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2.ミラとダンドラ

2年後…

 あれから2年後、再び巨大宇宙船が発見されると、世界は再び恐怖に包まれていた。
 今一度、国連が招集された。宇宙望遠鏡ハッブルが前回の宇宙船より大きい船が映った画像を送ってきたとき、政治家はヒステリックになった。
 さらに悪いニュースは続いた。「侵略者来襲」の報はあっという間に全世界の知るところとなり、ある国の軍が勝手に行動したのだ。核ミサイルが、月軌道を越えた宇宙船に発射されたが、核爆発はなかった。核兵器はやはり、船の周りでは爆発しなかった。地球はまたも無力であったかにみえたが、軍司令部には他の考えがあった。異星人が宇宙船から離れたときに、核ミサイルを使えるのではないかと考えたのだ。
 異星人が出てくるまで待たなければならなかったが、そのときはすぐに訪れた。巨大な船がアメリカの首都ワシントンDCの西数百キロに着陸したのだ。着陸脚の直径は最初の宇宙船より3倍も大きく、そのうち2本が人口の多い都市に降り立ち、その都市の人々は逃げる間もなく押しつぶされた。
 ハッチが開くと、そこに女性が立っていた。ビキニを着た5000メートルの、裸足の女神である。地球の小さな人々のごくわずかしか、彼女が以前やって来た女性と違うことに気付かなかった。今回の女は髪の色が茶色で、彼女の身長は、あのときの巨大女が厚底サンダルを履いていた時の身長と同じだったのだ。
 巨大な裸足がハッチの階段から動いて、小さな町の中心部に降ろされた。雷のように重い轟音と共に200戸もの家々が裸足の下で押しつぶされ、想像もできないほどの衝撃が家々を跳ね上げ、空中で残骸となって落ちた。さらにこの足が地表に着く間に圧縮された空気が嵐となり、引っこ抜かれた木々を60メートルも吹き飛ばしたが、この巨大女はこれらの事実を知る由もなかった。もう一つの足は人の住んでいない地域に降ろされた。
 世界中の人々がテレビでこの巨大な女の様子を観ていた。今回は股間にビキニを付けていて、南米のビーチ映像でも同じものを観ることができる。ただし、それより2700倍も大きいが。
 世界中の人々が、この巨大女がなぜビキニを着て侵略に来たのか不思議に思っていたが、その疑問はこのあとすぐに解消されることになる。
彼女は深呼吸をしてから歩き始めた。想像を絶する大股の歩行に、東海岸全体がパニックを起こした。彼女が歩くたびに恐ろしい振動が起き、5キロ周囲の安っぽい家々は次々に倒壊していった。道路は避難する人々でごった返し、混沌としていた。



ミラ・デニューロはこの惑星を楽しみにしていた。着陸するなり、彼女は急いでハッチに向かい、階段を下りながら地表の風景を充分に見渡した。地表はさまざまに多種多様な緑の明暗に彩られ、そして旅行代理店の説明どおり、いくつか奇妙な鉱物の結晶があった。彼女はその結晶のうちいくつかを踏んづけてみたが、ほかの地面とあまり感触は変わらなかった。
「ダンドラ!」
ミラが船に向かって振り返りながら呼びかけると、ダンドラと呼ばれた女性はすぐにハッチに現れた。ダンドラ・ローチはミラの親友で、魅力的なカーブを描く金髪に美しい青い目、ライトブルーのミニスカドレスと、同じ色のサンダルを身に着けていた。
 彼女らはこの惑星で7日間の休暇を楽しむつもりでいた。この2人は女教師で、2人ともこの星にやってきた10人いるサイグリアン・スペース・アカデミーの第1期生だった。
 新しく発見されたリゾート惑星の最初の観光客がアカデミーの生徒であるのは、いつものことであった。彼女らは発見された惑星で開拓についての情報を得るつもりだった。
 ダンドラはハッチから足を踏み出すと、海に向かってゆったりとした歩調で歩き始めた。海岸までは散歩にちょうど良いくらいの距離があったが、彼女たちには地表に高低差がなく素晴らしく滑らかに見えた。これは、この星の海がそれほど深くないことを物語っていた。
 ミラはダンドラの足元に注目していた。ミラは足元に広がる鉱物たちをあまり踏まないように足を踏み出していたが、ダンドラのほうはまったく構うことなく踏み潰していた。ダンドラはさらにサンダルを脱ぎ捨てて、右足を持ち上げて地面に踏み下ろした時、ミラはダンドラが好奇心いっぱいの表情で結晶を踏み潰し、つま先をぐりぐりと何度もこすりつけているのを見た。ダンドラは結晶がチリのように崩壊するのに驚きつつ、それらをすり潰していった。感触はほとんど皆無だった。10個ほどの結晶を崩壊させたとき、背の高い結晶が足の指の上に落ちてチリになった。彼女が小さなかゆみを生んだそれを足踏みで振るい落とすと、周囲の結晶たちは完全にチリと化してまった。
 ミラはかぶりを振った。ダンドラは自然に対する敬意をまったく持っていなかった。ミラはため息をつきながら船に戻っていった。彼女がハッチに近づいたとき、彼女はダンドラの足跡をみた。それから、ミラは仲間の少女たちに通信を送った。



