※いつも通り計算は適当よ。突っ込んじゃだめよ。


『宇宙最悪の種族』


広大なる大宇宙。
無限の広さのあるそこにはまさしく星の数ほどの星が浮かび、更にその倍の倍もの数の生物が存在する。
知的生命体も多数いる。より高度な文明を手に入れたものは、自らの生まれた星を飛び出し、この暗黒の世界を自由に飛び交うことも出来た。
宇宙とは、命溢れる母なる星を抱く優しい面を見せる一方で、すべての生命を拒絶する恐ろしい一面を持ち合わせている。
害悪以外に存在しないこの真空の世界。ここに飛び出るという事は母なる星の寵愛の届かぬ地へ旅立つという事だった。
それは、文明の一つの壁だ。そこに飛び出せるほどに発展するという事は文明を次のレベルに進ませる事ができる証である。

そうやって知的生命体、ひいては宇宙人と呼ばれるまでになった種族は母星以外の様々な星と交流を深め、文明をより発展させていった。
時に同盟を組み、時に侵略し。しかしそこには、暗黙の了解とも言える最低限の共通認識、根本的にはこの宇宙に平和を乱さない、というものが確かにあった。
同盟も、侵略も、それらは種の繁栄のために必要な事。侵略されるのも、つまりは弱肉強食の果ての事だ。
だから侵略と言う行為は許されている。もちろん、星同士で戦争になることもあるが、それらも星を守るための正当な行為。侵略も防衛も戦争も、すべてを包み込んで宇宙の法則である。

そんな法則に収まらない種族も当然いる。
まだ文明のレベルが宇宙へ到達できない域の星だ。
そう言った種族はこの先長い年月をかけて文明を発展させ宇宙へ飛び出し、宇宙人の仲間入りをするだろう。
すでに宇宙へと出ている宇宙人達は、それら文明が発展途上の星々を数多く見守っているのだ。

しかし近年、予期せぬ出来事が起きた。
とある星が、宇宙人達の予測を遙かに超えた速度で文明を発展させてしまったのだ。
これにより宇宙人達はその星にコンタクトを取るタイミングを逸し、彼らに宇宙の法則を教えそびれた。それ以前に、宇宙標準語すら理解できていないのに宇宙に進出してきた種族に、どうやって法則を教えればよかったのか。
故にその星の種族は、宇宙の法則を知らぬ無法者と化してしまったのだった。
それが、この宇宙の恐怖の始まりである。


 *


無限の宇宙を突き進む数隻の船。
それは母星のある宙域をパトロールしている防衛軍のものだった。
これまでこの宙域で事件起きたことなど無いが、それでも警戒しておくのが母星を守る使命を持つ者の義務である。
パトロールに出ている者もそれを苦とは思っていない。母なる星の為に出来る、名誉な事と思っていた。

そんなパトロール船のレーダーが、何かの反応を捉えた。

 「どうした?」

普段無いレーダーへの反応。
歩いてきた船長がレーダー員に尋ねた。

 「はっ。空間の歪みを検知しました。どうやらワープ終了の兆しの様ですが」
 「妙だな。今日は本宙域に渡航してくる船の予定など無いはずだが」
 「歪み増大。ゲートが開きます」

船長は船前方のガラスから目の前の宇宙を見つめた。
やがてそこに見えていた星々の輝きが消え、何かが出現した。
…だが、それが何かわからない。

 「む? なんだ? 何か出てきたのか?」
 「レーダーには何も…え? な、なんだこれは!」
 「どうした! 何があった!」
 「か、回避を! 今すぐ回避を―」


  どぉぉおおおおおおおん!!

巡回していた3隻のパトロール船はソレに衝突して爆発した。
3隻の宇宙船が衝突したにも関わらず、ソレは微塵も揺るぐ事無く進行した。



かのパトロール船の母星は大混乱に陥っていた。
星の上空を埋め尽くすほどに巨大な宇宙船が現れたからだ。
周囲が夜になった。日の光が全く届かない闇に包まれてしまった。
他星の侵略者か!? パトロールは何をしているんだ!
人々は叫び怯えながら、その空を埋め尽くす巨大宇宙船を見上げていた。

暫くするとその宇宙船の一角が下降し、地表に伸びてきた。
砲台? ではなさそうだ。それの動く機械的な音が、この宇宙船の下の世界に響き渡る。
やかましいほどの轟音。それは、その伸びてきた一角が地表直前に降りてくるまで続いた。
宇宙船から斜めに地表を狙うそれ。まさかそれは戦闘機の射出口でそこから無数の戦闘機が飛び出てくるのか。それともやはり砲台でこの星を狙い撃とうとしているのか。だとしたらとんでもない事だ。空を埋め尽くすほどに巨大な宇宙船と比べればその降りてきた部分は小さなものだが、その幅だけでも地平線を埋め尽くさんばかりの巨大さなのだ。
いったい何が始まるのかと人々が怯えていると、

  ずどおおおおおん!

  ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!

  ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!

と、まるで星が爆発したかのような凄まじい轟音が聞こえてきた。
世界中の人が耳を押さえるほどだ。
何が起きているのか。人々が轟音に耐えながら宇宙船を仰ぎ見たとき、上空から何かとてつもなく巨大な物が落下してきた。


  *


 「んー着いたー!」

タラップを降りて大きく伸びをする長髪の少女。
長い宇宙航行でなまった体を力いっぱい伸ばしている。
そんな少女の後ろから、同じようにタラップを降りてくる短髪の少女。

 「綺麗なところだね」
 「でしょ。前に検索にヒットして一度は来てみたいと思ってたんだ。まぁ見ての通り、地平線以外なーんにも無い星だけどさー」
 「くす。本当にちっちゃい星だよね。でも寒く無くてよかった」
 「そりゃそうよ。日光浴に来てるのに風邪引いたらたまらないもの」

おどけていう長髪の少女に短髪の少女はくすっと笑った。
二人の恰好は非常にラフなものだった。
長髪の少女はタンクトップと短パンの臍出し。
短髪の少女はスカートの短いサマードレス。
そしてお互い白黒の紐サンダルを履いており、まるで夏の砂浜に出かけてきたよう。

