広司にリムジンのカギを渡し、肩を叩きあう。
なにやら新しい靴のデザインを思いついたという紗綾は。蒼の足を測りに行く。
カグラは相変わらずはしゃいでいた。
紗綾がその綺麗な白い足を計測している。あのお風呂を思い出す。
「そうかぃ、そうかぃ、ありがとうねぇ。楽しみにしてるねぇ」
昨日からあいつは何か優しいんだ。

あの船に帰る、紗綾のお店の前だ。
この周りに何も無い茶色い平原にぽっつりと佇む空間にも慣れてきたはずだった。
店の扉を無理やりこじ開けようとしている小人と、店を取り囲む小人。
何やら友好的ではなさそうだ。
「おい、帰ってきたぞ!」「やばいぞ!逃げろ!」
周りから聞こえる声、皆一様に上を見上げている。
「小人さん達何してるのです?」
そのカグラの言葉に一斉にこっち殺気だった目を向ける群衆。
「カグヤちゃんダメ!」
紗綾が必死でカグヤの口をつぐむのだった。
「誰が小人だぃ?お嬢ちゃん」
一人近づきながら歩いて来る。手にはあのこん棒だ。
「お前らが来てから仲間が一杯居なくなった。持ってるもん全部寄越せ!」
「生憎だがよぉ、今、何も持っちゃ居ないんだ。」
「その女で良いから寄越せよ!」
振りかぶる小人、少し綺麗な布を着ていた。
そいつをぶん殴る。
ガハッ!後ろに飛んでいく小人完全に伸びている。
「おい、やっちまえ、あのデカ女は居ないぞ。」
店を背に取り囲まれているこの状況、幸い鉄の棒がドアの取っ手に突き刺さっていた。
何人ぶん殴ったかあまり記憶にない。
次から次へとこちらに手を伸ばす小人に流石にきつい。
今日はあの天災のような支援は期待できない。
ふと、カグヤを庇っていた紗綾に小人の手が伸びる。
「やめてください!」
「ヘヘヘ、そういう言うなよ。」
鼻の下を伸ばして来る小人にカグヤをぐっと抱きしめる紗綾。
「紗綾さん、大丈夫です?」
その黒い目は潤んで今にも泣きだしそうだった。
「うおぉぉ!やめろぉぉ!」
その男をなんとかどかそうとする俺、しかし後ろから別の奴に殴られる。
頭に衝撃を受けると、床に倒れ込んでしまう。
「ヒロさん!」「ヒロさん!大丈夫なのです?」
二人の声がするが、他の小人に抑えられ動けない。
"すまねぇな皆"そう諦めかけた時だった。
何か紗綾が光っている。カグヤも無意識に離れる。
「な、なんだよ。おい取り押さえろ」
驚いた小人が一斉に紗綾にとび掛かろうとする。
ズンズンズン!その紗綾の身体が震えて白い何かを出しながら徐々に膨張していた。
「おい、でかく成ってるぞ、逃げろ!」
今まで強気にこちらへ飛びかかっていた小人は一斉に逃げ出す。

「待ちなさい、逃がすわけ無いでしょ?」
ドン!逃げる小人の前に彼らの背丈ほどのベージュのパンプスが落ちて来た。
アワアワと腰がようにのか後ずさりする集団。
そこには50mに巨大化した紗綾が、小人共を睨みつけていた。
日頃周りが大きすぎてわからなかったが、彼女も長身の部類だ、170cmある身長に細身の身体は引き締まっていてその肌色が艶やかだ。
タイトスカートは小ぶりな形の良いお尻を強調し、上のセーターも体のラインを出すようなデザイン。その中にたわわな胸のふくらみが見て取れる。
自分の作品だろうか、ベージュのパンプスは小人より大きかった。
栗色の髪の毛が上空で靡いている。
ヒールにも満たない小人共は、皆一様に紗綾を見つめ怯えていた。

「絵里奈さん達だけだと思った?私にもちょっとは力あるんだから」
そういうと、バスの様なパンプスをその集団に蹴り入れる。
赤い血を噴き出しながら、5人ほど店の向こう側に消えて行った。
固まっている小人をその足で踏みつぶす。
「やめてぇ!やめてください!」ペキペキ
「もうしませんから!ごめんなさい!」ベキベキ
「助けてぇ、うわぁぁぁ」ペキペキブチュー!
そんな音が何回も続いた。
「紗綾さん、綺麗なのです・・」

