昨日はおとなしくしていようと思ったのだが無理だった。
寝なくても良いこの体は常に元気だ。
今日は絵里奈と収穫に行くのだしと、思って遠い所の存在まで使ってしまった。
大分少なくなった点をわざと踏みながら下着を履く。
今日は赤いランジェリーだ、広司は喜んでくれるだろうか。

ソワソワした気持ちを抑え、まずは脱衣所に向かう。
蒼からの一件を聞いた私は、こいつらの駆除を先に行う。
一見少ししか見えないその点。横にある化粧液を退けてみる。
そこに蠢く点がある。
「かくれんぼなの?あなた達の負けね。」
パチィン!手で潰してしまう。さっき、やったばかりなのにゾクゾクしてしまう。
「かくれんぼしているなら出てきなさい。後で見つけたら全員殺すよ。」
そういうと物陰から一杯出てくる点。やはりゴミだ。
「あなた達今日私の邪魔したら、殺しちゃうからね。」
蠢く点はより動いている。あぁ、また"返事"しないんだ。
手を振り上げる。
パァァン!少し洗面台が凹んでしまった。
パァァン!完全に割れる洗面台。
パァァン!壁まで行ってしまった。
「返事無いの?」
そのボロボロに成った洗面台に向かって言う。
足元の蠢く点足を振り上げる。
ドォン!
「あなた達にも言ってるの!」
足の指に入った奴らはすり潰す。
「わかったかしら、邪魔しないでよね。」
そういうと洗面台だけ直し、脱衣所を出た。
リビングに入る。また小物が散らかっていた。
"また仕事してない"とそこにあった点を何個か潰す。
ドン!ドン!ドン!
「ちゃんとしてよね!」
少し気が晴れた私はリビングの机の上を見る。
目的の広司が一人で居た。シールドを張ってあげる。
蒼とヒロに作ってもらったこの時間。広司と一緒にお風呂に入りたい!
いつものようにソファーに座る。
「おはよう、広司。」
「おはよう、麗奈今日は早いんだな」
「うん、今日は調子いいの。」
「良いじゃないか。なんか食べるのか?」
ホテルで蒼が食べていたサンドイッチを思い出す。
「これかな?」
一口頬張るとモグモグしながら広司を見つめる。
「女神様はなんでも豪快だな。」
笑いながら言ってくる広司。
「広司も食べる?」
「あぁちょっと運動してからな。」
「運動?何してるの?」
「ちょっと走ったりとかだな。」
「そうなんだ、ねぇ、私と一緒にしようよ。」
「ん?良いけどどうするんだ。」
残りのサンドイッチを小さくして口に掘り込む。もうこの子は必要ない。
広司に指を差し出す。
「広司乗ってよ。」
夜中念入りに整えた赤い爪に広司が乗ってくる。
そのまま顔まで上げる。
「大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ麗奈はやさしいな。」
嬉しかった。もっと広司にあげたい。
「ちょっと我慢しててね。」
そのまま脱衣所まで歩いていくのだった。

「そこで待っててね。」
あの洗面台に広司を転がす。思わず笑顔になる。
それを見ながらさっき履いたばかりのランジェリーを脱ぐ。
足元で何かが潰れているが気にしない。
「お待たせ。広司。」
そう言うと勝手に裸に成っていた広司を乗せて、湯舟まで直行するのだった。
昨日の言いつけで今日は淵には小人は居ない。
床掃除の小人が邪魔だ。わざと踏んづけて湯舟へ向かう。
ずっと同じ温度のお風呂は今日も気持ちよさそうだ。
「麗奈、運動って風呂なのか?」
「そうだよ、水泳?っての良いんでしょ。」
「でも麗奈じゃこの大きさ泳げないだろ?」
「私は良いの、半身浴?ってやつだから。」
そういうって、湯船に足をわざと豪快に付ける。
そこら中に漂っている船が邪魔だからだ。
「ねぇ、今から使うのどいて。」
お尻も乱暴を意識する。湯舟は荒れ狂っていた。
胸までつかると、無意識に"ふぅぅ"と息が出る。この時間のお風呂は気持ちい。
まだ若干残る船にイライラするが、仕方ない。
「じゃぁ広司、私の膝までタッチできる?」
そう言うと、膝を上げ、少し出してあげる。
だいぶ湯舟は落ち着いて来た。
「麗奈様の仰せのままに。」
爪の上で準備運動を始める広司。
「小人諸君、今日の任務を全うされよ。」
少しおどけて低い声で言ってみる。真っ裸の広司が敬礼してくる。
「では作戦開始である。」
淵に広司を転がしてあげる。私の二の腕あたりから飛び込む広司だった。
小さな広司が頑張って泳いでいる。それを見てるだけで何か嬉しい。
ずっと見ているとゴールにしている膝の近くにある船が邪魔だ。イライラしてくる。
ゆっくり腕を伸ばし水面から手を出しつまんで潰す。
3個ぐらいだろうか潰したところで満足した。
ふと広司を見ると止まっていた。波を立てすぎただろうか心配になる。
「隊長、海からリヴァイアサンが現れました!」
報告してくる広司、何かは解らないが指の事を言っているのだろう。
なにか楽しくなって、広司の近くに指を出してあげる。
「隊長目標までわずかなところで襲われています!」
「諸君、早く逃げるのだ。」
そう言うと私の方に指を回し、本当に少しづつ広司の方に近づけていく。
動き出す広司、必死さがそこから伝わってくる。
じっと見ていられる。
その逆側の指で邪魔な船をつまみつぶしていた。
「隊長到着しました!」
膝の上で手を振ってくる広司。まだ元気そうだ。
「諸君、第二目標を開始する」
いままですり潰していた地域にもう片方の膝を出し、今広司の乗っている膝を下げる。
「おい麗奈、まだやるのか?」
「やめる?いいよ。」
「いややるよ、限界を超えてこそだ。」
そこから益々必死になる広司自分は今どんな顔をしているだろうか。
何か幸せな気分だ。
時間の流れを忘れ見守っていると、膝に到着する広司。
「れ、麗奈付いたぞ。」
息も絶え絶えの広司に拍手を送りたくなる。
「おつかれ広司、私の試練できたね。」
そういうと膝を少しあげそのまま体ごと近づいてく。
「麗奈どうしたんだ?」
大荒れになる湯舟、でもこの高さなら大丈夫だ。
「よくできました、ご褒美あげます。乗って?」
膝に胸を付ける。
そのまま乗ってくる広司。
足をそのまま延ばすと、周囲にあった船が渦に巻き込まれている。
「そのまま前に行って。」
何も言わずに進む広司、蒼に教えてもらったあれだ。
「いいよ、そこに入って。」
胸元の水たまりに入ってくれる広司。
なんだか幸せだ。そのまま端まで体を移動させる。
途中髪の毛が垂れてその水たまりに入ってしまった。
「ごめん、広司大丈夫?」
「大丈夫だよ、麗奈の髪きれいだよなぁ」
「ふふふ、ありがとう。」
その髪に捕まりながら大の字に成る広司。
私も手と腕を伸ばす。幸せな時間だ。
そのまま少しの間お互いに黙ってお風呂を満喫するのだった。
少し体がほてってきた。広司は髪に捕まったまま立っていた。
「出ようか?広司。」
「麗奈がまだ入りたいなら良いぞ。」
「のぼせてきちゃった。」
そう言うと指で広司を掬う。目の前まで持ってきて聞いてみる。
「ねぇ、良かった?麗奈風呂」
「あぁ、大満足だまたやってくれよ隊長。」
そういって二人で笑いあうのだった。
湯舟を出て、脱衣所までに水をはじく。
髪の毛も一緒に乾いてこの使い方は便利だ。
洗面台の前にドカッと座る。小人を威嚇するためだ。
「ちょっと待っててね、広司」
また同じ場所に転がす。
そこにある物で軽く顔を整える。
「麗奈、綺麗に成ったよなぁ」
「フフ、ありがとう広司。広司もカッコいいよ。」
心からそう思うのだった。

