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&nbsp;Alien
By Hedin
1.ブルリンド

 彼女は横たわりながら、皮膚と鼓膜に軽い振動を感じていた。彼女は決心して起きようとしたが、そのままベッドから落ちてまた眠ってしまった。その間にも、彼女のベッドに備え付けてある、大きなブザーと振動がする安い目覚まし時計は鳴りっぱなしだった。彼女は7日間にわたるフライトで疲れていた。3ヶ月休みなしで働いたくらいの疲労度である。
 彼女はしばらくしてようやく起き上がると、だるそうな動作で目覚ましをオフにした。
宇宙船は、通常宇宙に戻るためにワープアウトの準備をしていた。母星にあるパワーステーションは、そのワープアウトのために、相当量のエネルギーをこの船の大型圧縮機に届けていた。それは簡単にハイパースペースに入れる量だが、もしワープアウトに必要なエネルギーを確保できないと、多くの船は戻って来られなくなる。しかし、そんなトラブルは昔の話である。彼女――ブルリンドは、紫の光が点滅するコンソールに歩いていった。宇宙船の進路上に障害物はなく、航行には何の問題もない。
 そこで彼女はふと思い立った。うっかり、服を着るのを忘れていた。
 ブルリンドは壁の中にあるクローゼットを開けると、着替えを始めた。今日の彼女の服装は、赤いミニスカートに、胸元の開いた白いノースリーブのタンクトップである。ちなみに、下着はつけなかった。彼女の気まぐれな思いつきである。彼女は裸足でコックピットに入ると、コンソールに表示されている情報を見た。現在、彼女の母星「サイグリア」は価値のある惑星を探していた。ブルリンドもその偵察要員の1人として、宇宙の外縁に存在する星団のうち、21個の星系を順番に偵察する予定であった。
 仕事が終わったら、彼女は小額の金と宇宙船を得るだろう。彼女は、商人になるか、旅行者相談窓口を開業しようと計画していた。サイグリア政府は、鉱石と希少なガスがある無人惑星に興味を持っていた。他の惑星の座標はブルリンドが秘密にしておき、密かにそれらの惑星を買っておくというのは、実はあまり頭の良い者のやり方ではないのだが、ブルリンドは政府を甘くみていた。
 彼女は、次に訪れる星系に関するデータを見た。それは、9つの惑星から成っていた。外側の惑星は面白くもなんともない惑星で、それぞれ多量の水か、少量の炭素か、あるいは1%未満のガスを含んでいた。使いようによっては高価な惑星になるかもしれない。
第四惑星は鉄を惑星上部にかなり多く含んでいる。しかし採掘に充分な量ではない。第三惑星は二つのイヤリングを作るのに充分な金を持つ惑星である。しかし、あまり興味を引かない。最初の惑星はもっと面白くない。その惑星に含まれる鉄は、彼女の船を構成するそれよりも少ない量しかないのだ。第二惑星についてのデータも、使えない惑星であることを示していた。大気は酸性であり、それゆえに採掘には費用がかかるだろう。
 彼女が次のワープを始めるための準備にとりかかったとき、急に第三惑星のデータ表示が変わった。微小な生命活動を検出したのである。第三惑星の全ての運命がこの瞬間に決したといえよう。ブルリンドは第三惑星に向けて航路を設定し、再びデータを見た。適切な温度、水、酸素、窒素、少々の生命。
 ブルリンドは、今日はハイヒールのための一日なのではないかと考えた。この惑星の生命は全て植物で、地上は柔らかい砂地と、残りは水であると考えられた。それは、厚底ハイヒールサンダルにとって最適の条件だった。彼女は足指のマニキュアの色と同じ、真っ赤なサンダルを取り出した。

