昨日買ったブーツと新しい服を着に、宇宙船へ戻った絵里香と麗奈。
麗奈は、宇宙船に戻った際、絵里香と同じサイズで戻っていたのだ。

ソファーに机、カウンターキッチンが見える。壁側にはモニターが見えた。
「麗奈ちゃん一応ここでは靴を脱いでね。」
麗奈は絵里香に言われるままリビングのソファーに座り、履いていたサンダルを脱ぐ。
「麗奈ちゃんにも新しい部屋を用意してあげないとね。」
「私に部屋貰えるんですか。」
「もちろんよ、これから服とかも増えていくだろうし寝る所も居るでしょ。」
一昨日まで紙で仕切られた部屋で床に布切れをひいて寝ていたのを思い出た。
「とりあえず靴を戻しに行きましょう。よく知ってるでしょ?」
絵里奈が笑いながら話しかけてくる。
麗奈が働いていたあの場所だ。
リビングを出て右に曲がると、廊下の床に小さい点が沢山動いている事が分かった。
案内をしてくれる絵里香さんは、床を気にせずどんどん歩いていく。
「絵里香さん、この床に居る小人は何してるんですか?」
前を進む絵里香に尋ねる。
「床の掃除をさせてるのよ、のろまが多いから気にしてたら進めなくなっちゃうわよ。」
そういうと床の点をわざと踏みつけて麗奈に笑って見せる。
白い綺麗な足裏に赤い点がいくつも付いていた。
リビングの逆側の壁にある扉を2個ほど抜けると、少し開けた空間に出た。
彼女が生涯暮らしていた空間だ。
「右側のシューズラックに入れておいて。」
絵里奈がパンプスも一緒に渡してくる。
いつも麗奈が見ていた高い天まで続くような白い壁はシューズラックの扉であった。今シューズラックの扉は胸当たりまでしか無い。
中を開けると、綺麗な靴が並んでおり小さい無数の点が靴の上に乗ったり、ひもでぶら下がり作業をしていた。
麗奈が扉を開けたことにびっくりした小人達は一斉に靴から離れようとする。
鈍い動きであったが、今から置こうとしている場所にも点が広がり、置く場所が無いように思えた。
「わざわざ潰されに来るのね。」
麗奈は見えている最上段の棚に、パンプスとサンダルを並べて置いた。
小さい点がいくつも消えたが、仕方のない事だと思った。
「綺麗にしといてね。」
笑顔で小人達に話しかけると、扉を閉めた。

一方その後ろでは、絵里奈が昨日買ったブーツを並べて置いていた。
そそり立つブーツと比較すると床で蠢く点のいかに小さい事か、麗奈はまたあの残虐心と快感が込み上げてくる。
「ここに置いておくからすぐに綺麗にしなさい。新品だから汚したら承知しないわよ。ちゃんと両方やるのよ」
絵里香が床の蠢く集団に命令すると集団はワラワラとブーツに集まっていた。

「麗奈ちゃん服を選びましょう。どんなのが良いかしら私が選んであげるわ!」
絵里香がそう言うと、また廊下の方に歩いて行った。
麗奈はふとシューズラックの横にある身長ほどの姿鏡を見て
"綺麗・・・"と自画自賛するのであった。

