※【バカ】 完全に思い付きのネタである。そして計算は多分間違っている!!



 『 天使の憂鬱 』



暗黒の宇宙に流れる一筋の閃光。
流星ではない。
それは、ひとりの天使。

風の無い宇宙で靡く金色のツインテール。
淡く光るその身には何も纏っておらず、純白の翼と金色の環だけが少女の身を飾る。
まさに神の創造物と言える天性の美貌を持った美少女の姿。
残念なのはそのかわいらしい顔の頬がぷくぅっと膨れむっつりおかんむりなことだ。

「ったく神様も人(天使)使いが荒いわよ! なんで私がこんな宇宙の端っこまで来なきゃいけないわけ!? たかが生態調査なんかでさ!」

キーッ! 手足をバタバタ動かし不満を体全体でアピールする天使。
ただどんなに大きく動いても、大きくない胸は揺れない。
仲間内でもちょっと小さ目のその胸は、天使の悩みの種の一つだった。

そんな天使は今、上司である神様の命を受け辺境の星の生態調査に向かっているところである。
目的の星のある銀河に入り、その無数の星の中から目的の星を探しているのだ。
星と星との間をふわふわと飛び回りきょろきょろとあたりを見てその星を探す。

「神様の話じゃ綺麗だから一目見ればすぐわかるってことだけど…そんな情報だけでこの中から星一個を見つけられるわけないじゃん! 結局探知機頼りに地道に探すしかないのね」

はぁ…。ため息をつく天使の頭の上で、アホ毛が一本まるで方位磁針のようにくるくると回っている。
目標物を探してくれる便利なアホ毛だ。
直径約10万光年と比較的小さな銀河とは言え、ここから星ひとつを探すには何かに頼らなければ骨である。
最も、このアホ毛があっても面倒なものは面倒で、天使はため息をつきながら、自分のアホ毛が指し示す方に向かって飛んでゆく。
今の飛行速度は時速1500京kmとかなり遅めだが、この小さな銀河の中の小さな星を探すためにはやむを得ないことだ。

天使の身長は16億km。人類の1兆倍の大きさである。
現在の飛行速度、時速1500京kmとは光速の約1400万倍だ。
星と星の間を飛んでいると言ったが、それは天使に見える大きさの星の間という意味で、実際には天使の目に見えないほどに小さな星が飛び回る天使の体にぶつかって消失していっていた。
この銀河最大の星でも大きさは天使の拳ほどの大きさ。数千万kmである。直径100万km程度の惑星恒星は移動している天使の目に留まることすら難しい。
そういった天使に気付かれる事の無かった星が己の体にぶつかって砕け散っているのを天使は感じてもいなかった。
もちろん100万km以下の星も無数にあるので、

「ペぺッ! あー口の中に星が入ったー。だから嫌なのよ銀河の中飛ぶの。口に星が入ってザラザラするし、呼吸すると鼻がムズムズするし、目は痒くなるし、髪や羽は汚れるし!」

こうなる。
目を凝らしても見る事の出来ない無数の星も漂っていて、その中を飛び回れば色々と弊害が出るのだ。

「ふぁ……っくしゅ! …ずず。神様が自分で来なさいよまったくもう!! ……あれ? 探知機に反応が…」

一発くしゃみしたあと探知機のアホ毛が一方向を指示した。
天使はそちらに向かって進路を取り飛んでゆく。

約3000光年ほど飛行して、天使はそこにたどり着いた。

「…」

アホ毛が指し示す場所。
そこには何もないように見える。

「…」

だがよーく目を凝らすと、ピコンピコンと示すアホ毛のその先端の先に、小さな小さな赤い恒星があった。
直径約140万km。天使から見れば1.4mmの星である。

「……これ?」

訝しげな天使の顔。
それはそうだ。今自分の目の前を浮遊しているその赤い星が、目的の星が旋回している星なのだ。
こんなもの、探知機が無ければ気づきもしなかっただろう。
今だって睨みつけるように目を凝らしてその存在をしっかりと認識しているくらいだ。

「こんなの気づくわけないじゃないのよ! こんなチビの惑星なんでしょ!? 何が綺麗だから一目見ればわかるよ! 目に見えないくらい小さいのに綺麗も何もあるか!!」

その恒星を前にしてむきーっ! と暴れる天使。

「……はぁ…。たしか太陽系って言ったっけ…ここ。目的の星は地球だっけ? 全然見えないわよ…」

確か太陽という名のその小さな恒星のまわりをいくら見てもその地球と言う星は見えない。
恒星でこれなのだ。もしかしたらもっと小さいのかも知れない。
生態調査以前の問題だ。

