「ふんふ~ん♪」
「うわあああ!」
「いやあああ!」

三様の声が響く。
長い黒髪の少女がベッドに腰掛ける。
ミニスカートから伸びる二本の生脚の先、何も履いていない素足には二人の小人が捕らわれていた。
親指と人差し指の間に挟まれる100分の1に縮められた男女。
右足には男。左足には女が挟まっていた。二人とも学生服を着ているところを見るとどこかの学校の生徒なのだろう。
そんな二人を足の指の間に挟んだ少女はケラケラと笑う。

「二人ってカップルなんだ。仲がいいんだねー」

言いながら足を動かす。足は踵だけが床に着けられており、そこを起点に足は左右に振り動かされていた。
だが指に挟まれるふたりにとってそれはジェットコースターに乗っているようなもので恐怖に叫ばずにはいられなかった。
ちょいちょい。二人を挟んだ足をそれぞれちょこちょこ動かす。すると二人もキャーキャーと悲鳴を上げる。これが楽しかった。

「た、たっくん助けて!」
「茜! 茜ーっ!」
「ふーん、たっくんに茜ちゃんか。ほらほらたっくん、彼女の茜ちゃんが助けてって言ってるよ」

言いながら少女は茜を挟んだ左足を左右に振った。すると茜の悲鳴が左右に動く。
ただ足を振っているだけだがその衝撃は凄まじい。足は左右にガクンと踵を返すので、挟まれている茜の体はガックンガックンと揺さぶられるのだ。気持ち悪いを通り越して吐き気がするのである。
足の指は太さ1.5mほどである。体の大半をその指の間に挟み込まれている。大木のような指に挟まれている茜は足が左右に振られるたびにその巨大な指に顔をぶつけていた。

「くそっ…!」

同じように足の指に挟まれるたっくんこと卓也。だが彼がどんなに力を込めても足の指はびくともしない。
目の前で彼女が弄ばれているのに、何もできないでいた。
悔しさに歯噛みしながら手足に力を込め指を押し広げようとしたり、指を叩いたりした。
すると少女がくすくす笑った。

「あん、ダメだよたっくん、くすぐったいよ。そんなことされたら…」

と、少女が言うと、

「あああああ!」

茜の悲鳴が聞こえた。

「…指を握っちゃうよー」

少女はまたくすくすと笑った。
卓也が暴れたせいでくすぐったがった少女が茜を挟む指を握ったというのか。
ぐ…。歯噛みする卓也。
するとまた少女が「あん」と小さく喘いだ。
その瞬間卓也を挟む指の圧力が高まった。
メリメリと挟み込まれる卓也はあまりの苦しさに声が出なかった。

「茜ちゃんが動いたから今度はたっくんの方の指を握っちゃった。もう、カップルなんだからちゃんと相手の事も考えてあげて」

少女は笑っている。
ただ左右の足の指に交互に力を込めながら。
その度に左右の足の指の挟まれた卓也と茜が交互に悲鳴を上げる。
まさに大木のような太さの指は同じ高さに立って比べたとしたら卓也のアゴにまで届く太さであり女の子で卓也よりも背の低い茜の場合は顔までほとんど隠れてしまう。太さ1.5mmとはそういうものなのだ。

これがただの大木で無いのは触れればわかる。
ぎゅうぎゅうと挟んでくる指はしっとりとして柔らかくとても暖かかったのだ。
本気で押せばへこむほどの弾力。吸い付くようなしっとり感。更に指の間という事で若干汗ばんでいるのも分かった。
これらの情報がこれが本物の人間の指であるのを証明した。証明してしまったのだ。
実際に今、ひとりの女の子の指に挟まれているという事をだ。
男の卓也が力を振り絞っても抵抗できないこの足の指は、少女が笑いながら軽く握っているに過ぎない。
そして気まぐれに力を少しでも込めようものなら潰されそうなほどの圧力がかかり悲鳴すら上げられなくなる。
この巨大な指の力をもってすればそのまま挟み潰してしまうこともできるだろう。少女がその気になれば容易い事だった。

