※【ノリ】  勢いでゴリ押しした。

「天使の憂鬱1」→ http://gs-uploader.jpn.org/documents/hearthiel/tennyuu.htm




 『 天使の憂鬱2 』




「だぁぁあああああ! ごめんなさい神様ーーーーーー!!」

天使の悲鳴が轟く。
天使は今、彼女から見れば100倍の大きさの神様の右手の指先でくるくる丸められていた。
その手の主である神様。
全裸の天使とは違い、ギリシャのトガのような白い布を身に纏い、椅子に座って、笑顔で天使をこねくり回している。

「ふふふふ、あの銀河はね~、私が何百億年と大事に育ててきたものなのよね~。あんたもそれは知ってるわよね?」

ふふふふ…、と笑いながらも額の青筋はビシッと自己主張している。
天使をこねる指先にメリメリと力が込められてゆく。

「いだだだだだだだ! 潰れるー! このままだと潰れちゃいますー!!」
「それを、なに? 『おならで吹っ飛ばしちゃった』? ちょーっとなに言ってるかわからないかな~」

メキメキメキメキ…!
天使を摘まむ指先により一層力が込められ天使の体から鈍い音が聞こえ始める。

「あばばばばばばば! すいませんすいませんすいませんすいません!!」
「んーどう落とし前つけてあげましょうかねコノヤロー」

にっこりと笑う神様のその指先で、神様から見たら2cmも無い大きさの天使がピーピーと悲鳴を上げている。

「そうねー。10億年くらい私のお腹の中で生活するとかー」
「さ、さすがに溶けちゃいますー!!」
「これから毎日私の体を洗うとかー」
「か、神様、元の大きさに戻ったら今のウン倍も大きいじゃないですかー!!」
「爪のお手入れを手伝ってくれるとか―」
「う、宇宙よりも広い爪のお手入れなんかできませんよー!!」
「……」

神様はにっこりと笑って、

「口答えするんじゃないの」
「プギャーーーーーーー!!」

天使を摘まむ指に力を込めた。
神様の指先でぐにぐにとこねられ、手足をビーン! と伸ばす天使。

ちなみに天使はミクロ化しているわけではない。本来の1600万光年のままである。
そんな天使を、神様は指先でこねくり回しているのだ。
単純に、天使を摘まむその指の太さだけでも1200万光年。光ですら、神様の指の太さを通過するのに1200万年もの凄まじい年月を要する。
が、今の神様は天使にお仕置きをするためにミクロ化しているのであってこれが本来の大きさではない。
神様がどのくらいの大きさなのかは、現在の単位では測る事ができないのだ。
以前、天使は神様の足の小指にペディキュアを塗るべく無限にペディキュアの出るバケツを持ってその上を飛行したことがある。
天使の本来の飛行速度は光速の五千垓倍を遙かに超えているのだが、バケツからペディキュアを流しながら不眠不休で1000万年ほど飛行し続けたが景色はまったく変化せず、断念して結局神様に自分で塗ってもらったのだ。
神様曰く、天使は神様の感覚で1㎜も進んでいなかったそうだ。
光速の五千垓倍を遙かに超えた速度で1000万年飛行し続けても神様にとっての1㎜も満たない。神様はどれだけ大きいのかと。

天使の飛行速度を光速の五千垓倍とし、それを時速に直すと
時速 540,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000kmとなる。
そして地球のある宇宙の直径をkmであらわすと、
930,000,000,000,000,000,000,000kmとなる。

分かりにくいので秒速にして計算すると、天使は1秒間に宇宙の直径の161倍もの距離を進むことができるのだ。
そんな天使が1000万年かけて飛行しても1㎜にも満たないのだから、神様の本来の大きさは計り知れない。

ちなみに天使が1000万年かけて進んだ距離は、
47,304,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000kmである。
実に宇宙 50,864,516,129,032,300,000個分の距離だ。
それすらも1㎜に届かない神様の感覚は最早次元が違うのだった。

そんな神様は今凄まじく小さくなり、身長1600万光年ある天使の両足をそれぞれ左右の手で摘まんでいるのである。

「このまま引っ張っちゃったらどうなるかしら。試してみたくない?」
「やめてーーー!! やめてください! 私、二人になっちゃいます!!」
「あら、まだそんな軽口が利けるのね。じゃあちょっとだけ」
「いやぁぁぁああああああああああああああああああ!!」

天使の悲痛な悲鳴が響き渡る。
そして神様は足を摘ままれ逆さまになった天使の両足を、ほんの少し(それでも最低100万光年)引っ張った。

と思ったら神様の指先から天使の姿が消えた。

「あら?」

これは神様の予想外。
きょとんとして首をかしげる神様。
するとそこに、

「ほらほら、あんまりいじめちゃかわいそうでしょ」

もう一人、神様と同じ大きさの女性がやってきた。神様Bである。
その手のひらの上には天使が乗せられていた。

「いいじゃない銀河のひとつくらい。無数にある宇宙の中の無数の銀河のひとつでしょ」
「これは私と部下のその子の問題です」

神様改め、神様Aはぷいとそっぽを向き、神様Bはやれやれと肩をすくめた。

「あんたの部下には同情するわ。ほら、泣いちゃってるじゃない」

神様Bの手のひらの上で天使がダーッと涙を流していた。

「死ぬがどおぼいまじだ…(すんすん)」

そんな天使の頭を指先でよしよしと撫でる神様B。

「おーよしよし。もう大丈夫だからね。(神様に向き直って)そんなに怒るなら最初から自分で行けばいいのに」
「銀河や宇宙の管理も天使の仕事の一つだもの。あの銀河は特別な生態系のあつまりだったのよ。それをよりにもよっておならで吹っ飛ばすなんて」
「一番大切な星は無事だったんだからいいじゃない。それにおならならあんただって大きなこと言えないでしょ」

にやーりと笑う神様Bの言葉に、ドキッとする神様A。
それを見ていた天使がえぐえぐ涙を拭きながら尋ねる。

「えぐえぐ……何かあったんですか?」
「んふふふ、実はこいつね…」
「ちょ、ちょっと! 変なこと言わないでよ! 上司としての私のプライドに関わるわ!」

慌てて止める神様A。

「あぁ、プライドに関わるのね。ならなおさら言う。絶対言う。実はね~こいつもおならでひと騒動起こしたことあるのよ」

にっこりと笑って手のひらの天使に話しかける神様B。
友人をイジるときの彼女は邪神的にあくどい。

「え!? そうなんですか!?」

驚く天使。

「うんうん、私たちが新米女神の頃の話なんだけどね~」
「ちょ、ちょっと! 本当に話すの!?」
「別にいいじゃないの。そう言えばこの前あんたに貸した2千円はいつになったら返してくれるのかしら」
「げ…」

神様Aは唇を噛みながら引き下がった。

「で、こいつったら縮小して空間での宇宙作成訓練中にうっかりやっちゃったのよ」
「宇宙作成訓練中ですか」

宇宙作成。神様の基本的なお仕事である。
神様は集中すると宇宙を作り出せるのだ。

「うん。宇宙を創るために意識を集中したら集中のしすぎでつい『ぷぅ~』って。もう私横で堪えきれなくなって大笑いしちゃったわ」

思い出し笑いなのか自分のお腹をバシバシ叩き始める神様B。
ただ、おならで失敗した天使にはちょっと笑えなかった。

「…でも、それがなんでひと騒動だったんですか?」
「まぁ宇宙って集中すればいろんな方法で作れるけど、大抵は視線の先だったり指先の前だったり集中しやすい部分で作るのね。ところがこいつったら自分のおならから宇宙を作っちゃったのよ」
「おならからですか!?」
「うん、おならから。天使ちゃん、あなたが行ったその宇宙って、その始まりはどうだったって聞いてる?」
「は、はい。確かビッグバンが起こってそこから色々なものが広がって…」
「まさにそれ」
「…は?」
「ビッグバンってこいつのおならの事」
「えぇぇえええええええ!? そうだったんですか!?」

驚く天使。その天使を見てまた大笑いする神様B。
神様Aは真っ赤になった顔を両手で隠して「ぎゃー!」とか言っていた。

「おならで宇宙作った奴なんてこいつが初めてだから、もう当時の同僚の間で広まっちゃって大騒動になっちゃったのよ。こいつがおならするたびに『あ、世界作ったのか?』なんて言って」
「ほ、ほとんどイジメのレベルですね…」
「ホントよ! おかげで私はいつまでもネタにされるんだから」

神様Aが涙目で抗議してきた。

「ま、そういうことだからあんたがおならうんぬんで文句言っても笑い話にしかならないわけよ。それに壊れたなら直せばいいじゃない。大した手間じゃないでしょ」
「それはそうだけど…」

神様Aはバツが悪そうに視線を泳がせた。
結局のところアレだ。昔の自分の失敗を思い出して気まずかったのだ。

「まぁ部下の前でかっこつけていたいってのはわかるけど、あんたは元が元なんだから無理に取り繕わなくてもいいじゃない」
「何よそれ。慰めてるつもり?」
「全然」

(-A-)な顔の前で手のひらをヒラヒラと振る神様B。

「うぅ…! どうせ私はダメダメよーー!」

涙を流しながら走ってゆく神様A。
天使の100倍。身長十数億光年の神様が長さ2億4千万光年の足をズシンズシンと踏み下ろしながら。

「あぁ! 神様!」
「ほっといても大丈夫よ。あいつ、心の中ではあなたに申し訳ないことしたって思ってるし、そういったことや自分の過去を知られて恥ずかしかったりして、そういう気持ちを整理するために逃げたの」

