「くぁ〜」
大きな欠伸をして目を覚ます。
外から聞こえてくる騒音と高く登った太陽が、昼を過ぎた事を教えてくれた。
「また寝すぎちゃったか…」

少し反省するも長くは続かない。どうせ仕事もなくやることもない自分にとっては、
何時に起きようが知ったこっちゃない。

10年以上前に支給された自分の身体に合うベッドから無理なく降り、数メートル歩いて冷蔵庫を開けた。
家具も、電化製品も、衣類もこの部屋以外は全てが自分のサイズに合っている。
5年前までは部屋も自分にぴったりのサイズだったが、
195センチ、85歳のおばぁさんが亡くなり、入居者が自分だけになったため取り壊された。

そして政府が用意したのがこの、現代の人類に合った部屋だった。
住み始めの頃は、自分の口から文句しか出なかったが、
政府に養ってもらっているという事、
自分に合うサイズの建物が既にほとんどないという、この二つの事実で諦めた。

冷蔵庫にある巨大なペットボトルを、両手に力を入れて持ち上げ床に置く。
コップに注ごうとするも、液体の重心が移動して大半が床に溢れた。
自分の腰まであるペットボトルを、他の人達は片手で飲むというのだから驚きだ。

「くそっ」
悪態をつくも、もう慣れっこだった。
物心がついた時より、他人と自分との違いを受け入れていた。
学校ではひどい目に合い、10代を耐え忍んで就職するも、
そこでも自分に対する差別は留まらなかった。

結果ニートとなり生活保護を得る。
もう自分の人生はこんな物だと諦めている。

友達は1人しかいない、恋人なんて以ての外。
ほしいと願うことはとうの昔に辞め、
むしろ、人を避けるようになっていた。

床に零したお茶を雑巾で拭き取り、コップの中を飲み干してパソコンを開く。
こればかりはスペック等を考えると、最新の物が必要で、
自分のサイズとはかけ離れた物を買う必要があった。

ネットの通販を開き、物を漁る。手に入れたい物が沢山ある。
だが、自分は生活保護を受けている身。贅沢する余裕はない。
だから諦めていた。

そう、昨日までは!
事の始まりは昨日の昼に遡る。

起きると軽い頭痛がした。
だが、そんな事よりも、マサは生活保護の受給日という事でウキウキしながら
役所の水谷さんが来るのを心待ちにしていた。

頭痛薬を飲み、洗面台で一応身なりを整える。
受け取ったからと言ってどこに行くわけでもないが、
人と会うのだから最低限は配慮が必要だろう。

それに、役所の人には好印象を与えた方が良いに決まってる。
と言っても、マサの担当は情に訴えたところで無駄だろう。
ザ・お役所人間。水谷さんはそんな人だ。
自分よりも若いのに、会う度にしっかりしていると感心せずにはいられなかった。

もらえる金額は大したことないが、マサは今か今かと待ち続けた。
あと30分で水谷さんが来る。そんなマサの心に影が差した。
「つっ…」
頭痛が激しくなっている。薬を飲んで‪2時‬間以上経った。
それなのに一向に効く気配はなく、そろどころか悪化している。

ズキッと脳を締め付ける感覚が段々と速くなり、波の強さも大きくなる。
マサは呼吸を荒くして、額に手をやると、
自分が異常な状態であることを理解した。額が物凄く熱い。

マサは熱でボーっとなりながらも、追加で薬を飲もうと立ち上がろうとした。
身体を起こそうと、右腕に力を入れた瞬間、
右の肘からソファ崩れたさり、頭を強く打った。

頭痛の痛みと相まってマサの意識は遠のいた。
そして、昨日通販で物色していたクッションを買わなかった事を
激しく後悔するのだった。

「あれ?」
目を覚ますと奇妙な感覚に包まれる。
いつもと部屋が違うような感覚。そもそもなんで寝てしまったのだろうか。
眠りにつく前の記憶を辿る。

そうだ。突然の頭痛でぶっ倒れたんだ。
マサは天井を見上げていた。
「何時間経過したんだ?水谷さんは来たのか?」
時計を確認しようと立ち上がろうとして、背筋に冷汗が流れる。

「身体が動かない」
なんでだ?やっぱりさっきの頭痛のせいか?
打って変わって今は痛みがない。そんな簡単に頭痛は引くものか?
もしかして重大な病にでも掛かったんじゃないか?
マサは急にパニックに陥った。

