズシィン!!

   ズシィン!!

少女が走り去る為に一歩を踏みおろすたびに周辺の町が消滅し大きなクレーターが残される。
そうやっていくつもの町を消し飛ばしながら少女は地平線の彼方に走り去っていった。

「くくく、ほんとからかいやすいんだから」

走り去るロングヘアーの少女の後姿を、笑いながら歩いて追いかけるショートヘアーの少女。
足の下に新たな町を踏み潰しながら、その少女も地平線の彼方に消えていった。

二人の巨人が去った後には、無数の足跡を残されボロボロになった国だけが残された。
二人の少女がただ通過しただけで、この国は破滅を迎えたのである。