※ どっちかと言うと「嬲り系」。危険度・低。


「うわぁああ!」

必死に逃げる男子。
フローリングの床が靴下ですべる。
それでも手を振り足を出しとにかく前へと突き進む。
出口は遠い。いや、それは出口足り得ない。
奥底では逃げられない事など分かってる。でも、逃げずには、走らずにはいられない。
だがそれも、彼の目の前に下ろされた足によって終わりを向かえる。

 ずしぃん!

巨大な足が彼のほんの数m手前に踏み下ろされ、その振動で彼は足を取られその巨大な足にぶつかった。
半ば抱きつくような形で体を支え、ぶつけ痛む顔を上に向ければ、そこには巨大な少女を見上げられた。
床に下ろされた素足。彼はその踵の方から足に抱きつく形で触っている。
視線の先には足首から始まりふくらはぎ、太もも、スカートとその中の下着、上半身、そして最後に、真上から覗き込むように見下ろす顔があった。
微笑み、というにはあまりに妖艶な。
スカートというオーロラの中の薄暗い空間の中に見える白いぱんつを晒している事もまるで気にしていない。
取るに足らないのだ。

その男子から見て10倍の大きさの少女は、自分が下ろした足にぶつかりそのまま抱きついている男子を見下ろしながらくすくすと笑った。

「どうして逃げるの?」

男子が震えているのが、足を伝わって感じられた。

「さっきまで、あんなに嬉しそうだったじゃない」

学校の帰り道、男子はこの少女に「うちに来ないか」と声を掛けられ嬉々として着いて行った。
クラスの中でもかわいい方である女子に誘われ内心ときめくものがあった。
そして家に到着し部屋に招かれたところで突然の眩暈。ぐらりと揺れる意識の中で目の前に立つ彼女が笑顔のまま大きくなって行った。
やっと意識がはっきりしたときには彼女はビルのように巨大になり、同時に部屋の家具も大きくなってたことで、彼は自分が小さくなったのではないかと推察した。
あり得るあり得ないは別の話。夢かもしれないが、とにかく目の前には巨大な部屋が広がっていた。
彼の前の巨大な足が持ち上がり、それを覆っていた白い靴下が脱ぎ捨てられた後、その足が自分に向かって迫ってきたのを見て彼は逃げ出した。
走る彼の背後にずしんという重低音と振動が響くのが彼女が彼を追いかけてきていると言うことだった。
必死になって逃げた。
それが、今に至る。

彼はおびえていた。理解に苦しむ事態だった。
震えて、もう立っていられない。何かに縋りたかった。そして縋っているのが、元凶である彼女のその足なのは皮肉だった。

「君を誘って、うちに来てくれるって言ってくれて嬉しかったよ。君がわたしにちょっとだけ気があるのは聞いてたし、わたしもそうだったから」

ずい。
少女は男子が縋っている足を少し後ろに動かした。
そのせいで跳ね飛ばされた男子は床に転がされてしまった。

少女はその場に胡坐をかいて座り込み、その過程で転がっていた男子を拾い上げる。
人形のような大きさの彼だ。
手に握る胴体はあまりにも華奢で、握る指先にその温もりが感じられる。

体を握ってきた太い指はやさしくしかししっかりと男子の胴体を掴んで離さない。
腕も一緒に握りこまれ、暴れようにも力が入らなかった。
だが握りこんでくる指の肉は心地よい柔らかさで同時に妙な安心感を得られる暖かさがあった。それで落ち着けるわけではないが。

捕まれた男子は座った少女の顔の前まで持ち上げられた。
高さ数m、足が着かないのは不安になる。
にっこりと微笑む巨大な少女の顔。
更に巨大な人差し指が自分の頭を撫でてきた。
頬を撫でられた。
爪の先で顎を持ち上げられた。
まさにお人形扱いである。

「心配しないで。ちょっと遊ぶだけだから」

言うと少女は男子を床の上に仰向けで寝かせ、その上から先ほど男子の縋っていた素足の右足を乗せた。
男子の体は幅80cmの少女の足によって寸断される形になった。
足の左右から男子の顔と手と、脚だけが出ていた。
丁度土踏まずの下に体がある。
男子の胸から上がそこから飛び出ていた。

「重くないでしょ。体重はかけてないつもりだよ」

少女の足に踏みつけられた男子。
実際、さほど重いわけではない。
しかしどれだけ動こうともその下から脱出できなかった。
ずっしりとのしかかった足がそこに体を固定させていた。
体の大半に、その柔らかさと温もりが感じられた。
ずっとその下にいると、じっとりと汗ばんでくる気がする。