 船が陸地に下りると、彼女は軽い衝撃を感じた。彼女は再びコンソールを見た。動物の生体反応は無い。彼女は微笑んだ。動物の生体反応が無いということは、サイグリア人であるブルリンドにとって危険な動物がいないということを意味する。気圧は丁度良く、気温は温暖。
 彼女はスキップしながら外に出た。大気の香りはコンピュータの分析とは少し違い、健康的だった。辺りを見回すと、大地は細かい濃淡の緑色のカーペットに覆われていた。いくつかの小さな水溜りもあり、薄い霧が地上から離れて膝の高さを漂っている。
左足を大地に接触させたとき、彼女は驚いた。見かけとは違って地面は柔らかいが、典型的な沼の惑星とは違う。地面は彼女の体重で圧縮され、沈み込んだ。彼女は注意深く二歩だけ進み、再び元の位置まで下がった。足跡は彼女の足指の高さよりは浅かった。サンダルの尖った踵はその三倍も地面に沈み込んだ。驚いた彼女は、しゃがみ込んで足跡を調べた。足の下敷きになった緑色のカーペットは全て消え去り、茶色に変化していた。さらに足で地面を小さく引っかいてサンダルの跡を付けてみた。彼女は今まで見たことがない足跡を残す砂に満足していた。地面は泥と似ており、多くの水溜りがあるにもかかわらずサンダルは全く汚れず、濡れもしないのだ。
 彼女は再びタラップを昇って辺りを見回し、そして思い立った。金持ちになれるかもしれない、と。ここは理想的な休暇用の惑星だった。危険な動物はいないし、裸足で歩いても足が汚れない。温度もちょうどいいし、空は群青色で雲一つなく、地面には薄い霧が漂っているだけである。彼女はゆっくりと歩きながら、今後のことを考え込みはじめていた。10歩ほど歩いた後、足元に何かがあることに気づいた彼女は、立ち止まって下を見た。そこには、灰色の鉱物のようなものがあった。それは小さな結晶で、地面とは明らかに違う色である。大抵は灰色で、光っているものもあった。その結晶は、背の高いものでも彼女のサンダルの厚底とちょうど同じくらいの高さだった。それらは、彼女が歩いたときに足を傷つけるかもしれない。彼女は安全を確かめるために、その結晶を踏みつけてみた。
彼女はまたもや驚いた。鉱物はほんのわずかに彼女のサンダルの先が触れただけで崩れ落ち、彼女の体重によって液体のようになってしまった。さらに、彼女が一つだけポツンと孤立している鉱物を人差し指でつついてみると、硬い感触があるかと思いきや、ひっくり返って塵と煙に変わってしまった。彼女は宇宙船に引き返した。彼女は幸運だった。彼女は次のワープをする前に契約書にサインしてシートに戻った。サイグリアにいたとき以来の心地良い気持ちでいた。
地球の全ての国が2時間も経たないうちに目覚めた。それまで、たとえ国連が呼びかけても、わずか2時間で世界中の首相や王が集まって会議を開くことなど不可能だっただろうが、この誰も予想できなかった一大事件のために不可能が可能になったのだった。各国首相が実際に会っているわけではなく、専用回線による通信会議であったが、これは快挙であるといえよう。それは40分もかからないうちにニュース報道された。冥王星の軌道上においてほんの僅かな光の点滅が発生したことを、あらゆる国のレーダーが捉え、更にしばらくしてから飛行機のレーダーにもはっきりと映るようになった。地球上に存在するあらゆる高出力の通信機を使って色んなメッセージを送ったが、宇宙船からの回答はなかった。頻繁にギガヘルツ単位での高出力送信を試してみたが、結果は変わらなかった。宇宙船は直径16kmの楕円形をしており、地球に接近していた。
大統領は不快感を撒き散らしながら演説していた。恐怖は2時間のうちに人類を結束させた。彼らは核兵器を使用したが、核ミサイルはウランによる核爆発を起こす前に破壊されてしまった。船の周囲にある見えない何かがあらゆる核反応を阻止したとき、宇宙船によって、全ての街は核エネルギー施設とともに暗闇に覆われた。
宇宙船はカナダに着陸していた。カナダの全ての人は、巨大な球体から長く伸ばされた七つの脚部を見た。その脚部たちはそれぞれ地上のかなりの範囲を平らにし終わると、オタワ川周辺地域に強烈な衝撃を引き起こした。臆病な政治家が破壊されるだろうと警告したエリアは完全に無人にされた。異星人たちは宇宙船の近くに存在する無抵抗な街の破壊を避けたため、悪意がないと思われていた。そして人々は異星人の登場を待ちはじめた。しかし彼らは、ようやく大西洋岸のほうへ開いた長い格納庫の扉に対して5分と向かい合うことはなかった。格納庫から現れた異星人の姿を見て、考えを変えたのだ。
 百を超えるテレビカメラは、身長が5000メートルもある巨大な女性を囲むようなかたちで位置していた。テレビをみていた最も多くの人々は、衝撃にはっと息を飲んだ。その巨大な女性は股に何の覆いもしていなかったのだ。多くのテレビクルー達は、彼らの頭上2000メートルの高さから厚底サンダルが降りてくる光景を見ていた他の人々が甲高い声で悲鳴を上げていることに気付かず、突然訪れた暗闇と凄まじい破壊音と共にこの世から消え去った。最も壮絶な光景だったのは、テレビクルーチームの一つが飛散した瓦礫に埋められる前に映し出された、超高層ビルサイズのヒールがその超重量によって地面に深々と突き刺さった光景だった。大地が沈んだ。
ニューヨークの国連本部は2つの想像を絶するほど巨大なヒールが起こす重々しい衝撃に揺さぶられ、国連大使たちのほとんどは気が狂ったように叫んでいた。
 巨大女の『踏み付け』を見た一部の者は、彼女が地球人を奴隷とする審判を下したと思っていた。しかし一部のものは、彼女が偶然にテレビクルーたちを踏んだのだと主張した。
 この模様を中継していた男性ニュースキャスターが「彼女は性的満足を得るために高層ビルを求めるでしょう」と報道していたが、このときばかりは誰もこの問題発言を気に掛けなかった。
 左足の最初の一歩のあと、右足の真っ赤な殺戮サンダルは生き残ったテレビクルーたちを上空に舞い上げながら上昇したあと、大地に広大な足跡を残した。彼女は自分の足跡を見るために、2つの足跡を再び踏みつけて戻り、その場にしゃがみこんだ。たったそれだけの動作で、撮影に最適な小高い丘にいた200を超えるテレビクルーチームがぺしゃんこの染みになった。
 彼女がしゃがむのを見て、政治家たちは考えを変えた。一部の者は「彼女は誰かを踏み潰してないか確認しているのではないか」と叫び、またほかの意見は「いや、彼女は人々をぺしゃんこにすることが面白くて、どれくらい潰せたか調べているんだ、彼女を止めよう!」と叫んだ。
 ニュースは地球上で最も大きい陰部について報じるだけで、どちらが正しい主張なのかは誰にもわからなかった。
やがて彼女が立ち上がり、彼女の脚が引き起こした14回の衝撃が地球全体を振動させると、それらの叫びは止まった。3つの都市がこの衝撃で消滅した。
 この恐ろしい女巨人がケベックシティのビル街を見下ろしたため、全世界が息をのんでこの光景を見守った。ビル街の人々は皆、彼女を見上げながら死の恐怖に叫んでいた。数人の女性が「男の時代を終わらせて、女性が管理する世の中にして!」と叫んだ。ほかの人々は超高層ビルの屋上でベッドのシーツを振り、女巨人の注意を引こうとしていたが、天高くそびえる彼女にとって、その動きは小さすぎた。
 彼女は興味津々という表情で右脚を持ち上げ、90メートルの厚みがある靴底を都市の上に持ち上げた。彼女の右足の周りにあったものはその動きで空中に舞い上がり、そして都市の各所に散らばりながら落下していったが、彼女がそれに気づいた様子はなかった。