 国連の決定が早くないことは皆が知っている。通常、何かを決定するのに数時間はかかる。それは足の裏で多くの生命を押し潰していることを知らずに1500メートルの歩幅で歩いている巨大女に対してはミスマッチであった。しかし、2人目の巨大娘が宇宙船から現れて大陸全体に彼女らの声が響き渡ると、国連は即決した。わずか5秒で、国連は巨大娘に核攻撃を行うことを決定したのだ。足の下の顕微鏡サイズの生命について知りもしない彼女らは無罪であるという意見が出る前に、軍命令は発布された。
 しかし、高速の軍用機でさえ遅すぎた。2人目の巨大女が長さ600メートル以上のサンダルの足跡を残して、大勢の住民がいる地域に地響きをたてたとき、何千人もの人々が死んだ。大勢の死者と平らにされた地域は彼女の足指のふくらみによって9メートルの地下に押し込まれ、さらにかかとによって24メートルにまで沈んでいった。数秒ごとに何千もの人々が死んでいった。
 ミサイルがデータ入力される前に、巨大女はワシントンDCの郊外に着いた。誰も彼女たちを止めることはできなかった。アメリカ大統領は核ミサイル指令地下壕に通じていた赤い電話からとてつもない轟音を聞いて、地下壕が巨大女の足の下で土塊に変えられたと悟り、命拾いをして涙を流した。そしてボディーガードが救出ヘリの中に大統領を放り込んだ。
 ロシア大使は大使館の庭に出て皮肉に笑っていた。まさかロシアの核ミサイルがアメリカに歓迎されるとは思ってもみなかったからだ。だが暗闇が大使館を覆ったとき、彼の考えは変わった。大使が表情を変える前に、その体は巨大なサンダルの下で大勢の人々とともに肉塊に変わった。巨大女はサンダルは脱いだ。しかしワシントンにいる数百万人の人々にとって、状況は何も変わっていなかった。大勢の人が、巨大な彼女があと3個から5個の足跡を残して都市を横切り、海に向かって歩くだろうと予想していた。首都の警察は巨大異星人のサンダルが到達する前から住民を避難させるために行動していた。彼らは巨大女が遥か彼方にいるのをみて逃げ切れる希望を抱いたが、彼らは間違っていた。その巨大女がとてつもないスピードで動き、目の前にそびえ立ったからだ。
数百万もの人々が、彼女がペンタゴンの真上にサンダルを落としたのを見たとき、恐怖で動くこともできずに悲鳴を上げた。彼らは彼女の足がゆっくりと下りてくるのを見て、逃れられない死の光景にパンツを濡らした。
 彼女の足から遠く離れている人々には彼女の表情を見ることができた。それは何年も前にケベック州の人々が見たものと同じだった。
 好奇心の表情。
 彼女は一体、とるに足らない数百万人もの人々と共に一歩で超高層ビルや何百という家々を押しつぶすことをどのように思っているのだろうか。
 彼女は素足を下ろしていった。地表が彼女の足で沈み、歪んでいった。超高層ビルは彼女の足指の間で押しつぶされる寸前、まるで泥のように足指の裏に貼り付きながら崩壊し、次の瞬間にはその強大な圧力によって地面にいた人々ごと蒸発した。
 彼女は足の指の上の残骸の中に生存者がいることを知りもせず、微笑みながら足の指をくねらせて満足げにため息を漏らした。それらの残骸は彼女にとっては単なる皮膚の上についた埃として、力強いつま先の指の間に振り落とされていった。素足が上昇し、今度はつま先が家々の集中する地域に下ろされた。そして、そこで足指は何度もその向きを変え、何百という人々と共に3ブロックが平らにされた。
 彼女は都市の外まで足指を引きずった。つま先が、死んでいった何百万もの人々を跡形も残さない1kmもの長い谷を残した。足をサンダルの中に入れ、暴風を残して持ち上がった。瞬時に訪れた死の恐怖に、1万人が失禁した。再び都市の無傷の部分 平らになったホワイトハウスからサンダルが上昇し、郊外の平野に下ろされたとき、何百万の安堵のため息がもれた。