リビングより奥の部屋は絵里奈の寝室の様だ、ベッドが置いてあり、その上に窓があった。漆黒の宇宙が見えている。
ベッドの横にはゴミ箱が置いてあるのが見える。
よく奥の方から絵里奈の咆哮が聞こえてくるのを思い出した。
両壁にクローゼットがあり、その片方を絵里奈が開ける。
そして中をゴソゴソと探し出した。
「もう邪魔ねぇ、扉が開いたらさっさと逃げなさいよ。あんたたちが潰れると服が汚れるじゃない。」
絵里奈かそんな事を言いながら服を出しては叩いて小さい点を落としていた。
落下した点は赤い床の模様に変わり、その周りに点がまた集まってくる。
そんな光景をボーっと見ていると、絵里奈が嬉しそうに近寄ってきた。
「麗奈ちゃん。どっちがいい?」
手に紫と黒のランジェリーを持ってきて嬉しそうに絵里奈が訪ねてくる。
「広司はどっちが好きかな・・・・」
「もう、麗奈ちゃんたったら、好きな方を着てみて、最初に広司に見てもらえばいいじゃない。選ばなかった方を私が着るわ」
「絵里奈さま、いいですね。そうします!」
麗奈は広司の反応が楽しみに成った。
その後同じように二人でワイワイと服を選び、化粧とネイルを整えた。
麗奈はショートのデニムスカートに大きく首元が開いた白いTシャツ。
絵里奈はベージュフレアスカートに淡いピンクのYシャツを選び、
クローゼットの横に会った小さい四角い窓に着ていた服を投げ入れ玄関に向かった。

結構時間が経ってるように感じたがまだ床に点が動いている。
麗奈はもう気にすることもなく玄関へ移動する。

玄関に着くとあのブーツがそそり立っている。
短い方が私ので、長い方が絵里奈さんのだ。
近くに寄ると、蠢く点が一斉に離れていくのが見て取れた。
離れるのを待とうとしていると、横で絵里香が靴を履きだす。
小さい点はまだあちらこちらに居ように見えるがお構いなしにジッパーを開き、そして足を挿入していった。
「やっぱりいいわねこの靴、麗奈ちゃんそう思わない?」
絵里奈が麗奈に向かって笑顔で話しかけてくる。
「絵里奈さん綺麗です・・・」
無意識に口から出ていた。
「ありがとう、麗奈ちゃん」
そういうともう一方のブーツを履き終えた絵里奈は姿鏡で自分の姿をチェックし始めた。

小さい点がどうでも良くなってきた麗奈は何も考えずに自分のショートブーツに手をかける。
パラパラと落ちていく物が見えたが、何かうっとおしく感じた。
両方履き終えて満足すると、絵里奈に姿鏡を使われており使えない麗奈は地面の小人達に話しかける。
「どうかな?良いと思うかな、君たち」
何も返事が返ってこない。せっかく聞いてやったのに返事すら返してこない。腹が立った麗奈は出来るだけ固まっている集団にそのブーツを振り下ろした。
周りの点も吹き飛び小さい点が離れていく。小人の恐怖心を感じ取り、快感が体に駆け巡る。

「じゃぁ麗奈ちゃん行きましょうか。空間をあげるから小人が欲しかったら捕まえてその中に入れてね。」
背中から絵里奈の声がしたと思ったらブーツの周りがゴミゴミした箱と蠢く点に変わっていた。




部屋の扉を開けて出た広司の目に銃を構えた兵士が移った。
「コージとか言うやつだな。あの女どもに動かないよう伝えろ。」
どすの聞いた声で突然言われる。
周りの宿泊客はそんな光景に目もくれず悲鳴を上げながら逃げまどっていた。
「先の部隊から連絡が無いから来てみれば部屋に誰もいねぇし、突然でけぇ女が現れるわ、なんなんだこの状況は。
お前知ってるんだろ全部話せ」
怒鳴りながら軍人は聞いて来る。
広司は手を上げながら話す
「俺にもあまり状況がわからない」
「お前、あの女の知合いなんだろこっちはわかってんだよ!さっさとしろ」
銃口を胸元に突き付けられ切羽詰まる兵士にどうするものかと考えていた時
頭の中に言葉が伝わってくる。
"すこし揺れるわよ、何かに捕まっておいて"
その数秒後、クワァァァという風切り音をドォォォンという大きな物が落ちてくる振動が何回き何かの倒壊する音が度々した。
銃口を突き付けていた兵士も足を取られ床にコケている。
「動かないように言えと言っただろ!殺されてぇのか!」
兵士は怒鳴り、先ほどよりもきつく銃口を押し付けてくる。
「俺も彼女たちに伝える手段がないんだよ。屋上に来いと言われたから屋上に行くしかないな。聞いてただろ?」
手を上げながら言うと、背中から別の兵士が銃を突き付けてきて「来い」と言われ非常階段を上った。