そのままリビングに帰ると紗綾が人形サイズの靴の周りで何かしていた。
ソファに座り、広司を机に帰す。
「おはよう、紗綾。」
「おはようございます、麗奈さん」
広司も挨拶を済ます。
はっと広司が裸なのに気付き、服を転送した。
「朝からお熱いですねぇ。」
「もう紗綾ったら。」
笑いあうこの空間が麗奈も好きだった。
「何してるの?紗綾。」
中途半端な大きさの靴を疑問に思う。
「私じゃこの大きさにしかならなくて、麗奈さん大きくできますか?」
そういうと靴に意識を集中させる。大きくなっていく靴。ブーツの様だが、革ではない。
ふとももの部分が折りたたまれている。
「麗奈さん!持ち上げれますか?」
端っこを持ってあげてみると、膝まで隠しそうな青い布がソールを持ち上げた。
すごくカッコいいシルエットだ。
「これ良いね、紗綾、私も欲しいな。」
「わぁ、気に入って頂いてありがとうございます。麗奈さん用の今度作りますね。」
「楽しみにしてるね、紗綾。」
「はい、頑張ります!」
そう手を伸ばしながら、店に入っていく紗綾。何だが疲れているようだ。
「なぁ麗奈、さっきのサンドイッチくれないか?」
「いいよ、広司。」
また手にサンドイッチを出現させると、広司に渡す。
「そのままじゃ無理だよ。」
ぁ、そうかと、蒼に聞いた方法を試す。
私の口で食べる。確かに食べカスが出る。
それを手で拭って広司にあげた。
「はい、広司これで良い?」
「あぁ、麗奈ありがとう。」
手でパンの部分を抱えた広司。少しの戸惑いを感じる。
「どうしたの広司?足りなかった?」
「いや、ありがとうな麗奈。また一緒に風呂行こうな。」
「うん、広司約束だよ。」
そういって、自分の部屋に帰るのだった。


目が覚める、昨日の天井だ。
昨日は意地でも外に出なかったが下で紗綾がずっと作業していた。
彼女は大丈夫なんだろうか。
今日もまだ作業をしている。
「おはよう紗綾、徹夜か?体に障るぞ。」
「おはようございます。広司さん。もう朝ですか、熱中しちゃって。」
手にはスウェード調のブーツが握られている。鮮やかな青だ。
「蒼のか?」
「そうです、この色似合うかなって。」
「喜ぶと思うぞ。」
「はい、今日お出かけなので、それまでにと思って。」
「広司さんは今日早いですね。何かあるんですか?」
「あぁ、ヒロにそそのかされてな。本人は寝てたが。」
「そうですか、何かわかりませんが行ってらっしゃい。」
そういうとトンカン作業を再開する紗綾だった。
扉を開ける。誰も居ない机。
昨日の血だまりは絵里奈が、ひとふきで拭きとってしまった。
あの獣に言われたように運動を始める。
ここ数日運動らしい運動をしていない。あのシューズラックでは毎日重労働だったのに。
このままでは体が訛るとヒロに言われたのだ。
腕立て伏せから始める。こんなのをしたのは何年振りだろうか。もう思い出せない。
ドォン!ドォン!と音がする。蒼だろうか、彼女も早い。
しかち此方に来ず、どこかに行ってしまった。
しばらくすると、ダァァァァン!ダァァァン!と船を破壊するような音がした。運動どころではない。
何が起きたのか分からなかったが、それは2回で止んだ。
ドォン!ドォォン!ドォォォン!ごぉぉぉぉ!と女神が現れる。
予想と反してその足は褐色の麗奈の足だった。

「おはよう、広司。」
「おはよう麗奈、今日は早いんだな」

「うん、今日は調子いいの。」
「良いじゃないか。なんか食べるのか?」
いつもよりニコニコしている麗奈。調子が良いようだ。
「これかな?」

そういうと山の様なサンドイッチを食らう麗奈。
あの一口でこの船の小人分はありそうだ。
「女神様はなんでも豪快だな。」
それをモグモグしながら此方を見つめてくる。

「広司も食べる?」
俺は運動中だと断った。
相変らずニコニコしている麗奈は一緒に運動しよう誘ってくる。
別に断る理由も無いので承諾した。
赤い綺麗な爪を備えた褐色の指に載せてくれる麗奈。
そのまま脱衣所に連れて行ってくれる。
"風呂か?"と思ったが機嫌が良さそうな彼女に水を差すのもなんだと服を脱いだ。
ダァァン!ダァァン!目の前では、相変わらずの音を立てている。前までは恐怖を感じていただろう、その爆音を立てショーツを脱ぎ去る麗奈が居た。

