縮小転送にミスって都市ごと女の子の部屋に



 科学の発展により、人類は出生率・寿命を長いものにしていく。そして世界の人口は常に増え続けた。
 地球の土地がなくなって、いたるところに埋立地や規格外の超高層ビルが立ち並ぶ。
 加えて、地球に住むほぼすべての人間たちが裕福な家庭を築く今、簡単にゴミを捨てるようになっていく。さらにはプライベートな空間を持ちたがるようになる。

 人は増えるのに、刻一刻と住む場所が減っていく。お役人たちは考えに考えを重ねた。犯罪に対して死刑のみを執行してはどうか、それだけではなく無作為に選んだ人間を殺して処分するのはどうか。そんな物騒な話が持ち上がるほどに、事態は深刻を極めていた。
 これらの物騒な議論に終止符を打ったのが一人の科学者。山積みになった問題に立ち向かうべく彼が立案したのが、『人類縮小化計画』である。


 すでに物体を縮小する技術は存在していた。ただそれを生物、とくに人間に使うのは倫理的に問題がある。しかし、死刑にする、処分するなんて考え方が当たり前のように出てくるような現状では、人間を縮小してしまうのは大して問題にならないとされ、『人類縮小化計画』はすぐに実行に移された。
 フェーズ1、ラットの縮小。フェーズ2、ラットの群れの縮小。フェーズ3、無人の建物縮小。フェーズ4、無人島縮小。フェーズ5、無人集落縮小。
 計画は順調に成功を重ね、ついに都市を縮小できるレベルまで進んだ。そして最後、フェーズEXとして、あらかじめ被験者たちを住まわせて用意した大規模な都市の縮小が決定した。

 そして試験開始から半年を迎えた某日。同時期にフェーズを重ねていた転送装置の実験と合わせ、数百人に及ぶ被験者の暮らす街が縮小、そして転送されることになった。
 空は快晴。実験都市では、様々な小型装置を取り付けられた被験者が、いつもどおりに過ごしつつも、刻一刻と近づいてくるその時に緊張している様子がうかがえる。
 科学者たちは殺風景な部屋が映し出されているモニタに目を見やる。

「被験者、全員健康状態に問題ありません」
「縮小装置、異常ありません」
「転送装置も同じく問題ありません」
「ではこれより、対象物を特別実験室へ縮小転送する」

 各担当技術者たちが問題がないことを確認し合う。プロジェクトリーダーの指示で転送が開始された。

 実験都市で日々を過ごしていた人々から見れば、とくに変化はなかった。まばゆい光に包まれたわけでもなければ激しい痛みが襲ったわけでもない。ただ一瞬のうちに実験都市の外の風景が変わった。その瞬間自分たちが縮小転送されたという事実に、彼らはなんら驚きはしない……はずだった。
 プロジェクト班では大騒ぎが起きていた。

「なに!? 転送先に都市が移動していない?」
「は、はい……転送先の座標が一桁間違っていたみたいで」

 あらかじめ用意しておいた特別実験室の天井にセットされたカメラが撮影しているはずのモニタには、一切のものが映っていない。ただ殺風景な部屋が今まで通り存在しているだけだった。
 たかが一桁。しかし転送装置の座標は膨大な桁数の英数字の羅列なのだ。座標を見る限り日本であることは間違いないが、どこに転送されたのかを探し出すのは一苦労だった。

「被験者に連絡をとります!」



  ◆


 一人の少女が自室でオナニーをしていた。
 まだオナニーという言葉さえ知らない無垢な少女だ。彼女の自慰は単純に指でいじることから始まって、次に床にこすりつけることを覚え、月日を重ねるごとに過激に玩具を求めるようになり……いつしか電車やバスといった細長い模型を押し当てるようになっていた。今もパンツ越しに手頃なサイズのバスのおもちゃで息を荒く股間を刺激しているところである。
 仰向けになって天井を仰ぐその表情は、赤らめながら力なく呆けていた。

 真四角なバスの刺激に飽きた頃、彼女は上を向いたまま横に手を伸ばす。乱雑に置かれた模型の数々の一つを手に取り、股間に押し当てて別の感覚を楽しみながらよがる。たまたま手に取った新幹線のとがった感触に、彼女は唇を噛みしめた。

「んんっ……」

 と、そんな少女のプライベートな空間に一つの都市が転送されてくる。そのサイズはあまりにも小さく、模型よりも存在が矮小である。少女はそれに気づかないまま、自慰を続けていた。
 この人類縮小化計画は、元が前例のない大規模な実験。予想だにしない緊急事態が起きてもおかしくない。縮小転送された街の人々はパニックに陥った。
 目の前で巨大な少女が痴態を晒すなんて、当然ながらこの健全なプロジェクトの予定にない。想定通りに進んでいないことは、素人目に見ても明らかだった。
 1000分の1に縮小転送されることになっていた彼らは、パニック状態の頭で単純計算する。彼女の身長は、自分たちから見ておよそ1.3km。スカイツリーなんてゆうに超える身長を持ってその場に横たわる幼子に恐れおののいた。その上、彼女が股間に押し当てている新幹線の模型さえ縮尺100分の1……この縮小された街には大きすぎる。