窓のない非常階段を銃を突き付けられながら進む、時折グワングワンと地面が揺れるような感覚に襲われる。
あのソファーで足元に集まった時と同じ感覚だ。
このホテルは30階建てで、15階に宿泊していた事もあり、かなり時間がかかる。
25という数字が見えたあたりで、また綺麗だが体を震わす声が聞こえてきた。

「絵里奈さん、広司まだかなぁ中で何かあったんですかね。潰れてないよね・・・」

「私たち泊ってたのそんなに上の方じゃ無かったしもうちょっと待ちましょう。」

「そうですねぇ、この小さいの攻撃してきてるんですけど潰しといて良いですか。」

「麗奈ちゃん良いけど、足動かしちゃダメよ。」

「絵里奈さん、わかりました!」

なんとも物騒な会話をしてる。後ろの兵士が銃口で突く強さが強まるのが分かった。

窓のないこの空間でも分かるぐらいのコォォォォとい風切り音の後、ドォォンドォォンと比較的小さな振動が何回もしている。
伴ってグラグラした揺れも大きく成っていた。
そんな中29ともうすぐ屋上に着こうという時、ダァァァァンと大きな振動と共に階段を転げ落ちた。

「麗奈ちゃん手のひらはダメ!広司死んじゃうよ。」

「絵里奈さん、ごめんなさい。ついイライラしちゃって。」

「麗奈ちゃん解るけど、私も我慢してるから、もうちょっと待ってよう?」

身体を震わす声が聞こえてくる。外は一体どうなっているのか、兵士の銃口が痛いぐらい背中に突き刺さっていた。

Rの文字を目にし、扉を開く。何か埃っぽい空気の中に焦げ臭い匂いも充満していた。
兵士に突かれるまま手を上にあげて下を見て進んでいく。
開けた場所に出た瞬間広司と兵士達は言葉を失った。
右側には街を踏みつけ君臨する真っ黒な塔が二本、上の方に行くと、白いく変わり、オーロラの様な天幕が見て取れる。
合流地点には黒いレースが見えた。
ブーツの付近には町があったのだろうか、周りのビルは傾いたり煙を上げながら燃えたりしている。
黒い塔に向かって閃光がいくつも光っていた。
絵里奈が大地を踏みしめ立っているのだ。

左側には褐色の柱がこちらに向かって倒れている。
比較的低い場所にある合流地点には紫のレースが見えており、少し滲んでいるような気がした。
麗奈が股を開けて、しゃがみこんでいるのだ。
麗奈の足元には傾いているビルも無く、周りの建物は全て崩壊し煙をあげていた。
少し視点をずらすと、ビルの様な指が街の中に落ちて、建物を破壊しながら浮いたり沈んだりを繰り返している。
そんな折、青い目がこちらと目が合った。