「あ、そーだ。カップルならチューしてよチュー」

言うと少女は二人を挟む足の指をにぎにぎ動かし始めた。
二人は大木ほどに太く自分たちの身長よりも長い足の指の間でこねくり回されているのだ。
抗いようのない強い力で問答無用に二人の体を弄ぶ。悲鳴が指の間から響く。天地無用、上下の感覚すら失われるほど激しい動きだった。
小さな二人が足の指を少し動かしただけで大きな悲鳴を上げるのを、少女はくすくす笑いながら見下ろしていた。

そして少女が指を動かし終えたとき、二人は先ほどとは逆さまに挟まれていた。
これまでは頭を上にしていたが今度は下を向かされている。足の裏の方に頭が来ているのだ。
少女は足を横にして立てた。小指が下に、親指が上に来るように足の裏を横に向けているのである。右足の裏と左足の裏が向かい合っている。
卓也と茜はその向かいの足の指の間に恋人の姿を見た。こうして客観的に見せられるとこの足はとても巨大で自分たちはとても小さかった。

「はい、じゃあいくよ」

少女は首をかくんと傾げながらにっこりと笑い、その向かい合った両足を近づけていった。
二人の距離が急速に狭まる。
少女は足の裏と足の裏をくっつけ、二人はお互いにぶつかった。足はぴったりと合わさっている。
頭と頭をぶつけた二人は小さく悲鳴を上げた。少女としてもそんなに速度を出していなかったから大事にはなっていないが、それでも硬い頭同士でぶつかればかなり痛い。軽い脳震盪を起こしていた。
だがそんなことには構わず、少女はくっつけた足のつま先をぐりぐり擦り合わせた。その動きで互いの顔を押し付けられ、強引に口づけを交わさせられた。足を動かし、二人の唇を重ねさせたのだ。
しかし望んでもいない接吻になんの魅力があろうか。だが二人がなんとか口を離しても、再び少女が足を動かしてまた重ね合せられてしまう。拒むと、二人の前歯がガチンとぶつかった。

「痛い…痛いよたっくん」
「頑張れ茜! きっと助けるから!」

少女が左右の足の指を組むかのようにぐにぐにと合わせる最中、二人はなんとか自由に動く手を重ね合せた。
巨大な指が蠢くその間で二人は唇を重ねることを強制されながらも、その手に掴んだお互いの手を離そうとはしない。
が、それも少女がちょっと足を離しただけで簡単に引きちぎられてしまう。

「んふふ~。ちっちゃいキスだね、かわいい」

指の間から顔だけがちょこんと見える二人を見下ろして少女は言う。
何度もぶつけられた顔も痛み、無理矢理離された手もジンジンとする。
少女の足のほんの小さな動きに、二人はまったく抵抗できなかった。

「うん、ふたりともかわいいよ」

少女はくすくす笑いながら言った。

「かわいすぎて、食べちゃいたいくらい」

にっこりとした笑みだ。
そして少女は左足に手を伸ばすとそこから茜を摘み出し、顔の前にぶら下げた。
今の言葉もあって、そこに連れて行かれた茜は泣き叫んでいた。少女の巨大な顔の目の前だ。口もそこにある。

「や、やめろおおおおおおおお!!」

未だ足の指に挟まれたままの卓也は上空に攫われた茜を見上げ叫んだ。
これまでにないほどに全力で足の指を押しのけようと力を込め、それが通用したのか、挟んでいる指を僅かに開かせた。

「もう、くすぐったいよ」

きゅっ。
少女が指を動かし、卓也は先ほどまでよりもはるかに強い力で挟み込まれた。
メリメリと鈍い音を立てる指の間、卓也は意識の飛びそうな圧力に襲われる。

「まずは茜ちゃんからね」

あーん。
ぽっかりと開けられた口。
薄く赤い唇に縁取られた口は車さえペロリと平らげてしまえる大きさがあり、中には白い歯が並び、表面が濡れて妖しく光る口内の中で、気持ちの悪いモンスターみたいな巨大な舌がビクビクと動いている。
茜は更に大きく悲鳴を上げ、意識を繋ぎ直した卓也がそれを見上げた。