 やがて、彼女は模型の新幹線の刺激にも飽き、次のモノを探し求めて同じように天井を仰いだまま手を伸ばす。そこにあったのは、今しがた転送されてきたばかりの小綺麗な縮小都市。
 しかし綺麗な姿もすぐ変貌する。街の一角を簡単に覆い尽くすあどけない手は、そこで生活していた被験者と実験都市の建設物をまとめて削っていき、廃墟に変えてしまった。
 手が巨大ショベルのように街をすくったあとは、もはや何も残されていなかった。少女が触れなかった部分とめくりとっていってしまった部分。削り持ち去られた場所には別の区画があったわけではないので、当然境のようなものはない。まだ形ある一角と同じように、つい数秒前まで同じ一つの場所だった。ただその一部が欠けただけなのだ。
 いつこちら側が同じ状態になってしまうのかと恐怖した被験者たちは、街の外へと一目散に駆け出し始める。

 少女は砂のような瓦礫の感触に違和感を覚え、顔を横に向ける。都市に呼気がかかり、建物の看板や街灯が吹き飛ばされる。
 彼女はすぐそばに普段とは違うおかしなおもちゃがあることに気がついて首を傾げたが、今はそんなことどうでもいい。縮小都市の瓦礫をそのまま、自分の股間に押し当ててしまった。しかしあまりにもろく、小さな命とともに一瞬で消えてなくなってしまう。

 叫び声は科学者たちに対する怒りの声が多かったが、それも知らず知らずのうちに死への恐怖に対する悲鳴に変わっていった。
 しかしここは少女のプライベート空間でしかないのだ。少女の自室。ただそれだけの空間には当然ながら現在進行形で自慰をしている少女以外誰もおらず、被験者たちの助けを求む声を聞きつける者はいなかった。
 その間にも、無垢な彼女の何気ない動きで街が壊れる。寝返りをうち、先ほどよりも強い呼吸音が響いた。息を吹きかけられたビルが傾き倒れ、街路樹や公園の遊具、そして住宅の屋根がめくり上がって巻き上がった。合わせて数多の命がその強風という圧力だけに押しつぶされて、当たり前のように潰えていく。

 矮小な都市の感触に味をしめた少女がごろりと転がって街に向かう。その巨体が地鳴りを響かせながら、広大な範囲にのしかかった。先ほど手で削り取られでこぼこしていた大地は、たったひとりの少女の体重によって平地にならされてしまう。
 空気が衝撃波を伴って揺れた。少女が縮小都市の上で四つん這いになったのだ。

 四つん這いになった彼女は、部屋に広がるもろいミニチュア都市を興味深く見つめながら、中の人々に自らその巨躯を見せつける。半袖シャツから伸びる白い腕。スカートを脱ぎ捨てたままさらけ出されたパンツ。セミロングヘアの頭の先から素足まで、空が少女そのものに置き換わっていた。
 とくに被験者たちの目を惹いたのは、湿ったパンツをまとった股間だった。それは性的興奮からでもあったが、一番はそこが放つ悪臭によるもので、男衆の一人もよろこんでいない。

 再び空気が震え出す。少女が腕立て伏せの姿勢になって巨体を下へと降ろしていく。やがて彼女は自分の股間を住宅や雑居ビルの密集した区画へ押し当て、恥ずかしげもなくこすりつけ始めた。
 人間の営みを再現した実験都市が一人の少女の快楽となって消えていく。数兆円をかけて用意された実験都市は、今や彼女の玩具も同然の存在となり、その価値を徐々に失っていった。

「あはぁ……気持ちいい……んっ」

 かつてない微細な快感に身をよじる。彼女がびくりと震えるたびに衝撃波を放ち、被験者は粉砕された瓦礫とともにゴミのように吹き飛んだ。
 巨大な股間が前進と後退を繰り返す。住宅やビルはもちろん、住宅の敷地内に止まっていた自家用車や、バスターミナルのバスも、等しくパンツのブルドーザーに巻き込まれていく。少女のパンツとコンクリートに板挟みにされた車やバスは一瞬で鉄板と化し、摩擦で溶けてパンツに張り付いた。

「んんっ……んあぁ!!」

 少女が絶頂を迎えた。布越しに愛液が吹き出して、元住宅街だった瓦礫の山、都市の一角を押し流す。
 摩擦で溶けた鉄板やコンクリート類は、この人肌の粘液によって再度凝固した。しかし元の原型は当然ながら残っておらず、これらが自動車やバスだった、あるいは舗装道路のコンクリートだったとは、到底思えない。
 数百人いた被験者は、一人残らずごく普通の少女のオナニーに巻き込まれて死亡。正式には行方不明扱いになって、プロジェクトは凍結された。