少し遠くの方まで灰色の街が続いている。
少し遠くには平野だろうか、緑の地帯が見て取れた。川も流れているようだ。
麗奈は町に戻ってきたのだと理解した。
自分のブーツは道路に収まりきらず、両端のビルを完全に巻き込んで潰している。
そしてブーツに何台もの車が衝突しているのが見えた。
勝手に衝突し爆発炎上しているのだが何も感じない。
後ろで絵里奈がその小さな箱に語り掛けている。
「広司、早く屋上に上がりなさい。早くしないと麗奈ちゃんに踏みつぶされちゃうわよ。」
「もぉ、絵里奈さん、広司さん踏みつぶしちゃうわけないじゃないですか。」
少し拗ねた顔をしながら絵里香へ返事をする。
そんな間にもブーツへ自動車やビルが倒れ込んでくる。
汚く思えてきた麗奈は、公園だろうか開けた場所へブーツを踏み入れる事にした。
昨日の吹き飛ぶ点を思い浮かべながら、少し強めに足を踏み入れる。
ブーツが地面に着地した瞬間、砂埃が周辺に舞い上がり、地面が陥没した。
周辺にあった小さな点や消しゴムカスの様な自動車も吹き飛んでいた。
ズブズブと地面が陥没してく。
公園は彼女の足には小さすぎて、ヒールが街中のビルに調度刺さり、爆発させていた。
麗奈は体の中から溢れる優越感を感じていた。このちっぽけな世界に君臨する自分を思い浮かべ、股が熱くなってくる。
満足行くまで、全て破壊しつくしたい衝動に駆られる。
「麗奈ちゃん気をつけなさい。本当に広司さん殺しちゃうわよ。」
絵里奈に言われてハッと我に返る。この脆く小さい箱の中に広司が居るのだ。
巨大なブーツの横で倒壊しているビルを見て急に広司が心配になってきた。
"麗奈ちゃん広司にショーツどっちが良いか決めてもらうんでしょ?ホテル挟んで両側でお出迎えしない?"
あの一昨日の頭に響く声がした。
"良いですね、絵里奈さんでもホテル壊れないですかね"
何故が返事が自然にできるように成っていた。先ほど破壊した小さな箱を思い出し少し怖くなったのだ。
"慎重に足を置けば大丈夫よ私が先に動くから見様見真似でやってみなさい"
そういうと、絵里香が動き始める。
ホテルの前ギリギリに転移した絵里奈は左ブーツの尖った先がホテルのロビーと低層階の壁にに突っこんでいた。
"あんまり麗奈ちゃんの事言えないわね"触れただけで壊れるホテルにどうしようもない優越感を覚え少し気持ち良くなってきた。
近くの交差点一帯を破壊している右足をホテルの南西へ晒す。
ヒールからゆっくりとちっぽけな小人の街へ下ろしていく。
ヒールが付いただけなのに、砂埃が立ち上がりそのヒールに自動車が突っこんでいるようだ。
そのままゆっくりとつま先を下ろしていく。
靴底に触れた小さい箱はなんの感覚も無く、砂埃に変わっていく。
小人のキーキー言う声も若干聞こえてくるが箱が壊れる音にはかなわないようだ。
そして足全体を付けた後、ズブズブと足が沈んでいくのが分かった。
体制を変え、左足を動かす。ホテルが倒壊しないようにゆっくり引きながら上げていく。
そのまま高架道路のある所に右足と同じようにヒールから付けていく。
高架道路をぶち抜き降臨したヒールに自動車がぶつかってくる。
少しうっとおしく感じた桂里奈は、ヒールをほんの少しだけ揺らしてやる。
高架道路はあっさりと倒壊し何があったか解らなくなった。
苛立っていた事もあって、左足は先ほどのように、ゆっくりとは下ろさなかった。
つま先が付くと周りの自動車が跳ね上がり、砂埃がホテルの方まで流れていく。
いけない、いけないと思いながら、腰に手を当て仁王立ちの状態に成った。

