背中にマネキンの無機質な胸を感じながらマサは声をあげていた。
「マリナさんっ!マリナさーん」
そう遠くない位置にいる彼女には聞こえているはずだが、完全に無視されてしまう。
例え、聞こえなかったとしても心の叫びは聞こえているはずだ。
彼女の唾液を飲まされ無理矢理姿を変えさせられた。
それならば例のテレパシーのようなものによって確実に聞こえている。
「何かもっと違う方法があるはずだと思うんです。こんな無理やりじゃなくて。
みおさんだって徐々に慣らすって言ってたじゃないですか」

もう聞こえてようが聞こえていなかろうが構わないとマサは石田に訴え続けた。
「もっと頑張るので、こんな方法じゃなく…」
マサの声は店内に入ってくる一人の女性によってかき消された。
「ちりんちりーん」という音。
店員がふたりいらっしゃいませと声をかける。
Tシャツにジーンズという地味な格好だ。
そして店員の注目を集めたのが恥ずかしかったのか、下を向いて店員に小さな声で話しかけた。

店員は彼女と話している最中に自分を見た。
そして目が合ったことにで出番が始まろうとしているのが分かる。
話しかけた客も自分を見た。そしてそそくさと自分の方へ歩みを進めている。
「ま、まりなさんっ!ご、ごめんなさいっ!自分が悪かったです!」
何に謝っているのかすら分からない。
「お願いします!助けて下さい!ま、マリナさんっ!」
叫び続けるマサにマリナは少し目配せした。
だが、その目配せで彼女が自分を救う気がないのが分かった。
「…ひどい。ひどすぎるっ!昨日満員電車に乗ったばっかじゃん!
死にそうな目にあったのに!全然助けてくれないしっ!
いつもそうだっ!いつもいつもいつもいつも…女は俺を馬鹿にしやがっ…」

言葉は最後まで続かなかった。
目の前にあの客が来たからだ。正しくは目の前に彼女の胸が来たからかもしれない。
近くで見るとかなりの迫力だった。
Tシャツという薄い生地のせいかもしれないが、胸の部分だけが特別に強調されている。
背中にはマネキンの胸が、目の前には女の胸が。
そしてふいに背中の圧迫感が消え、宙吊りになった。
そのまま手にブラブラと垂れ下がり、女に連れて行かれる。
お仕置き部屋だ。試着室と言う名のお仕置き部屋だ。

「い、い、いやだぁーー!マリナさん!お願いっ!助けて下さい!」
マサは叫び声と共に試着室へと消えていった。

シャッとカーテンを開け、そそくさと試着室へ入る。
女は手に持ったブラを壁にあったフックへかけた。
本来ならアンダーやトップス周りをはかって、ブラのサイズをだすのだが、
ここの店は試着用の特殊なもので胸のカップ数を出していた。
種類が豊富であったり、番組で大々的に取り上げられたりと人気の理由は数あるが
その試着用のブラで気軽に測定出来るというのも人気の一つとなっていた。
狭い個室で女は1人、Tシャツを脱ぎその豊満な乳をさらけ出した。
ブラから溢れんばかりに逃げ場がなく、上に盛り上がった女の胸は
苦しそうに彼女へと押し付けられていた。

「はぁー。キツかったぁ」
そう言ってブラのフロントホックを外すと、胸がこぼれ落ちた。
鏡で自分の胸をくまなく観察している。
眉が下がる。
女は胸が大きいのがまるで重荷であるかのようにため息をついた。
そしてフックにかけてある小人ブラを手に取り胸にあてる。
「あぁぁぁぁ…」
怯える小人の顔を自分に向け、胸に押し付けた。
「うぶぶ」
「布部分が結構小さいな…」
ぎりぎり女の乳輪がマサの顔と下半身で隠れるくらいだ。
女はピンクのレースがついた肩紐に腕を通す。
動く度にマサが胸にぽよんぽよんと弾む。
両肩を紐に通し、背中のホックをとめようと後ろに手を回した。
「ん、あれ?」
明らかに長さが足りていない。
「どうやるんだっけ?店員さんに聞いとけばよかったな」
そう言いながら女はマサをその胸に押し付けた。

