ゆーみ宅からなんとか自分の家にたどり着いてから数日経った。
変身能力はスポンジの一件以来使っていない。
もう一生使わないかもしれない。
あんな思いをするくらいなら、生活保護をもらいながらネットゲームをするだけの人生で良い。
もう辞めよう。辞めてしまおう。そう思っていたのに…
「えぇぇぇっ!!げ、限定版ガチャ…この武器しかもステ高くないか?」
マサのお気に入りのネトゲが限定武器ガチャを発売した。
いつもなら課金せずに指を咥えて見てるだけだ。
生活費だけでいっぱいいっぱい。
課金する余裕なんてない。今回も諦めようとする。
「だ、だけど…」
今なら能力がある。これを使えば金を得るのなんて容易い。でもでも。
「課金なんてしないっ!!」
マサは葛藤の末そう高らかに宣言した。
もう変身能力は使わないんだ。
そうだ!自分は欲求に勝った!!
拳を天高く突き出した3時間後マサはガチャを回して課金した。
5万円使って全ての武器を揃え、何処に盗みに入るか考えた。
マサが課金で散財する一方で国の偉いさん方が極秘の会合を開いていた。
「首相。もうあの策しかないのではないですか?」
白髪だらけの男が悩む。
「だが、あれをするとなると…何か他に方法がないものか…
出来れば避けたいんだが。専門家はなんて言っている?」
「このままいけば確実に人類は滅びると…」
「そんなことは分かっているんだよ。他に策はないのかと言っている」
首相は深いため息を吐いた。
「あるにはあります。ですがどれも技術の進歩がまだ付いてきていない、言わば机上の空論で…」
「どれくらい時間があれば実現できるのだ?」
言いにくそうに男が答える。
「80年以上はかかるかと…」
「80年!?」
首相以外も驚く。
「失礼ですが、首相!そんな時間は待てませんよ!
更に3世代も時間をみる余裕なんてありません!今すぐご決断をっ!」
男が声高々と詰め寄った。
首相はふーっと息を吐き、目を閉じてしばらく黙り口を開く。
「人類の危機か…」
「長らく噂されていた人類滅亡説。これを国が認めました。
我々人類は既に10世代前から世代交代する度に身体が大きくなってきています。
専門家の話によりますと、このままのペースで大きくなり続けると、
寿命は大きく低下するそうです。
その危機に立ち向かうべく国が遂に重い腰を上げました。
それでは中継をご覧下さい」
アナウンサーが話し終えると首相がテレビの前で話し始めた。
「国民の皆様。
このまま身体が大きくなり始めると我々は生命活動の維持が難しくなり、平均寿命は30歳を切るでしょう。
昨今の技術の進歩はめざましいものです。
ですが、それでもこの肥大化を止めることはできません。」
そこで一斉にシャッターが切られる。
フラッシュを浴びせさられ、眩しそうに顔を逸らす。
「そうなると人類は滅びるでしょう。
社会機能は麻痺し、仕事はなくなり、極めて原始的な生活を強いられます。
経済は混乱し暴動が起き、戦争が起きる可能性が高いです」
首相が不安を煽ると記者たちから息を飲む声が聞こえてくる。
「なので我々は決断しなければならない!
