裁判員制度が導入され一般人も裁判に関わるようになった。
自分の意思が他人の人生を大きく左右するというプレッシャーは心に重くのしかかる。
時に重い判決を強いられることもあるだろう。

だがその制度以外にもうひとつ、新たに導入された制度があることは世間的には知られていない。


   *


薄暗い空間。
白い床と黒い天井に塗り分けられたその部屋は床以外に色のついたものを見つけられない。
まるで白い平原と黒い空であり地平線がくっきりと白黒を分けている。

そんな広大な部屋の壁であろう場所に穴が開いた。
正確には黒く塗りつぶされていた壁の扉が開いたのだ。
そこから人がぞろぞろと入ってくる。
目隠しをした人間と、その人間に付けた縄を引く人間。
二種類の人間がこの部屋の中に入ってきた。
合わせれば300人はいるであろうか。

先頭を歩いていた人間が持っていた縄を床の一部に縛り付けた。
縄は目隠しされている人間すべてを繋いでおり、これでこの人間たちはここに括られたことになる。

縄を持っていた人間たちは部屋を出て行き、後には目隠しをした人間200人だけが残された。
その中の一部の人間は監視がいなくなったのを確認してなんとか目隠しを外していた。
逃げようと、思っていたのだ。

目隠しを外して見ればそこは白い大地と黒い空の空間で、自分たちが通ったであろう出入り口も見分けがつかなかった。
目隠しを取ったら次は手を結ぶ縄を外そうとしたが錠のされた手枷はそれを頑なに拒んだ。

そのときである。
黒い空に何かが現れたのを目隠しを取った人間は見た。
薄暗い空の色が変わる。
黒い空の向こうから降りてきたそれによって空が肌色へと変わった。
それが何かと首を捻っているうちに、それはそこにいる彼らの上にそっと下ろされた。


   *


目隠しをして椅子に座った女の子は指示されたとおりそこに足を下ろした。
素足の足の裏には床のひんやりとした感触が伝わり思わず指をきゅっと握っていた。

『はい、お疲れ様。もう目隠しを外してもいいわよ』

聞こえたアナウンスに従い女の子は目隠しを外した。

「ふぅ。でもこれっていったいなんだったんですか?」
『ふふふ、あまり気にしないで。帰りは横の部屋で足を洗って行くといいわ』
「?」

女の子は首を傾げながら椅子から立ち上がると部屋の出口に向かって歩いて行った。
自分の足の裏に無数の赤いシミが付いているなど気付いていなかった。



『死刑執行人代行』。
無差別に選ばれた少女に死刑を執行させるという社会の闇のシステム。
1000分の1の大きさに縮められた死刑囚の上に、選ばれた少女は何も知らされず足を下ろす。
目隠しをされた少女は 自分が数百人もの人間を処刑したなとどは気付かない。

このシステム最大の利点は、彼らを処刑しても 誰も心を痛めないことである。
死刑を執行するに際し発生する 押し潰されそうなほどのプレッシャーがこれには無い。
これにより、刑を執行した人間が精神に重い負担を抱える必要はなくなったのだ。

更に、縮小されるので遺体も小さくなり処理に手を焼くことも無くなった。
先ほど女の子に処刑された彼らの遺体も、今頃は水で洗い流され なくなっているはずだ。

犯罪が増えるほどに刑罰はより重くなり死刑を宣告される者も増えるだろう。
そうなればまたひとり、何も知らない少女が 手ではなく足を血に染めることになる。