巨大なビキニの女はピザ生地に載せた、2万分の1に複製転送した街をよく見ようと、ピースを持ち上げて斜めに傾けた。

すると、かろうじて人や車と分かる細かい点が、端からパラパラと落ちていくのが見えて、女は失敗したときにする苦い表情を浮かべた。

複製転送の際に[生物]の項目に不注意でチェックを入れていたことに気が付いたのだ。

彼女は残忍な性格ではなかったし、そもそも街を縮小して食すという変態的な食事趣味を一般人に見られるのには抵抗があった。

結果、コビトなど邪魔だと思い、いつもは転送から除外していた。

 女が複製をやり直すかどうか迷っていると、この街で一番の高さを誇るビルが、傾いた自重に耐えられず中央で折れてしまった。

「あっ、勿体ない!」

言うと女は口を開けた。

スローモーションのようにゆっくり落ちていく超高層ビルを口の中に招待するためだ。

極小サイズのせいか、落下速度は非常にゆっくりとしたものであった。

 落下する人々は、突然我が身に起きた災難を理解する間もなく空中に放り出されたが、緩慢な速度のため気絶することはなかった。

そしてこの美しい女の、全長が1.5km以上もあるピンク色の唇がゆっくりと上下に開き、街の数区画が丸ごと収まるであろう赤黒い口内を見た。

街を見て食欲をそそられたのか唾液の量が多く、粘液の糸がビルより高くそびえている。

そして落ちゆく先には巨大な舌が不気味にうねっており、人々を待ち構えていた。

女は舌の上にビルが落ちたのを感じて、微細な点たちが落ちてくる感触が続いているにも構わず口を閉じた。

落下していた人々の半数が口内に閉じ込められ、残りの半数は上下の唇に挟み潰された。

運のいい者は唇の上に落ちて助かったが、唇に貼り付いて身動きが取れなくなった。

 落下の衝撃で口内で崩壊しつつあるビルやその他のものは、想像を絶するほど巨大な歯や舌で咀嚼されてあっという間に粉々になった。

女は鉄骨が千切れ、コンクリートが砕ける建物の絶妙な食感と味、そして初めて感じる、わずかに塩気と苦味がするコビトの味を堪能した。

閉じた口内の唾液の海の中でビルが粉砕される、低く重い咀嚼音が街中に響き渡り、この恐ろしい音を聞いた住民は悲鳴を上げて逃げ始めた。

それを見た女は鼓動が早くなり、息が荒くなるのを感じていた。

圧倒的な大きさの自分の行為に人々が恐れ逃げ惑う光景が面白い。

そして複製とはいえ、大量の人々を喰うというこれ以上ない背徳的な初体験に女は高い興奮を覚えていた。

 頬を上気させた女は水平に戻したピザの街に口を近づけて舌を出し、ぐちゃぐちゃのペースト状に粉砕された残骸を、ようやく状況を理解し始めた住民に見せつけて、ピザからの悲鳴を十分に楽しんだあとで喉を鳴らして飲み込んだ。

女は恍惚な表情を見せて口を開け、はぁー、と満足のため息を漏らした。

暴風のような熱く湿った息を受けた人々は、自分の運命を悟って恐怖に泣き叫んだ。

続いて、女は水音をさせながら巨大な唇を開き、歯を見せて微笑むと、ついに口の中にピザの街の先端を入れた。

 はじめの落下で上下の唇に取り残された少数の人々は、身長3万メートル、縮小された人々と対比して相対で2万倍の、この途方もなく巨大な女の歯と一緒に街の上下からビル街に迫るのを目の当たりにしてこれ以上ないほど大きな悲鳴を上げた。

そして上の歯列が建物の屋上から中の人々を無慈悲に押しつぶしながら地面に向けて、下の歯列は生地と岩盤や建物の基礎を軽々と粉砕しながら、それぞれ地面を切断するのを見た。

女は切断した部分を破壊しないようわざと唇を閉じずに街の先端を引き千切った。

唇の人々はまたも生き残り、断面を晒している建物の中で同じく生き残っている人々に助けを求めたが、彼らにはどうすることもできなかった。

女はピザを持ち上げ、断面の中で恐怖におののいている人々を見て、またも恍惚そうな表情で「んふふ」と鼻息だけで笑った。

 巨大女の口内は高い熱気と湿気、独特の臭気、そして鼓動や様々な臓器・器官の重低音が渦巻く混沌の世界だった。

ピースの先端からこの狂った異世界に強制移住させられた人々は、暗闇の中、湿気で下着まで濡れ、臭気でむせ返っていた。

やがて地面がゆっくりと下がって光が差し込むと、端の建物が奥歯で粉砕されすり潰される光景が目に入り、またすぐ暗闇に包まれるという気が狂いそうになるシーンを何度も繰り返し見せられた。

この巨大女は、口内と口外の両方の人間たちに恐怖と絶望を与えるために、わざと大きく口を開けて、ゆっくりと咀嚼しているのだ。

人々はその度に意味もなく右往左往している。

狂乱して、歯にプレスされるのを逃れるために唾液の渦に飛び込んでいった者もいたが、すぐに見えなくなった。

上に下に、右に左に、地面を載せている巨大な舌が動き回り、そして奥歯が全てを区別なく平等にすり潰していき、唾液がそれらを液状にしていく。

それらの食感が無くなるころには、口内にあったものは有機物無機物がごちゃ混ぜになった膨大な質量の一塊となっていた。

女はそれを飲み込み、またも満足の嘆息を漏らした。