二人はそこから、降り立った星をぐるりと見渡していた。


  *


人々は唖然とした。
それ以外に、何もできなかった。
あの降りてきた巨大な機械の周辺諸国は全滅した。
途方も無い、途方も無い大きさの巨人達に踏み潰されてしまったのだ。
今人々の見る視界は、白と黒の壁で埋め尽くされていた。
とある国のスパコンが打ち出した計算によると、あの巨人達は、なんと身長160万km弱という、とんでもない大きさだった。
この星の人々の、10億倍もの大きさである。
あの白黒の壁の正体が、巨人達の履くサンダルであると、隣の星に設置された衛星からの映像で確認できた。
この星の衛星ではダメだった。この星の衛星は、あのサンダルの厚みよりも低いところを飛んでいるのだ。
衛星の映像によると、この巨人達は女の様だ。それも若い少女のように見える。
二人で楽しそうにお喋りをしているようだが、肉眼ではその様子はまるで分からない。
何故なら遥か天空の彼方まで、あの白黒の壁は続いているからだ。
人々が目視できるのは、彼女達が履いているサンダルの、その底辺のほんの一部に過ぎないのだ。

これほどの異常事態を前に、人々は彼女達の正体を悟った。

彼女達は、「地球人」なのだ。


  *


「地球人」
辺境の宇宙、太陽系なるところにある星、「地球」に住む知的生命体である。
宇宙最大の大きさを誇るヒューマノイドで、これまで数々の宇宙国家が強大な彼女達の力を利用しようとしてきたが、その恐ろしい戦闘力でそのすべてを跳ね除けてきた種族だ。
宇宙的に遅れた文明を送っており、宇宙に出れない以上それほど脅威にはならないと対処の策を先送りにされてきたが、この数世紀の内に驚くべき速度で文明を発達させ一気に宇宙に飛び出してきた。
あの巨大な種族を野放しにできないと、これまで宇宙の連合が何度となく交渉に出向いてきたが、そもそも宇宙語を理解できない種族に交渉の持ちかけようも無く、しかし実力行使に出た国家はすべて全滅していた。
宇宙に存在するありとあらゆる法則は、彼女達を拘束できないでいる。
現段階の対策としては、出会わない事を祈るしかなかった。


  *


この星の人々にとって地球人は最早種族ではなく一個の巨大惑星のようなものだった。
現に衛星から送られてきた映像、二人の少女が映るその足元には、宇宙から見た星の表面がそのまま映っているのだ。
彼女達の足とそれが履くサンダルは、片方で何百という国を下敷きにしている。
計算によると足の長さは24万km。幅8万km。
我々の暮らすこの星が直径1億km超の超特大惑星でなければ、この足の下で踏み潰されてしまうほどの大きさだ。
足の指だけですら惑星サイズの大きさがある。その太さたるや1.5万km。長さは3万kmほどか。親指に至っては高さ2万km幅2.5万kmと、それぞれが下手は惑星より巨大なのだ。
あの指先に輝く爪など、この星の国ひとつの面積よりも遙かに広大だ。その国を丸ごと爪の上に乗せてもあまりある広さがある。
そして、その国に何億と暮らす我々人間を思えば、この巨人の少女はなんと巨大なのか。


  *


短髪の少女がその足に履く白いサンダルの紐を結び直している横で、長髪の少女は太陽の位置を確認していた。

 「ふんふん、あっちの方が光が強そうね。あっちに行ってみましょうか」
 「あ、待って」

歩き出した長髪の少女を、急いで紐を結んだ少女が追いかけてゆく。
見渡す限りの地平線で視界を遮るものは何も無い。
まさに陽を浴びるためにあるような星だった。

 「でもちょっと強いかしら。お肌が焼けちゃいそう」
 「大丈夫、オイル持ってきてるよ」
 「さっすがー」

二人は小さなバスケットを片手に歩いて行った。


  *


惑星は甚大な被害を被っていた。
地球人たちが歩き出したのだ。その恐ろしく巨大な足の下に何百と言う国を踏み潰しながらである。
巨大隕石が衝突したように地殻は吹き飛び、彼女達の一歩は星の核に致命的なダメージを与えていた。
サンダルが地面を踏みつけた衝撃で、大陸がまるで塵のように吹き飛ぶ。地面から吹き飛ばされ蹴られた小石のように飛んでゆく。人々は遥か宇宙にまで吹き飛ばされていた。
厚さ1万kmを超える凄まじい底を持つサンダルを履く足は、その裏に国々を踏みしめている事など感じてもいないだろう。
衛星に映る映像では彼女たちは楽しそうにお喋りしながら歩いている。その足元に足跡を残しながら。しかしその足跡こそ直径24万kmにもなる凄まじい大穴である事を彼女たちは気づいていない。
あどけない笑顔でくすくすと笑い合っているが、その足元に何百億という人々を踏み潰している事にまるで気づいていないのだ。
次の一歩が踏み下ろされるであろう地では人々が凄まじい絶望の中で叫び涙している。しかし笑う少女たちはそんな彼らの上に当たり前のように足を降ろし通過してゆく。
そのとんでもない大量虐殺に全くの無関心だった。

ずずぅぅぅうううううううううううううんん!!

不意に、地球人たちがサンダルを脱いだ。
地表にいる者からは、初めて巨人のサンダルではない生身の部分を見る事が出来た。
素足で地表に降り立っていた。
しかし、だからとて圧倒的に巨大である事に変わりは無い。
その素足の下に、新たに国々が踏み潰されただけだ。
すでに指だけで国をまとめて下敷きにできるのだから。


  *


 「わっ! なんかマシュマロの上を歩いてるみたい」
 「本当、とってもふかふか」

短髪の少女がその感触を確かめるようにその場で足踏みをした。
地面は柔らかく、足を下した後には足跡がくっきり残ってしまう。
地表は陽光で暖められていて、柔らかく沈み込む地面が足の裏にフィットしてぬくもりが気持ちいい。
少女たちはサンダルを手に歩き出した。


