周囲から自分の立てた音以外聞こえなく成る。
少しの時間を置いて、カラカラと小さな箱が倒壊する音がわずかに聞こえてきた。
足元に有ったホテルはおろか、その周囲の建物も何も無く成りクレーターだけが見えている。
少し目を外にやるとブーツを中心に放射線状に崩壊している小さい箱がいくつも見えた。
先ほどまで少し聞こえていたザワザワした音や気配が止まり、この場、この都市を自分が支配している気がして気持ちいい。
こんなに我慢して解放したのは何時ぶりだろう、より高揚感が沸いてくる。

自分の左足から向こう側は被害が少なく、まだ立っている箱が見える。
左足が衝撃波から街を守ったのだろうか。なんだかおかしく思えてくる。
その被害の少なかった、左足に守られた街からまたチカチカと光る閃光が見える。
「まだ状況がわからないのかしら、ホントに小人って頭悪いわよね。」
そういうと、何も考えず普段通りに左足を少しずらして、チカチカの集まっている場所にブーツを踏み下ろす。
ドォォンという音と共に、砂埃が舞い、周辺の箱が崩れ、点が飛び散っていく。
「ねぇ、少しわかってくれたかしら。」
口元を吊り上げ、白い歯が無意識に出ていた。
「絵里香さん、あの青い光ってなんなんですか?」
しゃがみこんでいる麗奈ちゃんがまだ踏み入れていない町の方を見て聞いて来る。
青い光、小人がまた何かやっているのだろうかと同じ方向を見て紗綾の事を思い出した。
「このブーツを補修してもらう人がいなくなっちゃうわ、麗奈ちゃん拾いに行きましょう」
「補修してくれる人ですか?」
先ほどとは違い、周りを気にせず麗奈ちゃんが立ち上がる。
麗奈ちゃんの後ろの町もやはりまだ立っている建物が見えた。
「ほら、昨日買った靴屋の紗綾よ、修理してくれるって言ったじゃない」
「そうですね、でもあの青い光と何の関係があるんですか?」
「ネックレスよ、あれがああいう風に見えるの。」
「そうなんですね!先に助けないと一緒に潰しちゃいそうですもんっね!」
麗奈ちゃんは後ろを振り向きながら、右足を上げ、そのまま後ろに叩きつける。小人の町が震える。
「フフフ」
彼女も白い歯見せながら赤い眼で地面を見つめていた。

「これは、何と言うかすごいな・・・」
広司の声が聞こえてくる。胸元にある白いもやもやの点を見つけ、広司の存在を思い出した。
「あんた何、あんなのに捕まってるのよ、さっさと出てこないからホテルごと持っていこうかと思ったわ」
「あんなのって、勘弁してくれ・・・」
何かこの男の反応は楽しい、思わず笑顔になってしまう。
不思議そうにこっちを麗奈ちゃんが見つめていた。
「広司の声聞こえるんですか?」
麗奈ちゃんにはまだ聞こえないようだ。
「麗奈ちゃんにプレゼントをあげるわ。これで聞こえるはずよ」
少し念じて、麗奈ちゃんに金色の大きい丸いイヤリングを付けてあげる。
「わっ!なんか綺麗なイヤリングですね。ありがとうございます。どうかな広司。」
満面の笑みを浮かべ、自分の耳に着いたイヤリングを持ち上げなら、白いもやもやに語り掛ける。
「麗奈様、綺麗ですよ。」
「もぉぉ。広司ったら!」
左足を街に叩きつけ、腕を伸ばしながら笑顔で返事する麗奈ちゃん。
「イチャイチャしてないで行くわよ。お二人さん」
「はぁぁい!」
元気に手を上げて返事をする麗奈ちゃんであった。
楽しい街散歩の時間だ。



「ねぇ、広司呼んだけど、あんたたち何なの。」

絵里香が上から見下ろし声をぶつけてくる。
自分に言われている訳では無いのは解っているが、体が震えているのが分かる。
ゴゴゴゴゴと絵里奈のブーツが地面に沈み込んでいく、なにやら力んでいるようだ。
それだけで周囲のビルが倒壊し、悲鳴が聞こえてくる。
後ろから、タタタタタ・・と乾いた銃の音が聞こえてきた。あの災害の様な物に銃で抵抗できると思っているのだろうか。
制止する兵士の声も聞こえる。

「そんな豆鉄砲でどうにかなるわけないでしょ、ねぇ何なのか聞いてるの」

また一段と大きくなった声圧が襲ってくる。正直怖くて膝を付きそうになる。
その時、急に白いモヤモヤに体が包まれ、上空にふわっと上がっていく感覚がした。
絵里奈の右足がまだ辛うじて残っている町中に再度釣り降ろされる。
ズオォォォン!という音と共に砂埃が舞う。
周囲の建物はその衝撃で半壊していた。少し上から見るとあまりにもスケールの違うブーツが見て取れる。
交差点があった場所だろうか。道路は彼女の足幅に満たず、道路を完全にふさぐ形で君臨するブーツ。綺麗に4方向に道が続いている。
四つ角にあった建物は踏みつけられ、もともと何も無かったかのようだ。吹き飛ばされたのか、彼女の足元には人が見当たらず、横転しているトラックや自動車が離れたところで炎上していた。