"ほら麗奈ちゃんゆっくりやれば大丈夫よ"
絵里香から声が届く。
何かゴミゴミした空間に自分のブーツを置くのは気が引けたが、広司に喜んでもらうためだと
麗奈も移動を開始する。
絵里香がやったように右足のヒールゆっくり下ろしていく。
比較的大きなビルがあったが麗奈から見れば似たような物だ。
ビルを指すようにヒールを打ち付けると、ビルは倒壊した。続いてつま先を付ける。
いつものようにトンとつま先を置いた。
点と消しゴムカスがちょっと飛んでいき、砂埃が結構な勢いでホテルに吹き付ける。
左足も同じように交差点に着地させる。
結局周りのビルは踏みつけられ倒壊していたが、ホテルは壊れていないようだ。
ほっとして絵里奈の方を見ると、街に君臨する仁王立ちする女神が見て取れた。
"絵里奈さんはやっぱり綺麗だなぁ"と感心していると黒いブーツが度々閃光しているのが見えた。
自分の脚も見てみると、小さい点がチカチカと何かをしてきている。
小人に良いようにされて黙っているのを抑えられなくなってきた麗奈は絵里香に尋ねる。
「絵里奈さん、広司まだかなぁ中で何かあったんですかね。潰れてないよね・・・」
「私たち泊ってたのそんなに上の方じゃ無かったしもうちょっと待ちましょう。」
「そうですねぇ、この小さいの攻撃してきてるんですけど潰しといて良いですか。」
「麗奈ちゃん良いけど、足動かしちゃダメよ。」
「わかりましたぁ!」
"やっぱり絵里奈さんはわかってくれた"そう思い足元でチカチカしている点に天罰を与える事にした。
しゃがみこみ指で解らせてあげることにする。
絵里香に塗ってもらった紫色の爪をした指をチカチカの上から押し付ける。
近くのビルより大きい指は周辺のビルを破壊しながらチカチカを消す事が出来た。少し砂埃が出るが、ホテルには影響無さそうだ。
でも、チカチカは一杯ある、チマチマと指で押し付けてを繰り返していたが、だんだんイライラとしてきた。
一纏めに踏みつけてやりたい衝動を抑える。でも、我慢できなくなってきた。
瞬間無意識に掌で一画を叩きつけていた。
ビルが5棟は巻き込まれ、周りのビルも傾いている。少しスッキリした気分になった。
「麗奈ちゃん手のひらはダメ!広司さん死んじゃうよ。」
絵里香に言われふと我に返る。最近こんな事が多い気がしていた。
「絵里奈さん、ごめんなさい。ついイライラしちゃって。」
申し訳ない気持ちになり、素直に謝った
「麗奈ちゃん解るけど、私も我慢してるから、もうちょっと待ってよう?」
"絵里香さんも我慢してるんだ・・・"そう思い絵里香の足元を見てみると、右足のヒールがズンズンと地面を刻み、その周囲の物を跳ね上げさせていた。

ホテルの上に数個の点が現れた。
よく目を凝らしてみると広司が手を上げて銃を向けられている。
絵里香の我慢が決壊しそうになった。
「ねぇ、広司呼んだけど、あんたたち何なの。」
自分でも最近聞いた覚えのない冷たい声が出た。
何も返事は返ってこない。じっと視線を送っていると、兵士が発砲してきた。
「そんな豆鉄砲でどうにかなるわけないでしょ、ねぇ何なのか聞いてるの」
我慢が出来なくなり、右足を少し違う場所に打ち付けた。町の区画が全て揺れる。
ホテルも大きく揺れているようだった。
絵里香の力で広司にバリアを張り、空中に浮かび上がられた。白い膜に包まれた広司は足をバタバタしているのが見える。
"広司ちょっと我慢してね"落ち着くように伝える。
麗奈ちゃんは浮き上がった広司を見てパァァっと顔を明るくさせていた。
「ほんと、どうなってんのよ、誰に何してるかわかってんの?」
浮いた広司に向けて銃を乱射する兵士達。
絵里奈は今まで我慢していた物が崩壊した。
足を思いっきり振り上げ、ホテルに向けて全力で右足振り下ろしたのだ。
ドゥゥゥン!都市を揺るがす振動が駆け抜ける。
200mのクレーターの真ん中に立たずむロングブーツがそこにはあった。


兵士も青い瞳に見つめられている事を感じていた。
上から女の冷たいが押しつぶすように降りかかる。

「ねぇ、広司呼んだけど、あんたたち何なの。」

黒い塔の底がゴゴゴゴゴと沈んでいく音がしていた。盛り上がった土のせいか何棟かビルの倒壊する音も聞こえてくる。
彼女は怒っているようだ。
トリガーに手が伸びる
その時恐怖におかしくなったのか、他の兵士が彼女に向けて銃を乱射しはじめた。
「おい!やめr・・・」