  *


結局のところそれで何が変わったという事は無い。
相変わらず、国々は踏み潰されている。
彼女たちにとってはほとんどの国が大きさ数mm。1cmに届くものは無い。足の小指ですら国を丸ごと潰してしまえる。そんな国に住む何億の人々を小指で踏みつけたところで、果たして彼女たちはそれを感じることができるだろうか。
この星の兵器では、彼女たちの小指の皮膚を貫通して神経に感触を与えることは出来ない。どれほど戦力を集中させても、彼女たちは気づきもしないだろう。
逆に、人々が彼女の足の小指に乗ったとして、それを小指と認識できるだろうか。
惑星ほどもある超巨大な指先。指紋の山脈が無数に連なる肌色の惑星。大気には常に足の臭いが付いて回る星だ。
気づくことは出来ないだろう。地平線を肌色の大地が埋め尽くす。
高いところに立って、地平線が丸く見え、周囲一面に肌色の大地が広がっていて、それが一人の少女の指先のほんの一部だと。
人々は、そこで暮らすことさえできてしまうのだ。

彼女たちは今宇宙的な大犯罪者になっている。
他星への侵略行為は言わずもがな。すでに彼女たちが踏み潰した人々は1兆の1000倍を超えている。宇宙裁判にかけるまでも無く極刑が申し渡されるであろう。
しかし彼女たちは無実を主張する。何故なら、彼女はそんなにたくさんの人々を踏み潰したことなど気づいていないからだ。
今も楽しげに笑いながら歩き、そしてその下に兆を超える人々を下敷きにしている。
比喩であれば、彼女たちの足の裏は星の数ほどの人々の血で真っ赤に染まっているだろう。

足がズンと踏み下ろされ、そしてまた一歩の為に持ち上がる。
持ち上げられるさい、つま先がわずかに地面を引っ掻く。
惑星を小突ける巨大な指指が、その先で大地をガリガリと削り飛ばす。
光速を超えて歩く彼女たちのただの歩行だけで、惑星は再生不可能なほどに粉砕される。
彼女たちが一歩歩くごとに、星は破滅に向かって一歩進むのだ。

国も大陸も海さえも踏み潰し、彼女たちが通った後には足跡がくっきり残っている。
山の最も高いところも海の最も深いところも踏み抜いて、後には地層をむき出しにした巨大な穴が残るのみ。
海を踏み抜くとやがて足跡に周辺の海水が流れ込み、それは世界一深く世界一巨大な海となる。足の形をした海だ。
その海を彼らが船で縦断するとしたら何年とかかるだろう。島一つ無い、完全な水平線の支配する海だ。
そしてそこに水が流れ込むという事は周辺の海が干上がるということであり、彼女たちは歩行による壊滅的破壊だけではなく、足跡による世界規模の二次災害を引き起こしているのだ。

一歩から一歩への間、巨人達が通過するも踏みつけられなかった国々も安心と言うわけではない。
彼女の一歩で地表は波打ち、彼女たちの足の周囲100万kmは都市や国、山や大陸さえも粉々になるような衝撃が走る。
更に次の一歩の為に足が持ち上がり前に移動し、その途方も無く巨大な足は大気をとんでもなくかき混ぜる。
空気が光速を超えて吹き荒れるのだ。
すでに足の衝撃で粉砕されていた地表は、その足が上空を通過したときに大陸さえも巻き上げる凄まじい風吹き、すべてを吹き飛ばしていった。
台風など巨人たちにとっては1mmにも満たない風の渦だ。彼女たちの歩行はその台風を何千個と吹き飛ばせる威力があった。
地球人という存在はただ歩くだけで星を壊滅させる悍ましい種族だ。いや歩くだけでなく、ただそこにいるだけで兆を超える人々を死に至らしめる。
実際、直接足の下敷きになった無数の人々の、更に数倍以上の人々が足が地に着いた衝撃だけで吹き飛んでいるのだ。

どれほど遠くに離れていても意味は無い。
この星にいる限り、それは地球人の足元にいるのと同じなのだ。

 「逃げるのよ!」
 「どこにだよ!」
 「宇宙よ! 宇宙に出てしまえばあのバケモノたちも追ってこないわ!」

まだ地球人から離れた国々では人々が続々と宇宙への脱出を図っていた。
その男女もそれに参加しようという一組だった。
すでに空港は大渋滞になっており、国中の人が集まっている次第で身動きもとれないほどの混雑である。
いくつもの宇宙船が定員を遙かにオーバーしながらも宇宙へと飛び出ていたが、それでも空港に押し掛ける人の数は増える一方だった。
そんな彼らが狂わんばかりに恐れるのは、あの地球人たちの姿が見えてしまっている事だった。
地平線の彼方の空の果てにぼんやりと見えてしまうのだ。巨大すぎるのである。
星の裏側にでも逃げなければ、その姿は地平線の彼方に存在し続けるのだ。

男女は空港の個人発着場に来ていた。
個人で所有する小さな宇宙船を持っていたからだ。それに乗り込んですぐに星を脱出するべきだ。
二人は人波をかき分けて借り受けているナンバーの倉庫に身を滑り込ませた。
押し寄せる人並みに揉まれ体中が痛むがそんな事は言ってられない。女は自家用宇宙船を見上げた。
しかしそこに宇宙船は無かった。倉庫の状況からしてそれはすでに発射した後の様だ。
とにかく宇宙へ脱出したいとここに来た誰かが彼らの宇宙船を使ってすでに宇宙へ脱出してしまった後なのである。
女は絶望し泣いた。男にはそれを抱きしめてやることしかできなかった。
宇宙船が無い。
大型の民間の宇宙船は随時発進しているのが見えるが、この空港にはもうそんなに数が残ってはいない。
そこらじゅうで我先に宇宙船に乗ろうとする人々で暴動が起きている。
もうこの空港で宇宙船に乗ることは出来ない。

