車でこすりつけオナ



 階段をのぼる足音が近づいてくる。ドアが開いた。
 高価なVR機材が設置された自室に、一人の少女が入ってくる。
 据え置き機の電源を入れる。テレビは必要ない。
 脳とゲームを接続するヘルメットを被り、横になる。据え置きのゲーム機から伸びる小型のスイッチをONに切り替えると、彼女の意識はゲームの中へ吸い込まれていった。

 VR技術が発展した世の中。
 ゲームとして様々なジャンルのものが進化を遂げていった。
 やがて、VR技術が現実とほとんど差異のないものとなったとき、ゲームのジャンルという概念は消失し、強いて言えば一つだけになる。
 ジャンル「仮想現実」。すべてをプレイヤーの意のままに変更できる、でたらめな現実だった。


 少女は仮想現実の自室にて目を覚ました。ヘルメットはかぶっていなかった。
 窓の外から聞こえる雑音、外を歩く人一人一人までもが忠実に再現されている。
 彼女は今からすることを思うと胸が高まって、股間がうずいた。

 なにもないところに手をかざす。VRゲーム内にのみ存在する特殊な粒子が集合し、タッチパネルが現れた。
 このゲームはなんでもできる。できることが多い分、本来なら彼女がしたい操作をするには何度もページめくりに相当する操作が必要だ。しかしコマンド記憶機能が働いていて、少女が操作したい数値はすぐに見つかった。

 自分のアイコンをタップ。
 その後、「Height:144.00cm」と記載された部分をタップし、数値を変更可能の状態にする。中空に出現した入力エリアに、30000.00と入力して300000.00cmにした。300メートルだ。
 しばらくもしないうちに少女は巨大化する。

 タンスやベッドなどの家具が押しのけられ、あっという間に背丈が部屋の天井に届く。片足がドアを蹴破って廊下に出てしまい、窓を突き破った片手が家から飛び出した。
 しかもこの家は二階建てで、この部屋は二階にある。気が付いたときには床が抜け、一階にあったキッチンの流し台や冬の必需品であるこたつやストーブなどを尻の下に敷いていた。少し大勢を整えようと体を動かすたびに、自分のお尻の下で何かがすり潰される感触がある。
 一階には彼女のゲーム機によって生み出されたVR両親もいた。初めのうちは罪悪感に胸が染まってしまっていたが、もはや慣れっこだ。仮想現実だと割り切ってしまえばどうということはない。痛ましい悲鳴が自分の下から聞こえてきても気にすることはなかった。

 爆発が起きたように家から巨体が顔を出す。彼女の住んでいた家はただの瓦礫になっていた。隣接するご近所さんも足で蹴飛ばしてしまっている。
 これだけでいくつもの命を消し去ってしまったのだと思うと、興奮に頬が染まり心がとろけそうになる。


 彼女が立ち上がると、服にゴミのように付着していた瓦礫が降り注ぐ。まるで雨のようなその瓦礫の下敷きになった人々は、一瞬で骨の芯まで粉々に砕かれ死傷した。
 少女が白い靴下に包まれた足を駅へと歩みをすすめ始めると、サイレンが鳴り響く。避難を促す地域無線が巨大化した彼女の耳には入ってきていた。
 自分自身が引き起こす災厄。そして非日常。それに巻き込まれる限りなく現実に近い仮想現実の住民たち。しかしこれももう慣れてしまっていて、興奮へ至るまでのスパイスとしては物足りない。
 彼女が足を持ち上げて振り下ろす。人や自動車がゴミクズみたいに飛び跳ね、自分の動きに巻き込まれて巻き上がる。現実世界では一般的な女子学生にすぎない自分が、仮想現実で圧倒的な存在として君臨しているその様に、心から満足していた。

 彼女は猛スピードで足元から離れようとする赤い自動車を視界に捉え、思い切り足を振り下ろした。巨大地震が街を襲う。コンクリート道路は一瞬で粉砕、大地が裂けた。近くにいた人々はいまだかつてない大地震に立っていられないどころか、空中に放り出される。
 粉微塵になった元道路だった場所には、白い靴下で包まれた足が未だ接地したまま。その下に件の赤い自動車は下敷きになった。
 片足立ちになって、今しがた自動車を踏み潰した自分の足裏を覗き見る。白い靴下に覆われた足裏は、若干赤と茶色に黒ずんでいた。踏み潰した自動車が鉄板に成り果てて貼り付いている。
 足裏に貼り付いた自動車を指でつまんで引き剥がす。顔に刻まれた笑みをより一層深くした。