踏みつけられている恐怖から男子は手足をばたばた暴れさせた。
唯一自由な両手で足を叩いてやった。
しかし少女は、笑うばかりで足をどけようとはしなかった。

「はぁ……そう、それだよ。わたし、ちょっと足が敏感なんだ。そうやって触って欲しかったの」

男子の微細な動きに快感を覚えたのか少女の足の指がもじもじと動かされた。
男子は手のひらを思い切りバチンと叩きつけたり拳を振るったりしたが、どちらも自分の手が赤くなって痛くなるばかりで、のしかかるその足をどかす事はできなかった。
渾身の拳を打ち付けてもその弾力のある肌はペチンと音を立て僅かにへこむ程度でそれ以上に変化は無い。
男子は必死になってそれを殴ったが、そこに現れた成果は、拳一発ごとに少女がうっとりとした表情に変わってゆくことだけだった。

やがて男子は疲れ暴れるのをやめていた。
息を切らすほどに殴ったが、足が動く気配はまるで無かった。
手足を投げ出し休んでいた。

「ふふ、おつかれさま」

少女は男子を笑顔で見下ろした。
そして足をどけると再び男子の体を持ち上げ、その背中を先ほどまで乗せていた足の裏に宛がい、両腕を万歳の格好にさせて、右腕を足の薬指と小指の間に、左腕を親指と人差し指の間に挟み、ズンと足をかかとを下にして投げ出した。
足の正面には床にも届く姿見があり、そこに足の裏がしっかりと写っていた。
男子は少女の足の裏に貼り付けにされていた。
両腕を足の指に固定され、しかしその足は床にも届かない。
少女の足の長さもない今の男子にとっては当然の光景だった。
男子の足はようやく少女のかかとの高さにあった。床までまだ数十cmほど高さがある。
その光景は少女からも男子からも姿見にはっきりと見られた。

「うーん、手に持ったときは大きいって思ったけど、こうやって足と比べるとそうでもないね。小さくてかわいいよ」

男子にも鏡の向こうで少女がくすくすと笑っているのが見えた。
少女がかかとを軸に足を左右に少し振ると、そこにぶら下がっている男子の体も一緒に揺れた。

男子は暴れようとはしなかった。
疲れていたし、両腕はあの巨大な足の指にがっちり固定され動かすことができなかった。
折れるほどの力はかかっていないが、このままでは痺れそうだ。

と、思っていたら足は高速で後ろに向かって飛んで行った。
少女のもとに引き寄せられたのだ。
足の裏は上に向けられ、そこに貼り付けられていた男子は再びあの手によって捕まれ持ち上げられた。

「まだ疲れてるでしょう? 休んでていいよ。でも足は貸してね」

少女は手に持った男子の足を手の指で摘み、そこに履いていた靴下を剥ぎ取った。
そして男子の体をその手に持ったまま、あぐらをかいて見えている自分の足の裏に男子の足を宛がう。
大きさの差は歴然だった。
小さな男子の足に対してズンと大きな自分の足。
小さな足の先にある数mmほどの男子の足の指と長さ数cmの自分の足の指。
男子の足はつま先からかかとまで含めても少女の足の指の長さほどでしかない。

少女は男子の体を左手に掴み、その足を右手の指先に摘んで、男子の足のつま先で、自分の足の指の腹を撫でた。
男子の小さな足の指と、自分の足の指の指紋がこすれる感触に、少女はうっとりとした表情で息を吐き出した。
次の男子の体そのものも一緒に移動させ、男子の足で、自分の足の裏にツー…と線を引く。
くすぐったさに指が動く。
少女はくすくすと笑った。
男子の足の裏を自分の足の裏に押し付けてぷにぷにとへこませたり、指の間に入れてごしごしとこすったり。

少女から見れば男子の27cmの足は2.7mmの足になり、男子から見れば少女の23cmの足は2m30cmの足になる。
普通の家ならば、床から天井まで届くような大きさだ。
そんな巨大なものが、男子の足が触れるたびにもぞもぞと動くのは妙な気分だった。

「はぁ…くすぐったくて気持ちいい。自分の指でやっても面白くないものね」

暫く、少女は小さな男子の足を使って自分の足をいじり続けた。

 *

1時間ほど経ち、男子は元の大きさに戻されていた。
目の前には少女が両脚を揃えて椅子に座っている。
さすがに胡坐はかいていない。
足の先は片方だけ靴下を脱いだままだった。

「今日はありがとう。とても楽しかったよ。これお礼」

はい、と手渡される封筒。

「一応口止め料も入ってるからなるべくひとには話さないでね。また付き合ってくれると嬉しいな。それじゃあね」

なんやかんやの内に話は進み、気が付けば玄関の外に立っていた男子。
玄関のドアからは少女は笑顔で手を振っていた。

ぱたん。閉まるドア。
玄関前にぼーっと立ち尽くす男子の手にはあの封筒。
その口からは札束と思わしき頭が覗いていた。

いったいなんだったのか。
男子はただ呆然とそこに立ち尽くした。