そんな二人の周囲が突然暗くなった。
空港全体が夜になった。
それは、巨人の次の一歩がここに降ろされようとしていたからだった。
遥か彼方に見えていたはずの地球人はすでに目の前に来ていた。
女はそれを見上げ悲鳴を上げ、男は女を守るように抱きしめた。
二人には足は巨大すぎてすべてを見る事が出来なかった。ただ空の端から端を、肌色の何かが覆っただけ。
巨人のかかとが地平線の彼方に着き、そのままつま先にかけてゆっくりと降ろされていった。
このままいけば二人のいる空港のある国はつま先の付け根にあたる部分に踏まれるだろう。
世界が一気に暗くなる。時間はもうコンマ1秒も残されていない。二人は最後に互いの唇を重ねあった。

そのまま足は地を踏みしめ、次の一歩の時に持ち上げられていった。
二人にとって良い事があったとすれば、二人の宇宙船を盗んで宇宙に出た人も、地表5000kmまで飛び出たところで、上空から迫ってきた足の裏に激突して爆発した。
同じように飛び上がった宇宙船たちは次々と足の裏に激突され、結局この空港から発進した宇宙船はすべて踏み潰された。


  *


暫く歩いたところで二人は足を止めた。

 「この辺でよさそうね」

長髪の少女は辺りを見渡しながら言った。
ここなら太陽も真上に近い。照りつける陽光が心地よかった。

 「シート敷く?」
 「いいんじゃない? 水着着てるし、後でシャワー浴びるしね」

言うと長髪の少女は来ていた服を脱ぎ始め、それを見た短髪の少女も服を脱いだ。
それぞれ、長髪の少女は赤いビキニを、短髪の少女は青いビキニにのみ身を包ませた。
陽光を受け、二人の肢体がキラキラ光る。例えばここが人の賑わうビーチだったりしたならば、それこそ男性の目を引き付けて止まなかっただろう。
しかし二人がこうも無防備に曝け出せるのもここが無人の星だからである。
短髪の少女は小さなシートを敷きそこにバッグと二人の着替えを置いた。
二人は互いの体にオイルを塗る。

 「うぅ…ホント羨ましいなぁ」
 「そ、そんなに見ないでよ…」

短髪の少女にオイルを塗る長髪の少女の視線は、その胸にあった。
青いビキニに窮屈そうに包まれるそれは今にもビキニの紐を千切らんばかりに大きく盛り上がっている。
短髪の少女が恥ずかしそうに胸を抱き寄せ身を捻ると、その所作で大きな胸の間に深い谷間が形成された。
興味をそそられた長髪の少女はその胸の下に手を当て胸を持ち上げてみた。

 「うわっ重っ!」

手が上下するたびに胸は重そうに形を変える。
例えばこの胸が少女の体から独立していたら、長髪の少女はそれを持つのにうんざりするだろう。

 「男が放っておくはずないわよねー…」
 「そんなこと無いよ…」(赤面)
 「隠さなくたっていいじゃない。この前、隣のクラスの男子に告られてたでしょ? 結構イケメンの」
 「だ、だって、付き合うなんて恥ずかしいし…」
 「うわーこんなの揺らしてれば男なんて取っ替え引っ替えできるのに。まぁ私的には男なら彼氏でもないと触れないものに触れるからいいんだけど」

大きな胸を鷲掴みにする手。
柔らかな肉が指の間からはみ出てくる。当然、手に収まるような大きさではないのだ。

 「やわらかーい。これは女の私でもクセになっちゃうよ」
 「や、やだぁ…」
 「で、この手のひらに感じるツンとしたのは乳首なのよね。ちょっとコリコリしたらどうなっちゃうのかしら」

長髪の少女は人差し指の指先でビキニの布越しに乳首をつつき、短髪の少女の顔が目に見えて赤くなってゆく。
が、抗おうとしないのはそれを求めているからだろうか。

 「冗談よ」

しかしすぐに手は引込められた。
短髪の少女は顔を赤らめたままポカンとし、上目使いに長髪の少女を見た。

 「え、なに? 本気だった?」
 「うぅ…」
 「そーいうのは彼氏にやってもらいなさい。好きな男にやってもらうと何倍も気持ちいーんだぞー」
 「そ、そうなの?」
 「雑誌に書いてあった。まぁあんたは男に困らなそうだし。でも私だって胸は平均あるしこの腰から脚にかけてのボディラインは自信あるのよ」