「そんな豆鉄砲でどうにかなるわけないでしょ、ねぇ何なのか聞いてるの」

全てを消し去る女の声がまた落ちてくる。
身体の芯を震わせるような冷たい声だ。
少し足が震えているもの自分でわかる。
ふと女の右足がコォォーと空気を切り裂き、街の方にズオォォォン!と落ちた。
その衝撃で立っていられなくなる。砂埃が押し寄せ、周囲の状況がよくわからくなった。
コージと呼ばれていた男は白い何かに包まれ上空に上がっていった。
"あれを逃すと絶対に生きて帰れない、足でも撃って本気だと見せつけなければ"そう咄嗟に判断し
銃を白いもやもやに乱射する。
他の兵士も同じ思いだろうか、各自何かを狙って銃を放っていた。

「ほんと、どうなってんのよ、誰に何してるかわかってんの?」

そんな言葉が降りかかる。女が喋ると発砲音も振動も無くなってしまう。
言葉の内容なんてどうでも良かった、ただ恐怖だけを感じる。
女の眉間に一瞬皺がより、ジェット機の様な音が上空に響く。
赤い靴底が見え、風景がスローに成る。
赤い中に黒い何かが大量に付着していた。周囲に白い気流を纏わせたその赤い天井は、靴底に付着している物が、自動車や建物の残骸だと気付く前には彼を染みに変えていた。



"昨日のお客さん綺麗だったなぁ、また来てくれるのかなぁ"昨日の事を思い出しながら、紗綾は今日もお店へ自転車を漕いでいた。
夕方、日頃成らない扉のベルが鳴った。
少し筋肉質な普通の男と、見たことないほど綺麗な白と褐色の美人二人が来店したのだ。
最初は貴族かなと思ったが付き人が居ない所を見ると違うようだ。
「いらっしゃいませ!わぁぁぁ、綺麗なお連れ様ですね。」
思わず口に出してしまった。
「私、革職人をしています紗綾といいます。気に入った物があれば試着していってくださいね。」
自己紹介をしなければと取り繕う紗綾。
褐色女性の方が貴族にでも、会ったように頭を下げ挨拶してくる。白い髪がサッーと流れ
すこし滑稽な風景も綺麗な絵に成った。
金髪白肌の美人は、商品棚をじっと見つめている。
帝都に来てやる気に満ち溢れていた頃に、自分の想像を最大限生かして作ったブーツコーナーを見ていた。
靴底を染める等、奇抜すぎたのか全く売れず、自信を無くしている原因の一つでもあった。
「このブーツというのは、長いけど履きやすいの?」
白い女性が訪ねてくる。
「お客様ブーツをご存じないのですか?」
思わず口に出してしまった。知らない事も驚いたが、同時に"ブーツを知らないから興味を持っていたのか"とがっかりする。
"がっかりしてる場合じゃない、売れるかもしれない!"そう気持ちを持ち直し、ブーツを手に取る白い女性に提案する。
「よろしければ試着されますか?」
「するわ、ちょっと手伝ってくれる?麗奈も来なさい。」
紗綾が作った一番長いブーツと短いブーツを持ってコツコツと奥の試着ルームに進んでいってしまった。
慌てて追いかける紗綾。あの褐色の女性は麗奈さんと言うようだ。