その衝撃の後、下から銃の音が響いた。
白いモヤモヤに当たるが、波紋が出来るばかりで貫通してくる気配がない。
ふと逆側を見ると麗奈の紅色の目を通り過ぎた。最初に絵里香に爪で持ち上げられた時を思い出す。
少し下瞼が持ち上がっているように見えた。
"広司ちょっと我慢してね"頭の中に声が広がる。

「ほんと、どうなってんのよ、誰に何してるかわかってんの?」
いつもの綺麗な声が聞こえてくる。どうやらこのモヤモヤは振動を吸収してくれているようだ。
ふと全身の力が抜けて、風呂に入るようにだらんとしてしまった。まだ上に上がっていくようだ。

急にジェット機の様な音が聞こえたと思うと、黒いショーツを丸見えにした絵里香が赤い靴底を見せながら足を振りかぶっていた。
ズガァァァァァンと下の方から膜を突き破る音が聞こえてくる。白い衝撃波がそのブーツから広がり、周囲の建物が吹き飛んでいくのが見えた。
その後風の音だけが周りを支配する。
高度が上がっていくと共に、たわわなガスタンクの様な胸が揺れ、きつそうなYシャツがギシギシいう音が聞こえてくる。
上を見ると、白い歯を覗かせた女神が見て取れた。

「まだ状況がわからないのかしら、ホントに小人って頭悪いわよね。」
少し視線をずらした絵里奈、周囲の物を全て蹴散らした右足を軸に左足を持ち上げる。
左足を持ち上げると、遠くに戦車や兵隊が絵里奈に向かって発砲しているのが見て取れた。
周辺の町は先ほどの衝撃だろうか、建物の基礎が見えている所もある。
その区画だけ切り取られたように町が存在していた。
その切り取られた区画に、あのブーツが打ち付けられる。ドォォォン!相変わらず音だけ聞こえてくる、
道路の両側に建つビルごと巻き込んで着地したそれは、そこにあった戦車や兵士がどうでも良くなるような被害をもたらしていた。

「ねぇ、少しわかってくれたかしら。」
絵里奈は少し満足したようで、顔を笑顔に変えていた。だが昨日のような温かみが感じられない少し恐怖を感じるような笑顔だった。

「絵里香さん、あの青い光ってなんなんですか?」
麗奈がまだ綺麗な街並みが残っている方を見つめている。

「このブーツを補修してもらう人がいなくなっちゃうわ、麗奈ちゃん拾いに行きましょう」
「補修してくれる人ですか?」
白い布に包まれきれない胸元が迫ってくる。麗奈が立ち上がったようだ。
彼女の足元も先ほどの衝撃でブーツの先かは荒野と化しているが、そのショートブーツの後ろ側は街並みが残っていた。
立ち上がった影響だろうか、そのブーツは地面にズブズブと沈み込んでいる。

「ほら、昨日買った靴屋の紗綾さんよ、修理してくれるって言ったじゃない」
「そうですね、でもあの青い光と何の関係があるんですか?」
「ネックレスよ、あれがああいう風に見えるの。」
"そういえば何か渡していたな"と昨日の事を思い出す。俺には何も見えないが彼女達には何か見えているようだ。

「そうなんですね!先に助けないと一緒に潰しちゃいそうですもんっね!」
白い髪が目の前をブン!と通りすぎだ後、麗奈の足元からドォォォンと音がしてくる。
ショートブーツが場所を変え砂煙を舞わせていた。

「フフフ」
振動が伝わらないはずなのに、体が震える声が聞こえる。
「これは、何と言うかすごいな・・・」
独り言を言ったつもりが、青い眼がこちらを見て絵里奈がこちらを向いた。

「あんた何、あんなのに捕まってるのよ、さっさと出てこないからホテルごと持っていこうかと思ったわ」
今までと違う昨日のような笑顔が上空に広がる。
「あんなのって、勘弁してくれ・・・」
銃を突き付けられながら階段を上った疲労感を感じつつ、その笑顔を見ると疲労感が和らぐ気がした。

「広司の声聞こえるんですか?」
逆側の胸がわずかに迫り、若干揺れながら上空で会話をしている。

「麗奈ちゃんにプレゼントをあげるわ。これで聞こえるはずよ」
褐色の綺麗な耳にビルより大きい金の輪っかが現れた。"本当になんでも有りだな"と思ってしまう。

「わっ!なんか綺麗なイヤリングですね。ありがとうございます。どうかな広司。」
絵里香に礼を述べると、目の前にあった胸は降下していき、そのビルより大きな輪っかをもっと大きな褐色の掌に載せて
此方に見せつけてくる麗奈。
「麗奈様、綺麗ですよ。」
心に余裕ができたのか、口から冗談が出てくる。

「もぉぉ。広司ったら!」
急に胸元が帰ってきて、ドォォンと下の方からまたあの音がした。

「イチャイチャしてないで行くわよ。お二人さん」

「はぁぁい!」
これがイチャイチャしているように見えるのかと思いながら、はるか上空で、大きく手を上げて満面の笑みを浮かべる麗奈をいつもの麗奈だと思い。
少し幸せを感じていた。



