§5 大祐のよからぬ企みその2


ただいまの時刻は午後8時半・・・。
大祐「はぁ・・・、あちぃ・・・。」
縮小した大祐は、ひたすらベッド下で待機していた。
しかし、大祐の部屋は無人(と彩香には認識されている)であるため、冷房が点くはずもなく、モワッとした空気が澱んでいた。
高温多湿の劣悪な環境の中、大祐は半裸の状態で寝そべりながら時間が経つのを待っていた。
大祐「くっ・・・、ここまで暑いとは・・・。これは計算外だったな・・・。」
額や頬を伝う大粒の汗を拭いながら、大祐は3本目のペットボトルに手を伸ばす。
200分の1のサイズに縮んでいた大祐は、スマホでゲームをしながら暇を潰していたものの、それももはや限界であった。
大祐「ふぅ・・・、一回元に戻ろう・・・。」
テクテクとベッド下から脱出し元に戻った大祐が時計を確認すると、時計は午後9時を少し過ぎていた。
当然、この時刻では彩香のレポートも佳境に入っているはずで、状況に大きな変化が訪れるはずもない。
猛烈な暑さにすっかり参っていた大祐は、ついに一つの決断を下す。
大祐「うーん・・・。さっきのサイズに縮んで、姉貴の部屋で涼むか・・・。」
リュックを背負った大祐は大きく深呼吸をすると、明かりのついていない廊下へと歩を進める。
廊下の先には彩香の部屋があり、その戸からは明かりが漏れていた。
大祐(・・・。っと、さて、では、200分の1のサイズに縮むか・・・。)
手慣れた操作でサイズ変換器をいじり、大祐は200分の1のサイズへと縮小する。

大祐の家の間取りは、玄関の左隣に風呂と脱衣場が、右隣に大祐の部屋がある。
そこを通り過ぎると、右側にリビング・ダイニングへと通じる扉があり、左側にトイレがあり、
トイレの隣に彩香の部屋が君臨する。
ちなみに廊下の先には2階へと通じる階段があるが、今回は2階の間取りは割愛しよう。
大祐の部屋から彩香の部屋までは、通常のサイズでおおよそ5~6歩もあれば到達できる。
距離にして2m弱といったところだろうか。
200分の1のサイズに縮小した大祐からすれば、400m程度の距離感になるはずである。
小さくなった大祐は、明かりが漏れている彩香の部屋目がけて、ゆっくりと慎重に進んでいった。
彩香の部屋が近づくにつれて、部屋からは冷たい空気が流れ込んできていた。
大祐「おおー、ヒンヤリするー。」
涼しさを感じられる快適な環境のことを考えると、大祐は逸る気持ちを抑えきれなくなっていた。
自然と小走りで、彩香の部屋を目指していたのだ。
大祐「ふふっ、あと少しでこの暑さから解放できるぜ~。」
ズズーン!
ちょうど大祐がトイレの前を通り過ぎ、彩香の部屋が目前に迫ってきたころ、前方から何やら重低音が響いた。
大祐の表情からは笑顔が消え、大祐は瞬時に周囲を見渡した。
ズシーン!
ズシーン!
ズシーン!
やがて、彩香の部屋からは規則正しい重低音が響き始める。
間違いなく、巨大な彩香が歩いている音だ。
トイレの前、しかも廊下の中央付近にいた大祐に緊張が走る。
大祐「あ、姉貴はどこに行こうとしているんだ・・・?」
小さな大祐は、究極の2択を迫られた。
彩香はトイレに行こうとしているのだろうか。
それとも、台所に行こうとしているのだろうか。
慌てふためく大祐の眼前にいよいと巨大な彩香の全景が出現する。

ズッシイイン!!

大祐「うおっ!!」
小さな大祐からすれば、たかだか70~80mしかない距離に50m弱もの巨大な素足が出現したのだ。
間違いなく、たった一歩で彩香に追いつかれてしまう。
大祐は直感で今まで歩いてきた道を戻ることにし、全速力で走り出した。
廊下には、電気が点灯する。
今まで暗かった廊下が急激に明るくなったため、大祐の視界が一瞬奪われる。
そこへ、彩香の巨大な素足が猛然と接近する。

ズッシイイン!!