微笑ましげな表情で神様Aを見送る神様B。伊達に無限に友人をやってはいない。

「だからあなたもほっといてあげて。そのうちあいつの方から戻って来るわ」
「え…でも…」

神様Bにそう言われた天使だが、主である神様Aが去って行った方を見つめ後ろ髪を引かれるような顔になる。
そんな天使の頭を指先で優しく撫でる神様B。

「あんたはいい子だね~。あんたみたいな部下を持ててあいつは幸せだよ」

そして天使を手のひらから降ろした。
下された天使はふわりと浮かび上がる。

「それじゃ私は戻るわ。あなたも仕事上がりなんだから羽を伸ばしなさい。どうせ今日は仕事なんて来ないんだから」

上司の神様Aが逃亡してしまったのだからそりゃそうなるわけだ。
そして神様Bは地響きを立てながら部屋の入り口の向こうに歩いて行った。
残された天使は暫く神様Aの走って行った方を見つめていたが、やがてふわふわと部屋を出て行った。


  *


「はぁ…」

天使の待機所にてソファに腰掛けた天使はため息をついていた。
神様Aは泣いていた。
もちろん神様Aと神様Bはもう無限に近い時間を一緒に過ごしてきた親友だからこういうことも二人にとってはいつものことなのだろうけれど、そうやって神様Aが泣いてしまう理由をつくったのは私だ。私がおならで銀河を吹き飛ばしてしまったから。

「はぁ…」

またため息をついた。
銀河の3つ4つを軽く吹き飛ばしてしまう威力を持ったため息だ。

と、そのとき。

「あの~、どうされました~?」

やや間延びしたような声が天使にかけられた。
俯いていた顔を上げると、目の前には別の天使が立っていた。
足元まで届く長い金色のストレートヘアー。そして天使(以後天使A)とは似つかぬほど成熟した魅惑的な肢体を持った天使。天使Bである。

「あ、天使Bさん…」
「何かお悩みでも?」

天使Bが前かがみになってソファに座った天使Aの顔を覗き込んでくる。
その所作で、胸板にぶら下がる特大サイズの乳房がぶるんと揺れた。
天使Bは天使Aの先輩にあたる天使で天使の中でも特級クラスの実力を持った優等生である。
現在最も大天使に近い天使として、他の天使や神様から注目されている天使だ。
もちろん、天使A同様身には何も纏っていない。
天使Aは自分のせいで上司である神様Aを泣かしてしまったことをぽつぽつと語った。
気分としては懺悔に近いものだったが、そんな天使Aの告白を天使Bは笑顔で受け入れてくれた。

「失敗は誰にでもあるものです。大切なのはその失敗に躓いて転んでも、ちゃんと起き上がる事ですよ。今日、神様を泣かせてしまったのなら、明日は笑わせてあげられるようにしましょう。そうすれば神様も喜んでくださいますよ」
「天使Bさん…」

天使Bは優しい声で語ってくれた。天使Aは目頭が熱くなるのを堪えきれず涙を流しながら天使Bに抱きついた。
天使Aの顔程の大きさがある二つの巨大な乳房の谷間に顔をうずめる天使Aを、天使Bは笑顔で撫でていた。

「さて、そのためにはまずあなたが笑えるようにならなくてはなりません。どうですか? 一緒にお散歩でも」

そう言って天使Bは天使Aの手を取った。


  *


二人の天使はとある宇宙にやってきていた。
二人の周囲にはたくさんの銀河がふわふわと漂っている。今の天使Aにとっては若干のトラウマだった。

「では行きましょう、天使Aさん」
「はい…。でも、宇宙の中なんて飛んでどうするんですか?」
「お散歩とは特に目的があってするものではいんですよ。こうして無数の星たちに囲まれたところで過ごすだけでもとてもリラックスできます」
「そうなんですか」
「はい。そうだ天使Aさん、ではよりリラックスするために銀河の香りを嗅いでみてはどうですか?」
「へ? 銀河の香り?」
「はい」

言うと天使Bは手近な銀河に顔を寄せ、すぅーと鼻で息を吸い込んだ。
すると天使Bの顔の前を漂っていた銀河が、天使Bの鼻の穴の中にすぅーと吸い込まれ消えて行った。

「ふふ、素敵な香りです」
「え、でも、いいんですか? 銀河なくなっちゃいましたけど…」
「はい。この辺りの銀河は別に大事なものでもないのでなくなっちゃっても大丈夫ですよ。さ、天使Aさんも嗅いでみてください」

天使Bに笑顔で薦められ、天使Aも近くを漂っていた銀河の一つに顔を寄せた。
銀河は本当に小さい。大きさにして1cmほどしかないだろう。
そんな銀河が鼻の前に来るように顔の位置を調節して、花の香りを嗅ぐように息を吸い込んだ。
すると銀河の端の星から順に鼻の中に吸い込まれてゆき、天使Aが息を吸い込み終る前には銀河は星ひとつ残さず吸い込まれていた。
銀河の星々が鼻の中に吸い込まれてくると、天使Aはふわっと心地よい香りが鼻の中に漂った気がした。

「あ、本当だ。いい香り…」
「いかがですか? 星たちの満ちたエネルギーが素敵な香りとなって感じられるんです」

言いながら天使Bは別の銀河の香りを嗅いでいた。

「私はこの香りが大好きで、休みの日とかこうやって臭いを嗅いでるだけで終わっちゃうときもあります」
「そ、そんなに銀河を消費しちゃって大丈夫なんですか!?」
「たくさんある宇宙の無数に漂う銀河の一部ですから。それにいざとなったら自分で宇宙を作りますし」
「えっ!? 天使Bさん、宇宙作れるんですか!?」
「ええ。もちろん神様方のように簡単に作れるわけではありませんが」

天使Bはにっこりと笑って言ったが、天使Aは驚愕したままだ。
宇宙を作るなんて神様クラスでなければできない技術、まさに神業である。
それができるなんて…最早大天使クラスどころではない、次期神様クラスの実力だ。
元々天使の中でも抜きんだ実力者であった天使Bは天使Aの憧れの人でもあったのだが、まさかそこまでの実力を持っていたとは。
あまりの事実にぽかんとしてしまう天使Aだった。

そんな天使Aをきょとんとした顔で覗き込んでくる天使B。

「どうなさいました?」

その幼さ残る童顔に至近距離から顔を覗かれ天使Aは顔を赤くしながら慌てて後ずさる。

「い、いえ! なんでも、なんでもありません! ただ天使Bさんの凄さに驚きまして…」
「ふふふ、ありがとうございます。でも私なんかまだまだです。神様方はまばたきするくらい簡単に宇宙を作れますが、私は本気で集中しないと作れませんから」
「で、でも宇宙を作れるだけで十分に凄いと思いますよ! 他の天使には…ていうか大天使クラスにも宇宙を作れるひとなんていませんよ!」
「ふふ。もしかしたら、私はこうやって銀河の香りを嗅ぐのが好きなので、そのために自分で宇宙を作る技術が身に着いちゃったのかもしれませんね」

ふふ、と笑う天使Bの笑顔にはおごりも何もない。
自身の実力をひけらかしたり自慢したりなどしていない。
天使Bは、その技術すらも自分を形作る要素の一つに過ぎないと理解し前面に押し出したりはしていなかった。
能ある鷹は爪を隠す。とはこういうことを言うのだろうか。天使Aは思った。

「はふぅ…天使Bさんて凄いですね…。宇宙を作れちゃうほどの実力もあるし、綺麗だし、大人だし…」

天使Aは羨望の眼差しで天使Bを見つめていたが、そうやって天使Bの素晴らしさを口にするたびに、それと比較して自分のレベルの低さを認識し落ち込んて行った。
実力も、心も、そして体でも、何一つとして天使Bに並ぶものを持っていない。
自分の卑小さにため息すら出てしまう。

天使Bと並べば自分などただの子供だった。
特に体では、その成長の度合いは天と地、いや、そんなものでは比較しきれない違いがあった。

自分をきょとんとした顔で見つめてくる天使Bの胸元では特大サイズの乳房がぶるんと揺れている。
その胸を見た後に自分の胸を見下ろしてみると、その起伏の慎ましさには涙すら出てしまいそうだ。
ぺったんこ。というわけではないが、谷間など無縁レベルのふくらみだった。

「はぁ…」

思わず自分の胸に両手を当て、ため息をついてしまう天使A。

と、その天使Aの手に天使Bの手が添えられた。

「ふぇっ!?」
「大丈夫ですよ天使Aさん。あなたはまだ成長の時が訪れていないだけ。まだ蕾なのです。その時が来ればすぐにあなたの体は成長し、立派な花が咲きますよ」
「で、でももう何十億年もこのままだし…」
「開花の時はひとそれぞれです。今はまだ、それが必要ではないというだけ。やがて素晴らしい花を咲かせるために、今は自分をじっくりと磨いてください」
「て、天使Bさん…」(ぶわっ)