装甲車に載せられ、どれほど経っただろうか、未だに上下左右の揺れは止まらない。
前の兵士から無線がずっと流れてくる。
"第5防衛隊、第6防衛隊は壊滅通信途絶、至急現地確認願う" "あの女がこっちを見た、あぁあぁぁ・・・タタタ・・・ズズ・・ズ"
"目標が移動を開始高級街の方に向かっている阻止せよ""中層街は壊滅、高層街、貴族街も被害甚大至急支援乞う"
目の前の兵士の口元が無線が入るたびに変化する。そして貧乏ゆすりが止まらない。
「クソッ!」それしか言わなくなった兵士、横の兵士が話しかける。
「隊長高級街での防衛線の構築完了しました。」
「わかった、とにかく急げ!こいつで脅せばあいつらは止まるはずだ、とりあえず住宅街を抜けて基地に早く着くんだ」
高級街というと私の店があった地域だ。"お店は大丈夫かなぁ"と現実を受け入れられず、呑気な考え事をする。
「お前一体何に協力したかわかってるのか!?」
前の兵士が急に私に向けて怒声を上げてくる。
「何って・・・靴を売っただけですけど。」
「売っただけとは何だ!今どうなっていると思っている!」
そういわれても本当にそうでしか無い、ただの商売の一環だったのだ。まぁ久しぶりに自分のが売れて嬉しかったけど。

"目標接近、発砲を続けている""全然効いているそぶりが無いぞ、もっとたたきk" "第一線接敵!これより、ってうわぁぁぁ"
"ブラボー壊滅完全にあれの下敷きになっ・・・ズズズ" "なんだあれデカすぎる無理だ助けてくれえぇぇぇぇ!"
徐々に上下左右に揺れていた揺れに、下から突き上げるような揺れが加わってくる。
エンジンの音が唸りつつけているが、その中に、ドン、ドドォンと体の芯まで響く重低音が混ざりだした。
"高級街を防衛していた第12防衛隊は半壊引き続き目標は住宅街へ侵攻"
「半壊ってどういう事だ、3000人は防衛線についていたんだろ!」
また兵士の貧乏ゆすりが加速する。無線は淡々と状況を伝えているようだ。
絵里奈さんが繰り出した衝撃を思い出し、"店はもう無いだろうな”などと考えていると、エンジンの音より
地響きの方が大きく成ってきた。ドォォン、ドォォンと定期的にする音と共に体が浮き上がる。
次の瞬間、強い衝撃を受け、天地が何回かひっくり返った。

「麗奈ちゃん近すぎよ、その車に居るんじゃないの?吹っ飛んじゃったわよ。」

「絵里奈さん、ごめんなさいこんなに簡単に吹き飛ぶと思ってなくて・・慎重にやったんだけど。」

最後に通常に戻った後外から外壁を突き破る声が聞こえてくる。あの二人の声の様だ。
兵士がドアを明け出て行った。
「この化け物がぁぁ!!!」タタタタと銃声がする。

「まだ諦めないのね、麗奈ちゃん、ちょっと軽めに解らせてあげなさい」

そんな声が体を震わせ聞こえてくる。
自動車がクチャクチャに空き缶のように潰れてひっくり返り、その奥ではトラックが住宅の屋根に刺さっていた。
その周辺に装甲車が数台止まっており、そこからも前後に発砲しているようだ。戦車も見え同様にドン!ドン!と音を鳴らしながら発砲している。
砂っぽい空気と焦げた匂いが車内を充満させた。
ドォォォン、ドォォォォンと何回か立てない程の振動が繰り返され飛び跳ねる。
外が暗くなった。外に居た兵士達もひざをついている。

「近くに寄っただけでこれなのに、本当に頭悪いわよね小人って。」

その後、ドアから見える装甲車に、上空から紫の爪をした大きな褐色の指の突き立てられる。
装甲車の周りに居た兵士と共に地面に深々を押し付けられ、ズボボと埋められていった。
ドォォン、振動と共に風がこちらへ打ち付ける。
「アハハ!」甲高い笑い声が全ての音を蹴散らし聞こえてくる。

絶え間なく続くグラグラとした揺れにズズズズゥっと大きな物が擦れる音がずっとしている。
逆側の壁越しにも同じような音が聞こえてくる。グシャャァァと家が潰れるような音も何度もしている。
前に居た兵士が銃口をこちらに向け話しかけてくる。
「出ろ。」
そう短く言うと開いていない扉を開け、そちらに顎を突き出していた。
出ようとした瞬間に、黒い爪の白い指が目の前にある戦車をグシャァアァとゆっくり潰していた。
足が震える、しかし後ろから兵士に突かれ、外に出た。

左側を見ると、大きな穴がいくつも開いている道路の先に巨大な柱が地面を踏みしめて君臨していた。
そのまま上の方に目をやると赤い天井から生えているのがわかる、
更に巨大な黒い柱の上に褐色の綺麗な壁がみてとれた。
彼女が作ったブーツが住宅街を押しつぶし君臨してる。
高い建物が無いこの周辺では彼女のブーツを隠す建物はあまりなく、給水塔がヒールの横で爪楊枝によう細さで怯えるように立っていた。
その褐色の脚はこちらの方に傾きそのまま落ちてきそうである。その根元には青色のデニム生地に包まれた紫色のショーツが見えた。
その上に白い布に包まれた大きなふくらみが確認できる。そしてあの綺麗な白い髪と紅色の目を備えた顔がこちらを見ていた。