「しょーがない。小さくなるか」

  バシュン

まるでその場から消えたのではと錯覚した。
一気に極小サイズにミクロ化したからである。

「これがさっきの恒星? 結構大きくなったわね」

天使の横には直径1.4mほどの恒星があった。
真っ赤に燃え滾るそれは太陽の名にふさわしい。

天使は先ほどまでの1000分の1に縮小したので、相対して、1.4mmだった太陽は1.4mまで大きくなったのだ。
そして周りを見ればその太陽の惑星らしきいくつかの星が浮遊している。

「うわっ。こんなに縮んでもまだこんなに小さく見えるのかー。これじゃあいくら探したって見つからないはずよ」

現在の天使の身長は160万km。人類の10億倍の大きさである。
さきほどまで見えなかった太陽の惑星たちは、今は指先サイズの大きさになりようやくちゃんと見える大きさになった。

「さってっと、地球地球~っと」

太陽の周囲を旋回する惑星たちを見渡す天使。
確か3番目の惑星だったはず。
入力されているデータを追って、アホ毛が方向を指し示す。

「これ…じゃないわね」

進む先、天使は目の前に来た星を手のひらに受け止めるようにして観察した。
実際に手で触れるわけではなく、星の背後に手のひらを回し自身の肌の肌色の中に星の色を浮かせたかったのだ。
直径5mm弱の小さな星が背景を天使の手のひらにしふわふわと漂っている。
これが目的の星で無いと確認した天使は次の星を目指して飛び去った。

ほどなくして次の星が見つかった。
が、これも違う。
大きさは先ほどの星の倍以上にあるがそれでも天使の指先サイズのその星はアホ毛の指し示す星ではなかった。

「これも結構綺麗なんだけどなー。神様の言う星はもっと綺麗なのかしら」

天使は目の前に浮かぶ黄金色に輝く星に目を奪われていた。
まるで高価な宝石のような美しさだ。
できればお持ち帰りしたいところだが、そんな事をすれば神様に怒られる。
天使は後ろ髪引かれながらもその星を離れた。

そして次なる星に進む天使。次がその3番目の星のはずだが。
そうして飛行していた天使だが、アホ毛がそれを指し示す前に、天使はその星に気付いた。この暗黒の宇宙に、恒星とは別の意味で輝いていたからだ。
気付けば、天使はまるで吸い寄せられるようにその星に接近していっていた。

目の前に、青く輝く星がゆっくりと回転しながら浮いている。
澄んだ青色に僅かな白と緑の模様がある。
宝石とかそういう美しさとは違う、心の底から愛おしくなるような惹かれ方だった。

「これが地球……。うぁ…本当に綺麗…」

暗黒の宇宙に浮かぶ青い星に天使の目が釘付けになる。
その地球の径ほどもある大きな二つの瞳に、地球の姿が写りこんでいた。

「こ、これって触っちゃだめかしら」

ゆっくりと手を伸ばす天使。
目の前の地球に、天使の指が近づけられてゆく。
天使の指は指先だけでも地球の直径ほどの大きさがある。
指の直径は約1.2万km。長さは7万kmほどだろうか。指先に輝く爪も1万km以上あるのだ。
指先が近づいたことで地球に影が落ちた。
地球の北半球全体が人差し指の指先が作る影に、側面を親指の指先の影に覆われ、更に巨大な手が地球を包み込むように接近したこともあり地球全体が夜になるという異常な現象をきたしていた。

「っとと! そんなことしたら本当に神様に怒られる!」

天使は慌てて手を引っ込めた。おかげで地球は夜が一瞬にして昼に変わるというまたしても不可思議な現象に見舞われた。

「はぁ…綺麗だな~…」

暫く、天使はうっとりとした表情で地球を見つめていた。
だがいつまでも見つめているわけにはいかない。これは神様から言い渡された任務なのだ。

「さて、生態調査生態調査………って、どうやって調査すればいいのよ」

今 目の前に浮かんでいる指先ほどの大きさも無い星。
こんな星のどこに生物がいるというのか。
まさか微生物なのだろうか。となると、もっと縮小してそれらを採取しに行くのもためらわれる。
虫のような生き物だったら決して見たくないものだ。こんな綺麗な星にそんな生物がいるとは思いたくないが。
悩む天使。