長髪の少女はお尻を向けるとそれを左右に振った。
それを見て短髪の少女もくすっと笑う。

 「ま、そういう話は今度にしましょ。彼氏は欲しいけど、どうせこの星には男なんてひとりもいないんだし」
 「そうだね」

二人は頷き、長髪の少女はゆっくりと腰を下ろすと仰向けになり、短髪の少女は膝を着きうつ伏せになった。
彼方の太陽から照りつける光が、二人の体を温める。


  *


巨人たちのその動作に、周辺国家は全滅した。
巨人の一人、赤いビキニを着た髪の長い巨人が座り込むとき、その下敷きになる国々は天空から迫る超巨大惑星のような途方も無い大きさの尻を見た。
衛星からの映像は、肉尽きの良いむっちりとしたお尻と、その間に若干食い込む赤いビキニが映し出され、それを眺める防衛軍幹部たちを困らせたが、現実は更に困ったものである。
惑星サイズの尻が地面に落ち、結果、数百の国がその下敷きとなり消滅した。桃尻の途方も無い重圧はすべての国を地下深くまで究極的に圧縮し、何百億もの人々をそのほっぺで押し潰した。
人々にすれば、そのビキニのほつれた細い糸ですら大都市を貫ける太さがあるのだ。あれで惑星と惑星を繋ぎ止めることもできよう。いや、この特大惑星は例外として、通常の巨大惑星はあの真っ赤なビキニのボトムの中に納まってしまう。一個の惑星が、ひとりの少女の下半身を覆う面積の少ない布の中にすっぽりと入るのだ。少ないと言ってもその布の面積は惑星の全大陸の面積より広い。例えば宇宙にある惑星にそのボトムを被せておいておくこともできる。それは、宇宙から見たら凄まじく異様な光景だろう。
更に、座った巨人は大地に寝そべった。
あの天空から宇宙へと突き抜ける巨大な柱であった脚は、今度は地平線の彼方へと続く山脈へと変わった。
巨人が座った時、片足は膝を伸ばし前へと投げ出され、空中を光速で突き進んだ足が大地に降ろされ、その踵が接地した衝撃は周辺国家を吹き飛ばした。大地がめくれ上がるような衝撃だった。
もう片方の足は地に着けたまま伸ばされていった。つま先と巨大な指が、地面を削りながら前へと伸ばされてゆき、やがてつま先は持ち上がって踵が同じように地面を削りながら伸ばされてゆく。
人々に抗う事などできない。迫ってくるつま先は幅8万kmであり、それは大きさ僅か数千kmの国などまとめて呑み込んでしまうのだ。指先の津波だった。無数の国と大陸と海が、大地をゴリゴリ削りながら迫ってくる超巨大な足の指の津波に呑まれ削り、磨り潰された。あの小指の幅ほども無い国の上に暮らす人々が、そんな巨大な足から逃げるなど不可能なのだ。
最終的に両脚は軽く開いて投げ出される形に落ち着いたが、その過程では何千もの国が消え、そして今も、その逞しい両脚の下、特に太ももの下には無数の国が下敷きになっている。
周辺国家は闇に包まれた。
巨人が背を倒してきたからである。
これまでで最も広い範囲が闇に覆われた。巨人の背中の範囲は、そこに何千と言う国を建国できるほどの広さがあり、それが倒れ迫ってきたのだから。
巨人が横になり、背を着いたとき、これまでで最大の範囲が下敷きになり、そして人々が押し潰された。
あの巨人の、地球人の少女の背中は人々には広大に過ぎた。この背中を歩いて横断しようものなら、一時の休憩もしないで歩き続けても7年はかかる。爆発的な推進力を誇る惑星間航行機を利用しても、その幅を行くには時間を要する。巨大すぎるのだ。巨人は巨大過ぎ、背中は広大過ぎ、そしてその結果、無数の国が下敷きになった。
そしてその後、巨人が、まるでベストなポジションを探すように身を僅かによじらせたのでそのせいで間一髪被害を免れていた国を巻き込み、巻き込んでいた国をより細かく磨り潰し、大地を凄まじく振動させた。
衛星の映像には、巨人が気持ちよさそうに手足を伸ばし身をよじらせているのが映った。背伸びをしているようだ。魅惑的な光景だが、そのせいで国々はゴリゴリと磨り潰され、大地がゴゴゴゴと鳴動していた。
そして更に、あの長い髪がその破壊を助長する。
長さ60万kmというとんでもない長さの髪だ。それは無数にあり、巨人が身を倒したとき、周囲にばさりと広がった。
が、たかが髪の毛と言えど前述のとおり長さは60万km。これは直径1.3万km(一周4万km)の星を15周できる計算であり、そして光が通過するのに2秒かかることである。幅は80km。街の二つ三つが丸ごと入り、都市一つ分くらいの太さだ。つまり髪の毛一本で大都市の空を覆える大きさがあるのだ。太さはそのまま高さとなり、地に落ちた髪の毛は高さ80kmつまり標高80000mの山脈になる。太さ、つまりは髪の毛の一周は250kmにも及ぶ。恐ろしい事に、人々はこの髪の毛の上に街を作り生活することができる。それだけの広さと大きさがあるのだ。髪の毛一本の表面積およそ1億5千万平方km。これは彼女たち地球人から見た地球の最大の国ロシアの面積の9倍近いであり、更に言えば、地球の陸地の総面積148,890,000平方kmとほぼ同じなのである。彼女たちの髪の毛には惑星一つ分の表面積があり、そして相応の大きさを考えれば、そこに数十億の人々が暮らすことも可能。髪の毛一本で惑星一つ分の大きさがあるということだ。そしてそれを10万本以上も持っているのがこの巨人の少女なのである。髪の毛一本の重さはおよそ2500000000000000000000kg。宇宙を漂う小惑星ほどの重さだ。
巨人が仰向けに寝転がった時、そんなに巨大で、そんなに重いものが、十数万と地面にたたきつけられたのだ。髪の毛一本が地面に激突した衝撃は隕石の落下に等しく国ひとつを吹き飛ばす。都市など丸ごと下敷きになり消滅した。更に少女が身を動かせばそれらの髪の毛も釣られるように動く。地面を滑る。彼女の髪の毛は周辺大地をことごとく滅ぼしていった。巨大な山さえも、地面を滑ってきた彼女の髪の下で磨り潰され更地に変えられる。海に落ちた髪の毛もあっという間に海底に着き、その全容が海に沈むことは無かった。というより、海は彼女の髪の毛の底辺を濡らす程度の深さしかないのだ。少女が頭を動かし、髪がちょっと横に動くだけでいくつもの国がその動いた髪の下敷きになって磨り潰され、あとには何もない土がむき出しの完全な地平線が残るのみである。巨大な髪の毛がうねりを上げながら迫ってきたとき、人々は何を思っただろう。一人の少女のたった一本の髪の毛のほんの僅かな部分で都市まるごと何十万人と一緒に潰される事実、何十万といて少女の髪の毛にも及ばない自分たちと言う存在をどう思っただろう。
長髪の巨人は、その超巨大な尻と、超広大な尻と、そして無数の髪の毛の下に何千と言う国々を滅ぼしたのにまるで気づいておらず、今なお体をよじらせている。まるで大地のぬくもりを楽しむように。それは人が温かいベッドに入った時に安らいだ際に取るほんの些細な行動と一緒だ。そうやって身をよじるたびにまた多くの国を押し潰しながら。