「ありがとうカグヤちゃん。ヒロさん大丈夫?」
「あぁ、俺が一番びっくりしてるかもな。」

「もう!ヒロさん、ちゃんとカグヤちゃん守ってないと殺しちゃうよ?」
日頃口にしない言葉を平気で口にする紗綾。
小人を一人手で握り目の前に持ってくる。
「助けて、もうしないから助けて。」
栗色の目をギラギラ輝かせジット睨みつける紗綾。
ベージュの綺麗なネイルをした指に力が入る、ボキボキと鳴る小人の骨。
それだけで絶命してしまった。

「もう、お前達脆すぎよ。アハハ!」
投げ捨てた小人が床の染みに成る。
そうしてまた、足元で逃げまどう小人をドン!ドン!と踏みつぶして回る。
「私もね、色々溜まってんのよ!」
また小人の絶叫と振動が始まる。足元を血の海に変えていく紗綾。
気付くともう小人はわずかに成っていた。

「ねぇ汚れちゃったじゃない、綺麗にしてよ。」
仁王立ちして腰に手を当てる紗綾。そこに小人がワラワラと集まってくる。
ドン!右足を打ち鳴らす。

「さっさとしないと殺すよ?」
パンプスのつま先に付いた赤い血を自分たちの着ている布で必死に磨く小人達。

「おっそいわね、そんな事も出来ないの?」
パンプスがわずかに揺れて、作業している彼らを転倒させる

「寝てるんじゃないわよ!」ボキボキ、ブチュー!
一匹踏みつぶす。紗綾は上を見ながら高笑いしているのだった。
その笑い声がこの一帯を支配する。

「それで?何しに来たんだっけ。」
必死に布をパンプスにこすり付けている小人を見ながら言う紗綾。
「紗綾様の靴を綺麗に参りました。」

「そうよねぇ、そうよねぇ!もう帰って良いわよ。」
そう言うと足を振り上げる紗綾。若干綺麗に成ったパンプスで小人を血しぶきに変えた。
アハハハハ!高笑いが止まらない紗綾。
"こいつが一番危険かもしれない"と思うヒロ。
その様子を見て「紗綾さん!すごいです!すごいです!」と言っているカグラ。
頭を抱えるヒロであった。

「ちゃんと床掃除しときなさい。」
もう20人程度しか残っていない小人にそう投げかけると、シュルシュルと小さく成りながら此方に向かってくる紗綾だ。
「おう、なんだ助かったぜ。」
「絵里奈さん達みたいに自由に大きくは成れないんですけどねぇ。」
そう言いながらささっとパンプスをハンカチで拭く紗綾だった。

店に入る俺達、商品や家具はきちんと棚に収まったままだ。
コツコツと中に入っていく紗綾とカグラ。
「俺もう要らねぇよなぁ。」そうつぶやくヒロに栗色の髪が振り返る。
「頼りにしてますよ、ヒロさん。」
「ヒロ強いです。」
笑顔で返してくれる二人にその後をついていくのだった。

作業場で靴裏の掃除を始める紗綾。
心に決めていた事を話そうと決める。
「なぁ紗綾、ネックレスのチェーン俺に作らせてくれないか?」
「ぇ、ヒロさん作れるんですか。」
「わかんねぇよ、だからら教えてくれよ。頼む。」
「へぇ~、良いですねぇ。アツアツじゃないですかぁ」
「俺もなんかしたいんだよ、頼むよ」
「良いですよ、共和国に行って材料を買ってきましょう!」
「あぁ、ありがとうな紗綾。恩に着るぜ」
「指輪は良いんですか?」
「やめろや、照れるじゃねぇか」
顔が熱く成ってくる。
それを見て2人はお腹を抱えて笑っていた。
カグヤに内緒にしといてくれ頼み込んだ後。
そのまま作業場でショッピングセンターでの思い出話などをしていると、扉をノックされる。
「失礼いたします、どなたかいらっしゃいますか?」
先ほどの小人かと警戒しながら、扉を開けに出る。
そこには腰を折ったあの白髪のフロントマンとその後ろに居るホテルの従業員が居た。
中に案内する。店の待合室で待ってもらう。
紗綾が紅茶を入れて来た。横で給仕を手伝うカグヤ。
「恐縮ながら頂きます。」
「これは、帝国の茶葉ですかな、南部の方ですなぁ。この大胆な味香りがいいですなぁ」
もう一人の白髪のタキシードを着た男性が匂いだけでその産地を当てる。
「よくわかりますね、安いやつですけどね。」
「少し学んだ事がありましてな、いやいや入れ方がいいのでしょうなぁ。」
そう言いながら優雅にお茶を楽しむ二人とおろおろする3人。
事の成り行きを聞く。
3人が巨大化して王都を破壊しはじめた事、その後蒼に飛ばされた事等口々に話す。
ネックレスの話をしている時、肘で紗綾が俺の腹をつついていた。
しばらく談笑した後、またドアがノックされる。
「しゅいませぇぇん、どなたかいらっしゃいますかぁ。」
ドアを開けるとそこにはあの店の店主が居た。
何か液体を被っているのかベタベタだ。手にお金を持って居る。
後ろではあの小人達がまだ作業していた。
「あ!あの時のお客様じゃぁないですかぁ!お釣り忘れてましたよ。」
そのベトベトの札をこちらに渡そうとする。滅茶苦茶女くさい。
「いいけどよぉ、その前に風呂入りなよ兄ちゃん。」
紗綾に了解を取って、風呂場に案内するヒロだった。