二人して丸椅子に腰かけると足を組んで、履いてるサンダルとパンプスをそれぞれ脱ぎだす。
その動作がどうも綺麗で女性である紗綾も見とれてしまっていた。
「これ隅に置いておいて」
渡された、サンダルとパンプスはどちらも見たことの無い物で、知らないメーカーと知らないデザイナーのサインが靴底にあった。
「私のは大変そうだからこっちは麗奈が履くといいわ」
ショートブーツを麗奈さんに渡す白い女性。
「絵里奈さん、ありがとうございます。」
嬉しそうな笑顔で言葉を返す麗奈さん。
白い女性は絵里奈さんと言うようだ。
二人で色違いのワンピースを着ており、どちらもスタイルが良く背が高い。まるで姉妹のようだと様子を見ていた。
麗奈は受け取ったショートブーツをジッパーを下げずにそのまま履こうとする。
「お客様ジッパーを下げてから履かれますと簡単だと思いますよ。」
「ジッパー?」
麗奈さんの赤い眼がこちらを見て首を傾けている。
「その子、ちょっと世間に疎いのよ手伝ってあげて。」
そう言われ紗綾は麗奈に近づき膝まづく。
目の前にある褐色の長い脚のきめ細かさに目を奪われたが、"仕事をしなくては"とショートブーツのジッパーを下げ、麗奈さんの足に履かせてあげる。
綺麗な爪と整った足先を見て、綺麗な人は先っぽまで綺麗なんだと思っていると
「それジッパーて言うんだ!」
なんとも無垢な笑顔でこちらを見て喜んでいる麗奈さんが話しかけてきた、心を奪われそうに成った。
麗奈さんは逆側は自分で履くと言うので、挟まないように注意だけすると、その綺麗な風景を眺めていた。

我ながら良くできたデザインの靴だと思う。この長身とスタイルであれば靴が余計に映える。"いい仕事をした"と自分に言い聞かせる。
鏡を見ながら二人は確認しあって居た。
「絵里奈さん、すごくきれい。」
「フフ、ありがとう麗奈ちゃん。あなたもすごく綺麗よ。それにこれ履きやすいわね、足が疲れにくいわ。」
何度か狭い試着室を歩き回る絵里奈さん、その後ろから麗奈さんも追いかけて歩いている。
紗綾もいつかこんな女性に服や靴を履かせてファッションショーに出てみたいと、夢見心地だった。
そのまま店の中に戻っていき、男性と会話をしているようだ。なにやら好印象なようだ。
「お二人ともすごくお似合いです。いかがでしょうか?」
店員の様な言葉が自然に出てくる。
「いいわねこれ、足首疲れないしこのシャープなシルエットも最高だわ、靴底もオシャレよね、これ剝がれてこないの?」
「持ってきていただければ、修理させてもらいますよ」
「あなたに修理してもらえばいいのね。分かったわ。持って帰るわよ。
それとこれ、ネックレスなんだけど、あなたにあげるわ。鞄でも何でもいいから肌身離さず持っていなさい。」
突然青い綺麗な宝石のついたネックレスを渡された。
「お客様からこんな綺麗なネックレスいただけません!」
咄嗟にこんな高価な物受け取ってはいけないと思った紗綾
「チップだと思って受け取りなさい。私からのチップ受け取れないの?」
少し冷たい声に先ほどとは違い恐怖を感じた。
見上げながら拝借するポーズをし、履いていたズボンにネックレスを入れる。
先ほどの試着室に戻って履き替えてもらいブーツを紙袋に詰める。
「あなた明日もこの店に居るの?」
絵里奈さんから聞かれる。
「毎日この店に居ますよ、お待ちしてますね。」
笑顔で答えると、絵里香さんも笑顔で答えてくれる。
「そう良かったわ、何があってもこの店から出ないほうがいいかもね。」
ちょっと意味の解らない返事をされたが、"いつ来ても良いように準備をしておけ"という意味に捉え
「かしこまりました、明日もおまちしております。」
と答える紗綾であった。
会計の時、絵里香さんはクリアカードを出してきた。
クリアカードこの国の特別な貴族しか持てないカードである。
"やっぱり貴族だったんだ・・・"と思いながらこんな貴族も居るんだと少しうれしくなり店を出ていくのを見送った。
男性が紙袋を持つわけでもなく、麗奈さんは嬉しそうに両手で抱えて胸で紙袋を押しつぶしていた。
やっぱり変な貴族だと思い、また明日も来てくれるのかなと嬉しく思いながら、今日は売れた!と店じまいを始めたのだった。

