『 体温刑 』



夏の保健室である。

保健室の主、保険医は椅子に座り窓の外のグラウンドで炎天下の中サッカーをする生徒達を見ながらアイスコーヒーを飲んでいた。

「ん、若いっていいわねー。先生じゃなきゃ食べちゃうんだけどなー」

汗を流しながら走り回る若い男子たちを見てクスッと笑う保険医。

そんな保険医のスペックはと言えば黒の長髪、眼鏡、白衣を羽織り、その内には胸元大きくえぐれた服とそれに見合う大きな胸。ミニのスカートからのびる脚は組まれ、正面に回れば、その脚の間に黒の下着を見ることができるだろう。
男子達の憧れの的でもある。

そんな風に男子達を物色していると保健室のドアがノックされた。

 コンコンコン 

「失礼します」

ガラッとドアを開けて一人の女子が入ってくる。
保険医はアイスコーヒーを机の上に置き、回転式の椅子をくるりと動かして入ってきた女子の方に向き直った。

「いらっしゃい。どうしたの?」
「体がダルい気がして…」

トボトボと歩いてくる女子は、確かにダルそうだ。

「んー、最近暑いからねー、体調崩しちゃったかな。ま、とりあえずソコ座って。でもって一応体温測ってみよっか」

女子に椅子に座るよう促し保険医は机の上にあったビンに手を伸ばす。
掌サイズのビンの中から中にいるものを適当にひとつつまみ出す。

「はい。じゃあ体温計 脇に入れて」

そう言って保険医は女子の掌の上にそれをポトッと落とした。
女子の掌の上には100分の1サイズの男子が乗っていた。


この学校では、校則を破った生徒には様々な罰が与えられる。
その種類は多岐に渡るが、その一つがこの『体温刑』である。


女子の掌の上に乗せられた男子は尻餅をついて震えながら女子を見上げていた。
そんな男子に女子の巨大な指が迫り、男子は悲鳴を上げながらその場にうずくまるが、そんなこと関係なく、女子の指は男子をつまみ上げた。

右手に男子を摘んだ女子はワイシャツの隙間から手を入れ左脇の下に男子を入れる。
その後、男子が落ちないように脇をしっかりと閉める。

女子の脇の下に囚われた男子は肉と肉の間に挟まれ身動きが取れなくなった。
むぎゅう。正に指さえも動かすことのできない圧力の中、大の字で体を固定された。
女子にとって男子が落ちない程度に脇を閉めるということは男子にとって体が潰れんばかりの威力なのである。

更に今の季節は夏。
脇の下は発汗の量が多い場所だ。
男子を挟み込む女子の脇は最初からそれなりの量の汗をかいており、男子を締め付ける肉はすべるほどの水分を放っていた。
しかしこの圧力の中ではそんなすべり気など意味は無く、女子の汗は、男子には溺れるような水気とむせ返るような臭いを提供するだけだった。

わずかにツンとするような臭い。女子の体臭を含んだ汗。
それが、男子を挟み込む脇の下にどんどんあふれ出てくる。
夏。熱い気温。熱い体温。大量の汗。換気のされない閉所。全身を容赦なく包み込んでくる女子の脇の肉。
悲鳴もあげられない。悲鳴を上げようとすると口の中に大量の汗が流れ込んでくるからだ。
塩っ辛い液体が口を、喉を、そして胃袋を刺激する。塩水でも飲んでいるかのようだ。

あまりの辛さに男子は暴れた。暴れて逃げようとした。
しかし

「ん…くすぐったい」

脇の下の男子の微かな動きをくすぐたがった女子は脇をややすり合わせ更に強い力で脇を閉めたので、男子は脇の肉の間でズリズリとすり潰されんばかりの動きに晒され、その後更に強く締まる肉の間に閉じ込められることになる。
呼吸すらも満足にできない圧力。しかもこの密閉された空間に満ちる残り少ない空気もそのほとんどが濃密な汗の水分と臭いに占領され、男子は否応無く女子の汗と体臭を吸い込まねばならなかった。
強烈な圧力と臭いと体温と言う名の気温。
それら三強にやられ、男子は頭がクラクラし意識を失っていった。
女子にとっては男子を脇の下に挟んでから1分と経たぬ間のことであったが、男子にとっては永遠とも取れるほど永く辛い時間だった。


そんな男子の意識が途切れるギリギリのところで、突如、その凶悪な肉壁を押しのけてやってきた巨大なものに男子は挟まれ肉の檻から引きずり出された。
そして落とされた場所は、女子の掌である。女子の指によって脇の下から引きずり出されたのだ。

自身の掌の上で、制服を着た全身をぐっしょりと濡らしぐったりと横たわる男子を見ても女子の表情は変わらない。これは体温計で、自分は体温を測ったにすぎないからだ。
ただちょっと、その体温計が自分の汗で塗れている事と自分の汗の臭いがすることが恥ずかしかった。

その女子の掌の上の男子をつまみ上げ観察する保険医。

「ふむふむ、熱はないよーね。やっぱり夏バテかな。暑いときは無理しないでしっかり休むこと。スタミナつくもの食べるのもいいかもね」

言いながら保険医は摘んでいた男子を元のビンの中に放り込んだ。
ビンの中では、同じように体温刑に処された100分の1生徒たちが、今しがた刑を執行されて戻ってきた男子のぐったりとした様に恐怖していた。

「はい。ありがとうございました」

女子はペコリと頭を下げると保健室を出て行った。

パタン。
戸が閉じて、また一人になる保険医。

「んースタミナがつくものかー。うなぎとかいいわね。でも私としてはやっぱり若い男の子の方がー…」

と、またサッカー男子鑑賞会に戻ろうとした保険医だが、ふと思い出す。

「おっといけない」

保険医は肌蹴た白衣の間にある自身の胸の谷間に指を突っ込み、そこにあるであろうものを探し、つまみ出した。
谷間から抜き出された指先には先ほどの男子と同じく100分の1サイズの別の男子が摘まれていた。

「新入りクンを試すつもりですっかり忘れてたよ。おーい、生きてるかーい?」

脚をつまんでプラプラと男子を振る保険医。
しかしどんなに荒っぽく扱われても男子は動かない。すでに気を失っているからだ。
体温気温などの暑さはもとよりその圧力がやばい。
服を盛り上がらせるほど大きな乳房はその服の中でギュウギュウと寄せられすんごい密度となる。
小さな男子の体など今にも押し潰されてしまいそうな凄まじい圧力だ。
しかも保険医が体を動かすたびに左右の乳房がずれるように動き、谷間にとんでもない力場を生じさせる。
流石の若い男子も、自身の100倍の大きさの保険医の胸の力には勝てなかった。

「起きないわね。んー、まぁ若いし大丈夫でしょ」

あっけらかんと笑った保険医はその男子もビンの中に放り込み、アイスコーヒーをストローで吸いながらサッカー少年たちの観賞を再会した。