「お待たせ。広司。」
その綺麗な裸に見とれていると、声をかけられまた指に載せられる。
ドォン!ドォン!その足音を立てながら浴室に入ってく麗奈。
「麗奈、運動って風呂なのか?」
思わず聞いてしまう。

「そうだよ、水泳?っての良いんでしょ。」
「でも麗奈じゃこの大きさ泳げないだろ?」
俺には大海原だが彼女にはちょっと大きいぐらいの風呂にしか見えなかった。

「私は良いの、半身浴?ってやつだから。」
成るほど半身浴か、女性は体系維持に余念がない。
バシャァァァン!バシャァァァン!
爆弾をほおりこんだような音。彼女の足が入る。

「ねぇ、今から使うのどいて。」
何に言っているのか少し顔が強張っている。
彼女の勘に障る何かがあるようだ。最近の彼女は感情の起伏が激しい。
ドォォォォォォォン!
より大きな爆弾をほおりこんだお風呂は、水面が荒れ狂っていた。
"あのままあそこで水泳なんかしたら死ぬ"そう思いながら麗奈の楽しそうな顔を見て覚悟を決めるのだった。
ゴォォォ!彼女が息を噴き出す、どうやらリラックスしているようだ。
僅かに水面が騒がしくなる。
湯気の向こうに彼女の膝島が現れた。

「じゃぁ広司、私の膝までタッチできる?」
なるほど水泳だ、彼女はニコニコ顔に戻っていた。
おどけて返し、準備運動を始める。軽い運動のつもりだったがハードトレーニングだ。
400mぐらいの荒れる海での水泳種目が第一種目だ。

「小人諸君、今日の任務を全うされよ。」
どうやら軍隊ごっこの様だ。この世で敵なしの軍隊に配属されたようだ。
彼女の赤い目に敬礼で返すと、顔が笑っていた。
楽しんでくれているようで何よりだ、
爪が下がり、首筋が見えてくる。濡れる首筋がなんとも綺麗だ。
そしてお風呂の淵に降ろされる。

「では、作戦開始である。」
鬼軍曹の海兵訓練が始まった。
とりあえず飛び込んで泳ぐ。水泳は苦手ではない。
彼女の腕を通り過ぎるのに大分かかった。胸を抜けるころには疲れていそうだ。
相変らず荒れる湯舟に体を持って行かれる。相当覚悟しなければならない。
彼女の視線をずっと感じる。カッコ悪い所は見せられない。
必死で泳ぎ、あの膝島が見えてくる。卵の様な肌の褐色の島はもうすぐだ。
するとまた湯舟が荒れる。思わず何事かと立ち泳ぎに成ってしまう。
水面から現れた赤い爪の指先は何かをすり潰している。わずかに聞こえる悲鳴と金属音。船だろうか・・。
そして沈んでいく。荒れる湯舟。
少し離れた所に船が見えた。小人が10人ぐらいだろうか必死で何かしている。
その前に船より巨大な指が現れる。先っぽが赤いそれは船をすり潰し沈んでいった。
まるで神話のリヴァイアサンが船を襲っているような光景に少し恐怖を感じる。
また爪が見えて指が水面に聳える。そして船を食らった指は沈んでいくのだった。
鬼軍曹は海神様のようだ。
また視線を感じる麗奈を見ると不思議そうな顔をしている。
「隊長、海からリヴァイアサンが現れました!」
軍曹に伝える。ニコニコした麗奈。また湯舟が一段と荒れる。波に飲まれそうだ。
ばしゃぁ!麗奈と俺の間にあの指が現れた。今回は一本だ。小人の亡骸は見られない。
「隊長目標までわずかなところで襲われています!」

「諸君、早く逃げるのだ。」
そう言うと赤い先っぽのリヴァイアサンが海を割りながら前進してきた。
猛烈な勢いで泳ぎだす。こんなに疲れたのは何時ぶりだろう。
何か遠くで悲鳴が聞こえていた。

心臓が、足が、腕がいう事を聞かない。
タッチして帰ってやるつもりだったが、こんなにハードだとは思わなかった。
その膝島は彼女が生きている事を誇張するように血流の音がわずかに響いている。
「隊長到着しました!」
大きく腕をふりながら軍曹に伝える倒れそうだ。
バサァァ!
湯舟が再び大荒れになる。向こうの方で何か新しい島ができた。
この島はゆっくり沈んで行っている。

「諸君、第二目標を開始する」
本当に鬼軍曹だった。
「おい麗奈まだやるのか?」

「やめる?いいよ。」
寂しそうな声で言う麗奈に、体に鞭うつことを決めた。彼女を残念がらせてはいけない。
「いややるよ、限界を超えてこそだ。」
言ってしまった自分のカッコつけが憎い。ここで断っても彼女が怒る事はないだろう。
いつも優しい彼女に少し心惹かれる。
そんな事を考えながら、ひたすら体を動かす。どこかで聞こえる悲鳴。彼女が暇しているのだろうか。
小人の為にも頑張らなければ。
そして手が何かに当たったと思うと、そのまま勢いで体ごとその島に乗り上げた。
心臓が破裂しそうだ。
ゼェゼェ息が止まらない。唾を飲んで軍曹に報告する。
「れ、麗奈付いたぞ。」

「おつかれ広司、私の試練できたね。」
すごく満足そうな笑顔の麗奈に、やって良かったと心から思う。
でも体は素直だ膝から崩れ落ちるのをなんとか抑えている。
少し膝に押し付けれる力を感じると、巨大な島が水面を割って近づいて来た。
湯舟は荒れ狂い、膝に打ち付けられる波がここまで上がってくる。
さっきの指とはスケールが違う。その大きな胸は全てを圧縮しながら此方に近づいて来る。
「麗奈どうしたんだ?」
彼女の笑顔は更にニコニコ具合が増している。その紅色の目がわずかに光っている。
バシャァァァン!胸がこの膝と激突した。
「よくできました、ご褒美あげます。乗って?」
言われるまま胸に飛び移る、着地がカッコ悪かったが限界だ許してくれ。
そしてそのムニムニした島へ上陸した。
バシャアァン!ゴボゴボゴボ。
今まで乗っていた膝は下に降りていき、湯船は渦を巻いていた。