ダーっと涙を流し天使Bに抱きつく天使A。
抱きつくと胸に天使Bの巨大なふくらみの弾力を感じたが、それさえも素晴らしく愛しい。

そんな天使Aの頭を、天使Bはやはり微笑みながら優しく撫でた。


  *


「でも天使Bさんはほんと綺麗な体してますよねー…」

言いながら天使Aは天使Bの体を上から下まで見た。
胸は大きく、腰はくびれ、ヒップラインの素晴らしさは同じ女の天使Aも赤面してしまいそうだ。

「ありがとうございます。でも私は天使Aさんの体もとてもきれいだと思いますよ」
「いや私の体なんて出るとこも引っ込むところも無い寂しいものです…」

自分で言ってて鬱になる天使A。

「誰も私の体なんか求めてないですよ…」
「そうでしょうか? 私としては天使Aさんのスレンダーなボディはとても魅惑的な流線型をしていて素晴らしいと思いますけど」

天使Bは天使A腰から太腿までを手で撫でる。
その手の感触がこそばゆくて天使Aは「はぅ!」と体を震わせた。

「…うぅ、でも私的には天使Bさんのダイナマイトボディは凄い羨ましいんですけど…。いったいどうやったらそんなボンキュボンになれるんですか…?」
「んー…どうするんでしょう。別になにか特別なことをしていたわけではないのですが…。もしかしたらずっと銀河の香りを嗅いでいたのでその吸収された星のエネルギーが体の成長に関係したりしたのでしょうか」

頬に指を当て「うーん」と考える天使Bの言葉を受け「ハッ」と顔を上げる天使A。
もしもそうならば、私は宇宙中の銀河を吸い尽くしてもいい。
天使Aは周囲を漂う銀河たちを獲物を追う肉食獣の目で見た。

「でもそれも仮説に過ぎませんね。検証するのも難しいでしょう」
「…そうですよね」

天使Aは肩を落とした。だが、一縷の光は見えたのだ。
これからは仕事でどっかの宇宙に行ったらできるだけ銀河を吸い込む事にしよう。

それはそれとして、今は目の前にある、その完成した乳房に意識が行っていた。
天使Bの胸板からバインと飛び出た存在感たっぷりの凄まじいお胸。
いつかこんなものをぶら下げて歩いてみたいものだ。
そして実際に、これはどんな感触がするものなのだろうか。

そうやって天使Aが自分の胸を見ている事に気付いた天使Bはふふっと笑って言った。

「触ってもいいですよ」
「…いいんですか?」

じろりと上目遣いになる天使A。そんな天使Aに天使Bははっきりと頷いた。

「はい。天使Aさんが求められるなら、ぜひ参考にしてください」

にっこりと笑う天使B。
天使Aはごくりと喉を鳴らした。

「で、では…失礼します…」

そしてゆっくりと手を伸ばし、天使Bの胸に正面から手のひらで触れた。

 たぷっ

そんな音が鳴った気がした。
手はやわらかな乳房にぴったりと吸い付くような感触を覚えた。
柔らかいが弾力があり、押し付けた手のひらを押し返そうとしてくる。
これが巨乳というやつか。

「す、すごい…」

天使Aは顔を赤らめながらその感触を堪能した。
左右の乳房に両手を伸ばし軽く揉んでみたり、両手を乳の下に回し持ち上げて見たり。
その手に、乳の重さと柔らかさと弾力をこれでもかと受け止めた。

「どうですか?」
「こ、これはクセになりそうです…」
「ふふ、ではじっくりと堪能してくださいね」

すると天使Bの体が光に包まれ、やがてそれまでの10倍の大きさになっていた。

「え? えええぇぇぇええええぇぇえっ!? な、なんですかそれ!!」

天使Aが驚愕した表情で上の方に行ってしまった天使Bの顔を見上げた。
今や銀河が1mmに見えるようになってしまった天使Bは笑顔で見下ろしてきていた。

「はい。最近できるようになったんです。巨大化って言うんですよ」
「きょ、巨大化!? た、確かに私たち天使や神様は小さくなることは出来ますけど、大きくなるなんて聞いたこともありませんよ!?」

天使Aは唖然としていた。
縮小化は天使も神様もできる。決して珍しいことではない。
だが、本来の大きさよりも大きくなる巨大化なんて、そんなこと今まで見たことも聞いたことも無い。考えすらしなかった。神様の中にも、そんなことができる人がいるとは聞いていない。

あんぐりと口を開けたまま天使Bを見上げる天使A。

「す、すごいですね…」
「ありがとうございます。本当はもっと大きくなれるんですけど、今は必要ないですね」
「え゙…っ!? ま、まだ大きくなれるんですか!?」
「はい。以前試したときには本来の100兆倍まで大きくなることができました」
「ひゃ…ひゃくちょうばい!?」

あまりにもピンと来ないので天使は指折り数え始めた。
いち、じゅう、ひゃく、せん…。
そうやって数えていって、指が15回折れたところでようやく目的の数に達した。

「100000000000000倍……」

わけがわからん数字だ。

「本来の私の身長が165,000,000,000,000,000,000km(1垓6500京km)なので、その時は16,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000km(160溝km)ですね」

天使Bがにっこりとほほ笑みながら言う。が、天使Aにはその値がどんなものが理解できなかった。

「す、すみません…。大きすぎてよくわからないんですけど…」
「うーん、そうですね~…」

天使Bがほっぺに人差し指を当てて考える仕草をする。
ついでにもう片方の手は胸を抱くようにして添えられたので、今や驚異的なサイズとなった乳房がぐいと寄せられ、天使Aは顔を真っ赤にした。

「例えるなら、天使Aさんの目の前には銀河がありますよね」
「は、はい」

天使Aは頷いた。
目の前だけではない。銀河はこの宇宙のそこらじゅうに点在している。

「その銀河の中には無数の星系(太陽系などの、いわゆる星の集まり)があるわけじゃないですか」
「はい、あります」

本来の大きさである今は、銀河は小さな靄のようにしか見えず、その靄の一粒一粒がそれら星系だろうということしかわからなかったが。
以前のように極小の大きさになればそんな粒サイズの星系も詳しいところが見えてくるのだろうが。
あのときはその粒サイズの星系のひとつである太陽系というところに生態調査に行ったのだった。
星の一粒一粒は極小サイズになってすら見ることができないほど小さい。
最初、生態調査で星の中を飛び回っていたときは本来の1千億分の1の大きさだった。そこまで小さくなればその太陽系とやらもなんとか見えるようになった。
だが、今は銀河の中にそれら星系を窺がうことなどできはしない。
星なんて0.00000000000013mm程度の大きさしかないのだ。
そんなものが集まった星系も0.0000003mmくらいにしかならない。
そんな星系が無数に集まってできたがこの銀河である。
この銀河の靄の一粒一粒がその星系なのだ。
そんな小さなもの、肉眼で見えるはずがない。

「それでですね。100兆倍の大きさの私からは、宇宙が、今 天使Aさんの見ている銀河の中の星系くらいの大きさに見えるんですよ」
「そ、そうなんですか……。………………………………………………………………………………………………は?」

は? 星系?
目の前の銀河を覗き込む天使A。
それはどんなに目を凝らしてみてもただの靄にしか見えない。
え? これ? この靄の一粒に見えるの? 宇宙が?

と言った表情で天使Aが見上げると、天使Bは「はい」とにっこり頷いた。


  ……。


  ……。


  ……。


「えぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

天使Aの絶叫が宇宙に響き渡った。

「え? あれ? え? だ、だって星系はこーーーーんなに小さくて、で、で、宇宙はこーーーーーんなに大きくて、そ、そ、それが、こんなに小さく見えちゃうんですか!?」

天使Aは目の前に浮かぶ銀河を指さしながら言った。
無数の星系が合わさってできるその銀河ですら、今向けている指先ほどの大きさしかないのだ。

「見えちゃうんです。でもあのときはそこまで大きくなって止めてしまったのできっともっと大きくなれると思いますよ」
「ま、ま、まだ大きくなれるんですか……………!!」
「多分ですが。でも流石に神様ほどに大きくなることは出来ないと思いますけど」

天使Bはくすっと笑ったが、天使Aは固まってしまった。
そりゃ本来の神様の大きさは現在の常識では測ることができない大きさだ。神様たちに並べるものなんて神様たち以外になり。
かつてその足にペディキュアを塗ろうとした天使Aにはわかる。
神様は自分たちとは次元、いや最早言葉では言い表せないところで違うのだ。

しかし神様に及ばないとはいえ、そんな巨大な大きさになれる天使Bも凄まじいものだった。
桁が違う。それこそ0がいくつついても足りないくらいに。
100兆倍なんて理解を超える大きさも凄いが、すでに今のその10倍の大きさの状態も十分に凄かった。

そして10倍になったことで、一緒に10倍になったその乳房も恐ろしいほどに巨大化していた。
今や天使Aが抱きつくことができるほどに大きくなっている。
胸囲はおそらく960,000,000,000,000,000,000km(9垓6000京km)はあるだろう。
これは単純なムネのデカい小さいのレベルを超えている。
二つの巨大な乳房には威圧感すら感じた。
そうしていると頭上から天使Bの声が轟いてきた。

「はい、ではどうぞ」

頭上にて天使Bが天使Aを見下ろしながら微笑んでくる。

「え…どうぞって…」
「じっくり堪能してくださいという話だったじゃないですか。この大きさならきっと天使Aさんを包んで差し上げることもできると思いますよ」
「お…おお…」