「うぶぶぶばぱ」
むちむちと彼女の底なし胸へと埋もれていく。
「んー、もうちょっと」
彼女は更に力をいれて紐を引っ張る。するとマサの左手足がグイッと伸ばされる。
「いだぃー」
「んー」
力を入れる大女に手足を引っ張られ苦痛に叫ぶマサ。
むにむにと全面は柔らかいおっぱいに包まれ、手足はひきちげれんばかりに伸びる。
んーと言いながら彼女が力を入れ続ける。

だが、次の瞬間ふいにその圧力が消え、門前に彼女の乳首が現れる。
諦めたのだろう。
「ま、まずは紐の調整をしてよ!明らかに足りてないじゃん!」
その言葉に応える彼女。
肩紐に腕を通しながら紐を伸ばす。
「こんの馬鹿おんな!当たり前に足りてないんだ、んぶっ」
マサの暴言は途切れた。
紐が足りるまで伸びたと考えた彼女が装着を再度試みたのだ。

「ふうっ、やっと入ったぁ」
そう言って彼女は胸に埋もれている小人を鏡越しに見る。
「うーん…まだちょっとキツイなぁ」
彼女が二の腕をぎゅっと寄せ、谷間が更に深くなる。
「んぎぎぎぎ」
苦しそうに喘ぐ小人。
両手足から伸びる花柄の紐によってマサは完全に拘束されていた。

「これくらいかなー」
さっきまで彼女の胸にギチギチに埋もれていたマサにも、いくらか余裕が生まれた。
手足は赤く腫れ、いつまた目の前の山に呼吸が奪われるか恐怖の表情を見せる。
身体全体でマサが胸を支えているが、それでも至るところから肉がこぼれ、溢れている。
そんなことを気にもせず彼女は鏡の前で次々といろんなポーズをとった。
前かがみになり、胸がブラに乗る感覚を確認し、違和感がないか確認する。
寄せては布がズレないか、両手で持ち上げ乳首がはみ出ないか、
背中を反らせてきつ過ぎないか、そんな確認している最中にカーテンの外から声がかかる。

「お客様」
「ひゃ、ひゃいっ!」
不意の声掛けに慌てて返事をする。
「もしよろしかったらサイズを測らせて頂いても構わないですか」
カーテン越しに彼女は緊張しながら、はいと応えた。
「カーテン開かせていただきますね」
シャッと開け放たれる。
恥ずかしそうに俯く彼女と苦しそうに喘ぐ布。
「もう少し緩めの方がいいかもしれませんね」
そう言って店員は彼女の背中へ周り紐を調整した。

「これでよろしいかと。少し上半身を降って頂いてもいいですか?」
「胸を…横にですか?」
店員はにこやかに、ええ。と答えた。
彼女は上半身を静かに振った。
ぶりんぶりんと身体に合わせて揺れる胸、それを支える小さな小人。
「んー…」
店員はその様子を黙って見守る。 
「んーー!!ぐっはぁっ!」
横に振れる度に小人が喚く。
「腕がちぎれるぅー!んーー!」

暫くその様子を見守っていた店員が再度背中の紐を調整する。
「次は軽く膝を揺らして下さいね」
彼女は顔を真っ赤にしながら黙って従った。
「ふっ、ふっ、ふっ」
小さく息を吐きながら身体を揺らす。
小人は上に上がった時の浮遊感と、その後のしかかる巨肉に気が飛びそうになる。
それはまるで胸で餅つきをされているような感覚であったろう。
「ピッタリですね」
そう言って店員は去って行った。

キーキーと泣きわめきながらマサ君は女性と個室へと消えていった。
まるで今からあの中で侵されるとでも言うように、最後は罵声まで浴びせられる。
試着用のブラになるくらいなんともないだろう。
むしろ男からしたらご褒美に近いはずだ。
見ず知らずの女性にお金を支払わずに胸を見せてもらえるなんて。
服の上からでもわかる巨乳を堪能すればいいのに。

だが個室の中から聞こえてきたのは彼の悲痛な叫び声のみ。
やめてーとか助けてーとか。
巨大な胸にあてがわれて試着されるマサ君を想像するだけで股間が疼く。
まりなさんごめんなさい。と聞こえてきたときには全身鳥肌が立った。
今の状況は明らかに私のせいなのに。
「ん…」
軽く吐息が漏れる。

試着室から出てきた女性の手からぶら下がって出てくる。
そして店員にお礼の言葉とともに返却されている。
まるで風俗だ。
代わる代わる初見の女の子達に装着されて満足させて一緒に出てくる。