「そのまま前に行って。」
もうヤケだ、とりあえず前に進む褐色の肌はきめ細やかで滑る。余計に体力を奪われる。
すると目の前に現れる三角形の湖、彼女の谷間まで来たのだ。

「いいよ、そこに入って。」
お許しを得た俺は、そこに入る。
どうやらゴールの様だ。自然と体が癒される。
彼女の心臓の鼓動が聞こえてそれがまた気持ちいい。
少し移動している感じがする。目の前が大きな渦が出来ている。
彼女が後退しているのだ。パァァァン!どうやら着岸したようだ。
荒れ狂う湯舟と異なりここは穏やかだ。
バシァン!穏やかな谷間に彼女の髪の毛が到来する。
立ち泳ぎも疲れた、その髪に捕まらせてもらう事にする、
糸の様なそれは数本掴むと、鋼の様な硬さを持った切れる気がしない。

「ごめん、広司大丈夫?」
すごく心配そうな顔でこちらを見てくる彼女これはハプニングのようだ。
「大丈夫だよ、麗奈の髪きれいだよなぁ」

「ふふふ、ありがとう。」
心からそう思った。
その糸に捕まり大の字に成る。
疲労感が気持ちいい。寝てしまいそうだ。
どれぐらい時間が経っただろうか。彼女の肌が少し赤くなってきている。
ふと水面を見ると、小人を助けている船の姿が見えた。

「出ようか?広司。」
「麗奈がまだ入りたいなら良いぞ。」

「のぼせてきちゃった。」
色っぽい声を出す麗奈。ドキドキしてしまう。
爪で谷間から掬われる。ザァァァーと大量の水が爪から流れ落ちる。
気付くと紅色の目がそこにあった。
「ねぇ、良かった?麗奈風呂」
あの風呂は麗奈風呂というのか、なるほど。
している最中はかなりしんどかったが、終わってみると怠さが気持ちいい。
「あぁ、大満足だまたやってくれよ隊長。」
おどけて返すと、大人の笑顔を返してくる麗奈。
バジャァァァ!海神様が立ち上がる。
湯舟は今までになく荒れ、落ちる滝が轟音になって襲っている。
見えていた船は全てどこかに行っていた。
ドォン!ドォン!
そんな大災害はなんのその、浴槽を出る麗奈。
洗面台にある椅子にドォォォン!と座ると、そこに俺を転がす。
「ちょっと待っててね、広司」
あのボロボロでくしゃくしゃ髪だった顔が綺麗に輝いている。
「麗奈、綺麗に成ったよなぁ」
心からそう思うのだった。
彼女から、また大人の笑みで礼を言われるとドキドキしてしまう。
その言葉がなんだったか、思い出せずにいた。

ドォン!ドォン!轟音と共にリビングに帰ってきた。
何やら靴がそこに置いてある。
ゴォォォォ!ドォォォン!空気を引き裂きソファーに座る麗奈。もうこの音にも慣れっこだ。
指をそのまま地面につけてくれる、若干上がるホコリ。その爪からヒョイと降りるとその指は帰っていった。
麗奈と紗綾が挨拶をしている。
素っ裸の彼女、毎回思うが恥ずかしさとか無いのだろうか。
俺は恥ずかしいぞ麗奈!
「あの、なんだ、おはよう紗綾。」
「おはようございます、広司さん!」
ニヤニヤこちらを見てくる紗綾。"そらそうなるよなぁ"
ぱっと着ていた服が体を覆う。麗奈が転送させたのだろう。
「朝からお熱いですねぇ。」

「もう紗綾ったら。」
笑いながら話す二人いつもの彼女に戻っていた。

「何してるの?紗綾。」
ヒロよりも高いヒールの靴。
でも、彼女達のサイズにしては小さい、いつも10階とかのビルをぶっ刺して歩いているのだから。
「私じゃこの大きさにしかならなくて、麗奈さん大きくできますか?」
ヒロから聞いた紗綾の大きさはこれぐらいなのか、十分大きいと思う。
麗奈がそのブーツを見つめると、若干の白い光と共にどんどんでかく成っていく。
見上げるほどの大きさに成ったヒールは彼女達のサイズになり、威圧感を何倍にも高めていた。
「麗奈さん!持ち上げれますか?」
ひょいとそのブーツを持ち上げる麗奈。
伸び続けるその青い布、スウェード調のその布は光に当てられ少し光っている。
超高層ビルの高さまできた時、靴底が浮いた。

「これ良いね、紗綾、私も欲しいな。」
「わぁ、気に入って頂いてありがとうございます。麗奈さん用の今度作りますね。」

「楽しみにしてるね、紗綾。」
「はい、頑張ります!」
この靴は蒼のだっただろうか、この色は確かに彼女に似合いそうだ。
このままの姿で街に現れる彼女達を思い何か彼女達が遠くの存在な気がしてくる。
背筋を伸ばし手を上にあげながら店に帰っていく紗綾。
一晩を作業で明かしていた彼女は短い睡眠をとるのだろうか。
もうすぎ共和国とやらに出かける。
それにしても腹が減った、先ほどの運動はかなりのカロリーを消費したようだ。
あの彼女が食べていたサンドイッチが欲しくなる。
「なぁ麗奈、さっきのサンドイッチくれないか?」
ダァン!と地上に帰ってくるそのヒールブーツ。

「いいよ、広司。」
それを落とした本人からビルの様なサンドイッチを突き出される。
レタスの重みで死んでしまいそうだ。
「そのままじゃ無理だよ。」
彼女に伝える。何故かそのサンドイッチを咥える麗奈。
そしてモグモグし出す。意地悪な麗奈様だ。
そう思ったら、口を指で拭った。
その指をぬっと出してくる。

