【嬲り】系。



 『 上履きの中に 』



「あはは。それホント?」
「ホントよ。もうビックリしちゃった」

放課後。
まだ生徒たちがちらほらと残る教室の中に、数人でお喋りしている女子たちの姿があった。
なんの変哲もない日常の景色のひとつだった。

「あんっ」

そのうちの一人が小さく声を漏らした。

「どうしたの?」
「なんでもない。ちょっとおチビちゃんにくすぐられちゃっただけ」

言いながらその少女は上履きを履いた右足のつま先をパタパタと上下させた。

「え? まだ生きてるの?」
「ええ。もう朝ほどの元気はないけどね」
「すご~い。私なんて朝登校してくる途中で潰れちゃったよ」
「私もー。ホント小人って貧弱よね」

女子たちの会話。
話題が変わっても、その楽しそうな様子は変わらず、また動揺も無い。
それは、これらが当たり前の事だからだ。

彼女たちの間でブームになっているのが小人を足の指の間に挟んで1日を過ごす事だ。
朝、足の指の間に100分の1サイズに縮めた数人の小人を挟み込み、靴下を履き、ローファーやら運動靴を履いて登校する。
学校に着いたら上履きに履き替え、学校で一日を過ごし、家に帰宅する。
それだけだった。
いかに小人を捻り潰さぬよう慎重に歩くかが肝らしい。そしてその所作が歩き方を美しく見せるとかどうとか。また僅かな消臭効果もあるようだが、暑いこの季節、それが一番少女たちに喜ばれた。

だが小人が一日持つことはそうそうない。
巨大な少女たちの足の指の間にほぼ全身を挟み込まれ、そしてその空間は少女たちが歩を進めるたびにキュッと締まる。
まるでプレス機のような圧力の指の間で、小人はすぐに捻り潰されてしまうのだ。
弱い者は、指に挟まれて、少女が一歩歩いただけで潰れてしまう。
若い少女たちは学校で過ごす一日のうちに何千歩も歩く。多い生徒は1万歩を超えるだろう。それはその数だけ、少女たちの巨大な足の指が間の小人を捻り潰そうと襲い掛かってくるということだ。
少女が歩くだけで、小人たちは何度も殺されなければならない。
また、歩く事のない授業中なども、上履きの中で指をくにくに動かして間の小人を弄んだりもする。
小さな小人の儚い抵抗を足の指をキュッと軽く締めるだけで押さえ込む。その圧倒的な優越感がたまらないそうだ。
ただやはりやりすぎると潰してしまうのでそのギリギリの力量を見極められる程度の技術は必要らしい。これができる少女は大体何十匹かの小人を使って特訓していたりする。

ただの登校と授業中だけで何度も死線を横切る中、体育などがあった日にはその死はより確実なものになる。
激しく動く少女たち。その運動を支える足には途方も無い圧力がかかる。
例えば飛び跳ねようとつま先に力を込めればその瞬間 指の間の小人たちがプチプチと弾け飛ぶだろう。
走るだけでも同じこと。体育の授業は、小人にとって寿命を決めつけられるような時間だった。

仮に少女たちが全く歩かず指を動かしたりしなくても、小人たちには死が近づいてくる。
夏。上履きと靴下に包まれた指の間は恐ろしいほどの温度と湿度になる。
小人を挟み込んで放さぬ巨大な指の表面には汗がにじみ、蒸れた空気は強烈な臭いとなって小人のいるつま先の空間に満たされてゆく。
指に挟まれた小人はそこから逃げる事ができない。体を動かす事も出来ない。
ただただ、その地獄の中で悲鳴を上げていた。
そしてその暑さに耐え切れず熱中症となり息絶える者や強烈な臭いと湿度で呼吸困難となり絶命する者が現れ始める。
少女たちが何かをしたわけではない。ただそこに閉じ込められるだけで、小人は死に絶えるのだ。
無邪気な処刑場である。

「じゃあそろそろ帰ろうか」
「そだね。あ! 帰りにアイス買ってこうよ!」
「いいわね。じゃあ今から指の間に小人挟んで、一番多く潰した人のおごりね」
「おー? 負けないよー?」

言うと少女たちは上履きと靴下を脱ぎ始めた。
その少女たちのほとんどの足の指の間には小人の姿は無かった。
ある少女の指の間で唯一生き残っていた小人はその少女の指によって摘み出され専用のケースへと仕舞われ、代わりに別の小人たちが取り出された。
めいめい、足の指の間に数人の小人を挟み込み、靴下を履いて、上履きを履く。

「準備おっけー! それじゃよーい…?」
「スタート!」

一人の少女の声と共に少女たちは歩きだし教室を出て行った。
その少女たちの足の指の間ではすでに数人の小人が犠牲になっていた。