「ぁ、紗綾さんだ!絵里奈さん居たよ!」

身体全体が打ち付けられる声が自分の名前を呼ぶ。
身体からこちらに伸びる、その綺麗な褐色の指は住宅に突き刺さっていた。

「また、この状況なの、めんどくさいわね!」

逆側から同じように突き刺さる声がする。

道路を完全にふさぐ形で鎮座している黒い丘、その前から住民と兵士が必死な顔をしてこちらに逃げてきている様が確認できた。
ヒールは遠い住宅街に不釣り合いな大きさで突き刺さっている。
こちらも彼女が手掛けたブーツが住宅街に君臨していた。周りから火の手があがり、煙が上がっている。しかしその煙もブーツの全容を隠しきれていない。
黒いブーツの生地がこちらに倒れ掛かっておりその根元にはベージュの生地に包まれた、黒いショーツが見えた。
その上にはピンクのシャツからあふれ出る白い膨らみがあり、金色の髪と青い瞳がこちらを見ている。
その体から延びる綺麗な白い指は目の前の戦車をより深くへ沈めていた。

怖くて動くことが出来ない。
ふと後ろの兵士が目の前の白い指に向かって乱射し始めた。
戦車の残骸をまき散らしながら白い指が上がっていく。
私を超えた後、乗っていた装甲車を簡単に押しつぶしてしまう。
メキ!クシャァァ! ドォン!
膝を付いていないと立てないような振動に襲われる。
私の後ろに黒く綺麗に塗られた爪を備えた指が立った。
その指めがけて、周りに残っていた兵士が銃を乱射している。

「ねぇ麗奈ちゃん、広司にしているあれ紗綾さんに出来る?」

「出来るのかなぁ、念じればいいですか?」

「そうそう、広司で使っちゃってるから麗奈ちゃんやってみてよ。」

指先で起こしている大惨事を気にも留めず、上空で会話が為されていた。
ふと、白いモヤモヤに包まれ上空に上がっていく。
"ちょっと、我慢しててくださいね"麗奈さんの声が頭に響く。
横の通りに居た、戦車がこちらに向かって砲身を向けてきていた。
撃たれると思った瞬間、ドォン!という音と共にその場所は褐色の指に支配されていた。
住宅もろとも押しつぶした指は私を保護するように囲ってくれる。

「絵里奈さん、できました!」

「流石、麗奈ちゃん習得が早いわね。」
昨日聞いた音量で彼女達の会話が聞こえてきた。

「ほんとウザったいわ、この国」
そういうと、周辺の空気を押しのけ、立ち上がる絵里奈さん。

「もう良いですよね?絵里奈さん。」
同じように立ち上がる麗奈さん。

「ええ、ブーツの修理も気にしなくて良く成ったしね!」
その綺麗な顔を笑顔にした絵里奈さん。
そのまま足を振り上げ、住宅街に踏み下ろす。
ドォォォン!まだ残っていた兵士と装甲車をまとめて踏みつぶし、周辺の住宅も無かったかのように踏みつぶす。

「ぁ私も。イライラさせてくれたよね。ちゃんと逃げて楽しませてね。」
下を見ながら足を振り上げる麗奈さん。
ドォォォン!
あまり関係の無い場所にショートブーツを突き刺す。

「フフフ、逃げないと死んじゃうよ。」
ドォォン!ドォォン!と紅色の目を輝かせながら、何度も突き刺す麗奈さん。
周りの瓦礫だろうか、ヒールの付け根に届かない距離に跳ねていた。

「私もそろそろ限界かも。」
先ほど装甲車と兵士を踏みつぶしたブーツをドォォォォォ!と横に振り払う絵里奈さん。
茶色い地面がつま先のソール部分の形にめくりあがっている。
そのまま別の場所に叩きつけるようにブーツを振り下ろす。
ドォォォン!周囲の住宅が崩壊し、少し聞こえていた悲鳴が何も聞こえなく成る。
ドォォンドォォンドォォンドォォン・・・
その周辺を何度も踏みつける絵里奈さん。
車が家が飛び跳ねる。大きな胸が踏みつけると同時にフルンフルンと揺れている。
逆側のブーツもジリジリと住宅を押しつぶしながらずれていき、その淵には命乞いをしている小人が何人も見える。
だがブーツは無情にもその小人をひき潰す。
恍惚な顔をしながら青い眼を輝かせる絵里奈さん。
その姿は何故か綺麗で引き寄せられる。
脚が振り上げられるたびに見える黒いショーツがわずかに滲んでいるのが見えた。

