※人間設定です

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「これが街?ちっちゃーい♡」

 街中に響く大きな声。その声も、次の瞬間には大地を揺らす轟音でかき消された。この街に暮らす人々は、声と地鳴りのような轟音が一つの生命体から発生しているものとは考えつかなかっただろう。

 鏡音リンは人々の2万倍の大きさで街に降臨していた。30kmの彼女が一歩歩くたびに大地は大きくゆらぎ、呼吸の振動や、無意識の体の動きさえ、一挙手一投足が災害となる。
 海岸線から山までの20キロにまんべんなく広がる大都市にリンの影が落ちる。昼間のとても短い影であるはずなのに、街の中心部はすっぽりと彼女が作る暗闇に収まっていた。

「何しようかな?」

 無計画に巨大化したリンは、目標を絞っているわけでもなければ、なにか意図があってこの街に来たわけでもなかった。目を凝らして、街全体を見渡す。もっとも、見渡すというより、俯瞰するとか、見下ろすといったほうが正しいかもしれない。

「あそこが街の中心なのかな?」

 広がる街の重心のようなところには高層ビルが立ち並び、街の中心部であることが容易にわかる。
 もっとしっかり見るために、リンはアリの巣を覗くようにしてしゃがんだ。中心部がリンの影から解放され、ビルに陽の光が反射する。  
 中心部の人間からすれば一時的に救われた気分であろう。太陽さえその華奢な体で隠されてしまう恐怖は計り知れない。しかし、その一方で、リンがしゃがんだことで被害がでた地域もあった。

 それは、街の沿岸部だ。リンの素足が上陸してすでに壊滅状態だった沿岸部だが、両足の間に存在した大規模な貿易港は奇跡的に無傷だった。
 しかし、上空17000メートルに存在したリンの”15kmの小さなお尻”が地上から2500メートルまで1秒程度で降下したことにより、強烈なダウンバーストが港湾を襲った。
 水深たったの数十メートル程度の海水はすべて弾け飛び、大型船も小型船も関係なく吹き飛ばされ、宙を舞った。ほとんどの船は空気によってひしゃげて曲がり、お尻の直下にあった船などは空気の逃げ場も存在せず、そのまま圧縮されて一枚の大きな鉄板のようになってしまった。築堤も風の力だけで引き剥がされ、コンクリートが粉のように吹き飛ぶ、潮風にも台風にも耐える大規模な造船クレーンや倉庫、建造物も根こそぎ空へ投げ出され、多くはもとの形を保っていなかった。
 ここが国際的な貿易港であるが故に、近くには工場や石油、ガスの貯蔵タンクが多く存在する。ダウンバーストで発生した大きな衝撃がトリガーとなり、そうした施設は風下に向けて百メートルを超える火柱と大きな黒煙を巻きながら爆発した。爆発の衝撃さえダウンバーストで発生する衝撃波には叶わず、奇妙な形の爆破だった。
 弾け飛んだ海水は一瞬で水蒸気に、雲にになり、衝撃波とともに外側へと広がっていった。山間部には瞬間的に雲が形成され、海水の雨が降り出した。この雨は長く続き、付近の生態系は致命傷を負うことだろう。外海に押し出された海水は史上最大の大波となり、百数十メートルの大きさを保ちながら島しょ部や数百キロ離れた半島の沿岸へと到達し、大規模な災害をもたらすことになる。
 人間サイズなら152cm程度の小柄な女の子がしゃがむだけで、これほどまでの被害をもたらす。まさに、今のリンは災害だった。

 さて、影から解放され、神々しい逆光が和らいだとき、街の人々は、初めてリンの姿をまともに見ることができた。
 彼女は全裸だった。一糸まとわぬ姿のまましゃがみ込み、女子としてもいささか華奢すぎる足首、腕、指、首が目立つ。肌はきめ細やかでどれだけ巨大であろうと宝石のようになめらかで、しゃがんだ膝の奥にはピンクダイヤモンドのような乳首が見え隠れしている。顔立ちは整い、ぱっちりとした青い目と、透き通るような黄色のショートカットが鮮やかだった。その彩色の派手さと美しさからして、街であるいていたらかならず注目の的となるだろう。もっとも、現在は容姿に関係なく、そのスケールの違いから注目する他ないが。
 どうやらお尻の直下で起きた惨劇には一切興味を示していないらしい。逆光でシルエットになった恥丘から糸を引いて輝く液体が垂れていることだけがわかる。
 彼女の巨大な口は、人々を煽るように口角を上げて笑っている。にへら、と次することを考えて悦に入っているようだった。

