§2 初めて感じる大祐の優越感


昨日、姉である彩香の素足を思う存分堪能することができた大祐は、恍惚の表情で朝ごはんを食べていた。
あの夢のような行動がこれからも体験できるかと思うと、大祐は自然と笑みがこぼれていた。
しばらくすると、髪の毛をやや乱した彩香が、ゆっくりと台所に入ってくる。
大祐「ああ、姉ちゃん。おはよう!」
テンションが高くなっている大祐は、まだ起きたての彩香に対して元気よく挨拶をかける。
彩香「んー、大祐、おはよう・・・。」
やや控えめなトーンで大祐に挨拶を返した彩香は、椅子に座ったかと思うとおもむろに足を組み、爪先を掻きむしり始めた。
彩香「んー、かゆいなぁ・・・。」
突然の彩香の行動に興奮冷めやらない大祐は、彩香に気付かれないように爪先に視線を移す。
彩香が掻いている場所は、まさに昨日、大祐が付属の吸血セットで血を吸い取った場所であった。
大祐の小さな行為が彩香に痒さを与えていることを知った大祐の股間がむくむくと持ち上がる。
大祐「ね、姉ちゃん、蚊に刺されたの?」
事実を知っているのにもかかわらず、大祐は彩香に質問をする。
彩香「そうみたい。しかし、蚊もわざわざこんなところを刺すなんて・・・。
   足指の裏だから歩くたびに痒くなるのよね。」
大祐「ふーん・・・。でも、その蚊もあっぱれだよね。
   姉ちゃんの激臭の爪先から血を採取するなんてさ。」
彩香「そんなにくさくないわよ・・・。もうっ!」
頬を膨らませる彩香を横目に、大祐はそそくさと自室へと戻っていった。
大祐(す、すげえ・・・。昨日の蚊が僕だって気づかれてないし・・・。)
事の詳細を何も知らない彩香に対して優越感を感じた大祐は、ある種の達成感を感じて予備校へと向かったのであった。

その夜、大祐は、再び擬人蚊の装置に手を伸ばす。
朝の彩香とのやり取りを思い浮かべ、今夜も彩香の素足に攻撃を企てることにしたのだ。
今回も難なく5~6㎜サイズの蚊になることに成功し、大祐はふわふわと浮かび上がる。
大祐「どれ・・・、姉ちゃんはどこにいるのかな~。」
口元が緩みっぱなしの大祐は、一直線に彩香の部屋へと向かう。
扉の下側のスペースから潜り込んだ大祐は、低空飛行で部屋の中央付近にあるテーブルの下へと潜り込む。
すると、テーブル下の一角にあぐらをかいた彩香の下半身が鎮座していた。
ショートパンツ姿の彩香の下半身は、惜しげもなく太もも、ふくらはぎ、素足を披露していた。
大祐「おおっ、これは絶景かな、絶景かな・・・。」
あまりの迫力ある景観に、大祐も笑いが止まらない。
雄大な彩香の下半身を堪能した大祐は、意を決して彩香の左の足の裏を目指す。
目的地に到達した大祐は、まず昨日攻撃した親指の裏を確認する。
盛大に掻きむしったと思われる指の裏は、真っ赤に腫れ上がっている。
目に見える形で昨日の悪企みが成功していることを理解した大祐は、早速付属の吸血セットを取り出す。
そして、人差し指の裏の中央付近に勢いよく吸血セットを突き刺し、キュルキュルと機械を回転させる。
一定量を吸い取った大祐は、彩香の温かな血液を投げ捨て、今度は中指の裏へと移動する。
同様の行為を大祐は、親指以外の4本の指に行おうと考えているのだ。
あぐらをかいている足は彩香の右ひざに隠れているため、こうした大祐の行為も彩香に気付かれる心配がない。
中指の吸血も終わった大祐は、余りの成功ぶりに対して、憐みの気持ちさえ抱くようになった。
大祐は続いて薬指の裏へと接近する。
そのときであった。
彩香の巨大な5本の足の指がビクッと反応したのだ。
大祐は羽をばたつかせながら一気に浮上する。
彩香の敏感な神経が、大祐の存在に気が付いたのだろうか。
はたまた、吸血した部分が早くも痒さを与えたのだろうか。
答えは後者であった。
彩香の足の裏付近をホバリングしていた大祐に、彩香の巨大な右手が迫りくる。
大祐「うわわっ!」
小さな大祐が浮かんでいることなどお構いなしに彩香は、右手で爪先をボリボリと掻きはじめる。
すると、次の瞬間、彩香の座る体勢が変化したらしく、大祐に光が降り注ぐ。
彩香「ああっ、もう、また蚊に刺されたのかしら・・・。」
はるか上空にある彩香の双眸が、大祐に向けられる。
彩香の圧倒的な迫力に、大祐は金縛りにあったように身動きがとれなくなってしまった。
大祐「ど、どうしよう・・・。このまま逃げれば見つかるよな・・・。
   でも、もうすぐ10分経っちゃうし・・・。」
この擬人蚊の装置は、効果が10分しか続かない。
うかうかしていれば、大祐の姿が元に戻り、企みが盛大に露見してしまうのだ。
大祐は、大きく息を吸い込むと、意を決して巨大な彩香からの脱出を試みた。
彩香「あっ!!! 蚊だ!!!」
その刹那、大祐から再び光が奪われる。
上空に彩香の巨大な掌が出現したのだ。
大祐は猛スピードでテーブル下へ潜り込もうとする。