風呂に入り着替えた店主も会話に混ざる。
蒼がバザールを破壊している最中にお釣りを渡そうとすると、ここに飛ばされたという。
なんであんなベトベトだったのかは誰も効かなかった。
始めて服屋に入って下着姿で服を漁る蒼の話などで談笑していると、部屋を震わす声が聞こえてくる。
「蒼ねぇさん、楽しかった?」
「あぁ良かったねぇ、次はいつかねぇ。」
「次は共和国とかいう所ね。」
「そうかね、そうかね。楽しみだねぇ」
ドォン!ドォン!ドォン!彼女達が帰ってきた。

蒼さんと絵里奈とで船に帰ってきた。
私も絵里奈も蒼さんもドレス姿なのに汚れてしまっていた。
まだちょっと股間が疼く。
「蒼ねぇさん楽しかった?」
初めての蒼に感想を聞く、満足してくれたようだ。
次は残りの一国だ。私も楽しみだ。
そんな会話中も足元でなにやら蠢いている。小人共がまだ逃げていなようだ。
無意識にパンプスを振り上げる。
カツン!
「ほんととろくさいね、君たち。」
絵里奈と蒼も笑っていた。
ダン!わざと向こうの壁まで片方のパンプスを脱ぎ捨てる。
「ちゃんと綺麗にしておいてよね。」
小人達に言いつけるとリビングに向かうのだった。
蒼は元からなのか紫のサンダルが倒れており、絵里奈の金色のパンプスきちんと並べていた。

廊下の点を踏みつけながらリビングに戻る。
怒った顔をした絵里奈が居た。
机が赤い染みで汚れてる、そこで小さな点が数人作業をしている。
ダァン!
「あんた達なにやってんのよ!」
絵里奈がその点を手で潰していた。
少しベタベタする股が気になるが、そのままソファーに座ると紗綾の店からゾロゾロと人が出て来た。
"絵里奈あの家出してくれるか"
そういうと紗綾の店の横にあの住居が2件並ぶ。
「ちゃんと自分で選んだんだから、文句なしよ」
そういう絵里奈は笑っていた。
「わたしもあるんだねぇ。」
逆側にピンクの店が現れる、何かベタベタしたその店。
「あぁすまないねぇ、よごれてるのさ。」
その瞬間、ベタベタは消えた。
「中は自分でやっておくれよ。」
そういうと知らない男が店の中に消えて行った。
「蒼なんなの?このお店。」
「すまないねぇ、ちょっと気に入ったから持って帰ってきたのさ。」
「まぁいいわよ。蒼のお気に入りだもんね。」
「それで、この汚れてるの何なの?」
絵里奈が広司達に聞く。
"紗綾達が小人におそわ・・"
"絶滅させてやる""小人の癖に"体から怒りが込み上げてくる。
その周辺の気配を足元に転送してやる。
組んでいた脚をほどき、現れた点が無くなるまで踏みつける。
ダン!ダン!ダン!ダン!・・・何回踏みつけたかわからないが、そこには赤い床があった。
「良い根性してるねぇ、そろそろ滅ぼされたいのかねぇ」
そういう蒼の胸が真っ赤に染まっている。
「そろそろ交換の時期かしらねぇ。」
絵里奈の顔は口元が上がって白い歯を出している。
組んだままの太ももが真っ赤だった。
「あんた達、体はだいじょうぶなのかぃ?」
"けがは誰もしてねぇよ、体に傷ついたぐらいだなぁ"
「そうかいそうかい、そら良かったさ。」
そういってヒロが紫の光に包まれていた。
「絵里奈さん、そろそろ、お風呂行きませんか。」
「いいねぇ私もそろそろ限界だねぇ。」
「そうね、麗奈ちゃん、お風呂行きましょうか。」
怯えるホテルの従業員を背にお風呂に向かうのだった。