 足の下のビル街の人々は巨大な右足が上空にかざされたことで静かになった。ほんの一握りの人々は、彼女のむき出しの陰部を見ることができたかもしれない。すべての車は停車し、人々はただ空を覆う黒い靴底を見つめていた。その靴底の表面に傷が一か所あったが、それはこの星でついたものではないことは確実だった。
 何千という死の運命にある人々のうち何人かが、郊外の森林をパルプに変えている左足を見ることによって、死の瞬間から逃避しようとしていた。
 なぜ彼女がこの超高層ビルや街並みを人間の住む都市であると認めないのか、誰にも理解できなかった。
 実は彼女の惑星では、高い建物はエネルギー節約のために小高い丘か地下に建てられているのだった。
脚の筋肉が動き始めた。
足元の人々からは靴底の先にスカートの縁があり、その向こうに彼女の顔が見えた。
人々が泣き叫びはじめたと同時に、彼女は一気に右足を下ろした。靴底によって超高層ビルは文字通り一瞬にして爆散し、次に小さな家々が砕け散った。彼女がケベックシティの中心街にそびえ立ったとき、すべての人と物がごちゃまぜになって地表と一体化していた。
 彼女のサンダルの周りで地獄から生き残った人々は数百人いたが、次の瞬間にはサンダルが持ち上がり、そのほとんどが深さ12メートルのクレーターに落ちるか、厚底サンダルの動く壁によってすり潰された。後日、生き残った7人がそのクレーターを見て、そのうち5人が数日後精神病院で自殺し一生を終えた。
 しかしショーはそれで終わりではなかった。長さが150メートルもある彼女の指が超高層ビルの一つを突き崩し、粉砕させたのだ。
 そして彼女は急に立ち上がると、宇宙船のほうに向きを変え、12回の破壊の衝撃と3つの死の足跡を残して歩いていった。数分後、彼女と宇宙船は地球を去っていた。
足跡のクレーターに下りていった人々は、コンクリートと木が巨大女の超重量で圧縮されて作られたダイヤモンドを発見し、なかにはそれを売ろうとする者もいたが、のちに不純物が多すぎていて価値がないことが判明した。
 多くの女性は、巨人女が凶悪であるという政治家の警告を信じず、彼女を男性の終わりを象徴する存在と信じる者もいた。
 あのとき問題発言をした男性ニュースキャスターは以来画面に現れることはなかったが、のちに有名男性史の記者として活躍した。

 数か月間の平和があった。世界は戦争をやめ、団結していた。
しかし宇宙船が長い間戻ってこなかったため、地球の人々はあの災厄を忘れ始めていた。ほんの一握りの人々だけが、各国の政治的指導者の「我々は宇宙で独りぼっちではなかった」という言葉を記憶していた。
 多くの科学者は、あの巨人女が森以外の生命体を発見しておらず、そしてそれらの森すら、彼女にとっては惑星の表面に生えている苔にすぎなかったであろうと分析していた。地球には知的生命体がいないため貿易もできず、彼女に巨大なサイズと比較すると、鉱物の蓄積量も少なかったため、地球は彼女にとって無用の惑星にすぎなかったと発表した。

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