短髪の少女が膝を着いたとき、その膝の下でいくつもの国とその国のある大陸が地面へとめり込ませられた。
巨人は更に両手を着き、四つん這いのような格好になってゆっくりと上半身を倒し、最後は両手を重ね、その上に顔を乗せて大地に寝転んだ。うつ伏せになったのだ。白い肌の背中が陽光に煌めく。
そしてその巨人もまた、長髪の少女と同じように無数の国々を押し潰しているのだ。
足は甲を下にしている。硬い足の甲の下、下敷きになった国はその足の重量だけでも地中深くに押し込められてしまった。足の裏が上を向いているが地上の人々にそれは見えない。それ以前に、地に着いた足の指ですらその全景を見る事が出来ないのだ。指も今は逆さまになり爪が大地に沈んでいるが、その爪だけでも厚さは1000km近くあり、人々にとっては爪の厚さだけでも天空に向かって無限に続く壁なのだ。爪の暑さを上るだけでも命がけとなる。文明の利器を利用して、ようやく超える事の出来る存在だ。
地上からは見えない足の裏も、衛星の映像でやっと見る事ができる。そこには、ここまでを素足で歩いてきたせいで土で若干汚れた足の裏が映っていた。とは言っても、そこに滲む若く瑞々しい肌は隠せたものではない。が、防衛軍の幹部たちが少女の足の裏を映し出すモニターに釘づけなのはそれに惹かれたからではなく、そこにある大破壊の跡に引きつけられていたからだ。土に薄汚れた足の裏。その汚れの一つ一つを、拡大してよーく見てみると、それらはすべて国のなれの果てなのだ。ここに来るまで、この巨人が踏み潰してきた国たちだ。例えばあの土踏まずのすぐ横に小さな土が付いているが、それは国が丸ごとひとつ収まった大地なのだ。大陸ごと、地殻ごと圧縮された国は張力でそこにへばりつき、ああやって足の裏にこびりついてしまったのだろう。更に更に拡大すれば、その土の中にビルなどの建築物の瓦礫を見る事も出来た。なんと形が残っているものまである。巨人があまりに巨大すぎ、踏みつけられたとき足の裏のシワに入り、完全な破壊を免れたのだろうか。これほどの重量と大破壊の中で、まさに奇跡だった。だが確認すれば同じように原型をとどめたものはまだまだたくさん出てきた。ビル、車、宇宙船、シワの大きなところではなんと国ひとつが原型を保ったまま発見された。なんという奇跡か。と、同時にそれはこの巨人にとって国ひとつなど取るに足らない存在であるという証だでもあった。踏みつけ、潰れようと潰れまいとどうでもいい。まったく興味の無い事なのだ。原形を保っていることが、逆に彼女の国に対する無関心さがうかがえる。このとんでもなく巨大な足の裏の汚れは彼女がこれまで踏みつけた大地であり大陸であり国だ。足裏全体を見れば薄汚れているのがよくわかる。それらすべてがもとは国だったのだ。今では踏みつけられ、原型があろうとなかろうと関係なく、この足の裏にこびりついている。彼女にとって国など足の汚れ以外の何物でもないのだった。
その時足の指が動いた。なんて事の無い、リラックスした際にもじもじと動かしただけだったが、それでも地に着いている太さ1.5万kmもの足指が動かされれば周辺の大地は壊滅的な被害を被る。指は動いた際大地をめくりあげ平野をひっくり返し山を宙に放り出した。地表面は山が更地に変わるほどの地震が起き、地に着いているはずなのに指は雲さえも蹴散らした。あの足の指が少し動くだけで地上は崩壊してしまうのだ。そんな足の指に挟まっていた汚れがあったのだが、その国ひとつを着けたまま大地から引っぺがされそこに付いていた大陸は、指が動いたときに指と指の間で磨り潰された。大陸一つが、少女が無意識に足の指を動かしたときに完全に消滅させられてしまった。
これらはすべて足の先だけでの出来事であり、その長い脚はまだ多くの国を潰している。ぷるんとした太ももはまさに穢れ一つ無い美しさだが、その下、わずかに地面に触れる部分だけで何百もの国を押し潰しているのだ。若い少女の脚の重量は凄まじくその下にあった国をすべて等しく平らにした。衛星から見える青いビキニを穿いた巨大な尻はきゅっと締まり若さに満ち溢れていのがわかる。あの尻の双子山の一つの表面だけでも何百の国を建国できる広さがある。何百億もの人々が暮らせる広さがある。だが例えできたとしても、今みたいに巨人が体を僅かに動かしたとき尻の肉がぷるんと震えたとき、それらすべての国は地表から放り出されてしまうだろう。彼女の尻から放り出されれば、それは宇宙から落下するに等しい高さなのだ。そんな尻の反対ではビキニ越しに股間が大地に押し付けられていた。直下の国は当然そのビキニの下で潰されている。このビキニですら国数百分の広さがあるのだ。だが、直撃を免れた国は、まさに上空を巨大な股間に占領されているのだった。股間の下の僅かに薄暗い空間。両脚の付け根にあたる部分。日の光も少女の巨体に遮られほとんど届かないこの閉鎖された空間に、あの青いビキニの向こうから若い少女の香りが溢れ出て立ち込める。ビキニの向こうで、少女の象徴は確かに地面に押し付けられていた。国は少女のそれに最も近いところにいたのだ。ほぼ真下と言ってもいい。だからこそ、あふれ出るフェロモンは大地を埋め尽くし周辺国家に襲い掛かった。日の光を浴びる事で汗でもかいたのだろうか、濃密な香りが大地に広がっていた。むせ返るほど甘酸っぱい香り。それが、雲よりも高い高さまで埋め尽くしている。鼻で吸い込んでも口で吸いこんでも、本能に響く匂い。少女は知らぬうちに何十億もの人々を誘惑していた。