「ん~…………そうだ、この星ごと採取しちゃえばいいのよ。あとは持って帰って適当に生態調査して、であとで戻しに来れば神様にもばれないでしょ」

うんうん、と頷いた天使の右手に光と共に小さなカプセルが現れた。
小さい、と言ってもそれは天使にとってであって、実際は直径6万km以上と地球の5倍以上の大きさのある惑星サイズだった。
それを両手で持った天使がキュッと手を捻るとカプセルは上下にカパッと割れた。まるでガチャポンのカプセルだ。
そして上下に割ったカプセルの中に、地球をぱくっと挟み込む。

「これでよしっと」

天使はカプセルを目の前に持ってきて覗き込んだ。
カプセルの上半分は透明の、下半分は赤色の物質でできていて中を覗きこむ事が出来るのだ。
このカプセルの中は内部の空間の状態を維持するので、たとえどんなに激しく動かしても中の地球に影響はない


「これであとは持って帰って生態調査するだけね。そのあとは……あわよくばそのまま私のものにしちゃって…。アクセサリにしたら綺麗だろーなーでへへへ…」

天使の口元から涎がたれる。

「まぁとりあえず元の大きさに戻りましょ。小さくなると肩が凝るのよ」

そして天使の体は閃光を放ち元の大きさに戻った。
元の大きさに戻った天使が辺りを見渡してみるとそこには普段見慣れた暗黒の宇宙とそこに浮かぶ無数の靄があった。
銀河の中を飛び回っていた時のように、周囲に無数の極小の超巨大惑星が浮いている。ということは無かった。
天使は丁度、自分の、何も纏っていないむき出しの股間の前にある1cmほどの薄い靄を見下ろして苦笑した。

「さっきまでこの中にいたのよね~。改めて見るとホント笑っちゃうわ」

天使の股間の前の靄。それは先ほどまで天使が地球を探し回っていた銀河である。
これが天使の本来の大きさである。
最初、銀河の中を飛び回っていたあの人類の1兆倍(身長16億km)ですら天使には凄まじいミクロ化の状態だったのだ。
現在の天使のその股間の前を漂う銀河は約10万光年。
それが1cmに見えるということは、天使の本来の身長は1600万光年ということになる。
1光年とは9兆4607億3047万2580.8kmである。
面倒なのでこれを10兆kmとすると、銀河の大きさは約100京kmとなる。
その銀河が1cmに見えるということは、天使の身長は1垓6千京kmということだ。
人類の千垓倍である。
その身長を数字にすると

160,000,000,000,000,000,000km

である。
地球の直径が

13,000km

であることを思えば両者を比較したとき、

160,000,000,000,000,000,000km
13,000km

ほどの差が出る。
そこに住む地球人(身長170cm)との比較は

16,000,000,000,000,000,000,000,000cm
170cm

となる。
ちなみに太陽系の全長がおよそ300億kmとしても、

160,000,000,000,000,000,000km
30,000,000.000km

と、天使の方が圧倒的に大きい。
そもそも天使にとっての1mmが

100,000,000,000,000,000km

というとんでもない値であり、身長などと並べると

160,000,000,000,000,000,000km :天使の身長
100,000,000,000,000,000km :天使の1mm
30,000,000.000km :太陽系の全長
13,000km :地球の直径

となり、すべてが天使にとっての1mmよりも遥か遥か小さな値になるのだ。
もともと銀河ですら天使にとっての1cmくらいの大きさでしかないのだから、その中のほんの一部である太陽系や地球などが比べ物になるはずも無い。



天使は、その銀河の百倍以上の途方も無く巨大な体で「んー!」と伸びをした。
元々巨大な体が更に巨大化するような凄まじい動作だった。

「さて、とっとと帰りましょ。あー…口にいっぱい星が入ったからかしら…なんか妙にむずむずするわ…」

天使は長さ千六百京km(16,000,000,000,000,000,000km)の大きさの手で自分のお腹を撫でた。
指の太さは1,200,000,000,000,000,000km。長さは7,000,000,000,000,000,000kmにも届くだろう。
指先に煌めく美しい爪もその長さは1,000,000,000,000,000,000kmを遙かに超えた長さなのだ。
それはつまり光が天使の爪の上を通過するのに10万年かかり、指の長さを通過するのに70万年かかり、手の上を通過するのに160万年かかることを意味した。