天使Bは天使Aを迎えるように両手を軽く広げた。
そして天使Aは目の前にある超巨大な乳房にむかって近寄っていった。

近寄ってみると益々巨大だ。
上から下まで、天使Aの身長ほどの大きさがある。
手を触れてみると先ほどと同じようにしっとりとした手触りで柔らかな感触があり、今度は手全体に弾力を感じた。
温かく、すべすべで、一度触れたらもう手を離したくなくなる。

「うわぁ…気持ちいい…」

天使Aは乳房のひとつに抱きついた。天使Aが抱きついても両手を回せないほどに巨大な乳房は天使Aの体を張り付けたまま悠然と弾んだ。
抱きしめると全身に乳房の温かさを感じられた。体全部を使っても覆いきれない巨大な乳房だ。両手両足を使ってしがみ付いていた。

自分の胸に張り付く天使Aを見下ろして天使Bはくすくす笑った。

「どうですか?」
「最高です~…。私もう一生天使Bさんのおっぱいに張り付いていたい…」
「ふふふ」

胸に張り付いてご満悦といった顔の天使Aの頭を指を使って優しく撫でる天使B。
やがて天使Aは天使Bの胸の谷間に移されきゅっと寄せられた乳房の間で小さく寝息を立て始めていた。


  *


「…ん……むにゃ……」

眠たげに眼をこする天使A。
うすぼんやりとした視界が晴れてくると、目線の先から元の大きさに戻った天使Bの顔が見下ろしてきているのかわかった。

「お目覚めですか?」

天使Bがにっこりと笑った。

「あれ……私……寝ちゃって……?」
「はい。ぐっすりと気持ちよさそうに眠られていました」

意識が覚醒すると天使Aは自分が天使Bの太腿を枕代わりに眠っていたことがわかった。
どうやらずっとひざまくらをしてくれていたらしい。

「すみません、私…」
「い~え。謝る事なんかありませんよ。私も天使Aさんのかわいらしい寝顔を見せていただいたので」

天使Bが微笑むと天使Aは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「すみません、天使Bさんの…その…胸がとても気持ちよかったので…」
「ふふ、いえいえ、喜んでいただけたのならなによりです。よろしければまたいつでもおつつみいたしますよ?」
「えぇ!? い、いいんですか!?」
「はい。私もまた天使Aさんの寝顔が見たいので。なんでしたらこれからすぐでもいいですよ」

言うと天使Bは自分の胸をきゅっと寄せた。
今は同じサイズの天使Aにも、そこに深い谷間が形成されるのが見えた。
さきほで自分が眠っていた至高の場所だ。
寝て起きたばかりだが、今すぐにでも飛び込みたい。むしろ残りの一生はその谷間の中ですごしてもいいと思うくらいだ。

だが…。

「それは…とてもとってもありがたいんですが…、もうそろそろ宮殿に戻らないと神様が…」
「そうですね。ではお楽しみはまた今度にとっておくこととしましょう」

天使Aは申し訳なさそうな顔で言ったが、天使Bはまるで気にしたようすもなく快諾してくれた。

「なので今はこれだけです」

不意に天使Bが天使Aに近寄ってきて、そして天使Aの顔を胸の谷間にうずめた。

「ッ!!??!??!??!?」
「私も天使Aさんと一緒にいるととても楽しくて。またすぐにお会いしましょうね」
「は、はい……ッ!!!」

にっこりとほほ笑みかけてくる天使Bに、胸の谷間にうずめられながらその顔を見上げて返事をした。
やばっ、鼻血でそう…。
天使Aは何かに目覚めそうな気がした。


  *


そして天使Aは天使Bと別れ、上司である神様Aがいる部屋までやってきた。
神様Aは機嫌を直してくれているだろうか。

「神様ー…いらっしゃいますか…?」

そっと入り口のところから顔をだし部屋の中を覗く天使A。
ちなみに部屋の大きさは天使の基準からするとすべてが100倍の大きさだった。
基本、天使たちと交流するこの宮殿にいるときは神様たちの大きさは天使たちの100倍なのである。

そうやって顔を覗き込んだ天使は顔を「うっ…!」としかめた。

「お、お酒臭い…」

鼻をつまみながら部屋の中を見渡してみると部屋の中央で神様Aと神様Bが一升瓶(?)を片手に叫んでいた。

「仕事がなんだーッ! 毎日毎日宇宙作って管理して飽きるっつーの!!」
「そーそーその意気。ストレスなんかお酒で吹っ飛ばしちゃいな。ほれ、もっと飲め飲め」

神様Aのグラスにドボドボとお酒を注ぐ神様B。
本来神様Aの執務室であるこの部屋は、完全に酒盛りの会場と化していた。

天使は部屋に満ちた酒の臭いと酔っぱらった二人の女神の威圧感に圧されながらも恐る恐る部屋に入り神様たちに近づいて行った。

「あ、あのー神様、ただ今戻りましたー…」
「おー来たか」

突如天使に向かって伸びてくる巨大な手。
ひぃッ! 天使は慌てて逃げようとしたが手の方が速く、天使は巨大な手にがっしりと握りこまれてしまった。
酔っぱらって加減の利かない神様の巨大な手の中で潰されんばかりの圧力に包まれながら、天使は神様Bの顔の前に持ってこられた。

「どーこ行ってたのよ。あなたがいないからこいつがいつまでたってもウジウジしてんのよ」

ヒック。
と顔を赤くし、目をとろんとさせた神様Bが見下ろしてくる。
完全に出来上がっている!?
天使は顔が引きつった。
でも神様がウジウジしているというのは…。

と、今度は巨大な指が襲来し、天使の白い翼を摘まみ高速で連れ去った。

「ぎゃー! 痛い痛い! 痛いですー!」

そんな悲鳴を上げる天使が連れてこられたのは、神様Aの顔の前だった。
本来なら同性の天使でさえも羨ましく思うほど美貌に包まれたその顔は酒によって真っ赤に染まり、髪はぼさぼさになり、口元からは酒臭い息を吐きだし、目元には大量の涙を浮かべていた。

「か、神様…」

天使の視線の先で、100倍も大きな顔がひっくと震えながらギンと鋭い目で睨みつけてくる。
そして…。

「わーん! 天使ごめんねー!! ほんとは酷いことするつもりなんてなかったのよー!」

もう片方の手に持っていた酒の入ったグラスを投げ捨て天使を両手で頬に押し付ける神様。

「ぎゃー! 神様潰れますー! 潰れちゃいますー!」

神様の巨大な手と巨大なほっぺの間から天使の悲鳴が響く。
ぐりぐりと動かされる手の中でのしいかのようにされる天使。

それは天使の悲鳴が聞こえなくなるまで続けられ、ようやく神様が手のひらを押し付けるのを止めたときには、天使はその手のひらの上でぐったりと横たわっていた。
そんな天使の様子に関係無く、神様の嗚咽交じりの謝罪が始まった。

「ぐす…。私もおならで変なことしちゃった経験があったから、あんたがおならで銀河を吹き飛ばしちゃったって聞いて、まるで自分の過去の失敗を穿り返されてるような気がして恥ずかしかったのよ…」

ぐす…と天使を乗せていない方の手で目をこすり涙をぬぐう神様。

「あんたは生意気で口答えするけど…真面目でかわいから…ついいじめたくなっちゃって…」
「……そーなんですかー………」

顔を青くしてぐったりと横たわる天使の口からぼそーっと紡がれる、まるで抜け出た魂のようにひょろひょろっとした言葉。

「で。できるだけいじめられる理由ができるように無茶なお願いとかしてわざと失敗させてみたりして…」

ぐしぐしと無く神様の目から涙がダバダバと流れ天使の乗せられた手のひらに降り注いだ。
涙でできた池に天使の体がぷかぷか漂う。

「でもあんたはそんな無茶なお願いでも一生懸命頑張ってくれて、こんなダメな私なのに「神様ー神様ー」って慕ってくれて………うわーん! ごめんね天使ー!!」

ぶわっと涙をこぼした神様は再び天使を頬に押し付け頬ずりをした。

「ぎゃー! 潰れますー! 今度こそ潰れちゃいますー!! ……っていうかやっぱり悪いのは神様じゃなくて失敗した私…」
「ぐすん…。ううん…あなたは悪くないわ…。あんたは必死に頑張ってくれてるもの…。悪いのは全部私よ…」
「で、でも私が失敗したのは事実ですし…」
「あなたは頑張っただけよ。失敗なんかしてないわ。悪いの全部私なの…」
「いえ私が…」
「ううん私よ…」
「私が…」
「私よ…」
「…」
「…」

…。

手のひらに乗せられた天使と天使を手のひらに乗せた神様。
二人は無言で見つめ合っていた。



 ドン!