が、彼らが彼女に何を求めてもそれは無意味である。例え勇気あるものがあの青いビキニを超えたとしても、先にあるのは高さ5万kmにもなる割れ目。太さ数十万mもの無数の陰毛の森を抜けてそこにたどり着いたとしても、その割れ目を攻略することは出来ない。割れ目は彼らほどの大きさならすんなりと通過できるだろうが、その先の奥の奥までたどり着くのは不可能だ。その途中の粘膜に絡め取られ、身動き取れなくなるのが落ちである。そしてそれらを達するのに、数年とかかるのも問題である。巨人は待っていてくれるだろうか、と考えればそんなものはあり得ない。男が何億、何十億、何百億人と集まっても、彼女には感じさせることはできないし彼女も感じることは出来ない。気づきもしないだろう。その何百億の男たちが割れ目の周囲で動き回ったとしても痒いとも感じまい。そんな男たちがどんなに頑張ってもたどり着けるのは入り口の入り口。本当に最初の最初のところなのだ。こんなもの、少女が指を突っ込めばそれだけであっという間に通り過ぎてしまう。こんな男たちに求めるよりも、自分の指を使った方がはるかに早く効率的なのだ。そして、現実の男たちはそれをできるほどの勇気も無く、ただこの香りの中でのたうちまわるのが精いっぱいである。こんなに近くにいるのに途方も無く遠い、この匂いの源泉を恨めしく見上げるのが精々である。そんな彼らのいる国も、彼女が少し腰を動かしたときに、動いてきた股間の下で磨り潰されて消える。彼らの望みは、とりあえずビキニ越しという形ではあるが、国丸ごと体感することができた。いくつかの国を磨り潰した後、その場所に決めたのか、股間は満足したように動かなくなった。周辺にはビキニ越しに股間をこすりつけられすべての国が消滅しむき出しになった大地が広がっていた。
上半身の下では乳房が大地に押し付けられている。上半身の体重を乗せ、ビキニからこぼれんばかりに変形しハミ乳になっているそれの下にも多くの国があった。そこの人々は宇宙から迫る二つの巨大惑星サイズの乳房を見上げる事しかできなかった。巨人が四つんばいになったとき二つの乳房は大きく揺れた。その揺れ幅はそれが地上であったなら地震など比べ物にならないほど凄まじいものである。少女がゆっくりと寝そべり胸を地面に押し付けるまでの短い時間に、人々は落下してくるその乳房をただ唖然と見上げていたのだ。胸板からぶら下がるその乳房の直径は15万kmほどの幅はあるだろうか。青いビキニの紐で固定されている以外拘束するものの無いそれは僅かな動きでゆさゆさと揺れ弾むがそれら魅惑的な所作はすべて恐怖でしかなかった。巨大な乳房を覆う巨大なビキニ。その三角形の布だけでも国十数個分の面積があり、それすらも小さいと思わせてしまう乳房の大きさは途方も無い。今はあの布に覆われて見えないが、その向こうにある乳首だけでも惑星サイズなのだ。そんな乳房は地面にゆっくりと押し付けられた。やわらかく、やさしくだ。動作が緩やかなおかげで、人々にもそれを観賞し恐怖する時間が十分に与えられた。誰もが逃げ惑い悲鳴を上げて泣き叫んだ。逃げられようはずもない。彼らの暮らす国は、あの乳房にくらべ悲しいほどに小さいのだ。カビ以下の大きさである。正気を失った何人かが両手を上げて迫りくる乳房を防ごうとしたが、例え何千億と人が集まろうとも彼女の大きな乳房は受け止められるものではなかった。乳房は彼らの抵抗など眼中に無くそこに降ろされた。先端から順に地に触れ、自重の重さに変形し潰れてゆく。下敷きになった国々は、乳房が変形する前には、乳房の重さで押し潰されていた。そのまま巨人が上半身をおろし胸に体重がかかるほどに乳房は変形し、無数の国々をハミ乳に巻き込んでゆく。二つの乳房は無数の国と人々と大陸と海を押し潰してようやく止まった。そこには他所よりも重圧がかかり、乳房の下には二つの大きなクレーターができた。直径十数万kmもの大きさである。ただの隕石の衝突でもここまで大きなクレーターは出来ないだろう。巨人によるおっぱいの押し付けは惑星に隕石衝突以上の傷跡を残した。そしてその胸を安定させるようにぐりぐり動かせば周辺に起きた振動と衝撃波は周辺の国々を次々と吹き飛ばしてゆく。ずっしりとした乳房の動きが収まった頃、周辺の国は全滅していた。
最後、少女の手が乗せられその上に顔が乗せられるまでのわずかな時間、そこの国の人々は初めて肉眼で少女の顔を見た。ショートヘアーにあどけなさを残す若い少女の顔だった。本当に、人間に酷似していた。それはこの巨人達が同じヒューマノイドであるということの証明であり、その証明は彼らに残酷な事実を悟らせる。この恐ろしい大破壊を行っているのが同じヒューマノイドでありただの少女であると。そんな巨人の顔が下りてくる。その顔には笑みが浮かべられていた。人々は最初、その笑みは自分たちを虐殺することへの優越感から来るものと思ったがそうではなかった。その笑顔はこれから行う日光浴への期待と喜びの表れなのだ。自分たちのことなど、自分たちを虐殺していることなど、まったく眼中になかったのだ。まるで微笑みかけるような柔和な笑みが、逆に残酷だった。そんな国の上に二つの超巨大な手が被せられ国は暗黒に包まれた。少女の手のひらだけでいくつもの国は空を奪われた。そしてその手のひらの上に顔が乗せられたことで、手のひらの下にあった国は皆そのまま押し潰された。巨人が、まさにこれから眠る子のように枕にした手の上で顔を動かし頬をぐりぐりこすりつけるたび、手の下の国は粉々に磨り潰されていく。

