ズゥン!

    ズゥン!

都心部を進行する巨大娘。大きさ100倍。
低層ビルは踏み潰し、高層ビルは殴り壊し、逃げ惑う人々など歯牙にもかけず街を破壊を続けている。
周囲を飛び交う戦闘機、戦闘ヘリ。地を走るは戦車、歩兵。
戦闘機が放つミサイルを避けながら戦車に踏み寄る巨大娘を狙う歩兵達。
歩兵達のアサルトライフル、戦車の砲身が火を吹き、巨大娘の身体に次々と爆発を起こす。
砲弾が命中するたびに巨大娘の服に穴が開く。攻撃は確実に効果がある。

一台の戦車が持ち上げられた。相対的に10㎝ちょっとの大きさだ。片手で鷲づかみにされた。
それを顔の前に持ってきた巨大娘は観察し始めた。その時、

  ドォン!

戦車から砲弾が放たれ、それは巨大娘の口の中へと飛び込んだ。
口の中で爆発、火と煙を吐き出した巨大娘は戦車を放り出し口を押さえた。
ズズン! 数歩後退する。巨大な足が歩兵達の横に踏み降ろされた。
その最後の一歩は地下鉄の天井を踏み抜き、巨大娘は後ろに向かって倒れこんだ。

  ズドォオオオオオオオオオオオン!!

周辺のビルが振動で崩れ、歩兵達は吹っ飛ばされた。
そして倒れこんだ巨大娘に、戦闘機からのミサイルが雨霰と降り注ぐ。
弾幕である。
ミサイルが命中するたびに巨大娘の身体がビクンビクンと動く。
無数のミサイルの爆煙が周囲を覆い尽くしてゆくが、それでも弾幕は止まなかった。

すべての戦闘機がミサイルを撃ち尽くし、攻撃が終了した。
やがて煙も晴れ、そこには横たわり動かなくなった巨大娘の姿があった。

歩兵達が取り囲み暫く様子を見たが、巨大娘に動く気配は無い。

「やった…やったぞ!」
「巨大娘を倒したんだ!」
「ついに、ついに我々軍隊が巨大娘に勝てる日が来たんだ…」
「俺達は世界を守ったんだ!」

男達は手を取り合い、武器を掲げて喜んだ。
今まで、この巨大娘の前に無力であった防衛軍がついにその役目を果たすことが出来たのだ。
歓声が湧き上がっていた。


  *
  *
  *


宇宙。宇宙船にて。

「どうしようお姉ちゃん…すごい喜んでるよ」
「そ、そうね…まさかここまでなんて…」

姉妹はモニターを見ながらおろおろしていた。
モニターには先ほど倒された巨大娘とその周辺で万歳をする男達。
この姉妹は、地球を侵略しに来たエイリアンであった。

妹は人差し指を伸ばした。

「こんなに小さなお人形なのにね…」

するとその指先にポツンと何か小さなものが現れた。
それは先ほど軍隊が戦っていた巨大娘と同じもの。
あの100倍の巨大娘である。
だがその巨大娘も、姉妹にとっては1000分の1倍の小さな人形でしかない。
侵略する際はまずこの極小の人形を密かに送り込み星の生態を調査するのが常套なのだが、まさか送り込んだ先の文明がこの人形よりも小さな人々によって築かれているとは思わなかった。
男達の100倍の人形を指先に乗せてしまえるその1000倍の彼女達は、男達の100000倍の大きさなのだ。
今、必死になり無数の兵器を投入してついに打ち倒した巨大娘の周辺で歓声をあげている男達など、彼女達が指一本降ろすだけで全滅してしまう。
足を踏み降ろせばそれこそ街ごと消えてしまう。

「…水を差すのも悪いから…」

姉は妹の顔を見た。

「帰ろうか…」
「…そうだね、せっかく喜んでるんだもんね」

宇宙船は地球を離れていった。
男達は、結果的には地球を守ったのだった。