バスウウン!!!

大祐「うひゃああ!!!」
彩香の激しい一撃が床に繰り出されたかと思うと、大祐付近に突風が吹き荒れる。
体勢を崩した大祐から、再び光が奪われる。
間髪入れず、彩香の巨大な掌が出現する。
羽の制御が効かない大祐は、一度床に着地すると、勢いよく床を足で蹴って飛び出す。

バスウウン!!!

今度の彩香の一撃は、幸運にも大祐を一気に部屋の出入り口部分まで吹き飛ばしてくれた。
これ幸いにと、大祐は素早く扉の下側に潜り込み彩香の部屋から脱出した。
大祐「ふい~、危ない、危ない・・・。」
こうして、大祐は若干の危険に遭遇したものの、無事に部屋に帰還することができたのであった。

あくる日。
昨日と同じく気持ち良く目覚めた大祐は、ペットボトルのお茶を飲みつつ部屋でボーっとしていた。
ガチャッ、バタン!
そこへ、静寂を破るように、いつにもまして不機嫌そうな彩香が部屋へと侵入してくる。
大祐「お、おはよう・・・、姉ちゃん。」
彩香の凄みに圧された大祐の挨拶も必然的に強張る。
彩香「おはよう・・・、大祐。」
部屋に入った彩香はそのまま座り、落ち着かない様子でしきりに爪先を掻きむしっている。
大祐「えーっと、また、蚊に刺されたの・・・?」
大祐はおそるおそる彩香に尋ねてみる。
彩香「・・・・・・。」
彩香は無言のまま、爪先をボリボリと掻き続ける。
明らかに機嫌が悪いようだ。
彩香「あんたみたいな蚊なのよ。指の裏ばっかり3か所も刺してくれて・・・。」
大祐「え・・・。なんで僕みたいな蚊・・・。」
彩香「ああ、イライラする!」
すると次の瞬間、彩香はミニチュアの街を起動させ、大祐を強制的に縮小させてしまう。
突然の行動に大祐も上空の彩香に抗議をする。
大祐「ううっ・・・。何するんだよー!!」
彩香「うるさい。死ね。」
抗議する大祐に構うことなく、上空は彩香の巨大な足の裏で覆われる。
大祐「うわあああ!!!」
ズシイイン!!!
ピー、ピー、ピー。
彩香の一撃と共に、ミニチュアの操作盤からは警告音が鳴り響いていた。
彩香「ふう、少しだけさっぱりした・・・。けど、蚊め・・・、許せないわ!!」
大祐を踏み潰した彩香ではあったが、何か釈然としない事態にストレスはほとんど発散されなかったのであった。

(続く)