大祐「うわあああっ!!」
彩香の巨大な左足が着地するとともに、大祐はトイレ側の壁へと強制的に吹き飛ばされる。
そこにもう一つの巨大な足の裏が迫る。
壁側に飛ばされた大祐は踏み潰される危険こそ無くなったのだが、足の裏を汚す大量の埃やら髪の毛やら菓子くずやらをまざまざと見せつけられたのだった。

ズッシイイン!!

大祐「ひえっ!!」
踏み潰されたわけではないのだが、大祐は思わず手で頭を抱え込む。
圧倒的な質量をもつ彩香の巨体はそのまま冷蔵庫があるキッチンへと移動していった。
大祐はここぞとばかりに開放されている彩香の部屋の中へ侵入する。
大祐「よし、僕を怖がらせた罰を与えてやろう・・・。」
命からがら逃げ果せた大祐は、テキパキと行動を起こす。
まず、サイズ変換器を操作し、自らのサイズを元のサイズへと戻す。
続いて、擬人蚊の装置を取りだし、自らを蚊へと変身させる。
と同時に腕時計にあるストップウォッチを作動させ、10分を計測する。
一通りの動作を終えた大祐は、すぐさま浮遊し、彩香の机の下へと隠れた。
やがて、再びズシズシと足音を響かせながら彩香が戻ってくる。

彩香「さーて、もうひと頑張りだね。」
飲み物を持ってきた彩香は、そのまま小さな大祐が隠れている机に向かう。
そして、そのまま椅子に座り、右脚を左足に組みながら、再びレポート作成に取り組み始めた。
大祐は、露わになっている彩香の右の足裏へと接近する。
大祐「うっ、くさい・・・。」
そういえば、彩香は例の履きなれたズックで図書館に行き、まだシャワーを浴びていない状態であった。
彩香の足の裏で生息している細菌類が足裏の皮膚のカスを食し、副産物として臭いを発しているのだろう。
卵や肉、魚が腐ったような激越な腐敗臭が眼前の足の裏から放たれているのだ。
しかも、爪先に向かうほど臭いが濃くなってきている。
大祐は、彩香の足の裏を丹念に観察した後、吸血の道具を用いて、足裏の中央付近や指の付け根など5か所から血を採取した。
足の指や足の裏、踵など彩香の素足は刺され放題になっていて、彩香のイライラも恐らく増すことであろう。
大祐はニヤニヤとほくそ笑みながら、一旦机の下から離脱した。

やがて、彩香が右足を床につけたのだろうか。
彩香の独り言が聞こえてくる。
彩香「かゆいー。何なの、一体!?」
彩香は右の足の裏を覗きこむ。
彩香「もう・・・、なんで足の裏ばっかり刺されるのよ!!」
彩香の左足が床を強く踏みこむ。
ズウウーン!!
彩香「・・・・・・。」
やがて、彩香は黙り込むと、自らの右足を鼻先に持っていったではないか。
そして、足の指を広げて臭いを嗅ぎ始めたのだ。
彩香「うーん、やっぱり私の足って臭いわね・・・。」
彩香「はぁあ・・・、足がクサい女なんて、男性にしてみれば幻滅だよね・・・。」
一連の彩香の独り言と行動に、大祐は笑いを堪えきれず、大爆笑していた。
ましてや、自らの足のにおいを嗅いで、クサいことを再認識しただけでなく、自身の恋愛観とも結びつけるなど、明らかに普段の彩香からは見られない一面であった。
大祐「いやぁ、姉貴には笑わせてもらうわ~。あはははは・・・。」
そして、ストップウォッチで時間を確認した大祐は、自分の部屋へと戻り元のサイズへと戻ったのであった。
多少涼むことのできた大祐は、再びサイズ変換器で縮小し、時間がくるまで仮眠をとることとした。


(続く)