という大きな音がして二人は我に返った。
一升瓶を床に下した神様Bが「プハーッ!」と酒臭い息を吐き出して言う。

「まぁまぁお二人さん。仲直りできたならそれでいいじゃない。さ、どんどん飲みましょ。今日は神様とか天使とか関係ないわ」

右手に床に下した一升瓶を持ち、左手に瓶ビールを持ってそれをラッパ飲みする神様B。

そんな神様Bを見て呆気に取られていた二人はぷっと吹き出し、お互いもう一度見つめ合った。

「ありがとう、天使…。大好きよ」
「私もです…。神様」

天使は神様の手のひらの上からふわりと飛び上がり、神様の大きなほっぺにキスをした。
神様も天使を手のひらに乗せその小さなほっぺにキスをした。

二人はくすっと笑って見つめ合った。


  *


「ぎゃー! もう飲めませんー…!」

ふらふらと飛んで逃げる天使を神様Aの手ががっしりと捕まえる。

「ダメよ! まだ夜は始まったばかりなんだから。ヒック」
「そ、そんらこといっらって~。もうフラフラですよぅ~」

実際天使の顔は真っ赤に染まっていた。
何故か環っかと翼まで頬と同じように赤くなっている。

「ダーメ。あんたならもっと飲めるわ。ほら飲みなさい」

すると天使は神様の持っていたグラスの中に放り込まれ、その中にお酒がドボンドボンと注がれる。
お酒のプールでおぼれそうになる天使。

「がぼぼぼぼぼ…! お、溺れちゃいますー…」

と天使が水面に顔を出すと、そんな天使を神様が舌なめずりをしながら見下ろしていた。

「お酒の天使割り…。なかなかおいしそうね…」

ひっ! 天使は寒気がした。
急いでグラスを飛び出して逃げようとした天使だったが、それよりも早く天使の入ったグラスを持つ手が動いた。
神様は天使が入ったグラスを口に着ける。
グラス唯一の出口が、神様の巨大な口元でふさがれてしまった。

「ひぃぃぃいいいい!」

自分にとってはプールのような大量のお酒があっという間にゴクンゴクンとその巨大な口の中に消えてゆく。
飛び上がる間も無く、天使はその飲み込まれてゆく酒の波に呑まれたままその淡い唇の間を通って神様の口の中に消えて行った。
グラスの中の酒を飲み干し、ふぅと息を吐き出す神様。

満足そうな顔の神様。
すると、その唇の間から天使がぴょこんと顔を出した。

「はぁ…危機一髪だった…」

神様の唇に体のほとんどを挟まれたまま天使はぐったりと息を吐き出した。

そんな天使を神様の巨大な指が摘み出し目の前に持ち上げた。

「うふふ、天使ったらかわいい。食べちゃいたいくらいよ」
「今まさに食べかけましたよ…」

はぁ…と盛大にため息をつく天使。
上司である神様はお酒が入ったせいなのか普段とは違う方向でやたらと構ってくる。
まさかこれが本来の神様なのだろうか。
普段は神様と言う立場故に部下である天使と遊ぶことなどできず、そして溜まっていった鬱憤を晴らすために普段はあんなイジメまがいのことをしてくるのか?
今はお酒に酔ってその欲望が全開放され、己の欲求を取り繕う事無くストレートにぶつけてくる。
その仕草というか所作は、小さな子供のそれみたいに純粋だった。
ストレートで、明け透けで、遠慮なく愛情表現をしてくる。
自分をそれほどまでに大事に、大切に、そして想っていてくれていることはとてもとても嬉しいのだが、その表現が重すぎる…。
神様の愛情を受け止めるために天使は生と死の境を行ったり来たりしていた。
神様に遊び殺される…。
天使は冷や汗が流れていた。

そんな天使の上司であり現在天使の生死を完全に掌握している神様は、指先に摘まんで目の前に持ち上げている天使をとろんとした目で見つめている。
お酒で赤くなった頬はリンゴのように鮮やか且つ艶やかで、神様ではないが食べたくなるほどおいしそうだった。
ぷるんとした唇は鮮やかな赤に彩られ、酒に濡れたそれは胸が高鳴るほど魅力的だった。
その唇の間から酒気を帯びた息が吐き出され天使の体に吹き付けられるのだが、その息は酒の香り以外に大人の女性としての色香が感じられた。
天使の視界のすべてを埋め尽くす巨大な神様の顔は、そのすべてが同棲である天使が頬を染めてしまうほどに美しい。
天使Bとのことがあるとはいえ、自分は決してそういう性癖をもっているわけではないのだが…。

指先に摘ままれた天使に、神様はくすくすと笑いながら話しかける。

「さぁ天使。次はなにしましょうか?」
「も、もう勘弁してください…。このままじゃマジでくたばってしまいます…」
「大丈夫よ。もし死んじゃったりしたもちゃんと生き返らせてあげるから」

ふふっ笑いながら簡単に言う神様。
確かに神様にできない事などないのだから天使一人生き返らせるくらい造作も無いことだろう。
だがその告白は、うっかり殺しちゃうことがあるかもしれないと言っているようなものだ。
本当に遊び殺される。愛ゆえに殺される。愛殺される!

「か、神様B! 助けてください!」

天使はこの部屋にいるもうひとりの神様に助けを求めた。
神様を止められるのは神様だけだ。

だが天使が見た先で神様Bは一升瓶を持ったまま床の上に大の字になって倒れぐーぐーイビキをかいていた。
身に纏っていた薄手の白い布はぐしゃぐしゃに乱れまくり、大の字になって寝転がる様と合わせてみっともないことこの上ない。
一升瓶を持っていない方の手でお腹をポリポリ掻いている。
昼間自分を助けてくれた常識的な対応と神様としての威厳と気品は、最早どこにも残っていなかった。

「…」
「さ、なにしましょうか?」
「ひっ!」

神様Bの姿に唖然としていた天使に神様の顔が近づいて来ていた。
ぺろりと舌なめずりをしている。
食べる気だ! 口に入れて遊ぶ気だ!
天使は必死になって自分を摘まむ指から脱出しようとしたが、酔っているとはいえ神様の力から逃れられるはずも無かった。
やがて顔は更に近づいてきて、さきほど自分の唇を舐めたあの巨大な舌が、今度は天使の小さな体をペロリと舐め上げた。

「ひゃっ!」

天使は思わず悲鳴を上げた。
酒と唾液に濡れた熱く巨大な舌が、天使の体を下から上に舐め上げたのだ。
舌はそのひと舐めで口の中に戻っていったが、その口はそれからしばらく動かされ続け、やがてにやっと笑った。

「ふふふ~天使の味だ~」

酒気を帯びた神様の声が天使の体を色々な意味で震わせた。
そして再び口が近づいてくる。だが今度は舌は出てこず、代わりに、あの艶めかしい唇に縁取られた口がぽっかりと大きく開かれたのだ。

「あーん…」

開かれた巨大な口。そこからは酒臭い息がむわっと吹き出し、先ほど自分を舐めた巨大な舌が獲物を待つように蠢いている。
その巨大な口が更に近づいてくる。同時に天使を摘まむ手も、天使をそこに下そうと口に近づいてゆく。
ばたばたと暴れる天使。
最早視界は、神様の口の中だけだ。

「や、やめてください神様ーーー!! きゃーーーーー!! いやぁぁああああああ!!」

天使は悲鳴を上げていた。
べろんべろんに酔っぱらった今の神様はその行為に信用が置けない。口に放り込まれて、うっかりと呑み込まれてしまうことだって十分にあり得る。むしろそれを狙っているのではないかとさえ思えた。
だから絶対に口の中にはいれられたくなかったのだが、神様の指は天使がどれだけ暴れようとも微塵も揺るぎはしなかった。

「…」

ところが天使を摘まんだ指は口の中から出てゆき、その口もすぐにぱくんと閉じられた。
天使は再び神様の目の前に持って行かれる。

「そんなに嫌なの? 私と遊ぶの…」

その巨大な目にはまた涙が溜まっていた。

「え!? い、いやというわけでは…!! ただ今日はもう疲れちゃいまして、続きはまた今度がいいかなー…と」

できればこんなことの続きは永遠に来ないで欲しいと思うが、それでも今このときを中断させるためにはそういうしかない。

そんな天使を、涙目の巨大な目がジロリと睨みつける。
天使はダラダラと汗を流していた。

ふいに神様がふぅと息を吐きだし、同時に天使を睨みつけていた目の剣呑さも無くなった。

「まぁ疲れちゃってるなら仕方ないわね。今日はヤケ酒みたいなものだったし、今度は二人でゆっくり晩酌しましょ」

神様がはぁとため息をつくのが天使には見えた。だがそれは不快な思いから吐き出されたわけではないようだ。
天使は自分を摘まむ指に込められる力が弱くなるのを感じた。やっと解放してもらえる。

「そ、それじゃあ私は自分の部屋に戻って休みますので。神様もほどほどにしてくださいね」
「あら別に部屋まで戻らなくてもいいわよ」
「え…?」

天使が訝しむ間もなく、天使を摘まんだ指はそこに移動した。
神様の胸の谷間の上に。

「えぇぇッ!?」
「そこで眠りなさい。大丈夫よ、潰したりしないから」

言うと神様は天使を自身の胸の谷間にそっと差し込んだ。
神様の巨大な乳房の谷間から天使がちょこんと顔を出している。

「苦しくない?」
「は、はい…ていうかこれは…」

天使が見上げた先で谷間を見下ろしてきた神様が苦笑するように笑いながら言った。

「今日はもうあなたと離れたくないのよ。無理矢理で悪いけど、付き合ってくれる?」

神様の大きな目は天使をしっかりと捉えている。酔って出ただけの言葉ではないのだ。
実際に天使は心地よい安心感を得ていた。
天使Bのときのそれよりも更に巨大な乳房だ。あの時すでに両手両足を使っても覆うことのできなかった胸は、今度は見上げるほどに巨大なものになっていた。
天使Bのそれもとても気持ちよかったが、神様のそれは天使Bのそれとはまた違った意味で安心できた。
この安心感は、まるで母の胸に抱かれるような懐かしくそれでいてとても温かい気持ち。
天使は神様の顔を見上げ笑顔で言った。