脱衣所に3人で入る。流石に狭い。
「蒼、それ濡れすぎじゃない?」
「なんだねぇ、絵里奈も人の事言えないねぇ。」
ベタベタに成った下着を四角い箱の中にほおりこんでいく。
「絵里奈さん、それ気に成ってたんですけど、どうなってるんですか?」
「この箱?底にたまって、そこでこいつ等が洗ってるのよ。」
そういうと白い足を点に被せて踏みにじる絵里奈。
「あらそうなのかぃ、全部滅ぼしてやろうと思ってたのにねぇ」
「何よ蒼、何があったのよ。」
「この前ねぇ・・・」
蒼からヒロにお風呂に入った話を聞く。私も広司さんと入れるかもしれない。
しかし最近ここの小人達は生意気だ、イライラが込み上げてくる。
自然と下でウロウロしている小人を踏みつけてしまう。
でも広司とお風呂入れるかなぁ。
自分の谷間を見て、"できそう"と思う私。
皆で並んで体を洗う。
「麗奈ちゃんはさぁ、広司と入らないのかねぇ」
「ぇ、入りたいですけど。」
絵里奈の方をちらっと見る。金色の髪を洗っている最中のようだ。
「次は譲りなさいね麗奈ちゃん。」
「ありがとう。絵里奈さん。」
最も恐れる者の許可は取った、どうやって誘おうと考える。
「麗奈ちゃん、朝が良いねぇ。明日は私も遅く出るからさ。」
「ありなとう。蒼ねぇさん。」
今日は控えめにしておこうと決めた私だった。

淵に立っている小人がいつもより少ない。
「なんだねぇ、また邪魔するのかねぇ。」
青い爪に白い足が小人を払う。赤い染みが風呂場に流れる。
「アハハ、蒼あれは髪の毛の手入れ待ってるのよ。」
「そうなのかぃ?言えばいいのにねぇ」
そう言いながらバシャバシャ足から浴槽に入る蒼。
水面は大津波だ。
「言われてみれば邪魔かもねぇ。」
黒い爪の白い足が小人を払う。
静かに入る絵里奈。その姿は神秘的だった。
私も前の小人が邪魔に思える。
赤い爪をした褐色の足が彼らを襲う。何の抵抗もなくそこには赤い染みが出来ていた。
「待機場所変えるように言えばいいんじゃないです?」
「そうねぇ、あんた達今からその壁際で待っておきなさい。」
小人が大慌てで壁に向かう。
「大きい風呂はいいねぇ。」
蒼が腕を伸ばしすっている。
その波が際まで届き、走っていた小人は全部流されてしまう。
床を漂う小人、なんだかゴミの様だ。
少し固まっている小人の集まりに足を降ろす。
「今は仕事しなきゃだめでしょ。」
そういうとまた逆に走り出すゴミ共。
ぎろりと青い目が向く。そして絵里奈が手を叩きつつけた。
パァン!浴槽に大きく響く音。
「あんた達最近たるんでるんじゃないの?やっぱりそろそろ入れ替えかもね。」
前を向き、お湯に体を任せる絵里奈。
私も湯舟に浸かる。ここの温度はちょうどいい。
水面で船がまた沈んでいたが、いつもの事だ。
「明日は蒼とヒロで行ってきなさいよ、私と麗奈ちゃんは補充に行くわ。」
「補充ですか?」
「えぇ、最近消費が激しいでしょ。2日で半分ぐらい使っちゃってるわ。」
「私も部屋の奴ほしいんだねぇ。」
「ぁ、私も欲しいです。」
「補充用に2個ぐらい狩ってきましょうか。蒼の分も、とってきてあげるわよ。」
「うれしいねぇ、よろしくたのむのさ。」
決まりね、明日はそうしましょう。
その後、あの王都での話で盛り上がるのだった。