そして暫くして、世界に二つの寝息が響き始めた。
二人の地球人の呼吸が世界の大気を揺るがす。
生き残った者はこの機に宇宙に脱出しようとする者と復讐しようとする者に分かれた。
脱出を選んだ者は瞬く間に宇宙へと飛び上がり、復讐を選んだ者は自国の持てる兵器のすべてを稼働させた。
地表からの無数のミサイル攻撃、宇宙からの大艦隊によるレーザー攻撃など様々な兵器が繰り出されるその様はまさに戦争。しかしこれほどの兵器が一度に持ち出されるなど星間戦争でもなかった。それほどの兵器を、たった二人の少女に使わなければならないというこの現状。だが、それが地球人というものだった。宇宙最凶の種族を前にしているのだ。

が、どれほど攻撃を続けても、対象に変化は無かった。ダメージどころか、傷一つ、それどころか身じろぎひとつしない。
肌に直接レーザー光線を当てているのに、火傷も何もない。反応が無いのだ。気づいてもいないのか。
この国の保有する兵器の破壊力では、地球人の少女の柔肌を浸透し神経に感じさせることもできないのか。

今、地表のあらゆる国からミサイルが二人の巨人に撃ち込まれている。
宇宙からも無数にレーザーが放たれている。宇宙空間である二人の体の周辺には見た目無限ともいえるほどの戦艦が集結していた。何百万何千万何億か。かつてこれほどまで宇宙戦艦を引っ張り出したことがあっただろうか。
しかしどちらの巨人にも変化は無し。その片割れ、長髪の巨人は寝言まで呟いている。
その様に憤りを覚えた艦隊の一部がその長髪の巨人の顔面上空へと移動するとそこから眼下の巨大な顔に向かって攻撃を仕掛け始めた。少女の顔を攻撃するという罪悪感など無い。相手は地球人であり更には大きすぎて少女に見えないというのも大きい。閉じられた巨大な目の上、閉じられたまぶたの上から目に攻撃する。太い光線が何束もまぶたにあたるが、まぶたはピクリとも動かない。
戦艦隊の背後にそびえる高さ1万km弱太さ100km弱という凄まじい大きさのまつ毛も、彼らの光線ごときでは痛みもしないだろう。
無数に集まる戦艦。長髪の巨人の顔上空を飛んでいた数千は彼女の直径数万kmというとんでもない大きさの鼻の穴から発せられる呼吸という突風で吹き飛ばされた。地球人のちょっとした呼吸も、宇宙人にとっては超新星爆発の威力に匹敵するものがあり、直撃を受けた戦艦たちは粉々になり一瞬で消滅した。直後の息を吸い込む呼吸にはまた別の数千という艦隊が巻き込まれあの超巨大な鼻の穴の中に消えていった。

それから数時間もの間、宇宙からも地表からも攻撃が続けられたが、結局有効なダメージを与えることは出来なかった。
無意識、または突発的な事故により戦艦の数は大きく減っていたが、その結果も巨人への攻撃とはなりえない。
長髪の巨人が寝返りを打った時に、振り回された手に衝突し無数の戦艦が爆発し、地表に叩き落された巨大な手は星表面を大きく破壊した。
短髪の少女が眠りながら無意識のうちに延ばしていた足を交差させたとき、その指先に大地が削り取られ地表に幅も深さも1万kmを超える巨大な5つの溝が残された。
結局この数時間、防衛軍は巨人たちの無意識の所作で数を減らす以外何もできなかった。


 *


「ん…ねちゃったか…」

長髪の少女が身を起こすと短髪の少女も起き上ってきた。眠たげに眼をこすっている。

「気持ちよかったね」
「ねー。流石に日焼けするとまではいかなかったけど」
「うん。ぐっすり寝ちゃった。でもちょっと汚れちゃったね」

見れば短髪の少女は体の前面が、長髪の少女は背後が砂で汚れていた。

「んーまぁ、砂浜で寝るのと一緒よ。シャワー浴びれば大丈夫よ」
「そうだね」

言いながら長髪の少女は髪に着いた砂を払落し、短髪の少女は体の前に着いた土を払い落とした。
胸に着いた砂を払い落とすとその所作で胸が揺れる。
少女たちは、その払い落とす土や砂が大勢の人々の暮らしていた国や都市のなれの果てとは気づかない。
胸に着いていたいくつもの国は、少女が胸をぷるんと揺らすとたまらなく宙に放り出され地表に落下していった。

「それじゃ帰りましょっか」
「うん」

二人は立ち上がると荷物を纏めて宇宙船へと戻って行った。
途中、新たに何千もの国々とそこに暮らす無数の人々を踏み潰しながら。
しかし心地よい日光浴を終えて楽しいおしゃべりに花を咲かす少女たちは、自分たちの行っている大虐殺など気づきもしない。
先ほど二人が身を起こしたときに、その周辺に集結していた宇宙戦艦隊や地表の軍は、その体に激突して全滅していた。
自分たちの星を守るものをほとんどを失ってしまったのだ。
二人は、一つの星に壊滅的打撃を与えた事など知りもせず、宇宙船に乗り込むと母星である地球に向かって飛び立った。

あとには天文学的な大きさの少女たちが残した無数の超巨大な足跡とことごとく荒廃した地表。
そして、彼女たちと言うとんでもない大巨人の歩行によって核に異変をきたし、星としての機能が停止してしまった惑星が残された。
これからこの星はゆっくりと破滅してゆくだろう。そして残された人々にもそこから脱出するすべは残されていない。
彼女たちの歩行の衝撃はほぼ星全体に響いていた。巨大な足が一歩降ろされれば、星の裏で大地が裂けるほどにだ。
彼女たちがおしゃべりしながら進むその一歩の凄まじい衝撃は大地を走り衝撃波となって周辺国家に襲い掛かる。
すでに星表面は彼女たちの足跡を起点に無数のヒビが走りボロボロになっている。主だった国のほとんどが吹き飛び、残った国も壊滅的なダメージを受けた文明の中ですぐに復興するのは不可能だった。
彼らは巨人たちがあの超巨大な宇宙船へと向かう後姿に見た。
笑顔で笑いあいながら二人が歩くその次の一歩の為に足が持ち上げられたとき、その足の裏に汚れと言う無数の国が張り付いているのを。少女たちの笑顔と、その巨大な足の裏の下に踏み潰された国のなれの果てのギャップが異常なまでにシュールだった。
この星に未来は無い。二人の地球人の少女が日光浴に来ただけで、星は終わりを迎えたのだ。

これが地球人の実態である。
他星を侵略することになんの憂いも無い。自分たち以外に知的生命体がいないものと思い込み、そこにある文明を蹂躙することになんの疑問も持たない。
知識を持たないまま文明だけを発展させた結果、誰も止める事の出来ない宇宙最悪の存在になってしまった。
これからも無数の侵略が繰り広げられるだろう。地球人が自分たち以外の知的生命体の存在に気づくまで。
それまで、いったいどれほどの星が侵略され、どれほどの国が蹂躙され、どれほどの人々が踏み潰されなければならないのだろうか。


 ※※※


いつも侵略されてばかりでかわいそうだからやった。反省はしている。
今回は小さすぎて住人に気付かなかったけど、いつか1000分の1の住民の星とかに行かせてみたい。
思いつきと勢いでゴリ押ししたので文体が暴れまくってますがそれでも楽しんでいただけたらいいな。
結局いつもの十六夜でした。御拝読ありがとうございました。