「はい、わかりました」
「ふふ、ありがと」

やってきた神様の指が天使の頭をやさしく撫でる。
そうやって胸の谷間に包まれたまま頭を撫でられると、天使はすぐに眠ってしまった。
自分の胸の谷間ですーすー寝息を立てる天使を見下ろしくすっと笑った女神はグラスにお酒を少量注ぎ、誰にとなく、笑顔で乾杯をした。


  * おわり *







 おまけ  ※高度な十六夜理論が展開しています。あまりにもアホらしくて理解できない方、あなたの脳は正常です。


天使Bが銀河に顔を近づける。
そこを漂う銀河の前に、直径約70京kmほどもある超巨大な二つの鼻の穴が近づけられた。
穴の中は暗黒の闇だった。ブラックホールの様である。
まさかその銀河の星々も、自分たちの上空に光ですら通過するのに7万年もかかるほど巨大な鼻の穴が接近してきているとは夢にも思わなかっただろう。
天使Bの動きやゆったりと優雅なものだった。まるで道端の花に顔を寄せているような仕草である。
だが直後、その超巨大な鼻の穴はまさにブラックホールのような勢いで吸引をし始めたのだ。
鼻の穴のすぐそばにあった銀河があっという間にその形を崩し靄の束のようになって流れるようにその巨大な鼻の穴の中に吸い込まれていった。
天使Bが息を吸い込み始めてほんの一瞬の出来事である。
銀河の端が吸い込まれ始めたかのように見えた瞬間、その銀河のすべてが天使Bの鼻の穴の中に消えてしまった。
無数の星系。無数の星が、あの暗黒の鼻の穴の中に一瞬で吸い込まれてしまったのだ。
銀河の中にはいくつかのブラックホールがあったのだが、それすらも残さず吸い込まれ消えて行った。
天使Bが息を吸い込み終わる頃には、そこには銀河があった痕跡など何も残ってはいなかった。

銀河一つを丸々吸い込んでも天使Bは不快そうな気配など微塵も漂わせない。
それもそう、無数の星々のあつまりである銀河も、天使Bにとってはただの香りのある靄でしかない。
直径1万kmある惑星も、100万kmを超える恒星も、天使Bにとっては塵にも満たない大きさだからだ。
どれだけ吸い込んだところで、むず痒さすら感じない。
すべてが等しく、天使Bに素敵な香りとしか認識されず、鼻の穴の中に消えて行った。
天使Bの吸い込む力は凄まじく、圧倒的な質量をもつ天体たちを煙のように軽々と吸い込む。
光さえ吸い込むというブラックホールさえ吸い込む、最強の吸引力だった。
吸い込まれた星々は、その凄まじすぎる吸引力によってそのいくつかが一瞬にして砕け散り粉々にされてしまったが、ほとんどの星がその原形を保ったままその吸引力に乗せられ鼻の中を超光速で飛んで行った。
天使Bの凄まじすぎる吸引力。それは強すぎる力が破壊しか生み出さない、というのを通り越して、逆に無傷で吸い込んでしまうのである。
ほとんどの星が、自身の環境をまったく崩されぬまま吸い込まれていった。
もしもそこに知的生命体のいる星があるとしたら、その星の住民たちは、今自分たちの住む星が一人の天使の鼻の穴の中に吸い込まれたのだという事実にはまったく気が付かなかっただろう。
とっくに彼らの星は宇宙ではなく天使の鼻の穴の中を漂っていたのだ。

吸い込まれる過程。天使Bの超巨大な鼻の穴の中には、やはり超巨大な鼻毛が無数に生えており、それらは超光速で吸い込まれてくる星たちを歓迎するかのように出向けていた。
全長およそ80京km。光が8万年かからねば超えられないほどの超巨大な鼻毛だ。その直径はおよそ2京kmでこちらは光が2000年かけて通過するほどの太さ。
そしてそれらはこの暗黒の洞窟の中に無数に生え、その強力すぎる吸引力によってギシギシとしなっていた。
その凄まじすぎる吸引力は、天使Bにとっては原子よりも小さな星たちを無傷で鼻の奥まで届けるが、不幸ないくつかの星はその途中でその無数に生える超巨大な鼻毛に激突して砕け散った。
仮に地球の大きさと比較すると、地球の直径が約13,000km、鼻毛の直径は20,000,000,000,000,000kmで、天使Bの鼻毛の直径は地球の直径の約1兆5千万倍もの大きさを持っているのである。
地球が1兆5千万個も並んでようやく鼻毛一本の太さにいたる。
そんな巨大な鼻毛に激突したら鼻毛の1兆5千万分の1の大きさしかない星なんて木端微塵だ。
より細かく粉々に砕かれてそのまま鼻の奥に吸い込まれていってしまうか、その激突の威力のあまり、鼻毛にこびりつく汚れになるしかない。
最も、鼻毛の1兆5千万分の1の大きさの汚れなど気にはされないだろう。鼻クソの方がよっぽど巨大なゴミである。
もし鼻くそがこの鼻の穴からこぼれて宇宙を漂うことになってしまうとすると、直径300,000,000,000,000,000kmというとんでもないサイズの物体が野放しになってしまうということになるのである。
地球の23兆倍の大きさの鼻クソ。太陽系全域の大きさの、1千万倍の大きさだ。
太陽系が一千万個並んでいたとしても、その鼻クソによってひとつ残らず押し潰されてしまう。
ブラックホールすら掻き消してしまうだろう。銀河系の直径の3分の1ほどの大きさなのだ。
そしてそんな超巨大な鼻毛の間を無事に通り抜けても、また一部の星は吸引力の道筋からずれ、その力の流れから放り出されてしまう事がある。
そう言った星は先の星のようにうっそうと生い茂る鼻毛に激突して砕け散るか、それらを避けて、鼻の壁面に激突した。
どんなに勢いよく鼻の壁面や鼻毛に星が激突しても天使Bはそれに気づきもしない。星が超高速で激突してきたくらいでは何かがぶつかったと感じることもできないのだ。
またそうやって鼻孔の内壁に激突した星はその壁面を覆う粘膜に捕らわれた。
天使Bの鼻水である。そうして粘膜に捕らわれてしまった星はもう二度と離れることは出来ない。
粘膜の強靭な粘着力は例えその星がブラックホールほどに強大な力を持っていたとしても逃がしはしないだろう。
もうここがその星の墓場なのだ。
天使Bの鼻の穴の中のその壁面のほんの一部の粘膜の上が、その星が残りの生涯を過ごす場所である。
あと何十億年か何百億年か。無限の様なときをそこで過ごさねばならない。
だがもしかしたらいつか天使Bが鼻をかんだりして外に出ることができるかもしれない。
そうしたならばそのあとはティッシュにくるまれてゴミ箱に捨てられるだけだが。

そうした生涯を乗り越えて鼻孔の奥にたどり着いた星たちは天使Bに匂いとして感知される。
天使Bの言う、素敵な香りだ。
少しではだめだ。無数の星がそこまで来てようやく天使に香りとして受け入れられる。
同時にそれはその星たちの生涯の終わりを意味していた。
天使Bに香りとして感じられるために星たちはその部分に触れる。
その勢いはそれまでの障害と同じように星を砕くのに十分すぎるものだった。
無数の星が流星群のようにそこに激突し砕け散ることで初めて香りとなる。
天使Bの心を満足させるために、まさに星の数の星が消費されるのだ。
無論、それはたった一回の満足の為の消費であり、次の機会には、また別の無数の星が消費される。
これまで天使Bが消費してきた星の数は数えきれない。その数、まさに無量大数だ。
そしてその数はこれからも増え続けるだろう。再び天使Bが笑顔で銀河の一つに顔を近づけていった。

そうやって天使Bの鼻の奥までたどり着いた星たちは一瞬の香りとなって砕け散る運命にあるのだが、その内のほんの一部はそのにおいを感じる器官に激突せず、更に奥へと吸い込まれてゆく。
全長数百万光年にも及ぶ長い距離だ。その一部の星たちは天使Bの気管を通っていった。
鼻の奥を通り、喉を抜け、肺へとたどり着く。
天使にとっては酸素の大きさは地球の大きさとほぼ同じなのでここまではたどり着けてしまうのだ。もっとも、天使は酸素を必要とはしていないが。
一個の星が、ひとつの生命体である天使の灰の中にコロンと転がる。それは非常に不可思議な光景だった。
そして、結局のところ異物である星が肺にまでたどり着いても問題は無い。
吐き出されるか、吸収されるか。いずれにしても大した労ではないからだ。
天使Bが普通に呼吸するうちに宇宙に放り出されているかもしれない。
そうだとしたら、その星はこの超巨大な天使の体の中から見事生還したのだ。
無数の星が消えて行った天使Bの体内からほんの僅か、戻って来れた存在だ。
ただ、もしかしたらその吐き出される際の呼吸の気流の凄まじさによって粉々に磨り潰されるか、原形を保って口から出ることができたとしても、その超光速の勢いで吐き出された星は、まさに光さえも追い抜く速度で宇宙を飛行し、やがて別の星に激突して砕け散るのであろう。
天使にとっては、目にも見えないたった一粒の星が口から出ようが出まいが、出た後で砕け散ろうが砕け散るまいがどうでもよいことだったが。
見る事すらできない大きさのものに、情など移らないのだから。


