※今思いついた。これはきっと「嬲り系」


   「 爪の街 」



そこは牢獄の街。
囚われたが最後、二度と出る事は出来ない街。
街は四方10kmほどの大きさで多くの建築物があるが、住人はまだ少ない。
1000人といないのではないか。
車も走っていない。自転車も走っていない。
ただそこに、僅かな人が出る事叶わず囚われていた。

一日に大半が夜だった。街に光が当たる事はほとんどない。
雨も降らない。風も吹かない。ただひたすらに、長い夜と一瞬の昼を繰り返す。

しかしそんな事は住人にとってどうでもいい事だった。
もっともっと問題なのが、その鼻につく刺激臭である。
街全体を、強烈な臭いが覆っている。酸味のある酸っぱい臭いだ。鼻がぐじゅぐじゅし目から涙が出る。
街のすべてを包み込んでいるので、この街のどこにも、その臭いから逃げられる場所は無い。
人々は毎日毎日、その臭いに苦しんだ。

世界は夜だ。星ひとつ無い夜。
そんな事より、このどんどん濃密になる臭いの方が重大な問題だった。
街中の数百人があまりの臭いに鼻を押さえて悶えている。
そもそも何故、自分たちがこの見知らぬ街でこんな目に遭わねばならぬのか。
それを考える余裕すら、この臭いは与えてくれなかった。

そして突然、唐突に夜が明け昼になる。


  *


学校から帰宅した少女は自分の部屋に着くと制服も脱がぬままベッドに腰掛けて、右足の黒いニーソックスを脱ぎ捨てた。
中から出てきた自分の素足、その親指の爪に目を寄せる。
爪には、まるで超細かいネイルアートのようなものが付いていた。
100万分の1サイズの街である。

そんな街の付いた自分の足の指を見て、少女はにやりと笑った。

「くくく、ごめんね。今日はちょっと暑くて蒸れちゃったから臭うでしょ。指の間 汗かいちゃったもん」

指先の爪の街に話しかける少女。
街は、少女の力で作られたものだ。100万分の1サイズのそれは少女の親指の爪の範囲にすっぽり収まっている。
特殊なコーティングが施されており、衝撃や水などあらゆるものから完全に守られているが、唯一、臭いだけは貫通する。
この街に住んでいる人々は、大なり小なり少女の怒りに触れた者たちだった。
少女は気に入らない連中を縮めてこの爪の上の街に放り込んだ。脱出する事のできない世界から隔離された街だ。彼らは少女の気が済むまでそこから出してはもらえない。
住民は着実に増えつつある。ちょっと感に触っただけでもすぐに放り込んでいた。キライなクラスメイトや先生もここにいる。最近では人を放り込むのが楽しくて、目に付いただけで放り込んでしまう事もある。
放り込まれた住人はただひたすらに少女の足の臭いに苦しんだ。
寝ても覚めても、空気はすべて少女の足の臭いなのだ。
風呂に入った後、少女が寝ている間は臭いも多少はマシだが、これが学校に行き、その通学途中のローファーの中、学校での上履きの中、そして帰りの靴の中とじっくり暖められ汗を掻かれるとその臭いは凄まじいものになる。
学校から帰ってきたばかりの少女に顔を踏まれ蒸れた靴下のつま先を鼻に押し付けられているような。それを常に続けられているような。何故ならこの街の空気はすべて少女の足に間近の臭いなのだから。
さんざん蒸れた靴の中、更に靴下に包まれるともうたまらない。
臭いはこもるばかりでどんどん強力になってゆく。
どんなに顔の前を仰いでも、鼻を塞ごうと、臭いは決してなくならない。
1000人弱の人々が、少女の足の臭いで苦しめられていた。

「さて、先に宿題済ませちゃお。そしたらお風呂に入って足洗ってあげるから。くく、それまで我慢しててね」

少女は街の付いた右足の親指をくいくいと動かすと、再び黒いニーソックスを穿き直した。
そして立ち上がって歩きだし、、机の前の椅子に腰掛ける。
ノートと教科書が広げられ、鉛筆の走る音が聞こえ始める。

その間、無意識にもぞもぞと動かされるニーソックスに包まれた少女の足のつま先では人々がうめき声を上げながらのたうっていた。
少女の右足の親指の爪の上の街に住む1000人が、少女の足の臭いから解放されるときはくるのだろうか。