"あんな大きいブーツどうやって補修すればいいんだろう"と破壊を繰り返す二人の女神をボーっと見つめている紗綾であった。




大きく手を上げた麗奈ちゃんに笑顔で返すと、紗綾を拾いに行こうと移動を始める。
ここから青い光までは、先ほどのホテルより大きな建物は見当たらない。
3歩4歩進めていくと、荒野から街並みに変わる。しかしどこもまともに建っている建物は見当たらず、小人の気配は見当たらない。
"相変わらずこいつらの建物は貧弱ね・・・"と思いながら歩みを進めていく。
大きくてもヒールを履いた私の踝程度しかない建物と、足幅の半分程度の道路に足を打ち付けながら歩いていく。
先ほどまで慎重に行動していた為、普通に歩けるのが気持ちいい。
ドォン!ドォン!と歩くたびに自分のロングブーツがから音がして、砂埃が足から放射線状に離れていく。
並んで歩いている麗奈ちゃんも同じように足を街に打ち付けながら歩く。麗奈ちゃんのショートブーツより高い建物は存在しないようだ。
二人の歩みにより、町が揺れている。歩くたびに何処かで建物が崩壊する音がしてくる。
"これよこれ"と全てを支配したような気持ちになり、思いながら歩みを進めていく。
20歩ほど歩いただろうか、何か物足りないと思い、目を下ろすと、小さい点がその細い道路に見えてきた。
思わず口元が吊り上がる。
"一々気にしていても仕方ない。"と少し下を見ながら、自分の右足のブーツを点にさらし、普通に歩いてゆく。
道路からはみ出すほど大きなブーツが周辺の建物を一瞬で踏みつぶし、地面に着くと、点がブーツのつま先から吹き飛んでいく。
「あなた達、まだ逃げてないの。」
口元を吊り上げながら下の小さな点に話しかける。いつも通り返事は返ってこない。
だが今は目的地があるのだ、彼らに構っていると遅くなる。左足を別の道路に下ろし、同じような現象がまた起こる。
少し点が跳ねているようなに見える。
動かない点を右足で追い越し、先にある小さい箱を踏みつぶし小さい点をまた吹き飛ばす。
たまにチカチカ光る点を見つけると歩幅を調整して優先的に踏みつけていった。
"麗奈ちゃんはどうしているかな"と横の同行者を観察してみる。
ショートブーツに届かない建物を踏みつけながら、同じように街を揺らす彼女。
道路に則して歩いているわけでも無さそうで、密集した小さい箱にそのショートブーツを突き刺していた。
周囲の建物も衝撃波でガカガラと倒壊をしている。
その褐色の脚が動くたびに綺麗な脚から筋肉の躍動が見て取れる。
デニムパンツに囲われたお尻はブーツが地面に着くたびフルフルと揺れており、胸元を大きく出したTシャツも同じように揺れていた。
"私が選んだだけあって似合ってるわね"と同行者の顔を伺うと、下ではなく、前の方を見つめている。
どこを見ているのかと歩きながら視線を追うと、50mほど先の町の中に突然現れる広場を見ていた。
その広場には消しゴムカスの様な戦車やミサイル車が並んでこちらに向けて小さい花火を飛ばしてきている。
いつもの事なので気に成らなかった絵里奈だが、確かにブーツが発光している時がある。
場所が近いのもあるのか、麗奈ちゃんの褐色の脚の方が発光が多いような気がした。
「麗奈ちゃん、あれが気になるの?」
ふと歩きながら訪ねてみる。
「絵里奈さん、あいつらが広司に銃を突き付けていた奴らですよね。」
真顔で聞いて来る麗奈ちゃん。少し怒っているようだ。
「そうね、まぁそこらへんにも居るけど、あそこに集合して何かしてるのかもね。」
何も考えずに返事をする。
「こんなゴミみたいな攻撃しか出来ないのに、許せない。ちゃんと教えてあげなきゃいけませんね。」
笑顔でこちらを見て返してくる麗奈ちゃん。心なしか靴を踏みつける力が音が強くなってきている気がする。
「そうね、でもあんまり遊んでると、紗綾が死んじゃうかもしれないよ。」
「あんな小人共に、時間は要りませんよ。」
歯を見せながらこちらに返す麗奈ちゃん。
「そうね"麗奈様"ならすぐよね。」
「絵里奈様もさっきの踏みつけすごかったですよ。」
満面の笑みで返してくる麗奈ちゃん。私も歩いていた道路がどこか解らくなった。
広場の前まで来た麗奈ちゃんは両足を揃え広場のギリギリまで寄せる。
踏みつけた際、消すゴムカスの様な戦車は横転したり、ひっくり返ったりしている。
周囲の小さな点もそのショートブーツから離れようと蠢きながら外に逃げていくのが分かる。
気付けば周囲の箱は低く成り、ヒールの1/3程度の物ばかりだ。
足の甲より高い箱も見当たらない。
私の足元の近くも点が蠢いている。キーキーと聞こえるそれを、ブーツで踏みにじってやるのだった。
両足を揃えた麗奈ちゃんは少し脚を降り、その脚に手を回すと腰を折り上半身を倒して、広場に顔を近づける。
垂れた白い髪が地面に着くと、そこからも砂煙が上がる。
「ねぇ、謝りなさいよ。」
麗奈ちゃんが地面に向かってそういう。
まだ動いてる戦車や兵士達は攻撃を続けているようだが、ブーツの先っぽより上は光っていなかった。
「何か言えないの?」
少し大きな声に成った麗奈ちゃん。声と一緒に小さい点が少し舞っている。
「何か言いなさいよ、ムカつくわね。」
そう言った麗奈ちゃんは、口をすぼめ大きな胸を少し膨らませると口から噴き出した。
フゥゥゥゥゥ。広場全体に行き渡るように吹き付ける麗奈ちゃん。
消しゴムカスや点が近くの箱にぶち当たっている。雑草のような木も抜けて横の箱に刺さっていた。
「はぁ・・・」と言いながら体制を戻すと、何も無くなった広場をそのショートブーツで踏みつけタバコを消すように踏みにじると、そのまま歩き出す麗奈ちゃん。
その広場は麗奈ちゃんの足型に沈みグチャグチャに成っていた。
「すっきりした?麗奈ちゃん。」
追いかけながら彼女に聞いてみる。
「ちゃんと分かるように謝ってもらわないと気が済まないです。ホント腹立ちますね。」
少し眉間を寄せながら大きな音を立て歩く麗奈ちゃん。私から見ても綺麗な子だなぁとなんとなく思った。
ほんの少し歩いた所で広司が話しかけてくる。
「お二人さん昨日来たお店ってこの辺じゃないのか?」
まだ少し行った所にある青い光に気を取られて全く気付かなかった。
足元の道路には小さな小さな木が道の端に並んでおり、よく見るとガラス張りの建物が多いように見える。
昨日の出来事を思い出すと、少し力が入った足がその街路樹と、横の小さな店を破壊していた。
麗奈ちゃんも同じ思いの様で、その道路を狙ったように踏みつけ満足な顔で仁王立ちしている。
破片や吹き飛んだ自動車により、その綺麗な街並みはボロボロに成っていた。
その上に君臨する麗奈ちゃんの綺麗なショートブーツを見ているとまたゾクゾクしてくる。
「絵里奈、紗綾さんも道具とか無いと修理できないんじゃないのか?」
言われればそうだとお店を探そうとしたが足元はグチャグチャだし上からではわからない。
麗奈ちゃんも上から探そう少しかがんで、紅色の目をぐりぐり動かしていた。
「広司探してきてくれない?ここからじゃ、どれだかわからないわよ。」
「紗綾さんは店に居るんじゃないのか?」
「どうやら違うみたいちょっとお店探してきて。」
太ももぐらいに浮いていた白い点がブーツの横に着地する。
そのままひび割れた地面を避けながら道路を麗奈ちゃんの方に向かって動いていく。
ふと糸の様な線の中に白い点が入ると広司が話しかけてくる。
「ここだ、絵里奈、まだ無事みたいだぞ。」
広司が発見したようで、糸の様な線から道路に出てくる。
「じゃぁ回収するわね。」そう言って、店ごと空間に飛ばした瞬間、白い点に青い光線が麗奈ちゃんの方から3本ほど当たる。
ハッ!と線がした方向を見ると、戦車が3台広司に向かって砲撃していた。
「グゥゥゥゥ!」広司の声が聞こえる。咄嗟に左足を揚げ、戦車と広司の間にブーツを入れた。
ドォォン!と振動を立て地面を突く。ブーツが広司に近いが仕方ない。
次に戦車の方を見た時には、麗奈ちゃんのショートブーツがその場に煙を立てながら鎮座し、ズブズブと地面を沈めていた。
「「広司大丈夫!」」二人一斉に広司に問いかけてくる。
「あぁ大丈夫だ、少しクラクラするが・・・、絵里奈の衝撃の方がデカかったよ。」
と笑いながら話しかけてくる広司。
「もぅ、広司ったら・・・。回り見てなかったわゴメンね。」
「あぁ、正直死ぬかと思ったよ。」
白い点がブーツを壁にして、浮き上がりながら私の胸元まで上がってくる。
「無事でよかったわ・・・」
何も考えず自然に言葉が出た。股下まで来たそれを、優しく手包んだ。