今日は早番だったので、家でビールを飲みながらテレビを見ていた。
女性用のブーツが帝都を破壊する画像が何回も流れる。コメンテーターが今回の兵器は、等と喋っている。
どうせ嘘だ、皆わかっている。この国は戦争して勝った勝ったといって何も変わらない。
毎日だれかが戦場に連れていかれ消費してる。
そんな日常から目を背けるべくなんとかホテルの採用試験に受かった。
昨日の朝晩の時に見た青い髪の彼女が忘れられない、綺麗なきつめな顔に大きい胸、長い脚は見ているだけで幸せにさせてくれる。
どうやら蒼という女性のようだ。名前持ちとは貴族か外国人か、どちらがわからないがとにかく綺麗だった。
彼女の同伴者は全員美女だが彼女が一番大きい。その青い髪がずっとキラキラ動いている。
今日も彼女の注文を受けた、彼女は不快に思わなかっただろうか。僕にはお金は無いのだけども、
"いつまで居てくれるんだろう"と手の届かない存在に思いを馳せていた。
同じ事を言い続けるテレビを切って、ビールに集中する。この酒だけが生きがいだ。
急にサイレンが鳴り響く。<緊急警報、王国民は直ちに避難せよ>
何事かと思う。酔っていて今まで分からなかったが、机の上に置いてある空き缶が床に落ちていた。
のんびりしている場合ではない。ホテルの従業員である僕は、お客の避難をさせなければならないんだ。
部屋着のまま、いつも通勤に使っているスニーカーで外に出る。
繁華街の中にあるこのマンションは出てすぐに大通りが見える。
そこは異常な景色だった。
車線など関係ないと、逆走する車であふれかえる道路。その合間を人の波が流れている。
皆一様に何かから逃げているようだ。
かすかに道路が跳ね、車も揺れている。
一体なんなのかと大通りに出て、人の波を逆にかき分けていく。
昔、共和国の奇襲があった時もこんな状態じゃなかった。
とりあえずホテルの方に向かいたいが、人の波が逆に流れる。
一体何から逃げているんだと少し上を見上げると、わかってしまった。
ビルの上に見える白い足、そのかなり上の方には街に光に照らされた紫色のドレスを着た女性、大きな胸の上にあるキツメの美人な顔。青い髪が特徴的な彼女の目は
紫色に発光していた。
足を振り下ろす度、街が揺れ周辺の人々が叫んでいる。
ホテルで見た、その紫色のサンダルは周囲のビルより高いようだ。
瞬間体を恐怖が襲う。"逃げなければ"帝国のニュースを思い出しあれは彼女がやったのではと頭によぎる。
僕に当たってくる人の波、彼女の方にホテルはある。行かなくては。と人をかき分けながら進むのだった。
道路は完全にマヒしている。車の中の人は天井に打ち付けられるように揺れていた。
ドォォン!ドォォン!と近づいて来るその轟音と振動。道路が割れビルもヒビが入っている。
彼女が急にこちらに進路を変えた。ドォォン!ドォォォン!徐々に歩けなく成ってくる。ビルに掛けられた看板が人々を襲いだした。
ダァァァァン!ダァァァァン!既に立てなく成っている。ホテルに向かうどうこうでは無い。
するとその振動は止まった。
あのサンダルのヒールが街を踏みつけ、そこを支配していた。
道路は隆起し、まともに歩けそうな所は少ない。でもホテルに向かわなくてはと動き出した人の波を割けながら進む。
「きゃぁぁぁ!」周辺から絶叫が聞こえる。ゴォォォォォ!周辺に風の音が鳴り響く。
行く手の上空にあの白いスネが現れた。
もう一度絶叫が周囲にこだまする。
あのコーヒーを持っていた指が、後ろの方にあるビルを押し倒していた。
その奥には街を支配するサンダル。その上空でスネと太ももが折れて圧縮されている。彼女がしゃがんだのだ。
周りを女くさい空気が満たす。
ビルが瓦礫が道路を埋め尽くし、流れる人の方向を変えた。
相変らず逆らう人は居るが、かなり減ったようだ。
あのスネが降りてくるとと思うと足が竦むがホテルに向かわなければ。
ふと周りの人々が急に固まる。恐怖心が込み上げる。
上空を見ると、紫の目が光っていた。
"殺される"本能的に思う、体がいう事を聞かない。
"ホテルに向かうんだろぉ?いけばいいさ。"
頭の中に響く声、蒼さんの声だ。あの光はじっとこっちを見ている。
行かなければ、指で太ももを思いっきりつねって、足にいう事を聞かせる。
ゴォォォ!ゴォォォ!また地面が震え、固まった周辺の人々が悲鳴を上げながら走り出す。

「右足がねぇ、汚れてたのさ。あんたら少し綺麗にしてくれなかぃ?」

上から声が降ってくる。その声だけで周辺のビルの窓ガラスが割れ、自動車のボンネットが開いていた。
体がまた怖がっていう事を効かない。
ドォォン!振動でコケてしまう。周りで立っている人は誰も居なかった。