「はい、広司これで良い?」
手に付いた食べカスを腕に抱える。
「あぁ、麗奈ありがとう。」
なんでそんな方法なんだ”どこで学んだ”と思って居ると彼女が声を掛けてくる。

「どうしたの広司?足りなかった?」
「いや、ありがとうな麗奈。また一緒に風呂行こうな。」

「うん、広司、約束だよ。」
そう言って、また空気を切り裂き空間を震わせながら、どこかへ去っていく麗奈。
その悪気の無い顔に何も言えなかった。

店に帰る。昨日は屋敷をホテルの従業員に譲った。
自分たちは寝る所があるのだ。
絵里奈がきたらもう一棟頼もうと思いながら階段を上がる。
カグヤと紗綾は寝ているようだ。
リビングに入る。
そこにはヒロがスクワットをしていた。悪そうな顔をしている。
「おう広司、お前炭水化物どんだけ取るんだよ。」
「これだけ消費したんだよ!」
「そうか麗奈風呂は激しかったんだな。」
にやぁぁっと笑うヒロに嵌められたと思った。


広司が返ってくる、何かバカでかいパンを持って居た。
昨日蒼からの頭に響く声で麗奈に協力してやってくれと言われた。
そんな面白そうなこと断るわけがない。
その結果がこれだ。いつも俺を獣呼ばわりしやがって、今こそ言い返す時だ。
「おう広司、お前炭水化物どんだけ取るんだよ。」
「これだけ消費したんだよ!」
「そうか麗奈風呂は激しかったんだな。」
少し顔を赤くする広司。麗奈は成功したようだ。
カグヤが起きてきて広司の持ってきたそれを分けて食べる。
なんか配分がおかしいが、気にしても仕方ないとそのままがっつく。
フォークでつついている広司が口を開く。
「お前やっぱ獣だろ」
次からはフォークを使って食べようと思った。
「髭剃ったのか?」
「あぁ、朝暇だったんでな。」
そういうとまた顔を赤くする広司。乙女かこいつは。
「ヒロさんツルツルなのです。」
あぁ、何にもなく成っちまったな。ガハハハと笑うのだった。
その後長い間談笑していると、ドォン!ドォン!と朝のベル代わりの振動と爆音が鳴る。
昨日のままの姿の紗綾が出てくると
「おはようございます!皆さん!」と元気に挨拶してくるのだった。
皆で外に向かう。
その白い柱に黒いパンストを纏うのは蒼だった。

「もう作ってくれたのかい?紗綾。」
「はい!なんか夢中になっちゃって出来ちゃいました。」

「そうかね、そうかね。でも大丈夫かい?疲れてないかい?」
「少し寝たので大丈夫です!」
紗綾が青い光に包まれる。
「ちっとはましに成るといいんだがねぇ。」
そう言う蒼は優しい顔をしていた。
「どれちょっと履いてみるかねぇ。」
ドォォォン!とソファーに座った彼女がヒョイとそのブーツを持ち上げる。
その綺麗な足をその布の様な靴に入れて行く。
最後にピンと張ると、膝の上までくる布。

「どうかねぇ。」
ダァァァァァン!その長い足を机の上に投げ出す蒼。
風が全身に打ち付ける。
かすかに輝くその布は蒼の綺麗な脚の形を綺麗に表し、ヒールの高い靴底は黒く光っていた。
「流石蒼さんです。綺麗なシルエットに成りますね。」

「紗綾も良いの作ってくれたねェ。」
ドォン!ゴォォォォ!もう片方も履き終えた彼女はそのまま立ち上がる。
ドォン!ドォン!と広い方へ移動すると、こちらにその佇まいを見せて来た。
そのブーツの上には彼女が今日履いているパンストが見え、太ももを綺麗に見せている。
グレーのミニスカートの上でブーツと同じ色のベルト。
また胴だけ巻いたチューブトップは今日は黒色だ胸の谷間を強調させる、その上にはスカートと同じグレーのジャケットを羽織っていた。
先ほどまで怯え固まっていたピンク色の店の店主が激しく首を縦に振っている。
「すごく魅力的です!蒼さん。」

「そうかねぇ、ありがとうねぇ。どうだい、ヒロ今日一緒に行くんだろ?」
「あぁ、いいんじゃねぇか、相変わらずべっぴんだなお前。」
ケラケラ笑う蒼。そのままの姿でソファーに座った。
ニヤニヤする広司に、いつか見てろ。と心にしまう。

「髭剃ったんだねぇ、男前じゃないか」
また広司に貸しが増えた。
そこから蒼と麗奈のお願いが成功した事を話していた。

「へぇ、やるねぇ麗奈ちゃん」
等と出来るだけ広司を煽りながら過ごしていると、その本人がやってきた。
ドォン!ドォン!

「皆、おはよお。」
白のローライズスカートに、こちらも白のチューブトップ。足には黒い網タイツを履いている麗奈。
お腹と肩が丸見えだ。
またピンク色の店主が顔を縦に振っている。
「どうかな、広司。」そこでくるっと回るといい香りがこちらに流れてくる。
復讐の機会は早かった。ニヤニヤしながら奴の方を向いてやる。
ソファーに座る麗奈。少しいつもより機嫌が良さそうだ。
そこから雑談していると最後の絵里奈がやってくる。

ドォン!ドォン!

「おはよう、皆!」
赤の胸元までしかないワンピース、その肩からレースを纏った姿は妖艶だ。
そのスリットはざっくり入り、黒い網タイツを履いた脚を益々妖艶に見せる。
ピンクの店主は固まっていた。

「今日は悪口言わないのね、広司。」
ばっちりメイクを決めた絵里奈は俺が言うのもなんだが正に女神の装いだ。
皆が黙っている。
「どうかな、蒼が着てたから触発されちゃった。」
そう言いながら回る彼女。
「絵里奈、本当に綺麗だ。」
そういう広司に少し照れる絵里奈。
この男は本当に美女運が良い。

ソファーに揃う3人の女神。

「蒼、それ新しい靴?いいわねぇ。私も欲しいわ。」
「私も、これすきだねぇ。
「麗奈さんの後で作りますね!」
新しい注文に、はりきる紗綾。
何故かピンクの店主と一緒に店に入っていた。