そしてこれは私だけでは決められません。
なので皆様の手に委ねる事にします。
このまま世界が混沌となるのを待つのか、娘や息子、そして孫が30歳まで生きられない現実を受け入れるのか。
それとも私が今から提案する案を採用するのか。
国民の皆様が決めて下さい」
頭を深々と下げる。
「それでは今からその政策を読み上げます。現在の状況を打破すべく…」
国民投票で首相の政策は大きく支持された。
投票率は93.7パーセントと驚異的な数字を叩き出す。
支持率は98パーセントを上回り、反対派が1パーセント。
どちらとも言えないが1パーセントとという結果を残し可決された。
その政策は以下である。
・収入がない者(例生活保護受給者など)
・身長が185センチに満たない者
・男性
・年齢が満20を越える者
女性は上記の者であれば同意なくして性行為をして構わない。
但し満16歳以上に限る。
この政策はもちろんニュース番組で取り上げられた。
「いや、でもこれは仕方がない事ですよね?人類滅亡するよりマシだと思うんですが」
「ええ。国民の支持も98パーセントを超えてますからね。
皆さん同じ考えでしょう。いいんじゃないですか?僕なら羨ましいですけどね」
そう茶化すコメンテーターに出演者は笑いながら相づちを打つ。
「こちらの政策を分かりやすく説明してくれますか?」
アナウンサーが話しを振ると、簡潔に話した。
「早い話し、16歳以上の女性は身長185センチ以下の男を無理矢理犯してもいいって事です。
特に生活保護受給者ですね。国がリストを持ってるんでしょう。
顔写真も公開されるということですので、楽しみですね。
コンドームなどは付けずに正しく性行為して欲しいですね。
16歳以上の女性は積極的に種付けしてもらうようにしましょう」
そう言って出演者たちはお辞儀をし、番組は締めくくられた。
カチャカチャ。
部屋にコントローラを操作する音が響く。
マサは数時間テレビとにらめっこしていた。
先ほど課金したアイテムを手にエイリアンを倒していく。
今も大型のボスを2体倒した。
「マサさんすごい!」
「流石!剣さばきがヤバイw」
「次はタオトン倒しに行きましょ!」
「マサさんかっこいい❤︎」
次々と画面にチャットが打ち込まれていく。
それらの反応を見てマサは満足そうに微笑んだ。
このネットゲームの世界では自分はカリスマ的存在だ。
何人ものメンバーをまとめるギルドのマスターであり、最前線でマップを攻略していくプレイヤーでもあった。
皆から一目置かれ、尊敬され、慕われる。
女性の熱烈な視線を浴びながら、夕日が見える丘に座っていると、急に現実に引き戻された。
お腹がすごい音を出している。
そういえば深夜からゲームを始め、何も食べていない。
「…コンビニ行くか…」
腰をあげて椅子からぴょんっと飛び降りた。
コンビニまで徒歩で10分。
都会ではないが、田舎でもない。
都会の隣りに田舎があり、その境界線辺りにマサは住んでいた。
何人かの人とすれ違う。
今までもすれ違う度に好奇の眼差しで見られたり、携帯のカメラを向けられることがあった。
だが、今日は何かがいつもと違うように感じる。
今までは指を指されたり、ちっさと驚かれたり、
隣りにまで来て背を比べられたりと、堂々といじられてきた。
だが今日に限ってはくすくす笑いながらちらちらと見ている。
まるで恋をする乙女のように!
「モテキか!?モテキなのか!?なんだか頬も赤らめている気がしてならない」
なんだか強くなったようにマサは感じながらコンビニまで闊歩した。
雑誌を軽く眺めながらお弁当の並ぶ棚へ近付いた時、ふいに視線を感じた。
その感じた視線の方へと振り向くと、黒髪を後ろでまとめ前髪をピンで留めた女性の店員さんと目が合った。
目が合うと驚いたことに彼女は自分に微笑んだ。
今まで笑われても微笑まれたことはない。
どこか慈悲の念も込められたような笑顔だ。
笑いかけられた時にどのように対応すればいいのか分からず、
さっと目を逸らして弁当を探すふりをする。
ドキドキと高鳴る胸を落ち着かせていると、彼女が近付いてくる音が聞こえてきた。
「こんにちわ」
折った膝に手をついて、屈むように自分と目線を合わせてくる。
「あっ、こ、こんにわっ!」
緊張のあまり口が上手く回らない。
それを聞いて彼女はクスッと笑いながら目を合わそうとする。
その視線から逃げるように目線を下に向けながら話そうとすると、襟から胸の谷間が見えてしまった。
「お弁当決まりましたか?上の段の物はお取りしますよ?」
「あっ、じゃ、じゃあこれをお願いします」
指さしたものは自分でも取れる位置にあるが、テンパっているマサは気付かなかった。
「こちらですね?温めますか?」
彼女が下段にあるお弁当をわざわざとってくれる。
腰を曲げると彼女のお尻が目の前に移動してきた。
ジーンズという固い素材に包まれているのにも関わらず柔らかそうに見える。
「は、はい!チンして下さい」
「分かりました。それではレジまでお願いしますね」
ぷりぷりと動くお尻の後を追ってレジの前にいく。
レジからは辛うじて顔が出るか出ないかだった。
「こちら1点で398円になります。千円のお預かりですね。602円のお返しなります」
お釣りを渡す時も手を添えてくれる。
こんなに優しい人今までいなかった。
だが、突然マサに悪夢の時間が訪れる。