「ふふ、女の子の足の裏で一緒に鉄の板になっちゃって、ミジメだね」

 赤い鉄板を顔の前まで持ってきた。
 この自動車にはまだ人が乗っていたのだ。そんな小さな命を、自動車とともに圧縮してしまった。心臓がドキドキした。嗜虐心が高ぶっていく。
 あげていた片足を地面に下ろし、足だけでまだ無傷だった住宅街を開拓する。自動車を一瞬で圧縮する大きさの足が数度行き来した。まだ住宅街に残っていた人々が、生をつなぐべく四方八方へと駆け出すのが見える。しかしそれもむなしく、彼女が自分の足を行き来させる場所を少し変えただけで瓦礫と混ざり合い、その生命は潰えてしまう。

 辺り一面が更地になった。最後に出来上がった更地の上に、つまんでいた自動車のなれ果てを持ってきて、指を離す。自由落下した鉄板が、小さく鳴いた。

「自動車もなかなかいい音がするんだね……っはぁはぁ」

 少女の呼吸が荒くなる。いつの間にか片手がスカートの中へと伸びて、股間を湿らせていた。

 ――駅でやろうと思ってたけど……もう我慢できないっ!

 少女は周囲に目を光らせる。そして渋滞を起こしている住宅街の一角に歩みを進めると、その上で仁王立ちした。股間に押し当てた指を何度もくりくりと動かして、敏感なところを片っ端から刺激した。
 仮想現実に住まう人々、小人たちの上空では、淫乱な水の音がパンツ越しに轟いている。漂う異臭は、間違いなく女性器と、それが垂れ流す粘液が放つものだ。
 パンツから滲み出た粘液がこぼれ落ちる。いくつかの自動車を乗車している人間ごと飲み込んだ。粘性の高いゼリー状の液体に包まれた自動車は、内側から開くことができなくなる。

「あぁ……くぅ、見てる見てる……みんなが見てるよぉ……っ!」


 興奮に膝がガクガク震え始め、立っていられなくなった。
 二車線の広い道路の両歩道に両膝をつく。舗装されたばかりの新品の道路と縁石が、少女の白い膝で粉々になった。運悪く膝の下になった人々は、とてつもない重さの体重を一点で受けて跡形もなく潰れてしまう。
 膝立ちでだらしなく開かれた股間の真下では、広大なカーテンのようなスカートによって天を覆われた二車線渋滞がある。
 パンツ越しにも愛液はとめどなくあふれており、彼女が身につけるパンツは下着の意味を成していない。彼女が意識しないうちにも、数台の自動車と数十人の人々が愛液に絡められていた。

 少女は膝たちのまま、乱暴にスカートを脱ぐ。そしてうつ伏せになった。
 指で刺激するだけでは飽き足らず、直接股間を二車線道路にこすりつけ始めたのだ。いわゆる床オナ。無論、その股間の下では渋滞に巻き込まれた自動車が、コンクリート道路との間で板挟み状態になっていた。

「あっあっ……いぃ……」

 頬を大地に押し付ける。何かが潰れた。顔を横に向けると、ぼやけた視界にフィギュアよりも小さな人間たちが目の前を走って逃げていくのが見える。
 悲鳴が耳に心地よかった。
 何度も何度も、身体全体で道路渋滞の上を行き来する。股間の下敷きにして、自動車や人間たちをすりつぶしていく。魂のこもった金切り声に混じって、無機質な金属がひしゃげる音が届く。
 興奮が最高潮に達した。

「ああっあああ!! イクっ……イクぅ!!」

 彼女は無意識の内に足をピンとまっすぐに伸ばして、瞳をギュッと閉じていた。顔が熱い。体中が汗だくになる。
 股間からはこれ以上ないくらいに愛液があふれ出している。排水溝なんかはとっくに詰まっていて、彼女の愛液が逆流していた。

「はぁはぁ……」

 彼女は吐息だけでも轟音になる。しかし、その吐息に負けない音量のざわめきが、まだ自分の股間のほうから聞こえてきていた。これだけ住宅街の中で激しくやったというのに、まだ生きている人間たちがいるらしい。
 なんだか恥ずかしい。

 ――おしっこもしちゃおうかな……。

 オナニーをすると、おしっこもしたくなる。その生理的欲求に逆らうことなく、彼女はパンツを履いたままその場に小便をした。
 まだ生きていた人々がアンモニア臭のする濁流に押し流されていく。排水溝を愛液で詰まらせたおかげで、あたりは瞬く間に水浸しになった。



 ――目を覚ました世界は現実だった。
 窓の外を見ると、自分が破壊の限りを尽くした住宅街が、当たり前のようにその場に存在している。
 誰も自分がオナニーをしていたことを知らない世界。
 これだからVRでひとりえっちするのはやめられないのだ。