ミニチュアの街    作:いと小さき人

※G-Forkリレー小説に掲載されている「ミニチュアの街」をアレンジして再構成
 しました。どうぞご覧ください。
※登場人物
 伊藤 大祐 19歳 175cm 62kg                備考 予備校生
 伊藤 彩香 20歳 160cm 48㎏ B80 W65 H81 S24.0  備考 大祐の姉
 柳田 典子 18歳 172cm 54㎏ B85 W70 H88 S26.0  備考 大祐の幼馴染
 佐藤 絵美 19歳 156cm 45㎏ B77 W66 H78 S23.0  備考 予備校生
 佐藤美紀子 16歳 169cm 48㎏ B88 W64 H85 S24.5  備考 絵美の妹
 鏑木 郁也 19歳 171cm 70㎏               備考 大輔の親友
                      
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§1 ミニチュアを体感する

僕の名前は伊藤大祐、19歳の予備校生だ。
インターネットで見つけたこのミニチュアの「街」を購入した。
しかし、この「街」は値段も高価なもので、半年ほどアルバイトをしてようやく購入することができた。

宅配便で届いた「街」は、電子レンジほどの大きさの箱に梱包されていた。
包装を取り、改めて街を眺めてみると、かなり精巧な出来になっていた。
住宅街やビル、公園など街の一区画が実に見事に再現されており、驚きを隠せなかった。
早速、この「街」を起動させるためにユーザー登録を行った。
腕時計の形状をしたユーザーベルトとやらを腕に巻き、指紋や瞳の登録など、結構本格的な登録だった。
登録が終わり、街の起動ボタンを押すと、程なくして小さい人間が無数に表れ、街の中を動き始めた。
大祐「そういえば、ミニチュアの中に入れると書いてたけど・・・?」
精巧なミニチュアの出来に感心しつつも、説明書に目を移す。
そして、先ほどのユーザーベルトを操作すると、瞬間的に意識が遠のく。
(あぁ・・・、体の力が抜ける・・・)

次に気づくと、僕は自分の部屋の床に倒れていた。
そこには、ミニチュアの街はない。
大祐「??? これはどういうことだ?」
僕は、自分の部屋を出ると、居間には姉がいた。
姉の名は伊藤彩香、20歳の大学生で、いわゆる普通の女の子といったところか。
大祐「姉貴・・・? さっき、何か変わったことでもあったかな?」
彩香「へ・・・? 何言ってるのよ。何も変わったことはないわ。」
狐につままれた感触で外に出てみる。
特に変化のない日常がそこにはあった。
しかし、僕が上空を仰ぎ見た瞬間、信じがたい光景がそこにはあった。
空がないのだ。
あるのは、茶色い平面がはるか上にぼんやりと見えるだけ。
このとき、僕はようやっと確信をした。
この「街」は実在する街をそのままミニチュアとして縮小したにすぎないのだと。

ズゥン・・・、ズゥン・・・。
ふいに遠方から地響きが聞こえてくる。
大祐「な、なんだ?この地響きは・・・。」
僕は、変化のない日常だからこそ、得体のしれない地響きに恐怖感を抱いた。
大祐「姉貴ー!」
僕はたまらず、家の中に戻り居間にいるはずの姉貴のもとへ向かった。
ズウゥン・・・、ズウゥン・・・。
地響きは先ほどよりも大きくなってきた。
いったい何が起こっているのか、理解ができない。
とにかく今は、ミニチュア内の姉貴を頼りたかった。
しかし、先ほどまで居間にいたはずの姉貴が忽然と姿を消している。
大祐「あ、彩香姉ちゃんー? どこー!?」
ズシィン・・・、ズシィン・・・。
どんどん、地響きは強くなってくる。
彩香「あれ? 大祐、帰ってきてたと思ったけど・・・。」
突如として、彩香の声が外から響く。
僕はもう一度家の外に出た。
大祐「うわああああ!!!!」
僕はその場で腰を抜かしてしまった。
僕の上空をつい先ほどまで居間にいたはずの彩香の顔が占拠していたのだ。

彩香「あれ? 大祐、帰ってきてたと思ったけど・・・。」
そのとき、姉である彩香は、部屋にいるであろう大祐のもとにやってきた。
部屋を見渡す限り、大祐の姿はない。
代わりに部屋の中央には、細かい建物が並んだミニチュアが置いてある。
彩香「ああ、これが大祐の欲しがってたミニチュアね。」
彩香は、まじまじと街を見つめている。
彩香「へえ、よくできてるわね。小人までいるじゃない。」
彩香は、眼前のミニチュアの街にわくわくとした気持ちを抱いていた。
やがて、小さな大祐がミニチュアの中にいるとも思わない彩香は、ミニチュアに自身の華奢な手を伸ばす。

大祐「うわわっ!あ、姉貴ー!」
ミニチュアの大祐は大急ぎで彩香の巨大な手から逃げ出すべく走り出した。
大祐以外のミニチュアの人たちも一斉に走り出す。
そんな悲鳴などお構いなしに巨大な手が迫る。
彩香「もう、逃げないでよー。」
大祐はとにかくがむしゃらに走り続けたが、とうとうミニチュアの街の端っこに到達してしまった。
このとき、大祐は初めて気が付いた。
立ち膝をしている彩香の右足が天高く聳え立ち、左足があぐらをかいたような状態で彩香はミニチュアを見ていたのだ。
要は、大祐は彩香の方向に向かって逃げ出していたのだ。
大祐「姉ちゃんの足かぁ・・・。見に行こうかな・・・?」
しかし、そんな淡い気持ちは彩香の次の行動で雲散霧消する。
あぐらをかいていた彩香の左足は姿勢を変えるべく、上空へと持ち上がる。
彩香の赤々とした足の裏が上空をかすめる。
そして、小さな大祐の目の前に勢いよく振り下ろされる。
ドシーン!
大祐「うわわっ!!」
彩香の素足の着地に大祐は倒れこんでしまった。
やがて、ひとしきり鑑賞を終え、ミニチュアへの興味を失った彩香はそのまま部屋を出て行った。

大祐「はぁ、はぁ、はぁ・・・、お、驚いたぁ・・・。」
いまだに大祐の動悸はおさまらない。
しかし、おかげでミニチュアの街であることは実感することができた。
彩香「あら? どうしたのよ、しゃがみこんで。」
そう言うのは、なんと(ミニチュアの)姉の彩香だった。
大祐「うわわっ!!」
いきなりの登場に僕は再び驚いて、腰を抜かしてしまった。
彩香「何を驚いてるのよ。大声上げたから様子見に来たのよ。」
彩香に何事もないことを告げ、僕は改めて家の外に出た。
そして、ユーザーの意識に呼応して街は形成されること、
また、ミニチュアと現実の人物が同じ空間にはいられない。
ということを説明書から確認した。

大祐は深呼吸を終えると、ミニチュアの街をひとしきり散策し、現実世界に戻ったのである。