麗奈はまた広司が、この虫共に攻撃された事に我慢できなく成っていた。
広司を撃った戦車の先には、更に戦車が細い道路を埋め尽くさんばかりに並んでおり、小さい箱の上からも煙を上げミサイルを撃ってくる小人を確認出来る。
上から見ると丸わかりだが、そこら中の糸の様な路地や小さな箱の上からも、戦車や小人がチカチカと発光していた。
「あんた達何してくれてんのよ!もう謝っても許してあげないから!」
毛が逆立つ様な思いで小人に声をぶつける。
喋ると少し発光が止んで、またチカチカとそこら中で光り出す。
ショートブーツより上には当たっていないが、今まで無いほどブーツが光っている。
「無駄だって、わかんないのかなぁ!」
そう言いながら、先ほど戦車を踏みつけた左足を軸に右足を大きく振りかぶる。
そのまま力任せにチカチカの方に蹴り上げる。
ブゥン!、ダァン!、ブゥォン!
大きく蹴り上げる形に成った右足を大股を開く形でそのまま地面に打ち付ける。
ドォォン!という音と共に周辺のビルと小さな点が浮き上がる。
気にもしない麗奈はそのまま左足を引きずり寄せてくる。ズズズズズ・・・道路に並んでいた戦車とその周辺のビルと小人を巻き込みながら
ショートブーツが全てをすり潰す。
少しの静寂の後、また近くからチカチカが再開される。
だがこの行動一つで大分チカチカは減った。
「まだやるの?」
そう言った麗奈は右足を今度は前に振りかぶる。
そのまま少し前にブーツのヒールだけを地面に突き刺した。
ドォォン!と言う音と共に周辺の建物が完全に倒壊し、小さなクレーターが出来る。
その勢いのままつま先のソールを踏み出す。
ドォン!
瓦礫の町が放射線状に飛んで行った。
チカチカが大分消えた。自分の右足の周りは絵里奈さんがやったほどでは無いが、クレーターが出来、荒野に成っている。
少し視点を移すと遠ざかる小さな蠢きが見えた。
"喧嘩を売ってきたのに、逃げる気なのかこの虫は"とイライラが込み上げてくる。
「逃げられるわけないでしょ。」
その蠢きへ一直線に向かう麗奈。なにやら足元からキーキー聞こえるが知ったこっちゃない。
足を踏み出す度そのキーキーも聞こえなく成ってくる。
先ほどのように立ち止まるなんてことはせず、その辺一体を蠢きが無くなるまで歩き回る。
自分の足跡で埋め尽くされた周囲50mほどの真ん中で麗奈はやっと止まった。