「今日は、私と麗奈は収穫に行ってくるの。共和国へは蒼とヒロと紗綾ちゃんね!」
「絵里奈、俺は良いのか?」
「広司来ても良いけど、ずっと壁しか見えないと思うわよ。」
何が始まるのか想像しないでおこう。
「そうか、じゃぁ俺達は家の整理とかしとくな。家が足りなくてさ、もう一つ同じようなのないかな?」
「蒼に取ってきてもらえばいいんじゃない?」
「わかったよ、取ってくるさ。」
そうと決まれば行きましょう。
ゴォォォォ!と立ち上がりドォン!ドォン!と行ってしまう麗奈と絵里奈。
あの玄関に向かうようだ。

「ほんとのろまねぇ!」
ダァァン!
これも朝のベルだろうか、ホテルの従業員は声に反応しテキパキと動いていた。

少し蒼と話をして、紗綾を待つ。
ふと気に成り訪ねてしまう。
「お前のその髪、お前の惑星では普通なのか?」
「いや、違うねぇ、昔はよく色眼鏡で見られたさ。」
「おう、そうか、なんかすまねぇな。」
「いいのさぁ、ヒロはこの髪嫌いかね?」
少し寂しそうに聞いて来る。白い手でサーっと流す髪。
「俺は好きだぜ、蒼が綺麗にみえるぞ。」
「ヒロが好きならそれでいいねぇ。」
白い顔が少し赤くなった気がした。
「私いくの辞めましょうか?」
ニヤニヤ聞いて来る紗綾。"来たなら早く言え!"と、どうせ丸聞こえの声を思い出した。
店の2階からヒロがワザワザこちらを見ている。
怒鳴ってやろうとしたとき、目の前が真っ暗に成った。

煉瓦で積み上げられた5階建てのビルがずっと並んでいる。
大きな通りは地平線まで見えるほどまっすぐだ。
だが、その通りに動くものは無い。
少し首をかしげた信号機と何処を向いているのか分からない看板だけが何かを案内していた。
異様な雰囲気の町。共和国の首都に付いた。
「誰も居ませんねぇ。」
「蒼、間違えたんじゃないのか?」
「間違えてないねぇここだねぇ」
後ろを見上げている蒼。
そこには、その街の雰囲気にふさわしくない、緑色の高い高いピラミッドの様な建物があった。
そこの上には、焼けて燃えている旗がある。
「もう、落ちてるんだねぇこの都市。」
新聞で見た情報から、不明な勢力に制圧されたのだと理解した。

誰も居ない街並みを歩く、所々に焼けた車や道路に爆撃跡が残っている。
建物も同じだ、無事な建物は少なく焦げたり倒壊したりしてる建物が沢山ある。
ふと窓を見ると、人はいるようだが皆姿を隠してしまう。
「ヒロの恰好が悪いのかねぇ」
ケラケラ笑う蒼。
「うるせぇ、こういう体なんだい。」
いつもと変わらない蒼だった。

コツコツと石畳を叩くヒールの音が後ろから聞こえる。
後ろの二人は俺について歩いている。
信号機と看板以外の動く物を見つけた。
古い電光掲示板に書かれたカフェと書かれた店。
コーヒー・サンドイッチ・その他・・と文字が流れている。
地下の穴倉のような場所にある、その店に入る。
店員がこちらを見てびっくりしている。
「とおちゃん、巨人がきちまったよ。」
「誰が巨人だ!」思わず口に出る。
「でかいだけの男だよ、よく生きてたね。さぁ奥の席にすわって。」
「でかいだけって・・」
「すまんね、最近巨人の軍隊に攻められて妻は敏感になってるんだ。」
「巨人の軍隊ねぇ。どんぐらいだい?」
「大体3階建てぐらいの大男と大女だ。あんたら見た事ないのか?」
「私らは今着たのさ、そうかい巨人ねぇ」
蒼の紫の目が輝き始める。紗綾は怯えている。お前より小さいと思うぞ?
「まぁ席にかけてください。」
言われて奥のソファー席で注文を取る。
殆ど塗りつぶされたメニュー表、そこから選ぶ。
蒼は珍しく俺と同じコーヒーを頼んでいた。
紗綾は何も食べていないのかトーストを2枚も頼む。
「先払いでお願いしてます。」
そういう店主に蒼が札束を出すのだった。