あっ、また出番だ。
マネキンに装着されているマサ君がひぃーと声をあげる。
大きな手に誘拐されピンクのカーテンの中へと消えていった。
彼の意思はどこにもない。
そして始まる彼女と二人きりの時間。
ほんの数分だろう。だが、苦痛の時間ほど長いものはない。
彼女の匂いで満たされた、カーテンの中で少しでも女性のフェロモンにふれてほしい。
服を脱いで見えてくる、肌の色に期待を抱いてほしい。

服から放たれる女性の体臭、ブラから解き放たれる二つの乳房、可愛らしいピンクの乳首、
おへそ、うなじ、近付く胸、迫る肉、埋もれる心地よさ、息が出来ない恐怖
訪れる暗闇、乳輪のぽつぽつ、引き伸ばされる手足、物として扱われる恐怖、
無慈悲、無造作、気遣いのなさ、圧力。
「はぁ、はぁはぁ、ハッ、はっ」
自分の呼吸が荒くなっているのに気づく。

完全に興奮していた。
Mとしては最低な彼だが、Sの自分からしたら最高の彼でもある。
しかも特例として国から許可が出ている。
そして重要なのは彼から許可は出ていない。
のれほど素晴らしい人間がマサ君以外にいるのだろうか。
幼稚園児にも満たない身体で特殊な能力を得た。
体液を飲ませる事で変身するなんてMとして得た能力の何者でもない。
マサ君はMとして生きていくしかないんだ。

まりなは気付くと5時間も店内にいた。

「ただいま戻りましたー」
玄関からまりなの声が聞こえてくる。その後階段を上がる音がする。
「おかえり、どうだった」
まりなは扉から姿を現し、カバンをゴソゴソと探ると手にはブラジャーがあった。
「あー…マサか?」
「そうでーす!ブラとして活躍してました」
「ご褒美じゃない?それ」
「んーそうでもなかったみたいです」
そう言うのと同時にブラがマサになる。

「抜け殻だけ?」
放心状態のマサを見てみおは言った。
「結構ハードだったみたいです」
ニヤニヤとまりなは笑う。
「あーそう。ならいいか。なほとゆかが帰ってるから紹介してあげて」
はーいと言ってまりなは部屋を出ていった。

まりなに連れられ一階のドアの前まで連れられる。
コンコンと叩くとやはり女性の声がした。
さっき言っていたなほとゆかという奴らだろう。
まりなは扉を開けて中に入った。
中には制服を着た二人の女の子が床に座っている。ちゃぶ台の低めの机にはお菓子が。
ガールズトークでもしていたのだろうか。
「わぁー、その人が新しく来たっていう?」
立ち上がって近くまでやってくる。
薄めの茶髪に合うかのような茶色の瞳、唇が厚めで制服の上からでも分かる胸の大きさ。

「こんにちは。なほです」
そう言うと彼女は見下ろしながら手を差し出してきた。
「あっ、よろしくお願いします」
彼女の手をにぎり返す。
笑顔が素敵な娘だ。
「ゆかもあいさつしなよー」
そう言って目の前で振り向くとスカートがくるっと舞って赤のショーツが見える。
腰の高さと同じくらいだから仕方ない。それでもバツが悪く目をそらした。

「今なほのパンツ見られてたよ」
それを見ていたゆかに指摘される。お菓子をパリパリ食べながらまるで自分には興味がない様子だ。
「えー!?もうおませさんなんだからっ」
いやいやいや、自分のほうが年上ですけど。しかもおそらく10歳くらい。
だがそんなことは口には出さない。
「マサ君って言うんだよ。かなりすごい能力の持ち主です」
まりなからの紹介を受ける。

「ふーん。めっちゃちっちゃいね。どんな能力なの?」
タメ口に多少のいらつきを覚える。だが自分のほうが大人だ。
「変身能力を持ってるよ」
「へー!すごいじゃん!」
なほのリアクションはかなり良い。女子高生でこんなにも差があるものか。
「ゆかちゃんが自己紹介したら見せてくれるかもよ」
まりながゆかを促す。

「ゆかと言います。よろしくっ」
簡潔過ぎるわ。心でツッコム。
スレンダーなボディラインに黒髪ロング、褐色の肌。ピアスを付けている。
どことなくみおさんに似ている気がした。