しばらく彼女のお尻に敷かれ続け、色々な疑問が湧いてきた。
だが、どれも自分には予測もつかないことばかり。
一つ分かるのは、クッションの事を考えていたから今の状況にある。
という事は、自分の姿を思い浮かべれば戻れるんじゃないか。

そう思いついた瞬間、見慣れた自分の姿を思い浮かべる。
手足の感覚が戻る。
「きゃっ!なに!?」
と、同時に彼女が立ち上がる瞬間、
生身で一際大きい重圧をお腹で受けた。
「ゲホゲホ…」

仰向けになって、振り向いた彼女を見上げていた。
彼女は先ほどとは違い、驚きの表情をたずさえている。
「み、みずたに、さん」
「マサさん!?え!?なにが、どうやって…」

彼女の慌てぶりに胸を撫で下ろした。どうやら元に戻れたようだ。
「今度からは…生活保護費…振り込みで…」
そう一言残し、マサは深い眠りについた。

一ヶ月の費用を受け取り、さっさと水谷さんを追い払った。
彼女は悪くはないが、2度と顔を見たくないのが本音だ。
いや、そんなことはもう今更どうでもいい。
「な、なにか…なにかないか?」

目の前にある封筒の中の、一万円札に決める。
頭の中で、変身しろ。変身しろ。と言い聞かせると部屋が大きくなっていった。
実際は自分が縮んだんだが。
だが、それで実感する。

「やった!億万長者になれるっ!!」
実際に聞こえてるか分からないがそう叫んで、自分じゃ使えないことに気付いた。
どうしたものか、元の姿に戻って考えた。
そして恐ろしい答えに辿り着く。
「盗みだ」

それから数日、部屋に篭って色々試すと、
次第に分かることが増えていった。
まず、変身すると大抵動かない。息はしてないようでしていて、
感覚は無いようである。鈍くなる感じだ。

そして正確に変身するためにはかなりの労力を要する。
変身を解いた後、2、‪3時‬間グッタリしてしまうほどだ。
だが、集中せずに変身しようとすると、変な形だったり、
全く関係ない物になったりするので注意が必要だった。

それに比べて小さくなったり紙みたいに、ペラペラになったりするのは簡単だった。
形を変えるのは難しいが、大きさを変えるのは簡単だ。
そこで一つ希望が生まれた。
「もしかしたら大きくなれるのでは?」

人間の平均身長は現代3メートルを超えている。
世代が変わるにつれ緩やかに伸び続けた身長は世界を変えた。
建物が少しずつ大きくなり、物も人間に合わせて大きくなる。
物だけではない。動物だってそうだ。というか全てが大きくなったのだ。

要は自分以外の他の人からすれば
昔から相対的に見ると大きさは何も変わっていない。
「ああ、人間ってこんなに大きくなったんだ。昔と比べて」
そんな思いすら持っていない。

ただ自分がこの世の中に生を受け
何故か27歳になっても160センチという
江戸だか昭和だか平成だかの
過去の時代に合った身長で止まってしまっただけだった。
成人なのに並ぶとまるで幼稚園児並みである。

だが、それもこれでおさらばだ!
そう思い3メートル越えの自分を想像する。
ドキドキ、ワクワク。
ゆっくりと目を開けて落胆した。
元のサイズ。幼稚園児だ。
「ならば!」

自分ではなく水谷さんにならなれるか?
それとも大きな物冷蔵庫とかなら?

色々試してみるもどうやら自分の体積を越えるものには変身出来ないと予想された。
残念過ぎる。

そんなこんなで数日を過ごし、そろそろ練習がてら外で実地訓練する事にした。
ターゲットは決めてあった。おもちゃ屋だ。

おもちゃ屋に決めた理由は単純だ。小さくなって忍び込んで、
万が一見つかったとする。拾ってびっくり。なんだおもちゃか。
そうなる算段だ。
近くのおもちゃ屋をパソコンで調べ、
ドキドキしながらイメージトレーニングを繰り返した。

午前2時。従業員も流石に帰った真夜中。
自転車を漕ぎ、店の裏手に回り自転車を停めた。

そして誰も居ないことを確認して拳大の大きさになった。
扉の前で自分の身体を薄くする。
そして両開きの扉の間から店内に侵入して、口が塞がらなくなった。

「なんでだ?」
中に入るまで気付かなかったが、店内は電気が点いて明るい。
せっかくのイメージトレーニングがいきなり全て無駄となった。

「あれ?」
上の方から野太い声がする。
その声に思わず気を付けの姿勢を取って身体を硬くした。

「なんで落ちてんだ?」
髭がもっさり生えた男性が、モップを片手に自分を拾い上げた。
じっと見つめられて冷や冷やする。
もしバレたら自分は一生人体実験に使われるか、
はたまたどっかの大富豪に売り飛ばされてしまう。

髭もじゃは暫くするとモップを置いて、店の裏側に連れていった。
自分を机の上に置いて何かを探す。
「この間に逃げられるか?」

だが、いつ振り向くかも分からない。
どうしようもなく、とりあえず自分の姿のままゴム製の人形に変身した。
小さくなり、ペラペラになり、ゴム製の人形になる。
疲れない変身の部類だが、もう多用は出来ない。

そんなことを考えていると、髭もじゃが自分を透明のビニール袋にいれ、
袋にタグらしきものを付けた。
バレてもおもちゃ。それが幸いして狙い通りになった訳だ。
不幸中の幸いだ。

裏から自分を連れて出てきた髭もじゃは自分を店頭に置いた。
そして現場を目の当たりにし、恐怖におののく。
「大人の玩具…」
周りにはテンガやら、アダルトビデオやら、バイブ、シリコン製のちんこが並ぶ。
その中に自分が含まれている事を考えるとゾッとした。

どんな親父に買われるのか、どんな風に使われるのか、想像しただけで吐き気がする。
これはいますぐ逃げださなければ。最後の集中力を使って何かに変身しよう。
そんな事を考えていた時だった。

「ねー、ヒロキ。見てみて〜、人形型のあるんだってよ〜」
「へー、なんだそれ珍しいな?」
「ね?こんなの見た事ない」
男女が2人で自分の事を品定めしている。
ガッツリ化粧をした、黒髪のギャルと茶髪の男だ。

「買うな買うな買うな買うな」
心で必死に願う。
その時女の手が自分へと伸びて、重力に逆らい宙に浮いた。

「あそこまでしっかり作られてるよっ。ねーこれ買ってー」
女のおねだりに男は腕を組む。
「千円だし買うか」
絶望が襲った。女はまだいい。可愛い感じはするし、化粧は厚いが清潔感がある。
だが、男だとヤバイ!一生のトラウマだ!一体どっち用のおもちゃなのか?
それとも2人一緒に使うものか?

レジの上に置かれ男が千円札を自分の隣に置く。
店員がその千円と引き換えに自分をレジ袋に入れ男に渡した。
「ヒロキありがとー」
「千円くらい別にいーよ、それより今日何回逝った?」

まるで自分がいないかのように2人は会話を始めた。まっ、当然だが。
「2回くらいかなー。気持ちよかったよ。ヒロキ大好き」
運転中の横顔にキスをした。別に羨ましくないし。
童貞だけど、羨ましくないし。しばらく2人の会話が続く。

「美奈。着いたぞ」
「夜遅くありがとねー。次は水曜日だよね?」
「うん。迎えにくるわ。またな」
俺はどうなる?男の車の中か?それとも女にお持ち帰りか?どっちだ!?