「おっきなタワーがあるね〜、何メートルくらい?」

 リンが目をつけたのは高層ビル街でもひときわ目立つ鉄塔だった。高さ約500mを誇る街のランドマークは周りの100メートル台の摩天楼を突き抜けるように生えており、リンからすれば「これを使ってください」と言われているようなものだった。
 しゃがむ姿勢から、そのまま前へ体重を移動し両手をつく。全長3000メートルの手のひらが街へ落下したのだ。中心部の周縁に住んでいた人々は、暗くなったと思った途端に圧縮され、大地と同化することだろう。

「うーんと、リンの指がだいたい1キロちょっとだから……」

 右手を浮かせて、人差し指をタワーの横に立てた。それだけで、数々の大企業が入居している高さ200メートルのビルが潰されてしまった。ビルの会社員の多くはリンが出現した時点で業務を放棄して逃げ出していたが、それでも会社に残った正義感の強い社員たちは、リンの爪の間に挟まってなくなっていることだろう。
 上半身の体重がすべてかかった左手はズズズ……という音を立てて20メートルほど埋まる。リンにとっては0.1ミリ沈んだに過ぎないため気づいていないが、地下では水道管や地下鉄が圧縮されてインフラ災害を生んでいる。

「リンの指にはかなわないね!」

 わざとらしく言うリン。街のランドマークが指にもかなわないと言われた絶望も、その次に放たれた言葉ですべて吹き飛んだ。

「じゃあ……乳首と戦ってもらおうかな?」

 人々は一瞬、理解ができなかった。乳首とは、あの乳首なのか?

「このタワーを乳首でくりくりするから、壊れたらみんなの負け、リンがイったらみんなの勝ちね!」

 有無を言わさずルール説明をするリンのにやけた表情にだんだんと人々の感情が追いついてくる。指で住んでいた街を弄くられるだけでも屈辱的だと言うのに、少女の性感帯と街の誇りが比べられるなど、最大の侮蔑にほかならない。人々はパニックに陥り、泣き、あるいは怒り、あるいは逃げ出した。しかし、何もかも、2万倍スケールの鏡音リン相手では無駄だった。

「リンの乳首は敏感だから、勝てるかもしれないよ? 頑張ってね」

 そういうと、リンはタワーから山側4kmのところに腕をついて、左胸をタワー直上へと持ってきた。リンからすれば、タワーと乳首の対決のための予備動作にすぎないが、高さ600メートルという、タワー以上の高さがある腕に阻まれた人々は、退路を失うこととなった。

「んっ……」

 全長200メートルの乳首をそーっと近づけて、タワーの先端にあてがう。地震大国の建造物なだけあり、耐久性には非常に優れているようで、少し触れただけではタワーの形は崩れない。
 様子を見るように、何度か乳首をこすりつける。その度、リンは小さな喘ぎ声を出していた。

「んん……これっ……いいかもぉ……」

 リンがタワーの快感に酔いしれる中、当のタワー展望フロアの人々は阿鼻叫喚だった。リンが上陸したときの地震でエレベーターが故障し、修学旅行生を含む数百人の客が取り残されていたのだ。停電とリンの影で暗くなった展望フロアに、金属がきしむとてつもない轟音が響く、そのたびに全員が声を上げていた。
 リンが乳首をこすりつけると、展望フロアのガラスは破砕し、ガラスを支えていた枠も無残にひしゃげた。上空500メートルの冷たい風とともに、体温で温められた少女の体臭と未発達の乳腺の甘い匂いが舞い込んでくる。
 数秒に一度、鉄骨を削るように展望台の周りをピンクの乳首がこすりつけられて目の前を横切っていた。
 何分たったか、いつ展望フロアが崩れるかもわからないところで、巨大な乳首は上空へと移動し、気持ち悪いくらいの静寂が訪れた。

「ふぅ……なかなか……やるね……ちょっと、休憩」

 リンはそういうと、少し体勢を調整した。手足を数センチ移動させるだけでも、街にとっては数百メートルの移動である。
 乳首のみを下ろすとなると、体勢が少しきつくなるのだ。性感ではまだ息も上がっていないが、下手に区画ごと胸で押しつぶしてしまっても味気ないので、休憩することにした。
 休憩などを挟んではどう考えてもリンのほうが有利に決まっているが、人々はリンのきめたルールに抗議することさえ許されない。

「ん……しょ……」

 ちょうどいい姿勢を見つけたところで、バトル再開。乳首がまたタワーへと近づく。

「もうそろそろ壊れちゃうかなー?」

 リンは余裕ぶってそうつぶやいた。壊れそうどころか、壊そうと思えば、今にでも一瞬で壊せる力を彼女は持っている。
 2ラウンド目は少しやり方を変えて、タワーの先端でもって乳首をつつくことにした。自ら胸を動かしてもいいが、一歩間違えるとタワーを押しつぶしてしまうため、鼓動の動きにまかせて突かせてみる。
 鼓動の動きと言っても、スケールにすると毎分90回近く、20メートルの幅に乳首が上下しているのである。人々からすればとてつもない運動で、鼓動だけでも上からとてつもない質量のものを叩きつけられるような衝撃が与えられる。
 展望フロアの人々がその衝撃に耐える中、気持ちの良い位置を探っていたリンは突然大きな声で喘いだ。