「広司さんやっぱりこのままだと危ないから先に帰ってて。」
背後に綺麗な白い手の壁がある。目の前には綺麗な女神が眉の先を下げて優しい声で話しかけてくる。
「帰るってどこに帰してくれるんだい?」
「紗綾も送るから、シューズラックを案内してあげてよ。一応シールドは付けたままにしておくわ。」
すこしふざけてみたものの、その優しい声は変わらず、青い瞳がじっとこっち見下ろしてくる、
何か自分が悪いことをしたように、つばが悪くなった。
「わかった、麗奈にも程々にしとくように言っておいてくれ。」
背後から聞こえる天地がひっくり返りそうな音を聞きながら、そう伝える。
「麗奈ちゃんもね、私と同じ気持ちだと思うわ。またお家で会いましょう。」
そういうと、目の前が真っ暗に成り、あの玄関に突っ立っていた。
何故か目の前には潰された赤い染みが大量見え、皆その周囲から吹き飛ばされたのか、うずくまったり、気絶したりしていた。


あらかた踏み付けたグチャグチャの大地に聳えるショートブーツを履いた瑠奈ちゃん。
その姿は支配者の貫禄だった。大きな胸をバンと張りながら、仁王立ちで聳え立つ褐色の脚。足元には綺麗なショートブーツが光っている。紅色の目は、まだ周囲をじっと見つめながら獲物を探していた。
「麗奈ちゃん、お疲れ様。そろそろ紗綾を拾いに行きましょう。」
青い光はまた少し遠くなっている様な気がした。
真顔でこちらを見る麗奈ちゃん。
「うん、広司は大丈夫だった?」
少し眉が下がり気味に成る。潤んだ紅色の目で見てくる麗奈ちゃん。
「大丈夫よ。先に帰ってもらったわ。最後に麗奈ちゃんに"程々にしとけ"って言ってたわよ。」
笑いながら麗奈に話しかける。
「もう、広司ぃ!」
大きな胸をブルンと震わせ、手を伸ばし、グチャグチャな地面を少し整地していた。
やっぱり麗奈ちゃんは麗奈ちゃんだと心がほころんだ。

麗奈ちゃんの活躍もあってか、チカチカはかなり少ない。
だが、その代わり足元の蠢きは増えてきた。ゴマの様な自動車もまだ少し動いている。
その蠢きと点をドォン!ドォン!と何もないように踏みつけてゆく。飛び散る点が、近くの鉛筆についてる消しゴムの様な家に飛んでいく。
その消しゴムでさえ、振動と共に崩壊しているようだ。キーキーと五月蠅い声もかなり聞こえてくる。
住宅街であろうか、一軒家が並ぶエリアまで歩いてきた。少し奥に高架が見える。
そこに割りばしの様な電車が垂れ下がっている姿が麗奈ちゃんの脚の奥に見えた。
"後で麗奈ちゃんと、救助しにいきましょ"と笑いながら歩いていると、4歩ほど先に青い光が見えた。
歩みを止めて状況を確認する。
眼を凝らすと装甲車に乗っているようだ。
周囲には護衛だろうか戦車が数台と装甲車が数台前後左右を取り囲んでいる。
正直どっちがどっちか解らない。
そんな事を考えていると、装甲車の行く手に黒い柱が落ちてきた。
ドォン!揺れる町、転げる装甲車。麗奈ちゃんが装甲車行く手をブーツでふさいだのだ。
「麗奈ちゃん近すぎよ、その車に居るんじゃないの?吹っ飛んじゃったわよ。」
すこし慌てたような仕草の麗奈ちゃん。
「絵里奈さん、ごめんなさいこんなに簡単に吹き飛ぶと思ってなくて・・慎重にやったんだけど。」
申し訳なさそうに言う麗奈ちゃん。でもブーツのヒールは小さくドンドンと地面を叩いている。
その近くからチカチカが増えてきた。攻撃をしているようだ。
「まだ諦めないのね、麗奈ちゃん、ちょっと軽めに解らせてあげなさい」
にっこり笑った麗奈ちゃん。ブーツの位置ドンドン言わせながらを変え、しゃがみこんだ。