そして天使Bと同じように天使Aも銀河を吸い込みその香りを堪能した。
天使Aは天使Bほどこの行為に慣れていないので息の吸い込み加減などもわからない。
天使Aが銀河に鼻を寄せ吸い込んだときの吸引力は、少々力み過ぎたのか、天使Bのそれよりも遙かに強大なものだった。
もちろん結果としては天使Aもその素敵な香りを堪能できたのだから、多少の力加減の誤差など関係ないのであろうが、吸い込まれる星の様子には顕著な違いがあった。
天使Bが優雅に緩やかに息を吸い込んだのに対し、天使Aは少し勢いが良すぎたかもしれない。
例えるなら鼻をスンと鳴らすのに近いのか。
天使Bの時は鼻の穴に近い星から順に束のようになってすぅー…と吸い込まれていたのだが、天使Aの時は銀河全体の星が一瞬にして鼻の穴の中に消えて行ってしまうような感じだった。ズゴ…ッ!! という音が聞こえそうな勢いだった。
もちろん天使Bの時でも天使Aの時でも銀河全体を吸い込むまでの時間にはコンマ数秒の違いも無かったのだが、そこにあった銀河がまるで消えるかのごとく一瞬で吸い込まれる様は非常に圧巻だった。
そうやって吸い込まれた星々は天使Bのときと同じように無数の超巨大な鼻毛の間を縫って鼻孔の奥を目指し、鼻の奥で匂いになるために砕け散った。


二人の天使は各々銀河の香りを堪能し、そのために最低でも3つの銀河が消滅した。
銀河一つには無限に近い星があり、それが3こ消滅したということは無限の3倍もの数の星が消滅したということだ。
無限の3倍とはいったいどういう値なのだろう。万物の数の限界である「無限」のその3倍もの値。
最早計り知れるものではなかった。

が、天使たちが滅ぼしてしまった銀河はこの3つだけではない。
今この宇宙の中にて最大の大きさを持つのはこの天使たちである。
本来宇宙内において最大の大きさを持つ銀河が彼女たちの指先程度の大きさしか無い以上、それ以上比較になるものは無いのだ。
宇宙には、それら銀河が無数に点在している。あちらこちら、どこを見ても銀河はある。
密集しているものもあれば個々に独立しているものもある。銀河はまさに宇宙の中に溢れていた。
そんな宇宙に、この超巨大な天使たちが悠々と入れるだけの空間があるだろうか。
実際に天使たちはその宇宙の中を動くとき、知らず知らず内にその体のいたるところで銀河を消し飛ばしてしまっていた。
1cm程度の大きさの靄みたいな銀河など、触れたところで感触すらない。手を動かせば足を動かせば、そこにいくつもの銀河を同時に掻き消してしまう。
巨大な指がすぐそばを通過するだけで、その凄まじい威力のエネルギーの波に攫われ巻き込まれてしまう銀河も多数出た。
手足だけではない。その巨大な胴体や長い髪なども十分に驚異的だった。
特に面積の広いお腹などの胴体部は天使たちが少し前進するだけでいくつもの銀河に激突しフッ…と消し去ってしまう。
天使Bが振り返ったりすれば、遠心力によって振り抜かれたその超巨大な乳房が、そこにあった銀河を何もなかったかのように蹴散らし通過してゆくだろう。
天使Aの長いツインテールや天使Bのロングヘアーも彼女たちの軽い仕草でふわりと揺れ、彼女たちの知らないうちにいくつもの銀河を吹き散らしていた。
髪の毛一本ですら何光年もの太さがあるのだ。たった一本の髪の毛が銀河の中を通過するだけで、その銀河は崩壊しやがて消えてしまうだろう。
天使たちはそれに気づかない。それは天使たちにとって極当たり前のことだからだ。
そしてただでさえいくつもの銀河を巻き込んでしまう天使たちのその最大の要因とは、その背にはためく純白の翼である。
バサリと広げれば数千万光年にもなるそれはただ広げるだけで何十もの銀河を巻き込み一瞬で消滅させてしまう。
普段は折りたたまれているのでそこまで猛威を振るうことは無いが、それでもその超巨大な翼はただ存在するだけで無数の銀河をその純白の羽の隙間にうずめてしまうのだ。
天使たちにとっては星など粒子以下の大きさなので羽の隙間に挟まったとしても気にするほどのものではないが。
パタパタと羽ばたけばそれだけで落ちてしまうものでもあるし。
ただ宇宙の中で翼を羽ばたかせようものなら、周囲数千万光年から数億光年の範囲にわたってすべての銀河が吹き飛ばされ消失してしまうだろう。
いったい何百の銀河が消されてしまうのか。いったい幾つの星が消えるのか。最早誰にもわからぬ値である。
宇宙の直径はおよそ930,000,000,000,000,000,000,000kmでここではおよそ930億光年とする。
天使たちの感覚からすると宇宙の直径は9.3kmだ。決して、大きなものではない。
天使たちの身長は宇宙のおよそ6000千分の1。値だけを見ればそれはとても大きな差だが、そもそも宇宙の大きさとの比較に出されているという時点でその巨大さは他の比較にならない。
もちろん、神様という例外は存在するが、それを除けばこの天使たちこそ宇宙最大と言えるだろう。

そしてそんな天使の中でもずば抜けているのが天使Bである。
巨大化と言う他に類を見ない能力を身に着けた彼女は、実質的に宇宙最大どころか、宇宙よりも巨大な存在になってしまった。
宇宙より外には何があるのか。ここでは仮に『宇宙2』と呼称し、宇宙は、「宇宙の中の銀河」、「銀河の中の星系」、「星系の中の星」、のように、「宇宙2の中の宇宙」と、宇宙2と言う空間の中に無数に存在するものである。
天使Bはその「宇宙2」という空間の中からそこに浮かぶ無数の宇宙を見る事が出来る。
天使Bの巨大化できる限界は、本人が調べた限りでは100兆倍。ただそれ以上巨大化しようとしなかっただけなので、本当の意味での限界はわからない。
そんな巨大な天使Bから見る宇宙は、本来の大きさの時の銀河の中を漂う、靄を形成する一粒である星系のような大きさだ。

本来は

  宇宙 > 銀河 > 星系 > 星 という形である。

下位のものの集合体を上位のものの呼称で呼ぶ。星の集合は星系。星系の集合は銀河。銀河の集合は宇宙と呼ぶ。下位を完全に含むグループが形成できる。
天使たちは「銀河」と「宇宙」の間に入る。「銀河より大きい」が「宇宙よりは小さい」からだ。

つまりはこう

  宇宙 > 天使 > 銀河 > 星系 > 星 

ところが最大に巨大化した天使Bは、

  宇宙3> 天使B > 宇宙2 > 宇宙 > 銀河 > 星系 > 星

という、本来の位置よりも2段階も上のグループに入ってしまうのだ。
上で天使Bは「宇宙2」という空間から宇宙を見る事が出来ると言ったが実際にはそれは間違いである。
天使Bから見る宇宙は銀河の中の星系相当となる。
つまり星系が宇宙ならば、その宇宙の集合体である宇宙2も見えなくてはならない。
天使Bは宇宙3という空間の中からそこに銀河の如く無数に点在する宇宙2を見る。その宇宙2を形成する靄のようなもの、それこそが宇宙である。
宇宙が靄をつくる粒子の一粒に見えてしまうほどに巨大なのだ。
本来はその中に入ることのできる宇宙が、今は肉眼では見えないほど小さくなってしまう。
天使Bにとっての今の宇宙は、およそ0.000000093mm。1mmの1000万分の1以下の大きさである。
それら無数に集まって宇宙2ができる。宇宙2という概念はここだけのものだが、その大きさを、本来の大きさで見る銀河のそれと同じとすると、天使Bから見る宇宙2は約1cmほどの大きさとなる。
kmに直すと100,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000km(1溝km)(1千京光年)。宇宙2は光が100億の10億倍もの年月をかけてようやく通過できる大きさなのだ。
それは、今や宇宙2を構成する要素となった「宇宙」の1億倍の大きさだ。宇宙が一億個並んで、ようやく宇宙2の大きさに届く。
そしてそんな宇宙には天使Bにとって1cmほどにしかならず、それはこの無数の宇宙を内包する宇宙2が指先ほどの大きさしかないということでもあった。
仮に、本来の大きさの時に銀河の香りを嗅いだように、当時の銀河程度の大きさの宇宙2の香りを嗅いだとしたら、いったいどうなるだろうか。
「銀河」とは「星系」の集まりの呼称。「星系」は「星」の集まりの呼称だ。それぞれ、「銀河」「星系」という1個の物質が存在するのではなく、無数の集団をひとつのグループにくくる事により認識を容易にしているに過ぎない。
「銀河」を吸い込むということはそれを形成する「星系」を吸い込むということで「星系」を吸い込むということは「星」を吸い込むということだ。
上位のグループに影響が出るということは下位のグループにはより大きな影響が出ているということであり、更に下位のグループにはそれ以上に大きな影響が出ていることになる。
巨大化した天使Bが宇宙2に顔を寄せその香りを嗅ごうと宇宙2を吸い込むということは、それらを形成する無数の宇宙を吸い込むということであり、それは更に無数の星系を吸い込むということで、その先には更に無数の星が吸い込まれているということである。
直径およそ70,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000km(7000垓km)の鼻の穴が宇宙2の上に接近し、その凄まじい吸引力によって宇宙2を吸い込んでゆく。
宇宙2を形成する靄がその鼻の穴の中に吸い込まれてゆくように見える。それはその靄の一粒一粒である宇宙が無数に吸い込まれているということだった。
本来概念上の存在でしかない宇宙を吸い込んでしまう天使Bの吸引力は常軌を逸している。
無数の宇宙たちが吸い込まれてゆくその先は、光など一切存在しない暗黒の空洞である。