「うまいねぇ、この状況でこんだけのもんよく出せるねぇ。」
「うちはまだ地下がありまして、コーヒー豆だけは南部の良い物がまだ沢山残ってます。」
「そうかい、そうかい、お代わりを貰おうかねぇ。」
彼女には小さいカップを6杯はおかわりする蒼。
「お前、酒やめたのか?」
「酔えないみたいでねぇ、今別の趣味探してるのさ。」
「なんだ体悪いのか?」
「毒も効かないみたいでねぇ、そういう事さ。」
彼女達の自然災害のような力。体も普通の人とは違うようだ。
まぁ、王都でさんざん見せつけられたが。
「マスター、宝飾に使うチェーン探してるんですけどどこら辺にありますか?」
「あぁ宝飾店街は司令塔の逆側だね。でもあそこにはあいつ等がうようよ居るって聞いてるね。」
「あの向こう側ですか、ご忠告ありがとうございます。」
「良いんだよ、こんな状況だしお互い様だよ。こんな時じゃなきゃ知合いを紹介できたのにね。」
「お知り合いが居るんですか?」
「あぁ、宝飾店街の一番司令塔側の角の店の奴が、前はここによく来てたんだ。」
「そうなんですね!連絡はつきませんか。」
「無線なんて炊いたら一発でここがばれちまう。あいつらがうようよ来るんだよ。」
「そうなんですねぇ、残念です。」
「来たら、どうなるんだ?」
「根こそぎ持って行かれるんだよ。周りの奴らもそれでビクビクして暮らしてる、物資の調達は夜しかないよ。あいつら毎日宴会だからさ。」
「夜ですか、ありがとうございます。」
「ここでの生活もいつまで持つか・・・」
そこから巨人が攻めて来た話を聞いた。
銃や戦車もデカイ彼ら、共和国も抵抗し何度も防衛線をして半分ぐらいは減ったはずだが、そこで帝国からの援助が完全に止まり
物資不足になる。
弾薬や兵器の供給が無くなって王都が壊滅したのをきっかけに前線の部隊も合流するも負けてしまったようだ。
少しひっかっかる。
「王都が壊滅したのっていつだ?」
「一週間ぐらい前だよ。」
「どうなってるんだ、蒼!」
「あそこの時間は滅茶苦茶なんだねぇ。多分絵里奈が速度調整してるねぇ」
「な・・時間まで操るのか絵里奈は」
「私もできるねぇ、戻るかい?」
何のことかわからないマスターは首をかしげている。
「戻らなくていいやい。」
「その巨人の軍隊も絵里奈が送った奴らだねぇ。」
あの日ジューズラックでの噂を思い出す。
パンプスの前に集まった奴らが軍隊として徴兵され消えた話。
「でもサイズがあわねぇじゃねぇか。」
「無理やり合わせたんだろうねぇ、私もできるのさ。適正無いのは頭おかしくなっちまうけどねぇ。」
「それって俺もできるのか。」
「あんたと、広司は無理だねぇ、多分狂っちまう。そんな姿は見たかないのさ。」
そう言ってコーヒーに手を付ける蒼。
先ほどから紫の目が光っている。
紗綾はトーストを食べ終え話を真剣に聞いていた。
「お客さん方、どこから来たかしらないけど、宛ないんだったら夜までここに居ても良いよ。」
「そうさせてもらうかねぇ、どうも昼間は危ないみたいだしねぇ」
突然遠くからズン!ズン!という音が聞こえてくる。
「電源落としてくれ!」
マスターの妻がスイッチを切る。真っ暗になる店内。
外から声が聞こえてくる。
「小人の店があるって噂はここからだよな。」
「小人の癖に店とかしんじられないわ。」
「どこにあるんだよ。適当な情報ながしやがって、あいつ等教育してやんとな。」
「そうね、私たちに逆らうとか馬鹿よね。」
ズン!ズン!遠退いていく足音。
「誰かチクったのか。しばらく看板は下げとくか・・」
「小人ねぇ、小人ねぇ、どの立場が言ってるんだかねぇ」
蒼の目が一層光を増しているのが不気味だった。
そのまま寝不足の紗綾は寝て、俺と蒼も仮眠を取る。
もう一度電気がついた時、店主に言われる。
「さぁ夜だよ、行くならいっておいで。」

扉を開け出ると、そこには人が往来していた。
「向こう側ですか、ちょっと遠いですね。」
「あのネックレスのだろぉ?別に後でもいいのさ。」
「ダメです!今日!今すぐに要ります!」
小さな紗綾に圧倒される蒼。
「わかったねぇ、酔うかもしれないから少し目をつむるのさ。」
そう言うと景色が反転した。

相変らずにぎわっているとは言えない町。
<<宝飾店街7丁目>>とかかれた電柱があるくらい路地に飛ぶ。
ズン!ズン!とそこらじゅうで音がしていてあの町とは雰囲気が全然違う。
待ちゆく人は皆頭を下げ、地響きが通るたびに止まって腰をおっている。
「おぉ、美人な女じゃねぇか。」
「あんた昨日も持って帰ってなかった?」
「一日でつぶれちまうんだよ。」
「はぁ、小人なんかどうでも良いけど」
「おやめください!お願いします。」
「なんか出せんのかよ?」
「この宝石でいかがでしょうか。私の一人娘です。お願いします。」
「チッ、仕方ねぇな許してやるよ。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
路地から見ていた風景を見て蒼が言う。
「結局どこでも戦争に負けたらこうなるんだねぇ。一緒さ。」
そういう蒼にそうだと思ってしまう俺。
紗綾は紙の地図を広げて何やらブツブツ言っていた。

「そこを右です。」
歩く人々が俺達を見上げている。
蒼が原因だ。その露出の多い姿はあの巨人と呼ばれる兵士に捕まえてくれといっているような物だ。
サラサラの青い髪が夜だと余計に目立つ。
しかしあれ以来巨人は見ていない。どうやら本当に宴会で出てこないようだ。
あのピラミッドの根元から賑やかな声が聞こえている。
そんな視線も気にせずコツコツと歩く蒼。相変わらず目は光っている。
「蒼、怒ってるのか?」
「いやぁ、怒っちゃいないねぇ、ただなんかイライラするねぇ。巨人に小人ねぇ。」
「その店です!」
あのマスターの贔屓な客の店を見つけるのだった。
店はやっているようで、鍵が開いていた。
「いらっしゃい。」
不愛想に呟く老人。それ以外なにも言わない。
「あの、チェーンの部材探してるんですけどありませんか。」
「部材かい?部材屋に行きな。」
紗綾の持って居る紙に丸を付ける老人。
「もう宝石もなくなっちまってるのに、チェーンなんて作ってどうするんだい、どうでも良いけどさ。」
「あの、向こう側の喫茶店覚えてませんか?」
「あぁ最近行ってないね、まだ生きてるのかね?」
「はいそこに今泊めてもらってて。」
「へぇそうなのかい、さっさと出ていく事をお勧めするね!」
そういって奥に引き込む老人。
よくわからない人だ。

