※勢いとノリで突っ走る。ちゃんとしたストーリーを考える必要が無くて楽チン。



地球でも宇宙インターネットが普及してきた頃、ある記事が発見された。
普通サイズ宇宙人であるその記事の著者によると、なんでも『リリパット星人』という1/1000サイズの宇宙人がいるらしいとのこと。
まだ宇宙に出て間もない地球人。異星人との接触はネットだけで直に接したことはなかった。
著者によると、このリリパット星人は体が小さいだけでなく文明もやや遅れているらしい。初めての異星人とのコンタクトを取る相手として、丁度いいかもしれない。
地球政府は、早速リリパット星に使節団を派遣した。


  *
  *
  *


リリパット星。

「…」
「…」

ファーストコンタクトを果たした地球人とリリパット星人は、互いを見つめて唖然としていた。
地球人から見るそのリリパット星人は、身長1600mにもなる少女。
リリパット星人から見る地球人は、身長2mmも無い粒であった。

リリパット星人は、地球人の1000倍の大きさの大巨人だった。

使節団は今、そのリリパット星人の少女の手のひらに乗せられている。
宇宙船のクルーを含めて1000人もの人間が、一人の少女の片手の上に納まってしまっていた。
リリパット星人の少女は、右手のひらの上に乗る、大勢の砂粒みたいな宇宙人を見下ろしてポカンとしていた。

使節団の地球人はうろたえていた。
何が極小宇宙人だ。何が1/1000サイズだ。話が逆ではないか。
いったいどういうことなのかと、皆が騒いでいた。

例の記事をもう一度読み直してみた者が、それに気づいた。
リリパット星人が極小宇宙人なのは本当である。しかしそれは、その記事を書いた普通サイズ宇宙人にとっては、だ。
宇宙的に普通サイズである著者にとってリリパット星人は1/1000サイズだが、地球人にとっては1000倍サイズ。それだけのことだった。
宇宙の常識に疎い地球人は、宇宙人の一般的な大きさを知らなかったのだ。

なんということだ。
いったいどうしたらよいのか。

などと使節団の地球人がうろたえていると、

「うわーすごい! 砂粒みたいに小さな宇宙人だ!」

リリパット星人の少女が声を発した。
凄まじい爆音であった。少女の手のひらに乗せられていた1000人の地球人全員が耳を押さえ悲鳴を上げながら少女の手のひらの上を転げ回った。
更にそこに、

  ズズン!

とてつもなく巨大な指が現れ、使節団の中央につき立てられた。

「わたしたちリリパット星人よりも小さな宇宙人がいたんだー」

少女は呟きながら右手に乗せた地球人に左手の人差し指で触れてゆく。
地球人は、突然集団の中につき立てられた全長70m太さ15mにもなるとてつもなく巨大な人差し指に追い回され悲鳴を上げながら逃げ始めた。

「う、うわああああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああ!!」

まるでビルのように巨大な指だ。それが、有機的な動きと確かな意思を持って自分達に襲い掛かってきた。
指先がズンと手のひらに押し付けられればそこに十数人が下敷きになる。
指が動くとその光沢を放つ巨大な爪にぶつかられ数人が十数mも吹っ飛ばされる。
リリパット星人の少女は目を輝かせながらその右手に乗せた我ら地球人の使節団を左手の指でかき回し遊び始めた。
しかしそれは、巨人の手のひらと言う閉鎖された空間で怪獣よりも巨大な指によって追い回されると言うことだった。
1000人からなる使節団が、一人の少女の一本の指によって壊滅させられた。

「そうだ! みんなにも教えたあげよ!」

手のひらに地球人を乗せた少女は、そのまま道を駆け出した。


  *
  *
  *


使節団は戻ってこなかった。
しかし代わりに、大勢のリリパット星人が地球へとやってきた。

宇宙最小と思っていた自分達よりも更に小さな宇宙人『地球人』の発見。
それはリリパット星人の興味を大きく引いた。

地球へとやってきたリリパット星人たちは、その星のあらゆるものがとてつもなく小さいことに感動した。
すべてが、1/1000サイズの大きさだった。
ほとんどの建物が自分達の膝にも届かない。
小さな異星人を見下ろすという初めての経験に湧き立っていた。


そんな、地球にやって来たリリパット星人たちのグループのひとつ。
陸地の上空に止めた宇宙船から3人の少女がおりてきた。
サンダルを履いた足で地面に降り立った少女達は、すべてが極小の世界を見渡して歓声をあげた。

「すごーい! ちっちゃい町が広がってるー!」
「うわー…これ全部本物なんだ…。すごーい」

少女達は口々に感想を述べている。

しかし、彼女達の足元の街は大災害を被っていた。
全240mにもなる恐ろしく巨大な足達が、町の上を縦横無尽に歩き回り始めたのだ。
リリパット星人の少女達にとっては軽い散歩でも、足元の地球人たちにとってはとてつもない大破壊である。
少女達が一歩歩くたびに町全体が凄まじい大揺れに襲われその町の住民達は立っていることすらできなかった。
小さな家屋などはその振動だけで簡単に崩れ落ち、遠方では高層ビルでさえもガラガラと音を立てて瓦礫に変わる。
その巨大な足の履く巨大なサンダルの広大な靴底が地面の上の町の上に踏みおろされるたびに大勢の人々がその下敷きになった。
彼女達のすさまじい体重を乗せた一歩はサンダルを地面に深く沈みこませ、次の一歩の為にその足が持ち上げられたときには、巨大な足跡をくっきりと残していた。
その足跡の中では、地面が硬く硬く圧縮されていた。原形を止めているものはなかった。すべてが究極にまで圧縮されたその世界は、一切の凹凸のない究極の平面が広がっていた。そこに地球人の文明の痕跡など何一つ残ってなかった。