「できない奴は解ってんだろうねぇ?」

恐怖が再び体を襲う、ホテルなんてどうでもいい、彼女のいう事を聞かなければ。

「さっさとしてくれないかねぇ。つかれてきちまうのさ。」

怖い、無理だ従わないと、自然と見えているあの足の方へ歩き出す。
早くしないと、早くしないと。本能が急げ急げとはやし立てる。
"あんたドジだねぇ、あんたはホテルにいくんだろぉ?"
また彼女の声が頭に響く。
蒼さんがホテルに行っていいと言っている。
踵を返しホテルに必死で走っていく。
あのスネの下を超えた。

「何とまってんだねぇ、潰されたいのかねぇ。」

上からまた恐怖の声が響いて来る。本当に良いのかと心と体が葛藤する。
ドォォン!震える町。道路が滅茶苦茶だ。足がもつれながらもとにかく進む。

「まだかねぇ。」

ドォォン!ドォォン!走った疲れと恐怖心から意識が遠い。だが歩みを止めてはいけない。
彼女に従わなくては。

なんとかホテルの車寄せに付いた。
ゴォォォォォ!風が
ダァァァン!ダァァァン!・・・何度も続く暴力的な音と振動が後ろから伝わってくる。
ズリィィ!ズリィィ!音と共に揺れる周辺のビルとホテル。
恐怖の為が意識が飛んだ。

四つん這いに成った体をなんとか持ち上げる。
周囲が先ほどよりひどく荒れている気がする。こんな車がビルに刺さっていただろうか。思いながら後ろを見る、
道路の先の区画が無く成っていた。

弾けそうな心臓を抑えながらホテルのロビーに入る。
総支配人がフロントで迎えてくれた。
「来たのですか、もう非難は終わりましたよ。あなたも避難なさい。」
「蒼さんが、蒼さんが、ホテルに行けって。」
「彼女と喋ったのですか、ホテルに行けとは、さて・・、お客様は様を付けないといけませんよ。」
謝ろうとしたその時、後ろのドアが開く。
装甲車で乗り付けた彼らはその軍用ブーツでロビーの床を汚しながら此方に来る。
「3012号室とその両隣のカギを渡せ。」
「はて、お客様そのような顔でしたかな。」
「客ではない!王国軍だ!」
「作用でございますか、でしたらお渡しできません。」
「なんだとぉ!貴様この状況がわかっているのか!」
「状況ですか?軍人さんが部屋を開けろとおっしゃられてます。」
「お前ふざけてるのか!」

そんな押し問答が続く
怖く成りいつものカフェに隠れる。
彼女があそこに座っていたんだと不思議な気持ちになる。

総支配人に銃口を突きつける軍人。指はトリガーに掛かっている。
相変らずの総支配人。いつも思うがこの人は何者なんだろうか。

ロビーの扉が開く、広司と呼ばれていた男性が入ってきた。

「えぇぇい打ち殺すぞ!殺してから奪えばこちらは良いんだからな!」
他の軍人も皆フロントに向けて、銃口を構える。
なにやら入ってきた男が片手を差し出し、"どうぞ"としている。
その押し問答は終わった。
軍人達は全員でエレベーターに乗って上がってしまった。


総支配人と男性が話をしている。蒼さんの大切な物を取りに来たというのだ。
何か知っていると思い男性に蒼さんの話をしたが、あまりピンと来ていないようだ。
唯一残ったていた掃除係の女性が部屋の壁に掛けたと話している。
どうした物かと色々話すがまとまらない。
エレベーターを見ていると動き出した。
"蒼さんの大切なネックレス"その思いだけで気付いたらエレベーターの非常停止ボタンを押していた。
後から痛みがジンジンとしてくる。
そのまま、男性と一緒に30階に上がる。
部屋を開けると蒼さんの匂いがした。
荒らされた部屋、やはり壁掛けには何もない。
必死で床を探す。ベッドの下にも椅子の下にも無かった。
その窓から、金色と銀色のドレスを着た女性が青い目と赤い目を光らせしゃがみこんでいるのが見えた。
男性に促されロビーに戻る。
蒼さんが直接取りに来るというのだ。
ドォォン!ドォォォン!と先ほどの振動がロビーを襲う。
荒れ狂うように跳ねるシャンデリアがジャラジャラと今にも落ちそうだ。
そこから一段大きい音と振動が襲う。
ズゴォォォォ、ダァァァァン!
足が勝手に震えだす。体が逃げろと勝手に動き出そうとする。
吹き荒れる外に、街を潰して君臨する大きな白い壁があった。