教えてもらった部材店まで歩く。碁盤目状のこの町は場所が分かりやすい。
この店もやっていた。
中には小さいケースに入れられたチェーンの部材が一杯ある。
金、銀、プラチナなんでもある。
そこに綺麗な青色の部材を見つける、チタンと書かれたコーナーでふと止まってしまう。
「高くないけど綺麗だねぇ、青は好きさ。」
それだけ言うと別の物を見に行く蒼。紗綾と目が会う。
そのまま会計をして店を出た。
相変らず不愛想な店員だったがやたら会計が遅かった。
どんくさいやつだ。
ズン!ズン!あいつらが近づいて来る。
「連絡のあった店ってこの店だよなぁ。」
「あぁ、なんでも別嬪さんが居るらしいぜ!」
角から聞こえてくるその声、明らかに俺たちの事だ。
蒼は気にせずその方向にコツコツ歩いていく。
「あの宝石店の店主も同じこと言ってなかったか?」
「あぁあいつ今頃もう居ないと思うぜ。」
「嘘つく小人なんて価値無いよなぁ。」
「ちげぇねぇ」
ゲハハハと笑う彼ら、その通りを蒼が無視して通り過ぎていく。
「おいそこの小人、俺たちに頭下げねぇとはどいう魂胆だよ」
「ちょっとまて、あれが言ってた美人じゃねぇのか、乳でけぇなおい」
「おう、お前ちょっと来てもらうぜ」
ゲハハハ!と笑う巨人。ズンズンと蒼に近づく。
手を伸ばす巨人。
紗綾がハットしている。
「どの立場から言ってるんだねぇ。」
ボキィィ!
蒼の放つ回し蹴りに巨人の指がぶっとぶ。
小人の悲鳴が聞こえる。
「なんだこいつ、殺しちまえ!」
もう一方の巨人が脚を振り上げる。
「どの立場から言ってるか聞いてるんだねぇ。」
ピョンと飛んでそのまま脚を掴む蒼。
そのままぶん投げる。
ズゥン!巨人が宙を舞って通りを転がっていく。
通りの向こうからまた悲鳴が一段と上がる。
「なんだい、まだやるのかね。」
指を折られた兵士は持って居た銃を蒼に向けようとしている。
ズゥゥン!
またピョンと飛んでその胸を蹴り上げた蒼。
巨人は口から血を出して気絶している。
「小人は小人らしくしてるんだねぇ、覚えとくのさ。」
そう言って巨人の足を蹴り上げる蒼。
その足はあらぬ方向に曲がっていた。
"やっぱりこいつは人間を辞めていたんだ"少し怖くなる。
振り向いた蒼はその紫の目をギンギンに光らせていた。
すぅぅと収まる光。
「とりあえずあのカフェに戻るかねぇ」
そういうとまた天地がひっくり返った。


カフェの前に戻った、こちらは人通りが少なく、巨人の気配も無い。
「やっちまったねぇ、ちと我慢できなくてねぇ、あんなのでブーツ汚しちまったよ。」
申し訳なさそうな蒼。
「どうせああなってたんじゃねぇか!」
「そうですよ、蒼さん悪いわけじゃないですよ」
「そうかねぇ、でも汚れ取らなきゃねェ、あいつらにやらせたいねぇ。」
また光を増す紫の目。
ブーツを紗綾がハンカチで拭うと、すぅぅっと収まる。
「私が綺麗にしますよ!さぁお店に戻りましょう。」

中に入ると店主は居なかった。
不足分と書かれたコーヒーと酒、食料の分量が書いてある。
「これ食えって事か、どこいったんだあの店主。」
「とりあえずまた収まってから買い物行きましょう、ほらお酒も書いてありますよ。」
「船に一度戻るかねぇ、またここで寝なきゃいけないのさ。」
「まぁいいんじゃねぇのたまにはこういう所もさ。」
「ヒロと紗綾がいいなら良いねぇ」
「じゃぁ明日の夜まで待ちましょうか!」
朝日が昇ると人が避け、あの誰も居ない町が戻ってくる。
朝日を背に店にもぐるのだった。

結局酒をあおっている蒼。
ブーツと服に付いた汚れとやらは、その力で綺麗に落とされる。
「これ落ちにくいんだねぇ、若干吸い込むのさ。」
「そうですね、あまり実用性な物じゃないかもしれません。防水しておきますね。」
「紗綾すいまないねぇ、せっかくの新しい靴なのにさ。ケチ付いちまったのさ」
「いいですよ蒼さん、今こんなに綺麗なんですから。」
「なぁ、あの店主戻って来ねぇな。」
「何か用事なのかもしれませんね。」

そう言って3人で明日の店の話をしていると、またあの巨人達の音が聞こえてくる。
ズン!ズン!今回は多い人数のようだ絶え間なく聞こえてくる音。
「ここです、ここに青い髪の女が居ます。」
店主の声だった、売られたのだとわかった。
「おう!」
それだけ言うと、店のドアが破られデカイ手が入ってくる。
その手はカウンターを握りつぶし中を探す。
また蒼がコツコツ歩いていく。
「蒼さん!」
すこし遅かったようだ。
蒼はその手を踏みつけ、外をにらんでいた。
「なんだねぇ?私に用かね?」
手首を蹴り上げ引きちぎれる巨人の手、そこは血まみれだ。
コツコツと階段を上がっていく蒼。
「邪魔だねぇ」
それだけ言うと、巨人の肩をまた蹴り上げる。
肩が抜け、手が空を舞う。
「おい大丈夫かお前!」
「青い小人が出てくるぞ!」
血まみれの姿の蒼、だがまだ止まらない。
追いかけて外に出ると、10人ばかりの巨人が銃口を蒼に向けていた。
「そのおもちゃで何するんだね?」
にやけながら話す蒼に巨人が発砲する。
銃弾は蒼の目の前で止まってズンズンと地面に落ちる。
「やるんなら、相手をちゃんと見極めてやらないとねぇ」
掛ける蒼が一人の巨人の足を蹴る。
吹き飛ぶ足。
「こいつなんなんだ!誰か止めろ!」
「小人の癖に!ふざけるなよ!」
キャラキャラキャラ・・・
1kmぐらい先にバカでかい戦車が現れる。
ビルを踏みつぶしたキャタピラに少し傾いている戦車。砲身をこちらがこちらに回ってきている。
「もう買い物はいいかねぇ?そろそろ小人に馬鹿にされるのは限界なのさ。」
染みついていた血が周りに飛ぶ。後ろ姿も綺麗な蒼。
「お前の好きにすればいいぜ。」


その瞬間、目の前に黒い壁が現れた。

「さぁ、ゴミ共、下駄箱の時に戻る時間さ。お前らが巨人などと二度と言えないようにしてやるのさ!」

その声だけで周辺のビルが倒壊する。いつもより確実に強いそれに白いモヤモヤのシールドを突き破ってくる振動と轟音。
瞬間青い球体に囲まれ紗綾と一緒に上がっていく。
そのブーツは片足で6本近くの大通りを踏みつけている。
いつもより巨大化した蒼は、2.2kmの巨人となってそこに君臨していた。。