絵里奈も近づく事にする。ゆっくりと足を下ろし、装甲車が胸で見えない位置まで近づく。
どんなに慎重にやってもドン!ドン!と足の音は消えなかった。
しゃがみこみ大股を開けて、麗奈ちゃんと向かい合わせに成る。私の身体の下に青い光がある。こういう時この胸は邪魔だ。
よく見ると小人はコケて動けないようだ。
「近くに寄っただけでこれなのに、本当に頭悪いわよね小人って。」
笑いながら小人に伝えてあげる。
麗奈ちゃんの綺麗な褐色の指が私の胸元下ぐらいにある装甲車を一台潰す。
紫のネイルがその周囲の破滅的な状況とは似つかず光っていた。
「アハハ!」その状況を見てなのか、先ほどの解放感からなのか麗奈ちゃんが笑った。
私も虐めてやろうと指を伸ばしたとき、麗奈ちゃんが見つけた。
「ぁ、紗綾さんだ!絵里奈さん居たよ!」
紗綾が出てきたようだ、しかしまた後ろに兵士がついている。
すこしイラついたすぐ横のゴマを潰すのに力が入ってしまった。
メリィ、ドン!周囲が少し震えている。
「また、この状況なの、めんどくさいわね!」
広司と似たような状況にイライラする。
指をどけて上げると、紗綾の後ろに居た兵士がこちらに撃ってきた。
"馬鹿じゃないの"とそのまま指で装甲車ごと地面に埋めつけてやる。
今度はそんなに周りを揺らさず出来た。またチカチカと周辺の兵士が指に発砲している。
少しイライラしてくる。前の同行者も同じようだ。つけている指がどんどん沈んでいる。
指の横を見てみると、紗綾が尻もちをついて指を見つめていた。
"拾わなきゃ!"そう思い何かいい方法が無いか考える。
「ねぇ麗奈ちゃん、広司にしているあれ紗綾さんに出来る?」
「出来るのかなぁ、念じればいいですか?」
「そうそう、広司で使っちゃってるから麗奈ちゃんやってみてよ。」
最近成長著しい麗奈ちゃんなら出来ると思った。
キーキーうるさい声が地面に近いからか結構聞こえてくる。
早く黙らせたい。
「絵里奈さん、できました!」
戦車を一台指で地面に埋め込みながら伝えてくる麗奈ちゃん。
紗綾が白いシールドに包まれて上がっていく。流石麗奈ちゃんだ、想像しただけで出来るのだ。
「流石、麗奈ちゃん習得が早いわね。」
麗奈ちゃんが紗綾を保護するように指で囲うのを見て、立ち上がる。
「ほんとウザったいわ、この国」
本当にイライラしてくる。我慢をさせられたのなんて何時ぶりだろう。
「もう良いですよね?絵里奈さん。」
腰あたりまで浮んだ紗綾に先に帰って貰おうかと思ったが、チカチカがヒールより下にしか無かったので後で帰そうと決める。
何より、この小人達を黙らせたくてしょうがない。
「ええ、ブーツの修理も気にしなくて良く成ったしね!」
麗奈ちゃんに向かって笑顔で承諾する。
無意識に足を振り上げ、近くの交差点に踏み下ろしていた。
ドォン!消しゴムの様な家と一緒に小さい点とゴマが飛んでいく。
「ぁ私も。イライラさせてくれたよね。ちゃんと逃げて楽しませてね。」
ドォン!麗奈ちゃんも笑顔で近くの住宅街を踏みつけていた。
「フフフ、逃げないと死んじゃうよ。」
さっき潤んでいた紅色の目が違う輝きをしながらドン!ドン!と何度もヒールを突き刺す麗奈ちゃん。
小さい点とゴマがかすかに飛び跳ねていた。
「私もそろそろ限界かも。」
未だにキーキー言っている声がうざったい。
左足をそのまま横に払いのける。ズゥゥ-。
少し浮いた足をそのまま地面に叩きつける。
ドォン!
周囲から私と麗奈ちゃん以外の音が消えていた。
"良いわ黙りなさい!叫べないぐらい恐怖するのよ!”心の中から沸く残虐心に火が付く。
そのまま足を何度も新鮮な住宅街に踏みつけ、周辺を更地にしてやるのだった。
何回やっただろうか、周辺はまたグチャグチャした地面に変わっている。
軸にしていた足を見ると、その巨大なブーツとは対照的な小さく怯えて建つ住宅のそばに、何も音のしない小さな点が無数に見える。
"そうよ、お前たちなんてそんな存在よ"何も言わない点の上に話しかける。
「ちょっと靴が汚れちゃった、綺麗にしてくれないかしら。」
わざとヒールを少し浮かせ、ドン!と打ち付けてやる。点の上に消しゴムが被さり、何個か点が無く成っていた。
集中すると足に力が入ってしまう。ズブズブと周りの土を持ち上げながら沈むブーツに、点が寄ってこない。
「使えないのなら、要らないわね。」
地面の点に言ってみる。
何人か決意したのか、盛り上がった土に近づいては遠ざかるを繰り返している。
「ねぇ?使えないのねあなた達。」
もう一度点に話しかける。
いくつかの点がブーツにたどり着いたようだ。
ここまでどれだけ時間がかかるのだろう。少し馬鹿らしくなってきた絵里香は瑠奈ちゃんを見る。
楽しそうに下を向きながらショートブーツを地面に打ち付けていた。その振動がこちらにもずっと伝わってくる。
先ほどからよく見ると点が跳ねているのだ。もう一度自分のしている小さな遊びに興味を移す。
無意識に少し動いてしまったのか、点が無く成っていた。
馬鹿らしくなり左足を上げる。そしてそのままその場所にダァァン!と足を踏み下ろしてやった。
股間が久々に熱くなってくる。

「紗綾さん、広司が先に帰ってるから私たちの家で待っていてくれない?」
気持ちを落ち着かせ白い点に話しかける。
「家ですか。わかりました。でもどうやって行けば・・・」
「麗奈ちゃん、よろしく!」
同じように興奮しているのだろうか、かなり、にやけた顔の麗奈がこっちを向くと無言でうなづく。
その瞬間、白い点は消えた。
同時に、小さいハエが接近してきて、胸元を光らせる。
「絵里香さん、なんですかこれ?」
同じように胸元を光らせている原因を目で追いかける麗奈ちゃん。
「飛行機ね、今までなんで出てこなかったのかしら。」"どうでもいいけど"と思う絵里奈
「上の方に居るのはどうしようもないですね。」
当たり前のように胸元に居たハエを手を払い落す麗奈ちゃん。
「方法があるのよ、麗奈ちゃんも出来ると思うわよ。」
ニヤっと笑ってそういうと、念話に切り替える絵里奈だった。