「お゛っ♡♡」

 齢14とは思えない、性欲丸出しの喘ぎ声だ。
 細い細い鉄塔の先端部分が、ちょうど乳腺の部分に刺さったのだ。
 いまだかつて経験したことのない、乳首の内側からの快感に、リンの体が大きく跳ねる。電気が走るような快感を見つけたリンは、すかさずタワーをまた乳腺へと近づける。
 2万倍スケールの乳腺はたやすくタワー上部を飲み込み、カリカリと入管を引っ掻いて彼女を刺激していた。

「なにっ゛♡♡ これっ゛♡♡」

 リンは民衆などお構いなしに大きな声で喘いでいた。限界まで達さぬよう乳首の位置を保持していても、鼓動によって何度も乳腺に鉄塔が叩きつけられてしまう。快感の波に合わせ、リンは無意識に腰を振っていた。それを支える膝に衝撃が与えられ、周辺区画で地震が発生する。更に、女性器から垂れた愛液が中心地の摩天楼にかかり、その圧倒的な質量でオフィスのガラスをぶち破っていた。

「お゛っ♡♡ ほぉ゛♡♡」

 展望フロアは耳が割れるような喘ぎ声と、強くなる鋼鉄の衝撃音に包まれていた。衝撃音のリズムから、彼女の鼓動がどんどんと早くなっていることを感じる。
 乳腺はどんどんとタワーを飲み込み、やがて展望フロアに達した。しかし、ひろい展望フロアまでは飲み込むことができず、分間120回の速度で肉の壁が天井を叩くこととなった。いよいよ客の発狂は限界まで達し、気絶する者や、自死を選ぶ者まで現れ始める。

「ふーっ♡♡ ふーっ♡♡」

 だが、客がどのような結末を選ぼうと、死は避けられない。性的興奮にヨガるリンは展望フロアなどお構いなしに乳首を降下させ、とにかく乳腺のさらに奥へタワーを押し込もうとした。
 ついには天井が突破され、展望フロアに直径160メートルの乳首が現れる。そしてすぐ、フロアの客はその肉壁に、あるいは鉄骨の残骸に圧縮された。

「〜〜っ♡♡」

 リンは絶頂寸前で倒れ込んだ。タワーの下半分や下部にあるショッピングセンターは乳首によって一瞬で押しつぶされ、周辺の摩天楼も標高1500メートル、直径2kmを超えるAカップのおっぱいの山に飲み込まれ、未発達な少女の柔らかさにすら勝てず飲み込まれた。
 最大の被害を引き起こしたのは、リンのお腹だった。横幅だけで6kmもあるリンのつるんとしたイカ腹は、まだ無傷であった市街地をまるごと飲み込むように圧縮し、すべてを無に返した。彼女の内蔵が詰まったお腹の質量は天文学的であり、自由落下による衝撃波が無事だった腹の周りの区画も飲み込んだ。
 中心部から沿岸部までは繁華街が続く市街地であり、その被害は計り知れない。輸入した物品を市街地に供給する片側5車線の大規模な目抜き通りは、今や市街地も港湾も消し飛び、生き残った道路がリンの濡れた女性器に向かって続くのみである。

「はぁ……はぁ……」

 乱れた呼吸を整える。腕によって阻まれ、避難できなかった中心部の人々の生き残りに、生暖かく甘い突風が吹き荒れる。いくつかの一軒家はリンの呼吸だけで屋根や基礎が吹き飛ばされ、二次被害を発生させていた。

「気持ち……よかったけど……リン、まだ……イッてないから……リンの勝ちね」

 横暴極まりない、と誰もが思ったことだろう。しかし、抗議したところで彼女は聞く耳を持たないだろうし、そもそも、人々の声など最初から彼女には聞こえていない。

「ふぅ〜…………んっ♡」

 一旦は終わりを迎えたか、と人々が安堵する中、リンはまた小さく喘いだ。何度も、連続して小さな喘ぎが繰り返される。
 数百メートルの腕や、2キロを超える太もも、胴体に阻まれた人々は、彼女に一体何が起きているのか、ようやく収まりそうな災害にだれが油を注いだのか、何もわからなかった。
 知っているのは、リンと、股ぐらにいる人々のみ。

「えっち……♡」

 人々は、放水車でもって、無謀にも彼女の性器を刺激していた。