それは殺戮劇であった。生存者は皆無だった。
 数秒のうちに、嗚咽と怨嗟は止んだ。
 彼女のサンダルがわずか9歩で完全にワシントンと周辺の郊外の街を平らに押しつぶした。数百トンもの土壌が、この無邪気な巨大女の足跡によって押しつぶされ、足の裏に貼り付いて上空に持ち上げられた。
 その数秒後、ロシア大使の避難を待ってから発射された核ミサイルが到着した。国連はニューヨークの南に起こるであろう核のフラッシュを警戒して目を瞑ったが、爆発することはなかった。
 ミサイル防衛レーダーのクルーが、絶望に泣き叫んだ最初の人間だった。彼らは不発弾と化した何百ものミサイルが巨大娘の体の上に雨のように降り注ぐのを見た。そしてプルトニウムの塊が地表に雨のように降り注いだ。
 その数秒後には、巨大女の足はビーチに達していた。

もし彼女たちが地表をよく調べていたら、それほど遠くには行かなかっただろう。
国連本部はさらに惨劇に見舞われた。彼女たちは地表など見ていなかった。一つの歩みで何百もの人間が下敷きになった死の足跡を残しながら、大陸を闊歩していた。
 何百万もの人々が金髪女のビキニを履いた魅力的な尻に影ができるのを見たあと、その尻でマイアミビーチとともに潰されていった。
茶髪の女は微笑を浮かべながらハリウッドの都市をビーチサンダルで踏み、そしてメガトン級の若々しい女性の脚と腕、そして胸とお腹が次々と押しつぶした。

金髪女がメキシコ湾の水をはね散らすと、その想像を絶する大量の水はまたたく間にニューオリンズを襲った。その金髪―――ダンドラは東海岸をぶらつき、ニューヨークの周囲をぺしゃんこに押しつぶし、国連本部と世界のリーダーを消し去った。
軍の地上部隊はこのタイタン族の女を重砲の射程に捉えたが、発射する前に次々と踏みつぶされ、そしで一瞬の後に射程外に去っていってしまった。
大都市の一つ一つがこの無邪気で、遊び好きで、好奇心旺盛な巨大女の下で地ならしをされていった。
軍事基地もその殆どが足跡に変えられていた。基地では兵士たちが飛行機や車両を奪い合ってパニックになっていた。
5時間後には、大都市郡は死の足跡によって寸断され、小さな町だけが点々と存在していた。
 彼女らは海に入った。自分たちの豊かな胸を覆うまで深い海溝にまで進んだとき、海岸の都市はすでに水に浸かっていた。それから、彼女は船に戻り電話をしたとき、その大轟音で北アメリカに残っていた窓という窓が全て四散した。

 その夜、少数の生存者は食料や動く自動車を探して瓦礫の山を漁ったが、どこも死体ばかりであった。生存者たちはコンクリートのように硬くなった巨大な足跡の表面や巨大女の乳房やその美しい身体が残した谷の上も調べたが、そこは全てが岩のように固く圧縮され、完全に均されていてそこに何があったのか識別できなかった。――むしろ何も識別できないことは幸運だったかもしれない。
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