そんな巨大な手でキメ細かい肌のお腹をぐるりと撫でる。
健康的な肌に無駄な肉はついていない。が、お腹同様胸もすっきりしているのが天使最大の悩みだった。
手がどけられたあと顔を出したおへそは直径10万光年以上あり決して奥が深いわけではないのだが、そこはブラックホールさえ出てこれないほどの巨大な暗黒の世界となっていた。
天使にとっては普通でも、宇宙にとっては天使のおへそは数万光年もの深さがあるのだから。

任務を終え神様の下に戻るべく、天使はくるりと背を向け、背中の純白の翼をばさりと羽ばたかせる。
そしていざ飛び立とうと下半身に力を入れたときだった。

  ぷぅ~

「うっ!」

天使は思わず固まった。
お腹の調子が妙だとは思ったが、おならが出てしまうとは思わなかった。
ここは宇宙のど真ん中だ。どこで誰が聞いているかわからない。
天使は飛び立とうとした体勢のまま固まっており、そしてそのまま首だけをそろーりと動かして周囲を確認した。
どうやら周囲には誰もいないようだ。天使はほっと安堵の息を吐き出した。

さぁさぁ、気を取り直してとっとと帰ろう。
顔を羞恥で僅かに赤らめながら頭をぶんぶんと振る天使。
ふとその頭のアホ毛が背後に反応を示した。
このアホ毛は探知の機能のほかに異常の発見なども教えてくれる。ホントに便利なアホ毛だ。
天使は背後を指すアホ毛の先を追い、なんだろう? と背後を覗き込む。
すると先ほどまでそこにあった銀河がなくなっていた。先ほどまで地球を探していたあの銀河が、だ。

「あれ? なくなってる……………げッ!?」

天使は思わず自分のお尻を押さえた。

「ま、ま、まさか、今のおならで…?」

天使の顔がみるみるうちに赤くなってゆく。なぜか頭の環っかまで真っ赤だ。
もちろん天使ほどの大きさともなればそのおならが銀河を吹き飛ばすほどの威力を持っていてもなんら不思議ではない。
実際、今そのむっちりとしたお尻の谷間から放たれたおならはそこにあった薄い靄である銀河を一瞬で消し飛ばしてしまった。
超巨大な恒星も、暗黒のブラックホールも、どちらも天使の放った凄まじい破壊力のおならによって完全に消滅させられてしまったのだ。
かの超新星爆発の何倍、何万倍の威力があったのか。それはわからない。しかしその宇宙最大の爆発である超新星爆発を軽くかき消してしまえる威力があったのは間違いない。
大量のガスが放出されたあと天使のお尻はもとの落ち着きを取り戻した。
銀河があった場所にはもう塵ひとつ残っておらず、あとには天使の放ったガスが残るのみだ。
天使のお尻の周辺では、ゴゴゴゴという宇宙を揺るがす凄まじい音が鳴動していた。

天使は自分のお尻を押さえたままおろおろしていた。あの銀河は神様のお気に入りなのだ。すでにいくつもの星を破壊してしまってはいたが、銀河そのものにダメージを与えたわけではなかった。
が、これは流石にまずい。
銀河そのものを完全に吹っ飛ばしてしまった。しかもおならでだ。
更これから任務の報告と生態調査の為にいやでも神様に会わねばならない。絶対に怒られる。ぜーったいに怒られる。
どうしよう。どうにかしなければ。
だが天使には銀河を再生させられるような力はなかった。
逃げられようはずもなければ、隠せることでもない。
天使は泣きそうだった。

「……………戻るしかないよね……。あぁ……絶対怒られる………」

天使はがっくりと肩を落としながらふよふよと宇宙の彼方に向かって飛んで行った。
ここに来た直後は神様に対する不満でぷりぷりと顔を赤らめ怒っていたが、今はその神様に怒られることを想像して真っ青になっていた。
残ったのはカプセルに入れ別次元に格納しているあの地球という星だけだ。銀河ひとつの中からこれしか残らなかった。
いったいどんなお仕置きが待っているのか。天使は憂鬱だった。


※ただたんにとんでもなくデカい子を書きたくなっただけなんです。ここまでデカいと比較対象がないことはおろか、大きさの計算も面倒くさいしデカすぎでどんくらいデカいのかわからない! なんとか銀河を引き合いに出して大きさを表現できたけど。
身長1600万光年娘。初めて身長の値に光年使ったよ。
……実は続編があったりする。それはまた今度で。