「だ、誰かっ!!助けて!身体が動かないんですっ!誰か!」
壁越しに、隣人に助けを求めてみるも返答はない。だが、その時。
天の助けが舞い降りた。
この時はそう思っていた。

「ピンポーン」
呼び鈴が鳴る。水谷さんが来てくれたんだ!
「水谷さん!助けて下さい!身体が動かないんです!」
マサはあらん限りの声を張り上げた。合鍵を持っているからすぐに助けてもらえる。
そんなマサの期待を他所に、また呼び鈴が鳴る。
「マサさん?いらっしゃらないんですか?」
「居るんだけど身体が動かない!」
いくらドア越しとは言えど、流石に聞こえないはずがない。
それでも水谷さんが入ってくる気配はなかった。
しばらく叫び続けやっと玄関が開く気配がした。

「マサさん?入りますね」
靴を脱いで玄関へ上がるのを音で感じる。
「マサさん。居ないんですか?」
「ココ!!ソファのとこ!」
マサが声を張り上げるとやっと気付いたのか、
水谷さんがソファまでやってきて、自分を見下ろした。
安堵したのも束の間、水谷さんの表情を見て不安が押し寄せる。

何故か無表情で見下ろされている。

綺麗な黒髪を後ろで束ね、薄い水色のブラウスをタイトなスカートの中にインしている。
自分の目の前には、水谷さんのつるつるのスネが、そして見上げて行くと、
ブラウスの二つの膨らみ、顔が上空に見える。

「み、水谷さん…?」
マサは控えめに声を掛けた。すると、何故か彼女はマサから背を向けて、
その後すぐに信じられない事が起こった。

自分の顔目掛けて、彼女がお尻を突き出してくるのだ。
時間にして1秒掛かっていないだろう。
だが、その恐怖はマサにとってとても長いものだった。

ゆっくりと突き出されたお尻は、マサの、かなり上の方で影を落とした。
時間と共に、ピンと張られたスカートが近づくにつれ、
これでもかと言わんばかりに更に張る。
自分の顔の何倍もの大きさのお尻が真っ直ぐ、
なんの迷いもなく自分目掛けて降ろされる。

何故自分は水谷さんに座られなくてはならないのだろう。
何故巨大な尻に敷かれなくてはならないんだろう。
その疑問は直ぐに判明する。

「ドンっ」
水谷さんのお尻が自分の顔を潰す感覚が分かった。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
声にならない叫びを上げた。

自分の何倍もある重さの尻が、なんの配慮も、
なんの躊躇もなく自分を潰した。
そして自分の顔の上に居座り続ける。圧迫し続ける。

「あのチビちゃん、新しいクッション買う余裕あるんだ。
もっと少なくしてもいいかもね」
自分の事をチビちゃんと呼ぶ水谷さんに軽いショックを受ける。
いや、そんなことよりも!今なんと言った?クッション!?

容赦なく加えられる彼女の体重を、全身で支えながらマサは困惑していた。
自分はクッションになってしまったのか?
確かに気絶する前に欲しいと願ったが。
「それにしてもミニチュアハウスよねぇ。電化製品以外ほとんど小さい。
このソファも多分三人掛けよね?」

彼女はそう言ってお尻を浮かせて、半立ちで自分の方を見降ろした。
していたかどうかも分からないが、ここぞとばかりにマサは空気を吸った。

彼女の重圧を受けていた顔の中心と思われる部分が
少しずつ元に戻る感覚がある。だが恐怖は終わらない。
真上には彼女の巨大な尻が浮かんでいるのだから。
タイトなスカートが破けんばかりに張って
彼女のお尻の大きさをアピールする。
怖い。恐ろしい。痛い。嫌だ嫌だ嫌だ!

「1、2、3」
彼女はソファが何人掛けか数え始めた。
「待って!座らないで!僕が下にいる!やめて!たすけて!」
水谷さんの顔は、自分からだと彼女のお尻でほとんど隠れていた。
まるでターゲットは外さないわよ。とばかりに
彼女のお尻は自分の上から動かない。

「やっぱり三人掛けねっ。私が座ると1人掛けだけど」
「〜〜〜〜〜!」
さっきと同じ重圧が自分を押し潰した。
鼻が、目が、口が、無慈悲に潰される。
彼女は気付いてないからしょうがないかもしれない。
だが、それでも、彼女を恨まずにはいられなかった。