「待たせたねぇ。出てくれるかい?壊しちまうかもしれないさ。」

また体を震わす大きな声が襲う。建物の中だというのに指の震えが止まらない。
痛みもどこかに行ってしまった。
あの男性が出ていく。

「あぁ、じゃまかねぇそれ」

声が降ってくると、先ほどビルを破壊した指が轟音を立てながら外の車を押しつぶし、道を作っていた。
恐る恐る外に出る。

「いっぱい居るんだねぇ。」

あの光る紫の目が見えた。今度は不思議と恐怖を感じない。
ダァァァン!と風が体を打ち付ける、また立てなく成りそうな振動と音。
道路と両端のビルを完全に押しつぶした彼女の手がそこにあった。
ズブズブと地面をえぐっている手、微妙に揺れ続ける地面。

「乗るんだねぇ。」

"怖い"そう思うがあの男性が普通に爪に乗っていく。
総支配人と40階でバーを経営している副支配人も普通に乗り込む。
ドアマンの彼と掃除係の彼女、僕で恐る恐る爪に乗る。
巨大な指が目の前にあるが、怖さをそんなに感じない。
慣れて来たのだろうか。
振り返るとあの目が目の前に広がっている。
はやり足が震え出した。

「怖がるこたぁ無いのさ。」

不思議な白いモヤモヤに包まれる。

「ありがとうねぇ、あんたらも協力してくれたんだろ?」
あの声が体を震わさず聞こえてくる。相変わらずの音量ではあるが
「蒼様の為ですので。」
総支配人が答えると彼女に伝わったようだ。
ニコっと笑うと

「食っちまうぞ」
と言われ、その歯をみて意識が飛びそうになった。
「蒼、彼の手治せるか?」
男性が物応じせず普通に会話している。
僕の腕を心配してくれているようだ。

「怪我してるのかねぇ、そういうのは先に言うんだねぇ。」
そういうと体が青い光に包まれる。なんだか暖かい物に包まれたような気分だ。
そして震えている手の感触が戻ってきた。
蒼さんの目が少し暖かく感じる。

「逃げる前にやっちまうのさ。」
街を踏みつぶしていたあの顔に戻る彼女。
僕たちを遠くのビルに転がすと周辺のビルを指で破壊し始める。
恐怖で意識が飛びそうになる。

「五月蠅いねぇ、ちたぁ黙ってな。」
ダァァァン!なんだろうか彼女が地面に手の平を叩きつけた。振動がビルに伝わる、
何よりその声が怖い。

「だしな。」
その声に意識を失った。

気付くとなにやら茶色い平原に立っていた。
遠くにモニターとソファーが見えるが今まで見たどのビルより大きい。縮尺がおかしい。

後ろを向くと、赤い血だまり。なにやらそれを拭いている髪の毛ボサボサの人たち。
地獄に落ちたんだと思った。
「いきましょうか。」
声が聞こえる。支配人の声だ。
支配人の姿を確認するとあの日あの場所に居たホテルのメンバーが居た。
掃除係の彼女とドアマンの彼はこの地獄の様な光景に顔が引きつっている。
その奥に不自然にある店。
そこに支配人が歩いていく。
「失礼いたします、どなたかいらっしゃいますか?」
ノックを綺麗に3回し尋ねる。
すると蒼さんの横に"いつもいる"あの大男が出て来た。
中に案内され、応接で話をする。
ここはあの巨人達の住居との事だった。
ふと"蒼さんの家"と思ってしまうが先ほど見た縮尺の違う家具を思い怖くなる。
もう一人訪問者が来た、なにやらベトベトな恰好で2階に上がっていく。
彼は王都のバザール店の店主だった。
その壮絶な体験を聞いていると、声が聞こえてくる。
「蒼ねぇさん、楽しかった?」
「あぁ良かったねぇ、次はいつかねぇ。」
「次は共和国とかいう所ね。」
「そうかね、そうかね。楽しみだねぇ」
普通の音量だったなんなら聞き取りにくい。
次は共和国の様だ、王都はどうなったんだろう。
外に出ると突然手が降ってきた。
ダァァァン!
足元が揺れる、また怖くて仕方ない。
あの広い赤い血だまりを手一つで覆ってしまう。
あそこに居た人たちはどうなったんだろう。

「あんた達なにやってんのよ!」
恐怖の声がまた聞こえる。
そんな事を気にせず男性は話す。
「絵里奈あの家出してくれるか」
そう言うと何も無かった場所に屋敷が二件突然現れた。
どうやら彼が選んだようだ。
蒼さんもあると言ってピンクの家を出す。
ベタベタのその家、周囲にあの匂いが充満する。