 ポイ

茜はあっさりと口の中に放り込まれ、口はぱくんと閉じられた。もう茜の悲鳴も聞こえない。
そして、

 もぐもぐ

少女の口が動く。
見慣れた光景だ。見た事が無いはずが無い。生活の中でも当然の景色。
だが、今そこに巻き込まれているのはただの食べ物ではなく茜なのだ。
気づけば卓也は指に抗うのを止め、目を見開き顔を蒼白にしてそれを見上げていた。

やがて少女はごくんと喉を鳴らし、ふぅと息を吐き出した。
そして足の指の間の卓也を見下ろした。

「おいしかったよ、君の彼女」

何の陰りも無い笑顔。
それが、卓也の頭の中の何かを切れさせた。

「う…うぁぁぁあああああああああ!!」

ぐぐぐぐ…!
自分を挟み込む大木のように巨大な足の指を押し広げてゆく。押しのけてくる手に指の柔らかい肌がぷにっとへこむ。
それには少女も驚いたような楽しいような「わぁっ」という声を出した。
またほんの少し、卓也を挟む指に力を込めてみる。
すると卓也の広げていた手が狭まるが、卓也は迫ってくる指の間、両手でそれを押し返し続けた。先ほどまでのように力負けして挟まれたりはしなかったのだ。
ただ少女は楽しそうに笑うのみである。

その卓也も巨大な手の指によって足の指の間から摘み出され、左手の上に乗せられた。
家さえも建てられる広さの手のひらの上。
ぬくもりがあり、柔らかい手のひらの上から見える視界に、少女の巨大な顔が近づいてくる。

「すごいねたっくん。それが愛の力って言うのなのかな?」

話しかけてくる少女に答える気力は、あの凄まじい指の圧力に全力で抗った卓也には残されていなかった。
力を使い果たし、頭に上った血が下がるにつれ、こみあげてくるのは絶望の感情。
悲しみが、腹の底から喉を駆け上がってくる。
卓也はポロポロと涙を流しながら両手の拳を少女の手のひらに叩きつけ、それを手のひらはへこんで受け止めた。

そんな卓也を見て少女はくすくす笑った。

「あははは。ごめんね、そんなに怒るとは思わなかったよー」

少女の明るい笑い声も、今は卓也の耳には入らない。
ただ下を向き涙を流す卓也の顔の下、手のひらのシワには涙の水たまりができていた。

笑っていた少女は右手の指を口の中に入れるとそこから何かを取り出して左手の卓也の前に降ろした。

「はい、茜ちゃんは返してあげる」

少女の言葉に卓也は顔を上げ、目の前に降ろされたそれに目を向けた。
それは全身を唾液でずぶ濡れにされ気を失った茜だった。
卓也は慌てて立ち上がり、彼女の名前を呼びながらその体を抱き起した。
全身びしょ濡れの彼女からは唾液特有のツンとつする臭いがしたがそんなことは関係ない。肩を揺さぶり声を掛ける。

やがて何度も揺らすうちに茜は意識を取り戻した。

「う…んん…」

軽く粘着質に液体に塗れ、濡れて透けた服の向こうに素肌が見える状態でのその呟きは煩悩を刺激するものがあるが、それよりも茜が生きていたことが卓也を喜ばせた。
自身も濡れるのを構わずに卓也は茜を抱きしめた。

そんな二人に少女の言葉が降り注ぐ。

「ちょっとしたイタズラだったんだけどなー。舌の裏に隠しておいたの。でもぴくぴく動くのがかわいくて本当に食べたくなっちゃったよ」

けらけらと笑う少女。
そして少女は二人を手のひらに乗せたまま立ち上がった。

「二人ともあたしの唾で汚れちゃったよね。3人で一緒にお風呂入ろっか」

今まで二人を挟んでいた足でフローリングをペタペタと歩きながら少女は風呂場をめざし部屋を出て行った。