地球に降り立った少女達が周囲を散歩し始めて数分と経たずして周囲の町は壊滅した。
少女達の歩行による凄まじい振動。その巨大な足に踏みつけられることによる破壊。
少女達はそのまま別の場所へと移動していった。興味津々といった感じで周囲を見渡し楽しそうにおしゃべりをする彼女達の足元では、その一歩ごとに数百人が踏み潰されていた。

あらゆる建物が破壊しつくされ瓦礫と化した街にはいくつもの巨大な足跡だけがくっきりと残されていた。


地球中がリリパット星人によって蹂躙されていた。
地球政府は反撃を試みたが、まるで意味を成さない。
彼らの文明が宇宙的に遅れているといっても、それは飽くまで宇宙の一般から見ればの話。
更に遅れた文明の地球に、彼らに抗う術はなかった。

あっという間に地球中がリリパット星人によって壊滅させられた。
中には地球人を連れ去るものまでいた。
次々と壊滅させられる各国。
最早地球に機能している政府機関は存在しなかった。




しかも事はそれで終わりではなかった。
地球人というリリパット星人よりも更に小さな宇宙人が存在するという噂を聞いた普通サイズ宇宙人までもが地球へとやってきたのだ。

地球よりも大きな宇宙船が地球の横にやってきたかと思うと、そこから大勢の普通サイズ宇宙人が現れた。
学生服を着ていた。学校行事で来たのだろうか。

そんな普通サイズ宇宙人である少女達が地球に降り立つと、全長240kmにもなる超巨大なローファーが次々と地表に踏み下ろされた。
彼女達のたった一歩でいくつもの町が踏み潰された。そんな巨大な少女達がぞろぞろと宇宙船から降りてきて地球の上を歩き始める。

「うっわ! ホントに小さいよ」
「リリパット星人ですら凄い小さかったのにね」

少女達は地球に降り立つと足元にある模様のような街や国を見下ろして呟いていた。

普通サイズ宇宙人はリリパット星人の1000倍。地球人の100万倍の大きさである。
その身長は1600kmにも達する。日本の全長がおよそ3000km。つまり彼女達から見れば日本は長さ3mほどということになる。
そして、直径およそ1万2kmの地球は、12mほどの大きさになる。

そんな、彼女達にとっては12mほどの大きさの地球の上に、およそ30人の普通サイズ宇宙人が降り立っていた。

「それでは自由行動にしまーす」

ウェーブの髪の先生の声が地球中に轟いた。

「自由行動って言ってもねー。こんなちっぽけな星なんて見るとこないわよ」
「まーまー。ホラ、あっち行ってみようよ」

少女の一人が別の少女の手を取って歩き始めた。
それを合図に方々に散る少女達。
地球中に、100万倍の大きさの少女達が散っていった。

リリパット星人の比ではないほどの凄まじい大災害が発生していた。
少女達の一歩は巨大隕石の衝突以上の破壊力がある。
その超巨大なローファーは、その片方ですら日本の四国におさまるかどうか怪しい。
例えば北海道に片足を下ろした彼女達は、次の一歩は本州に踏み下ろすことができる。
別に大股で歩いたわけではなく、ただの普通の一歩でだ。
数歩で日本を縦断したら次の一歩では中国にすら踏み入ることができる。
彼女達は一歩で海を越えることができるのだ。
そしてその海ですら、彼女達にとっては水溜り以下の存在である。
深さは最大でも数mm程度。太平洋の上を、ローファーで平気な顔をして歩いていた。
彼女達のたった一歩で国が壊滅していた。しかもそれは、30人超の少女達の足元で一秒に1回以上のペースで行われている。
地球中が蹂躙されていた。完全に踏みつくされ消えてしまった国もあった。
彼女達の一歩ごとに数百万人が犠牲となっていた。

彼女達が地球を離れるころには、地球上のあらゆるものが踏みつくされていた。




更にである。

「これがネットで話題になってた超極小宇宙人の住む『地球』だね」

少女達は顔を寄せてそれを見た。
顔の前をふよふよと漂う、1cmほどの青い球を。

ブロブディンナグ星人。一般的な普通サイズ宇宙人の1000倍の大きさを持つ宇宙人である。
つまりリリパット星人の100万倍。地球人の10億倍の大きさだ。

「うわーホントにちっぽけね。こんなところに何十億って人間が住んでるなんて信じられないわね」
「でもでも、ホントみたいだよ。ほら、みんながわたしたちのこと見てる」

言いながら少女のひとりが指先ほどの大きさの地球の一部分に向かって指を差した。
ブロブディンナグ星人はとても目がいい。

「ふぁ~かわいいなー。みんなピルピル動いてて小動物みたい」
「あんた小さい生き物好きだもんねー。なんだったら連れて帰っちゃえばいいじゃん」
「あ。それいいかも」

パムっと手のひらを合わせた少女は顔の前を漂っていた地球をチョイと摘むと糸のようなものを取り出しその両端を地球にくっつけた。
地球を起点に糸がわっかの状態。
少女は、そのわっかを首に掛けた。

「ほらほら、ネックレスみたいでしょ?」

わっかを首に掛けた少女は友人のほうを振り返った。
その胸元には、糸に繋がれた地球がぶら下がっていた。

「あはは、似合う似合う。それじゃこのあとどこいくー?」
「んー。なんか食べにいこっか」

そして二人のブロブディンナグ星人の少女達は宇宙の彼方へ去っていった。


後日、宇宙インターネットでは『地球消失』というニュースが広がったが、3日後には膨大な情報の波に埋もれ誰も気にしなくなっていた。