「あぁすまないねぇ、よごれてるのさ。」

「中は自分でやっておくれよ。」
ベタベタは消えていた、が窓を見ると中にあの液体がまだ残っているようだ。
匂いもまだ続いている。
そのピンクの家に店主が走っていく。

「それで、この汚れてるの何なの?」
暖かい雰囲気で会話していると金髪の女が聞いてきた。
いったいこれは何なんだろう。彼女達にも日常ではないようだ。よかったと胸をなでおろす。
「紗綾達が小人におそわたんだ。」
そう男性が言った瞬間、空気が張り詰める。
あの王都を蹂躙していた3人の顔が、ネックレスを持った兵士を見つめる蒼さんの顔に成った。

ゴワァァア!ズリィイ!ズリィィ!ダァァァン!ダァァァン!・・
突然両端から聞こえる轟音爆音。立っていられない。
特にあの赤い目の女性はかなり怒っているようだ。見ているだけで怖い。

「良い根性してるねぇ、そろそろ滅ぼされたいのかねぇ」
蒼さんの言葉で彼女達が何をしているか考えてしまい背筋がぞっとなった。
お風呂に行くという彼女達。
ドォン!ドォン!と空間を支配する足音を鳴らしながら部屋を出て行った。

「ベッドメイキング」支配人が言う。
仕事をしなくては!とやったことがある仕事を言われ。屋敷に向かう。
途中男性に「ここでまで、仕事しなくて良いのに。」
と言われる支配人が
「死にたくありませんので。」と答える。
苦笑いする男性。さっきの光景を浮かべ何も考えず屋敷の部屋を頭に叩き込むのだった。

ドォン!ドォォン!と3人の支配者が帰ってきた。
思わず背筋が伸び外に出る。皆同じようだ。あの店主は出てこない。
白が4本。褐色が2本輝く柱が空間を支配して歩いている。
ゴアァァァァ!という音が両方から聞こえ、彼女達がソファーに座る。
良い香りが周りに漂う。
なんと服を着ていない。裸だ。その綺麗なスタイルに思わず息を呑む。

「とりあえず今日は休みましょう。明日は蒼とヒロで共和国に行ってきてね。」
「そらぁ良いが、買い物があるんだ紗綾も一緒に行けないか。」
「私は良いですよヒロさん。」

「蒼ねぇさんは良いの?」

「わたしゃぁ、なんでもいいのさ。」

「じゃぁ三人で行ってきてね。」

「わかったねぇ。」
「たのんだぜぇ、紗綾。」
「任せてくださいヒロさん。」

「じゃぁ各自解散ね、絶対外に出ないようにね。」
ゴアァァァァ!立ち上がった彼女達は再び轟音を立てて出ていく。
ドォォン!ドォォン!
「おい、絵里奈と麗奈はどうするんだよ。」

「私たちは収穫に行くわ。」
共和国もああなるのか、"収穫"何故か恐ろしい言葉に聞こえた。
「休めって言われたんだ、適当に部屋入ってやすんでください。」
男性が言う。
「かしこまりました、お言葉に甘えさせていただきます。」
「後、本当に出ないようにな、後悔するぞ。」
支配人がそう言うと、部屋割りを渡された。やっぱりこの人はすごい。

なんとお風呂まで付いている客室のような部屋。自分のボロマンジョンのワンルームより広い。
今日は眠りに付こうとベッドに入る。結構な時間のはずだが、最初に入った紗綾さんの店に一回から明かりが漏れている。
目をつむる。

何時間たっただろうか、体は疲労困憊なのに眠れない。意識が覚醒している。
少し散歩をしよう。日課だった散歩をしていないからだと部屋を出る。
シャンデリアが真ん中に吊るされた空間は静まり返っている。弧形に成っている階段を横目に大きな観音開きの扉をそっと開いて体を入れる。
「ンア゛ァァァァァッァ!いいねぇ、そこだよねぇ」
ダァァァッァアァン!
「イィィィィ・・ン・・、違うって言ってるでしょ!」
ダァァァッァァァアァン!
「ア゛ァッァァァァァ、もっと真剣にやらないと、んん・・、小人のくせにちゃんとやるの!」
ダァァッァァァァン!
大きな振動と音に体が弾けそうに成る。とても足のつかない地面にすがるように扉に手を掛ける。
なんとか中に入った。
もう散歩はしないと心に決めた。

朝だろうか、目が覚めた。
恐る恐るドアを開けると、あの顔が嘘のような褐色の女性麗奈と広司という男性が嬉しそうに話している。
その横には壁のように聳える青色のスウェードヒールブーツが周囲を威圧していた。