帝都の中でも、ファッションの中心と呼ばれる街にお店を出すため、北の漁師町から出てきた紗綾は、2年前借金をして今の場所に店を借りた。
最初は表通りで店を持つことを考えたが、とても払えるような金額ではなく、しかも貴族からの紹介が無いと借りることもできないという。
結局今の表通りからも見える裏通りという場所に店を出すことに決めた。
最初は表から見えるしお客さんもくるだろうと安易に考えていたが、やはり表通りの煌びやかさに反して、裏通りは滅多に人が来ない。
半年そこそこで資金が付きそうに成った時、大家から軍靴の仕事の話をもらいなんとか続けてきた。
しかし最近の戦争拡大に伴って大型工場での生産に切り替える話が出てきており、いつ契約が切られるかわからない状況だった。
貴族以外を買い物させる店をこの地区から追い出そうとする話もちらほら聞こえてくる。
"おとうちゃん船乗せてくれるかなぁ"等諦めて実家に帰る事も考えていた。

店に付き、シャッターを開けると突然地震のような揺れに襲われた。落ちた商品を並べなおしていると、また揺れる。その後も小規模な揺れが続く。
キリがないと、表通りに出てみると道は渋滞しており、通行人は皆一方方向へ走っている。
サイレンを鳴らした車や、軍隊の車などが渋滞している車を強引に押し寄せながら進んでいた。
最近戦争の話をテレビでよく見る。帝国は大丈夫だと言っていたが遂にここまで来たのかと思い、通行人が来る方向を見ると見慣れたブーツが目に飛び込んできた。

昨日見た二人がそこに立っていた、錯覚かと思うほど縮尺がおかしい。
仁王立ちに成っているロングブーツを履いた絵里奈さんは仁王立ちして真下をずっと見つめている。
しゃがんでこちら側に顔を向けた麗奈さんは紫のネイルが映える指をブーツの高さに満たないビルに押し付けていた。ビルがブーツよりも小さいのだ。
二人の足元からレーザーやミサイルの様な物が発射されてはブーツに消えていった。
何が起こっているか解らない状況で、ふと麗奈さんの顔が強張ったと思うと手をそのちっぽけなビル群に叩きつけた。
またそこそこの揺れが襲ってくる。先ほどの揺れは彼女達が動いたことにより起きたというのか、昨日の出来事を思い出し目の前とのギャップに整理が追い付かない。
何やら二人で話しているようだが、周囲がうるさく何を話しているのかわからない。
ふと絵里奈さんの顔が強張って何かを言うと、赤いソールが見え私の店のマークが靴底から見えた。
そのまま靴底は落ちていき、振動が私を襲う。
周囲の通行人もその振動を感じると、より一層狂ったように違う方向へと流れていく。

少しぼーっと見ていると、絵里奈さんが高々とブーツを振り上げた。次の瞬間風を切り裂くコォォォという小さい音がしたかと思うと、
そこから衝撃波と立っていられない振動が私を襲う。
周囲の自動車も次々に衝突し、通行人も皆うつ伏せに成っていた。
少しの静寂の後、ブーツの周りには濛々とした煙が漂っていた。ただ煙をも届かない高さにブーツが君臨しさらにその上には神々しい絵里奈さんの立ち姿が見えた。
その顔は、先ほどの顔と異なり笑顔に変わっていた。

麗奈さんの赤い眼がこちらを見つめている気がしたその時、後ろから捕まれ、強引に車に押し込まれた。
装甲車だろうか、エンジンの唸る音が聞こえてくる。そこら辺の車を押しつぶしながら走っているのか姿勢上下左右に安定しない。
窓のない暗い薄暗い空間で、殺気立った兵士がこちらに向いて質問してくる。
「あの怪物が履いているブーツはお前が作った物だな?」
"ああ私の人生ここで終わるのか"と、どうでも良くなった紗綾は
「そうですが、何か。」と答えた。