宮殿内での神様の大きさは天使の100倍。
神様Aの身長はおよそ17,000,000,000,000,000,000,000km(170垓km)。
銀河を1cmに見えてしまう天使が、足の親指の太さにも満たない大きさに見える値である。
天使にとって1cmに見えるということは、その100倍の大きさを持つ神様には0.1mmに見えるということだ。
銀河は神様にとって0.1mm。親指と人差し指で「C」の字をつくり、その隙間を極限まで縮めても、銀河はその間に存在できてしまう。
そしてそんな銀河を無数に内包する宇宙は直径約100mほどの感覚となり、宇宙の中心に立てばその宇宙の端から端までを一望できてしまうのである。
これが神様。宇宙のすべてを見渡すことのできる巨大な体を持っている。
もっとも、宇宙内最大の存在である銀河すら0.1mmと肉眼ではほとんど見えないような大きさなので、そのサイズの神様からすれば宇宙の中には何も無いように見えるのだが。
神様本来の大きさは現在の常識では測る事が出来ないのでそれを値にすることは出来ない。
天使Aの実体験を基にしても、ただただ理解を超えた大きさであるということしかわからない。
天使たちと交流する宮殿内においては、天使たちの100倍の大きさと言う、本来の大きさからすればあり得ないほどの極小サイズにまでミクロ化し、天使たちと接する。
それでも、天使たちにとっては自身の100倍というとんでもなく巨大な大きさなのだから。
銀河を指先でつついて消滅させてしまえる天使を、その超巨大な足指の下敷きにしてぐりぐりと踏みにじっていたり、指先に摘まんでこねくり回している様が時折目撃できる。
天使Bが巨大化という能力を目覚めさせたが、それを例外とするならば、天使たちにとって神様はこの世で最大の大きさの存在なのだ。


天使Aの身長は160,000,000,000,000,000,000km。
足のサイズは24,000,000,000,000,000,000kmになり、歩幅はおよそ60,000,000,000,000,000,000km。
光は天使Aの足の長さの距離を通過するのに10万年かかる。
天使Aの歩く速度は時速400,000,000,000,000,000,000,000kmで、光速(時速1,080,000,000km)の約400兆倍。
指紋の深さは10,000,000,000,000,000km。直径13,000kmの地球がおよそ8000億個入ることのできる深さである。
髪の毛の太さは8,000,000,000,000,000km。ツインテールにもなるその長さは140,000,000,000,000,000,000km。
目の大きさは1,000,000,000,000,000,000km。例え銀河が目に入ったとしても、それを形成する無数の星は小さすぎて傷みやかゆみを覚えることは無い。天使の目を覆う粘液の上に、無数の星が張り付き浮くこととなる。粘液に無数の星が沈んでいても天使はものを見るのに困らないし、そこに星が浮いていることにすら気づかない。そして天使が一度パチリとまばたきをすればそれら無数の星はひとつ残らず消えてしまうだろう。また、天使が涙を流せばそれらの星はその涙と共に目の外に流れ出る。天使がポタリと落とした一滴の涙は直径で500,000,000,000,000,000kmにもなり、それが宇宙をさまようことになれば、直撃した銀河などをいくつもその身の中に沈ませ破壊してゆくだろう。涙の大きさは銀河の直径の半分ほどもある。流れてきた一滴の涙が銀河の真ん中を通過すれば、そこには直径500,000,000,000,000,000kmの穴がぽっかりと開いてしまうのだ。
耳の穴の直径は600,000,000,000,000,000km。絨毛に覆われた暗黒の洞窟のひとつだ。鼻の穴ほど破壊的な要素は持っていないが、入れば恐らく二度と出てこれないだろうというところは同じだ。天使Aの耳の穴はよく手入れをされている。よく神様が掃除をしてくれるからだ。身長160,000,000,000,000,000,000kmの天使の体を全長およそ1,600,000,000,000,000,000,000kmの手のひらに乗せ、太さ約100,000,000,000,000,000,000km長さ約700,000,000,000,000,000,000kmの人差し指と同じように親指との間に摘まんだ耳かきで、手のひらの上に寝転がる自身の100分の1の大きさの天使のその耳の穴を掃除するのだ。その繊細な動きが気持ちよいのか、掃除をされている天使はうっとりとした表情ではぁ…と吐息を漏らし、そんな天使を見下ろして神様はくすくすと笑う。普段から手入れをしている事もあり天使の耳から耳垢はほとんどでてこない。だがこの少量の耳垢が宇宙に入ってしまうと、その宇宙は確実に被害を被るのだ。直径2000,000,000,000,000,000km~3000,000,000,000,000,000kmはある耳垢が宇宙内を超光速で飛行すればその直撃を受けた銀河は穴が開くか崩壊し消滅してしまう。星系などより遙かに巨大な耳垢である。無数の星系に衝突しそれらを破壊しつくしても耳垢の飛行は止まらない。宇宙に、天使の耳垢を止められるものは存在しないのだ。
その林檎かイチゴのように赤く甘い唇に縁取られた口は、閉じているときであっても3,000,000,000,000,000,000kmほどの幅がある。それだけでも銀河の直径の3倍の大きさだ。その口が少し開かれるだけで、そこには銀河すら入ってしまう巨大な洞窟が現れる。居並ぶ真白い歯は高さ800,000,000,000,000,000kmほどもあり、その純白の清純さとは裏腹に、宇宙のすべてをゴリゴリと噛み潰す事の出来る最強の存在でもあった。もっとも宇宙にあるものは小さすぎて歯で噛むことは出来ないのだが。銀河も星系も小さすぎて、歯に挟まることすらできない。最強でありながら、使う機会が全くないものなのだ。その代わり、それら歯に囲まれたところで蠢く舌は、この宇宙で絶大な威力を発揮する。
銀河を前に、天使が僅かに口を開く。そこからチロチロと出てきた舌先は目の前に浮かぶ銀河の靄にそっと触れた。そうすると銀河は瞬く間にくずれ消えて行ってしまう。だが舌は、その舌先に確かに銀河を捕えた。銀河を形成する無数の星系を形成する更に無数の星たちをだ。舌先に無数の星をくっつけたまま、舌は天使の口の中に戻ってゆく。そして口が閉じられもぐもぐ動かされると、途端に天使の顔が満足そうに綻ぶ。銀河の味は蜜の味だ。とろけるような甘みが舌先から口の中全体にじんわりと広がる。天使はほっぺを押さえた。まさにほっぺが落ちてしまいそうなほどおいしかったからだ。再び次の銀河をぺろりと舐め取った。銀河がこうもおいしいものだと教えてくれたのは天使Bだった。再び彼女と会った時に勧められて恐る恐る舌を伸ばしたのだが、その素晴らしい甘味は天使を一口で虜にしてしまった。病み付きになる味だった。天使の仕事は宇宙の管理で銀河の保護や調査なども含まれるのだが、天使は必要のない銀河を見つけては吸い込んで香りを嗅いだりぺろりと舐め取ったりした。天使Aが嬉しそうな顔をすると天使Bも嬉しそうだった。あーん。天使の口が開かれ、目の前に浮かんでいた銀河が天使の開かれた口の中に入ってゆく。靄はその白い歯の間を通ってやや薄暗い口の中に入る。そして口がぱくっと閉じられ、そのあと天使が口をもぐもぐと動かした。それはそこにあったはずの銀河がおいしくいただかれたということであった。

天使の大きさは宇宙の中で飛び抜けている。唯一比較できる対象の銀河は天使から見れば1cmほどの大きさしかない。指先ほどの大きさ。天使がほんの少し動くだけで何十も消えてしまう儚い存在である。指先で触れてしまうだけで銀河の靄は消え、うっかりとつま先で蹴り飛ばしてしまえばいくつもの銀河が一瞬で消滅してしまう。天使はこの宇宙の中で最強の存在だった。その手が、足が、目が鼻が口が。顔が体が、その背の翼が。すべてがそれだけで宇宙最強の存在である。その中でも一際輝くのが、その頭の上に浮かぶ、光り輝く黄金の環である。これは神様すら持っていない、天使だけが持つものだ。静かに、それでいて温かな光を放つ、宇宙全土を照らす天使の環。その環の光が未来を照らすからこそ、天使は憂鬱になったとしてももう一度前を向いて立ち上がることができるのである。エンジェルハイロゥ。その優しい光に包まれて、天使は今日も笑顔で行く。


 * おわり *



※よくわからん終わり方しちゃったけど満足。やっぱデカい娘はいいわ~。